説明

銅電解液及びその銅電解液を用いた電析銅皮膜の形成方法

【課題】従来市場で使用されていた銅電解液ではなしえなかった光沢を有する電析銅皮膜の形成可能な硫酸系銅電解液を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸及び/又はビス(3−スルホプロピル)ジスルフィドと環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体と塩素とを添加して得られた硫酸系銅電解液を用いる。この銅電解液を用いて電析銅皮膜を形成することにより、その析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm未満の低プロファイルであり、且つ、当該析出面の光沢度[Gs(60°)]が400以上であることを特徴とする電析銅皮膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、銅電解液及びその銅電解液を用いた電析銅皮膜の形成方法に関する。特に、その電析銅面側が低プロファイルで光沢を有していることを特徴とする析出面が得られる硫酸系銅電解液とそれを用いた電析銅皮膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属銅は電気の良導体であり比較的安価で取り扱いも容易であることから、電解銅箔はプリント配線板の基礎材料として広く使用されている。また、部品を接続するための端子部分にも銅めっきを施すことが主流となっている。そして、プリント配線板が多用される電子及び電気機器には、小型化、軽量化等の所謂軽薄短小化が求められている。従来、このような電子及び電気機器の軽薄短小化を実現するためには、信号回路を可能な限りファインピッチ化して対応してきた。そのためにはより薄い銅箔を採用し、エッチングによって回路を形成する際のオーバーエッチングの設定時間を短縮し、形成する回路のエッチングファクターを向上させてきた。そして部品を挿入する端子部分に施される銅めっきに対しても接続信頼性を向上させ、更に最表層にめっきされる金の使用量をミニマイズすることを目的として平滑で光沢のある電析状態が求められてきた。
【0003】
そして、小型化、軽量化される電子及び電気機器には、高機能化の要求も同時に行われる。従って、表面実装方式に対応したプリント配線板の分野では、限られた基板面積の中で可能な限り大きな部品実装面積を確保するため、回路のエッチングファクターを良好にすることが求められてきた。特に、ICチップ等の直接搭載を行うインターポーザーの一部であるテープ オートメーティド ボンディング(TAB)基板、チップ オン フィルム(COF)基板には、通常のプリント配線板用途以上の低プロファイル電解銅箔を使用してきた。なお、電解銅箔における低プロファイルとは、銅箔の析出面の凹凸が低いという意味で用いている。一方、端子めっきに適用されている所謂光沢銅めっきでは筋状の模様の発生を許容している場合もあり、常に光沢と低プロファイルとが両立できているとは言い難いものであった。
【0004】
このような問題を解決すべく、特許文献1では硫酸銅及び硫酸を主構成成分としており、イオウ系化合物の1種又は2種以上、−O−を4個以上含有するポリアルキレングリコール化合物の1種又は2種以上及びアルキルアミドとエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドとの共重合体の1種又は2種以上)を添加してなることを特徴とする硫酸銅めっき浴を開示している。この硫酸銅めっき浴は、均一電着性(つきまわり性)に優れており、プリント配線板に形成されるビアホール、特に高アスペクト比のスルホールやブラインドビアホール(アスペクト比が10以上のスルホールや0.8以上のブラインドビアホール)の内壁に良好にめっきすることができると共に、亀裂が生じにくく光沢のあるめっき皮膜が得られるとしている。
【0005】
そして特許文献2には、硫酸酸性銅めっき液の電気分解による電解銅箔の製造方法が開示されている。この方法は、ジアリルジアルキルアンモニウム塩と二酸化硫黄との共重合体を含有する硫酸酸性銅めっき液を用いることを特徴としており、具体的にはポリエチレングリコールと塩素と3−メルカプト−1−スルホン酸とを含有することが好ましいとしている。そして、絶縁層構成材料との張り合わせ面の粗さ(析出面粗さ)が小さく、厚さ10μmの電解銅箔の場合、Rzが1.0μm±0.5μm程度の低プロファイル(粗さ)が得られるとしている。
【0006】
