説明

銅めっき浴の管理方法及び銅めっき被膜の製造方法

【課題】添加剤の効果の変動を抑制し、特にグラビア版の製造工程における機械彫刻に適した銅めっき皮膜を安定的に製造するために、銅めっき浴中に添加するハードナーの添加濃度を管理する銅めっき浴の管理方法の提供にある。
【解決手段】従来のビッカース硬さ等押し込み硬さによる管理に代え、添加剤としてのハードナーを含むめっき浴から析出した銅めっき皮膜の引張試験物性から添加剤濃度を定量し、管理する銅めっき浴の管理方法としたもので、前記引張試験物性は、公称歪み量、引張強さ、破断強さの少なくとも一つである銅めっき浴の管理方法及びその管理方法で管理されためっき浴を用いてめっきする銅めっき皮膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅めっき浴の管理方法及びこの管理方法により管理された銅めっき浴を用い、特に、グラビア印刷等に使用されるグラビア版及び電鋳法により作成される金型等に施す銅めっき被膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電析により銅めっき皮膜を形成するための銅めっき浴として、例えば硫酸銅浴、シアン化銅浴、ホウフッ化銅浴、ピロ燐酸銅浴等があるが、グラビア印刷やグラビアコート等に用いられるグラビア版のように機械的加工適性が要求される用途においては硫酸銅浴を基本とし、それに他成分を添加して機械的加工適性のある銅めっき皮膜を得るのが一般的である。
【0003】
上記機械的加工適性を得るための添加成分(添加剤)として、表面の光沢と均一電着性の向上を目的としたレベラー、ブライトナー、キャリアーと呼ばれる添加剤のほかに、機械的彫刻(バイトによる切削)に適した物理的性質を確保するためのハードナーと呼ばれる添加剤の添加が行われている。
【0004】
このように、グラビア版の機械的彫刻適性に関する物理的性質として、従来から皮膜のビッカース硬さ等の押込み硬さによる評価が行われており、この評価方法による判定はおおむね妥当なものとされている。このビッカース硬さによる評価では彫刻される銅めっき皮膜の適正な物性範囲は約180〜230とされているが、上記の添加剤即ちハードナーなしの硫酸銅浴ではこの硬さを実現することは困難であった。そのためハードナーの添加により実現されるビッカース硬さの増加を測定して、ハードナーの浴中濃度を推定し、それによって添加量を管理する方法が行われている。
【0005】
これらの添加剤の管理のための手段として、理想的には浴中濃度の直接定量が挙げられるが、工業的にはレベラー、ブライトナー成分の一部についてのみサイクリックボルタンメトリックストリッピング法、高速液体クロマトグラフィー法、イオンクロマログラフィー法、キャピラリー電気泳動法で浴中濃度の定量が可能であるというのが現状である(例えば、非特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、機械彫刻適性のための添加剤としてのハードナーのビッカース硬さによる上記のような管理方法では、特に浴中濃度の増加にともなうビッカース硬さの増加が飽和する高濃度域での判定が測定精度の問題からも困難で、適正値以上の添加により起こる光沢異常やキズ状欠陥の発生といっためっき皮膜外観の欠陥と彫刻適性の変動といういわば「過剰添加」を防止することが困難であった。
【0007】
また、銅めっき浴に用いられる添加剤の効果の発現機構、特に、硬さを増大させる効果の機構についてはまだ完全には解明されていない。しかし、ハードナーの添加の増加にともない銅めっき皮膜の硬さが増大することと、ハードナーの種類と添加量によって銅めっき皮膜の硬さの経時低下の程度が異なることはすでに報告されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0008】
また、先に本発明者等はハードナーの添加の増加にともなう銅めっき皮膜の硬さの増大は、結晶粒の微細化によってもたらされることを定量的に解明したが、未知濃度であるめっき液に対しての分析、管理方法の確立には至っていない(例えば、非特許文献3参照。)。
【0009】
以下に、上記先行技術文献を示す。
【非特許文献1】日本分析化学会第51回講演大会要旨集 p243,2002
【非特許文献2】表面技術 p678,vol.44,1993
【非特許文献3】日本印刷学会誌 p40,vol.41,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題点等に鑑みなされたものであり、その課題とするところは、添加剤の効果の変動を抑制し、特にグラビア版の製造工程における機械彫刻に適した銅めっき皮膜を安定的に製造するために、銅めっき浴中に添加するハードナーの添加濃度を管理する銅めっき浴の管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に於いて上記課題を達成するために、まず請求項1の発明では、銅めっき浴の添加剤の濃度を管理する銅めっき浴の管理方法であって、前記添加剤を含むめっき浴から析出した銅めっき皮膜の引張試験物性から添加剤濃度を定量し、管理することを特徴とする銅めっき浴の管理方法としたものである。
【0012】
また、請求項2の発明では、前記引張試験物性は、公称歪み量、引張強さ、破断強さの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の銅めっき浴の管理方法としたものである。
【0013】
さらにまた、請求項3の発明では、請求項1または2記載の銅めっき浴の管理方法で管理されためっき浴を用いて、電気めっきまたは電鋳法にてめっきすることを特徴とする銅めっき被膜の製造方法としたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上の構成であるから、下記に示す如き効果がある。
【0015】
即ち、上記請求項に係る発明によれば、めっき皮膜の引張試験物性から添加剤濃度を定量し、管理することによって、この銅めっき皮膜の物理的性質の評価を、従来のビッカース硬さ等の押し込み硬さに代え、引張変形における応力−歪み曲線の特性値から求められる公称歪み量、引張り強さ、破断強さのいずれかとしたので、押込み硬さでは認識出来なかったより詳細な情報を得ることができ、さらにその情報と添加剤濃度との相関を把握することによって、上記請求項3に係る銅めっき皮膜の製造方法を完成するに至った。即ち、上記のような銅めっき浴中の添加剤の濃度を管理することによって、添加剤の効果の変動を抑制し、特に、グラビア版の製造工程における機械彫刻に適した銅めっき皮膜を安定的に製造することが出来るようになった。
【0016】
さらに具体的には、添加剤としてのハードナーの銅めっき浴中の濃度低下によって起こる銅めっき皮膜表面の光沢異常と硬さの低下を制御するための濃度定量が可能になり、かつ室温での経時による銅皮膜物性低下の定量的予測が可能になる。また、ハードナーの銅めっき浴中濃度の過多によって起こる銅めっき皮膜表面のキズ状欠陥の防止と適正硬さを超えることによる彫刻刃の破損を防止することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0018】
まず、銅めっき浴としては、硫酸銅浴を用い、特に断りのない限り、その銅めっき浴の組成としては、硫酸銅5水和物200〜240kg/m3 、硫酸40〜80kg/m3 、塩化ナトリウム180〜240kg/m3 をイオン交換水に溶解したものに添加剤を加えたものが用いられる。
【0019】
また、表1には、本発明の銅めっき浴の管理方法及び銅めっき被膜の製造方法に用いられる銅めっき浴添加剤の一覧を示した。
【0020】
【表1】

