説明

銅の浸出方法

【課題】鉄酸化細菌および銀を添加した硫酸溶液を浸出液として用いる硫化銅鉱からの銅の浸出の際に、効率よく銅を浸出させる方法を提供する。
【解決手段】鉄酸化細菌と銀を添加した硫酸溶液を用いる硫化銅鉱からの銅の浸出方法であり、鉄酸化細菌としてレプトスプリウム属鉄酸化細菌を用い、さらに硫黄酸化細菌を添加する。また、前記鉄酸化細菌および前記硫黄酸化細菌を添加した浸出液に、さらに好酸性従属栄養細菌を添加する。前記好酸性従属栄養細菌がアシディフィリウム(Acidiphilium)属細菌であり、前記硫黄酸化細菌がアシディチオバチルス(Acidithiobacillus)属細菌である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化銅鉱、特に黄銅鉱を主体とする硫化銅鉱石もしくは精鉱からバクテリアにより銅を効率良く浸出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に湿式製錬による硫化銅鉱の浸出形態としては、硫酸または塩酸を用いた回分攪拌反応による浸出形態(タンクリーチング)、積層体を形成しその頂部から硫酸または塩酸を供給して重力により滴り落ちる液を浸出する浸出形態(ヒープリーチング)などが知られている。また、鉄酸化細菌などのバクテリアの力を借りて銅を効率よく浸出する方法(バイオリーチング)も採用されている。
【0003】
バイオリーチングでは、鉄酸化細菌によって浸出液中の鉄(II)イオンが酸化剤である鉄(III)イオンに酸化され、この鉄(III)イオンによって鉱石中の銅が溶出される。また鉱石中に含まれる硫黄分は硫黄酸化細菌によって酸化され硫酸となり、この硫酸によっても鉱石中の銅は浸出される。
【0004】
硫化銅鉱の湿式製錬は、輝銅鉱,銅藍等の二次硫化銅鉱に対しては実用化されている。しかしながら、銅資源の中で最も大量に存在する黄銅鉱は二次硫化銅鉱に比べて銅の浸出速度が極端に遅く、経済的あるいは効率的に銅を浸出することは困難である。
【0005】
従って、黄銅鉱を主体とする硫化銅鉱からの銅の浸出速度を上げるため様々な湿式製錬技術が提案されている。
【0006】
例えば、75〜80℃での高温浸出(非特許文献1:Rawlings DE、Ann.Rev.Microbiol.,2002年;第56巻:65−91.2002)や好熱性微生物を利用した浸出方法(特許文献1:米国特許第6110253号、特許文献2:米国特許第6884280号)、圧力を用いた浸出(非特許文献2:R.G.McDonald,他1名,ハイドロメタルジー(Hydrometallurgy),(オランダ),2007年,第86巻,p.191−205)を用いることで経済的な銅の浸出が可能となっている。
【0007】
しかし、これらの方法は浸出速度の改善に効果があるものの、高温もしくは高圧条件とする必要があるため、コスト高となる問題がある。
【0008】
一方、銀の添加がバイオリーチングによる黄銅鉱からの銅の浸出を促進するという例が報告されている(特許文献3:米国特許第3856913号)。
【0009】
しかし、銀によって鉄酸化細菌の鉄酸化能が阻害されることも報告されており(非特許文献3:De,G.C.,他3名,ハイドロメタルジー(Hydrometallurgy),(オランダ),1996年,第41巻,p.211−229)、黄銅鉱の浸出において銀添加浸出とバイオリーチングとの併用の実用化には困難な面がある。この問題を解決するため浸出槽とバクテリア培養槽を分けた硫化銅鉱浸出プロセスなども考案されている(非特許文献4:F.Carranza,他2名,ハイドロメタルジー(Hydrometallurgy),(オランダ),1997年,第44巻,p.29−42)が、コストや操業の容易さを考えると同一の系内で浸出およびバクテリアの増殖を行うことが望ましい。
【0010】
そのため、黄銅鉱を含む硫化銅鉱からの鉄酸化細菌および銀を添加した硫酸溶液を用いる銅の浸出の際に、コーンスティープリカーなどの天然含窒素有機物や、リグニンスルホン酸カルシウムなどフェノール性化合物を添加して銅の浸出速度を向上する方法が検討されている(特許文献4:特願2009−248978、特許文献5:特願2010−172909)。
