説明

銅膜の製造方法

【課題】本発明は、銅微粒子を低温かつ短時間で焼結できる方法を提供、その方法により基材上に銅膜を製造することを目的とする。
【解決手段】銅微粒子を含有する組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜の上方に形状追随性を有する遮蔽物を配置して、該塗膜を加熱プレスして該銅微粒子を焼結する工程とを含む銅膜の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅微粒子を含有する組成物を基材上に塗布する工程とこれを加熱プレスする工程とを含む、銅膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクス分野において利用される配線基板は集積度向上を目的として微細化が進んでいる。従来、配線パターンの作製にはスパッタ・真空蒸着などの真空プロセスが用いられることが主であり、これらのプロセスを利用して数十nmといった微細なパターンの作製が可能になってきている。しかし、真空プロセスは精度の良い薄膜ができるが、一方で成膜速度が遅くプロセスコストが高かった。
【0003】
近年、これら真空プロセスに替わる手法として注目されているのがプリント配線技術である。この手法は、金属粒子を分散させたペーストを基材状に印刷し、加熱処理して基板上に配線する技術である。真空プロセスに比べて微細配線の点では劣るが、近年の印刷技術の発展に伴い数ミクロンレベルのパターン形成が可能になっており低コストプロセスの配線技術として期待されている。
【0004】
しかし、プリント配線技術においては金属を焼結するために非常に高温で加熱処理する必要があるためにポリマー基板などは損傷されてしまう可能性がある。一方、安価なプリント配線基板を作るためにはポリエステルフィルムなどの汎用性の高いフィルム基板を用いることが望ましい。例えば、最も汎用性の高いポリエステルフィルムであるポリエチレンテレフタレートフィルムを使用する場合は、基板の耐久性から200℃以下の加熱処理で焼結できることが望ましい。
【0005】
一般に、金属粒子の粒径を微小にすることによって、金属ペーストの焼成温度を低減させるという技術は公知である。例えば、粒径100nm以下の金属微粒子を用いることで比較的低温で焼結できる技術が開示されている(特許文献1)。また、粒子が微小であることは微細な印刷配線をする上でもパターン精度が上がり有利になる。
【0006】
金属微粒子を利用して微細な配線パターンを形成する手法に関しては、例えば銀微粒子では既に方法論が確立されていて、スクリーン印刷法で印刷可能な銀微粒子ペーストが商品化されている(藤倉化成社製:ドータイト、ハリマ化成社製:導電性銀ペースト、ナミックス社製:HIMEC)。しかし、銀微粒子を用いると材料の銀自体が高価であるため、ペーストの作製単価も高価になりプリント配線のメリットであるコストダウンには限界があり、汎用品として広く普及する上では大きな障害となっている。
【0007】
加えて、銀微粒子は配線幅及び配線間スペースが狭くなっていくにつれ、エレクトロマイグレーションに起因する断線が問題となる。エレクトロマイグレーション現象に起因する断線を回避する上では、金属微粒子として銅微粒子を用いることが有効であることが知られている。銅は、導電性が金や銀と同等である上にエレクトロマイグレーションが格段に少なく、さらに銀よりも材料単価が低いため、銅微粒子のプリント配線技術への応用は大いに期待されている。
【0008】
貴金属である銀は、酸化を受けがたい特性を有しておりペースト状にして保存する上でも酸化されない状態で維持することが容易である。一方で卑金属である銅微粒子は酸化されやすい特性を有しており、特に焼結させるために加熱すると周囲の酸素と容易に反応し酸化される。銅微粒子が一旦酸化されると表面が安定化され焼結現象は起きにくくなる。そのため銅微粒子を焼結させるには、雰囲気制御をして還元性ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気下で行う必要があった。
【0009】
公知の例では、350℃で1時間、窒素ガス雰囲気中で加熱することによって焼結し抵抗率5.0μΩ・cmを得ている例や(特許文献2)、250℃で有機還元ガス蒸気雰囲気中で40分以上加熱することによって焼結し抵抗率6.6μΩ・cmの薄膜を得ている例(特許文献3)、窒素ガス雰囲気において250℃で加熱焼成後、水素ガス雰囲気中において300℃で1時間加熱焼成し、3μΩ・cmを得ている例がある。これらの例では、プロセス中に雰囲気制御をしなければならないためにプロセスコストが高く、また加熱温度も高温であり使用できる基板が限られる。
【0010】
他にも、単に加熱するだけでなくプロセスの工夫によって焼結度を上げている例がある。アルゴン/水素混合気体中において150℃でプラズマ還元を行っている例(特許文献5)や、銀粒子焼結の実施例ではあるが電子線照射により焼結を進める例(特許文献6)や、レーザーを用いて焼成している例(特許文献7)、加熱時にプレスして焼成している例(非特許文献1、特許文献8)が公知の例として挙げられる。これらの例は単なる加熱による焼成とは異なる手法であり、ポリマー基板の使用を可能に出来る可能性があるが、プラズマ還元は水素ガスを使用するためコストが高くなり、電子線照射・レーザーも新たな装置を用いなければならない点でコストの問題が大きい。
【0011】
コストの問題で優位性がある加熱プレスによる焼結方法は、銀では容易に焼結が可能である。これは銀が加熱時に自然に還元反応が進み、酸化銀が銀となるからである。しかしながら銅粒子膜では、加熱プレス時に外部の酸素と反応して容易に酸化反応が進み、粒子表面の分厚い酸化膜が焼結を阻害して一様に導電性を有する膜は得られない。
【0012】
また、銀粒子からなる膜にレジスト剤をコーティングする例(特許文献8)もあり、酸化防止の可能性があるが、導電膜を他の配線とコンタクトする時には、再度コーティングした層を剥がす工程が必要となり、プロセスが複雑となりコストアップにつながる。
【0013】
