説明

銅微粒子の製造方法

【課題】電解還元槽中で分散安定性に優れかつデンドライト化が抑制された、一次粒子の粒子径が1〜150nmの銅微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、銅イオン、アルカリ金属イオン、及び有機物分散媒が溶解している還元反応水溶液が収容され、かつ作用電極であるカソードと補助電極であるアノードを備えた電解還元槽装置を用いて、該カソードとしてカソード外表面の移動速度が5〜250mm/秒に制御された可動電極を用い、銅イオンの電解還元反応により一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子をカソード表面近傍に析出させることを特徴とする、銅微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅イオンの電解還元反応により一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属微粒子は、融点の低下、触媒活性、磁気特性、比熱特性、光学特性の変化等を発現することから、電子材料、触媒材料、蛍光体材料、発光体材料等の分野で広く用いられている。特に、電子材料用の導電性ペーストのような配線形成材料として、プリント配線、半導体の内部配線、プリント配線板と電子部品との接続等に利用されている。
最近では、インクジェットプリンターを用いて金属微粒子を含有するインクにより配線パターンの印刷を行い、低温焼成して配線を形成する技術が着目され、研究開発が進められている。しかし、インクジェットプリンターの場合、インクに含まれる金属微粒子は、インク中において長期間分散性を保つことが要請されており、そのため金属微粒子のより微細化が必要となっている。
【0003】
下記特許文献1には、銅(I)アンミン錯イオンを含む水溶液に酸を加えてpHを低下させ、銅(I)イオン(Cu)を、銅(II)イオン(Cu2+)と金属銅(Cu)とに不均化分解反応させることによって、銅を析出させることを特徴とする銅微粒子製造方法が記載されている。特許文献2には、塩化銅(II)を添加して成るデキストリン・銅水溶液に、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを加えて銅イオンを還元・析出する銅ナノ粒子製造方法が開示されている。特許文献3には、10〜100nm程度の粒子径の銅ナノ粒子を提供するために、有機溶媒中で、該有機溶媒に溶解可能な銅を構成元素とする化合物と、多価アルコールと、保護剤とを含む組成液を非酸化条件下で加熱することによって還元された銅ナノ粒子の形成が開示されている。特許文献4には、銅の酸化物、水酸化物又は塩をポリエチレングリコール又はエチレングリコール溶液中で加熱還元して銅微粒子を得る方法において、核生成のためのパラジウムイオンを添加すると共に、分散剤としてポリエチレンイミンを添加し、パラジウムを含有する粒子径50nm以下の銅微粒子を得る方法が記載されている。
【0004】
特許文献5には、カソード上に析出させた平均粒径5〜50μm程度の銅粒子を剥離して回収する手段として、ブラシ、掻き取り、及び逆電流を用いる手段、カソードを電解還元溶液の水面上に持ち上げて還元反応水溶液や水を噴霧する手段、及び電流付近で乱流を発生する手段が開示されている。特許文献6には、電解採取により金属粉末を生成するための装置として、振動器、衝撃デバイス、パルス流動システム、パルス電力源、超音波発生器、気泡発生器、またはそれらの組み合わせた装置が開示されている。また、特許文献6には、電解採取用電解還元槽の運転電流密度は、銅粉末生成物の形態に影響し、一般に、電流密度が高くなると、銅粉末粒径が縮小することは記載されているが具体的な粒子径については開示されていない。特許文献7には、電解採取により銅粉末を生成するプロセスが開示されている。
特許文献7の請求項8には、分粒段階において、スラリー流中の少なくとも一部の粗大銅粉末粒子(150μmよりも大きな銅粉末粒子)を、該スラリー流中の少なくとも一部の微細な銅粉末粒子(約45μmよりも小さな銅粉末粒子)から分離する工程を包含するプロセスが記載されている。また、特許文献8には還元反応溶液にアルカリ金属イオンと有機分散媒を添加して一次粒子の粒子径が1〜500nmの範囲の銅微粒子を得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−363618号公報
【特許文献2】特開2003−213311号公報
【特許文献3】特開2005−281781号公報
【特許文献4】特開2005−330552号公報
【特許文献5】特表2002−502915号公報
【特許文献6】特表2008−507625号公報
【特許文献7】特表2008−507626号公報
【特許文献8】特開2009−185348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の銅微粒子製造方法では不均化分解反応によるので、反応収量が必ずしも十分といえない。特許文献2の銅ナノ粒子製造方法にはAu、Ag、Pd、Pt、Ru、Rh等の貴金属の場合は、加熱のみで還元反応が生じるために、還元剤を使用せずに金属ナノ粒子を合成することが可能であり、還元剤の除去が不要であると記載されている。
一方、Cu、Co、Ni等は、加熱のみでは還元され難いために、還元剤を使用することが好ましいと記載されているが、還元反応後に還元剤を効率よく除去して高純度の銅微粒子を合成する方法は開示されていない。
【0007】
特許文献3に記載の銅ナノ粒子の形成法では、銅化合物(例えばアセチルアセトナト銅錯体)と還元剤として機能しうる多価アルコールで金属イオンを還元する方法が適用されるが、還元反応後にポリビニルピロリドン等の分散剤で覆われた状態の銅ナノ粒子の精製法については開示されていない。特許文献4に記載の銅微粒子製造方法では、ポリエチレングリコール又はエチレングリコールを用いて得られる銅微粒子の分散性を向上しているが、得られる微粒子のデンドライト化を抑制する対策が開示されていない。また、パラジウムイオンの添加が必要であるという問題点もある。
特許文献5〜7には、比較的大きな粒径(5μm以上)を有する金属微粒子をカソード表面から回収する方法について記載されているが、ナノサイズ(ここでナノサイズとは粒子径が1μm以下のものをいう)の金属微粒子をカソード表面から回収する方法については開示されていない。
また、特許文献5〜7には、カソード近傍から銅微粒子を回収するのに、逆電流を用いる手段、還元反応水溶液や水を噴霧する手段、及び電流付近で乱流を発生する等の手段が記載されている。しかし、本発明でカソード表面近傍に形成された銅微粒子の剥離、回収手段にはげしい攪拌を伴う場合には一次粒子の粒子径が1〜150nmの銅微粒子が電解水溶液中に広く分散し、銅微粒子の沈降速度が極めて遅くなり、銅微粒子スラリーとしての回収が困難になるおそれがある。特許文献8には一次粒子の粒子径が1〜500nmの範囲の銅微粒子を得ることが開示されているが、電子材料等の分野で更に粒子径の小さな銅微粒子製造法の開発が望まれている。
従って、一次粒子の粒子径が小さく、分散安定性に優れかつデンドライト化が抑制された銅微粒子を、簡便な方法でかつ大量に生成することのできる製造方法は未だ確立されていない。本発明は粒子径が小さく、粒度分布が比較的狭く、分散安定性に優れかつデンドライト化が抑制された銅微粒子を、簡便な方法でかつ大量に生成することのできる金属微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、有機物分散媒とアルカリ金属イオンとの存在する還元反応水溶液で、カソードとして可動電極を用いて特定速度で移動させるか、又は還元反応水溶液を特定の移動速度でカソード外表面近傍を流動させることにより、デンドライト化を抑制して一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子が得られることを見出し本発明を完成するに至った。なお、ここで、電解還元において還元反応が行われる溶液を還元反応水溶液という。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(15)に記載する発明を要旨とする。
