説明

銅材の製造方法及び銅材

【課題】 安価で、軟化温度の低い銅材の製造方法及び銅材を提供するものである。
【解決手段】 本発明に係る銅材の製造方法は、連続鋳造圧延装置を用いてタフピッチ銅溶湯から直接、銅材を製造するものであり、連続鋳造圧延装置の溶湯貯溜手段に貯溜されたタフピッチ銅溶湯に、Ti、Zr、V、Ta、Fe、Ca、Mg、又はNiから選択される少なくとも1種の金属又は合金を添加し、タフピッチ銅溶湯中に含まれるその金属又は合金の割合を0.0004〜0.055重量%に調整するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅材の製造方法に係り、特に、タフピッチ銅材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、銅線を含む各種線材の多くは、連続鋳造圧延法により形成される。先ず、シャフト炉で溶解させた溶湯がSCR方式、又はコンチロッド(登録商標)方式の連続鋳造手段に供給され、鋳造バーが得られる。次に、その鋳造バーは連続鋳造手段に連結された熱間圧延手段に供給され、所定の外径に圧延される。その後、圧延材が冷却され、荒引き線が得られる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
連続鋳造圧延法は、溶解工程、鋳造工程、及び熱間圧延工程の各ラインが連続しており、荒引き線の製造法としては効率的で、生産性に優れた方法である。得られた荒引き線は、その後、冷間伸線工程、焼きなまし工程に供され、最終製品(例えば銅線)が得られる。この銅線の構成材の一つにタフピッチ銅がある。タフピッチ銅は、スクラップ銅と電気銅を混ぜたものを利用することができるため、原料コストが安価である。また、タフピッチ銅は、無酸素銅と比べて酸素含有量が多いため、必然的に、無酸素銅と比べて酸化した不純物の含有量が多くなるという特徴がある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−240426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、銅線製造の焼きなまし工程において、連続焼きなましを行う(冷間伸線工程と焼きなまし工程を連続的に行う)ことで、工業生産性を向上させることができる。しかし、この場合、被焼きなまし材の軟化温度が高いと、焼きなまし工程に時間がかかると共に、焼きなまし工程の生産速度に冷間伸線工程の生産速度を合わせる必要があり、銅線の生産性が阻害される。また、被焼きなまし材の軟化温度が高いと、焼きなましに要する熱エネルギーが増大し、製品コストの上昇を招いてしまう。よって、被焼きなまし材の軟化温度の低下が図られている。
【0006】
銅材の軟化温度を低下させるには、銅母材中に含まれる不純物元素を除去し、Cu純度を高めることが必要とされる。不純物元素を除去する方法としては、例えば、溶湯原料の選定(高純度のものを使用)、溶湯の酸化精錬、還元精錬などがある。しかしながら、この不純物元素を除去する方法は、コストが非常にかさむ方法である。このため、溶湯原料にタフピッチ銅を用いた場合、この方法は経済的に極めて不利であり、工業的に適した方法とは言えなかった。
【0007】
一方、銅材の軟化温度を低下させる他の方法として、銅母材中に含まれる不純物元素の内、ある元素の濃度をより低くすればよいことが知られている。ここで言うある元素の1つとして、Cuに固溶した状態で存在する硫黄(S)や鉛(Pb)などがある。このCu中に固溶したSやPbの濃度を低減させるべく、銅の溶湯に真空脱ガス処理を施したり、鋳造後の銅バーに特定温度で熱処理を施すなどの方策が試みられている。しかし、従来のこれらの方策では、SやPbの濃度を十分に低減させることができないため、銅材の軟化温度を十分に低下させることができなかった。