このように、従来の技術では銅微粒子を焼結するために雰囲気制御などの高コストなプロセスや高温加熱が必要であり、プロセスコスト・基板の汎用性の点で問題があるために銅微粒子ペーストをプリント配線基盤の配線材料として実用化することは困難であった。
【特許文献1】特許第2561537号公報
【特許文献2】国際公開第2004/050559号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/103043号パンフレット
【特許文献4】特開2004−164876号公報
【特許文献5】特開2004−247572号公報
【特許文献6】特開2006−26602号公報
【特許文献7】特開2006−38999号公報
【特許文献8】特開2005−177710号公報
【非特許文献1】産総研 「TODAY」2006−01
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであり、銅微粒子を従来より低温かつ短時間で焼結できる方法を提供、その方法により基材上に銅膜を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、銅微粒子を含有する塗膜の直上に遮蔽物を配置して加熱プレス処理することによって従来より低温で焼結して銅膜を製造することが可能であることを見出した。
【0016】
すなわち本発明は、次の(1)〜(8)の構成を特徴とするものである。
(1)銅微粒子を含有する組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜の上方に形状追随性を有する遮蔽物を配置して、該塗膜を加熱プレスして該銅微粒子を焼結する工程とを含む銅膜の製造方法。
(2)前記銅微粒子として銅ナノ粒子を含有し、該銅ナノ粒子の個数平均粒子径が1nm以上200nm以下である、(1)に記載の銅膜の製造方法。
(3)前記塗膜を加熱プレスする工程において、加熱温度が50℃以上300℃以下である、(1)又は(2)に記載の銅膜の製造方法。
(4)前記塗膜を加熱プレスする工程において、プレス圧力が1MPa以上である(1)〜(3)のいずれかに記載の銅膜の製造方法。
(5)前記遮蔽物の曲げ強度が100GPa・mm以下である(1)〜(4)のいずれかに記載の銅膜の製造方法。
(6)前記遮蔽物がフッ素系樹脂、金属箔、熱可塑性樹脂、シリコーン系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一つで構成される(1)〜(5)いずれかに記載の製造方法。
(7)前記塗膜を形成する工程と前記塗膜を加熱プレスして銅微粒子を焼結する工程の間に、加熱及び/またはプラズマにより銅微粒子を焼結する工程を含む(1)〜(6)いずれかに記載の銅膜の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、銅微粒子を低温で加熱プレスすることにより、銅微粒子を短時間で焼結して、銅膜を製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の銅膜の製造方法は、銅微粒子を含有する組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、形状追随性を有する遮蔽物を該組成物の直上に配置して塗膜を加熱プレスする工程とを含む、銅膜の製造方法である。
【0019】
銅微粒子:
本発明に用いられる銅微粒子には、粒子径が1μmより小さい粒子である銅ナノ粒子が含まれることが好ましいが、1μm以上10μm以下の銅マイクロ粒子が含まれていても良い。本発明に用いられる銅微粒子のうち、銅ナノ粒子の重量分率をMa、銅マイクロ粒子の重量分率をMbとしたときに、Ma/(Ma+Mb)の値が0.7以上であることが好ましく、0.8以上1以下であることがより好ましい。銅マイクロ粒子は銅ナノ粒子に比べて焼結しにくいが、銅微粒子の中に少量存在していることで、導電パスとして利用でき、導電しやすくなる場合がある。但し、Ma/(Ma+Mb)の値が0.7より小さい場合は膜全体が焼結するのに悪影響を与え、問題が生じる。
本発明に用いられる銅微粒子に含まれる銅ナノ粒子の平均粒子径は200nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。200nm以下であれば表面エネルギーが大きくなり、融点が低下して、金属粒子間が低温で融着して銅薄膜が形成しやすくなるので好ましい。また、印刷配線をする上でも粒子径が小さいことは好ましく、数ミクロン幅・間隔の印刷をするためには、銅ナノ粒子の粒子径は100nm以下であることがより好ましい。なお、銅ナノ粒子の粒子径の下限は1nmであることが好ましい。銅ナノ粒子の表面酸化膜との関係から1nm未満ではナノ粒子全てが酸化銅となるからである。
【0020】
ここで、粒子径とは、一次粒径を指し、電子顕微鏡による形態観察によって測定できる。また、平均粒子径の算出は、個数平均に基づいており、電子顕微鏡で観察できる範囲の粒子の内、任意の100個の粒子の選び出し、それらの粒子径を粒子の個数で平均することにより求められる。
【0021】
銅微粒子の様態は酸化されていないことが好ましいが、塗膜に還元性物質を含有させるため、必ずしも酸化されていないことが必須であるわけではなく、粒子が一部又は全部酸化されていても良い。酸化銅としては酸化第一銅及び酸化第二銅があり、銅の酸化状態に制限はないが、金属銅への還元の容易性から、酸化第一銅が好ましい。
【0022】
銅微粒子の表面は有機成分や粒子の酸化物で覆われているものも含む。上記の銅微粒子表面の酸化反応を抑制する効果に加えて、後述する電子写真印刷に代表される粒子の帯電効果を利用した塗布法に対して効果を有する。
【0023】
本発明で用いる銅微粒子は、例えばアルドリッチ社から粒子径50nm、100nmの銅ナノ粒子をそれぞれ含むものを、Alfa Aesar社から粒子径200nmの銅ナノ粒子を含むものを入手することが可能である。また、表面が有機物質で覆われている粒子としては例えば石原産業からゼラチンで覆われた銅微粒子を入手することが可能である。また、特開平1−259108などに記述されているような公知の手法で合成することができる。本発明で用いる銅マイクロ粒子は、例えばキシダ化学から粒子径1μmのものを、アルドリッチ社から、粒子径10μmのものを入手することが可能である。また、金属粉末作製で一般的な製法であるアトマイズ法を用いて銅マイクロ粒子を作製することができる。
