説明

鋳型の製造方法

【課題】鋳型内に凝縮水が水分として残存するようなことなく、鋳型の製造を行なうことができるようにする。
【解決手段】耐火骨材に粘結剤を被覆した粘結剤コーテッド耐火物2を成形型1内に充填し、この成形型1内に水蒸気を吹き込んで水蒸気の蒸発潜熱により粘結剤コーテッド耐火物2を加熱し、粘結剤を固化乃至硬化させることによって、鋳型を製造する。この際に、成形型1内に水蒸気を吹き込んで粘結剤コーテッド耐火物2を加熱した後、成形型1内に乾燥気体を吹き込む。成形型1内に凝縮水が残留していても、この凝縮水を乾燥空気中に気化させて成形型1から排出することができ、鋳型内に凝縮水が水分として残存するようなことを無くすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造に用いられる鋳型の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在使用されている鋳型は一般に、生砂型、高圧造型、高速造型など粘土類等を粘結剤として用いる普通鋳型と、熱硬化性鋳型、自硬性鋳型、ガス硬化鋳型、精密鋳造用鋳型など硬化性粘結剤を用いる特殊鋳型と、その他の鋳型とに分類される。
【0003】
これらの鋳型には一長一短があるが、鋳型を製造する際に高温の加熱が必要であったり、粘結剤の硬化に時間を要して短時間で安定して鋳型を製造することが難しかったり、鋳型を製造する際に有毒ガスが発生するおそれがあったりするなどの問題を有することが多い。
【0004】
そこで本出願人は、粘結剤を耐火骨材に混合して調製される粘結剤コーテッド耐火物(いわゆるレジンコーテッドサンド)を成形型内に充填し、この成形型内に水蒸気を吹き込んで粘結剤コーテッド耐火物を加熱することによって、粘結剤を固化乃至硬化させ、耐火骨材を粘結剤で結合して形成される鋳型を製造する方法を提案している。すなわち、水蒸気は高い凝縮潜熱及び顕熱を有するので、粘結剤コーテッド耐火物を充填した型内に水蒸気を吹き込むことによって、水蒸気が粘結剤コーテッド耐火物に接する際にこの潜熱や顕熱が伝達され、粘結剤コーテッド耐火物を瞬時に加熱して粘結剤を固化乃至硬化させることができるものである。従って、成形型を高温に加熱しておく必要なく、安定して短時間で鋳型を製造することができると共に、有毒ガスの発生も低減することができるのである(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3563973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように粘結剤コーテッド耐火物を充填した成形型内に水蒸気を吹き込んで加熱するにあたって、水蒸気の潜熱が粘結剤コーテッド耐火物に伝達されることによって、成形型内で凝縮水が生成され、粘結剤コーテッド耐火物の表面に凝縮水が付着するが、この凝縮水は、続いて吹き込まれる水蒸気で加熱されて蒸発し、凝縮水の蒸発と共に温度が100℃以上に上昇し、粘結剤コーテッド耐火物の粘結剤を水蒸気で高温に加熱して固化乃至硬化させることができるものである。
【0007】
水蒸気を成形型内に吹き込んで粘結剤コーテッド耐火物の加熱を行なうにあたって、成形型内に生じる凝縮水は続いて吹き込まれる水蒸気で加熱されて蒸発するものであるが、成形型や鋳型の形状などによっては、成形が終了した後にも、成形型内に一部の凝縮水が蒸発することなく残留することがある。そしてこのように成形型内に凝縮水が残留すると、製造された鋳型内に凝縮水が水分として含有されることになり、この鋳型に高温の溶湯を注いで鋳造を行なうと、鋳型に含まれる水分が急激に膨張し、鋳型に爆裂が発生するなどの事故に至るおそれがある。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、鋳型内に凝縮水が水分として残留するようなことなく、鋳型の製造を行なうことができるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る鋳型の製造方法は、耐火骨材に粘結剤を被覆した粘結剤コーテッド耐火物を成形型内に充填し、この成形型内に水蒸気を通して水蒸気により粘結剤コーテッド耐火物を加熱し、粘結剤を固化乃至硬化させることによって、鋳型を製造するにあたって、成形型内に水蒸気を通して粘結剤コーテッド耐火物を加熱した後、成形型内に乾燥気体を通して成形型内を乾燥させることを特徴とするものである。
【0010】
このように、粘結剤コーテッド耐火物を充填した成形型内に水蒸気を通して加熱することによって、水蒸気の凝縮潜熱及び顕熱で粘結剤コーテッド耐火物を急速に加熱することができ、短時間で鋳型の製造を行なうことができるものであり、また成形型内に水蒸気を通した後、成形型内に乾燥気体を通すことによって、成形型内に凝縮水が残留していても、この凝縮水を乾燥気体で気化させて成形型から排出して、成形型内を乾燥することができ、鋳型内に凝縮水が水分として残存するようなことを無くすことができるものであって、乾燥した状態で鋳型を成形型から取り出すことができるものである。
【0011】
また本発明は、上記の乾燥気体として、空気を用いることを特徴とするものである。
【0012】
このように乾燥気体として空気を用いることによって、雰囲気の空気をそのまま利用して成形型内に残留した凝縮水を気化・排出させることができ、設備コストや材料コストが特に必要になるようなことがなくなるものである。
【0013】
また本発明において、上記の乾燥気体は、鋳型を製造する工程の雰囲気温度であることを特徴とするものである。
【0014】
乾燥気体は加熱したりするような必要なく、雰囲気温度のまま使用することができるものであり、加熱したり冷却したりする場合のようなエネルギーコストが不要になるものである。
【0015】
また本発明において、上記の水蒸気が過熱水蒸気であることを特徴とするものである。
【0016】
過熱水蒸気は高温の乾き空気であって、成形型内で水蒸気から凝縮水が過剰に生成されることが少なくなり、成形型内の粘結剤コーテッド耐火物の温度上昇速度を速めることができると共に、鋳型に水分が含まれることをより低減することができるものである。
【0017】
また本発明において、上記の乾燥気体は、成形型内に吹き込むか、成形型内に吸引するか、成形型内に吹き込みながら吸引するかの、いずれかの方法で成形型内に通されるものであることを特徴とするものである。
【0018】
乾燥気体はこれらの方法で成形型内に通すことができるものであり、成形型内に残留する凝縮水を効率良く気化させて排出し、成形型内を乾燥することができるものである。