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、安価で、軟化温度の低い銅材の製造方法及び銅材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく本発明に係る銅材の製造方法は、連続鋳造圧延装置を用いてタフピッチ銅溶湯から直接、銅材を製造する方法において、上記連続鋳造圧延装置の溶湯貯溜手段に貯溜されたタフピッチ銅溶湯に、Ti、Zr、V、Ta、Fe、Ca、Mg、又はNiから選択される少なくとも1種の金属又は合金を添加し、タフピッチ銅溶湯中に含まれる該金属又は合金の割合を0.0004〜0.055重量%に調整するものである。
【0010】
一方、本発明に係る銅材は、前述した銅材の製造方法を用いて製造された銅材であって、半軟化温度が110℃以下のものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軟化温度の低い銅材を得ることができるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適一実施の形態を説明する。
【0013】
本発明の好適一実施の形態に係る銅材の製造方法は、連続鋳造圧延装置を用いてタフピッチ銅溶湯から直接、銅材を製造するものである。
【0014】
具体的には、先ず、連続鋳造圧延装置の溶湯貯溜手段(例えば、タンディッシュなど)に貯溜されたタフピッチ銅溶湯に、Ti、Zr、V、Ta、Fe、Ca、Mg、又はNiから選択される少なくとも1種の金属又は合金を添加する。この時、タフピッチ銅溶湯中に含まれる金属又は合金の割合が0.0004〜0.055重量%となるように、その添加量を調整する。これらの金属(又は合金)は、いずれもSとの親和力が大きな金属(以下、硫黄親和性金属という)である。ここで言う硫黄親和性金属とは、金属元素の単体又は混合体や、合金の単体又は混合体のいずれであってもよい。
【0015】
次に、硫黄親和性金属を含むタフピッチ銅溶湯を、鋳造工程及び熱間圧延工程に供し、タフピッチ銅の荒引き材(例えば、荒引き線)を連続的に製造する。その後、荒引き材に、適宜、冷間減面加工を施して最終線径とし、半軟化温度が110℃以下の銅材(例えば、銅線)が得られる。この銅材に焼きなまし処理を施したものが、最終製品となる。ここで言う半軟化温度とは、60分間加熱した後の銅材の引張強度が加熱前の銅材の引張強度の半分になる時の温度のことである。
【0016】
荒引き材のベース材料としてタフピッチ銅を用いるのは、銅母材に酸素が共存する(比較的多く存在する)ためである。この酸素が銅母材に固溶している各種不純物と反応して酸化物を形成することによって、銅母材に固溶している各種不純物の濃度が減少する。また、タフピッチ銅を用いるのは、銅線用材料として幅広く用いられていると共に、無酸素銅と比較して安価で、コストパフォーマンスがよいためである。ここで、タフピッチ銅としては、電気銅のみを用いて形成したもの、又は電気銅とスクラップ銅を混ぜて形成したもののいずれであってもよい。
【0017】
硫黄親和性金属の含有量を0.0004〜0.055重量%、好ましくは0.0005〜0.045重量%、より好ましくは0.001〜0.045重量%と規定したのは、含有量が0.0004重量%未満だと、硫黄親和性金属と銅母材に固溶しているSが十分に反応せず、軟化温度を低下させる効果が十分に得られないためである。一方、含有量が0.055重量%を超えると、銅材に固溶する硫黄親和性金属の固溶量が多くなりすぎて、銅材の軟化温度が逆に上昇するためである。
【0018】
また、半軟化温度を110℃以下、好ましくは100℃以下と規定したのは、半軟化温度が110℃以上だと、銅材の軟化温度の低減効果が十分でないためである。
【0019】
ここで、本実施の形態に係る銅材の軟化温度が大幅に低下する理由は、次のように考えられる。
【0020】
通常のタフピッチ銅には10ppm前後のSが固溶しており、このSが銅材の軟化温度を上昇させる大きな因子といわれている。そこで、本実施の形態に係る製造方法では、鋳造直前のタフピッチ銅溶湯に硫黄親和性金属を所定の割合で添加している。この硫黄親和性金属(例えば、Ti)がタフピッチ銅溶湯に固溶しているSと反応することで、Sが硫化物(例えば、TiS)として析出し、Sの固溶量が減少される。また、硫黄親和性金属は、タフピッチ銅溶湯が凝固、再結晶する際の核となることから、これによって、タフピッチ銅の再結晶生成エネルギーを低くすることができる。これらの複合効果により、銅材の軟化温度を大幅に低下させることができると考えられる。