【0024】
銅微粒子を含む組成物:
本発明において、基材上に塗布される組成物の形態は、粉状、ペースト状などが挙げられる。
【0025】
粉状の場合は、組成物には必要に応じて、後述するバインダー、還元剤、その他添加剤を含有していてもよい。銅ナノ粒子の重量は、粉体の総重量に対して50重量%以上であり、好ましくは80重量%以上である。50重量%より低い場合は、銅微粒子以外の成分が銅微粒子の基材への接触を妨げ焼結が困難になる。
【0026】
前記バインダーとは、粒子間同士や粒子と基板との間を接着させる樹脂のことであって、添加することにより、緻密な膜を形成しやすくなる。大きく硬化性樹脂と可塑性樹脂に大別できる。バインダーとして使用できる熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、レゾール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリイミド樹脂等を例示でき、これら樹脂モノマーまたはオリゴマー、誘導体も含む。エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、(クレゾール)ノボラック型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノール樹脂、レゾ、グリセリントリエーテル、ポリオレフィン、エポキシ化大豆油、シクロペンタジエンジオキシド、ビニルシクロヘキセンジオキシドなどが挙げられる。液状のエポキシ樹脂は粘度が低いので好ましく、具体的にはフェノキシアルキルモノグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ネオペンチルグルコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントグリシジルエーテルおよび液状の各種ポリシロキサンジグリシジルエーテルなどが例示される。熱可塑性樹脂としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリグリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0027】
前記還元剤としては、常温において銅微粒子の酸化を妨げる作用、すなわち抗酸化作用を有する物質、銅微粒子を焼結する工程で加熱したときに抗酸化作用および銅微粒子中の酸化物を還元する作用を発揮する物質、またはその両方の性質を有する物質のいずれも用いることができる。還元剤の形態は液状、固形状いずれも用いることができる。粉状の組成物に液状の還元剤を添加する方法としては、粉状の組成物に還元剤を滴下し撹拌して還元剤の沸点より低い温度で室内または真空中で乾燥させる方法が例示できる。沸点より低い温度で乾燥させると銅微粒子表面に還元剤が吸着した状態になる。使用可能な還元剤に特に制限はなく、無機還元剤であっても有機還元剤であっても良い。無機還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム等水素化合物、二酸化イオウ等のイオウ化合物、亜硫酸塩などの低級酸化物の塩、ヨウ化水素、炭素、などを例示できる。
有機還元剤としては多価アルコール、糖類、アルデヒド類、ヒドラジン及びその誘導体、ジイミド類、シュウ酸、フェノール類、アスコルビン酸などを例示できる。多価アルコールとしては エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3 − プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2,3−ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3 − プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール等を例示できる。また、グリセロール、トレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ペンチトール、ヘキシトール等の糖アルコール類も使用可能であり、ペンチトールにはキシリトール、リビトール、アラビトールが含まれる。また、ヘキシトールには、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール等が含まれる。糖類としては、グリセリンアルデヒド、ジオキシアセトン、トレオース、エリトルロース、エリトロース、アラビノース、リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース、グルコース、フルクトース、マンノース、イドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、アルトロース、ラクトース、キシロース、トレハロース、が例示である。アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソビチルアルデヒド、パレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ピバリンアルデヒド、カプロンアルデヒド、ヘプトアルデヒド、カプリルアルデヒド、ペラゴンアルデヒド、ウンデシルアルデヒド、ラウリンアルデヒド、トリデシルアルデヒド、ミリスチンアルデヒド、ペンタデシルアルデヒド、パルミチンアルデヒド、マルガリンアルデヒド、ステアリンアルデヒド等の脂肪族飽和アルデヒド、グリオキサール、スクシンジアルデヒド等の脂肪族ジアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、プロピオールアルデヒド等の脂肪族不飽和アルデヒド、ベンズアルデヒド、o−トルアルデヒオ、m−トルアルデヒド、p−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、シンナムアルデヒド、α−ナフトアルデヒド、β−ナフトアルデヒド等の芳香族アルデヒド、フルフラール等の複素環式アルデヒド等を例示できる。