説明

銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒の分散液の製造方法

【課題】生産性が高く、乾燥後の粉末又は薄膜の光触媒活性が高い、銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒微粒子の分散液の製造方法、光触媒活性の高い銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒を提供する。
【解決手段】銅イオンで修飾された酸化タングステン系粒子に対し、溶媒中で機械的粉砕処理を施し、その後、酸素ガス又はオゾンと接触させる銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒の分散液の製造方法、及び、銅イオンで修飾された酸化タングステン系粒子を溶媒中で機械的粉砕処理を行い、その後酸化性ガスを接触させてなり、その後乾燥させて粉とした状態の波長700nmにおける拡散反射率が75%以上である銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒の分散液の製造方法、及び銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
環境浄化に用いられる光触媒として、酸化チタンが古くから知られている。しかし、酸化チタンはバンドギャップが広いため、紫外線の少ない屋内では十分な光触媒機能が発揮できない。そのため、可視光でバンドギャップ励起ができる可視光応答型光触媒の研究が進められている。
【0003】
可視光応答型光触媒としては、酸化タングステンが古くから知られている。可視光活性を発現又は向上させるための試みとして、酸化タングステン表面に助触媒を担持した触媒が提案されている。例えば、比較的安価な金属である銅を銅イオン又は酸化銅として担持させたものは、可視光照射下での光触媒活性を発現できる(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)。
【0004】
また、助触媒の研究だけでなく、酸化タングステンを微粒子化することによって、分散性が高い、かつ高活性な光触媒の設計が行われている。例えば、特許文献2では、メタタングステン酸又はその塩を焼成した後、水又は過酸化水素で洗浄することによっても活性の高い光触媒体が得られるとされている。しかし、特許文献2で得られる酸化タングステンは粒子径が大きくなるため、塗料化の際のハンドリングが困難という問題がある。
一方で、特許文献3では、金属タングステンを昇華又は燃焼させ、微細な酸化タングステンヒュームを調製後、これに熱処理を加えると活性が高くなるとされている(特許文献3参照)。しかし、このような方法では、大掛かりな設備が必要となるため好ましくない。また、粉末状態のナノ物質は大掛かりなナノマテリアル対策が必要となることも問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−149312号公報
【特許文献2】特開2009−148701号公報
【特許文献3】特開2008−264758号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chemical Physics Letters 457(2008)202−205 Hiroshi Irie, Shuhei Miura,Kazuhide Kamiya,Kazuhito Hashimoto
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、光触媒を粉末として利用することはほとんどなく、薄膜で利用することが多い。そのため、光触媒粉末を溶液化及びコーティング液化する必要がある。また、分散液としては、コーティング液の乾燥時間の短縮のために、水溶媒よりもアルコール系溶媒が好ましい。そのため、光触媒粉末を溶媒中に安定的に分散させる必要があるが、市販されている酸化タングステンの粒径は1〜100μmと大きいため、そのままでは安定的に分散しない。そのため、ボールミルやビーズミル等で粉砕処理する必要がある。しかし、そのような機械的処理は、酸化タングステンの結晶構造を変位させる、又は、格子欠陥を形成してしまうため、乾燥後の粉末又は薄膜の光触媒活性が低くなるという問題がある。
【0008】
以上から、生産性が高く、かつ乾燥後の粉末又は薄膜の光触媒活性が高い、助触媒を担持した酸化タングステン光触媒のアルコール分散液の開発が望まれているが有効なものは未だ見出されてはいない。
【0009】
本発明は、このような状況下になされたもので、市販の酸化タングステンを原料とした場合でも、生産性が高く、乾燥後の粉末又は薄膜の光触媒活性が高い、銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒の分散液の製造方法を提供することを目的とする。また、高い光触媒活性を有する、銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒を提供することを目的とする。
なお、以下では「銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒」を適宜、「銅修飾酸化タングステン系光触媒」と称する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、銅イオンを修飾した酸化タングステン系粒子の有機溶媒中での機械的粉砕処理は、タングステンの還元種を形成してしまい、その還元種が活性低下の要因となっていることを突き止めた。そこで、粉砕処理後の分散液に酸化性ガスによるバブリング処理を施すと、タングステンの還元種が再酸化されて、当該還元種の量が低減された銅修飾酸化タングステン系光触媒の分散液とすることができ、これを乾燥して得られる粉末又は薄膜(銅修飾酸化タングステン系光触媒)が高い光触媒活性を発揮できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は下記の通りである。
