説明

鋳放しで時効硬化する歯科用、装飾用および工業製品金合金。

【課題】「鋳放し」でタイプIV歯科用金合金より充分に時効硬化し、耐食性のある単相組織の歯科用、装飾用および工業製品用金合金を提供する。
【解決手段】第1の金合金は、0.5質量%〜1.49質量%のガリウム、0.01質量%〜2質量%のイリジウム、73質量%〜75.5質量%の金を含有し、金とイリジウムの合計が75質量%以上で残部が銅および不可避的不純物であり単相組織である。第2の金合金は、0.5質量%〜2.5質量%のガリウム、0.01質量%〜2質量%のイリジウム、65質量%〜75.5質量%の金、0.5質量%〜6質量%の白金、0.5質量%〜6質量%のパラジウムを含有し、金と白金族元素の合計が75質量%以上で残部が12質量%以上の銅および不可避的不純物であり単相組織である。第3の金合金は、第1/第2の金合金に加えて多くとも3質量%の亜鉛を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ADA規格タイプIV相当の歯科鋳造用金合金よりも、「鋳放し」で十分に時効硬化し、耐食性の良い単相組織である、歯科鋳造用、装飾用および工業製品用金合金に関する。
【背景技術】
【0002】
ADA規格タイプIV歯科鋳造用金合金は、その組成について、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、亜鉛(Zn)について規定がある。一方、JIS T6116歯科鋳造用金合金の組成は、ISOに準拠し、金の含有量が65質量%以上で、金および白金族元素の合計が75質量%以上と規定されている。したがって、このJIS規格に準拠した組成の金合金の耐食性は良好であるが、単相組織であれば更に良好である。上記の規格により、市販されているタイプIV歯科鋳造用金合金は、図1の従来例1および2の組成である。しかし、「鋳放し」では充分に時効硬化しないので、鋳造後、溶体化熱処理(800°Cで10分間保持後水中に急冷)し、更に時効硬化熱処理(400°Cで20分間保持後放冷)を施すことがメーカーから指定されている。しかし、実際の臨床では、このような煩雑な操作は行われておらず、「鋳放し」で使用されるのが実情である。
【0003】
一般的に、時効硬化性金合金は金と銅との規則格子の形成によるが、上述の熱処理を施した場合のほか、「鋳放し」でも相変態温度を通過して徐冷するため、金と銅との規則格子が形成され、時効硬化する。また、パラジウムおよび白金を適量添加すると、耐食性および機械的性質が向上することが知られている。しかし、金−銅二元合金および金−銅合金にパラジウムや白金を添加した三元合金や四元合金は、上記熱処理を施すと金属割れ等を起こすことがあり、一般的には銀を加えて金属割れ等を防止している。また、白金族元素が多くなり過ぎると、「鋳放し」での時効硬化性が低下する。また、図1の従来例3は、溶体化熱処理後、口腔内温度で時効硬化することを特徴とする歯科鋳造用金合金であるが、合金組成の関係で機械的強度が充分ではなく、製造中止になった経緯がある(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−345615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯科臨床の現場においては、「鋳放し」の簡単な操作で、充分に時効硬化し、かつ、耐食性の良い歯科鋳造用金合金が求められているが、従来の技術では、このような目的を達成する金合金が提供されていないのが実情である。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて案出されたものであって、「鋳放し」で従来のタイプIV歯科用金合金より、充分に時効硬化し、耐食性のある単相組織の歯科用、装飾用および工業製品用金合金を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、金および銅を含有する各種金合金に、適量のガリウム(Ga)およびイリジウム(Ir)を添加することにより、「鋳放し」でも充分な硬さが得られ、熱処理を施しても金属割れ等を起こさないで、機械的性質が向上し、しかも単相組織である金合金が得られることを知見した。ガリウムは金属原子の拡散を迅速にし、時効硬化促進作用がある。イリジウムは、白金族元素であり、耐食性を向上させる作用、および金属結晶粒を微細化し、金属割れを防止し、機械的性質を向上させる作用を有する。本発明は、これらの相乗効果に着目したものである。
【0008】
第1の本発明の金合金は、0.5質量%〜1.49質量%のガリウム、0.01質量%〜2質量%のイリジウム、73質量%〜75.5質量%の金を含有し、金とイリジウムの合計が75質量%以上で、残部が銅および不可避的不純物であり、単相組織であることを特徴とするものである。第2の本発明の金合金は、0.5質量%〜2.5質量%のガリウム、0.01質量%〜2質量%のイリジウム、65質量%〜75.5質量%の金、0.5質量%〜6質量%の白金、0.5質量%〜6質量%のパラジウムを含有し、金と白金族元素の合計が75質量%以上で、残部が12質量%以上の銅および不可避的不純物であり、単相組織であることを特徴とするものである。第3の本発明の金合金は、第1および第2の本発明の金合金に、更に、多くとも3質量%の亜鉛を含有することを特徴とするものである。第4の本発明の金合金は、第2の本発明の金合金に、更に、多くとも12.4質量%の銀を含有することを特徴とするものである。このような組成にすると、「鋳放し」で、従来のタイプIV金合金よりも、充分に時効硬化し、鋳造性も良好であり、熱処理を施しても金属割れを起こさず、耐食性も良い金合金が得られる。