【0019】
また本発明において、上記の水蒸気は、成形型内に吹き込むか、成形型内に吸引するか、成形型内に吹き込みながら吸引するかの、いずれかの方法で成形型内に通されるものであることを特徴とするものである。
【0020】
水蒸気はこれらの方法で成形型内に通すことができるものであり、成形型内の粘結剤コーテッド耐火物を効率良く加熱することができるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、粘結剤コーテッド耐火物を充填した成形型内に水蒸気を通して加熱することによって、水蒸気の凝縮潜熱及び顕熱で粘結剤コーテッド耐火物を急速に加熱することができ、短時間で鋳型の製造を行なうことができるものである。また成形型内に水蒸気を通した後、成形型内に乾燥気体を通すことによって、成形型内に凝縮水が残留していても、この凝縮水を乾燥空気中に気化させて成形型から排出することができ、鋳型内に凝縮水が水分として残存するようなことを無くすことができるものであり、乾燥した状態で鋳型を成形型から取り出すことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)(b)(c)はそれぞれ各工程での概略断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明のさらに他の実施の形態の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施の形態を示すものであり、(a)(b)はそれぞれ概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
粘結剤コーテッド耐火物は、レジンコーテッドサンドとも呼ばれるものであり、耐火骨材に粘結剤を混合することによって、耐火骨材の表面を粘結剤で被覆して形成されるものである。本発明において耐火骨材としては、特に限定されるものではないが、硅砂、山砂、アルミナ砂、オリビン砂、クロマイト砂、ジルコン砂、ムライト砂、再生砂、その他、人工砂などを例示することができるものであり、これらを1種単独で用いる他、複数種を混合して用いることもできる。
【0025】
また本発明において粘結剤としては、鋳型用の粘結剤コーテッド耐火物(レジンコーテッドサンド)に使用されるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、熱硬化性樹脂、糖類、水溶性無機化合物、水溶性熱可塑性樹脂などを挙げることができる。これらは一種を単独で用いる他、複数種を併用することもできる。
【0026】
熱硬化性樹脂としては、レゾール型、ノボラック型、ベンジリックエーテル型などのフェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、イソシアネート化合物、アミンポリオール樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂などを挙げることができるものであり、これらに硬化剤としてイソシアネート化合物、有機エステル類、ヘキサメチレンテトラミンなどを、硬化触媒として第三級アミン、ピリジン誘導体、有機スルホン酸などをそれぞれ配合し、熱硬化性にして使用することができるものである。これらは一種を単独で用いる他、複数種を併用することもできる。
【0027】
粘結剤としてフェノール樹脂を用いる場合、フェノール樹脂はフェノール類とホルムアルデヒド類を反応触媒の存在下で反応させることによって調製することができる。
【0028】
ここでフェノール類は、フェノール及びフェノールの誘導体を意味するものであり、例えばフェノールの他に、m−クレゾール、レゾルシノール、3,5−キシレノールなどの3官能性のもの、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4又は2,6−キシレノールなどの2官能性のo−又はp−置換のフェノール類を挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなども用いることができる。勿論、これらから1種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0029】
またホルムアルデヒド類としては、水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒドやアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもでき、その他、ホルムアルデヒドの一部をフルフラールやフルフリルアルコールに置き換えて使用することも可能である。
【0030】
上記のフェノール類とホルムアルデヒド類との配合比率は、フェノール類とホルムアルデヒドのモル比が1:0.6〜1:3.5の範囲になるように設定するのが好ましい。
【0031】
また反応触媒は、ノボラック型フェノール樹脂を調製する場合は、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、あるいはシュウ酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸などの有機酸、さらに酢酸亜鉛などを用いることができる。またレゾール型フェノール樹脂を調製する場合は、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物を用いることができ、さらにジメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジエチレントリアミン、ジシアンジアミドなどの脂肪族の第一級、第二級、第三級アミン、N,N−ジメチルベンジルアミンなどの芳香環を有する脂肪族アミン、アニリン、1,5−ナフタレンジアミンなどの芳香族アミン、アンモニア、ヘキサメチレンテトラミンなどや、その他二価金属のナフテン酸や二価金属の水酸化物等を用いることもできる。
【0032】
また、粘結剤として上記のようにフェノール樹脂を用いる場合、硬化速度を速めるために、フェノール樹脂に二価フェノール、三価フェノールから選ばれる多価フェノールを1〜60質量%含有させるようにしてもよい。
【0033】
