鋳型板、マイクロチップ、並びに鋳型板及びマイクロチップの製造方法
【課題】簡便且つ安価に製造可能な鋳型板及びプラスチック製マイクロチップの製造方法等を提供すること。
【解決手段】熱収縮性樹脂基板15の主表面151上に、電子写真画像形成プロセスによって形成されたパターン155を加熱することによって、熱収縮性樹脂基板の収縮に伴いパターン155を盛り上げて凸部13を形成して鋳型板とし、更に、この鋳型板を用い成形加工して、前記凸部に対応する凹部を流路とするプラスチック製マイクロチップを作製する。
【解決手段】熱収縮性樹脂基板15の主表面151上に、電子写真画像形成プロセスによって形成されたパターン155を加熱することによって、熱収縮性樹脂基板の収縮に伴いパターン155を盛り上げて凸部13を形成して鋳型板とし、更に、この鋳型板を用い成形加工して、前記凸部に対応する凹部を流路とするプラスチック製マイクロチップを作製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の検査、反応、及び分離において、マイクロチップが活用されている。マイクロチップは微細な流路を備え、この微細な流路内で検査等が行われるため反応効率に優れるし、小型であるため省スペース及び環境負荷軽減のニーズに沿う。
【0003】
従来のマイクロチップは、いわゆるフォトリソグラフィで製造されることが多い。しかし、フォトリソグラフィでは、フォトレジストの塗布、露光、及びエッチングといった作業のために特殊の専門機器が必要となり、製造コストが嵩むし、煩雑である。
【0004】
そこで、鋳型板上にレーザープリンタ等でトナーからなる所定パターンを形成し、この所定パターンの凸部をそのまま鋳型として用い成形を行うことによって、凸部に対称な形状の流路を備えるマイクロチップを製造する方法が提案されている(非特許文献1参照)。この方法は、簡便な工程で構成され、汎用機器で実施でき製造コストを削減できる点で有利である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Chromatography A, 1089 (2005) 270−275
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、マイクロチップを構成する流路、窪み等の各種形状の凹部の幅、深さ、断面形状(以下、凹部の形状を流路と総称する。)としては、マイクロチップの用途に応じて適宜変更できることが必要である。即ち、用途に応じて流路の幅や深さを変更することによって、検査、反応、及び分離等を効率的に行うことができる。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に示される方法によれば、形成されるトナーからなる所定パターンの凸部の幅と高さが、マイクロチップの形成用の鋳型として不十分なものである。
【0008】
また、凸部の断面形状は、トナーと鋳型板との間に作用する界面張力等によって限定される。このため、凸部と対称形状の流路の幅及び断面形状も、同様に限定される。
【0009】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、簡便且つ安価に製造でき且つ流路の幅をより狭めることができる鋳型板、マイクロチップ、並びに鋳型板及びマイクロチップの製造方法を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、簡便且つ安価に製造でき且つ流路の幅及び深さの比率を調整できる鋳型板、マイクロチップ、並びに鋳型板及びマイクロチップの製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、熱収縮性樹脂基板を用い、この基板上に形成したパターンを加熱することによって基板の収縮に伴いパターン凸部が盛り上がり、パターン凸部が鋳型としての所望の高さと幅を確保できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
本発明の方法で製造される鋳型板は、マイクロチップに限らず様々な用途に適用可能なものである。
【0012】
(1) 主表面に所定パターンを有する熱収縮性基板を加熱することによって、前記基板を収縮させるに伴い前記所定パターンを盛り上げて凸部を形成する鋳型板の製造方法であって、前記所定パターンが少なくとも樹脂により形成されてなるものである鋳型板の製造方法。
【0013】
(1)の発明によれば、熱収縮性樹脂基板を用い加熱工程を構成とするものであり、簡便な製造方法でありコストを削減できる。
【0014】
前記所定パターンは、少なくとも合成樹脂等の樹脂が含まれる、例えば電子写真画像形成用現像剤とか印刷インキにより形成される。
【0015】
加熱の過程でパターンが盛り上がり、パターンに対応する所定パターンの凸部が形成されるので、かかる鋳型板を用いて成形を行うことによって、所定パターンの凹部が形成される。このため、かかる鋳型板を用いて形成される凹部の幅をより狭めることができ、凹部の幅及び深さの比率を調整できるので、任意の流路を形成することが可能となる。
【0016】
加熱による所定パターンの盛り上がりを観察すると、前記加熱によって前記基板が収縮するに伴って、前記所定パターンが前記基板の水平方向に収縮し垂直方向に盛り上げ変化している。
【0017】
樹脂基板の主表面上に形成されたパターンの幅は、パターン形成技術に応じてその下限値が決定され、パターンの断面形状は、パターン形成過程で軟化又は流動化するパターンを構成する熱可塑性樹脂と、樹脂基板の主表面との間に作用する界面張力等によって限定される。
【0018】
しかし、本発明によれば、加熱によって熱収縮性樹脂基板が収縮し、樹脂基板の収縮程度に応じて、パターンが変化し、幅が狭まるとともに厚みが増加し盛り上がって、凸部が形成される。このため、こうして造られる鋳型板を用いて形成される凹部の幅をより狭めることができ、凹部の幅及び深さの比率をより簡便に調整できる。
【0019】
(2) 前記所定パターンが、電子写真画像形成プロセスによって形成され現像粉からなるものである(1)に記載の製造方法。
【0020】
本発明における所定パターンの形成方法は限定されず、上述したように各種印刷プロセスとか電子写真画像形成プロセスが適用可能であるが、マイクロチップのような微細パターンが必要な場合には、特に電子写真画像形成プロセスが好ましく、簡便に適用することが出来る。従って、そのパターンは熱可塑性樹脂が含有される現像粉からなるものとなる。
【0021】
現像剤としては、電子写真画像形成プロセスに用いられる一般的なトナーが用いられ、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂のような合成樹脂が含有される。
【0022】
(3) 前記所定パターンがマイクロチップを構成する流路形成用パターンである(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0023】
(4) 前記(1)乃至(3)のいずれか1に記載の方法によって製造された所定パターンの凸部を備える鋳型板。
【0024】
(5) 前記(4)に記載の鋳型板を鋳型とし成形し、前記所定パターンの凸部を熱硬化性樹脂に転写して凹部を形成するマイクロチップの製造方法。
【0025】
(6) 前記(5)に記載の方法によって製造されたマイクロチップ。
【0026】
(7) 前記(6)に記載のマイクロチップを備える検査用デバイス。
【0027】
本発明の方法で製造される鋳型板あるいはマイクロチップは、次の基準で判断することができる。
【0028】
第1に、多くの場合、凸部表面に亀裂が形成されていることである。即ち、加熱に伴ってパターンが変化する結果、必然的に、凸部の表面に亀裂が形成され、この凸部表面の亀裂の有無は、加熱によるパターン変化を行ったことの基準になる。
【0029】
第2に、凸部の幅に対する厚みの比が、凸部を構成するパターン状現像粉が樹脂基板上で取り得る比を超えていることである。即ち、前述のように、加熱前の樹脂基板に付着されたパターン状現像粉の幅に対する厚みの比は、付着過程で軟化又は流動化していた時点のパターン状現像粉と、樹脂基板との間に作用する界面張力等によって限定されるところ、加熱によるパターン変化に伴ってパターン状現像粉の幅が狭まるとともに厚みが増す結果、必然的に、凸部の幅に対する厚みの比は、パターン状現像粉が樹脂基板上で取り得る比を超えることになる。このように、凸部の幅に対する厚みの比は、加熱によるパターン変化を行ったことの基準になる。
【0030】
その他、鋳型板表面のマクロな凹凸(つまり、上述の「凸部」を除く)の存在等も樹脂基板の収縮を行ったことの基準になる。
【0031】
特に、(4)に記載の鋳型板では、凸部の形成過程でパターン状現像粉が軟化又は流動化するため、パターン状現像粉と被加熱板との間に作用する界面張力等の影響で、凸部が湾曲形状となり、具体的には角部がない。このため、かかる凸部形状は、加熱を、パターン状現像粉が軟化又は流動化する程度に行ったことの基準になる。
【0032】
(8) (4)に記載の鋳型板を鋳型とし、前記所定パターンの凸部を熱硬化性樹脂に転写して凹部を形成するマイクロチップの製造方法。
【0033】
(8)の発明によれば、鋳型板を鋳型として成形を行なって、凸部に対応する形状の凹部を熱硬化性樹脂に形成し、この凹部がマイクロチップの流路を構成し、所望のマイクロチップを安価且つ簡便に製造できる。
【0034】
(9) (4)に記載の鋳型板を鋳型として成形を行ってなるマイクロチップ。
【0035】
上述のように本発明の鋳型板の多くは凸部表面に亀裂が形成され、この亀裂が凹部表面に必然的に亀裂が転写されることになり、従って、この亀裂の有無によって本発明の方法によって製造された鋳型板あるいはマイクロチップかどうか検証が可能である。
【0036】
その他、マイクロチップ表面のマクロな凹凸(つまり、上述の「凹部」を除く)の存在等も同一性の判断基準になる。特に、本発明の鋳型板の凸部断面は湾曲形状であり、具体的には角部がないため、かかる鋳型板を用いて製造されるマイクロチップの凹部断面も同様に湾曲形状で、具体的には角部がない。かかる凹部断面の形状は、(4)記載の鋳型板を鋳型として成形を行ったことの基準になる。
【0037】
(10) (9)記載のマイクロチップを備える検査用デバイス。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、製造方法が熱可塑性樹脂基板の加熱工程で構成されるため、鋳型板を汎用機器で簡便に製造できる。また、かかる鋳型板を用いて後述の成形等を行うだけでマイクロチップが製造されるため、製造コストを削減できる。
【0039】
更に、加熱工程でパターンが主表面と水平な方向に収縮し垂直な方向に盛り上がり、パターンに対応する所定パターンの凸部が形成されるので、かかる鋳型板を用いて成形を行うことで、所定パターンの凹部が形成される。このため、かかる鋳型板を用いて形成される凹部の幅をより狭めることができ、凹部の幅及び深さの比率を調整でき、任意の流路を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鋳型板の製造過程を示す斜視図(a)及び平面図(b)である。