また、特許文献3には、ゼラチンや膠などを用いなくても、析出面の表面粗さが小さく、伸び率に優れた電解銅箔を製造できる方法が開示されている。この方法では、硫酸酸性銅めっき液の電気分解による電解銅箔の製造方法において、ポリエチレングリコールと塩素と3−メルカプト−1−スルホン酸とを含有することを特徴とする硫酸酸性銅めっき液を用いている。そして、絶縁基材との張り合わせ面の粗さ(析出面粗さ)が小さく、厚さ10μmの電解銅箔の場合、Rzが1.5μm±0.5μm程度の低プロファイル(粗さ)が得られている。
【0007】
特許文献4には、1分子中に1個以上のエポキシ基を有する化合物とアミン化合物とを付加反応させることにより得られる特定骨格を有するアミン化合物と、有機硫黄化合物を添加剤として含む銅電解液を電解銅箔の製造に用いることが開示されている。そして、その実施例の記述よれば、この製造方法により得られる電解銅箔は、表面粗さRzが0.90μm〜1.2μmの範囲にあり、常温伸び率6.62%〜8.90%、常温引張り強さ30.5kgf/mm〜37.9kgf/mm、高温伸び率12.1%〜18.2%、高温引張り強さ20.1kgf/mm〜22.3kgf/mmとなっている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−13277号公報
【特許文献2】特開2004−35918号公報
【特許文献3】特開2004−162144号公報
【特許文献4】特開2004−107786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、電子又は電気機器の代表であるパーソナルコンピュータのクロック周波数も急激に上昇し、演算速度が飛躍的に速くなっている。そして、従来のコンピュータとしての本来の役割である単なるデータ処理に止まらず、コンピュータ自体をAV機器と同様に使用する機能も付加されてきている。すなわち、音楽再生機能に止まらず、DVDの録画再生機能、TV受像録画機能、テレビ電話機能等が次々に付加されている。
【0010】
そして銅めっきの分野においては、上述の電子、電気機器の軽薄短小化と同時に進行している高機能化は、部品類をできるだけ小さな筐体内に納め込むことも要求している。そのため、多層化されたプリント配線板では層間接続のために設けるスルーホールやビアホールのアスペクト比が大きくなっていると同時に、フィルドビアを設けてその上に部品を実装することも一般化してきている。そして、挿入端子部分などを見ると、組み込み後に一旦取り外してしまったら再組込みが不可能に思える様な設計が為されている。即ち、繰り返しの脱着を想定せず、一回の挿入で確実な接続信頼性が得られる挿入端子接続が求められているのである。このような端子部分には前述のTAB、COFのリード部分同様できるだけ狭小化して且つ接触面積を最大限に活用する必要が出てくるのである。この端子部分のめっき表面が凹凸の大きなものであると点接触となり、接触部分での電圧上昇と発熱の問題が発生してしまうのである。
【0011】
以上のことから、プリント配線板用途から市場の拡大が図られてきた電解銅箔に対しては従来市場に供給されてきた低プロファイル電解銅箔と比べて、更に低プロファイル且つ高強度を有する電解銅箔に対する要求が存在したのである。また、端子めっきなどの用途では、接触不良などの不具合の発生を防止するためには、雌雄の表面を平滑にし、端子挿入時に機械的なスリ傷を形成させて嵌合状態とすることが好ましく、また、スルーホール用途、特にフィルドビア用にもめっき表面が搭載部品との接続信頼性を満たすよう平滑な仕上がりが求められる等、総じて均一に平滑であって適度に柔軟性を有する電析銅皮膜が好適なものとして求められているのである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本件発明者等は鋭意研究の結果、硫酸系銅電解液において用いる添加剤の種類、濃度を最適化することにより、平滑で光沢を有しながらなお柔軟性に富む電析銅皮膜が得られることに想到したのである。以下に詳細を述べる。
【0013】
本件発明は硫酸系銅電解液であって、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸(本件出願では以降「MPS」と称する)又はビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(本件出願では以降「SPS」と称する)から選択された少なくとも一種と環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体と塩素とを含むことを特徴とする硫酸系銅電解液を提供する。
【0014】
そして、前記MPS及び/又はSPSの濃度は合計で0.5ppm〜50ppmであることが好ましい。