[1] 銅イオンで修飾された酸化タングステン系粒子に対し、溶媒中で機械的粉砕処理を施し、その後、酸素ガス又はオゾンと接触させることを特徴とする銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒の分散液の製造方法。
[2] 前記溶媒が有機溶媒である[1]に記載の銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒の製造方法。
[3] 前記有機溶媒がアルコールである[1]又は[2]に記載の銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒の製造方法。
[4] 銅イオンで修飾された酸化タングステン系粒子を溶媒中で機械的粉砕処理を行い、その後酸化性ガスを接触させてなり、その後乾燥させて粉とした状態の波長700nmにおける拡散反射率が75%以上であることを特徴とする銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、市販の酸化タングステンを原料とした場合でも、生産性が高く、乾燥後の粉末又は薄膜の光触媒活性が高い、銅修飾酸化タングステン系光触媒微粒子の分散液の製造方法を提供することができる。また、高い光触媒活性を有する銅修飾酸化タングステン系光触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1、実施例5、及び比較例1の銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒の分散液を室温乾燥させた粉末の拡散反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[銅修飾酸化タングステン系光触媒の分散液の製造方法]
本発明の銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒の分散液の製造方法は、銅修飾酸化タングステン系粒子に対し、溶媒中で機械的粉砕処理を施し(溶媒中での粉砕処理工程)、その後、酸化性ガスと接触させる(酸化性ガスとの接触工程)ことを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0015】
(1)溶媒中での粉砕処理工程:
当該工程における粉砕処理には、湿式の機械的処理装置が使用される。具体的には、ボールミル、高速回転粉砕機、媒体攪拌ミル等の粉砕装置を用いることができる。なかでも、湿式ビーズミルがハンドリングしやすく、効率良く粉砕できるため好ましい。これによって、微粒子化しやすくなり溶媒中における分散性が向上する。
粉砕時間は1時間以上であることが好ましい。1時間以上処理することで、均一に粉砕することができる。
【0016】
溶媒としては、水及び有機溶媒(例えば、アセトン、アルコール、エーテル、ケトン等)が挙げられる。なかでも、水又はアルコール類を用いることが環境面から好ましい。ただし、水を溶媒とすると、粉砕条件によっては、水分子の挿入によって酸化タングステンの結晶構造が変化し、高い光触媒活性が得られなくなる可能性がある。
従って、そのような懸念のないアルコール類を用いることが特に好ましい。
例えば、アルコールとしては、メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。エーテルとしては、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル等が挙げられる。ケトンとしては、メチルエチル
ケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0017】
機械的粉砕処理によって得られる銅イオン修飾酸化タングステンのBET法での表面積は、特に制限されないが、粉末状態にしたときの比表面積値として20m2/g以上であるのが好ましく、35m2/g以上であるのがより好ましい。比表面積値が20m2/g以上であることで、有機溶媒中での分散状態が良好となり、固液分離の著しい進行を防ぐことができる。
また、ヒストグラム法による粒径分布解析によって得られる散乱強度基準の分布から求められる50%粒径(D50)は250nm以下、かつ90%粒径(D90)は400nm以下にすることが好ましく、D50は200nm以下、かつD90は300nm以下にすることがより好ましい。
なお、機械的粉砕処理による酸化タングステン中のタングステン還元種の生成が進行すると、粉末の色が黄色から緑色へと変化する。
【0018】
ここで、酸化タングステンを銅イオンで修飾する方法(銅イオン修飾工程)としては、例えば酸化タングステン粉末を、銅二価塩(塩化銅、酢酸銅、硫酸銅、硝酸銅など)、好ましくは塩化銅(II)を極性溶媒に加え混合して、乾燥処理し、酸化タングステン表面に銅イオンを担持させる方法を用いることができる。
銅イオンによる修飾量は、酸化タングステン100質量部に対し金属(Cu)換算で0.01〜0.06質量部であることが好ましく、0.02〜0.06質量部であることがより好ましく0.02〜0.04質量部であることが最も好ましい。
修飾量が0.01質量部以上であることで、光触媒とした際の光触媒能を良好なものとすることができる。0.06質量部以下であることで、銅イオンの凝集が起こりにくく、光触媒とした際の光触媒能が低下するのを防ぐことができる。
【0019】
(2)酸化性ガスとの接触工程:
当該工程では、有機溶媒中での粉砕処理工程を経た後の分散液を酸化性ガスと接触させる。これにより、光触媒の活性劣化の原因となるタングステンの還元種が酸化され、高い光触媒活性を発現させることができる。
【0020】
接触工程における酸化性ガスとしては、酸素ガス又はオゾンを使用するが、これらいずれかと共に、NOx、塩素等を併用してもよい。酸化性ガスによる接触手段としては、分散液中に当該ガスを供給するバブリング手段が好ましい。この場合の供給速度は、分散液100mL当たり0.01〜1ml/minであることが好ましく、0.05〜0.2ml/minであることがより好ましい。
【0021】
また、接触時間は、供給速度にもよるが、10分以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましい。10分以上処理することで、均一に処理することができる。また、1時間以上処理することで再酸化が十分に進行し、結果として活性をより向上させることができる。
【0022】
室温での接触でも酸化反応は進行するが、酸化反応をより効率よく進めるために数十℃(例えば、30〜70℃)に分散液を加熱してもよい。また、分散媒が有機溶媒の時には酸化の助剤として、少量の水を添加することでも酸化反応をより促進できる。さらに、粉末又は薄膜化したものに、過酸化水素水等の酸化剤と接触させることでもタングステンの酸化反応は進行し、活性が向上する。
なお、これらの処理を組み合わせることも可能である。
【0023】
銅イオン修飾酸化タングステンに含まれるタングステンの酸化の程度は、拡散反射スペクトルの500〜800nmの吸収率の大きさで判断できる。吸収率が高ければ、低酸化状態のWが多く存在していることになる。なお本発明では、700nmにおける吸収率から拡散反射率を求めてタングステンの酸化の程度を判断する。
また、分散液の色からも大体ではあるが判断できる。分散液の色が緑色になっていれば、低酸化状態のタングステンが多く存在していることになり、黄色になっていれば6価に酸化されていることになる。
【0024】
このようにして溶媒中での粉砕及び酸化性ガスとの接触を行った本発明の銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒の分散液は、種々の形態で使用することができるが、粉末又は薄膜状態で使用することが好ましい。
【0025】
[銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒]
本発明の銅修飾酸化タングステン系光触媒は、既述の本発明の製造方法により得ることができる。
すなわち、本発明の銅修飾酸化タングステン系光触媒は、銅イオンで修飾された酸化タングステン系粒子に対し、溶媒中で機械的粉砕処理を施し、その後、酸化性ガスと接触させてなり、溶媒を乾燥して粉にした後の波長700nmにおける拡散反射率が75%以上となっている。
つまり、酸化タングステンに含まれる還元種を酸化性ガス(酸素またはオゾン)によって、強制的に酸化することで、分光光度計で得られる700nmにおける拡散反射率が75%以上となる銅イオンを修飾した酸化タングステン粉末からなる分散液を得ることができる。
拡散反射率が75%未満では、光触媒上のタングステンの還元種が十分に除去されていないため、高い光触媒活性を得ることができない。拡散反射率は75%以上が好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の銅修飾酸化タングステン系光触媒は、粒子状態でも薄膜化した状態でも実用に供することができる。粒子状態の場合、比表面積は、20〜100m2/gであることが好ましく、35〜70m2/gであることがより好ましい。当該表面積は、窒素を吸着種としたBET法により測定する。
【0027】
また、本発明の銅修飾酸化タングステン系光触媒を薄膜化した状態で使用する場合は、上記粒子状態の銅修飾酸化タングステン系光触媒をアルコール等の有機溶媒に分散して分散液とし、これを基材(例えば、金属、プラスチック、陶磁器など)に塗布し、乾燥等を行えばよい。銅修飾酸化タングステン系光触媒からなる薄膜の厚さは、用途にもよるが、0.1〜10μmとすることが好ましく、0.1〜5μmとすることがより好ましい。
さらに、上記分散液にバインダー成分を加えることにより、コーティング液として
使用することも可能である。
【0028】
本発明の光触媒は波長420nm未満の光でも光触媒能の発現が可能であるが、さらに波長420nm以上の可視光下においても高い触媒活性を発現する。
本発明における光触媒能には、抗菌、抗ウィルス、消臭、防汚、大気の浄化、水質の浄化等の環境浄化のような機能が含まれる。具体的には以下の機能が例示できるが、特にこれらには限定されない。
すなわち、系内に光触媒粉末とアルデヒド類等の有機化合物等の環境に悪影響を与える物質が存在したときに、光照射下において、暗所と比較した場合に有機物の濃度の低下と酸化分解物である二酸化炭素濃度の増加が見られる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、各例で得られた光触媒粉末の諸特性を以下に示す方法に従って求めた。
【0030】
(1)二酸化炭素発生速度
密閉式のガラス製反応容器(容量0.5L)内に、直径1.5cmのガラス製シャーレを配置し、そのシャーレ上に、各実施例、比較例で得られた光触媒粉末0.3gを置いた。反応容器内を酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガスで置換し、5.2μLの水(相対湿度50%相当(25℃))、5.1%アセトアルデヒド(窒素との混合ガス 標準状態25℃ 1気圧)を5.0mL封入し、反応容器の外から可視光線を照射した。可視光線の照射には、キセノンランプに、波長400nm以下の紫外線をカットするフィルター(商品名:L−42 旭テクノグラス)を装着したものを光源として用いた。アセトアルデヒドの酸化的分解生成物である二酸化炭素の発生速度をガスクロマトグラフィーで経時的に測定した。また、測定に用いた触媒は、アセトアルデヒドを注入しない条件にて、光を照射し、二酸化炭素が全く検出されないものを用いた。