【図2】図1(b)のII−II線断面図である。
【図3】前記実施形態に係るマイクロチップの製造過程を示す概略図である。
【図4】図3のマイクロチップの斜視図(a)及び平面図(b)である。
【図5】図4(b)のV−V線断面図である。
【図6】図3のマイクロチップを備える検査用デバイスの分解斜視図である。
【図7】図6の平面図である。
【図8】図7の凹部における流体の流れを示す概念図である。
【図9】図7のIX−IX線断面図である。
【図10】図7のX−X線断面図である。
【図11】図10の領域αの拡大図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係るマイクロチップを備える検査用デバイスの分解斜視図である。
【図13】図12の平面図である。
【図14】図13のXIV−XIV線断面図である。
【図15】図13のXV−XV線断面図である。
【図16】本発明の一実施例で作製した鋳型板の凸部の幅を示すグラフである。
【図17】本発明の別の実施例で作製したマイクロチップの凹部の深さを示すグラフである。
【図18】本発明の別の実施例で作製した鋳型板の凸部のパターンを示す写真である。
【図19】本発明の別の実施例で作製した鋳型板の凸部の表面を示す写真である。
【図20】本発明の別の実施例で作製したマイクロチップの凹部に細胞が捕獲された状態を示す写真である。
【図21】本発明の別の実施例で作製したマイクロチップに捕獲された細胞の吸収スペクトルを測定するための実験装置(a)と、細胞の吸収スペクトル(b)である。
【図22】二相層流現象を説明する図(a)、及び本発明の別の実施例で作製したY字型のマイクロチップで二相層流現象を観測した写真(b,c,d)である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について、所定パターンが電子写真画像形成プロセスによって形成される場合を中心に、図面を参照しながら説明する。第1実施形態以外の各実施形態の説明において、第1実施形態と共通するものについては、同一符号を付し、その説明を省略する。なお、図1〜図15は、分かりやすいようにパターン状現像粉、凸部、凹部の各々の大きさを誇張して表現しているが、実際の大きさは図1〜図15よりもはるかに小さい。
【0042】
<第1実施形態>
〔鋳型板の製造方法〕
本実施形態に係る鋳型板の製造方法は、パターン形成工程と加熱工程とを有する。但し、この2つの工程は連続して行う必要はなく、パターン形成工程によりパターン状現像粉を有する樹脂基板を予め準備し、時間をおいてから加熱工程にかけることもできる。各工程について以下に詳細に説明する。図1は、鋳型板の製造過程を示す斜視図(a)及び平面図(b)であり、図2は図1(b)のII−II線断面図である。
【0043】
[パターン形成工程]
図1に示されるように、パターン形成工程では、電子写真画像形成プロセスによって、樹脂基板15の主表面151に現像粉がパターン状に付着・定着され、パターン状現像粉155が形成される。また、この現像粉を貫通孔が形成されたマスクを介して樹脂基板15の主表面151に付着し定着させることもできる。このパターン形成工程では、電子写真画像形成プロセスによるプリンタ、複写機を用いて簡便に大量生産を行うことができるし、これらのプリンタ等をコンピュータ等に接続することで、描画ソフトウェア等を活用してパターンの設計をより簡便に行うことができる。なお、パターン形成方式として限定されないが、微細パターンを樹脂基板15に簡易に形成する点で、電子写真画像形成プロセスが好ましく、特にレーザープリントが好ましい。なお、電子写真画像形成プロセスは、レーザープリントに限らず、通常の複写機が使用可能である。
【0044】
主表面151に付着したパターン状現像粉155の断面形状は、パターン状現像粉155の付着方式に伴って変化する。本実施形態のように、パターン状現像粉155の付着を現像粉の印刷により行う場合、パターン状現像粉155の断面形状は、図2に示されるように、主表面151に印刷された時の軟化状態の現像粉が主表面151上で自然に取り得る湾曲形状となる。即ち、パターン状現像粉155の断面形状は、付着過程で軟化していた時点のパターン状現像粉と、樹脂基板15の主表面151との間に作用する界面張力等によって限定される。
【0045】
また、パターンに貫通孔が形成されたマスクを主表面151に被覆した後、貫通孔にパターン状現像粉を導入することで主表面151に付着する場合、パターン状現像粉155の断面は、貫通孔の長さ及びパターン状現像粉の導入量に応じた厚みを有することになる。
【0046】
パターンとは、加熱による変化によって所定パターンとなるように適宜設計され、必ずしも所定パターンと相似である必要はない。例えば、パターン状現像粉155の幅を付着技術の限界値を超えて僅少にすると、付着されるパターン状現像粉量が不均衡になり、パターン状現像粉155が所望の形状から外れた形状をとるおそれがあり、場合によっては予定外の箇所で途切れる場合もある(例えば、図18参照)。しかし、このように途切れたパターンも、所定パターンに変化できる限りにおいて、パターンに包含される。
【0047】
なお、樹脂基板15の収縮は、主表面151の全方向に関して均等に起こるとは限らず、ある方向には激しく収縮するが他の方向では緩やかに収縮する場合もある。このため、パターンは、主表面151の収縮態様を考慮して設計されることが好ましい。なお、本明細書におけるパターンとは対象全体の模様及び線幅を指す概念である。
【0048】
熱収縮性樹脂基板とは、加熱により収縮する表面を有する板状部材を指す。樹脂基板の素材としては、特に限定されないが、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(スチロール樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートその他フェノール樹脂(PF)、メラミン樹脂(MF)、ユリア樹脂(UF尿素樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、エポキシ樹脂(EP)、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂が挙げられ、一般にはこれらの樹脂を適宜の方向へと延伸したうえで弾性温度以下に冷却することで、弾性温度以上に加熱すると収縮が可能になる。
【0049】
[加熱工程]
続いて、加熱工程では、樹脂基板15を加熱して収縮させることで、パターンを所定パターンへと変化して凸部13を形成する。これにより、凸部13が被収縮板11の表面111に形成された鋳型板10が製造される。また、加熱を経て、現像粉に含有される樹脂(例えば、ポリオール樹脂、ポリエステル樹脂)の主表面151への付着力が増加するため、凸部13が不本意に主表面151から剥離するような事態を抑制できる。更に、凸部13の強度が上昇するため、凸部13の一部が不本意に欠落するような事態を抑制できる。
【0050】
この過程で、樹脂基板15の主表面151が収縮し、側面153の厚みが増す。すると、主表面151に付着したパターン状現像粉155が主表面151に引きずられるため、主表面151と水平な方向にパターン状現像粉155の幅W1が縮まるとともに、垂直な方向(厚み方向)へと盛り上がる。これに伴い、図2に示されるように、凸部13の幅W2はパターン状現像粉155の幅W1よりも小さくなり、凸部13の厚みT2はパターン状現像粉155の厚みT1よりも大きくなる。即ち、凸部13の幅W1に対する厚みT1の比(T2/W2)は、パターン状現像粉155が樹脂基板上で取り得る比(T1/W1)を超えることになる。
【0051】
また、後述の図18及び図19に示されるように、凸部13の表面には亀裂が形成されている。即ち、樹脂基板15の収縮に伴ってパターン状現像粉155の幅W1及び断面形状が変化する結果、必然的に、凸部13の表面に亀裂が形成される。その他、一般に、収縮に伴って主表面151にはマクロな凹凸(凸部13を除く)が存在するようになる。
【0052】
凸部13を形成する際にパターン状現像粉155が硬化状態にあると、幅W1及び断面形状の変化にパターン状現像粉155が追従できず、形成される凸部が波打ったり、剥離したりし、その幅及び断面形状が設計の想定範囲から外れるおそれがある。そこで、加熱は、パターン状現像粉155が軟化又は流動化する程度に行うことが好ましく、加熱温度は熱収縮性基板の大きさに合わせて選ぶ必要があり、130℃〜180℃が好ましく、また加熱時間は10秒程度が好ましい。
【0053】
凸部を形成する際にパターン状現像粉が硬化状態にあると、幅及び断面形状の変化にパターン状現像粉が追従できず、形成される凸部が波打ったり、剥離したりし、その幅及び断面形状が設計の想定範囲から外れるおそれがある。加熱を現像粉が軟化又は流動化する程度に行うと、幅及び断面形状の変化に応じて、パターン状現像粉が柔軟に変形して変化に追従する。このため、凸部の幅及び断面形状を設計の想定範囲に収めることができる。これにより、幅W1及び断面形状の変化に応じて、パターン状現像粉155が柔軟に変形して変化に追従するので、凸部13の幅W2及び断面形状を設計の想定範囲に収めることができる。なお、一般に、軟化とは樹脂が常温状態よりも軟化(例えばゴム化)することを指し、流動化とはゾル、ゲル等の流体に変化することを指す。
【0054】
このように加熱を、パターン状現像粉155が軟化又は流動化する程度に行うと、凸部13の形成過程でパターン状現像粉155が軟化又は流動化するため、パターン状現像粉155と樹脂基板15との間に作用する界面張力等の影響で、凸部13が湾曲形状となり、具体的には角部がない。
【0055】
なお、加熱が過剰になると、主表面151が激しく変形する結果、主表面151同士が癒着するおそれがある。このため、かかる事情を考慮して、必要十分な程度で加熱を行うことが好ましい。
【0056】
本実施形態で形成される凸部13の所定パターンは、図1(b)に示される通りである。即ち、所定パターンは、比較的大型の第1導入対応部133a、第2導入対応部133b、及び導出対応部133cが間隔をあけて配置され、これら第1導入対応部133a、第2導入対応部133b、及び導出対応部133cの各々に連通する3本の線路対応部131が、合流対応部135において合流した模様である。なお、本実施形態では線路対応部131を直線としたが、必要に応じて曲線としてもよい。
【0057】
このような加熱工程は、オーブントースタ等の種々の加熱器具を用いて実施できる。なお、後述の凹部23の密閉性を向上するべく、収縮を行う前に、主表面151に付着するホコリ、汚れ等の異物を除去することが好ましい。また、樹脂基板15が加熱器具に癒着することを抑制するべく、樹脂基板15を、一旦丸めた後に広げた金属箔(例えば、アルミニウム箔)上に載置(表面111は金属箔と反対側に配置される)した状態で加熱することが好ましく、金属箔の光沢面側に載置することがより好ましい。
【0058】