また、表2には、本発明の銅めっき浴の管理方法及び銅めっき被膜の製造方法に用いられる代表的な市販の銅めっき添加剤の一覧をした。
【0021】
【表2】

さらにまた、銅めっきの条件は電流密度4000A/m2で行い、銅めっき後の銅めっき皮膜を陰極金属から剥離して一定形状に断裁し、その厚み測定後0.006m/minの速度で定速引張試験を行い、応力−歪み曲線から必要な特性値、特に公称歪み、引張強さ、破断強さを読み取る。これら読み取られた諸物性から添加剤としてのハードナーの濃度が計算される。また、従来の管理方法であるビッカース硬さも測定される。
【0022】
以下に、本発明の具体的実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
上記表2に示すハードナーとしてコスモG1(大和特殊社製)を用い、その濃度を変えた硫酸銅浴を作成し、長さ400mm、直径200mmの回転するシリンダーに前記条件でそれぞれの濃度の硫酸銅浴を用いて銅めっきを行い銅めっき皮膜を作成した。
【0024】
続いて、銅めっき皮膜を剥離後、一定形状に裁断して厚み測定し、前記の条件で引張試験を行い応力−歪み曲線を得た。そこから公称歪みを読み取り添加剤の濃度を変えた時の公称歪みと添加剤(ハードナー)濃度との関係式を得た。その結果を図1に示した。この図1に示す公称歪みと添加剤濃度の矢印内が、本発明の銅めっき浴の管理方法に於ける管理範囲である。
【0025】
これに対し、従来の管理方法であるビッカース硬さも計測し、添加剤(ハードナー)濃度とビッカース硬さの関係を図2に示した。この図2に示す添加剤濃度とビッカース硬さの矢印内が、従来の銅めっき浴の管理方法に於ける管理範囲である。
【0026】
図1、図2を比較してわかるように、図2では添加剤(ハードナー)の濃度増大に対して、ビッカース硬さがほぼ一定である領域が広く存在し、適正な添加剤濃度が不明である。これに対して、図1では添加剤(ハードナー)の濃度増大に対して、公称歪み量が低下する傾向が見られ、公称歪み値の適正値範囲から適正な添加剤濃度を特定することができた。従って、本発明の銅めっき浴の管理方法および銅めっき皮膜の製造方法により、従来の銅めっき浴の管理方法では管理し得なかった添加剤(ハードナー)の過剰な添加を抑えることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、出版・包装・建材分野をはじめとして広く用いられているグラビア印刷用シリンダーの銅めっき皮膜の表面外観及び機械彫刻適性の安定化に用いられる。さらには電鋳法により作成される金型及び一般的には銅箔の製造工程の安定化にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の銅めっき浴の管理方法に係わる添加剤としてのハードナー濃度と公称歪みの関係式のグラフである。
【図2】従来の銅めっき浴の管理方法に係わる添加剤としてのハードナー濃度とビッカース硬さの関係式のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅めっき浴の添加剤の濃度を管理する銅めっき浴の管理方法において、前記添加剤を含むめっき浴から析出した銅めっき皮膜の引張試験物性から添加剤濃度を定量し、管理することを特徴とする銅めっき浴の管理方法。
【請求項2】
前記引張試験物性は、公称歪み量、引張強さ、破断強さの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の銅めっき浴の管理方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の銅めっき浴の管理方法で管理されためっき浴を用いて、電気めっきまたは電鋳法にてめっきすることを特徴とする銅めっき被膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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