説明

銅めっき膜およびその製造方法

【課題】無電解めっき法を用いて、より比抵抗の低い銅めっき膜を得ることが可能な製造技術を提供することを1つの目的とする。
【解決手段】本発明に係る一態様の銅めっき膜の製造方法は、(a)基材(2)上に触媒層(6)を形成すること、(b)Co(II)を還元剤に用いた無電解めっき浴(8)に前記基材を浸漬することにより、前記触媒層上にめっき銅膜(10)を析出させること、(c)前記めっき銅膜を有する基材を60℃以上140℃以下の温度範囲において焼成すること、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき法によって銅めっき膜を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解めっき法の1つとして、Co(II)を還元剤とした無電解銅めっき方法が提案されている(例えば、非特許文献1、特許文献1等)。この方法によると、浴のpHが7付近で作用するので、被めっき材がポリマーなどであっても、被めっき材を損傷させることなく銅めっきを行うことが可能であり、また、水素発生がないためにめっき膜にピンホールなどの欠陥が生じにくいという長所がある。
【0003】
しかしながら、この方法で形成された銅めっき膜を電気的な配線として応用しようとすると以下のような不都合が生じる。すなわち、本願発明者によって行われた実験によれば、還元剤に塩化コバルト(II)を用いた中性無電解めっき浴から析出した銅めっき膜の比抵抗は、低いものでも2.4μΩcm、高いものでは1000μΩcmを超える値を有する。そのため、銅めっき膜の比抵抗をより低減することが可能な製造技術が望まれている。
【0004】
【非特許文献1】A.Vaskelis et al., Electrochim. Acta 44, 3667(1999)
【特許文献1】特開2000−31095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、無電解めっき法を用いて、より比抵抗の低い銅めっき膜を得ることが可能な製造技術を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一態様の銅めっき膜の製造方法は、(a)基材上に触媒層を形成すること、(b)Co(II)を還元剤に用いた無電解めっき浴に前記基材を浸漬することにより、前記触媒層上にめっき銅膜を析出させること、(c)前記めっき銅膜を有する基材を60℃以上140℃以下の温度範囲において焼成すること、を含む。
【0007】
上述の製造方法によれば、無電解めっき法を用いて、比抵抗の低い銅めっき膜を形成することが可能となる。具体的には、上記製造方法によって得られる銅めっき膜の比抵抗は、例えば3μΩcm程度かそれより低い値となる。すなわち、導電性が高く、配線等に適する銅めっき膜が得られる。膜の結晶性を向上させるための周知技術として知られるアニール処理は比較的に高温で行われるのが当業者の技術常識であるところ、本実施形態ではそのようなアニール処理とは異なった非常に低温での焼成であるから製造プロセスが簡略である利点がある。
【0008】
上述した(c)における焼成雰囲気は、大気中、不活性ガス中、または真空中のいずれかを含む。
【0009】
上述した製造方法は、前記(a)において、前記触媒層を所定形状にパターニングすること、を更に含むことも好ましい。それにより、所望の形状を有する銅めっき膜が得られる。
【0010】
本発明に係る銅めっき膜は、上記した製造方法を用いて製造された銅めっき膜であって、膜中の水の含有量が1.4×1020個/cm3以下であることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1〜図3は、本実施形態に係る銅めっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。まず、ガラスなどの基材2上に触媒層6を形成する(図1(A))。触媒層6の形成(塗布)の方法としては、例えば、一般的なキャタライザーアクチベータ法やセンシタイザーアクチベータ法を用いることができる。ここで、キャタライザーアクチベータ法とは、Sn+2とPd+2の混合によってパラジウムコロイド液とし、これに浸し、次に塩酸溶液に浸して化学めっきの反応を促進させる方法をいう。また、センシタイザーアクチベータ法とは、Sn+2を含む液に浸した後、Pd+2を含む液に浸して化学めっきの反応を促進させる方法をいう。また、予めフォトレジストを用いたり、印刷法やインクジェット法を用いるなどすることにより、触媒層6をパターニングしてもよい(図1(B))。
【0013】