【0009】
本願請求項1に記載の歯科用、装飾用および工業製品用金合金は、0.5質量%〜1.49質量%のガリウム、0.01質量%〜2質量%のイリジウム、73質量%〜75.5質量%の金を含有し、金とイリジウムの合計が75質量%以上で、残部が銅および不可避的不純物であり、単相組織であることを特徴とするものである。
【0010】
本願請求項2に記載の歯科用、装飾用および工業製品用金合金は、0.5質量%〜2.5質量%のガリウム、0.01質量%〜2質量%のイリジウム、65質量%〜75.5質量%の金、0.5質量%〜6質量%の白金、0.5質量%〜6質量%のパラジウムを含有し、金と白金族元素の合計が75質量%以上で、残部が12質量%以上の銅および不可避的不純物であり、単相組織であることを特徴とするものである。
【0011】
本願請求項3に記載の歯科用、装飾用および工業製品用金合金は、前記請求項1又は2の金合金において、更に、多くとも3質量%の亜鉛を含有することを特徴とするものである。
【0012】
本願請求項4に記載の歯科用、装飾用および工業製品用金合金は、前記請求項2の金合金において、更に、多くとも12.4質量%の銀を含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、「鋳放し」の簡単な操作で、従来のタイプIV歯科鋳造用金合金よりも、時効硬化し、鋳造性も良好で、たとえ熱処理を施しても表面状態は良好で、耐食性のある単相組織である金合金が得られる。
【0014】
本発明の金合金は、ガリウムの時効硬化促進作用と、イリジウムの金属結晶粒微細化作用の相乗効果に着目したものであり、「鋳放し」でも、同一試験片内のビッカース硬さが比較的均一である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る金合金について詳細に説明する。本発明の第1の実施の形態に係る金合金は、0.5質量%〜1.49質量%のガリウム、0.01質量%〜2質量%のイリジウム、73質量%〜75.5質量%の金を含有し、金とイリジウムの合計が75質量%以上で、残部が銅および不可避的不純物であり、単相組織であることを特徴とする金合金である。
【0016】
ガリウムの添加量を0.5質量%〜1.49質量%としたのは、0.5質量%未満では時効硬化促進作用の効果が低下するからであり、1.49質量%超では硬さが低下するためである。イリジウムの添加量を0.01質量%〜2質量%としたのは、0.01質量%未満では金属割れを起こすことがあるからであり、2質量%超では希少金属のため高価格となるからである。金の添加量を73質量%〜75.5質量%としたのは、73質量%未満では金とイリジウムの合計がJISの規定に達しないからであり、75.5質量%超では高価格となるからである。
【0017】
本発明の第2の実施の形態に係る金合金は、0.5質量%〜2.5質量%のガリウム、0.01質量%〜2質量%のイリジウム、65質量%〜75.5質量%の金、0.5質量%〜6質量%の白金、0.5質量%〜6質量%のパラジウムを含有し、金と白金族元素の合計が75質量%以上で、残部が12質量%以上の銅および不可避的不純物であり、単相組織であることを特徴とする金合金である。
【0018】
ガリウムの添加量を0.5質量%〜2.5質量%としたのは、0.5質量%未満では時効硬化促進作用の効果が低下するからであり、2.5質量%超では他の組成との関係によっては単相組織になりにくくなるからである。イリジウムの添加量を0.01質量%〜2質量%としたのは、0.01質量%未満では金属割れを起こすことがあるからであり、2質量%超では希少金属のため高価格となるからである。金の添加量を65質量%〜75.5質量%としたのは、65質量%未満ではJISの規定に達しないからであり、75.5質量%超では高価格となるからである。白金の含有量を0.5質量%〜6質量%としたのは、0.5質量%未満では硬さの向上が弱く、6質量%超では高価格となるからである。パラジウムの添加量を0.5質量%〜6質量%としたのは、0.5質量%未満では硬さの向上が弱く、6質量%超では溶融温度が高くなるためである。また、白金族元素が多くなり過ぎると、「鋳放し」での時効硬化性が低下する。
【0019】
本発明の第3の実施の形態に係る金合金は、第1の実施の形態および第2の実施の形態に係る金合金に加えて、多くとも3質量%の亜鉛を含有することを特徴とする金合金である。亜鉛の添加量を多くとも3質量%としたのは、3質量%超では、他の組成との関係により、単相組織になり難くなるためである。
【0020】
本発明の第4の実施の形態に係る金合金は、第2の実施の形態に係る金合金に加えて、多くとも12.4質量%の銀を含有することを特徴とする金合金である。銀の添加量を多くとも12.4質量%としたのは、12.4質量%超では硬さが低下するためである。
【0021】