(1)少なくとも、銅イオン、アルカリ金属イオン、及び有機物分散媒が溶解している還元反応水溶液が収容され、かつ作用電極であるカソードと補助電極であるアノードを備えた電解還元槽装置を用いて、
該カソードとしてカソード外表面の移動速度が5〜250mm/秒に制御された可動電極を用い、銅イオンの電解還元反応により一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子をカソード表面近傍に析出させることを特徴とする、銅微粒子の製造方法(以下、第1の態様ということがある)。
(2)前記可動電極が円周方向に回転可能な縦型円柱形状カソードもしくは横型円柱形状カソード、又は垂直方向に往復運動可能な平板形状カソードであることを特徴とする、前記(1)に記載の銅微粒子の製造方法。
(3)前記可動電極外表面の移動速度が30〜100mm/秒であることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の銅微粒子の製造方法。
(4)少なくとも、銅イオン、アルカリ金属イオン、及び有機物分散媒が溶解している還元反応水溶液が収容され、かつ作用電極であるカソードと補助電極であるアノードを備えた電解還元槽装置を用いて、
該還元反応水溶液を5〜250mm/秒の移動速度で該カソード外表面近傍を流動させながら、銅イオンの電解還元反応により一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子をカソード表面近傍に析出させることを特徴とする、銅微粒子の製造方法(以下、第2の態様ということがある)。
(5)前記還元反応水溶液の移動速度が30〜100mm/秒であることを特徴とする、前記(4)に記載の銅微粒子の製造方法。
【0010】
(6)前記アルカリ金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、前記(1)から(5)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
(7)前記アルカリ金属イオンの供給源がフッ化物、塩化物、臭化物、沃化物、酢酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、ピロリン酸塩、及びシアン化物から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、前記(1)から(6)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
【0011】
(8)前記還元反応水溶液中のアルカリ金属イオン濃度が0.002〜1.0モル/リットルであることを特徴とする、前記(1)から(7)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
(9)前記有機物分散媒が水溶性化合物であって、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、前記(1)から(8)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
(10)前記還元反応水溶液における有機物分散媒の添加量が該還元反応水溶液に存在する銅原子に対する質量比([有機物分散媒/Cu]質量比)で0.01〜5.0であることを特徴とする、前記(1)から(9)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
(11)前記還元反応水溶液に存在する銅イオン濃度が0.01〜4.0モル/リットルであることを特徴とする、前記(1)から(10)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
(12)前記カソード表面近傍に析出した銅微粒子を脱離後回収することを特徴とする、前記(1)から(11)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
(13)前記脱離の手段が掻き取り、吸い取り、及び超音波振動から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする、前記(12)に記載の銅微粒子の製造方法。
(14)前記掻き取りが掻き取り用ブレードを用いてカソード表面と掻き取り用ブレードとの距離が20mm以下になるように掻き取ることを特徴とする、前記(13)に記載の銅微粒子の製造方法。
(15)前記掻き取り用ブレードがゴム又はプラスチック材料である、前記(14)に記載の銅微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の「銅微粒子の製造方法」において、電解還元反応の際に還元反応水溶液にアルカリ金属イオン、及び有機物分散媒を存在させることにより、粒子径が小さく、粒度分布が比較的狭く、分散安定性に優れ、デンドライト状の凝集が抑制された顆粒状の銅粒子をカソード表面近傍に析出することが可能となる。
又、還元反応水溶液中で、カソードとして可動電極を用いて特定速度で移動させるか、又は還元反応水溶液を特定の移動速度でカソード表面近傍を流動させることにより、デンドライト化を抑制して一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子を得ることができる。上記銅微粒子を回収後、洗浄して有機分散液に分散して得られる銅微粒子分散液は、インクジェットプリンター用インク等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の、可動カソードとして円周方向に回転可能な縦型円柱形状カソードが配設された例を示す電解還元槽断面の概念図である。
【図2】本発明の、固定カソードとして縦型円柱形状カソードが配設された例を示す電解還元槽断面の概念図である。
【図3】本発明の、可動カソードとして円周方向に回転可能な横型円柱形状カソードが配設された例を示す電解還元槽断面の概念図である。
【図4】本発明の、固定カソードとして横型円柱形状カソードが配設された例を示す電解還元槽断面の概念図である。
【図5】本発明の、可動カソードとして垂直方向に往復運動可能な平板形状カソードが配設された例を示す電解還元槽断面の概念図である。
【図6】本発明の、固定カソードとして平板形状カソードが配設された例を示す電解還元槽断面の概念図である。
【図7】本発明の、可動カソードとして円周方向に回転可能な縦型円柱形状カソードに掻き取りブレードが配設された例を示す電解還元槽断面の概念図である。
【図8】本発明の、可動カソードとして円周方向に回転可能な横型円柱形状カソードに掻き取りブレードが配設された例を示す電解還元槽断面の概念図である。
【図9】本発明の、可動カソードとして垂直方向に往復運動可能な平板形状カソードに掻き取りブレードが配設された例を示す電解還元槽断面の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の第1の態様、及び第2の態様の「銅微粒子の製造方法」について説明する。
〔1〕本発明の第1の態様の「銅微粒子の製造方法」