次に、Co(II)を還元剤に用いた無電解めっき浴8に、触媒層6が設けられた基材2を浸漬することにより、触媒層6上にめっき銅膜10を析出させる(図2)。Co(II)を還元剤に用いた無電解めっき浴としては、例えば、図4に示す組成およびpH(水素イオン濃度指数)のものを用いることができる。めっき銅膜10の析出後、基材2を無電解めっき浴8から引き上げる。このとき、ドライ窒素などで乾燥させてもよい。
【0014】
次に、めっき銅膜10が形成された基材2を焼成する(図3)。この焼成(熱処理)は、概ね60℃以上140℃以下の温度範囲において行われる。焼成を行うための加熱手段(熱処理手段)としては、例えばホットプレートやオーブンが挙げられる。このような温度範囲において焼成を行うことにより、めっき銅膜10の結晶粒界に介在するH2Oを揮散させることができると考えられる。それにより、結晶粒同士の電気的接触が回復し、めっき銅膜10の比抵抗を下げることができる。焼成雰囲気は、大気中、不活性ガス中、または真空中のいずれでもよい。焼成時間については、比抵抗を低下させる効果が得られる限り、特に限定されない。
【0015】
以下に、銅めっき膜の製造方法についての実施例を示すとともに、当該実施例によって得られた銅めっき膜の特性についても説明する。
【0016】
ガラス基板上に、インクジェット法を用いて触媒層をパターニングした。図5に示す平面図のように、触媒層は、直線状の部分とその両端および途中にそれぞれ配置された4つのパッド部分とを含むパターンに形成された。この触媒層が形成されたガラス基板(基材)を、25℃に保たれた無電解銅めっき浴に30分間浸漬した。これにより、パターニングされた触媒層上にめっき銅膜(めっき銅配線)が得られた。無電解めっき浴としては、以下に示す3通りの組成のものを用いた。各無電解めっき浴1〜3を用いて析出させた銅めっき膜をガラス基板ごとホットプレート上に載置し、120℃で30分間の焼成を行った。
【0017】
(無電解めっき浴1)
塩化第二銅2水和物 0.05mol/リットル;
塩化第一コバルト6水和物 0.15mol/リットル;
1,2−プロパンジアミン 0.8mol/リットル;
塩酸 pHが7.6となるように調整された量
(無電解めっき浴2)
塩化第二銅2水和物 0.10mol/リットル;
塩化第一コバルト6水和物 0.075mol/リットル;
1,2−プロパンジアミン 1.6mol/リットル;
塩酸 pHが7.0となるように調整された量
(無電解めっき浴3)
塩化第二銅2水和物 0.05mol/リットル;
塩化第一コバルト6水和物 0.15mol/リットル;
1,2−プロパンジアミン 0.5mol/リットル;
塩酸 pHが6.7となるように調整された量
【0018】
図6は、上述した実施例の条件で製造される銅めっき膜の比抵抗を評価した結果を示す図である。焼成前と焼成後のそれぞれにおける銅めっき膜(銅配線)の比抵抗を4端子法により測定した。無電解めっき浴1を用いて製造された銅めっき膜については、焼成前の比抵抗が1320μΩcmであったのが焼成後には4.5μΩcmとなっている。無電解めっき浴2を用いて製造された銅めっき膜については、焼成前の比抵抗が105μΩcmであったのが焼成後には2.1μΩcmとなっている。無電解めっき浴3を用いて製造された銅めっき膜については、焼成前の比抵抗が3.4μΩcmであったのが焼成後には2.1μΩcmとなっている。いずれの無電解めっき浴を用いて析出した銅めっき膜においても、焼成を行うことにより比抵抗が大きく減少することが分かる。
【0019】
次に、上述したような低温での焼成によって銅めっき膜の比抵抗を大幅に低減させる効果が得られる原理について考察する。
【0020】
図7は、無電解めっき浴1および3を用いて析出させた銅めっき膜(焼成前)に含有される水(H2O)の昇温脱離スペクトルを示す図である。ここで、昇温脱離スペクトルとは、高真空中に設置された加熱ステージに試料を載せ、試料を加熱することによってこの試料から脱離する化学種を質量分析器を用いて検出することにより、注目する化学種の脱離量と温度との関係を示したものである。図7に示されるように、銅めっき膜の表面温度が60℃以上140℃以下の温度範囲において、銅めっき膜からの水の脱離ピークが現れている。このことは、銅めっき膜を60℃以上の温度で焼成することにより、銅めっき膜中に含まれる水が揮散し始め、ほとんどの水を脱離させるのには140℃で焼成すれば十分であることを示していると考えられる。銅めっき膜を60℃以上140℃以下の温度範囲で焼成することによって、銅めっき膜中の、おそらくは結晶粒界に介在する水分子を揮散させることが可能となり、それにより結晶粒同士の電気的接触を回復させ、比抵抗を低減させる効果が得られているものと考えられる。水の脱離ピークの面積と銅めっき膜の体積とに基づいて、無電解めっき浴1および3のそれぞれから析出させた銅めっき膜中の水の含有量を求めると、それぞれ3.8×1020個/cm3及び1.4×1020個/cm3となる。すなわち、無電解めっき浴3を用いて形成された銅めっき膜(焼成前の比抵抗が3.4μΩcm)の方が無電解めっき浴1を用いて形成された銅めっき膜(焼成前の比抵抗が1320μΩcm)よりも水の含有量が少ない。逆に言えば、焼成によって銅めっき膜中の水の含有量を1.4×1020個/cm3以下に抑えることができれば、比抵抗が3.4μΩcm以下、すなわち導電性の高い銅めっき膜を得ることができる。