次に、本発明の金合金と従来から市販されているタイプIV金合金に関して、鋳造性、ビッカース硬さ試験、熱処理後の表面状態、および金属組織検査について試験を行った結果について説明する。高純度の地金を図1に示す実施例1〜11の組成にそれぞれ秤量し、金属溶解装置を用いてアルゴンガス雰囲気下で溶解して、インゴットを作製した。図1の従来例1〜3は、市販の歯科用金合金を用いた。
【0022】
試験片(8mm×8mm×4mm)を鋳造法で作製するため、ワックスパターンを鋳造リング(直径60mm、高さ60mm)に石膏系埋没剤で埋没し、700°Cで1時間繋留し、減圧反転加圧鋳造器を使用して鋳造した。鋳造後、鋳造リングを室温になるまで放冷(鋳放し)した。鋳造された各試験片を耐水研磨紙で研磨し、顕微鏡を用いて精査して、鋳造性の良否を判定したが、全ての試験片とも良好であった。
【0023】
ビッカース硬さ測定は、マイクロビッカース硬さ試験機を使用して、荷重500gf、荷重時間15秒で、各試験片とも5点の硬さを測定し、平均値を算出した。その結果は図1に示すとおりであるが、「鋳放し」の状態で、従来例1〜3の市販の金合金の硬さが295以下であるのに対して、実施例1〜11の金合金のビッカース硬さは308〜371であった。これは、本発明の金合金が、「鋳放し」の簡単な操作で、従来のタイプIV金合金よりも、時効硬化性が優れていることを示している。
【0024】
電気炉を使用して、減圧下で各試験片を800°Cで10分間保持し、水中に投下急冷して溶体化熱処理を行い、試験片を精査してから、硬さを測定し、平均値を算出した。その結果は図1に示すとおりであるが、各試験片とも金属割れ等を起こすことなく、実施例1〜11の金合金のビッカース硬さは171〜200であった。これは、従来のタイプIV金合金と同等である。
【0025】
再度、試験片を研磨し、X線回析装置を使用して金属組織の同定検査をした。その結果は図1に示すとおりであるが、各試験片とも単相組織であることが確認された。したがって、耐食性は、従来の従来のタイプIVの金合金と同様に、良好であると示唆された。
【0026】
溶体化処理を行った各試験片を、電気炉を使用して、400°Cで20分間保持し放冷して時効硬化熱処理を行い、試験片を研磨し、顕微鏡を用いて精査したが、各試験片とも金属割れ、亀裂等がなく、表面状態は良好であった。なお、実施例の金合金も溶体化熱処理後、各試験片に最適の条件で時効硬化熱処理を行うことは可能である。
【0027】
以上の結果から、本発明の金合金は、「鋳放し」で、従来のタイプIV金合金よりも機械的強度が強く、鋳造性も良好であり、熱処理を施しても表面状態は良好であり、耐食性の良い単相組織である優れた歯科用金合金である。特に、実施例1および実施例2の金合金は四元金合金であり、実施例4および実施例5の金合金は五元金合金であり、実施例11の金合金は六元金合金であるが、パラジウムを含有しないので、金属アレルギーを起こす確率が少ない歯科用金合金である。
【0028】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の金合金は非常に高い硬さが得られるので、耐磨耗性が良く、傷もつきずらいので、歯科用アタッチメント等の精密加工用金合金、装飾用金合金および各種の工業製品用金合金としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の金合金と従来のタイプIVの金合金に関して、鋳造性、ビッカース硬さ、熱処理後の表面状態、および金属組織検査について行われた試験の結果を示した表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5質量%〜1.49質量%のガリウム、0.01質量%〜2質量%のイリジウム、73質量%〜75.5質量%の金を含有し、金とイリジウムの合計が75質量%以上で、残部が銅および不可避的不純物であり、単相組織であることを特徴とする歯科用、装飾用および工業製品用金合金。
【請求項2】
0.5質量%〜2.5質量%のガリウム、0.01質量%〜2質量%のイリジウム、65質量%〜75.5質量%の金、0.5質量%〜6質量%の白金、0.5質量%〜6質量%のパラジウムを含有し、金と白金族元素の合計が75質量%以上で、残部が12質量%以上の銅および不可避的不純物であり、単相組織であることを特徴とする歯科用、装飾用および工業製品用金合金。
【請求項3】
更に、多くとも3質量%の亜鉛を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科用、装飾用および工業製品用金合金。
【請求項4】
更に、多くとも12.4質量%の銀を含有することを特徴とする請求項2に記載の歯科用、装飾用および工業製品用金合金。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−228088(P2009−228088A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77565(P2008−77565)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【特許番号】特許第4231092号(P4231092)
【特許公報発行日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(507157492)株式会社ラーピス (3)
【Fターム(参考)】