本発明の第1の態様の「銅微粒子の製造方法」は、少なくとも、銅イオン、アルカリ金属イオン、及び有機物分散媒が溶解している還元反応水溶液が収容され、かつ作用電極であるカソードと補助電極であるアノードを備えた電解還元槽装置を用いて、該カソードとしてカソード外表面の移動速度が5〜250mm/秒に制御された可動電極を用い、銅イオンの電解還元反応により一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子をカソード表面近傍に析出させることを特徴とする。
【0015】
(1)還元反応水溶液
還元反応水溶液中には少なくとも銅イオン、アルカリ金属イオン、及び有機物分散媒が含まれる。なお、還元反応水溶液の溶媒としては水溶液、該水溶液にメタノール、エタノール等の親水性化合物を添加した混合溶液、及び親水性溶液が使用可能であるが、メタノールやエタノール等の親水性化合物を添加しない水溶液の使用がより好ましい。
〈1〉銅イオン
還元反応水溶液中に存在する銅イオンは、電解還元により銅微粒子を生成する。銅イオンは、一価ないし二価の銅イオンを生成するイオン性化合物を使用することができる。本発明において好適に使用できるイオン性化合物として、酢酸銅、硝酸銅、ハロゲン化銅、シアン化銅、ピロリン酸銅、硫酸銅等が挙げられるがこれらのイオン性化合物に限定されるものではない。これらの中でも酢酸銅の使用がより好ましく、実用上酢酸銅(II)の1水和物((CHCOO)Cu・1HO)の使用が特に望ましい。還元反応水溶液中の好ましい銅イオン濃度は、0.01〜4.0モル/リットルである。銅イオン濃度が0.01モル/リットル未満では、銅粒子の生成量が低減し反応相からの銅微粒子の収率が低下するという不都合を生じ、4.0モル/リットルを超えると生成される粒子間での粗大な凝集がおこるおそれがある。より好ましい銅イオン濃度は、0.05〜0.5モル/リットルである。
【0016】
〈2〉有機物分散媒
本発明における有機物分散媒の作用についてのメカニズムは、明らかではないが、有機物分散媒は、還元反応水溶液に存在して、銅イオンが還元されて結晶核が生成するのを助長し、更に析出してくる銅粒子結晶を分散させる機能を有しているものと推定される。
本発明において、有機物分散媒としては、上記機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、該機能を有する好ましいものとして、水溶性化合物が挙げられ、水溶性化合物の中でも水溶性高分子化合物がより好ましい。該水溶性高分子化合物としてポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン等のアミン系の高分子、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等のカルボン酸基を有する炭化水素系高分子、ポリアクリルアミド等のアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、更にはデンプン、ゼラチン等が例示できる。
【0017】
上記例示した水溶性の高分子化合物の具体例として、ポリビニルピロリドン(分子量:1,000〜500,000)、ポリエチレンイミン(分子量:100〜100,000)、カルボキシメチルセルロース(ヒドロキシル基Na塩のカルボキシメチル基への置換度:0.4以上、分子量:1,000〜100,000)、ポリアクリルアミド(分子量:100〜6,000,000)、ポリビニルアルコール(分子量:1,000〜100,000)、ポリエチレングリコール(分子量:100〜50,000)、ポリエチレンオキシド(分子量:50,000〜900,000)、ゼラチン(平均分子量:61,000〜67,000)、水溶性のデンプン等が挙げられる。上記かっこ内にそれぞれの高分子化合物の数平均分子量を示すが、このような分子量範囲にあるものは水溶性を有するので、本発明の有機物分散媒として好適に使用できる。なお、これらの2種以上を混合して使用することもできる。さらに、N−ビニルピロリドンやN−メチルピロリドンといった水溶性化合物と混合して使用することもできる。
また、有機物分散媒の添加量は、還元反応水溶液に存在する銅原子に対する質量比([有機物分散媒/Cu]質量比)で0.01〜5.00が好ましい。有機物分散媒の添加量が前記質量比で5.00を超えると溶液の粘性が高くなり還元反応終了後の銅粒子精製に支障をきたす場合がある。一方、前記質量比で0.01未満では粒子分散の効果が十分に発揮されなくなる。より好ましい上記添加量は、質量比で0.5〜2.0である。
【0018】
〈3〉アルカリ金属イオン
本発明におけるアルカリ金属イオンの作用についてのメカニズムは、明らかではないが、アルカリ金属イオンが還元反応水溶液中に好適な濃度範囲で存在していると、還元反応により銅微粒子の結晶が結晶核から成長する際に、銅イオン(陽イオン)が銅微粒子に接近するのをアルカリ金属イオン(陽イオン)が妨げ、銅微粒子がデンドライト状に凝集するのを抑制して、結晶が顆粒状に成長していくのを助長しているものと推定される。
一方、還元反応水溶液中にアルカリ金属イオンを存在させずに、銅化合物及び有機物分散媒が溶解している水溶液から電解還元により銅微粒子を析出させた場合には、析出した結晶中に原料の銅化合物の混入、及び該銅化合物の結晶面を介して結晶がデンドライト状に成長する現象が観察される。
従って、アルカリ金属イオンは、還元反応水溶液中でデンドライト状の凝集を顕著に抑制して、粒子形状が顆粒状に成長するのを助長していることが確認される。このようなアルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンから選択される1種又は2種以上が好ましい。上記アルカリ金属イオンのうち特に好ましいのは、ナトリウムイオンである。また、前記アルカリ金属イオンの供給源としては、フッ化物、塩化物、臭化物、沃化物、酢酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、ピロリン酸塩、及びシアン化物が挙げられる。これらは2種以上であってもよい。
【0019】
還元反応水溶液中での上記アルカリ金属イオンの濃度は、還元反応水溶液中において0.002〜1.0モル/リットル(L)が好ましい。アルカリ金属イオンの濃度が前記0.002モル/L未満ではデンドライト形状物の混入という不都合を生じ、1.0モル/Lを超えるとアルカリ金属イオンを除去するのに不都合を生じるおそれがある。より好ましいアルカリ金属イオンの濃度は、0.005〜0.2モル/Lである。
【0020】
〈4〉その他の添加剤
還元反応水溶液のpH調整等は特に不要である。光沢剤(アミン誘導体とエピハロヒドリンとのモル比1:1の反応生成物等)や光沢補助剤(パラホルムアルデヒド等のアルデヒド誘導体)を添加すると析出物が膜状となり、粒子状物の析出を抑制するので、これらの添加剤の添加は避けるべきである。
以下に、本発明の電解還元反応による銅微粒子の製造方法の具体例について説明する。
【0021】
(2)電解還元
〈1〉電解還元槽
電解還元槽は、本発明が実施可能な構造であれば特に制限されるものではないが、本発明の第1の態様における好ましい例を図1、3、5に示す。
図1は、カソードの可動電極として、円周方向に回転可能な縦型円柱形状カソードが配設された電解還元槽の例である。カソード外表面と、アノード又は電解還元槽壁との距離は特に制限されるものではないが、液抵抗による電解効率の低下を抑制しつつも、カソード上に生成した銅微粒子とアノードとの接触を防ぐ必要があることにより20〜50mmが好ましい。
なお、アノードはカソードと同心円の位置に配設されることが望ましい。
電解還元槽1内には軸方向が垂直方向の円柱形状であるカソード2、カソード2の周囲には該カソード表面と相対する位置に円筒形状のアノード3が配設されている。また、電解還元槽1内には還元反応水溶液4が収容されていて、カソード2とアノード3には直流電源6から印加されることにより、電解還元反応が進行して、カソード2の外表面近傍に銅微粒子が析出する。カソード2外表面近傍に析出した銅微粒子は後述する脱離手段により該外表面から脱離して漏斗状のスラリー回収部11に濃縮され、スラリー回収弁を開けることにより、スラリー回収口から回収することができる。