加熱工程の後、被収縮板11の表面111をガラス等の平板で軽く押圧することで、表面111のマクロな凹凸を緩和することが好ましい。これにより、後述のマイクロチップ本体21の被密着面211が略平坦になるために、密着部材本体31との密着性が向上し、凹部23の密閉性を向上できる。このとき、凸部13を押し潰さないよう留意するべきである。なお、異物が被収縮板11の表面111にめり込むのを予防するべく、表面111に付着する異物を押圧前に除去することが好ましい。
【0059】
このように、本実施形態に係る鋳型板10は、樹脂基板15へのパターン状現像粉155の付着及び加熱という工程で製造されるので、汎用機器で簡便に製造できる。
【0060】
〔マイクロチップの製造方法〕
本発明に係るマイクロチップの製造方法は、上記の鋳型板を鋳型として成形を行う手順を有する。この手順について以下説明するが、操作自体は常法に従って行えばよい。本実施形態に係るマイクロチップは、鋳型板10を用いて成形等を行うだけでマイクロチップが製造されるため、製造コストを削減できる。
【0061】
図3は、マイクロチップ20の製造過程を示す概略図である。一般に、成形は、硬化槽90に収容された硬化性樹脂液CA中に鋳型板10を浸漬し、硬化性樹脂を硬化することで行うことができる。その後、鋳型板10から分離することで、凸部13に対称な凹部23を備えるマイクロチップ20が製造される。
【0062】
なお、硬化性樹脂液を鋳型板表面に塗布することもできるが、所望の厚さのマイクロチップを形成するには、上記のように、浸漬することが好ましい。
【0063】
使用できる硬化性樹脂としては、特に限定されず公知の樹脂が使用できるが、自己吸着性を有し後述の密着部材30との密着性に優れて凹部23を容易に密閉できる点で、ポリジメチルシロキサンが好ましい。ポリジメチルシロキサンは、可視光領域における光吸収性に乏しく、自家蛍光もほとんど呈しないため、マイクロチップとした場合に、バイオ分野で汎用される蛍光検出技術との相性に優れる他、生体適合性が高く、細胞、組織等の生体試料に悪影響を及ぼしにくいこと、ガラス等と異なりウェットエッチングや高温接合を必要とせず、比較的容易に作製できること、酸素プラズマ処理等で容易に表面改良できること、においても有利である。
【0064】
硬化性樹脂の硬化は、硬化性樹脂に硬化剤を添加する等して行えばよい。この硬化に必要な条件に応じて脱気等を適宜行ってよく、鋳型板10からのマイクロチップ20の分離を容易化するために、硬化性樹脂に公知の離型剤を添加してもよい。
【0065】
図4はマイクロチップ20の斜視図(a)及び平面図(b)であり、図5は図4(b)のV−V線断面図である。
【0066】
図4に示されるように、マイクロチップ20は、被密着面211に所定パターンの凹部23が形成されており、このようにして形成される凹部23の所定パターンは、図4(b)に示される通りである。即ち、所定パターンは、比較的大型の第1導入部233a、第2導入部233b、及び導出部233cが間隔をあけて配置され、これら第1導入部233a、第2導入部233b、及び導出部233cの各々に連通する3本の線路231が、合流部235において合流した模様である。
【0067】
また、図5に示されるように、凹部23は、凸部13に対応する形状を有するため、被密着面211に窪みとして形成される。このように微細な凹部23で検査等を行うと、反応効率に優れるし、小型であるため省スペース化及び環境負荷の軽減を図ることができる。
【0068】
なお、凹部23は凸部13と対称形状を有するため、上述のように凸部13表面に亀裂が形成されている結果、この凸部13に対称な凹部23の表面にも、必然的に亀裂が形成される。また、マイクロチップ20の被密着面211には、マクロな凹凸(つまり、凹部23を除く)が存在する。加熱をパターン状現像粉155が軟化又は流動化する程度に行って製造された鋳型板10を用いた場合には、凹部23断面も同様に湾曲形状であり、具体的には角部がない。
【0069】
〔使用方法〕
図6は、検査用デバイス60の分解斜視図である。検査用デバイス60は、凹部23が密閉されたデバイスであり、具体的には、マイクロチップ20の被密着面211側に密着部材30が配置され、背面213側に固定部材50が配置される。このように積層された状態で、図示しない固定具(例えば、クリップ、テープ)によって密着部材30及び固定部材50が挟持されることで、密着部材本体31が被密着面211に密着し、凹部23が密閉されることになる。なお、密着部材30の密着部材本体31及び固定部材50は、固定具による損傷を抑制し、凹部23の密閉性を持続できるよう、ガラス等の非屈曲性素材で構成されることが好ましい。
【0070】
マイクロチップ本体21がマクロな凹凸を有すると、密着部材本体31の被密着面211への密着が不充分になり、凹部23の密閉性が低下することが懸念される。そこで本実施形態では、背面213及び固定部材50の内面51の間にスポンジ40が介在する。これにより、マイクロチップ本体21の凹凸にかかわらず、密着部材本体31の被密着面211への密着性が向上するため、凹部23の密閉性の低下を抑制できる。また、凹部23の密閉性をより向上するべく、マイクロチップ20の被密着面211を常法でプラズマ処理し、密着部材本体31との結着性を増強することが好ましい。
【0071】
図7は図6の平面図であり、図8は図7の凹部23における流体の流れを示す概念図である。密着部材30には、第1導入孔313a、第2導入孔313b、及び導出孔313cが形成されており、これら第1導入孔313a、第2導入孔313b、及び導出孔313cの各々は、第1導入部233a、第2導入部233b、及び導出部233cに対応する位置に配置される。
【0072】
図6に戻って、第1導入孔313a、第2導入孔313b、及び導出孔313cの各々には、第1導入ポート33a、第2導入ポート33b、及び導出ポート33cが設けられている。第1導入ポート33a及び第2導入ポート33bの各々は、図示しない第1流体供給源及び第2流体供給源に連通され、導出ポート33cは図示しない分析機器に連通される。
【0073】
これにより、図8に示されるように、第1導入ポート33aから第1流体が第1導入部233aへと導入され、第2導入ポート33bから第2流体が第2導入部233bへと導入され、これら第1流体及び第2流体が合流部235で合流した後、導出部233cに至る過程で混合して反応し、反応産物を生成する。このとき、凹部23の深さが大きくなっているため、第1流体及び第2流体の衝突確率が増し、反応効率が向上されている。反応産物は導出部233cから導出ポート33cを介して検査機器へと導出され、適宜の検査にふされる。
【0074】
なお、凹部23は、ラボオンチップ、DNAチップ、プロテインチップ、マイクロTAS(Total Analysis System)として好適に使用でき、凹部23で行う反応としては、抗原抗体反応、有機合成反応、試料固定、表面修飾、溶媒抽出、油滴作製等が挙げられる。
【0075】
図9は図7のIX−IX線断面図、図10は図7のX−X線断面図である。図9及び図10に示されるように、マイクロチップ20及び密着部材30は充分に密着しているため、第1導入孔313a、第2導入孔313b、及び導出孔313cを除き、凹部23が略完全に密閉されている。
【0076】
図11は、図10の領域αの拡大図であり、導出ポート33cの密着部材本体31への設置構造を示す。図11(a)に示されるように、導出ポート33cには、導出ポート33cの内径と略等しい外径の継手35が嵌合され、更に接着剤AAを介して密着部材本体31に接着されている。
【0077】
ただし、設置構造はこれに限定されず、例えば図11(b)に示されるように、導出孔313cの端部に導出ポート33cの外径と略等しい径の窪み314を設け、この窪み314に導出ポート33cを嵌合してもよい。また、かかる設置構造は、第1導入ポート33a及び第2導入ポート33bについても妥当する。
【0078】
<第2実施形態>
図12は、本発明の第2実施形態に係るマイクロチップ20Bを備える検査用デバイス60Bの分解斜視図である。本実施形態は、凹部23Bの形状及び密着部材30Bの構成において第1実施形態と異なる。
【0079】
即ち、凹部23Bは、略円形の開口部を有する複数の窪みであり、互いに略均等間隔をあけて配置されている。凹部23Bの鋳型となる凸部は、第1実施形態と同様に幅狭且つ厚高であるため、凹部23Bは開口面積が小さく且つ深さが大きい窪みになる。このため、マイクロチップ20Bを備える検査用デバイス60Bは、小さい開口面積を利用して、物の大きさに応じた選別、例えば小型の物(例えば細胞)を選択的に捕獲し、大型の物を排除するといった捕獲用途、分離用途等に好適に使用できる。とりわけ、1細胞を捕獲して細胞同士を分離する用途が好ましい。
【0080】
本実施形態では、凹部23Bは縦横に整列しているが、この配置に限定されるものではない。また、本実施形態では、凹部23Bの開口部は、その開口形状が略同一であるが、種々の形状を取るよう適宜設定されてよい。これにより、互いに異なる大きさの細胞を分離することもできる。
【0081】
一方、図13に示されるように、密着部材30Bの内面315Bには流動槽形成部317が設けられており、この流動槽形成部317は、凹部23Bを囲むように配置される。また、流動槽形成部317は、第1介在路316a及び第2介在路316cを介して、第1導入孔313aB及び導出孔313cBに連通されている。そして、第1導入孔313aBに設けられた第1導入ポート33aは細胞培養液供給源に連通され、導出孔313cBに設けられた導出ポート33cは廃棄槽に連通される。なお、第1導入ポート33aを細胞培養液供給源に連通する管の径は、小さくなると、導入の過程で細胞が破損されやすくなるため、用途に応じて適宜設定されるべきである。
【0082】
図14は、図13のXIV−XIV線断面図であり、図15は図13のXV−XV線断面図である。図14に示されるように、第1導入ポート33aから導入された細胞培養液は、第1導入孔313aB、及び第1介在路316aを順次通って、流動槽形成部317に供給される。
【0083】
図15に示されるように、流動槽形成部317及びマイクロチップ20Bは、第1介在路316a及び第2介在路316cを除いて密閉されているため、流動槽形成部317に供給された細胞培養液は、凹部23B内に充分に入り込んだ後に、第2介在路316c、導出孔313cBを順次通って、廃棄される。この間、細胞培養液内の細胞等が、その大きさに応じて、凹部23Bに捕獲される。
【0084】
本実施形態では、第1導入孔313aB及び導出孔313cBは、流動槽形成部317を挟んで対向するように配置されている。これにより、第1導入ポート33aから導入される細胞培養液が、より多数の凹部23B内に入り込むため、捕獲効率を向上できる。
【実施例】
【0085】
<実施例1>