【0021】
本実施の形態に係る製造方法に用いる荒引き材及び最終的に得られる銅材の形態は、減面加工によって形成可能なものであれば特に限定するものではなく、例えば、線状、板状、又は条状などのいずれであってもよい。
【0022】
次に、本実施の形態に係る銅材の作用を説明する。
【0023】
通常、荒引き材に冷間減面加工を施し、伸延、伸線させてなる銅線は、加工硬化によって高硬度な線材(例えば、硬銅線)となっている。このため、通常の硬銅線に焼きなましを行う際、特にアニーラー焼きなましを行う際は、高温、長時間の熱処理が必要となる。
【0024】
しかしながら、本実施の形態に係る製造方法により得られた銅材は、銅材の原料となるタフピッチ銅溶湯に、Ti、Zr、V、Ta、Fe、Ca、Mg、又はNiから選択される少なくとも1種の硫黄親和性金属を、その含有量が0.0004〜0.055重量%となるように添加している。
【0025】
ここで、硫黄親和性金属は、酸素との反応性が強い金属であるため、大気中の酸素と容易に反応して酸化する。よって、タフピッチ銅溶湯に硫黄親和性金属を添加してから実際に鋳造に供するまでの時間が長いと、硫黄親和性金属が大気に晒される時間が長くなり、硫黄親和性金属が多量に酸化されて添加ロスとなる。そこで、硫黄親和性金属と大気中の酸素との反応を抑制することが重要となる。本実施の形態に係る製造方法において、硫黄親和性金属を銅溶湯中に添加する望ましいタイミングは鋳造直前である。また、硫黄親和性金属の添加形態は、硫黄親和性金属の単体を、直接、添加してもよいが、銅母材と合金化させたものを添加することが好ましい。これによって、前述したように硫黄親和性金属の酸化を抑制することができる。また、添加量の秤量ばらつきを抑制することができ、延いては硫黄親和性金属の含有量の精度を高めることができる。
【0026】
以上のような製造方法によって得られた銅材は、タフピッチ銅を用い、従来の方法で製造した銅材(以下、従来の銅材という)と比較して軟化温度が低くなる(例えば、半軟化温度が110℃以下となる)。このため、本実施の形態の銅材は、より低い温度で十分な焼きなましを行うことができる。よって、アニーラー焼きなましを行う際、本実施の形態の銅材は、従来の銅材と比較して、より低い温度で、かつ、短時間で焼きなましを行うことが可能となる。その結果、銅材の生産性が向上すると共に、銅材製造に要するエネルギーの削減も可能となる。
【0027】
本実施の形態の銅材は、安価なタフピッチ銅で構成されており、かつ、その軟化温度が従来の銅材よりも大幅に低いことから、最終製品の原料コスト及び製造コストが安価となり、その工業的価値が非常に高い銅材である。
【0028】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0029】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
シャフト炉と連結したSCR方式の連続鋳造圧延装置を用い、タフピッチ銅からなる直径φ8mmの荒引き線を製造した。荒引き線の構成材は、タフピッチ銅溶湯に硫黄親和性金属を所定の割合で添加したものである。この荒引き線に冷間減面加工、焼きなまし処理を適宜繰り返して施し、直径φ0.5mmの銅線を作製した(試料1〜試料18)。
【0031】
試料1,2については、硫黄親和性金属を無添加とした。電気銅とスクラップ銅を混ぜたもので構成したタフピッチ銅を(比較例1)、電気銅だけで構成したタフピッチ銅を(比較例2)とした。
【0032】
試料3〜5については、硫黄親和性金属としてそれぞれTiを添加した。Tiを0.003重量%含有させたものを(実施例1)、Tiを0.0003重量%含有させたものを(比較例3)、Tiを0.06重量%含有させたものを(比較例4)とした。
【0033】