フェノール類は、フェノール、カテコール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、レゾルシノール等を例示できる。ヒドラジン誘導体としては、N−アミノモルホリン、オキサロヒドラジド、4,4,−ジメチル−1−フェニル−3−ピラゾリジノン等を例示できる。ジイミド類は、例えば、アゾジカルボン酸塩、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸、N−アレンスルホニルヒドラジドまたはN − アシルスルホニルヒドラジドを熱分解することで得られる。N−アレンスルホニルヒドラジドまたはN − アシルスルホニルヒドラジドとしては、p−トルエンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、2,4,6−トリスイソプロピルベンゼンスルホニルヒドラジド、クロロアセチルヒドラジド、o−ニトロベンゼンスルホニルヒドラジド、m−ニトロベンゼンスルホニルヒドラジド、p−ニトロベンゼンスルホニルヒドラジド等を例示することができる。
【0028】
前記その他添加剤としては、金属塩化合物が例示できる。金属塩化合物は還元されると金属が析出するので、析出した金属が焼結銅微粒子間をつなぐ役割をしてより緻密な焼結が出来る可能性がある。具体的には、ギ酸銅、酢酸銅、トリフルオロ酢酸銅、硝酸銅、銅メトキシド、ネオデカン酸銅、銅ケトイミン、2−エチルヘキサン酸銅、チオ硫酸銅、ペンタフルオロプロピオン酸銅、オクタン酸銅等が挙げられる。
【0029】
ペースト状の場合は、組成物には必要に応じて、前述したバインダー、還元剤、その他添加剤および後述する分散媒を含有してもよい。
【0030】
銅ナノ粒子の重量は、塗膜の総重量に対して3重量%以上95重量%以下であり、好ましくは10重量%以上90重量%以下である。3重量%未満の場合には、1回の焼成によって得られる銅焼結体の量が少なくなり、導電性の薄膜として機能することが困難になる。また、95重量% を超えると、塗膜がペースト状にならず粉状になってしまい、基材への塗布が困難になる。
【0031】
基材上に塗布する組成物には、基材上に形成する塗膜中で銅微粒子を分散させるために、
適量の液体が分散媒として含まれていることが好ましい。本発明において使用できる分散媒としては、有機溶媒及び/または水が挙げられる。分散媒として用いる有機溶媒の例としては、液体であるアルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒およびエーテル系溶媒を例示できる。また、上記の還元性物質が液体である場合には、これを分散媒として兼ねて使用してもよい。
【0032】
分散媒として用いるアルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、イソペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、n−デカノールなどのモノアルコール系溶媒、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセロールなどの多価アルコール系溶媒、およびエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルなどの多価アルコール部分エーテル系溶媒などを挙げることができる。これらのアルコール系溶媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0033】
分散媒として用いるケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、アセトフェノンなどのほか、アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、2,4−オクタンジオン、3,5−オクタンジオン、2,4−ノナンジオン、3,5−ノナンジオン、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ヘプタンジオンなどのβ−ジケトン類などが挙げられる。
【0034】
分散媒として用いるアミド系溶媒としては、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルモルホリン、N−アセチルピペリジン、N−アセチルピロリジンなどが挙げられる。エステル系溶媒としては、ジエチルカーボネート、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸イソアミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチルなどが挙げられる。これらエステル系溶媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。
【0035】
分散媒として用いるエーテル系溶媒としては、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
これらの分散媒は、単独で用いても、2種以上の分散媒を混合して用いても良い。
【0037】
銅微粒子を焼結する上で、焼結後の膜状態の緻密性や印刷プロセスにおける取扱いを考慮すると、銅微粒子は組成物中または基材に塗布後の塗膜中に良好に分散していることが好ましい。良好に分散している状態とは、塗膜中の銅微粒子凝集体が少なく、塗膜内の銅微粒子の流動性が高い状態をいう。銅微粒子を組成物中に良好に分散させるには、分散剤を添加することにより化学的に分散状態を補助する方法と、物理的に分散させる方法、及びこれらを組み合わせる方法が挙げられる。
【0038】