描画ソフトウェア「Microsoft Power Point」(登録商標)を用い、0.1pt〜0.24ptの範囲で0.01ptおきの線幅で、直線状のパターンを設計した。熱収縮性基板として、B4サイズのスチロール樹脂製0.2mm厚のプラスチック板「透明プラ板5枚入り」(TAMIYA社製)をプリンタに合わせた大きさに正方形に切断したものを5つ用意した。レーザープリンタ「Brother DL−5070DN」と現像剤(トナー)として「TN−33J」を用いて、前記切断片上に設計どおりのパターンを形成した。次に、こうしてパターンが形成された基板を丸めた後に平に広げたアルミニウム箔の光沢面上に載置してからオーブントースタ内に設置し、約160℃に約10秒間加熱して収縮させた。プラスチック板の収縮が収まったことを確認したところで、各鋳型板を取り出した。なお、160℃での加熱の間、トナーが軟化しゴム状になっていることが確認された。
【0086】
(幅の測定)
加熱前の基板上のパターンの線幅、及び加熱後の鋳型板の上に形成された凸部の線幅を、400倍顕微鏡明視野観察によって測定した。なお、線幅は、各試料について任意に10箇所を選び、これらの箇所での測定値の平均値である。この結果を図16に示す。
【0087】
図16に示されるように、パターンがいかなる幅であっても、基板を加熱すると凸部の幅が小さくなることが確認された。また、幅の収縮率は、パターン状現像粉の線幅に応じて若干異なるが、総じて約50%で一定しているため、熱収縮性基板の材質及び加熱条件に応じて線幅を選択することができる。
【0088】
<実施例2>
「Sylgard(登録商標) 184 Silicone Elastmer Kit」を用いて、硬化性樹脂液を作製した。具体的には、キットに含まれる水あめ状の主剤(ポリジメチルシロキサン(PDMS)が主要成分)をポリスチレン製の硬化槽中に注ぎ、注いだ主剤中に主剤質量に対して10分の1の質量のシリコンオイルを硬化剤として滴下した。主剤及び硬化剤を、クリスタルチップを用いて入念に混合した後、真空デシケータ内で脱気を行って硬化性樹脂液を用意した。
【0089】
この硬化性樹脂液に、実施例1で作製した鋳型板(トナーの線幅0.1pt、0.2pt、0.5pt、1.2pt、1.8ptで設計したもの)を浸漬し、65℃に設定した乾燥機内で4時間以上に亘り静置した後、室温で冷却した。その後、硬化槽から取り出して、カッターナイフで慎重に硬化樹脂を鋳型板から剥がし分離することによって、マイクロチップを作製した。
【0090】
(深さの測定)
マイクロチップを凹部に直交する方向で切断し、この切断面を400倍顕微鏡明視野で観察して凹部の深さを測定した。この結果を図17に示す。なお、凹部の深さとは、凹部以外の部位の平均高さと凹部の最深部の深さとの差である。
【0091】
図17に示されるように、トナーパターンの線幅が増すに従い、マイクロチップに形成された凹部の深さが増すことが分かった。これは、トナーパターンの線幅が大きい程、加熱時に隆起し盛り上がるトナー量が増し、凸部が高くなるためであると考えられる。
【0092】
<実施例3>
トナーパターンの線幅を0.09ptに設定した点を除き、実施例1と同様にして熱可塑性基板上に所定パターンを形成した。その結果、図18の左側(400倍顕微鏡明視野観察)に示されるように、0.09ptがプリンタの性能限界を下回り解像度を上回る線幅だったために、トナー画像が線状にならず、途中で途切れたドット状になった。
【0093】
このようなドット状のトナーパターンが形成された熱可塑性基板を用い、実施例1と同様にして鋳型板を作製し、この鋳型板について同様に観察した。その結果、図18の右側に示されるように、加熱前にはドット状であったトナーパターンが、幅が略均一な線状の凸部に変化していることが確認された。このような結果になる理由は、上述したように、加熱中にトナーが軟化しゴム状になることが要因になっているものと推測される。即ち、加熱によって軟化あるいは液状になったトナーが表面張力によって持ち上がり、途切れた画像が結合しているものと考えられる。
【0094】
<実施例4>
フォントサイズ8の書体「Arial」、半角文字で「0pt」なる文字形状のトナーパターン形成した点を除き、実施例1と同様の手順で鋳型板を作製した。この鋳型板の凸部を100倍顕微鏡明視野観察し、その結果を図19に示す。
【0095】
図19に示されるように、本実施例の方法で形成される鋳型板の凸部の表面には、無数の微細な亀裂が形成されていることが確認された。この鋳型板を用いてマイクロチップを作製すると、この亀裂がマイクロチップの流路に転写されてしまう。しかしながら、後述する実施例5及び実施例6に説明するように、この亀裂はマイクロチップの性能として問題にならないばかりか、用途によっては長所になる。
【0096】
<実施例5>
トナーのパターンを、フォントサイズ1の半角文字の「・」及び空白(スペース)を繰り返し、「・」が碁盤状に並ぶパターンに設計した点を除き、実施例1と同様の手順で鋳型板を作製し、実施例2と同様の手順でマイクロチップを作製した。400倍顕微鏡明視野で観察したところ、このマイクロチップは、一辺1.2〜1.3cmの略正方形区画内に約1000個のドット状の凹部を有しており、各凹部が直径約50μmの開口を有するものであった。このマイクロチップを用いて、第2実施形態で説明したものと同様の検査用デバイスを作製した。なお、本実施例では、凸部を意識的にドット状としており、実施例3とは事情が異なる。
【0097】
一方、Chlamydomonas reinhardtii C−541(cc−125 wild type mt+137c)の培養を行った。具体的には、このクラミドモナス細胞を、TAP培地5〜7mLを収容する高温滅菌済み培養容器に植え継ぎ、10日経過させた。このとき、多くの細胞は容器の底部に沈殿し、培地に浮遊する細胞はあまり多くなかった。
【0098】
なお、TAP培地は、滅菌水975mLに、トリス2.42g、4×Beijernick Salt(1Lあたり、NH4Clを15g、MgSO4・7H2Oを4g、CaCl2・2H2Oを2g含有する)25mL、Hutner Solution(滅菌水1Lに、H3BO3を11.4g、ZnSO4・7H2Oを22.0g、MnCl2・4H2Oを5.06g、FeSO4・7H2Oを4.99g、CoCl2・6H2Oを1.61g、CuSO4・5H2Oを1.57g、(NH4)MO7O24/4H2Oを1.1g添加したもの)1mL、1Mリン酸カリウム溶液(pH7.0)1mLを添加し、酢酸でpH7.0に調整したものである。
【0099】
この培養液を、上述した検査用デバイスの導入部から流動槽形成部へと導入し、通過した液を導出部から導出した。これを10分間に亘り続けた。その後のマイクロチップを400倍顕微鏡明視野で観察した結果を図20に示す。
【0100】
図20に示されるように、マイクロチップの凹部(捕獲槽)には、クラミドモナス(直径約15μm)が1細胞で捕獲されていることが確認された(例えば、丸で囲んだ部分)。これにより、本実施例で作製したマイクロチップによれば、凹部の開口よりも小さい細胞を捕獲できることが確認された。なお、流速を上げてゆくと、やがて細胞が凹部から抜け出すような事象が観察されたため、流速は適宜設定されるべきである。
【0101】
また、マイクロチップには直径約5μmの微粒子状物が多く観察された。これら微粒子状物は、培養液の流動中に粉砕された細胞や葉緑体の破片であると推測される。一方、導出部から導出した液を観察すると、マイクロチップで観察されたような微粒子状物はほとんど確認されず、むしろ運動性の高い細胞が目立った。これにより、本実施例で作製したマイクロチップによれば、死細胞、不健康な細胞、その他の夾雑物を除去し、運動性の高い健康な生細胞を選別することもできることが分かった。
【0102】
更に捕獲した1細胞について、図21(a)に示される光学系にて吸収分光測定を行ったところ、クラミドモナスの細胞内にあるクロロフィルの吸収スペクトルが確認された[図21(b)]。これは、本発明のマイクロチップを用いることで、レーザートラップ法(光ピンセット)等のような高価な装置を用いなくとも、数μm程度の大きさの単一生細胞の吸収測定が簡易にできることを示す。
【0103】
先述したように、鋳型板の凸部の亀裂がマイクロチップの流路に転写されると、マイクロチップに入射した白色光の散乱が増える懸念があったが、このように高感度分光ができたことで、亀裂による悪影響がまったくないことが立証された。
【0104】
<実施例6>
流体力学的な見地によれば、流路幅の小さい管内を移動する流体はそのレイノルズ数が小さいために安定した層流となる。その際、図22(a)のように異なった流体を同じ進行方向に流したとしても、互いに混ざり合うことなく層を形成する。この現象は二相層流現象をよばれ、マイクロ化学チップ特有の現象の一つである。そこで、図22(b)のようにY字の流路(幅450μm)に色の異なるインクを流した。
【0105】
2つの流体は混ざり合うことなく境界面を形成しながら進行して[図22(c)]、その後分子拡散により穏やかに混ざっていく[図22(d)]ことが観察され、本発明のマイクロチップがマイクロ化学チップとして十分機能していることを示している。
【0106】
また、マイクロチップの流路に形成される前述の亀裂は、流体と流路との界面の表面積を増やして、二相層流現象を起こしやすいという利点もある。
【0107】
本発明は、上記の各実施例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。例えば、マイクロチップの用途として、前記実施形態では、反応、捕獲、及び分離を挙げたが、これに限られず、電気泳動、流体制御試験(流体挙動試験)、分析前処理、濃縮等も挙げられる。
【0108】
また、前記実施例では、加熱によって樹脂基板を収縮させる構成を採用したが、これに限られず、パターンを主表面と水平な方向に収縮し垂直な方向に盛り上げりさえすれば良く、樹脂基板を収縮させることなく又は樹脂基板の収縮を利用することなく、パターン状現像粉のパターンを変化させてもよい。なお、この場合、パターンの全体的な大きさは変わらないが、線幅が狭まり、厚みが増すのみになる。
【符号の説明】
【0109】
10 鋳型板
11 被収縮板
111 表面
13 凸部
15 樹脂基板
151 主表面
155 パターン状現像粉
20、20B マイクロチップ
23、23B 凹部
60、60B 検査用デバイス
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の検査、反応、及び分離において、マイクロチップが活用されている。マイクロチップは微細な流路を備え、この微細な流路内で検査等が行われるため反応効率に優れるし、小型であるため省スペース及び環境負荷軽減のニーズに沿う。
【0003】
従来のマイクロチップは、いわゆるフォトリソグラフィで製造されることが多い。しかし、フォトリソグラフィでは、フォトレジストの塗布、露光、及びエッチングといった作業のために特殊の専門機器が必要となり、製造コストが嵩むし、煩雑である。
【0004】
そこで、鋳型板上にレーザープリンタ等でトナーからなる所定パターンを形成し、この所定パターンの凸部をそのまま鋳型として用い成形を行うことによって、凸部に対称な形状の流路を備えるマイクロチップを製造する方法が提案されている(非特許文献1参照)。この方法は、簡便な工程で構成され、汎用機器で実施でき製造コストを削減できる点で有利である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Chromatography A, 1089 (2005) 270−275