【0011】
一方、硫化鉱のバイオリーチングにおいては、各種微生物の存在が確認され利用が検討されている。そのなかで比較的低〜中温域で活動する鉄酸化細菌には、アシディチオバチルス フェロオキシダンスやレプトスピリウム フェロオキシダンス、レプトスピリウム フェリフィウムなどが知られている。
【0012】
これら鉄酸化細菌の中で、アシディチオバチルス フェロオキシダンスは培養し増殖させることは簡易であるが、現場でリーチングに十分に寄与しているのはレプトスピリウム属の鉄酸化細菌であるといわれている(非特許文献5:D.E.Rawlings,他2名,マイクロバイオロジー(Microbiology),(イギリス),1999年,第145巻,p.5−13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6110253号明細書
【特許文献2】米国特許第6884280号明細書
【特許文献3】米国特許第3856913号明細書
【特許文献4】特願2009−248978
【特許文献5】特願2010−172909
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Rawlings DE、Ann.Rev.Microbiol.,2002年;第56巻:65−91.2002
【非特許文献2】R.G.McDonald,他1名,ハイドロメタルジー(Hydrometallurgy),(オランダ),2007年,第86巻,p.191−205
【非特許文献3】De,G.C.,他3名,ハイドロメタルジー(Hydrometallurgy),(オランダ),1996年,第41巻,p.211−229
【非特許文献4】F.Carranza,他2名,ハイドロメタルジー(Hydrometallurgy),(オランダ),1997年,第44巻,p.29−42
【非特許文献5】D.E.Rawlings,他2名,マイクロバイオロジー(Microbiology),(イギリス),1999年,第145巻,p.5−13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
レプトスピリウム属の鉄酸化細菌は第一鉄イオンに対して特異的親和力が高く、高い酸化還元電位においても鉄を酸化することが可能であり、アシディチオバチルス フェロオキシダンスよりも高濃度の第二鉄イオン共存下で鉄酸化阻害を受けにくい。
【0016】
また、レプトスピリウム属の鉄酸化細菌は、pH2.0以下の低pHにおいて比較的高い鉄酸化活性を維持し、リーチング現場では有利であると考えられる。さらに菌株によっては20℃以下から40℃程度の広範囲の温度で鉄酸化活性を示す。したがってレプトスピリウム属の鉄酸化細菌を用いるとそれらの特性に応じた広い汎用性が期待できると考えられる。
【0017】
上述したように、黄銅鉱を主体とする硫化銅鉱から効率よく銅を浸出するには銀と鉄酸化細菌の添加が有効である。また現場でのリーチングに寄与しているレプトスピリウム属の鉄酸化細菌を銀添加したリーチングに有効に活用できれば本方法のリーチング現場での適用に有利である。しかし、レプトスピリウム属の鉄酸化細菌は分離や人工的な増殖、保存が比較的容易ではなく、その産業的利用を困難にしている。従って、レプトスピリウム属の鉄酸化細菌を用いる場合(特に銀を併用した場合に他の鉄酸化細菌と比べて)、当該鉄酸化細菌の生育速度および鉄酸化速度能力を維持し、効率よく銅を浸出することが難しいという問題があった。
【0018】
本発明の課題は上記のような事情に鑑み、鉄酸化細菌としてレプトスピリウム属細菌を用い、かつ銀を添加した硫酸溶液を用いる硫化銅鉱からの銅の浸出の際に、レプトスピリウム属鉄酸化細菌の生育および鉄酸化能力を低下させることなく銅を浸出させ、銀とレプトスピリウム属鉄酸化細菌の両方の利点を享受することを可能にする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、黄銅鉱を含む硫化銅鉱から鉄酸化細菌と銀を添加した硫酸溶液を用いて銅を浸出する際に、硫酸溶液に硫黄酸化細菌を添加することで鉄酸化細菌としてレプトスピリウム属鉄酸化細菌を利用できることを見出した。さらに、好酸性従属栄養細菌であるアシディフィリウム属細菌や、フェノール性化合物、特にリグニンスルホン酸カルシウムを適量添加することにより、銅の浸出率が向上することを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0020】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0021】