ここで二価フェノールとしては、特に限定されるものではないが、カテコール(融点105℃)、アルキルカテコール、ヒドロキノン(融点170.3℃)、レゾルシン(融点110℃)、アルキルレゾルシン、4−ヘキシルレゾルシン(化学式(1))などを挙げることができる。また、三価フェノールとしては、特に限定されるものではないが、ピロガロール(融点133℃)、フロログルシン(融点219℃:化学式(2))などを挙げることができる。これら二価あるいは三価の多価フェノールは、一種を単独で用いる他、複数種を併用することもできる。
【0034】
【化1】

【0035】
フェノール樹脂粘結剤は、フェノール樹脂中に、二価フェノール、三価フェノールから選ばれる多価フェノールが反応して結合した状態であってもよく、またフェノール樹脂に、二価フェノール、三価フェノールから選ばれる多価フェノールが反応していない状態で混合されたものであってもよい。さらに二価フェノール、三価フェノールから選ばれる多価フェノールの一部がフェノール樹脂中に反応して結合していると共に、二価フェノール、三価フェノールから選ばれる多価フェノールの他の一部がフェノール樹脂と反応せずに混合しているものであってもよい。
【0036】
フェノール樹脂中に、二価フェノール、三価フェノールから選ばれる多価フェノールを反応させて結合したものとしてフェノール樹脂粘結剤を調製するにあたっては、上記のように一価のフェノール類とアルデヒド類を触媒の存在下で反応させてフェノール樹脂を合成する際に、二価フェノール、三価フェノールから選ばれる多価フェノールを添加して反応させることによって行なうことができる。
【0037】
このとき、一価のフェノール類とアルデヒド類を反応させる合成の初期から多価フェノールを添加することによって、一価のフェノール類と多価フェノールをそれぞれアルデヒド類と反応させて、フェノール樹脂中に多価フェノールが結合して取り込まれたフェノール樹脂粘結剤組成物を調製することができる。
【0038】
あるいは、一価のフェノール類とアルデヒド類を反応させてフェノール樹脂を合成する途中の段階で多価フェノールを添加することによって、多価フェノールの一部をアルデヒド類と反応させて、フェノール樹脂中に多価フェノールの一部が結合して取り込まれると共に、多価フェノールの他の一部がフェノール樹脂と反応せずに混合した状態で、フェノール樹脂粘結剤を調製することができる。
【0039】
さらに、一価のフェノール類とアルデヒド類を反応させてフェノール樹脂の合成を終了した後、反応系からフェノール樹脂を取り出す前に多価フェノールを添加し、フェノール樹脂と多価フェノールを溶融混合することによって、フェノール樹脂に多価フェノールを混合した状態のフェノール樹脂粘結剤を得ることができる。
【0040】
フェノール樹脂中に多価フェノールが含有されたこのフェノール樹脂粘結剤にあって、フェノール樹脂中の多価フェノールの含有量は、1〜60質量%の範囲に設定されるものである。多価フェノールの含有量は3〜60質量%の範囲がより好ましく、特に好ましくは5〜30質量%である。多価フェノールの含有量が少ないと、フェノール樹脂中に多価フェノールを含有させることで、多価フェノールの高い反応性によってゲル化時間を短縮し、フェノール樹脂粘結剤の硬化時間を短くする効果を十分に得ることができない。逆に多価フェノールの含有量が多すぎると、ゲル化反応を制御することが難しくなり、硬化時間が速くなりすぎて作業性に問題が生じるおそれがある。
【0041】
フェノール樹脂中に二価や三価のフェノールが含有されたこのフェノール樹脂粘結剤のゲル化時間は、130℃の測定温度で100秒以下であることが好ましく、80秒以下であることがより好ましい。ゲル化時間がこれより長いと、フェノール樹脂粘結剤の硬化時間を短くする効果を十分に得ることができない。ゲル化時間の下限は特に設定されるものではないが、作業性の点からすると、ゲル化時間は10秒以上であることが望ましい。このゲル化時間は、JACT試験法 RS−5に準拠して測定した数値である。ここで、JACT試験法 RS−5では測定温度が150℃に設定されているが、本発明で用いるフェノール樹脂粘結剤はゲル化時間が短く、150℃の温度で測定するとゲル化時間が短すぎて測定が困難であり、測定結果にばらつきが生じ易いと共に、ゲル化時間の差を確認することが難しくなるので、測定温度を130℃と低い温度に設定して行なうようにしている。
【0042】
次に、粘結剤の糖類としては、単糖類、少糖類、多糖類を用いることができ、各種の単糖類、少糖類、多糖類のなかから、1種を選んで単独で用いる他、複数種を選んで併用することもできる。
【0043】
上記の単糖類としては、特に限定されるものではないが、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトースなどを挙げることができる。
【0044】
また少糖類としては、マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)、セロビオースなどの二糖類を挙げることができる。
【0045】
さらに多糖類としては、でんぷん糖、デキストリン、ザンサンガム、カードラン、プルラン、シクロアミロース、キチン、キトサン、セルロース、でんぷんなどがあり、これらのうち一種を選択して、あるいは複数種を併用して、用いることができる。またでんぷんとしては、未加工でんぷん及び加工でんぷんが挙げられる。具体的には馬鈴薯でんぷん、コーンスターチ、ハイアミロース、甘藷でんぷん、タピオカでんぷん、サゴでんぷん、米でんぷん、アマランサスでんぷんなどの未加工でんぷん、及びこれらの加工でんぷん(焙焼デキストリン、酵素変性デキストリン、酸処理でんぷん、酸化でんぷん)、ジアルデヒド化でんぷん、エーテル化でんぷん(カルボキシメチルでんぷん、ヒドロキシアルキルでんぷん、カチオンでんぷん、メチロール化でんぷんなど)、エステル化でんぷん(酢酸でんぷん、リン酸でんぷん、コハク酸でんぷん、オクテニルコハク酸でんぷん、マレイン酸でんぷん、高級脂肪酸エステル化でんぷんなど)、架橋でんぷん、クラフト化でんぷん、及び湿熱処理でんぷんなどが挙げられる。これらのなかでも、焙焼デキストリン、シクロデキストリン、酵素変性デキストリン、酸処理でんぷん、酸化でんぷんのように低分子化されたもの、及び架橋でんぷんなどの粘度の低いでんぷんが好ましい。さらに糖類を含有する植物、例えば麦、米、馬鈴薯、トウモロコシ、タピオカ、甘藷、サゴ、アマランサス等の粉末などを用いることができる。また食用に供するために市販されている糖、例えば白粗、中粗、グラニュ糖、転化糖、上白糖、中白糖、三温糖などを用いることもできる。さらに、糖類とフェノール類とを反応させたフェノール変性糖類を用いることもできる。
【0046】