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、マイクロチップを構成する流路、窪み等の各種形状の凹部の幅、深さ、断面形状(以下、凹部の形状を流路と総称する。)としては、マイクロチップの用途に応じて適宜変更できることが必要である。即ち、用途に応じて流路の幅や深さを変更することによって、検査、反応、及び分離等を効率的に行うことができる。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に示される方法によれば、形成されるトナーからなる所定パターンの凸部の幅と高さが、マイクロチップの形成用の鋳型として不十分なものである。
【0008】
また、凸部の断面形状は、トナーと鋳型板との間に作用する界面張力等によって限定される。このため、凸部と対称形状の流路の幅及び断面形状も、同様に限定される。
【0009】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、簡便且つ安価に製造でき且つ流路の幅をより狭めることができる鋳型板、マイクロチップ、並びに鋳型板及びマイクロチップの製造方法を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、簡便且つ安価に製造でき且つ流路の幅及び深さの比率を調整できる鋳型板、マイクロチップ、並びに鋳型板及びマイクロチップの製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、熱収縮性樹脂基板を用い、この基板上に形成したパターンを加熱することによって基板の収縮に伴いパターン凸部が盛り上がり、パターン凸部が鋳型としての所望の高さと幅を確保できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
本発明の方法で製造される鋳型板は、マイクロチップに限らず様々な用途に適用可能なものである。
【0012】
(1) 主表面に所定パターンを有する熱収縮性基板を加熱することによって、前記基板を収縮させるに伴い前記所定パターンを盛り上げて凸部を形成する鋳型板の製造方法であって、前記所定パターンが少なくとも樹脂により形成されてなるものである鋳型板の製造方法。
【0013】
(1)の発明によれば、熱収縮性樹脂基板を用い加熱工程を構成とするものであり、簡便な製造方法でありコストを削減できる。
【0014】
前記所定パターンは、少なくとも合成樹脂等の樹脂が含まれる、例えば電子写真画像形成用現像剤とか印刷インキにより形成される。
【0015】
加熱の過程でパターンが盛り上がり、パターンに対応する所定パターンの凸部が形成されるので、かかる鋳型板を用いて成形を行うことによって、所定パターンの凹部が形成される。このため、かかる鋳型板を用いて形成される凹部の幅をより狭めることができ、凹部の幅及び深さの比率を調整できるので、任意の流路を形成することが可能となる。
【0016】
加熱による所定パターンの盛り上がりを観察すると、前記加熱によって前記基板が収縮するに伴って、前記所定パターンが前記基板の水平方向に収縮し垂直方向に盛り上げ変化している。
【0017】
樹脂基板の主表面上に形成されたパターンの幅は、パターン形成技術に応じてその下限値が決定され、パターンの断面形状は、パターン形成過程で軟化又は流動化するパターンを構成する熱可塑性樹脂と、樹脂基板の主表面との間に作用する界面張力等によって限定される。
【0018】
しかし、本発明によれば、加熱によって熱収縮性樹脂基板が収縮し、樹脂基板の収縮程度に応じて、パターンが変化し、幅が狭まるとともに厚みが増加し盛り上がって、凸部が形成される。このため、こうして造られる鋳型板を用いて形成される凹部の幅をより狭めることができ、凹部の幅及び深さの比率をより簡便に調整できる。
【0019】
(2) 前記所定パターンが、電子写真画像形成プロセスによって形成され現像粉からなるものである(1)に記載の製造方法。
【0020】
本発明における所定パターンの形成方法は限定されず、上述したように各種印刷プロセスとか電子写真画像形成プロセスが適用可能であるが、マイクロチップのような微細パターンが必要な場合には、特に電子写真画像形成プロセスが好ましく、簡便に適用することが出来る。従って、そのパターンは熱可塑性樹脂が含有される現像粉からなるものとなる。
【0021】
現像剤としては、電子写真画像形成プロセスに用いられる一般的なトナーが用いられ、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂のような合成樹脂が含有される。
【0022】
(3) 前記所定パターンがマイクロチップを構成する流路形成用パターンである(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0023】
(4) 前記(1)乃至(3)のいずれか1に記載の方法によって製造された所定パターンの凸部を備える鋳型板。
【0024】
(5) 前記(4)に記載の鋳型板を鋳型とし成形し、前記所定パターンの凸部を熱硬化性樹脂に転写して凹部を形成するマイクロチップの製造方法。
【0025】
(6) 前記(5)に記載の方法によって製造されたマイクロチップ。
【0026】
(7) 前記(6)に記載のマイクロチップを備える検査用デバイス。
【0027】
本発明の方法で製造される鋳型板あるいはマイクロチップは、次の基準で判断することができる。
【0028】
第1に、多くの場合、凸部表面に亀裂が形成されていることである。即ち、加熱に伴ってパターンが変化する結果、必然的に、凸部の表面に亀裂が形成され、この凸部表面の亀裂の有無は、加熱によるパターン変化を行ったことの基準になる。
【0029】
第2に、凸部の幅に対する厚みの比が、凸部を構成するパターン状現像粉が樹脂基板上で取り得る比を超えていることである。即ち、前述のように、加熱前の樹脂基板に付着されたパターン状現像粉の幅に対する厚みの比は、付着過程で軟化又は流動化していた時点のパターン状現像粉と、樹脂基板との間に作用する界面張力等によって限定されるところ、加熱によるパターン変化に伴ってパターン状現像粉の幅が狭まるとともに厚みが増す結果、必然的に、凸部の幅に対する厚みの比は、パターン状現像粉が樹脂基板上で取り得る比を超えることになる。このように、凸部の幅に対する厚みの比は、加熱によるパターン変化を行ったことの基準になる。
【0030】
その他、鋳型板表面のマクロな凹凸(つまり、上述の「凸部」を除く)の存在等も樹脂基板の収縮を行ったことの基準になる。
【0031】
特に、(4)に記載の鋳型板では、凸部の形成過程でパターン状現像粉が軟化又は流動化するため、パターン状現像粉と被加熱板との間に作用する界面張力等の影響で、凸部が湾曲形状となり、具体的には角部がない。このため、かかる凸部形状は、加熱を、パターン状現像粉が軟化又は流動化する程度に行ったことの基準になる。
【0032】
(8) (4)に記載の鋳型板を鋳型とし、前記所定パターンの凸部を熱硬化性樹脂に転写して凹部を形成するマイクロチップの製造方法。
【0033】
(8)の発明によれば、鋳型板を鋳型として成形を行なって、凸部に対応する形状の凹部を熱硬化性樹脂に形成し、この凹部がマイクロチップの流路を構成し、所望のマイクロチップを安価且つ簡便に製造できる。
【0034】
(9) (4)に記載の鋳型板を鋳型として成形を行ってなるマイクロチップ。
【0035】
上述のように本発明の鋳型板の多くは凸部表面に亀裂が形成され、この亀裂が凹部表面に必然的に亀裂が転写されることになり、従って、この亀裂の有無によって本発明の方法によって製造された鋳型板あるいはマイクロチップかどうか検証が可能である。
【0036】
その他、マイクロチップ表面のマクロな凹凸(つまり、上述の「凹部」を除く)の存在等も同一性の判断基準になる。特に、本発明の鋳型板の凸部断面は湾曲形状であり、具体的には角部がないため、かかる鋳型板を用いて製造されるマイクロチップの凹部断面も同様に湾曲形状で、具体的には角部がない。かかる凹部断面の形状は、(4)記載の鋳型板を鋳型として成形を行ったことの基準になる。
【0037】
(10) (9)記載のマイクロチップを備える検査用デバイス。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、製造方法が熱可塑性樹脂基板の加熱工程で構成されるため、鋳型板を汎用機器で簡便に製造できる。また、かかる鋳型板を用いて後述の成形等を行うだけでマイクロチップが製造されるため、製造コストを削減できる。
【0039】
更に、加熱工程でパターンが主表面と水平な方向に収縮し垂直な方向に盛り上がり、パターンに対応する所定パターンの凸部が形成されるので、かかる鋳型板を用いて成形を行うことで、所定パターンの凹部が形成される。このため、かかる鋳型板を用いて形成される凹部の幅をより狭めることができ、凹部の幅及び深さの比率を調整でき、任意の流路を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鋳型板の製造過程を示す斜視図(a)及び平面図(b)である。
【図2】図1(b)のII−II線断面図である。
【図3】前記実施形態に係るマイクロチップの製造過程を示す概略図である。
【図4】図3のマイクロチップの斜視図(a)及び平面図(b)である。
【図5】図4(b)のV−V線断面図である。
【図6】図3のマイクロチップを備える検査用デバイスの分解斜視図である。
【図7】図6の平面図である。
【図8】図7の凹部における流体の流れを示す概念図である。
【図9】図7のIX−IX線断面図である。
【図10】図7のX−X線断面図である。
【図11】図10の領域αの拡大図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係るマイクロチップを備える検査用デバイスの分解斜視図である。
【図13】図12の平面図である。
【図14】図13のXIV−XIV線断面図である。
【図15】図13のXV−XV線断面図である。
【図16】本発明の一実施例で作製した鋳型板の凸部の幅を示すグラフである。
【図17】本発明の別の実施例で作製したマイクロチップの凹部の深さを示すグラフである。
【図18】本発明の別の実施例で作製した鋳型板の凸部のパターンを示す写真である。
【図19】本発明の別の実施例で作製した鋳型板の凸部の表面を示す写真である。
【図20】本発明の別の実施例で作製したマイクロチップの凹部に細胞が捕獲された状態を示す写真である。
【図21】本発明の別の実施例で作製したマイクロチップに捕獲された細胞の吸収スペクトルを測定するための実験装置(a)と、細胞の吸収スペクトル(b)である。