(1) 鉄酸化細菌と銀を添加した硫酸溶液を浸出液として用いる硫化銅鉱からの銅の浸出方法であり、鉄酸化細菌としてレプトスピリウム(Leptospirillum)属細菌を利用し、さらに硫黄酸化細菌を添加することを特徴とする銅の浸出方法。
(2) 前記鉄酸化細菌および前記硫黄酸化細菌を添加した浸出液に、さらに好酸性従属栄養細菌を添加することを特徴とする(1)に記載の方法。
(3) 前記好酸性従属栄養細菌がアシディフィリウム(Acidiphilium)属細菌である(2)に記載の方法。
(4) 前記硫黄酸化細菌がアシディチオバチルス(Acidithiobacillus)属細菌である(1)〜(3)の何れかに記載の方法。
(5) 前記硫化銅鉱が、黄銅鉱を含有する硫化銅鉱石もしくは精鉱である(1)〜(4)の何れかに記載の方法。
(6) 前記浸出液中の銀の濃度が1〜100mg/Lである、(1)〜(5)の何れかに記載の方法。
(7) 前記浸出液中にフェノール性化合物を添加することを特徴とする(1)〜(6)の何れかに記載の方法。
(8) 前記フェノール性化合物がリグニン誘導体である(7)に記載の方法。
(9) 前記リグニン誘導体がリグニンスルホン酸カルシウムであり、その濃度が1〜100mg/Lである、(8)に記載の方法。
(10) 前記レプトスピリウム属細菌がLeptospirillum sp. FLH−15BC株(NITE AP−1075)である(1)〜(9)の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によれば、
(1)黄銅鉱を含む硫化銅鉱から銅を常温にて効率よく浸出することができる。
(2)鉄酸化細菌および銀を添加した硫酸溶液を用いる硫化銅鉱からの銅の浸出の際に、レプトスピリウム属鉄酸化細菌を添加し、硫黄酸化細菌、フェノール性化合物および好酸性従属栄養細菌の添加により当該鉄酸化細菌の生育を促進することで、酸化剤となる鉄(III)イオンの生産速度を高め、硫化銅鉱浸出の触媒となる銀との相乗効果により銅の浸出速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】レプトスピリウム属鉄酸化細菌と硫黄酸化細菌の共存による銅浸出促進効果を示す。
【図2】銀濃度が銅浸出に与える影響を示す。
【図3】フェノール性化合物が銅浸出に与える影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明では、鉄酸化細菌および銀を添加した硫酸溶液を用いて硫化銅鉱からの銅の浸出の際に、レプトスピリウム属鉄酸化細菌及び硫黄酸化細菌を利用することを特徴とする。
【0025】
(1)硫酸溶液
本発明の浸出液では、硫化銅鉱中の銅を浸出させるために硫酸を含有する。さらに浸出液には、菌の生育必須成分を補給するの目的で、硫酸アンモニウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム七水和物、塩化カルシウム等を添加してもよい。
【0026】
(2)硫化銅鉱
本発明の方法の対象鉱である硫化銅鉱は、黄銅鉱を主体とする硫化銅鉱であっても、黄銅鉱を一部に含有する硫化銅鉱であってもいずれでもよく、その含有量は特に限定はされないが、本発明の方法による銅浸出効果が十分に得られる点で、黄銅鉱を主体とする硫化銅鉱であることが好ましい。典型的には、黄銅鉱の含有量が硫化銅鉱全体に対して約80重量%以上である。ここで「主体とする」とは、硫化銅鉱中に含まれる種々の鉱物の中で、黄銅鉱が最も高い鉱物割合を有することを指す。
【0027】
(3)硫化銅鉱からの銅浸出反応
本発明の方法による硫化銅鉱の溶解・浸出は例えば黄銅鉱の場合、下記(式1)と(式2)に示す銀による一連の触媒反応によって進行すると考えられる。