【0022】
図3は、カソードの可動電極として、円周方向に回転可能な横型円柱形状カソードが配設された電解還元槽の例である。電解還元槽1内には軸方向が水平方向の円柱形状で、周方向に回転可能であるカソード22、とカソード22の該表面と相対する同心円の位置にあり、上部と下部に不連続部分が設けられたパイプ形状のアノード23が配設されている。カソード外表面と、アノード内表面との距離は特に制限されるものではないが、液抵抗による電解効率の低下を抑制しつつも、カソード上に生成した銅微粒子とアノードとの接触を防ぐ必要があることにより20〜50mmが好ましい。
また、電解還元槽1内には後述する還元反応水溶液4が収納されていて、カソード22とアノード23には直流電源6から印加されることにより、電解還元反応が進行して、カソード22の外表面近傍に銅微粒子が析出する。カソード22外表面近傍に析出した銅微粒子は図1における説明と同様に脱離手段によりカソード外表面から脱離させてスラリー回収口から回収することができる。
【0023】
図5は、可動カソードとして、カソードが垂直方向に往復運動可能な平板形状カソードが配設された電解還元槽の例である。電解還元槽1内には垂直方向に往復運動可能な板状カソード26と、該カソード面と相対する面を有するアノード27が配設されている。板状カソード26の全体形状は特に制限はなく、アノード27と相対する面に銅微粒子を析出させるのに必要な表面積を有していて、かつ垂直方向に往復運動可能な形状であればよい。
なお、該平板形状カソードは図1、3に示す可動電極カソードの円周方向への可動と異なり、垂直方向の往復運動であるので可動が断続的になるが単位時間当たりの移動距離から求められる平均移動速度が後述する5〜250mm/秒に制御されていればよい。
板状カソード26が垂直方向に往復運動を行う場合に最上部と最下部の位置においてもそれぞれ相対する面にカソード面が存在するようにアノード27が配設されていることが好ましい。また、平板形状カソード面に析出する銅微粒子の酸化を防止する目的から、カソードの垂直方向の往復運動は還元反応水溶液中で行われることが好ましい。
カソード外表面と、アノード内表面との距離は特に制限されるものではないが、液抵抗による電解効率の低下を抑制しつつも、カソード上に生成した銅微粒子とアノードとの接触を防ぐ必要があることにより20〜50mmが好ましい。
なお、板状カソード26のアノードと相対する面の裏面側にはマスキング材を積層してシールすることにより、銅微粒子の析出面を、アノード27と相対する面のみとすることもできる。
電解還元槽1内には還元反応水溶液4が収納されていて、カソード26とアノード27には直流電源6から印加されることにより、電解還元反応が進行して、カソード26の外表面近傍に銅微粒子が析出する。カソード26外表面近傍に析出した銅微粒子は図1における説明と同様に脱離手段によりカソード外表面から脱離させてスラリー回収口から回収することができる。
【0024】
なお、電解還元反応を回分式で行う方法について記載したが、図1、3、5の概念図に示す電解還元槽を使用して、後述する掻き取りブレード等を設けることにより、電解還元反応を連続的に行うことも可能である。この場合、電解還元水溶液を連続的に流入させて、液面を一定に保ちながら電解還元槽の下部から電解還元水溶液を流出させると共に、該ブレードにより銅微粒子を連続的に掻き取り、スラリー回収部に銅微粒子が濃縮されているスラリーをスラリー回収口から断続的に回収することが可能である。
還元反応水溶液中で、カソードとして上記可動電極を用いて特定速度で移動させながら電解還元反応を行うことにより、デンドライト化を抑制して一次粒子の銅粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子を得ることが可能となる。可動式カソードの可動電極外表面の移動速度は5〜250mm/秒である。該移動速度が5mm/秒未満では、一次粒子の銅粒子径を1〜150nmの範囲にすることが困難となる場合があり、一方、該移動速度が250mm/秒を超えると電解還元槽の電解還元水溶液が攪拌されて、カソード表面から掻き取られた銅微粒子の沈降速度が遅くなり不都合を生ずる場合がある。かかる観点から、可動電極外表面の移動速度は30〜100mm/秒がより好ましい。
【0025】
〈2〉電極
カソード(陰極)材料としては、白金、カーボン、ステンレス鋼等の棒状、板状電極、ドット電極のようなナノ構造電極が例示でき、アノード(陽極)材料としては、銅、カーボン、白金、チタン、イリジウム等の棒状・板状・網状の形状電極が例示できる。
【0026】
〈3〉電流密度、電解温度、電解時間
電流密度は好ましくは0.1〜150A/dm、より好ましくは3〜100A/dm程度であり、直流のほかパルス電流とすることもできる。
還元温度は、10〜70℃が好ましく、10〜40℃がより好ましい。還元温度は、高温になるほど還元反応速度は速くなり、低温になるほど析出する粒子の粒子径は小さくなるとともに、酸化による粒子の腐食速度も小さくなる傾向がある。還元反応水溶液中の溶存酸素濃度は特に制限はないが、溶存酸素濃度が低いほど粒子の腐食速度は小さくなる傾向がある。電解時間は1〜60分が好ましく、3〜10分がより好ましい。
上記電解還元によりカソード表面近傍に析出した銅微粒子は後述する回収法により回収することができる。
【0027】
〔2〕本発明の第2の態様の「銅微粒子の製造方法」
本発明の第2の態様の「銅微粒子の製造方法」は、少なくとも、銅イオン、アルカリ金属イオン、及び有機物分散媒が溶解している還元反応水溶液が収容され、かつ作用電極であるカソードと補助電極であるアノードを備えた電解還元槽装置を用いて、該還元反応水溶液を5〜250mm/秒の移動速度で該カソード外表面近傍を流動させながら、銅イオンの電解還元反応により一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子をカソード表面近傍に析出させることを特徴とする。
還元反応水溶液中で、カソードとして固定電極を用い、かつ還元反応水溶液を特定の移動速度でカソード表面近傍を流動させることにより、デンドライト化を抑制して一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子を得ることができる。
【0028】
(1)電解還元水溶液
第2の態様における電解還元水溶液は、第1の態様に記載した電解還元水溶液と同様である。
(2)電解還元
〈1〉電解還元槽
電解還元槽に使用するカソードとアノードはそれぞれ固定のカソードが使用し、還元反応水溶液を5〜250mm/秒の移動速度でカソード表面近傍を流動させることができればその形状等に特に制限はない。
還元反応水溶液を5〜250mm/秒の移動速度で該カソード外表面近傍を流動させながら銅イオンの電解還元反応を行うことにより、銅微粒子が形成される際にデンドライト化を抑制して一次粒子の銅粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子を得ることが可能となる。上記移動速度が好ましい理由は第1の態様に記載した通りであり、該移動速度は30〜100mm/秒がより好ましい。
還元反応水溶液を5〜250mm/秒の移動速度でカソード外表面近傍を流動させる具体例として、図2に示す、固定カソードである縦型円柱形状カソードを用いる場合には、電解還元水溶液を液面の上部から供給して、アノード3の下端より下部の位置から還元反応水溶液を抜き出すことにより、5〜250mm/秒の移動速度でカソード外表面近傍を流動させることができる。
【0029】