【0015】
また、前記環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体濃度は1ppm〜100ppmであることが好ましい。
【0016】
そして、前記環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体はジアリルジメチルアンモニウムクロライド(本件出願で以降「DDAC」と称する)重合体であることも好ましい。
【0017】
そして、前記塩素濃度は5ppm〜100ppmであることが好ましい。
【0018】
本件発明は前記硫酸系銅電解液を用いた電析銅皮膜の形成方法であって、液温を10℃〜70℃とし、電流密度を10A/dm〜400A/dmで電解して電析銅皮膜を形成することを特徴とする電析銅皮膜の形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本件発明に係る硫酸系銅電解液を用いることで、従来の硫酸系銅電解液を用いて得られる銅電析皮膜と比べ、表面光沢に優れ、滑らかで膜厚均一性の優れた電析銅皮膜が得られる。しかも、本件発明に係る硫酸系銅電解液は、被析出面の表面状態の影響を受けにくく、銅電析皮膜の析出表面が低プロファイルであり且つ良好な柔軟性を備える銅電析皮膜となる。従って、電解銅箔製造用の電解液としての使用も可能である。そして、本件発明に係る硫酸系銅電解液は、溶液安定性にも優れ、安定した長期電解が可能で、廃液処理を考慮してもコスト上昇を招かないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<本件発明に係る硫酸系銅電解液>
本件発明に係る硫酸系銅電解液は、MPS又はSPSから選択された少なくとも一種と環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体と塩素とを含んでいることを特徴とする。この組成の硫酸系銅電解液を用いることで、安定して低プロファイルの析出面を備える銅電析皮膜の製造もしくは平滑な表面を有する銅(光沢銅)の電析が可能となるのである。このときの銅濃度は使用目的にもよるが20g/l〜120g/l、フリー硫酸濃度は60g/l〜220g/lが好ましく、電解銅箔の製造ではより好ましい銅濃度は50g/l〜80g/l、フリー硫酸濃度は80g/l〜150g/lである。
【0021】
ここで用いる硫酸系銅電解液はMPS又はSPSから選択された少なくとも一種、環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体、塩素の3成分の存在を必須とするものであり、いずれの成分が欠けても本件発明の効果を十分に発揮することは出来ない。
【0022】
本件発明に係る硫酸系銅電解液中のMPS及び/又はSPSの濃度は、0.5ppm〜50ppmである事が好ましく、より好ましくは0.5ppm〜30ppm、更に好ましくは1ppm〜20ppmである。このMPS又はSPSの濃度が0.5ppm未満の場合には、電析銅の析出面が粗くなり、平滑で光沢のある析出面を得ることが困難となる。一方、MPS又はSPSの濃度が50ppmを越えても、得られる電析銅の析出面が平滑化する効果は向上せず、むしろ電析状態が不安定化するのである。なお、本件発明で言うMPS又はSPSとは、それぞれの塩をも含む意味で使用しており、濃度の記載値は、ナトリウム塩としての3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(本件出願では以降「MPS−Na」と称する)としての換算値である。そしてMPSは本件発明に係る硫酸系銅電解液中では2量体化することでSPS構造をとるものであり、従ってMPS又はSPSの濃度とは、MPS単体やMPS−Na等塩類の他SPSとして添加されたもの及びMPSとして電解液中に添加された後SPS等に重合化した変性物をも含む濃度である。MPSの構造式を化1として、SPSの構造式を化2として以下に示す。これら構造式の比較から、SPS構造体はMPSの2量体であることがわかる。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
また、前記硫酸系銅電解液中の環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体濃度は1ppm〜100ppmであることも好ましく、より好ましくは10ppm〜50ppm、更に好ましくは15ppm〜35ppmである。
【0026】