CuFeS2+4Ag+→Cu2++Fe2++2Ag2S (式1)
Ag2S+2Fe3+→2Ag++S+2Fe2+ (式2)
【0028】
(4)銀
(式1)と(式2)に示す触媒反応を速やかに進めるには浸出液中の銀濃度がに対して1〜100mg/Lとなるように銀を添加することが望ましい。より良好に反応を進めるためには、1〜20mg/Lが望ましく、1〜10mg/Lが更に望ましい。銀の添加に際して、その形態は硝酸銀溶液、塩化銀あるいは硫化銀のいずれでもよいが、取り扱いの面から硝酸銀溶液が望ましい。
【0029】
(5)鉄酸化細菌レプトスピリウム属及び硫黄酸化細菌
(式1)と(式2)の両辺の和を取ると銀成分は消去され(式3)となる。この時、(式3)からわかる通り銀による触媒反応の最終的な電子受容体は鉄(III)イオンであり、この鉄(III)イオンは(式4)に示す通り浸出液中の鉄(II)イオンが鉄酸化細菌によって酸化されることで生産される。即ち、銀を触媒としたバイオリーチングにおいては黄銅鉱からの銅の浸出速度は(式4)に示す鉄(III)イオンの生産反応によって律速される。
【0030】
CuFeS2+4Fe3+→Cu2++5Fe2++2S (式3)
4Fe2++4H++O2→4Fe3++2H2O (式4)
【0031】
いいかえれば、本反応を促進させるためには、鉄酸化細菌による鉄酸化反応が阻害なく進む、もしくは促進されることが重要となる。そのためには本反応には鉄酸化細菌の存在が不可欠である。なお、(式3)で示すとおり、黄銅鉱の酸化により元素硫黄が生成するが、それを酸化する硫黄酸化細菌の存在により浸出を促進する効果が期待される。鉄酸化菌としてレプトスピリウム属細菌を用いた硫化銅鉱の浸出においては、硫黄酸化細菌を添加することで、黄銅鉱からの速やかな銅の浸出が可能となる。ただしこの場合の硫黄酸化細菌の添加効果が黄銅鉱の酸化により生成した元素硫黄の酸化のみかどうかは不明である。
【0032】
上記硫黄酸化細菌については、硫酸酸性条件下において硫黄酸化能力があれば問題なく、自然界に一般に存在する硫黄酸化細菌を用いることができる。これら硫黄酸化細菌としては、アシディチオバチルス チオオキシダンス(Acidithiobacillus thiooxidans)、アシディチオバチルス カルダス(Acidithiobacillus caldus)、アシディチオバチルス スピーシーズ(Acidithiobacillus sp.)TTH−19A株(NITE BP−164)などが一般的に知られており、これら細菌を、自然界にいるものを分離せず硫黄源を含む液体で選択的に増殖させたり、自然界から分離した微生物に栄養源など添加して人為的に培養し添加したりして使用することもできる。
【0033】
本発明において用いるレプトスピリウム属鉄酸化細菌は、レプトスピリウム属に属する細菌であれば問題なく、自然界に存在するものを分離せず鉄含有硫酸酸性培地で選択的に増殖させたり、自然界から分離した微生物に鉄源や無機栄養源など添加して人為的に培養し添加したりして使用することもできる。単離したレプトスピリウム属細菌の具体例としてはレプトスピリウム フェリフィルム(Leptospirillum ferriphilum)もしくはレプトスピリウム フェロオキシダンス(Leptospirillum ferrooxidans)などを用いることができ、それらのタイプカルチャーはそれぞれDSM14647/ATCC49881、DSM2705/ATCC29047として登録されている。
【0034】
またレプトスピリウム属鉄酸化細菌としては、本発明者らが硫化銅鉱のリーチングカラムから新たに単離したレプトスピリウム属鉄酸化細菌FLH−15BC株の利用も可能である。FLH−15BC株は2011年3月4日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に受領番号NITE AP−1075として寄託されている。本菌株は、運動性の好気性化学栄養独立栄養細菌で鉄もしくは黄鉄鉱を栄養源として生育できるが、硫黄は栄養源として生育できない特徴がある。本菌株の16S rRNA配列を分析した結果、タイプカルチャーであるレプトスピリウム フェリフィルムDSM14647の16S rRNA配列と98.6%の相同性を有していた。