また粘結剤には、糖類、特に多糖類の硬化剤として、カルボン酸を含有するようにしてもよい。カルボン酸としては、特に限定されるものではないが、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、ブタンテトラジカルボン酸、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体などの多価カルボン酸を挙げることができる。粘結剤中のカルボン酸の含有量は、糖類に対するカルボン酸の配合量が、糖類100質量部に対してカルボン酸0.1〜10質量部となる範囲が好ましい。カルボン酸は予め水に溶解させた状態で糖類と混合するのが、硬化剤としての効果を高く発揮するので好ましい。
【0047】
また、粘結剤の水溶性無機化合物としては、水ガラス、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酸化アルミニウムナトリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、硫酸化合物などを用いることができる。これらは一種を単独で用いる他、任意の複数種を選んで併用することもできる。
【0048】
上記の水ガラスは無水珪酸(SiO)と酸化ナトリウム(NaO)の混合物であり、珪酸ナトリウムともいい、JIS K1408に示される一般式NaO・nSiO・xHOであらわされる、粉末状、液体状、結晶状のものを用いることができる。また珪酸カリ(KO・nSiO)を使用することもできる。
【0049】
水ガラスは水に極めて溶解し易いものであり、乾燥させることによって固化する。このため、水ガラスを粘結剤として用いることによって、水で容易に崩壊する鋳型を製造することができるものである。また水ガラスは安価に入手できるため、コスト安価に鋳型を製造することができるものである。さらにNaSiOは融点が1088℃と比較的高いので、耐熱性の高い鋳型を製造することができるものである。
【0050】
上記の塩化ナトリウムは(NaCl)は食塩といわれるように可食性であって人体に無害であると共に安価であり、使用することが容易である。そして水に容易に溶解するので、塩化ナトリウムを粘結剤として用いることによって、水で容易に崩壊する鋳型を製造することができるものである。特に0〜100℃の温度範囲の水に対する塩化ナトリウムの溶解度は、水100gに対して35.7〜39.1gと、水温による変化が小さいので、作業性が良いものである。さらにNaClは融点が1413℃と比較的高いので、耐熱性の高い鋳型を製造することができるものである。
【0051】
上記のリン酸ナトリウムとしては、リン酸一ナトリウム水和物(NaHPO・xHO)、リン酸二ナトリウム水和物(NaHPO・xHO)、リン酸三ナトリウム水和物(NaPO・xHO)などを用いることができる。そしてリン酸三ナトリウム水和物は、水100gに対する溶解量が1.5g(0℃)であるように、リン酸ナトリウムは水に可溶性であり、またリン酸二ナトリウム水和物の融点が1340℃であるように、リン酸ナトリウムの融点は比較的高い。このため、水で容易に崩壊し、耐熱性が高い鋳型を製造することができるものである。
【0052】
上記の炭酸ナトリウム(KCO)は、水100gに対する溶解量が7.1g(0℃)であるように、水に溶解し易く、しかも安価である。また融点は851℃と比較的高い。このため、水で容易に崩壊し、耐熱性が高い鋳型を製造することができるものである。
【0053】
上記のバナジン酸ナトリウム(NaVO)は水に可溶であり、融点は866℃と比較的高い。このため、水で容易に崩壊し、耐熱性が高い鋳型を製造することができるものである。
【0054】
上記のホウ酸ナトリウム(Na・xHO)は、水100gに対する溶解量が1.6g(10℃)であるように、水に溶解し易く、しかも安価である。また融点は741℃と比較的高い。このため、水で容易に崩壊し、耐熱性が高い鋳型を製造することができるものである。
【0055】
上記の酸化アルミニウムナトリウム(NaAlO)は、水に可溶であり、また融点1700℃以上と高い。このため、水で容易に崩壊し、耐熱性が高い鋳型を製造することができるものである。
【0056】
上記の塩化カリウム(KCl)は、水100gに対する溶解量が28.1g(0℃)であるように、水に溶解し易く、しかも安価である。また融点は776℃と比較的高い。このため、水で容易に崩壊し、耐熱性が高い鋳型を製造することができるものである。
【0057】
上記の炭酸カリウム(KCO)は、水100gに対する溶解量が129.4g(0℃)であるように、水に溶解し易く、また融点が891℃であるように比較的高い。このため、水で容易に崩壊し、耐熱性が高い鋳型を製造することができるものである。
【0058】
また、上記の硫酸化合物としては、特に限定されるものではないが、MgSO,NaSO・xHO,Al(SO・xHO,KSO,NiSO・xHO,ZnSO・xHO,MnSO・xHO,KMg(SO・xHOなどを挙げることができる。
【0059】
硫酸化合物は水に溶解し易く、しかも安価である。例えば、水100gに対する溶解量は、硫酸マグネシウム(MgSO)は26.9g(0℃)、硫酸ナトリウム・10水和物(NaSO・10HO)は19.4g(20℃)、硫酸アルミニウム・12水和物(Al(SO・12HO)は36.2g(20℃)、硫酸カリウム(KSO)は10.3g(0℃)、硫酸ニッケル・7水和物(NiSO・7HO)は39.7g(20℃),硫酸マンガン・5水和物(MnSO・5HO)は75.3g(25℃)である。このため、硫酸化合物を粘結剤として用いることによって、水で容易に崩壊する鋳型を、安価に製造することができるものである。また硫酸化合物の融点は、例えば硫酸マグネシウム(MgSO)は1185℃、硫酸ナトリウム・10水和物(NaSO・10HO)は884℃、硫酸アルミニウム・12水和物(Al(SO・12HO)は770℃、硫酸カリウム(KSO)は1067℃、硫酸ニッケル・7水和物(NiSO・7HO)は840℃、硫酸亜鉛・7水和物(ZnSO・7HO)は740℃、硫酸マンガン・5水和物(MnSO・5HO)は850℃、硫酸マグネシウムカリウム(KMg(SO・6HO)は927℃と比較的高いので、耐熱性の高い鋳型を製造することができるものである。
【0060】
さらに、粘結剤の水溶性熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、メチルセルロース、メトキシ化ナイロンなどを挙げることができる。水溶性熱可塑性樹脂はこれらから任意の一種を選んで単独で用いる他、任意の複数種を選んで併用することもできる。