そして、前記硫酸系銅電解液中の環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体としては種々のものを用いることが可能であるが、低プロファイルで且つうねりの小さな析出面を形成する効果を考えると、DDAC重合体を用いることが最も好ましい。DDACは重合体構造を取る際に環状構造を成すものであり、環状構造の一部は4級アンモニウムの窒素原子で構成されることになる。そして、DDAC重合体には前記環状構造が5員環や6員環のものなど複数の形態が存在し、実際の重合体は、合成条件によりそれらのいずれか又は混合物となると考えられているため、ここではこれら重合体のうち5員環構造を取っている化合物を代表とし、塩化物イオンを対イオンとした場合について化3として以下に示す。このDDAC重合体とは化3により明らかなようにDDACが2量体以上の重合体構造を取っているものである。
【0027】
【化3】

【0028】
そして、このDDAC重合体の硫酸系銅電解液中の濃度は、1ppm〜100ppmである事が好ましく、より好ましくは10ppm〜50ppm、更に好ましくは15ppm〜35ppmである。DDAC重合体の硫酸系銅電解液中の濃度が1ppm未満の場合には、MPS又はSPSの濃度を如何に高めても電析銅の析出面が粗くなり、平滑で光沢のある析出面を得ることが困難となる。DDAC重合体の硫酸系銅電解液中の濃度が100ppmを超えても銅の析出状態が不安定になり、平滑で光沢のある析出面を得ることが困難となる。
【0029】
更に、前記硫酸系銅電解液中の塩素濃度は、5ppm〜100ppmである事が好ましく、更に好ましくは10ppm〜60ppmである。この塩素濃度が5ppm未満の場合には、電析銅の析出面が粗くなり低プロファイルを維持出来なくなる。一方、塩素濃度が100ppmを超えると析出面が粗くなり、電析状態が安定せず、平滑で光沢のある析出面を形成出来なくなる。
【0030】
以上のように、前記硫酸系銅電解液中のMPS又はSPSとDDAC重合体と塩素との成分バランスが最も重要であり、これらの量的バランスが上記範囲を逸脱すると、結果として平滑で光沢のある析出面が粗くなり低プロファイルを維持出きなくなる。
【0031】
そして、本件発明は硫酸系銅電解液を電解する銅電析皮膜の形成方法であって、液温を10℃〜70℃とし、電流密度を10A/dm〜400A/dmで電解して電析銅皮膜を得ることを特徴とする銅電析皮膜の形成方法を提供する。当該硫酸系銅電解液の基本成分である銅濃度及び硫酸濃度についてはその使用目的により好ましい範囲が異なることを述べてあるが、液温及び電流密度に関しても同様である。例えば凹凸のある金属表面を平滑化する目的により銅めっきする場合には液温、電流密度とも下限に近い設定とすることが推奨される。しかし、電析銅皮膜を分離採取して電解銅箔とする場合などには、生産性を考慮する必要があり、液温、電流密度とも上限近くに設定することが好ましい。具体的には、銅めっきの場合には素地表面に擦り傷などがあり得るため埋め込み性を考慮して液温を15℃〜25℃として電流密度10A/dm〜20A/dmで電解し、電解銅箔製造の場合には生産性を重視して液温を45℃〜55℃として電流密度60A/dm〜80A/dmで電解すると良好な結果が得られるのである。また、必要に応じて電解工程を複数ステップにしたり、パルス電解やPR電解を採用することも有効である。
【0032】
<本件発明に係る電解液から得られる電析銅皮膜>
本件発明に係る硫酸系銅電解液を電解して得られる電析銅皮膜の用途は多種多様であり、分離採取すれば電解銅箔としての使用も可能である。ここで得られる電析銅皮膜を電解銅箔として使用すると、その析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の低プロファイルであり、且つ、当該析出面の光沢度[Gs(60°)]が400以上の製品となる。ここで、当該電解銅箔の析出面の滑らかさを示す指標として光沢度[Gs(60°)]を用いているが、これにより従来の低プロファイル電解銅箔との差異を明瞭に捉えることが出来る。本件発明で用いた光沢度〔Gs(60°)]の測定は、電解銅箔の流れ方向(MD方向)に沿って、当該銅箔の表面に入射角60°で測定光を照射し、反射角60°で跳ね返った光の強度を測定したものである。本件発明では、日本電色工業株式会社製光沢計VG−2000型を用い、光沢度の測定方法であるJIS Z 8741−1997に基づいて測定した。その結果、上記特許文献1〜特許文献4に開示の製造方法をトレースして、12μm厚さの電解銅箔を製造し、その析出面の光沢度[Gs(60°)]を測定すると、250〜380程度の範囲に入る。これに対し、本件発明に係る硫酸系銅電解液を用いて製造された電解銅箔は、光沢度[Gs(60°)]が400を超えており、より滑らかな表面を持つものである。