【0035】
(6)好酸性従属栄養細菌
また、レプトスピリウム属鉄酸化細菌は培養時に従属栄養細菌を添加することで増殖が促進できる。レプトスピリウム属鉄酸化細菌は有機物によっては生育が阻害されるといわれ、自らの代謝物に含まれる有機酸によっても増殖が阻害されるといわれている。従属栄養細菌の添加は、レプトスピリウム属鉄酸化細菌の生育を阻害する有機物質を分解し、レプトスピリウム属鉄酸化細菌の生育阻害が起こることを抑制することができると考えられる。レプトスピリウム属鉄酸化細菌を従属栄養細菌とともに培養し、当該菌が増殖した培養液を従属栄養細菌ごと添加することで、銀を含む硫酸溶液を用いた硫化銅鉱の浸出を促進することもできる。
【0036】
上記従属栄養細菌としては、硫酸酸性条件下においてレプトスピリウム属鉄酸化細菌の生育を阻害する有機物を分解できるものであればよく、自然界に一般に存在する好酸性従属栄養細菌を用いることができる。これら好酸性従属栄養細菌としては、アシディフィリウム属細菌などが一般的に知られており、これら細菌を、自然界に存在するものを分離せず硫酸酸性培地で選択的に増殖させたり、自然界から分離した微生物に栄養源など添加して人為的に培養し添加したりして使用することもできる。
【0037】
(7)フェノール性化合物
銀を含む硫酸溶液を用いた硫化銅鉱の浸出において、適度なフェノール性化合物を添加すると鉄酸化細菌の生育が促進され、式(4)に示す鉄酸化細菌による鉄(III)イオンの生産反応の速度を向上させることができる。その結果、黄銅鉱からの速やかな銅の浸出が可能となる。
【0038】
本発明に用いられるフェノール性化合物としては、特許文献5に記載があるようなリグニン誘導体(例えばリグニンスルホン酸、その塩(ナトリウム塩、カルシウム塩等))、縮合型タンニン類(例えば、ワットタンニン、ケブラチョタンニン、オルトフェニレンジアミン等)からなる群から選ばれる一種以上の化合物を用いることができ、特にリグニンスルホン酸カルシウムであることが望ましい。リグニンスルホン酸カルシウムとしては、キシダ化学社製、日本製紙ケミカル社製などの商品として市販されているものを使用することができる。
【0039】
一方、フェノール性化合物を過剰に添加すると、銀による硫化銅鉱からの銅浸出促進効果が打ち消されることがわかっている。また、過剰な試薬の使用は経済的にも好ましくない。すなわち、浸出液中におけるフェノール性化合物の濃度は0.001〜0.1g/Lが望ましく、0.001〜0.05g/Lが更に望ましい。
【0040】
(8)温度条件
また、浸出時の温度はレプトスピリウム属鉄酸化細菌が生育可能である20〜45℃が望ましく、30〜45℃が更に望ましい。
【0041】
(9)pH
浸出液のpHは、上記反応が良好に進行するように適宜調整すればよい。具体的には、レプトスピリウム属鉄酸化細菌が生育可能であり鉄イオンが沈殿を形成しないpH0.5〜3.5の範囲が好ましく、pH0.5〜2.3が更に望ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)レプトスピリウム属鉄酸化細菌と硫黄酸化細菌の共存による銅浸出促進効果
対象鉱として、黄銅鉱を主成分とするカンデラリア産の銅精鉱を用いた。この品位は溶融−ICP発光分光分析法(ICP−AES、SII SPS−7700)で測定したところ、Cu:30mass%、Fe:28mass%、S:32mass%であった。また、銅精鉱物中に含まれる黄銅鉱の鉱物割合は、EPMA(JXA−8500F)による面分析(FE−EPMA、JEOL JXA−8500F)と溶融−ICP発光分光分析法による測定から87重量%であった。
【0044】
上記精鉱3gを硫酸でpH1.8に調整した浸出液(硫酸アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム0.15g/L、硫酸マグネシウム七水和物0.1g/L、塩化カルシウム0.02g/Lを含む)300mLに混合し、500mL容量の坂口フラスコに注いだ。
【0045】