銅微粒子を分散させるのに適した分散剤としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の極性基を有する低分子化合物、オリゴマー、ポリマーを例示できる。極性基を有する低分子化合物としては、アルコール系化合物、アミン化合物、アミド化合物、アンモニウム化合物、燐系化合物等を例示できる。極性基を有するポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチレングリコール等を例示できる。また、分散剤として界面活性剤を用いてもよい。界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非極性界面活性剤等を例示できる。極性基を有するポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチレングリコール等を例示できる。
【0039】
分散剤を用いて銅微粒子を分散させる方法としては、銅微粒子を合成する際に分散剤の存在下で合成して銅微粒子の表面に配位させる方法や、銅微粒子の分散処理を行う際に分散剤の存在下で行うことで銅微粒子の表面に配位させる方法などが考えられる。分散処理の手法については後述する。
【0040】
本発明で用いる銅微粒子を含有する組成物またはこれを塗布した塗膜中には、銅微粒子以外の金属の粒子が含まれていても良い。具体的には金、銀、プラチナ、亜鉛、錫の粒子が挙げられる。金、銀、プラチナは、銅よりも酸化されにくく導電性も非常に高いので、組成物またはこれを塗布した塗膜中に一部混合していることで、より導電性の高い焼結体が得られる効果がある。また、亜鉛、錫は銅よりも融点が低いため、容易に融解して焼結を補助する効果が得られる。これら銅微粒子以外の金属の組成物中の含有率は、銅微粒子に対する割合が好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0041】
銅微粒子を含有する組成物(ペースト)の調製方法:
本発明で用いる組成物は、上記の銅微粒子、分散媒、必要に応じて分散剤、バインダー、還元性物質、その他の添加剤等の塗膜構成物を適切に混合することによりペーストとして形成することが好ましい(以下、ペースト状の該組成物を「ペースト」と記載することがある。)。各構成物が良好に混練されているペーストが好ましく、特に銅微粒子がペースト内で良好に分散され、凝集が少なく流動性の高い状態になっていることが好ましい。
【0042】
銅微粒子をペースト中に分散させる方法としては、粉体を液体に分散する公知の方法を用いることができる。例えば、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、2本ロール法、プラネタリーミキサー、ニーダー、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ジェットミル、乳鉢による破砕等を挙げることができる。通常は、これらの分散手段の複数を組み合わせて分散を行う。これらの分散処理は室温で行ってもよく、溶媒の粘度を下げるために、加熱して行ってもよい。これらの手法の中でも、ペースト中の銅微粒子の凝集を再分散させるためには、3本ロール法、乳鉢による破砕が特に好ましい。
【0043】
これらの処理を、上記の分散剤の存在下で行うとさらに分散状態が良くなる事がある。
【0044】
基材:
本発明において用いられる基材は、基板状のもの又はフィルム状基材が好ましい。基板としては、無機物質を素材とする無機基板及び有機物質を素材とする有機基板のいずれも使用可能である。無機基板としては、シリコン・ゲルマニウム・SiCなどの半導体基板、ガラス基板、セラミック基板を用いることが出来る。有機基板としては、焼成過程において損傷を受けない素材からなる基板であればよく、ポリイミド基板、ポリエステル基板、エポキシ基板、アラミド基板、フッ素樹脂基板などの基板を使用可能である。具体的には、ポリイミド(カプトン)、ポリエーテルエーテルイミド(ウルテム)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)などが挙げられる。基材が多孔質状のものを用いることもできる。例えば、紙、グリーンシートなどである。また、製造過程においてロールトゥロールで処理することが可能であるフィルム状の基材も好ましく用いることができる。200℃以上の高温で処理する場合には耐熱性の高いカプトンフィルム、150℃以下の低温で処理する場合にはPETフィルムが、入手が容易であり品質も安定しており、好ましい。
【0045】
組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する工程:
基材への銅微粒子を含有する組成物の塗布は、組成物が粉状の場合と、ペースト状の場合で異なる。
【0046】
粉状の場合は、粉状物を基材に塗布する公知の方法を用いることができ、例えば粉の帯電性を利用した電子写真印刷法などが挙げられる。
【0047】
ペースト状の場合は、ペースト状物を基材に塗布する場合に用いられる公知の方法を用いることができ、例えばコーティング法、印刷法を適用することができる。コーティング法としては、例えばバーコート法、ディップコーティング方法、スプレー塗布方法、スピンコーティング方法などが挙げられる。印刷方法としては、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、マイクロコンタクトプリント法、インクジェット法などが挙げられる。また、ペースト状のものを基板に塗布した場合は、後の加熱プレス前にペースト内の液体成分を乾燥させておくことが好ましい。加熱プレス時は外気を遮断するため気密状態を形成させる。そのため塗布物に液体成分が多く含まれると、液体から気体へ大幅な体積変化が起こり、爆発を起こす危険がある。乾燥温度は、30℃以上200℃以下、好ましくは50℃以上120℃以下である。乾燥中、銅微粒子の酸化が進行させないためである。
【0048】
形状追随性を有する遮蔽物:
本発明は、形状追随性を有する遮蔽物を、銅微粒子と還元剤を含有する組成物の上方に配置して、プレス時に該組成物と外気中の酸素接触を遮断し、塗膜を加熱して銅微粒子を焼結する工程を含む。遮蔽物を配置した状態で組成物を加熱することで、特に外気中の酸素との反応を防ぎながら銅微粒子を焼結させて銅膜を得ることができる。ここで形状追随性とは、図1に示すように、例えば、遮蔽物を銅粒子膜が塗布された基材などの不定形な表面形状に沿わせて覆い、圧力を印加した際に、遮蔽物が塑性変形して対象物の形状に追随する性質をいい、形状に沿わせる力を解放した後もその形状を保持しうる性質をいう。具体的には、柔軟性に富む材料からなる遮蔽物を用いることで達成することができる。