【0033】
そして、本件発明に係る硫酸系銅電解液を用いて製造された電解銅箔は、常態の伸び率が9%以上、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の伸び率が11%以上という良好な柔軟性を備える。上記同様特許文献1〜特許文献4に開示の製造方法をトレースして製造した12μm厚さの電解銅箔の機械的特性を測定すると、殆どのものは常態の伸び率が5%未満、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)でも伸び率が7%未満という機械的特性を示し、十分な柔軟性を有しているとは言い難いものなのである。
【実施例】
【0034】
この実施例では、本件発明に係る銅電析皮膜を形成した。そして、本件発明に係る銅電析皮膜は、被析出表面から剥離すると電解銅箔としての使用も可能なものである。そこで、この実施例では、銅電析皮膜の機械的特性等の測定及び観察が可能なように、2000番の研磨紙を用いて研磨を行って表面粗さをRzjisで0.85μmに調整したチタン板電極を用い、その表面に電析銅皮膜を形成し、引き剥がして電解銅箔の形で評価した。従って、以下では、電析銅皮膜を単に電解銅箔と称する場合もありうる。
【0035】
実施例1〜実施例4では、硫酸銅(試薬)と硫酸(試薬)とを純水に溶解して銅濃度80g/l、フリー硫酸濃度140g/lとし、そして表1に記載のMPSの濃度、DDAC重合体(センカ(株)製ユニセンスFPA100L)濃度、塩素濃度に調整した硫酸系銅電解液を用いた。そして、実施例4ではMPSの代替品としてSPSを用いた。実施例4におけるSPSは、MPSを模擬電解液中であらかじめ2量体化させた後実施例で用いた電解液に添加したものである。具体的には、銅濃度と硫酸濃度が実際の電解液と同様の組成になる様に調整された模擬電解液にMPSを添加し、50℃で1時間攪拌した。当該模擬電解液をイオン交換HPLCで測定したところ、MPSに相当するピークは検出されず、別のピークが一つ検出された。このピークについて詳細に定性分析を行ったところ、SPSであることが判明した。この結果から、模擬電解液中でMPSの全量がSPSに重合体化したものと判断し、このSPS含有模擬電解液を電解液に添加することで実施例5における電解試験用のSPS含有電解液を調製したのである。
【0036】
この銅電解液を用い、陽極にはDSAを用いて液温を50℃、電流密度60A/dmで電解し、12μm厚さの5種の銅電析皮膜を電解銅箔の形で得た。この電解銅箔の片面は、チタン製電極の表面形状の転写した光沢面であり、表面粗さ(Rzjis)は1.02μmであった。他面側の析出面の表面粗さ(Rzjis)、光沢度[Gs(60°)]その他の特性を併せて表2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
そして、得られた銅電析皮膜(電解銅箔)の結晶構造解析によると、本件発明に係る銅電解液を用いて得られる銅電析皮膜の結晶粒子径は、微細結晶化により低プロファイルを達成している一般的な電解銅箔が有する平均結晶粒子径よりも大きく、また双晶の存在も確認された。
【0039】
【表2】

【0040】
<銅めっき>
実施例5及び実施例6では銅めっきを実施した。硫酸銅(試薬)と硫酸(試薬)とを純水に溶解して銅濃度50g/l、フリー硫酸濃度100g/l、そして表1に記載のMPSの濃度、DDAC重合体(センカ(株)製ユニセンスFPA100L)濃度、塩素濃度に調整した硫酸系銅電解液を用いた。この銅電解液を用い、陰極には真鍮板(C2600)を、陽極にはDSAを用いて液温を25℃、電流密度10A/dmで3分間電解し、厚さ5μmの電析銅皮膜を得た。この電析銅皮膜の光沢度〔Gs(60°)〕を表2に示す。
【比較例】
【0041】
以下に述べる比較例では、評価可能な特性項目の選択肢が多いという理由から、従来にある銅電解液を用いて電解銅箔を製造し、実施例と比較することとした。そして、電解銅箔の作成には実施例と同様、表面を2000番の研磨紙を用いて研磨を行って表面粗さをRaで0.20μmに調整したチタン板電極を用いた。
【0042】
[比較例1]
この比較例は、特許文献1に記載された実施例1のトレース実験である。硫酸銅(5水和物換算)濃度280g/l、フリー硫酸濃度90g/l、ジアリルジアルキルアンモニウム塩と二酸化硫黄との共重合体(日東紡績株式会社製、商品名PAS−A−5、重量平均分子量4000)濃度4ppm、ポリエチレングリコール(平均分子量1000)濃度10ppm、MPS−Na濃度1ppmとし、更に塩化ナトリウムを用いて塩素濃度を20ppmの硫酸系銅電解液に調製した。