【図22】二相層流現象を説明する図(a)、及び本発明の別の実施例で作製したY字型のマイクロチップで二相層流現象を観測した写真(b,c,d)である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について、所定パターンが電子写真画像形成プロセスによって形成される場合を中心に、図面を参照しながら説明する。第1実施形態以外の各実施形態の説明において、第1実施形態と共通するものについては、同一符号を付し、その説明を省略する。なお、図1〜図15は、分かりやすいようにパターン状現像粉、凸部、凹部の各々の大きさを誇張して表現しているが、実際の大きさは図1〜図15よりもはるかに小さい。
【0042】
<第1実施形態>
〔鋳型板の製造方法〕
本実施形態に係る鋳型板の製造方法は、パターン形成工程と加熱工程とを有する。但し、この2つの工程は連続して行う必要はなく、パターン形成工程によりパターン状現像粉を有する樹脂基板を予め準備し、時間をおいてから加熱工程にかけることもできる。各工程について以下に詳細に説明する。図1は、鋳型板の製造過程を示す斜視図(a)及び平面図(b)であり、図2は図1(b)のII−II線断面図である。
【0043】
[パターン形成工程]
図1に示されるように、パターン形成工程では、電子写真画像形成プロセスによって、樹脂基板15の主表面151に現像粉がパターン状に付着・定着され、パターン状現像粉155が形成される。また、この現像粉を貫通孔が形成されたマスクを介して樹脂基板15の主表面151に付着し定着させることもできる。このパターン形成工程では、電子写真画像形成プロセスによるプリンタ、複写機を用いて簡便に大量生産を行うことができるし、これらのプリンタ等をコンピュータ等に接続することで、描画ソフトウェア等を活用してパターンの設計をより簡便に行うことができる。なお、パターン形成方式として限定されないが、微細パターンを樹脂基板15に簡易に形成する点で、電子写真画像形成プロセスが好ましく、特にレーザープリントが好ましい。なお、電子写真画像形成プロセスは、レーザープリントに限らず、通常の複写機が使用可能である。
【0044】
主表面151に付着したパターン状現像粉155の断面形状は、パターン状現像粉155の付着方式に伴って変化する。本実施形態のように、パターン状現像粉155の付着を現像粉の印刷により行う場合、パターン状現像粉155の断面形状は、図2に示されるように、主表面151に印刷された時の軟化状態の現像粉が主表面151上で自然に取り得る湾曲形状となる。即ち、パターン状現像粉155の断面形状は、付着過程で軟化していた時点のパターン状現像粉と、樹脂基板15の主表面151との間に作用する界面張力等によって限定される。
【0045】
また、パターンに貫通孔が形成されたマスクを主表面151に被覆した後、貫通孔にパターン状現像粉を導入することで主表面151に付着する場合、パターン状現像粉155の断面は、貫通孔の長さ及びパターン状現像粉の導入量に応じた厚みを有することになる。
【0046】
パターンとは、加熱による変化によって所定パターンとなるように適宜設計され、必ずしも所定パターンと相似である必要はない。例えば、パターン状現像粉155の幅を付着技術の限界値を超えて僅少にすると、付着されるパターン状現像粉量が不均衡になり、パターン状現像粉155が所望の形状から外れた形状をとるおそれがあり、場合によっては予定外の箇所で途切れる場合もある(例えば、図18参照)。しかし、このように途切れたパターンも、所定パターンに変化できる限りにおいて、パターンに包含される。
【0047】
なお、樹脂基板15の収縮は、主表面151の全方向に関して均等に起こるとは限らず、ある方向には激しく収縮するが他の方向では緩やかに収縮する場合もある。このため、パターンは、主表面151の収縮態様を考慮して設計されることが好ましい。なお、本明細書におけるパターンとは対象全体の模様及び線幅を指す概念である。
【0048】
熱収縮性樹脂基板とは、加熱により収縮する表面を有する板状部材を指す。樹脂基板の素材としては、特に限定されないが、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(スチロール樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートその他フェノール樹脂(PF)、メラミン樹脂(MF)、ユリア樹脂(UF尿素樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、エポキシ樹脂(EP)、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂が挙げられ、一般にはこれらの樹脂を適宜の方向へと延伸したうえで弾性温度以下に冷却することで、弾性温度以上に加熱すると収縮が可能になる。
【0049】
[加熱工程]
続いて、加熱工程では、樹脂基板15を加熱して収縮させることで、パターンを所定パターンへと変化して凸部13を形成する。これにより、凸部13が被収縮板11の表面111に形成された鋳型板10が製造される。また、加熱を経て、現像粉に含有される樹脂(例えば、ポリオール樹脂、ポリエステル樹脂)の主表面151への付着力が増加するため、凸部13が不本意に主表面151から剥離するような事態を抑制できる。更に、凸部13の強度が上昇するため、凸部13の一部が不本意に欠落するような事態を抑制できる。
【0050】
この過程で、樹脂基板15の主表面151が収縮し、側面153の厚みが増す。すると、主表面151に付着したパターン状現像粉155が主表面151に引きずられるため、主表面151と水平な方向にパターン状現像粉155の幅W1が縮まるとともに、垂直な方向(厚み方向)へと盛り上がる。これに伴い、図2に示されるように、凸部13の幅W2はパターン状現像粉155の幅W1よりも小さくなり、凸部13の厚みT2はパターン状現像粉155の厚みT1よりも大きくなる。即ち、凸部13の幅W1に対する厚みT1の比(T2/W2)は、パターン状現像粉155が樹脂基板上で取り得る比(T1/W1)を超えることになる。
【0051】
また、後述の図18及び図19に示されるように、凸部13の表面には亀裂が形成されている。即ち、樹脂基板15の収縮に伴ってパターン状現像粉155の幅W1及び断面形状が変化する結果、必然的に、凸部13の表面に亀裂が形成される。その他、一般に、収縮に伴って主表面151にはマクロな凹凸(凸部13を除く)が存在するようになる。
【0052】
凸部13を形成する際にパターン状現像粉155が硬化状態にあると、幅W1及び断面形状の変化にパターン状現像粉155が追従できず、形成される凸部が波打ったり、剥離したりし、その幅及び断面形状が設計の想定範囲から外れるおそれがある。そこで、加熱は、パターン状現像粉155が軟化又は流動化する程度に行うことが好ましく、加熱温度は熱収縮性基板の大きさに合わせて選ぶ必要があり、130℃〜180℃が好ましく、また加熱時間は10秒程度が好ましい。
【0053】
凸部を形成する際にパターン状現像粉が硬化状態にあると、幅及び断面形状の変化にパターン状現像粉が追従できず、形成される凸部が波打ったり、剥離したりし、その幅及び断面形状が設計の想定範囲から外れるおそれがある。加熱を現像粉が軟化又は流動化する程度に行うと、幅及び断面形状の変化に応じて、パターン状現像粉が柔軟に変形して変化に追従する。このため、凸部の幅及び断面形状を設計の想定範囲に収めることができる。これにより、幅W1及び断面形状の変化に応じて、パターン状現像粉155が柔軟に変形して変化に追従するので、凸部13の幅W2及び断面形状を設計の想定範囲に収めることができる。なお、一般に、軟化とは樹脂が常温状態よりも軟化(例えばゴム化)することを指し、流動化とはゾル、ゲル等の流体に変化することを指す。
【0054】
このように加熱を、パターン状現像粉155が軟化又は流動化する程度に行うと、凸部13の形成過程でパターン状現像粉155が軟化又は流動化するため、パターン状現像粉155と樹脂基板15との間に作用する界面張力等の影響で、凸部13が湾曲形状となり、具体的には角部がない。
【0055】
なお、加熱が過剰になると、主表面151が激しく変形する結果、主表面151同士が癒着するおそれがある。このため、かかる事情を考慮して、必要十分な程度で加熱を行うことが好ましい。
【0056】
本実施形態で形成される凸部13の所定パターンは、図1(b)に示される通りである。即ち、所定パターンは、比較的大型の第1導入対応部133a、第2導入対応部133b、及び導出対応部133cが間隔をあけて配置され、これら第1導入対応部133a、第2導入対応部133b、及び導出対応部133cの各々に連通する3本の線路対応部131が、合流対応部135において合流した模様である。なお、本実施形態では線路対応部131を直線としたが、必要に応じて曲線としてもよい。
【0057】
このような加熱工程は、オーブントースタ等の種々の加熱器具を用いて実施できる。なお、後述の凹部23の密閉性を向上するべく、収縮を行う前に、主表面151に付着するホコリ、汚れ等の異物を除去することが好ましい。また、樹脂基板15が加熱器具に癒着することを抑制するべく、樹脂基板15を、一旦丸めた後に広げた金属箔(例えば、アルミニウム箔)上に載置(表面111は金属箔と反対側に配置される)した状態で加熱することが好ましく、金属箔の光沢面側に載置することがより好ましい。
【0058】
加熱工程の後、被収縮板11の表面111をガラス等の平板で軽く押圧することで、表面111のマクロな凹凸を緩和することが好ましい。これにより、後述のマイクロチップ本体21の被密着面211が略平坦になるために、密着部材本体31との密着性が向上し、凹部23の密閉性を向上できる。このとき、凸部13を押し潰さないよう留意するべきである。なお、異物が被収縮板11の表面111にめり込むのを予防するべく、表面111に付着する異物を押圧前に除去することが好ましい。
【0059】
このように、本実施形態に係る鋳型板10は、樹脂基板15へのパターン状現像粉155の付着及び加熱という工程で製造されるので、汎用機器で簡便に製造できる。
【0060】
〔マイクロチップの製造方法〕
本発明に係るマイクロチップの製造方法は、上記の鋳型板を鋳型として成形を行う手順を有する。この手順について以下説明するが、操作自体は常法に従って行えばよい。本実施形態に係るマイクロチップは、鋳型板10を用いて成形等を行うだけでマイクロチップが製造されるため、製造コストを削減できる。
【0061】
図3は、マイクロチップ20の製造過程を示す概略図である。一般に、成形は、硬化槽90に収容された硬化性樹脂液CA中に鋳型板10を浸漬し、硬化性樹脂を硬化することで行うことができる。その後、鋳型板10から分離することで、凸部13に対称な凹部23を備えるマイクロチップ20が製造される。
【0062】
なお、硬化性樹脂液を鋳型板表面に塗布することもできるが、所望の厚さのマイクロチップを形成するには、上記のように、浸漬することが好ましい。
【0063】
使用できる硬化性樹脂としては、特に限定されず公知の樹脂が使用できるが、自己吸着性を有し後述の密着部材30との密着性に優れて凹部23を容易に密閉できる点で、ポリジメチルシロキサンが好ましい。ポリジメチルシロキサンは、可視光領域における光吸収性に乏しく、自家蛍光もほとんど呈しないため、マイクロチップとした場合に、バイオ分野で汎用される蛍光検出技術との相性に優れる他、生体適合性が高く、細胞、組織等の生体試料に悪影響を及ぼしにくいこと、ガラス等と異なりウェットエッチングや高温接合を必要とせず、比較的容易に作製できること、酸素プラズマ処理等で容易に表面改良できること、においても有利である。