【0049】
形状追随性を有する遮蔽物としては、金属製、セラミックス製、樹脂製等、塗膜の加熱温度より低い温度で融解や変性などを起こさないものであれば特に限定されない。但し形状追随性の観点から金属製のものは例えば、アルミ箔、セラミックス製のものは例えばグリーンシートのような、箔状のものに限定される。樹脂製の場合、遮蔽物の形態は特に限定されない。遮蔽物の素材としては、熱可塑性樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリスチレン(PS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ABS樹脂が好ましい。
【0050】
また遮蔽物は、プレス後に銅膜と剥離が必須とは限らない。プレス処理後に銅膜が上部の樹脂にラミネートされ封止された形態も好適である。この場合は、フィルム状のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂が好ましい。さらに好ましくは、ポリエステル、なかでもポリエチレンテレフタレート(PET)が最適である。
プレス後に銅膜を露出する場合は、融解温度が高い熱可塑性樹脂、フッ素系樹脂、剥離性が良いように表面処理を施したシリコーン系樹脂が好ましい。融解温度が高い熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂がある。さらに好ましくは、フッ素系樹脂である。融解温度が比較的高い上に化学的変性に強いため、遮蔽物として優れているからである。
形状追随性の点から、曲げ強度が10−6GPa・mm以上10GPa・mm以下が好ましい。さらに好ましくは10−5GPa・mm以上5GPa・mm以下が好ましい。ここで曲げ強度とは遮蔽物材料のヤング率をA(GPa)、遮蔽物の厚みをBmmとすると、A×B(GPa・mm)として表すことができる。
例えば、アルミ箔のヤング率が約65GPa、厚みが0.25mmとしたとき、曲げ強度は約4GPa・mmになる。遮蔽物の曲げ強度が大きすぎると同じ圧力下の条件では形状追随性が悪くなる。また加熱面から銅膜への伝熱に時間がかかり、結果として焼結時間の短縮化が望めなくなる。遮蔽物の曲げ強度が小さすぎるとフィルムは破裂してしまうため、一定の厚みが必要である。
【0051】
またプレス時は遮蔽物が銅膜及び基材と隙間無く密着している状態が好ましいが、銅膜縁周辺に微量の酸素が残っていてもよい。微量の酸素であれば粒子表面の酸化膜は焼結を阻害するには至らない。
【0052】
本発明の製造方法によれば、遮蔽物を用いることにより外気と組成物との接触が遮断されるので、外気(外部雰囲気)の条件は特に制限されず、これを制御する必要はない。従って、プレス機周辺の環境を、酸素を含まない窒素雰囲気下にするための大型設備等を必要とせず、設備コストの大幅カットが期待できる。 また、遮蔽物と塗膜が接触することで、気体や蒸気による加熱に比べて伝熱速度が極めて高く、短時間の焼成で銅微粒子を焼結することが可能になる。
【0053】
塗膜の加熱プレス工程:
本発明において、塗膜の加熱プレスは、組成物を安定に加熱プレスして銅微粒子を焼結することが出来れば特に制限されない。加熱とプレスの工程は必ずしも同時である必要はない。加熱工程直前直後にプレス処理する別々の工程であっても良いし、あるいは予め加熱した膜を加熱しながらプレス処理するものであっても良い。工程処理前と比べて膜の断面を比較すると処理前の膜中の粒子(図2)が粗大化したり(図3)、緻密化する(図4)ことによって導電性膜を得ることができる。
【0054】
プレス方法としては、静水圧を用いたプレス方法、ロールプレスが挙げられる。また、超音波プレスなど他のエネルギーを伴ったプレス方法によっても良い。加熱プレス方法は、これらのプレス方法に加熱機構が伴ったものである。好ましい加熱温度は、50℃以上300℃以下、より好ましくは100℃以上250℃以下、さらに好ましくは130℃以上200℃以下である。加熱温度が高すぎると銅微粒子が酸化しやすくなり、特にポリマー製基材を用いる場合には基材の耐熱性に問題が出てくる可能性がある。加熱温度が低すぎると銅微粒子の表面不安定性に起因する焼結現象を起こすに至らない、または数時間以上を要する。好ましいプレス圧力は0.1〜1000MPa、さらに好ましくは1〜100MPaである。圧力が高すぎると基材に硬度変化など変性が起き、低すぎると銅微粒子の接触面積増大に起因する焼結現象を起こすに至らない。また、好ましいプレス時間は1〜10分であり、より好ましくは2〜5分である。プレス時間が短すぎると焼結が十分でなく、プレス時間が長すぎると生産速度が低下して高コストとなるため好ましくない。加熱プレス条件の具体例としては、例えば処理対象が銅微粒子を塗布して乾燥した膜の場合、50〜100MPa/150℃〜250℃/2〜10分、25MPa/150〜250℃/10分などが挙げられ、処理対象が銅微粒子を塗布し還元処理した膜の場合、2.5〜7.5MPa/150℃〜250℃/5〜10分などが挙げられる。
【0055】
また、プレスを伴わない加熱方法としては、オーブン、ホットプレート、加熱炉等を用いて加熱する方法が挙げられる。また、レーザーなどの電磁波による加熱や、プラズマなどの活性化された気体を用いた加熱方法などによっても良い。
【0056】
本発明の製造方法によれば、プレス処理によって、酸化膜の破壊が起きるので、銅の清浄面が露出し銅微粒子の焼結反応が起きる。また、塗膜内の銅微粒子が接触する面積も増大するため焼結反応速度が速くなり、また電流が通過する面積も増大する。以上から、実施例に示す通り、従来と比べて高速の焼結反応が可能である。実施例では面圧がかかる静水圧型ホットプレスを使用したが、ロールプレス法などの線圧がかかり処理圧力を局所的に増大可能な装置によればさらに短時間化の可能性が期待できる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定される物ではない。
【0058】
