説明

鋳物製造用構造体

【課題】耐火粒子を含有する塗膜の被覆性及び耐剥離性がよく、鋳物欠陥の発生を著しく低減できる鋳物製造用構造体を、鋳物製造用構造体の成形性を損なうことなく、提供する。
【解決手段】無機粒子、無機繊維及び熱硬化性樹脂を含有する構造体(I)の表面に、レシチンを含む層(以下、レシチン層という)が形成されており、更に、構造体(I)及びレシチン層を被覆する、耐火粒子を含有する塗膜が形成されている、鋳物製造用構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳物の製造時に用いられる鋳型等の鋳物製造用構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物は、一般に、木型や金型などをもとに鋳物砂で内部にキャビティを有する鋳型を形成するとともに、必要に応じて該キャビティ内に中子を配した後、該キャビティに溶湯を供給して製造されている。
【0003】
鋳物砂を用いた砂型は、通常の砂にバインダーを添加し、硬化させて形状を保持させているため、砂の再利用には再生処理工程が必須となる。さらに、再生処理の際にダストなどの廃棄物が発生するなどの問題も生じている。中子を砂型で製造する場合は、上記課題に加え、中子自身の質量のために取り扱いに難があり、さらには、鋳込み時の強度保持と鋳込み後の中子除去性という相反する性能が要求される。
【0004】
このような課題を解決する技術として、特許文献1には、軽量性、加工性、廃棄物低減に優れる、無機繊維、無機粒子、特定のレゾール系フェノール樹脂及び熱可塑性樹脂を含有する、形状保持性に優れた鋳物製造用構造体が知られ、離型剤を内添できることを開示している。また、特許文献2には、樹脂成分を含む繊維成形体本体の外表面に、シリコーン系離型剤等の吸湿抑制剤が吸湿強度劣化防止のために散在されている鋳物製造用の繊維成形体が記載されている。また、特許文献3には、鋳物のガス欠陥を改善するために、有機繊維、無機繊維及びバインダーを含有する構造体(I)と、該構造体(I)の表面に付着する平均粒径1〜800nmの無機粒子とを含んで構成される鋳物製造用構造体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−155256号公報
【特許文献2】特開2007−191823号公報
【特許文献3】特開2007−21578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3に記載されているような繊維を用いた鋳物製造用構造体においては、ガス欠陥の発生防止や補強等のために、耐火粒子を含有する塗膜を表面に形成することが一般的に行われている。通常、このような塗膜は、耐火粒子、バインダー等を含む塗液を鋳物製造用構造体の表面に塗布して形成されるが、塗膜の被覆性が悪いと、ガス欠陥(ピンホール欠陥)、差込み、飛ばされ、といった欠陥が生じて、かえって鋳物品質を低下させてしまう。
【0007】
本発明の課題は、耐火粒子を含有する塗膜の被覆性及び耐剥離性に優れ、鋳物欠陥の発生を著しく低減できる鋳物製造用構造体を、鋳物製造用構造体の成形性を損なうことなく、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、無機粒子、無機繊維及び熱硬化性樹脂を含有する構造体(I)の表面に、レシチンを含む層(以下、レシチン層という)が形成されており、更に、構造体(I)及びレシチン層を被覆する、耐火粒子を含有する塗膜が形成されている、鋳物製造用構造体に関する。
【0009】
また、本発明は、
レシチンを含む薄膜を構造体(I)と接触させて、構造体(I)の表面にレシチン層を形成する工程と、
前記レシチン層が形成された構造体(I)の表面に耐火粒子を含有する塗膜を形成する工程と、
を有する上記本発明の鋳物製造用構造体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐火粒子を含有する塗膜の被覆性及び耐剥離性に優れ、鋳物欠陥の発生を著しく低減できる鋳物製造用構造体を、鋳物製造用構造体の成形性を損なうことなく、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実験例で製造した鋳物製造用構造体を模式的に示す斜視図である。
【図2】実験例で用いた成形体の通気度測定方法である。
【図3】実験例で用いた鋳型を示す概略図である。
【図4】鋳物表面の欠陥評価用に鋳物を軸方向に16分割した箇所を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の鋳物製造用構造体は、無機粒子、無機繊維及び熱硬化性樹脂を含有する構造体(I)と、該構造体(I)の表面に形成されたレシチン層と、前記構造体(I)及びレシチン層とを被覆する耐火粒子を含有する塗膜が形成されている。本発明の鋳物製造用構造体は、前記構造体(I)の表面にレシチン層を形成した後、耐火粒子を含有する塗液組成物を塗布して得ることができる。以下、本発明の鋳物製造用構造体の構成成分について説明する。
【0013】
本発明に用いられる無機粒子としては、黒鉛、黒曜石、雲母、ムライト、シリカ、マグネシア等が挙げられる。無機粒子は、これらを単独又は二以上を選択して用いることができる。鋳物のガス欠陥低減の観点から、黒鉛が好ましく、更に黒鉛の中でも、土状黒鉛及び人造黒鉛から選ばれる少なくとも1種が好ましく、人造黒鉛を用いることがより好ましい。