【0064】
硬化性樹脂の硬化は、硬化性樹脂に硬化剤を添加する等して行えばよい。この硬化に必要な条件に応じて脱気等を適宜行ってよく、鋳型板10からのマイクロチップ20の分離を容易化するために、硬化性樹脂に公知の離型剤を添加してもよい。
【0065】
図4はマイクロチップ20の斜視図(a)及び平面図(b)であり、図5は図4(b)のV−V線断面図である。
【0066】
図4に示されるように、マイクロチップ20は、被密着面211に所定パターンの凹部23が形成されており、このようにして形成される凹部23の所定パターンは、図4(b)に示される通りである。即ち、所定パターンは、比較的大型の第1導入部233a、第2導入部233b、及び導出部233cが間隔をあけて配置され、これら第1導入部233a、第2導入部233b、及び導出部233cの各々に連通する3本の線路231が、合流部235において合流した模様である。
【0067】
また、図5に示されるように、凹部23は、凸部13に対応する形状を有するため、被密着面211に窪みとして形成される。このように微細な凹部23で検査等を行うと、反応効率に優れるし、小型であるため省スペース化及び環境負荷の軽減を図ることができる。
【0068】
なお、凹部23は凸部13と対称形状を有するため、上述のように凸部13表面に亀裂が形成されている結果、この凸部13に対称な凹部23の表面にも、必然的に亀裂が形成される。また、マイクロチップ20の被密着面211には、マクロな凹凸(つまり、凹部23を除く)が存在する。加熱をパターン状現像粉155が軟化又は流動化する程度に行って製造された鋳型板10を用いた場合には、凹部23断面も同様に湾曲形状であり、具体的には角部がない。
【0069】
〔使用方法〕
図6は、検査用デバイス60の分解斜視図である。検査用デバイス60は、凹部23が密閉されたデバイスであり、具体的には、マイクロチップ20の被密着面211側に密着部材30が配置され、背面213側に固定部材50が配置される。このように積層された状態で、図示しない固定具(例えば、クリップ、テープ)によって密着部材30及び固定部材50が挟持されることで、密着部材本体31が被密着面211に密着し、凹部23が密閉されることになる。なお、密着部材30の密着部材本体31及び固定部材50は、固定具による損傷を抑制し、凹部23の密閉性を持続できるよう、ガラス等の非屈曲性素材で構成されることが好ましい。
【0070】
マイクロチップ本体21がマクロな凹凸を有すると、密着部材本体31の被密着面211への密着が不充分になり、凹部23の密閉性が低下することが懸念される。そこで本実施形態では、背面213及び固定部材50の内面51の間にスポンジ40が介在する。これにより、マイクロチップ本体21の凹凸にかかわらず、密着部材本体31の被密着面211への密着性が向上するため、凹部23の密閉性の低下を抑制できる。また、凹部23の密閉性をより向上するべく、マイクロチップ20の被密着面211を常法でプラズマ処理し、密着部材本体31との結着性を増強することが好ましい。
【0071】
図7は図6の平面図であり、図8は図7の凹部23における流体の流れを示す概念図である。密着部材30には、第1導入孔313a、第2導入孔313b、及び導出孔313cが形成されており、これら第1導入孔313a、第2導入孔313b、及び導出孔313cの各々は、第1導入部233a、第2導入部233b、及び導出部233cに対応する位置に配置される。
【0072】
図6に戻って、第1導入孔313a、第2導入孔313b、及び導出孔313cの各々には、第1導入ポート33a、第2導入ポート33b、及び導出ポート33cが設けられている。第1導入ポート33a及び第2導入ポート33bの各々は、図示しない第1流体供給源及び第2流体供給源に連通され、導出ポート33cは図示しない分析機器に連通される。
【0073】
これにより、図8に示されるように、第1導入ポート33aから第1流体が第1導入部233aへと導入され、第2導入ポート33bから第2流体が第2導入部233bへと導入され、これら第1流体及び第2流体が合流部235で合流した後、導出部233cに至る過程で混合して反応し、反応産物を生成する。このとき、凹部23の深さが大きくなっているため、第1流体及び第2流体の衝突確率が増し、反応効率が向上されている。反応産物は導出部233cから導出ポート33cを介して検査機器へと導出され、適宜の検査にふされる。
【0074】
なお、凹部23は、ラボオンチップ、DNAチップ、プロテインチップ、マイクロTAS(Total Analysis System)として好適に使用でき、凹部23で行う反応としては、抗原抗体反応、有機合成反応、試料固定、表面修飾、溶媒抽出、油滴作製等が挙げられる。
【0075】
図9は図7のIX−IX線断面図、図10は図7のX−X線断面図である。図9及び図10に示されるように、マイクロチップ20及び密着部材30は充分に密着しているため、第1導入孔313a、第2導入孔313b、及び導出孔313cを除き、凹部23が略完全に密閉されている。
【0076】
図11は、図10の領域αの拡大図であり、導出ポート33cの密着部材本体31への設置構造を示す。図11(a)に示されるように、導出ポート33cには、導出ポート33cの内径と略等しい外径の継手35が嵌合され、更に接着剤AAを介して密着部材本体31に接着されている。
【0077】
ただし、設置構造はこれに限定されず、例えば図11(b)に示されるように、導出孔313cの端部に導出ポート33cの外径と略等しい径の窪み314を設け、この窪み314に導出ポート33cを嵌合してもよい。また、かかる設置構造は、第1導入ポート33a及び第2導入ポート33bについても妥当する。
【0078】
<第2実施形態>
図12は、本発明の第2実施形態に係るマイクロチップ20Bを備える検査用デバイス60Bの分解斜視図である。本実施形態は、凹部23Bの形状及び密着部材30Bの構成において第1実施形態と異なる。
【0079】
即ち、凹部23Bは、略円形の開口部を有する複数の窪みであり、互いに略均等間隔をあけて配置されている。凹部23Bの鋳型となる凸部は、第1実施形態と同様に幅狭且つ厚高であるため、凹部23Bは開口面積が小さく且つ深さが大きい窪みになる。このため、マイクロチップ20Bを備える検査用デバイス60Bは、小さい開口面積を利用して、物の大きさに応じた選別、例えば小型の物(例えば細胞)を選択的に捕獲し、大型の物を排除するといった捕獲用途、分離用途等に好適に使用できる。とりわけ、1細胞を捕獲して細胞同士を分離する用途が好ましい。
【0080】
本実施形態では、凹部23Bは縦横に整列しているが、この配置に限定されるものではない。また、本実施形態では、凹部23Bの開口部は、その開口形状が略同一であるが、種々の形状を取るよう適宜設定されてよい。これにより、互いに異なる大きさの細胞を分離することもできる。
【0081】
一方、図13に示されるように、密着部材30Bの内面315Bには流動槽形成部317が設けられており、この流動槽形成部317は、凹部23Bを囲むように配置される。また、流動槽形成部317は、第1介在路316a及び第2介在路316cを介して、第1導入孔313aB及び導出孔313cBに連通されている。そして、第1導入孔313aBに設けられた第1導入ポート33aは細胞培養液供給源に連通され、導出孔313cBに設けられた導出ポート33cは廃棄槽に連通される。なお、第1導入ポート33aを細胞培養液供給源に連通する管の径は、小さくなると、導入の過程で細胞が破損されやすくなるため、用途に応じて適宜設定されるべきである。
【0082】
図14は、図13のXIV−XIV線断面図であり、図15は図13のXV−XV線断面図である。図14に示されるように、第1導入ポート33aから導入された細胞培養液は、第1導入孔313aB、及び第1介在路316aを順次通って、流動槽形成部317に供給される。
【0083】
図15に示されるように、流動槽形成部317及びマイクロチップ20Bは、第1介在路316a及び第2介在路316cを除いて密閉されているため、流動槽形成部317に供給された細胞培養液は、凹部23B内に充分に入り込んだ後に、第2介在路316c、導出孔313cBを順次通って、廃棄される。この間、細胞培養液内の細胞等が、その大きさに応じて、凹部23Bに捕獲される。
【0084】
本実施形態では、第1導入孔313aB及び導出孔313cBは、流動槽形成部317を挟んで対向するように配置されている。これにより、第1導入ポート33aから導入される細胞培養液が、より多数の凹部23B内に入り込むため、捕獲効率を向上できる。
【実施例】
【0085】
<実施例1>
描画ソフトウェア「Microsoft Power Point」(登録商標)を用い、0.1pt〜0.24ptの範囲で0.01ptおきの線幅で、直線状のパターンを設計した。熱収縮性基板として、B4サイズのスチロール樹脂製0.2mm厚のプラスチック板「透明プラ板5枚入り」(TAMIYA社製)をプリンタに合わせた大きさに正方形に切断したものを5つ用意した。レーザープリンタ「Brother DL−5070DN」と現像剤(トナー)として「TN−33J」を用いて、前記切断片上に設計どおりのパターンを形成した。次に、こうしてパターンが形成された基板を丸めた後に平に広げたアルミニウム箔の光沢面上に載置してからオーブントースタ内に設置し、約160℃に約10秒間加熱して収縮させた。プラスチック板の収縮が収まったことを確認したところで、各鋳型板を取り出した。なお、160℃での加熱の間、トナーが軟化しゴム状になっていることが確認された。
【0086】
(幅の測定)
加熱前の基板上のパターンの線幅、及び加熱後の鋳型板の上に形成された凸部の線幅を、400倍顕微鏡明視野観察によって測定した。なお、線幅は、各試料について任意に10箇所を選び、これらの箇所での測定値の平均値である。この結果を図16に示す。
【0087】
図16に示されるように、パターンがいかなる幅であっても、基板を加熱すると凸部の幅が小さくなることが確認された。また、幅の収縮率は、パターン状現像粉の線幅に応じて若干異なるが、総じて約50%で一定しているため、熱収縮性基板の材質及び加熱条件に応じて線幅を選択することができる。
【0088】
<実施例2>
「Sylgard(登録商標) 184 Silicone Elastmer Kit」を用いて、硬化性樹脂液を作製した。具体的には、キットに含まれる水あめ状の主剤(ポリジメチルシロキサン(PDMS)が主要成分)をポリスチレン製の硬化槽中に注ぎ、注いだ主剤中に主剤質量に対して10分の1の質量のシリコンオイルを硬化剤として滴下した。主剤及び硬化剤を、クリスタルチップを用いて入念に混合した後、真空デシケータ内で脱気を行って硬化性樹脂液を用意した。
【0089】
この硬化性樹脂液に、実施例1で作製した鋳型板(トナーの線幅0.1pt、0.2pt、0.5pt、1.2pt、1.8ptで設計したもの)を浸漬し、65℃に設定した乾燥機内で4時間以上に亘り静置した後、室温で冷却した。その後、硬化槽から取り出して、カッターナイフで慎重に硬化樹脂を鋳型板から剥がし分離することによって、マイクロチップを作製した。