【0061】
粘結剤にはさらに、粘結剤コーテッド耐火物の流動性を良くするために、滑剤を含有させるようにしてもよい。滑剤としては、パラフィンワックスやカルナバワックス等の脂肪族炭化水素系滑剤、高級脂肪族系アルコール、エチレンビスステアリン酸アマイドやステアリン酸アマイド等の脂肪族アマイド系滑剤、金属石けん系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、複合滑剤などを用いることができるが、なかでも金属石けん系滑剤が好ましい。金属石けん系滑剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムなどや、これらを複数種組み合わせたものを用いることができる。
【0062】
そして、耐火骨材の粒子に粘結剤を配合して混合することによって、耐火骨材の表面に粘結剤を被覆して、本発明において用いる粘結剤コーテッド耐火物を得ることができるものである。
【0063】
耐火骨材に被覆する粘結剤の量は、成分や用途などに応じて異なり一概に規定できないが、耐火骨材100質量部に対して粘結剤が0.5〜6.0質量部の範囲が一般に好ましく、滑剤は固形分で0.02〜0.15質量部の範囲になるように設定するのが一般的に好ましい。耐火骨材の表面に粘結剤を被覆する方法としては、ホットコート法、コールドコート法、セミホットコート法、粉末溶剤法などがある。
【0064】
ホットコート法は、110〜180℃に加熱した耐火骨材に固形の粘結剤を添加して混合し、耐火骨材による加熱で固形の粘結剤を溶融させることによって、溶融した粘結剤で耐火骨材の表面を濡らして被覆させ、この後、この混合を保持したまま冷却することによって、粒状でさらさらした粘結剤コーテッド耐火物を得る方法である。あるいは、110〜180℃に加熱した耐火骨材に、水などの溶剤に溶解又は分散させた粘結剤を混合して被覆し、溶剤を揮散させることによって、粘結剤コーテッド耐火物を得る方法である。
【0065】
コールドコート法は、粘結剤を水やメタノールなどの溶剤に分散乃至溶解して液状になし、これを耐火骨材の粒子に添加して混合し、溶剤を揮発させることによって、粘結剤コーテッド耐火物を得る方法である。
【0066】
セミホットコート法は、上記の溶剤に分散乃至溶解した粘結剤を、50〜90℃に加熱した耐火骨材の粒子に添加して混合し、溶剤を揮発させることによって、粘結剤コーテッド耐火物を得る方法である。
【0067】
粉末溶剤法は、固形の粘結剤を粉砕し、この粉砕粘結剤を耐火骨材の粒子に添加してさらに水やメタノールなどの溶剤を添加し、これを混合して溶剤を揮発させることによって、粘結剤コーテッド耐火物を得る方法である。
【0068】
以上のいずれの方法においても、耐火骨材の表面を常温(30℃)で固形のコーティング層で被覆して、粒状でさらさらした粘結剤コーテッド耐火物を得ることができるが、作業性などの点においてホットコート法が好ましい。また上記のように耐火骨材に粘結剤を混合する際に、必要に応じて硬化剤や、耐火骨材と粘結剤とを親和させるためのシランカップリング剤など各種のカップリング剤や、また黒鉛等の炭素質材料などを配合することもできる。
【0069】
次に、上記のようにして調製される粘結剤コーテッド耐火物2を用い、水蒸気で加熱することによって鋳型を製造する方法について説明する。図1は水蒸気を用いた鋳型の製造の一例を示すものであり、図1(a)のように、成形型1の内部にはキャビティ3が設けてあって、成形型1の上面に注入口4が、成形型1の下面に金網等の網5で塞いだ排出口6がそれぞれ形成してある。この成形型1は縦割りあるいは横割に割ることができるようになっている。また粘結剤コーテッド耐火物2はホッパー7内に貯蔵してあり、ホッパー7にはコック8付きの空気供給管9が接続してある。
【0070】
そしてホッパー7の下端のノズル口7aを型1の注入口4に合致させた後、コック8を閉から開に切り代えることによって、ホッパー7内に空気を吹き込んで加圧し、ホッパー7内の粘結剤コーテッド耐火物2を成形型1内に吹き込んで、成形型1のキャビティ3内に粘結剤コーテッド耐火物2を充填する。排出口6は網5で塞いであるので、粘結剤コーテッド耐火物2が排出口6から洩れ出すことはない。注入口4や排出口6を図1の実施の形態のように型1に複数設ける場合、複数の注入口4のうち一箇所あるいは複数箇所から粘結剤コーテッド耐火物2を入れるようにすればよい。
【0071】
ここで粘結剤コーテッド耐火物2において、耐火骨材に被覆された粘結剤の層は常温(30℃)で固形であり、粘結剤コーテッド耐火物2は表面に粘着性を有することがなく、流動性が良好である。従って上記のように成形型1に粘結剤コーテッド耐火物2を充填するにあたって、成形型1のキャビティ3内へスムーズに粘結剤コーテッド耐火物2を流し込むことができ、充填性良く成形型1内に粘結剤コーテッド耐火物2を充填することができるものであり、充填不良が発生することを防ぐことができるものである。
【0072】
上記のように成形型1内に粘結剤コーテッド耐火物2を充填した後、成形型1の注入口4からホッパー7を外すと共に、図1(b)のように各注入口4に給気パイプ10を接続し、給気パイプ10のコック11を開いて水蒸気を成形型1のキャビティ3内に吹き込んで、成形型1に水蒸気を通す。
【0073】
ここで、水蒸気としては飽和水蒸気をそのまま用いることができるが、本発明では過熱水蒸気を用いるのが好ましい。過熱水蒸気は、飽和水蒸気をさらに加熱して、沸点以上の温度とした完全気体状態の水蒸気であり、100℃以上の乾き蒸気である。飽和水蒸気を加熱して得られる過熱水蒸気は、圧力を上げないで定圧膨張させたものであってもよく、あるいは膨張させないで圧力を上げた加圧水蒸気であってもよい。成形型1内に吹き込む過熱水蒸気の温度は特に限定されるものではなく、過熱水蒸気は900℃程度にまで温度を高めることができるので、100〜900℃の間で必要に応じた温度に設定すればよい。
【0074】
そしてこのように成形型1内に水蒸気を吹き込んで通すと、粘結剤コーテッド耐火物2の表面に水蒸気が接触することによって、水蒸気は潜熱が粘結剤コーテッド耐火物2に奪われて凝縮するが、水蒸気は高い潜熱と顕熱を有するので、水蒸気が凝縮する際に伝熱されるこの潜熱と顕熱で粘結剤コーテッド耐火物2の温度は100℃付近にまで急速に上昇する。このように水蒸気の潜熱と顕熱の伝熱によって粘結剤コーテッド耐火物2が100℃付近にまで加熱される時間は、水蒸気の温度や成形型1内への吹き込み流量、成形型1内の粘結剤コーテッド耐火物2の充填量などで変動するが、通常、3〜30秒程度の短時間である。成形型1内に注入口4から吹き込まれた水蒸気は、成形型1内の粘結剤コーテッド耐火物2を加熱した後、排出口6から排気される。