【0021】
図8は、無電解めっき浴1を用いて析出させた銅めっき膜中の炭素、塩素、臭素、ヨウ素の原子濃度と、当該銅めっき膜に120℃、30分間の焼成を行った後の銅めっき膜中の炭素、塩素、臭素、ヨウ素の原子濃度を二次イオン質量分析(SIMS)によって定量した結果を示す図である。なお、原子密度の定量は、それぞれの銅めっき膜から検出された炭素、塩素、臭素、ヨウ素および銅の負の二次イオン強度から、12-65Cu-35Cl-65Cu-79Br-65Cu-127-65Cu-二次イオン強度比を求め、それぞれの二次イオン強度比に各元素イオンの銅中での相対感度係数を乗じることによって行った。図8に示す表において、焼成によって炭素およびハロゲン元素の原子密度が減少していることが分かる。このように、焼成によって、銅めっき膜の結晶粒界に含有される炭素および/またはハロゲン元素が揮散されていると考えることができる。これにより、結晶粒同士の電気的接触が回復し、銅めっき膜の比抵抗が下がるものと考えられる。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、無電解めっき法を用いて、比抵抗の低い銅めっき膜を形成することが可能となる。このような銅めっき膜は、比抵抗が3μΩcm程度かそれより低く、すなわち導電性が高いため、配線等に適する。膜の結晶性を向上させるための周知技術として知られるアニール処理は比較的に高温で行われるのが当業者の技術常識であるところ、本実施形態ではそのようなアニール処理とは異なり、非常に低温での焼成であるから製造プロセスが簡略である利点がある。
【0023】
なお、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る銅めっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図2】本実施形態に係る銅めっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図3】本実施形態に係る銅めっき膜の製造方法を説明するための模式断面図である。
【図4】無電解めっき浴の組成およびphの一例を示す図である。
【図5】触媒層のパターン例を示す平面図である。
【図6】実施例の条件で製造される銅めっき膜の比抵抗を評価した結果を示す図である。
【図7】無電解めっき浴1および3を用いて析出させた銅めっき膜(焼成前)に含有される水(H2O)の昇温脱離スペクトルを示す図である。
【図8】無電解めっき浴1を用いて析出させた銅めっき膜中の炭素、塩素、臭素、ヨウ素の原子濃度と、当該銅めっき膜に120℃、30分間の焼成を行った後の銅めっき膜中の炭素、塩素、臭素、ヨウ素の原子濃度を二次イオン質量分析(SIMS)によって定量した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
2…基材、6…触媒層、8…無電解めっき浴、10…銅めっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅めっき膜を製造する方法であって、
(a)基材上に触媒層を形成すること、
(b)Co(II)を還元剤に用いた無電解めっき浴に前記基材を浸漬することにより、前記触媒層上にめっき銅膜を析出させること、
(c)前記めっき銅膜を有する基材を60℃以上140℃以下の温度範囲において焼成すること、
を含む、銅めっき膜の製造方法。
【請求項2】
前記(c)における焼成雰囲気は、大気中、不活性ガス中、または真空中のいずれかを含む、
請求項1に記載の銅めっき膜の製造方法。
【請求項3】
前記(a)において、前記触媒層を所定形状にパターニングすること、
を更に含む、請求項1に記載の銅めっき膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の製造方法を用いて製造された銅めっき膜であって、膜中の水の含有量が1.4×1020個/cm3以下である、
銅めっき膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−174022(P2009−174022A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15365(P2008−15365)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】