【0014】
前記無機粒子の平均粒子径は、鋳物のガス欠陥低減の観点から、80μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、150μm以上が更に好ましい。また、前記無機粒子の平均粒子径は、鋳物製造用構造体の熱間強度の観点から、2000μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましく、500μm以下が更に好ましい。かかる観点から、前記無機粒子の平均粒子径は、80〜2000μmが好ましく、100〜1000μmがより好ましく、150〜500μmが更に好ましい。
【0015】
ここで、無機粒子の平均粒子径は下記の第1の測定方法で測定し、算出される平均粒子径が200μm以上の場合は、その値を平均粒子径とし、算出される平均粒子径が200μm未満の場合には、下記の第2の測定方法で測定することにより求めることができる。
【0016】
〔第1の測定方法〕
JIS Z2601(1993)「鋳物砂の試験方法」附属書2に規定する方法に基づいて測定し、質量累積50%の粒径をもって平均粒子径とした。前記質量累積は、各ふるい面上の粒子を、JIS Z2601(1993)解説表2に示す「径の平均Dn(mm)」とみなして計算するものとする。
【0017】
〔第2の測定方法〕
レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)を用いて測定された体積累積50%の平均粒子径である。分析条件は下記の通りである。
・測定方法:フロー法
・屈折率:1.50(メタノールに対する相対屈折率)
・分散媒:メタノール
・分散方法:攪拌、内蔵超音波3分
・試料濃度:2mg/100cm3
【0018】
また、本発明の構造体(I)は、通気度がある程度確保されていることが好ましいため、該構造体(I)の製造に用いる無機粒子の形状係数は1.0〜2.3が好ましく、1.0〜2.1であることがより好ましい。
【0019】
本発明において、構造体(I)の製造に用いる無機粒子の形状係数は下記の方法で測定されたものである。
<無機粒子の形状係数測定方法>
無機粒子の形状係数測定方法として、社団法人 日本鋳造技術協会 平成15年12月研究調査報告書「鋳物砂粒形と鋳型特性」p10〜15に記載されている形状係数測定方法を用いる。即ち、測定装置として(株)キーエンス製「VH−5000」を用い、画像解析ソフトはキーエンス製「VHX−H2M」、倍率は50倍のマイクロスコープ画像を撮影し、画像解析を行い周囲長及び面積を求め、各種無機粒子の形状係数を次式の形状係数式に代入して算出する。画像撮影は、白紙の上に無機粒子を単分散させ1視野に無機粒子を5個以上乗せて行い、1つの試料につき無作為に20回の測定及び形状係数の算出を行い、その平均値を無機粒子の形状係数とする。
形状係数=(周囲長)2/(4π×面積)
【0020】
無機粒子の含有量は、常温強度、熱間強度及び耐熱性の観点から、構造体(I)及び/又は鋳物製造用構造体中、40〜90質量%が好ましく、50〜85質量%がより好ましい。
【0021】
無機繊維は、主として成形体の骨格をなし、例えば、鋳造時の溶融金属の熱によっても燃焼せずにその形状を維持する。無機繊維としては、炭素繊維、ロックウール等の人造鉱物繊維、セラミック繊維、天然鉱物繊維が挙げられる。前記無機繊維は、一種又は二種以上を選択して用いることができる。これらの中では、熱硬化性樹脂の炭化に伴う収縮を効果的に抑える点から高温でも高強度を有する炭素繊維が好ましく、ピッチ系やポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維がより好ましく、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維が更に好ましい。
【0022】
無機繊維は、鋳型等の構造体の成形性、均一性の観点から平均繊維長が0.5〜15mm、さらには1〜8mmであるものが好ましい。
【0023】
無機繊維の含有量は、構造体の成形性及び鋳込み時の形状保持性の観点から、構造体(I)及び/又は鋳物製造用構造体中、1〜20質量%が好ましく、2〜16質量%がより好ましい。
【0024】
熱硬化性樹脂は、構造体の常温強度及び熱間強度を維持させるとともに、構造体の表面性を良好とし、構造体を鋳型として用いた場合に鋳物の表面粗度を向上させる上で必要な成分である。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、特に、鋳造時における熱硬化性樹脂の分解ガスの発生量が少なく、燃焼抑制効果があり、熱分解(炭化)後における残炭率が25%以上と高く、構造体を鋳型に用いた場合に炭化皮膜を形成して良好な鋳肌を得ることができる点からフェノール樹脂を用いることが好ましい。フェノール樹脂には、硬化剤を必要とするノボラックフェノール樹脂、硬化剤の必要ないレゾールフェノール樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂は、一種又は二種以上を選択して用いることができる。
【0025】
また、フェノール樹脂の中でも、レゾールフェノール樹脂を単独又は併用すると、酸、アミン等の硬化剤を必要とせず、構造体成形時の臭気や、構造体を鋳型として用いた場合に鋳造欠陥を低減することができ、より好ましい。
【0026】