【0075】
このように成形型1内に水蒸気を通すにあたって、図2に示すように、成形型1の排出口6に吸引ホース23を接続して行なうようにしてもよい。吸引ホース23は吸引ポンプなどに接続されており、注入口4から成形型1内に入った水蒸気は吸引ホース23で吸引されて排出口6から強制的に排気されるものであり、水蒸気が成形型1内に滞留するようなことなく、スムーズに成形型1内を通過させることができ、水蒸気による粘結剤コーテッド耐火物2の加熱を効率高く行なうことができるものである。
【0076】
上記のように成形型1内に吹き込んだ水蒸気の凝縮潜熱と顕熱で粘結剤コーテッド耐火物2の温度を急速に上昇させることができるものであり、水蒸気の凝縮で成形型1内に生成される凝縮水は、その後に成形型1内に吹き込まれる水蒸気による加熱で蒸発されることにより、成形型1内の温度は水蒸気の温度付近にまで急速に上昇し、この温度で粘結剤コーテッド耐火物2を加熱することができるものである。
【0077】
そして粘結剤コーテッド耐火物2の粘結剤が熱硬化性樹脂の場合、成形型1内に充填した粘結剤コーテッド耐火物2を水蒸気の凝縮潜熱と顕熱で加熱して、熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度に上昇させることによって、粘結剤を溶融・硬化させることができ、耐火骨材を粘結剤で結合した状態で鋳型を成形することができるものである。
【0078】
このように、成形型1に水蒸気を供給して粘結剤コーテッド耐火物2の加熱を行なうことによって、水蒸気の高い凝縮潜熱と顕熱で粘結剤コーテッド耐火物2を瞬時に加熱して、粘結剤層の熱硬化性樹脂を硬化させることができ、型1を予め高温に加熱しておくような必要なく、安定して短時間で鋳型を製造することができるものであり、鋳型の生産性を向上することができるものである。また加熱の際に仮に粘結剤の熱硬化性樹脂から有毒ガスが発生しても水蒸気の凝縮水に吸収させることができ、環境が汚染されることを低減することができるものである。
【0079】
また粘結剤コーテッド耐火物2の粘結剤が糖類、水溶性無機化合物、水溶性熱可塑性樹脂の場合、成形型1内に水蒸気を吹き込み始める際に、上記のように水蒸気が粘結剤コーテッド耐火物2に接触することで熱を奪われて凝縮水が生成されるので、粘結剤コーテッド耐火物2の粘結剤に凝縮水が作用する。そして粘結剤コーテッド耐火物2の固形状態の粘結剤に凝縮水が作用すると、粘結剤が糖類であるときは、この凝縮水を吸収して膨潤あるいは溶解して糊化し、また粘結剤が水溶性無機化合物や水溶性熱可塑性樹脂であるときは、この凝縮水に溶解して液状になって糊化し、糖類、水溶性無機化合物、水溶性熱可塑性樹脂からなる粘結剤はいずれも糊状になって粘着性が生じる。このように粘結剤に粘着性が生じることによって、成形型1内に充填された粘結剤コーテッド耐火物2の耐火骨材はこの粘結剤の粘着性で結合される。次いで、引き続いて成形型1内に吹き込まれる水蒸気の凝縮潜熱と顕熱で粘結剤コーテッド耐火物2が加熱され、粘結剤に作用した水分が蒸発して乾燥するものであり、糖類、水溶性無機化合物、水溶性熱可塑性樹脂からなる粘結剤を乾燥固化させることができ、耐火骨材をこの固化した粘結剤によって結合させて、鋳型を成形することができるものである。
【0080】
このように粘結剤コーテッド耐火物2の粘結剤を水蒸気で加熱して鋳型を製造するにあたって、粘結剤として含有されている糖類や水溶性無機化合物は、加熱されて固化するときに有害なガスを多量に発生するようなことはないものであり、また粘結剤として含有されている水溶性熱可塑性樹脂からガスが発生しても、水蒸気に吸収されて大気に放出されることを低減することができるものであり、環境を汚染するようなことなく鋳型を製造することができるものである。
【0081】
そして上記のように製造した鋳型に高温の溶湯を注湯して鋳物を鋳込むことによって、鋳造を行なうことができるが、鋳型の耐火骨材を結合している粘結剤の糖類は比較的低温で熱分解するので、溶湯の熱で容易に熱分解する。また粘結剤の水溶性無機化合物や水溶性熱可塑性樹脂は水に容易に溶けるので、鋳物を鋳込んだ後に鋳型を水に浸漬したりすることによって、水溶性無機化合物や水溶性熱可塑性樹脂による結合力がなくなる。従って、鋳型を容易に崩壊させることができるものであり、鋳物を鋳型から取り出すために、鋳型に衝撃を加えたり、高温で長時間加熱して粘結剤を分解させたりするような必要がなくなり、鋳造物を鋳型から脱型する作業を容易に行なうことができるものである。
【0082】
上記のようにして、粘結剤コーテッド耐火物2を充填した成形型1内に水蒸気を通して、水蒸気の凝縮潜熱と顕熱で粘結剤コーテッド耐火物2を加熱して固化乃至硬化させ、鋳型を製造するにあたって、成形型1内に生成される凝縮水は、上記のように後から吹き込まれる水蒸気によって加熱されて気化され、排出口6から排出されるが、成形型1のキャビティ3の形状などによっては、凝縮水の気化が十分にされずに、凝縮水の一部が成形型1内に残留することがある。このように成形型1内に凝縮水が残留していると、成形型1から脱型した鋳型内にこの残留凝縮水が水分として浸透した状態で含有されることになる。そして鋳型に水分が含有されていると、この鋳型を用いて鋳造を行なう際に、高温の溶湯を鋳型に注湯すると、鋳型に含まれる水分が溶湯の高温で加熱されて急速に気化し、鋳型が爆裂するなどの極めて危険な事故が起こるおそれがある。このため、成形型1から鋳型を取り出した後、乾燥炉などに入れて、成形型1内の水分を除去しなければならず、乾燥工程が増えることになるものであった。
【0083】
そこで本発明では、上記のように粘結剤コーテッド耐火物2を充填した成形型1内に水蒸気を通して、粘結剤コーテッド耐火物2を加熱して鋳型を成形した後、水蒸気の供給を停止し、この水蒸気の替りに乾燥気体を成形型1内に通すようにしてある。乾燥気体は成形型1内に注入口4から供給されるものであり、このように成形型1内に供給された乾燥空気は成形型1内で成形された鋳型の粘結剤コーテッド耐火物2の粒子間を通過し、排出口6から排出される。従って成形型1内で成形された鋳型内に残留凝縮水が水分として残っているときには、この水分は乾燥気体中に気化し、乾燥気体と共に排出口6から排出されるものであり、鋳型を乾燥させることができるものである。
【0084】