【0043】
この銅電解液を用い、陽極には鉛板を用いて液温40℃、電流密度50A/dmで電解を行い、12μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)及び光沢度[Gs(60°)]等を実施例とともに表2に示す。
【0044】
[比較例2]
この比較例では、銅濃度90g/l、フリー硫酸濃度110g/lに調製した硫酸系銅電解液を活性炭フィルターに通して清浄処理した。そしてMPS−Na濃度1ppm、高分子多糖類としてヒドロキシエチルセルロース濃度5ppm、低分子量膠(数平均分子量1560)濃度4ppm、塩素濃度30ppmの硫酸系銅電解液に調製した。この銅電解液を用い、陽極にはDSA電極を用いて液温を58℃、電流密度50A/dmで電解を行い、12μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)及び光沢度[Gs(60°)]等を実施例とともに表2に示す。
【0045】
[比較例3]
この比較例では、、銅濃度80g/l、フリー硫酸濃度140g/l、DDAC重合体(センカ(株)製ユニセンスFPA100L)濃度4ppm、塩素濃度15ppmとし、MPSを含んでいない硫酸系銅電解液に調製した。この銅電解液を用い、陽極にはDSA電極を用いて液温を50℃、電流密度60A/dmで電解し、12μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)及び光沢度[Gs(60°)]等を実施例とともに表2に示す。
【0046】
[比較例4]
この比較例では、銅濃度80g/l、フリー硫酸濃度140g/l、DDAC重合体(センカ(株)製ユニセンスFPA100L)濃度4ppm、低分子量膠(数平均分子量1560)濃度6ppm、塩素濃度15ppmとし、膠をMPSの代替として用いた硫酸系銅電解液に調製した。この銅電解液を用い、陽極にはDSA電極を用いて液温を50℃、電流密度60A/dmで電解し、12μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)及び光沢度[Gs(60°)]等を実施例とともに表2に示す。
【0047】
[実施例と比較例との対比]
以下、各実施例と比較例において電解銅箔の形で得られた銅電析皮膜を対比し、その結果を説明する。
【0048】
実施例と比較例1との対比: 最初に、析出面の粗さを対比する。表2から分かるように、本件発明に係る銅電解液を用いて得られた銅電析皮膜(電解銅箔)の析出面の粗さは、本比較例で得られた銅電析皮膜(電解銅箔)の析出面の粗さと比べ明らかに小さい。そして、本比較例で得られた銅電析皮膜(電解銅箔)の光沢度[Gs(60°)]は、本件発明に係る銅電析皮膜(電解銅箔)と比べ、全く異なる小さな値となっている。このことから、本件発明に係る銅電析皮膜(電解銅箔)は、比較例1の銅電析皮膜(電解銅箔)と比べ、より平坦で鏡面に近い析出面を備えると言える。そして、本件発明に係る銅電析皮膜(電解銅箔)は、特に伸び率について、より優れた機械的特性を備えている事が分かる。
【0049】
実施例と比較例2との対比: 表2から分かるように、析出面粗さを対比すると、本件発明に係る銅電析皮膜(電解銅箔)は、本比較例で得られた銅電析皮膜(電解銅箔)と比べ明らかに小さい。そして、光沢度[Gs(60°)]においては、この比較例2で得られた銅電析皮膜(電解銅箔)は、比較例1の銅電析皮膜(電解銅箔)より高い光沢度を有してはいるが、本件発明に係る銅電析皮膜(電解銅箔)と比べると小さな値を示している。更に、本件発明に係る銅電析皮膜(電解銅箔)は、引張り強さ及び伸び率においても、本比較例に係る銅電析皮膜(電解銅箔)よりも優れていることが明らかである。
【0050】
実施例と比較例3との対比: 表2から明らかに分かるように、銅電解液中にMPSやSPSを含ませない銅電解液を用いて得られた銅電析皮膜(電解銅箔)の析出面粗さRzjisは3μmを超えており、本件発明が狙うレベルでの低プロファイル化が達成出来ないことが分かる。そして、光沢度[Gs(60°)]に到っては、ほぼ艶消し状態となるために極めて低い光沢度を示し、機械的特性面では引張り強さが大きいものの伸び率が低くなっている。
【0051】
実施例と比較例4との対比: 表2から明らかに分かるように、銅電解液中にMPSの代わりに低分子量膠を含ませても、得られた電解銅箔の析出面粗さRzjisは比較例3と同様に3μmを超えており、本件発明が狙うレベルでの低プロファイル化が達成出来ないことが分かる。そして、光沢度[Gs(60°)]に到っては、ほぼ艶消し状態となるために極めて低い光沢度を示し、機械的特性面では引張り強さが大きいものの伸び率が低くなっている。