図4に示す、固定カソードである横型円柱形状カソードを用いる場合には電解還元水溶液を図4に示す断面図の手前側又は奥側から水平方向に電解還元水溶液を流入させて、流入側と相対する側から還元反応水溶液を抜き出すことにより、5〜250mm/秒の移動速度でカソード表面近傍を流動させることができる。
また、図6に示す、固定カソードである平板形状カソードを用いる場合には図2に示す縦型円柱形状カソードを用いる場合と同様に、電解還元水溶液を液面の上部から供給して、アノード3の下端より下部の位置から還元反応水溶液を抜き出すことにより、5〜250mm/秒の平均の移動速度でカソード外表面近傍を流動させることができる。
〈2〉電極、電流密度、電解温度、電解時間
電極、電流密度、電解温度、電解時間等については第1の態様に記載した内容と同様である。
【0030】
〔3〕銅微粒子の回収
(1)カソード表面近傍からの銅微粒子の脱離
前記カソード表面近傍に析出した銅微粒子は脱離後回収することが好ましい。
該脱離の手段としては、特に制限されるものではないが掻き取り、吸い取り、超音波振動等が例示でき、これらの1種または2種以上を組み合わせて回収することも可能である。
前記脱離の手段の中でも実用性の点から掻き取りによる回収が好ましく、より具体的には掻き取り用ブレードを用いて脱離後回収することがより好ましい。この場合、銅微粒子の銅イオンの電解還元反応により一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲に制御するためにはカソード表面の銅微粒子層の厚さが一定範囲になるようにカソード表面と掻き取り用ブレードとの距離が20mm以下で掻き取ることが特に好ましい。その理由は、銅微粒子の脱離を効率的に行うために、カソード表面にある程度銅微粒子が凝集する厚さにするとともに、銅微粒子層の最表面とカソード表面との間に大きな移動速度差を生じさないためである。かかる観点から、カソード表面と掻き取り用ブレードの距離が0.1〜5mmがより好ましい。なお、カソード表面と掻き取り用ブレードの距離が0.1mm未満の場合は、電極の有効面積が減少する傾向があるが、実用上差し支えない場合は、例えば掻き取り用ブレードを電極に接触させて、掻き取ることも可能である。
前記掻き取り用ブレードの材質としては、ゴム又はポリテトラフルオロエチレン等のプラスチック材料を好適に使用することができる。その理由は、該ブレードが銅微粒子に接触しても電極として作用しない絶縁性が必要だからである。
【0031】
カソードとして図1、3、5に示す可動電極を使用する場合には、それぞれ図7、8、9に示す掻き取り用ブレードを固定して掻き取ることが可能である。
また、カソードとして図2、4、6に示す固定電極を使用する場合には、掻き取り用ブレードをカソード外表面に沿って、例えば銅微粒子層の厚さが一定範囲となるようにカソード表面と掻き取り用ブレードの距離を20mm以下で移動させることにより銅微粒子を掻き取って、銅微粒子を下方方向に沈降させてスラリー回収部11にスラリーとして回収することができる。
図2に示す固定カソードを使用する場合には例えばディスク形状の掻き取り用ブレードを円柱形状のカソード外表面に沿って上下方に向かって垂直方向に移動させることにより銅微粒子を掻き取って、銅微粒子を下方に沈降させてスラリー回収部11にスラリーとして回収することができる。
図4に示す固定カソードを使用する場合にはディスク形状の掻き取り用ブレードをカソード外表面に沿って水平方向に移動させることにより銅微粒子を掻き取って、銅微粒子を下方に沈降させてスラリー回収部11にスラリーとして回収することができる。
図6に示す固定平板形状カソードを使用する場合には掻き取り用ブレードを、該平板形状カソード面に沿って上下方に向かって移動させることにより銅微粒子を掻き取って、銅微粒子を下方に沈降させてスラリー回収部11にスラリーとして回収することができる。
本発明の第1の態様及び第2の態様において、前記掻き取り用ブレードを使用する場合には、銅イオンの電解還元反応により一次粒子の粒子径が1〜80nmの範囲にある銅微粒子をカソード表面近傍に析出させることが可能になる。
【0032】
(2)生成銅微粒子の洗浄と回収
回収された銅微粒子は、還元反応水溶液中に長い時間保持されると、該水溶液中に溶解している酸素により徐々に酸化を受けて、酸化銅を形成する虞がある。一方、エタノール等のアルコール溶媒中では、金属銅微粒子は比較的酸化を受けづらく、安定して存在するので電解還元槽のスラリー回収口13から回収された銅微粒子スラリーはろ過操作により、銅微粒子を回収して、炭素原子数1〜4の低級アルコールを洗浄液として、還元反応水溶液から同伴されてきた不純物を除去するために、洗浄されることが望ましい。
洗浄操作の具体例としては、回収した銅微粒子にエタノールを加えて撹拌洗浄して遠心分離機で銅微粒子を回収するエタノール洗浄操作を1度又は2度以上行い、次にエタノール等のアルコールを添加して撹拌洗浄後、遠心分離機で銅微粒子を回収する洗浄操作を1度又は2度以上行い、その後、得られた銅微粒子を回収する方法が挙げられる。
【0033】
(3)回収された銅微粒子
上記電解還元で得られる銅微粒子には、酸化銅が1質量%以下で還元剤や他の金属は殆ど含まれない。酸化銅以外の不純物の除去は溶媒を用いた洗浄により比較的容易であるので、比較的容易な操作で高純度の銅微粒子を得ることができる。上記した電解還元により得られる銅微粒子は、粒子径が1〜150nm程度の範囲にあり、その形状はデンドライト状に凝集していない顆粒状の微粒子である。ここで、一次粒子の粒子径とは、二次粒子を構成する個々の金属等の微粒子の一次粒子の直径の意味である。該一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定された値である。本発明において、銅イオンの電解還元反応により得られる銅微粒子の「粒子径が1〜150nmの範囲(1〜80nmの範囲も含む)」とは、該電解還元反応により得られる微粒子数の90%(該「微粒子数の90%」とは、最も小さい側の粒子径の微粒子数の5%と、最も大きい側の粒子径の微粒子数の5%を除いたものをいう)以上が該粒子径の範囲に含まれていればよいことを意味する。
なお、還元反応水溶液にアルカリ金属イオンを使用しない場合には、銅イオンの原料となる銅化合物(例えば酢酸銅(II)一水和物を原料に使用すると、無水酢酸銅(II))が20〜30質量%混入し、更に得られる微粒子は、複数の基本粒子がデンドライト状に凝集をおこして、1μmから10μm程度の凝集体になる。
【0034】
〔4〕その他
回収した銅微粒子は、分散溶媒に分散させて銅微粒子分散溶液として、電子材料用の導電性ペーストのような配線形成材料、プリント配線、半導体の内部配線、プリント配線板と電子部品との接続等に利用することができる。
【実施例】
【0035】
本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下に本実施例、比較例において使用した電解還元槽、及び還元反応水溶液の調製方法を記載する。
【0036】
(1)電解還元槽
〈1〉縦型円柱形状カソードが配設された電解還元槽
以下に、実施例1、2、実施例3、比較例1、実施例10で使用した電解還元槽について説明する。
本実施例1、2において使用した電解還元槽は図1に示す円周方向に回転可能な縦型円柱形状カソードである。カソードは直径2cm、長さ7cmの円柱形状をしており、円柱の底部から5cmが還元反応水溶液に浸かった状態になっている。還元反応水溶液に浸かっていないカソード及びアノード部分は直流電源と接続されている。アノードは、カソード表面から3cm離れた位置に設置された内径8cmの円筒形状物で、チタン表面に白金メッキを施したメッシュ形状のものである。また、円筒型アノードには析出過程を観察するために、液面から深さ6cmの位置まで、幅1cmの開口部が一ヶ所設けられている。
電解還元槽下部には漏斗状のスラリー回収部が配設され、その底部にはスラリーを電解還元槽外に回収するためのスラリー回収弁が設けられている。