このため、内部を乾燥させた状態で鋳型を成形型1から取り出すことができるものであり、乾燥炉などで鋳型を乾燥するという乾燥工程を特別に設けるような必要がなくなるものである。
【0085】
ここで、本発明において乾燥気体とは、気体中の水分含有量(率)が成形型1に供給される蒸気の水分含有量(率)より低い乾いた気体という意味であり、乾燥処理をした気体という意味ではなく、水分含有量(率)が低ければ乾燥処理を行なうような必要はない。乾燥気体の水分含有量は特に限定されるものではないが、水分含有量は200g/m以下であることが好ましく、より好ましくは100g/m以下であり、特に好ましくは50g/m以下である。このような水分含有量が低い乾燥気体を成形型1に供給することによって、鋳型の乾燥を効率良く行なうことができるものである。また乾燥気体は加熱して使用する必要はない。乾燥気体を加熱して使用すると、加熱するための設備やエネルギーコストが必要となるので好ましくないものであり、このため本発明では、乾燥気体を加熱も冷却もしないそのままの温度で、すなわち上記した鋳型を製造する工程の雰囲気温度、例えば鋳型の製造設備を設置した工場内の雰囲気温度のまま、乾燥気体を使用するようにしている。この雰囲気温度は、季節や時刻などによって異なるが、通常、0℃から50℃程度の範囲である。
【0086】
また、乾燥気体の種類は、特に限定されるものではなく、空気や、窒素等の不活性気体などを用いることができる。なかでも、大気中の空気はコストを要することなくそのまま用いることができるので、好ましい。
【0087】
上記のように成形型1への水蒸気の供給を停止した後、成形型1内に乾燥気体を通して鋳型の乾燥を行なうにあたって、成形型1内に乾燥気体を通す時間は、鋳型の大きさや乾燥気体の供給量などに応じて変動するものであって特に限定されるものではないが、通常、10〜90秒程度である。乾燥気体を通す時間が10秒未満であると、成形型1内の鋳型の乾燥が不十分になるおそれがある。逆に乾燥気体を通す時間が90秒を超える場合、乾燥品質が過剰になるばかりでなく、成形型1への粘結剤コーテッド耐火物2の充填から、鋳型を脱型するまでの成形サイクルが長くなり、生産性に問題が生じるおそれがある。
【0088】
成形型1への水蒸気の供給を停止した後に、成形型1内に乾燥気体を通すにあたっては、水蒸気供給用の給気パイプ10のコック11を閉じた後に、成形型1の注入口4に図1(b)のように接続したこの給気パイプ10を外し、図1(c)に示すように、乾燥気体供給用の給気パイプ13を成形型1の注入口4に接続し、給気パイプ13のコック14を開いて、給気パイプ13から成形型1内に乾燥気体を供給することによって、行なうことができる。このとき、乾燥気体として大気中の空気を用いる場合、コンプレッサーや給気ファンなどの送風機器を給気パイプ13に接続し、鋳型製造工程の雰囲気の空気をそのまま送風機器から給気パイプ13を通して成形型1に吹き込むことができる。
【0089】
また、図1(b)の水蒸気供給用の給気パイプ10の替りに、図3のような水蒸気供給と乾燥気体供給を兼用した給気パイプ16を用いることもできる。この給気パイプ16には切換バルブ17を介して水蒸気供給パイプ18と乾燥気体供給パイプ19が接続してあり、切換バルブ17より給気パイプ10の先端側にコック20が設けてある。この水蒸気供給パイプ18には、水蒸気発生装置が接続してあり、乾燥気体供給パイプ19には、乾燥気体として鋳型製造工程の雰囲気の空気をそのまま用いる場合には、送風機器が接続してある。
【0090】
そして図1(a)のように成形型1のキャビティ3内に粘結剤コーテッド耐火物2を充填した後、図3に示すように給気パイプ16を成形型1の注入口4に接続する。次に、給気パイプ16に水蒸気供給パイプ18が連通されると共に乾燥気体供給パイプ19との連通が遮断されるように切換バルブ17を切り換えた状態で、コック20を開くことによって、水蒸気供給パイプ18から給気パイプ16を通して成形型1内に水蒸気を吹き込むことができ、成形型1内の粘結剤コーテッド耐火物2を水蒸気で加熱し、鋳型の成形を行なうことができる。粘結剤コーテッド耐火物2の粘結剤を固化乃至硬化させて鋳型を成形した後、コック20を閉じ、給気パイプ16への水蒸気供給パイプ18の連通が遮断されると共に乾燥気体供給パイプ19が連通されるように切換バルブ17を切り換えた状態で、コック20を開くことによって、乾燥気体供給パイプ19から給気パイプ16を通して成形型1内に乾燥気体を吹き込むことができ、成形型1内の鋳型を乾燥させることができるものである。従ってこの場合には、水蒸気の吹き込みと乾燥気体の吹き込みとで給気パイプ10,13を接続し直すような手間が不要になるものである。
【0091】
上記の各実施の形態では、成形型1内に乾燥空気を通して乾燥を行なうにあたって、注入口4から成形型1内に乾燥空気を吹き込むようにしたが、排出口6から吸引を行なうことによって、乾燥空気が注入口4から成形型1内に吸い込まれ、成形型1内を通過した後に排出口6から排出されるようにしてもよい。例えば図4(a)の実施の形態では、成形型1の排出口6に吸引ホース25が接続してあり、注入口4は開放してある。この吸引ホース25は吸引ポンプなどに接続されており、吸引ホース25で吸引と成形型1内は減圧状態になるため、注入口4から大気中の空気などの乾燥気体が吸い込まれ、成形型1を通過して成形型1内を乾燥した後に、注入口4から吸引ホース25へと吸引されて排出される。
【0092】
また図4(b)の実施の形態では、図1(c)と同様に成形型1の注入口4に給気パイプ13を接続すると共に、上記と同様に成形型1の排出口6に吸引ホース25を接続するようにしてある。この実施の形態では、給気パイプ13から乾燥気体を成形型1内に吹き込んで供給すると共に、成形型1内の乾燥気体を吸引ホース25で強制的に排出することができるものである。またこの図4(b)の実施の形態において、給気パイプ13の替りに図3の給気パイプ16を用いるようにすることもできる。
【実施例】
【0093】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0094】
(粘結剤コーテッド耐火物の製造例1)
145℃に加熱したフラタリーサンド30kgをワールミキサーに入れ、これにレゾール型フェノール樹脂(リグナイト(株)製「LT−15」)を540g加え、30秒間混練した後、さらに450gの水を添加して十分に混練した。次いでさらにステアリン酸カルシウム30gを添加して30秒間混練した後、エアーレーションを行なうことによって、粘結剤として融着点98℃のフェノール樹脂が1.8質量%付着した粘結剤コーテッド耐火物を得た。