(1)焼結体の構造
焼結体の構造は、日立ハイテクノロジー社製走査電子顕微鏡装置(S−4800)により10kV、20.0k倍の倍率で観察した。
【0059】
(2)銅薄膜の抵抗率
銅薄膜の抵抗率は株式会社ダイアインスツルメンツ製ロレスターGPを用いて4端子4探針法により測定した。検出限界値は1.0×10Ω・cmである。
【0060】
(3)銅膜の加熱プレス処理・加熱温度
銅膜の加熱プレス処理は、テスター産業株式会社製高精度ホットプレスSA401を用いて行った。加熱温度についてはホットプレス据え付けの測定温度表示を参照した。銅膜部の温度をK型熱電対を接触させて測定したところ、ホットプレス据え付けの温度と5℃未満の温度差となるまでの昇温に55秒から65秒程度の時間を要した。
【0061】
(4)圧力、圧力分布の均一性
なお、圧力の値、圧力分布の均一性については富士フイルム社製圧力測定フィルムLW/MSタイプを用いて確認した。
【0062】
(5)遮蔽物の厚み・ヤング(弾性)率
遮蔽物の厚みについては、ミツトヨ製アップライトゲージ(7−547シリーズ)を用いて測定した。また無作為に抽出した10個の試料については断面を走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー製 S−4800)で観察した結果から値を確認した。ヤング(弾性)率については、ASTM D882−64Tに基づき求めた。
【0063】
(6)粒子の平均粒子径の測定法
走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー製 S−4800)観察できる範囲の粒子の内、任意の100個の粒子の選び出し、それらの粒子径を粒子の個数で平均することにより求めた。
【0064】
(7)測定回数、サンプリング方法
測定回数は各条件において、各3回行い、その平均値を測定値とした。
【0065】
[実施例1]圧力変化
N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという)にポリビニルピロリドン(Mw=10000)を30重量%溶解させた(以下、PVP30%NMP溶液という)。銅ナノ粒子(Aldrich社製 粒子径:50nm)2.0g、PVP30%NMP溶液0.5gを、攪拌機(シンキー社製 ARV−100)を用いて3分間攪拌した後、三本ロール(エグザクト・テクノロジーズ社製 M−50)を用いて混練してペースト化した。このペーストをバーコーター(No.5)を用いて3cm角のカプトンフィルム(東レデュポン製 500V)に塗布し、フィルム上に銅微粒子ペースト膜を形成した。この銅微粒子膜がついたフィルムを真空オーブン内で70℃に加熱しながら2時間乾燥させた。(以下、銅NMP乾燥膜という)この時の膜の抵抗率は、1.0×10Ω・cm以上であった。
【0066】
銅NMP乾燥膜がついたフィルムを上下から「テフロン」(登録商標)ゴムシート(厚さ1mm)で挟んで、200℃で上下から加熱しながら、かつ50、75、100MPaの圧力下で、それぞれ2分間プレス処理を行った。薄膜の抵抗率は、下記の通りである。この時の遮蔽物の曲げ強度は、0.5GPa・mmであった。
【0067】
[実施例2]温度変化
実施例1と同等の乾燥膜を上下から「テフロン」(登録商標)ゴムシートで挟んで、150℃、200℃、250℃でそれぞれ上下から加熱しながら、かつ100MPaの圧力で2分間プレス処理を行った。薄膜の抵抗率は、下記の通りである。この時の遮蔽物の曲げ強度は、0.5GPa・mmであった。
[実施例3]温度変化2
実施例1と同等の乾燥膜を上下から「テフロン」(登録商標)ゴムシートで挟んで、150℃、200℃、250℃でそれぞれ上下から加熱しながら、かつ25MPaの圧力で10分間プレス処理を行った。薄膜の抵抗率は、下記の通りである。この時の遮蔽物の曲げ強度は、0.5GPa・mmであった。
【0068】
[実施例4]時間変化
実施例1と同等の銅NMP乾燥膜を上下から「テフロン」(登録商標)ゴムシートで挟んで、250℃で上下から加熱しながら、かつ100MPaの圧力で1分、5分間プレス処理を行った。薄膜の抵抗率は、下記の通りである。この時の遮蔽物の曲げ強度は、0.5GPa・mmであった。
【0069】
[実施例5]溶媒変化
還元剤として知られているエチレングリコールにポリビニルピロリドン(Mw=10000)を30重量%溶解させた(以下、PVP30%エチレングリコール溶液という)。銅ナノ粒子(Aldrich社製 粒子径:50nm)2.0g、PVP30%エチレングリコール溶液0.5gを、攪拌機(シンキー社製 ARV−100)を用いて3分間攪拌した後、三本ロール(エグザクト・テクノロジーズ社製 M−50)を用いて混練してペースト化した。このペーストをバーコーター(No.5)を用いて3cm角のカプトンフィルムに塗布し、フィルム上に銅微粒子ペースト膜を形成した。この銅微粒子膜がついたフィルムを真空オーブン内で70℃に加熱しながら2時間乾燥させた。(以下、銅EG乾燥膜という)この時の膜の抵抗率は、検出限界以上であった。
【0070】
銅EG乾燥膜がついたフィルムを上下から「テフロン」(登録商標)ゴムシート(厚さ1mm)で挟んで、200℃で上下から加熱しながら、かつ50、75、100MPaの圧力下で、それぞれ2分間プレス処理を行った。薄膜の抵抗率は、下記の通りである。この時の遮蔽物の曲げ強度は、0.5GPa・mmであった。
【0071】
[実施例6]粒子のまま焼結
銅ナノ粒子(Aldrich社製 粒子径:50nm)をカプトンフィルム上に撒いてヘラを用いて粒子で出来た膜を押し当てて平坦化させたものを「テフロン」(登録商標)ゴムシート(厚さ1mm)で挟んで、200℃及び250℃で上下から加熱しながら100MPaの圧力で2分間加熱プレス処理を行った。薄膜の抵抗率は、下記の通りである。この時の遮蔽物の曲げ強度は、0.5GPa・mmであった。
【0072】
[実施例7]形状追随性の遮蔽物
銅NMP乾燥膜を覆う遮蔽物の材料をアルミホイル(厚み0.1mm、曲げ強度0.65GPa・mm)、「テフロン」(登録商標)(厚み0.2mm、曲げ強度0.02GPa・mm)、「テフロン」(登録商標)(厚み1mm、曲げ強度0.5GPa・mm)に変えて200℃の温度、100MPaの圧力で2分間加熱プレスした。薄膜の抵抗率は、下記の通りである。