実施例10においては、図7に示すように図1に更にカソード周囲には、カソード表面から2mmの位置に析出した金属微粒子を掻き取るための、ポリテトラフルオロエチレン製固定ブレードが配設されている。
実施例3では図2に示すように、カソードが回転しないで固定されて電解還元槽の上部から電解還元液を該カソード外表面を50mm/秒の流速になるように流入させて、スラリー回収口から流出させた。
比較例1では図2に示すように、カソードが回転しないで固定されている点を除いては図1と同様である。
【0037】
〈2〉横型円柱形状カソードが配設された電解還元槽
以下に、実施例4、5、実施例6、比較例2、実施例11で使用した電解還元槽について説明する。
本実施例4、5において使用した電解還元槽は図3に示す、円周方向に回転可能な横型円柱形状カソードである。透明なガラス製容器内に、可動カソード、及びアノードが設けられている。可動カソードは直径6cm、長さは5cmの円柱形状をしており、還元反応水溶液中に浸漬され、かつ直流電源と接続されている。アノードは、カソード表面から2cm離れた位置に設置された内径10cmのパイプ形状で、チタン表面に白金メッキを施したメッシュ形状のものである。また、円柱状の電極の回転軸方向から容器内部における析出過程を観察することができる。電解還元槽上部は角型筒状になっている。電解還元槽下部には上部角パイプと滑らかに接続された、漏斗状のスラリー回収部が配設され、その底部にはスラリーを電解還元槽外に回収するためのスラリー回収弁が設けられている。
実施例11においては、図8に示すように図3に更にカソード周囲には、カソード表面から2mmの位置に析出した金属微粒子を掻き取るための、ポリテトラフルオロエチレン製固定ブレードが配設されている。
実施例6ではカソードが回転しないで固定されて電解還元槽の上部から電解還元液を該カソード外表面を50mm/秒の流速になるように流入させて、スラリー回収口から流出させた。
比較例2では図4に示すように、カソードが回転しないで固定されている点を除いては図3と同様である。
【0038】
〈3〉可動式平板形状カソードが配設された電解還元槽
以下に、実施例7、8、実施例9、比較例3、実施例12、及び実施例13で使用した電解還元槽について説明する。
本実施例7、8において使用した電解還元槽は図5の概念図に示す、垂直方向に往復運動可能な平板形状カソードである。透明なガラス製容器内に、可動カソード、及びアノードが設けられている。カソードは幅2cm、長さ10cmの板状をしており、カソードの還元反応水溶液に浸かっていない部分で直流電源と接続されている。アノードは、カソード表面から3cm離れた位置に設置された板状で、チタン表面に白金メッキを施したメッシュ形状のものである。
電解還元槽上部は角型筒状になっている。電解還元槽下部には上部角パイプと滑らかに接続された、漏斗状のスラリー回収部が配設され、その底部にはスラリーを電解還元槽外に回収するためのスラリー回収弁が設けられている。
実施例12、13においては、図9に示すように図5に更にカソード周囲には、カソード表面からそれぞれ2mm、0.5mmの位置に析出した金属微粒子を掻き取るための、ポリテトラフルオロエチレン製固定ブレードが配設されている。
実施例9ではカソードが往復運動しないで固定されて電解還元槽の上部から電解還元液を該カソード外表面を50mm/秒の流速になるように流入させて、スラリー回収口から流出させた。
比較例3では図6に示すように、カソードが回転しないで固定されている点を除いては図5と同様である。
【0039】
(2)還元反応水溶液の調製
銅イオンとして酢酸銅(II)の1水和物((CHCOO)Cu・1HO)20g、有機物分散剤としてポリビニルピロリドン5g([有機物分散剤/Cu]質量比で0.78)、及びアルカリ金属イオンとして酢酸ナトリウムの3水和物(CHCOONa・3HO)1.36gを使用して、還元反応水溶液1L(リットル)を調製した。なお、還元反応水溶液中のアルカリ金属イオン濃度は0.01モル/Lであり、pHは約5.0であった。
【0040】
[実施例1]
縦型円柱形状カソードが配設された図1に示す電解還元槽を用いて、該カソードの移動速度を制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図1に示す縦型円柱形状カソードが配設された電解還元槽に供給し、静止状態の還元反応水溶液に対してカソード表面が50mm/秒の速度で移動するように円周方向に回転させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード外表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、任意に80個の微粒子の一次粒子径を測定して、最も小さい側の粒子径の微粒子数の5%と、最も大きい側の粒子径の微粒子数の5%を除いた、粒子の90%以上の一次粒子径(以下の実施例、比較例においても同様の測定法を採用した。)は3〜80nmの範囲であった。これらの粒子の平均アスペクト比は1.2で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【0041】
[実施例2]
縦型円柱形状カソードが配設された図1に示す電解還元槽を用いて、該カソードの移動速度を制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図1に示す縦型円柱形状カソードが配設された電解還元槽に供給し、静止状態の還元反応水溶液に対してカソード外表面が250mm/秒の速度で移動するように円周方向に回転させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は20〜120nmの範囲、平均アスペクト比は1.5で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は92質量%以上であった。
【0042】
[実施例3]
縦型円柱形状カソードが配設された図2に示す電解還元槽を用いて、還元反応水溶液の移動速度を制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図2に示す縦型円柱形状カソードが配設された電解還元槽に供給し、その後、該電解還元槽の上部から固定カソード外表面の還元反応水溶液の移動速度が50mm/秒になるように還元反応水溶液を流入させて、固定カソードの下方(図示せず)から液面を一定に保ちながら流出させ、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は10〜100nmの範囲、平均アスペクト比は1.5で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【0043】
[比較例1]
縦型円柱形状カソードが配設された図2に示す電解還元槽を用いて、該カソードを固定した以外は実施例1と同様に、電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図2に示す縦型円柱形状カソードが配設された電解還元槽に供給し、該カソードと還元反応水溶液とが静止状態で、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は20〜350nmの範囲、平均アスペクト比は1.7で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は85質量%以上であった。
【0044】
[実施例4]