【0095】
(粘結剤コーテッド耐火物の製造例2)
145℃に加熱したフラタリーサンド30kgをワールミキサーに入れ、これに糖類としてコーンスターチ600gを水450gに分散させた溶液を加え、約90秒間混練した。次にステアリン酸カルシウム30gを添加して15秒間混練した後、エアーレーションを行なうことによって、粘結剤として糖類が2.0質量%付着した粘結剤コーテッド耐火物を得た。
【0096】
(粘結剤コーテッド耐火物の製造例3)
140℃に加熱したフラタリーサンド30kgをワールミキサーに入れ、これに水溶性無機化合物として珪酸ソーダ(富士化学(株)製珪酸ソーダ1号:固形分50質量%)1.8kg(固形分換算0.9kg)を水450gに分散乃至溶解させた溶液を加え、約90秒間混練した。崩壊した後、次にステアリン酸カルシウム30gを添加して15秒間混練し、さらにエアーレーションを行なうことによって、粘結剤として水溶性無機化合物が3質量%付着した粘結剤コーテッド耐火物を得た。
【0097】
(実施例1〜7)
キャビティ3の大きさが縦150mm、横100mm、厚さ20mmに形成された成形型1を120℃に予熱して用い、そしてまず、表1に示す粘結剤コーテッド耐火物2を図1(a)のように、ゲージ圧力0.1MPaの空気圧で成形型1内に吹き込んで充填した。
【0098】
この後、成形型1に給気パイプ16を図3のように接続し、ボイラーで発生させたゲージ圧力0.4MPa、温度143℃の飽和水蒸気を過熱蒸気発生装置(野村技工(株)製「GE−100」)で加熱して調製される、350℃、ゲージ圧力0.45MPaの過熱水蒸気を、60kg/hの流量で供給し、成形型1内にこの過熱水蒸気を吹き込んだ。
【0099】
過熱水蒸気を成形型1に表1に示す時間吹き込んで供給した後、過熱水蒸気の吹き込みから、乾燥気体への吹き込みに切り換え、成形型1を設備した室内の空気を乾燥気体として、2m/分の流量で成形型1に吹き込んで供給した。成形型1を設備した室内は、室温が20℃であり、また相対湿度は60%RHであって、空気の含有水分量は9g/mであった。そしてこの空気の吹き込み供給を表1に示す時間行なった後、成形型1から鋳型を取り出した。
【0100】
(実施例8)
実施例1〜7と同様にして、製造例1の粘結剤コーテッド耐火物2を成形型1内に吹き込んで充填し、次いで過熱水蒸気を成形型1に吹き込んで供給した。この後、成形型1に吸引ホース25を図4(a)のように接続し、13330Paに減圧した減圧ポンプで吸引することによって、成形型1を設備した室内の空気を乾燥気体として、2m/分の流量で注入口4から成形型1に吸い込んで供給した。成形型1を設備した室内は、室温が20℃であり、また相対湿度は60%RHであって、空気の含有水分量は9g/mであった。そしてこの空気の吹き込み供給を30秒間行なった後、成形型1から鋳型を取り出した。
【0101】
(比較例1〜6)
表1に示す粘結剤コーテッド耐火物2を成形型1内に吹き込んで充填し、過熱水蒸気を成形型1に吹き込んで供給した後、成形型1への乾燥気体の吹き込みを行なうことなく、成形型1から鋳型を取り出すようにし、また過熱水蒸気の吹き込み供給時間を表1のように設定した他は、上記の実施例1〜5と同様にした。
【0102】
上記の実施例1〜8及び比較例1〜6で成形した鋳型について、成形型1から脱型した直後の質量を測定した。次に予め庫内を115℃に設定した乾燥器にこの鋳型を入れ、60分間乾燥させた。そして乾燥器から取り出した鋳型を冷却した後、質量を測定し、次式により算出した値を、成形した鋳型の残留水分量とした。結果を表1に示す。
残留水分量(g)=脱型直後の鋳型の質量(g)−乾燥後の鋳型の質量(g)
【0103】
【表1】

【0104】
表1にみられるように、各実施例のものは残留水分量が少なく、空気を成形型に通すことによる乾燥の効果が確認される。一方、比較例1〜3では残留水分量が多く、この鋳型を用いて鋳造を行なうと、爆裂の危険を有するものである。また比較例4〜6のように過熱水蒸気の供給時間を長くすると、残留水分量を少なくすることができるが、過熱水蒸気の消費量を多く必要とするものである。
【符号の説明】
【0105】
1 成形型
2 粘結剤コーテッド耐火物
10 給気パイプ
13 給気パイプ
16 給気パイプ
25 吸引ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火骨材に粘結剤を被覆した粘結剤コーテッド耐火物を成形型内に充填し、この成形型内に水蒸気を通して水蒸気により粘結剤コーテッド耐火物を加熱し、粘結剤を固化乃至硬化させることによって、鋳型を製造するにあたって、成形型内に水蒸気を通して粘結剤コーテッド耐火物を加熱した後、成形型内に乾燥気体を通して成形型内を乾燥させることを特徴とする鋳型の製造方法。
【請求項2】
上記の乾燥気体として、空気を用いることを特徴とする請求項1に記載の鋳型の製造方法。
【請求項3】
上記の乾燥気体は、鋳型を製造する工程の雰囲気温度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳型の製造方法。
【請求項4】
上記の水蒸気が過熱水蒸気であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鋳型の製造方法。
【請求項5】
上記の乾燥気体は、成形型内に吹き込むか、成形型内に吸引するか、成形型内に吹き込みながら吸引するかの、いずれかの方法で成形型内に通されるものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の鋳型の製造方法。
【請求項6】
上記の水蒸気は、成形型内に吹き込むか、成形型内に吸引するか、成形型内に吹き込みながら吸引するかの、いずれかの方法で成形型内に通されるものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の鋳型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−94851(P2013−94851A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243316(P2011−243316)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(312005186)リグナイト株式会社 (7)
【Fターム(参考)】