上記フラスコ内の浸出液に、硝酸銀、バクテリア(鉄酸化細菌、硫黄酸化細菌および従属栄養細菌)をそれぞれ以下に示す濃度で添加(無添加)して浸出液A〜Eとし、各浸出液を30℃で緩やかに振とうして銅精鉱から銅を浸出させた。ここで鉄酸化細菌としてはLeptospirillum sp. FLH−15BC株(NITE AP−1075)、硫黄酸化細菌としてはAcidithiobacillus sp. TTH−19A(NITE BP−164)株、従属栄養細菌としてはAcidiphilium cryptum NBRC−14242株を用い、添加する場合、菌濃度がそれぞれ107cells/mLとなるように添加した。
【0046】
(浸出液A―発明例)
硝酸銀:10mg/L (銀濃度として)
バクテリア:鉄酸化細菌(NITE AP−1075)および硫黄酸化細菌、従属栄養細菌を添加
(浸出液B―発明例)
硝酸銀:10mg/L (銀濃度として)
バクテリア:鉄酸化細菌(NITE AP−1075)および硫黄酸化細菌を添加
(浸出液C―比較例)
硝酸銀:10mg/L (銀濃度として)
バクテリア:鉄酸化菌のみを添加(硫黄酸化菌は無添加)
(浸出液D―比較例)
硝酸銀:10mg/L (銀濃度として)
バクテリア:硫黄酸化細菌、従属栄養細菌を添加(鉄酸化細菌は無添加)
(浸出液E―比較例)
硝酸銀:10mg/L(銀濃度として)
バクテリア:無添加
【0047】
浸出液A〜Eについて銅濃度の経時変化を測定した。具体的には、一定期間経過後フラスコの振とうを中止して、沈殿するのを待ち、上澄みを採取し、採取した上澄みを定性濾紙No.5Bで濾過した濾液の銅濃度を適宜希釈してICP発光分光分析装置(ICP−AES、SII SPS−7700)で測定した。採取後の残りについてはフラスコの振とうを再開して、浸出反応を継続させた。銅濃度を浸出率に換算した結果を図1に示す。
【0048】
この結果から、鉄酸化細菌(NITE AP−1075)と硫黄酸化細菌を添加することで、鉄酸化細菌を添加しなかった場合に比べると銅の浸出が促進されることが確認された。一方で、鉄酸化細菌だけでは銅の浸出が抑制されることが確認された。これらの結果から、硫黄酸化細菌の代謝物が鉄酸化細菌の生育を促進した可能性が考えられる。また、従属栄養細菌は添加してもしなくてもよいが、添加するとやや銅の浸出が促進されることが確認された。これは従属栄養細菌が浸出液内のレプトスピリウム属鉄酸化細菌の生育を阻害する有機物を分解し、レプトスピリウム属鉄酸化細菌の生育阻害を防ぐことによって、酸化剤である鉄(III)イオンの生産速度が向上したためであると考えられる。
【0049】
(実施例2)銀濃度の影響
実施例1に記載のフラスコ内の浸出液に、硝酸銀、バクテリア(鉄酸化細菌(NITE AP−1075))、硫黄酸化細菌および従属栄養細菌をそれぞれ以下に示す濃度で添加(無添加)して硫酸鉄(III)を以下に示す濃度で添加(無添加)して浸出液F〜Iとし、各浸出液を30℃で緩やかに振とうして銅精鉱から銅を浸出させた。鉄酸化細菌、硫黄酸化細菌および従属栄養細菌は実施例1と同様の菌株を使用し、添加量についても実施例1と同様である。
【0050】
(浸出液F―比較例)
硝酸銀:0mg/L (銀濃度として)
バクテリア:鉄酸化細菌(NITE AP−1075)および硫黄酸化細菌、従属栄養細菌を添加
(浸出液G―発明例)
硝酸銀:1mg/L (銀濃度として)
バクテリア:鉄酸化細菌(NITE AP−1075)および硫黄酸化細菌、従属栄養細菌を添加
(浸出液H―発明例)
硝酸銀:5mg/L (銀濃度として)
バクテリア:鉄酸化細菌(NITE AP−1075)および硫黄酸化細菌、従属栄養細菌を添加
(浸出液I―発明例)
硝酸銀:10mg/L (銀濃度として)
バクテリア:鉄酸化細菌(NITE AP−1075)および硫黄酸化細菌、従属栄養細菌を添加
【0051】
浸出液F〜Iについて上澄みの銅濃度の経時変化を実施例1と同様にICP−AESで測定した。銅濃度を浸出率に換算した結果を図2に示す。
【0052】
銀の添加量は1mg/L以上であれば銅の浸出速度に大きな差はないことが確認された。また浸出液Fの結果から、浸出液中に銀が含まれない場合には銅はほとんど浸出されないことも確認された。FLH−15BC株は、鉱石を含まない通常の培養では、Ag10mg/Lでは生育するが、50mg/Lで初めて生育阻害を受け、鉄酸化不能になる。ここで図1に示した硫黄酸化細菌添加による著しい銅浸出増強効果を考慮すれば、Ag100mg/L程度であっても同様の銅浸出率が得られるものと考えられる。