試料6〜8については、硫黄親和性金属として、Zrを0.003重量%含有させたものを(実施例2)、Feを0.003重量%含有させたものを(実施例3)、Mgを0.003重量%含有させたものを(実施例4)とした。
【0034】
試料9,10については、硫黄親和性金属としてそれぞれTaを添加した。Taを0.006重量%含有させたものを(実施例5)、Taを0.04重量%含有させたものを(実施例6)とした。
【0035】
試料11〜14については、硫黄親和性金属としてそれぞれNiを添加した。Niを0.0005重量%含有させたものを(実施例7)、Niを0.005重量%含有させたものを(実施例8)、Niを0.01重量%含有させたものを(実施例9)、Niを0.05重量%含有させたものを(実施例10)とした。
【0036】
試料15〜18については、硫黄親和性金属としてそれぞれNi+αの計2種を添加した。0.01Ni+0.001Ti(重量%)含有させたものを(実施例11)、0.01Ni+0.001V(重量%)含有させたものを(実施例12)、0.01Ni+0.0005Ca(重量%)含有させたものを(実施例13)、0.01Ni+0.001Mn(重量%)含有させたものを(実施例14)とした。
【0037】
実施例1〜14及び比較例1〜4の各銅線を用いて軟化試験を行い、軟化特性の評価を行った。その結果を表1に示す。ここで、軟化特性の評価は、半軟化温度を用いて行った。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、実施例1〜14の各銅線は、いずれも硫黄親和性金属の含有量が0.0004〜0.055重量%の範囲であり、本発明に係る銅線の製造方法を満足していた。実施例1〜14の各銅線の半軟化温度はいずれも110℃以下(62〜104℃)であり、硫黄親和性金属が無添加の比較例1,2の各銅線の半軟化温度(127℃,125℃)と比較すると、20℃以上(約22〜64℃)も半軟化温度が低下していた。実施例9,11〜14の各銅線を比較すると、硫黄親和性金属としてNiの他に更に1種加えると、実施例13(Ca添加)を除いて半軟化温度が更に低下した。しかし、実施例9,13を比較すると、半軟化温度の大幅な上昇はないことから、少量であれば、耐熱性の向上効果が望めるCaを添加してもよい。
【0040】
これに対して、比較例3の銅線は、硫黄親和性金属の含有量が0.0003重量%と少なすぎるため、銅線の軟化温度を低下させる効果が全く得られず、半軟化温度は比較例1の銅線と全く同じ127℃であった。
【0041】
また、比較例4の銅線は、硫黄親和性金属の含有量が0.06重量%と多すぎるため、銅線の軟化温度を逆に上昇させてしまい、半軟化温度は硫黄親和性金属無添加の場合(比較例1の銅線)より100℃も高温の227℃であった。
【0042】
以上より、荒引き線の構成材であるタフピッチ銅溶湯に硫黄親和性金属を所定の割合で添加し、そのタフピッチ銅溶湯を連続鋳造圧延装置に供給して銅線を製造することで、銅線の軟化温度を大幅に低下させることができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造圧延装置を用いてタフピッチ銅溶湯から直接、銅材を製造する方法において、上記連続鋳造圧延装置の溶湯貯溜手段に貯溜されたタフピッチ銅溶湯に、Ti、Zr、V、Ta、Fe、Ca、Mg、又はNiから選択される少なくとも1種の金属又は合金を添加し、タフピッチ銅溶湯中に含まれる該金属又は合金の割合を0.0004〜0.055重量%に調整することを特徴とする銅材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法を用いて製造された銅材であって、半軟化温度が110℃以下であることを特徴とする銅材。

【公開番号】特開2006−274383(P2006−274383A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97490(P2005−97490)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】