【0090】
(深さの測定)
マイクロチップを凹部に直交する方向で切断し、この切断面を400倍顕微鏡明視野で観察して凹部の深さを測定した。この結果を図17に示す。なお、凹部の深さとは、凹部以外の部位の平均高さと凹部の最深部の深さとの差である。
【0091】
図17に示されるように、トナーパターンの線幅が増すに従い、マイクロチップに形成された凹部の深さが増すことが分かった。これは、トナーパターンの線幅が大きい程、加熱時に隆起し盛り上がるトナー量が増し、凸部が高くなるためであると考えられる。
【0092】
<実施例3>
トナーパターンの線幅を0.09ptに設定した点を除き、実施例1と同様にして熱可塑性基板上に所定パターンを形成した。その結果、図18の左側(400倍顕微鏡明視野観察)に示されるように、0.09ptがプリンタの性能限界を下回り解像度を上回る線幅だったために、トナー画像が線状にならず、途中で途切れたドット状になった。
【0093】
このようなドット状のトナーパターンが形成された熱可塑性基板を用い、実施例1と同様にして鋳型板を作製し、この鋳型板について同様に観察した。その結果、図18の右側に示されるように、加熱前にはドット状であったトナーパターンが、幅が略均一な線状の凸部に変化していることが確認された。このような結果になる理由は、上述したように、加熱中にトナーが軟化しゴム状になることが要因になっているものと推測される。即ち、加熱によって軟化あるいは液状になったトナーが表面張力によって持ち上がり、途切れた画像が結合しているものと考えられる。
【0094】
<実施例4>
フォントサイズ8の書体「Arial」、半角文字で「0pt」なる文字形状のトナーパターン形成した点を除き、実施例1と同様の手順で鋳型板を作製した。この鋳型板の凸部を100倍顕微鏡明視野観察し、その結果を図19に示す。
【0095】
図19に示されるように、本実施例の方法で形成される鋳型板の凸部の表面には、無数の微細な亀裂が形成されていることが確認された。この鋳型板を用いてマイクロチップを作製すると、この亀裂がマイクロチップの流路に転写されてしまう。しかしながら、後述する実施例5及び実施例6に説明するように、この亀裂はマイクロチップの性能として問題にならないばかりか、用途によっては長所になる。
【0096】
<実施例5>
トナーのパターンを、フォントサイズ1の半角文字の「・」及び空白(スペース)を繰り返し、「・」が碁盤状に並ぶパターンに設計した点を除き、実施例1と同様の手順で鋳型板を作製し、実施例2と同様の手順でマイクロチップを作製した。400倍顕微鏡明視野で観察したところ、このマイクロチップは、一辺1.2〜1.3cmの略正方形区画内に約1000個のドット状の凹部を有しており、各凹部が直径約50μmの開口を有するものであった。このマイクロチップを用いて、第2実施形態で説明したものと同様の検査用デバイスを作製した。なお、本実施例では、凸部を意識的にドット状としており、実施例3とは事情が異なる。
【0097】
一方、Chlamydomonas reinhardtii C−541(cc−125 wild type mt+137c)の培養を行った。具体的には、このクラミドモナス細胞を、TAP培地5〜7mLを収容する高温滅菌済み培養容器に植え継ぎ、10日経過させた。このとき、多くの細胞は容器の底部に沈殿し、培地に浮遊する細胞はあまり多くなかった。
【0098】
なお、TAP培地は、滅菌水975mLに、トリス2.42g、4×Beijernick Salt(1Lあたり、NH4Clを15g、MgSO4・7H2Oを4g、CaCl2・2H2Oを2g含有する)25mL、Hutner Solution(滅菌水1Lに、H3BO3を11.4g、ZnSO4・7H2Oを22.0g、MnCl2・4H2Oを5.06g、FeSO4・7H2Oを4.99g、CoCl2・6H2Oを1.61g、CuSO4・5H2Oを1.57g、(NH4)MO7O24/4H2Oを1.1g添加したもの)1mL、1Mリン酸カリウム溶液(pH7.0)1mLを添加し、酢酸でpH7.0に調整したものである。
【0099】
この培養液を、上述した検査用デバイスの導入部から流動槽形成部へと導入し、通過した液を導出部から導出した。これを10分間に亘り続けた。その後のマイクロチップを400倍顕微鏡明視野で観察した結果を図20に示す。
【0100】
図20に示されるように、マイクロチップの凹部(捕獲槽)には、クラミドモナス(直径約15μm)が1細胞で捕獲されていることが確認された(例えば、丸で囲んだ部分)。これにより、本実施例で作製したマイクロチップによれば、凹部の開口よりも小さい細胞を捕獲できることが確認された。なお、流速を上げてゆくと、やがて細胞が凹部から抜け出すような事象が観察されたため、流速は適宜設定されるべきである。
【0101】
また、マイクロチップには直径約5μmの微粒子状物が多く観察された。これら微粒子状物は、培養液の流動中に粉砕された細胞や葉緑体の破片であると推測される。一方、導出部から導出した液を観察すると、マイクロチップで観察されたような微粒子状物はほとんど確認されず、むしろ運動性の高い細胞が目立った。これにより、本実施例で作製したマイクロチップによれば、死細胞、不健康な細胞、その他の夾雑物を除去し、運動性の高い健康な生細胞を選別することもできることが分かった。
【0102】
更に捕獲した1細胞について、図21(a)に示される光学系にて吸収分光測定を行ったところ、クラミドモナスの細胞内にあるクロロフィルの吸収スペクトルが確認された[図21(b)]。これは、本発明のマイクロチップを用いることで、レーザートラップ法(光ピンセット)等のような高価な装置を用いなくとも、数μm程度の大きさの単一生細胞の吸収測定が簡易にできることを示す。
【0103】
先述したように、鋳型板の凸部の亀裂がマイクロチップの流路に転写されると、マイクロチップに入射した白色光の散乱が増える懸念があったが、このように高感度分光ができたことで、亀裂による悪影響がまったくないことが立証された。
【0104】
<実施例6>
流体力学的な見地によれば、流路幅の小さい管内を移動する流体はそのレイノルズ数が小さいために安定した層流となる。その際、図22(a)のように異なった流体を同じ進行方向に流したとしても、互いに混ざり合うことなく層を形成する。この現象は二相層流現象をよばれ、マイクロ化学チップ特有の現象の一つである。そこで、図22(b)のようにY字の流路(幅450μm)に色の異なるインクを流した。
【0105】
2つの流体は混ざり合うことなく境界面を形成しながら進行して[図22(c)]、その後分子拡散により穏やかに混ざっていく[図22(d)]ことが観察され、本発明のマイクロチップがマイクロ化学チップとして十分機能していることを示している。
【0106】
また、マイクロチップの流路に形成される前述の亀裂は、流体と流路との界面の表面積を増やして、二相層流現象を起こしやすいという利点もある。
【0107】
本発明は、上記の各実施例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。例えば、マイクロチップの用途として、前記実施形態では、反応、捕獲、及び分離を挙げたが、これに限られず、電気泳動、流体制御試験(流体挙動試験)、分析前処理、濃縮等も挙げられる。
【0108】
また、前記実施例では、加熱によって樹脂基板を収縮させる構成を採用したが、これに限られず、パターンを主表面と水平な方向に収縮し垂直な方向に盛り上げりさえすれば良く、樹脂基板を収縮させることなく又は樹脂基板の収縮を利用することなく、パターン状現像粉のパターンを変化させてもよい。なお、この場合、パターンの全体的な大きさは変わらないが、線幅が狭まり、厚みが増すのみになる。
【符号の説明】
【0109】
10 鋳型板
11 被収縮板
111 表面
13 凸部
15 樹脂基板
151 主表面
155 パターン状現像粉
20、20B マイクロチップ
23、23B 凹部
60、60B 検査用デバイス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面に所定パターンを有する熱収縮性基板を加熱することによって、前記基板を収縮させるに伴い前記所定パターンを盛り上げて凸部を形成する鋳型板の製造方法であって、前記所定パターンが少なくとも樹脂により形成されてなるものである鋳型板の製造方法。
【請求項2】
前記所定パターンは、電子写真画像形成プロセスによって形成され少なくとも合成樹脂を含有する現像剤からなるものである請求項1に記載の鋳型板の製造方法。
【請求項3】
前記所定パターンはマイクロチップの流路の形成用パターンである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法によって製造された所定パターンの凸部を備える鋳型板。
【請求項5】
請求項4に記載の鋳型板を鋳型として成形し、前記所定パターンの凸部を熱硬化性樹脂に転写して凹部を形成するマイクロチップの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法によって製造されたマイクロチップ。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロチップを備える検査用デバイス。
【請求項1】
主表面に所定パターンを有する熱収縮性基板を加熱することによって、前記基板を収縮させるに伴い前記所定パターンを盛り上げて凸部を形成する鋳型板の製造方法であって、前記所定パターンが少なくとも樹脂により形成されてなるものである鋳型板の製造方法。
【請求項2】
前記所定パターンは、電子写真画像形成プロセスによって形成され少なくとも合成樹脂を含有する現像剤からなるものである請求項1に記載の鋳型板の製造方法。
【請求項3】
前記所定パターンはマイクロチップの流路の形成用パターンである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法によって製造された所定パターンの凸部を備える鋳型板。
【請求項5】
請求項4に記載の鋳型板を鋳型として成形し、前記所定パターンの凸部を熱硬化性樹脂に転写して凹部を形成するマイクロチップの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法によって製造されたマイクロチップ。
【請求項7】
請求項6に記載のマイクロチップを備える検査用デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図21】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図21】
【図18】
【図19】
【図20】
【図22】
【公開番号】特開2009−229457(P2009−229457A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47813(P2009−47813)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]