【0053】
(実施例3)フェノール性化合物による銅浸出促進効果
実施例1に記載のフラスコ内の浸出液に、硝酸銀、バクテリア(鉄酸化細菌、硫黄酸化細菌および従属栄養細菌)、リグニンスルホン酸カルシウムと硝酸銀をそれぞれ以下に示す濃度で添加(無添加)して浸出液J、Kとし、各浸出液を30℃で緩やかに振とうして銅精鉱から銅を浸出させた。鉄酸化細菌、硫黄酸化細菌および従属栄養細菌は実施例1と同様の菌株を使用し、添加量についても実施例1と同様である。
【0054】
(浸出液J―発明例)
硝酸銀:10mg/L (銀濃度として)
バクテリア:鉄酸化細菌(NITE AP−1075)および硫黄酸化細菌、従属栄養細菌を添加
リグニンスルホン酸カルシウム:10mg/L
(浸出液K―発明例)
硝酸銀:10mg/L (銀濃度として)
バクテリア:鉄酸化細菌(NITE AP−1075)および硫黄酸化細菌、従属栄養細菌を添加
リグニンスルホン酸カルシウム:無添加
【0055】
浸出液J、Kについて上澄みの銅濃度の経時変化を実施例1と同様にICP−AESで測定した。銅濃度を浸出率に換算した結果を図3に示す。
【0056】
浸出液J、Kの結果から、リグニンスルホン酸カルシウム10mg/L添加することで無添加の場合に比べて銅の浸出が促進されることが確認された。これはリグニンスルホン酸カルシウムの添加によって鉄酸化細菌の生育が促進され、結果として酸化剤である鉄(III)イオンの生産速度が向上したためであると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄酸化細菌と銀を添加した硫酸溶液を浸出液として用いる硫化銅鉱からの銅の浸出方法であり、鉄酸化細菌としてレプトスピリウム(Leptospirillum)属細菌を利用し、さらに硫黄酸化細菌を添加する銅の浸出方法。
【請求項2】
前記鉄酸化細菌および前記硫黄酸化細菌を添加した浸出液に、さらに好酸性従属栄養細菌を添加する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記好酸性従属栄養細菌がアシディフィリウム(Acidiphilium)属細菌である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記硫黄酸化細菌がアシディチオバチルス(Acidithiobacillus)属細菌である請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記硫化銅鉱が、黄銅鉱を含有する硫化銅鉱石もしくは精鉱である請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記浸出液中の銀の濃度が1〜100mg/Lである、請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
前記浸出液中にフェノール性化合物を添加する請求項1〜6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
前記フェノール性化合物がリグニン誘導体である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記リグニン誘導体がリグニンスルホン酸カルシウムであり、その濃度が1〜100mg/Lである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記レプトスピリウム属細菌がLeptospirillum sp.FLH−15BC株(NITE AP−1075)である請求項1〜9の何れかに記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−188697(P2012−188697A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53000(P2011−53000)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】