横型円柱形状カソードが配設された図3に示す電解還元槽を用いて、該カソードの移動速度を制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図3に示す横型円柱形状カソードが配設された電解還元槽に供給し、静止状態の還元反応水溶液に対してカソード外表面が50mm/秒の速度で移動するように円周方向に回転させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は3〜100nmの範囲、平均アスペクト比は1.3で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【0045】
[実施例5]
横型円柱形状カソードが配設された図3に示す電解還元槽を用いて、該カソードの移動速度を制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図3に示す縦型円柱形状カソードが配設された電解還元槽に供給し、静止状態の還元反応水溶液に対してカソード外表面が250mm/秒の速度で移動するように円周方向に回転させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は20〜150nmの範囲、平均アスペクト比は1.5で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は90質量%以上であった。
【0046】
[実施例6]
横型円柱形状カソードが配設された図4に示す電解還元槽を用いて、還元反応水溶液の移動速度を制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図4に示す横型円柱形状カソードが配設された電解還元槽に供給し、固定カソードに対して還元反応水溶液が50mm/秒の速度で移動するように図4の断面図の手前側から連続的に流入させ、該断面図の奥側から連続的に流出させ、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は10〜130nmの範囲、平均アスペクト比は1.5で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【0047】
[比較例2]
横型円柱形状カソードが配設された図4に示す電解還元槽を用いて、固定カソードを用いた以外は実施例4と同様に、電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図4に示す縦型円柱形状カソードが配設された電解還元槽に供給し、該カソードと還元反応水溶液とが静止状態で、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は20〜350nmの範囲、平均アスペクト比は1.7で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は85質量%以上であった。
【0048】
[実施例7]
可動式平板カソードが配設された図5に示す電解還元槽を用いて、該カソードの移動速度を制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図5に示す可動式平板カソードが配設された電解還元槽に供給し、静止状態の還元反応水溶液に対してカソード外表面が50mm/秒の平均移動速度で垂直方向に往復運動させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は5〜100nmの範囲、平均アスペクト比は1.3で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【0049】
[実施例8]
可動式平板カソードが配設された図5に示す電解還元槽を用いて、該カソードの移動速度を制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図5に示す可動式平板カソードが配設された電解還元槽に供給し、静止状態の還元反応水溶液に対してカソード外表面が250mm/秒の平均移動速度で垂直方向に往復運動させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は25〜150nmの範囲、平均アスペクト比は1.5で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【0050】
[実施例9]
固定式平板カソードが配設された図6に示す電解還元槽を用いて、還元反応水溶液の移動速度を制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図6に示す固定式平板カソードが配設された電解還元槽に供給し、その後固定カソードに対して還元反応水溶液が50mm/秒の速度で移動するように電解還元槽の上部から連続的に還元反応水溶液を流入させ、該固定式平板カソードの下方(図示せず)から液面を一定に保ちながら流出させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は15〜140nmの範囲、平均アスペクト比は1.5で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【0051】
[比較例3]
固定式平板カソードが配設された図6に示す電解還元槽を用いて、該カソードを固定した以外は実施例7と同様に、電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図6に示す固定式平板カソードが配設された電解還元槽に供給し、該カソードと還元反応水溶液とが静止した状態で、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は30〜350nmの範囲、平均アスペクト比は1.8で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は80質量%以上であった。
【0052】
[実施例10]
縦型円柱形状カソードと掻き取り用ブレードが配設された図7に示す電解還元槽を用いて、該可動カソードの移動速度、及びカソード表面近傍に析出した銅微粒子層の厚さを制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図7に示す縦型円柱形状カソードと、カソードから2mmの距離に掻き取り用ブレードが配設された電解還元槽に供給し、静止した還元反応水溶液に対してカソード外表面が50mm/秒の速度で移動するように円周方向に回転させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた銅微粒子を、掻き取り用ブレードにより掻き取とることで、カソード表面近傍に析出した銅微粒子層の厚さを一定に制御した。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は3〜50nmの範囲、平均アスペクト比は1.2で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【0053】
[実施例11]
横型円柱形状カソードと掻き取り用ブレードが配設された図8に示す電解還元槽を用いて、該可動カソードの移動速度、及びカソード表面近傍に析出した銅微粒子層の厚さを制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図8に示す横型円柱形状カソードと、カソードから2mmの距離に掻き取り用ブレードが配設された電解還元槽に供給し、静止した還元反応水溶液に対してカソード外表面が50mm/秒の速度で移動するように円周方向に回転させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた銅微粒子を、掻き取り用ブレードにより掻き取とることで、カソード表面近傍に析出した銅微粒子層の厚さを一定に制御した。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は5〜50nmの範囲、平均アスペクト比は1.5で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【0054】