【0073】
[実施例8]導電膜の後処理1
還元剤として知られているエチレングリコールにエポキシ樹脂であるビスフェノールAジグリシジルエーテルを30重量%溶解させた(以下、エポキシ30%エチレングリコール溶液という)。銅ナノ粒子(Aldrich社製 粒子径:50nm)2.0g、エポキシ30%エチレングリコール溶液0.5gを、攪拌機(シンキー社製 ARV−100)を用いて3分間攪拌した後、三本ロール(エグザクト・テクノロジーズ社製 M−50)を用いて混練してペースト化した。次にエポキシ樹脂の硬化剤であるウンデシルイミダゾールを0.01g入れて攪拌機を用いて1分間撹拌した。このペーストをバーコーター(No.5)を用いて3cm角のカプトンフィルムに塗布し、フィルム上に銅微粒子ペースト膜を形成した。このペースト膜をエチレングリコールの蒸気下、200℃で還元焼成したところ、1.0×10−3Ω・cmであった(以下、銅還元処理膜)。銅還元処理膜に「テフロン」(登録商標)ゴムシート(厚さ1mm)で挟んで、150℃で加熱しながら2.5、5.0、7.5MPaの圧力を5分間加えた。薄膜の抵抗率は、下記の通りである。この時の遮蔽物の曲げ強度は、0.5GPa・mmであった。
【0074】
[実施例9]導電膜の後処理2
銅還元処理膜を「テフロン」(登録商標)ゴムシート(厚さ1mm)で挟んで、200℃で加熱しながら2.5、5.0、7.5MPaの圧力を5分間加えた。薄膜の抵抗率は、下記の通りである。この時の遮蔽物の曲げ強度は、0.5GPa・mmであった。
【0075】
[実施例10]導電膜の後処理3
銅還元処理膜を「テフロン」(登録商標)ゴムシート(厚さ1mm)で挟んで、250℃で加熱しながら2.5、5.0、7.5MPaの圧力を加えた。薄膜の抵抗率は、下記の通りである。この時の遮蔽物の曲げ強度は、0.5GPa・mmであった。
【0076】
[比較例1]
実施例1と同等の銅NMP乾燥膜を上下から厚さ1cmのSUS304の鉄板(曲げ強度20000GPa・mm)に挟んで、250℃で上下から加熱しながら、かつ75MPaおよび100MPaの圧力で2分間プレス処理を行った。この時の膜の抵抗率は、検出限界以上であり、膜は黒色に変色していた。
【0077】
[比較例2]
実施例1と同等の銅NMP乾燥膜を上下から厚さ1cmのSUS304の鉄板(曲げ強度20000GPa・mm)に挟んで、200℃で上下から加熱しながら、かつ100MPaの圧力で2分間および5分間プレス処理を行った。2分間の場合のみ、膜の中心微小部のみ1.5×10−3Ω・cm程度の導電性が見られたが、他部および他条件の膜の抵抗率は、検出限界以上であり、膜は黒色に変色していた。
【0078】
[比較例3]
実施例8と同等の銅還元処理膜を上下から厚さ1cmのSUS304(曲げ強度20000GPa・mm)の鉄板に挟んで、250℃で上下から加熱しながら、かつ5.0MPaおよび7.5MPaの圧力で5分間プレス処理を行った。この時の膜の抵抗率は、検出限界以上であり、膜は黒色に変色していた。
【0079】
[比較例4]
実施例8と同等の銅還元処理膜を上下から厚さ1cmのSUS304(曲げ強度20000GPa・mm)の鉄板に挟んで、200℃で上下から加熱しながら、かつ5.0MPaおよび7.5MPaの圧力で5分間プレス処理を行った。この時の膜の抵抗率は、検出限界以上であり、膜は黒色に変色していた。
【0080】
実施例1〜10、比較例1〜4で得られた裏面保護シートに対して、前記の方法により諸特性を測定し、表1および表2に各物性を示した。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1はプレス圧力印加時に遮蔽物が変形して気密構造を作っていることを表した図面である。
【図2】図2は遮蔽シートを用いて加熱プレス処理する前の膜の断面写真である。
【図3】図3は遮蔽シートを用いた加熱プレス処理した後の膜の断面写真である。図2に比べて、粒子の粗大化している。
【図4】図4は遮蔽シートを用いた加熱プレス処理した後の膜の断面写真である。図2に比べて、膜が緻密化している。
【符号の説明】
【0084】
1 遮蔽物
2 銅粒子膜
3 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅微粒子を含有する組成物を基材上に塗布して塗膜を形成する工程と、該塗膜の上方に形状追随性を有する遮蔽物を配置して、該塗膜を加熱プレスして該銅微粒子を焼結する工程とを含む銅膜の製造方法。
【請求項2】
前記銅微粒子として銅ナノ粒子を含有し、該銅ナノ粒子の個数平均粒子径が1nm以上200nm以下である、請求項1に記載の銅膜の製造方法。
【請求項3】
前記塗膜を加熱プレスする工程において、加熱温度が50℃以上300℃以下である、請求項1又は2に記載の銅膜の製造方法。
【請求項4】
前記塗膜を加熱プレスする工程において、プレス圧力が1MPa以上である請求項1〜3のいずれかに記載の銅膜の製造方法。
【請求項5】
前記遮蔽物の曲げ強度が100GPa・mm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の銅膜の製造方法。
【請求項6】
前記遮蔽物がフッ素系樹脂、金属箔、熱可塑性樹脂、シリコーン系樹脂からなる群より選ばれた少なくとも一つで構成される請求項1〜5いずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記塗膜を形成する工程と前記塗膜を加熱プレスして銅微粒子を焼結する工程の間に、加熱及び/またはプラズマにより銅微粒子を焼結する工程を含む請求項1〜6いずれかに記載の銅膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−146734(P2010−146734A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319155(P2008−319155)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】