【0031】
(2)拡散反射率
分光光度計として(株)島津製作所製の積分球付の分光光度計(機種名「UV−2400PC」)を用い、大気中で波長700nmの拡散反射率を測定した。
(3)比表面積の測定方法
(株)マウンテック製の全自動BET比表面積測定装置(機種名「Macsorb,HM model−1208」)を用い、比表面積を測定した。
(4)粒径分布測定(D50及びD90の測定)
大塚電子(株)製のゼータ電位・粒径測定システム(機種名「ELSZ−2」)を用いてD50及びD90を測定した。その際、溶液(銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液)は固形分濃度を5%に調整したものを用いた。
【0032】
(実施例1)
酸化タングステン粉末(アライドマテリアル社製F1−WO3)500gを塩化銅水溶液4L(WO3に対してCuとして0.1質量%相当)に添加した。次いで、攪拌しながら90℃1時間加熱処理を行った後、吸引ろ過にて洗浄回収し、120℃で1昼夜乾燥後、メノウ乳鉢にて粉砕し、Cuを0.04質量%修飾したBET法で測定した比表面積が9m2/gの酸化タングステン粉末を得た。
【0033】
次いで、銅イオン修飾酸化タングステン粉末100gを変性アルコール(標準組成:エタノール:85.5重量%、メタノール:4.9重量%、ノルマルプロピルアルコール:9.6重量%、水:0.2重量%:日本アルコール販売株式会社ソルミックスa7)900gに分散し、ビーズミル(淺田鉄工(株)のピコミル:pcr−lr、ジルコニアビーズ:0.5mm(予備粉砕用)、0.1mm(本粉砕用)、充填率:90%)にて(予備粉砕:周速12m/sec、流速:0.3l/min、60分間、本粉砕:周速12m/sec、流速:0.3l/min、90分間)粉砕し、銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液を得た。得られた分散液における、銅イオンを修飾した酸化タングステンのD50は150nmであり、D90は240nmであった。銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液・100mlに、オゾン発生装置(エコデザイン株式会社 型式:ed−0g−r3lt)を通し、5体積%のオゾンを含む酸素をバブリングしながら(供給速度:0.1ml/min)、3時間、攪拌することで、本発明の銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液を得た。
処理後の分散液を室温にて乾燥を行った後、メノウ乳鉢にて粉砕し、銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末を得た。得られた粉末のBET比表面積は38m2/gであった。
【0034】
図1に、オゾンバブリング処理後の銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末の拡散反射スペクトルを示す。図1の吸収スペクトルより、実施例1から得た粉末の500〜800nmの吸収は、機械的粉砕しただけの分散液から得た粉末のスペクトルよりも低い吸収率であった。
【0035】
(実施例2)
実施例1で得た、D50が150nm、D90が240nmであり、BET比表面積が38m2/gの銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液に、オゾン発生装置を通した5%のオゾンを含む酸素をバブリングしながら(供給速度:0.1ml/min)、30分間、攪拌することで、本発明の銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液を得た。
処理後の分散液を室温にて乾燥を行った後、メノウ乳鉢にて粉砕し、銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末を得た。
【0036】
(実施例3)
実施例1で得た、D50が150nm、D90が240nmであり、BET比表面積が38m2/gの銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液に、オゾン発生装置を通した5%のオゾンを含む酸素をバブリングしながら(供給速度:0.1ml/min)、10分間、攪拌することで、本発明の銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液を得た。
処理後の分散液を室温にて乾燥を行った後、メノウ乳鉢にて粉砕し、銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末を得た。
【0037】
(実施例4)
実施例1で得た、D50が150nm、D90が240nmであり、BET比表面積が38m2/gの銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液に、オゾン発生装置を通した5%のオゾンを含む酸素をバブリングしながら(供給速度:0.1ml/min)、4時間、攪拌することで、本発明の銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液を得た。
処理後の分散液を室温にて乾燥を行った後、メノウ乳鉢にて粉砕し、銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末を得た。
【0038】
(実施例5)