[実施例12]
可動式平板カソードと掻き取り用ブレードが配設された図9に示す電解還元槽を用いて、該可動カソードの移動速度、及びカソード表面近傍に析出した銅微粒子層の厚さを制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた銅微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図9に示す可動式平板カソードと、カソードから2mmの距離に掻き取り用ブレードが配設された電解還元槽に供給し、静止した還元反応水溶液に対してカソード外表面が50mm/秒の平均移動速度で垂直方向に往復運動するように移動させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた銅微粒子を、掻き取り用ブレードにより掻き取とることで、カソード表面近傍に析出した銅微粒子層の厚さを一定に制御した。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は5〜80nmの範囲、平均アスペクト比は1.5で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【0055】
[実施例13]
可動式平板カソードと掻き取り用ブレードが配設された図9に示す電解還元槽を用いて、該可動カソードの移動速度、及びカソード表面近傍に析出した銅微粒子層の厚さを制御した電解還元により銅微粒子を調製して、得られた銅微粒子の評価を行った。
(1)銅微粒子の調製
上記還元反応水溶液1Lを図9に示す可動式平板カソードと、カソードから0.5mmの距離に掻き取り用ブレードが配設された電解還元槽に供給し、静止した還元反応水溶液に対してカソード外表面が50mm/秒の平均移動速度で垂直方向に往復運動するように移動させて、アノードとカソード間を浴温25℃で、電流密度15A/dmで3分間通電して、カソード表面近傍に銅微粒子を析出させた銅微粒子を、掻き取り用ブレードにより掻き取とることで、カソード表面近傍に析出した銅微粒子層の厚さを一定範囲に制御した。得られたコロイド溶液を、カーボン支持膜をとりつけたアルミメッシュ上に採取し、溶媒を乾燥除去して、銅微粒子を得た。
(2)生成した銅微粒子の評価
得られた銅微粒子について、透過電子顕微鏡(TEM)による観測結果、粒子の90%以上の一次粒子径は1〜50nmの範囲、平均アスペクト比は1.2で、形状は顆粒状でありデンドライト状の凝集は観察されなかった。また、得られた銅微粒子をガラス基板上に塗布後、真空乾燥させてX線回折による分析を行ったところ、銅の純度は95質量%以上であった。
【符号の説明】
【0056】
1 電解還元槽
2 カソード
3 アノード
4 還元反応水溶液
6 直流電源
11 スラリー回収部
12 スラリー回収弁
13 スラリー回収口
22 カソード
23 アノード
24 カソード
25 アノード
26 カソード
27 アノード
31 ブレード
32 マスキング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、銅イオン、アルカリ金属イオン、及び有機物分散媒が溶解している還元反応水溶液が収容され、かつ作用電極であるカソードと補助電極であるアノードを備えた電解還元槽装置を用いて、
該カソードとしてカソード外表面の移動速度が5〜250mm/秒に制御された可動電極を用い、銅イオンの電解還元反応により一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子をカソード表面近傍に析出させることを特徴とする、銅微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記可動電極が円周方向に回転可能な縦型円柱形状カソードもしくは横型円柱形状カソード、又は垂直方向に往復運動可能な平板形状カソードであることを特徴とする、請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記可動電極外表面の移動速度が30〜100mm/秒であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項4】
少なくとも、銅イオン、アルカリ金属イオン、及び有機物分散媒が溶解している還元反応水溶液が収容され、かつ作用電極であるカソードと補助電極であるアノードを備えた電解還元槽装置を用いて、
該還元反応水溶液を5〜250mm/秒の移動速度で該カソード外表面近傍を流動させながら、銅イオンの電解還元反応により一次粒子の粒子径が1〜150nmの範囲にある銅微粒子をカソード表面近傍に析出させることを特徴とする、銅微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記還元反応水溶液の移動速度が30〜100mm/秒であることを特徴とする、請求項4に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属イオンの供給源がフッ化物、塩化物、臭化物、沃化物、酢酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、ピロリン酸塩、及びシアン化物から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記還元反応水溶液中のアルカリ金属イオン濃度が0.002〜1.0モル/リットルであることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記有機物分散媒が水溶性化合物であって、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンから選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記還元反応水溶液における有機物分散媒の添加量が該還元反応水溶液に存在する銅原子に対する質量比([有機物分散媒/Cu]質量比)で0.01〜5.0であることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記還元反応水溶液に存在する銅イオン濃度が0.01〜4.0モル/リットルであることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項12】
前記カソード表面近傍に析出した銅微粒子を脱離後回収することを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記脱離の手段が掻き取り、吸い取り、及び超音波振動から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項12に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項14】
前記掻き取りが掻き取り用ブレードを用いてカソード表面と掻き取り用ブレードとの距離が20mm以下になるように掻き取ることを特徴とする、請求項13に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項15】
前記掻き取り用ブレードがゴム又はプラスチック材料である、請求項14に記載の銅微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−82516(P2012−82516A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201916(P2011−201916)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】