【0052】
なお、実施例から明らかなように本件発明に係る銅電解液を用いた電析銅皮膜の形成方法で用いられるMPSとSPSは、本件発明に係る銅電析皮膜(電解銅箔)の製造においては同等の機能を発揮する。そして、実施例及び比較例に記載のMPSやDDAC等の添加方法又は添加形態には特段の限定はない。例えば、MPSを添加する場合にはMPS−Naの代わりに他のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩を用いたり、実施例5に示したようにSPSの状態で添加してもかまわない。そして、本件発明に係る硫酸系銅電解液は、その他の添加剤類の存在を否定しているものでもない。すなわち、上記添加剤類の効果を更に際だたせたり、連続生産時の品質安定化に寄与できること等が確認されているものであれば任意に添加してかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本件発明に係る硫酸系銅電解液は、従来の銅電解液を用いて得られる銅電析皮膜に比べ、表面光沢に優れ、滑らかで膜厚均一性の優れた電析銅皮膜が得られる。そして、この電析銅皮膜は、高い引張り強さと伸び率とを兼ね備えているため、銅を電析させた後の変形等に対する追随性にも優れている。従って、単に銅めっき液として使用すると、高品質の光沢銅めっきを行うことが出来る。このような銅めっき用の電解液としては、ビアホール等への層間導通めっき、銅電鋳等の多岐に亘る分野で使用可能である。
【0054】
また、本件発明に係る硫酸系銅電解液は、被析出面の表面状態の影響を受けにくく、銅電析皮膜の析出表面が低プロファイルであり且つ良好な柔軟性を備える銅電析皮膜となる。この性質を考えると、電子材料としての電解銅箔は、一定の粗さのある回転陰極の上に連続電解して銅箔を剥ぎ取ってゆく、このとき回転陰極表面の粗さ管理が重要となる。しかし、本件発明に係る銅電解液を用いることで、回転陰極表面粗さにバラツキがあっても、回転陰極表面に安定して低プロファイルの銅電析皮膜の形成が可能で、これを剥ぎ取り、低プロファイルの析出表面を備える電解銅箔への応用が可能となる。このようにして得られる電解銅箔の場合、テープ オートメーティド ボンディング(TAB)基板やチップ オン フィルム(COF)基板のファインピッチ回路の形成やプラズマディスプレイパネルの電磁波遮蔽回路の形成、リチウムイオン二次電池等の負極を構成する集電材に好適である。
【0055】
更に、本件発明に係る銅電解液は、溶液安定性にも優れ、安定した長期電解が可能であり、且つ、特殊な電解法も必要ではなく、銅電析操業のランニングコストの削減が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸系銅電解液であって、
3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸又はビス(3−スルホプロピル)ジスルフィドから選択された少なくとも一種と環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体と塩素とを含むことを特徴とする硫酸系銅電解液。
【請求項2】
前記3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸及び/又はビス(3−スルホプロピル)ジスルフィドの濃度は合計で0.5ppm〜50ppmである請求項1に記載の硫酸系銅電解液。
【請求項3】
前記環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体濃度は1ppm〜100ppmである請求項1又は請求項2に記載の硫酸系銅電解液。
【請求項4】
前記環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体はジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の硫酸系銅電解液。
【請求項5】
前記塩素濃度は5ppm〜100ppmである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の硫酸系銅電解液。
【請求項6】
請求項1〜請求項5に係る硫酸系銅電解液を用いた電析銅皮膜の形成方法であって、
液温を10℃〜70℃とし、電流密度を10A/dm〜400A/dmで電解して電析銅皮膜を形成することを特徴とする電析銅皮膜の形成方法。