実施例1で得た、D50が150nm、D90が240nmであり、BET比表面積が38m2/gの銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液に酸素をバブリングしながら(供給速度:0.1ml/min)、1時間、攪拌することで、本発明の銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液を得た。
処理後の分散液を室温にて乾燥を行った後、メノウ乳鉢にて粉砕し、銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末を得た。
また、図1に、酸素バブリング処理後の銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末の拡散反射スペクトルを示す。
【0039】
(実施例6)
実施例1で得た、D50が150nm、D90が240nmであり、BET比表面積が38m2/gの銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液に酸素をバブリングしながら(供給速度:0.1ml/min)、30分間、攪拌することで、本発明の銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液を得た。処理後の分散液を室温にて乾燥を行った後、メノウ乳鉢にて粉砕し、銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末を得た。
【0040】
(実施例7)
実施例1で得た、D50が150nm、D90が240nmであり、BET比表面積が38m2/gの銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液に酸素をバブリングしながら(供給速度:0.1ml/min)、10分間、攪拌することで、本発明の銅イオンを修飾した酸化タングステンのアルコール分散液を得た。
処理後の分散液を室温にて乾燥を行った後、メノウ乳鉢にて粉砕し、銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末を得た。
【0041】
(比較例1)
オゾン発生装置を通した酸素をバブリングしなかった以外は実施例1と同様にして酸化タングステンのアルコール分散液を作製し、室温にて乾燥を行った後、メノウ乳鉢にて粉砕し、銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末を得た。得られた粉末のBET比表面積は38m2/gであった。
また、図1に、銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒粉末の紫外線照射前の拡散反射スペクトルを示す。
【0042】
以上、実施例1〜7及び比較例1で得られた光触媒粉末の光触媒活性、及び拡散反射率を下記表1に示す。なお、光照射8時間後の二酸化炭素発生量から、光を照射する直前の量を引いた値を真のアセトアルデヒド由来の二酸化炭素発生量とした。
【0043】
【表1】

【0044】
上記の結果から、本発明の銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒のアルコール分散液から得た粉末は、酸化処理をしていない銅イオン修飾酸化タングステン系光触媒のアルコール分散液(比較例1)から得た粉末と比べて、最大で約9倍の速度で二酸化炭素を生成しており、明らかに光触媒活性が向上している。
【0045】
有機溶媒中での粉砕処理による銅イオン修飾酸化タングステンの活性低下は、Wの還元種の生成によって生じる。Wの還元種は、WO3のバンドギャップ内に不純物準位を形成し、長波長側の吸収が増加する。図1より、比較例1の銅イオン修飾酸化タングステンの波長700nmにおける拡散反射率は70%であり、その色調は緑色である。
一方、実施例5のサンプルでは78%でありくすんだ黄色であり、実施例1のサンプルでは約90%となり、その色調は鮮やかな黄色である。このような黄色の色調は、Wの還元種が少ないことを示しており、高い活性を発現するために必要不可欠である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンで修飾された酸化タングステン系粒子に対し、溶媒中で機械的粉砕処理を施し、その後、酸素ガス又はオゾンと接触させることを特徴とする銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒の分散液の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒が有機溶媒である請求項1に記載の銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒がアルコールである請求項1又は2に記載の銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒の製造方法。
【請求項4】
銅イオンで修飾された酸化タングステン系粒子を溶媒中で機械的粉砕処理を行い、その後酸化性ガスを接触させてなり、その後乾燥させて粉とした状態の波長700nmにおける拡散反射率が75%以上であることを特徴とする銅イオンで修飾された酸化タングステン系光触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2012−16679(P2012−16679A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156710(P2010−156710)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】