市販されているレゾールフェノール樹脂としては、例えば、旭有機材(株)製商品名KL−4000、エア・ウォーター(株)製ベルパールS−890などが挙げられる。
【0027】
また、熱硬化性樹脂の含有量は、構造体の成形性及び鋳込み時の形状保持性の観点と鋳物の表面平滑性の観点から、構造体(I)及び/又は鋳物製造用構造体中、1〜30質量%が好ましく、2〜25質量%がより好ましく、2〜20質量%が更に好ましい。
【0028】
本発明の鋳物製造用構造体は、鋳物製造用構造体の成形性向上の観点から、水溶性高分子化合物を含有することが好ましい。水溶性高分子化合物は、構造体(I)の製造原料である鋳物製造用構造体用組成物に添加することが好ましい。
【0029】
本発明に用いられる水溶性高分子化合物とは、通常(例えば25℃)の使用条件下で水を吸着または吸収する高分子化合物を意味し、例えば、25℃純水100gに対して1g以上溶解する水溶性高分子化合物が好ましい。
【0030】
本発明に用いられる水溶性高分子化合物としては、増粘性の多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0031】
これらの中では、成形性向上の観点から増粘性の多糖類が好ましい。ここで増粘性の多糖類とは、水系で増粘性を発現する多糖類であり、例えば、キサンタンガム、タマリンドガム、ジェランガム、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム等のガム剤、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、カラギーナン、プルラン、ペクチン、アルギン酸、寒天等が挙げられる。これら多糖類の中でも寒天のような天然物よりも、非天然物、例えば、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体は、鋳物製造用構造体用組成物における水溶性高分子化合物の配合比を少量でその性能を発揮することができる観点で好ましい。
【0032】
これら水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、好ましくは1万〜300万、より好ましくは2万〜100万である。
【0033】
構造体(I)及び/又は鋳物製造用構造体中の水溶性高分子化合物の含有量は、構造体の成形性を向上させる観点から、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、構造体の通気度を付与させる観点から、10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。かかる観点から、水溶性高分子化合物の含有量は、構造体中、0.5〜10質量%が好ましく、1〜7質量%がより好ましい。なお、水溶性高分子化合物について、「水溶性」とは、25℃の水100gに対して、1g以上溶解することをいう。
【0034】
また、本発明の鋳物製造用構造体は、熱膨張性粒子を含有することが好ましい。熱膨張性粒子は、構造体(I)の製造原料である鋳物製造用構造体用組成物に添加することが好ましい。
【0035】
本発明に用いられる熱膨張性粒子としては、熱可塑性樹脂の殻壁に、気化して膨張する膨張剤を内包したマイクロカプセルが好ましい。該マイクロカプセルは、例えば、80〜200℃で加熱すると、直径が好ましくは3〜5倍、体積が好ましくは50〜100倍に膨張する。膨張前の平均粒径は、好ましくは5〜80μm、より好ましくは20〜50μmである。熱膨張性粒子の膨張が斯かる範囲であると膨張による成形精度への悪影響を抑えた上で添加効果が十分に得られやすい。
【0036】
前記マイクロカプセルの殻壁を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル−塩化ビニリデン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はこれらの組み合わせが挙げられる。前記殻壁に内包される膨張剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソブタン、石油エーテル等の低沸点の有機溶剤が挙げられる。それらの中でも、適切な膨張開始温度や高い膨張率を得る観点から、アクリロニトリルや塩化ビニリデンからなる重合体、又はそれらを1つ以上含む共重合体で殻壁を構成することが好ましい。
【0037】
鋳物製造用構造体に熱膨張性粒子が添加される場合における、熱膨張性粒子の含有量は、構造体の成形性に優れる観点から、構造体(I)及び/又は鋳物製造用構造体中、0.5〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
【0038】
構造体(I)及び/又は鋳物製造用構造体中の熱膨張性粒子の含有量が、0.5質量%以上であると、膨張により成形原料が型の細部にわたり充填され、型の形状を忠実に転写でき、添加効果が十分に得られる観点から好ましく、また、10質量%以下であると、過膨張を防ぐことができ、余分な冷却時間を必要としないため、高い生産性を維持することができる観点から好ましい。
【0039】
本発明の鋳物製造用構造体は、前記各成分以外に、着色剤、本発明の効果を奏する範囲内で離型剤(好ましくはレシチン以外の離型剤)、コロイダルシリカ等の他の成分を適宜の割合で含有することもできる。これらの成分は、成形原料である鋳物製造用構造体用組成物に添加する、成形時或いは成形後に添加する等の方法で用いることができる。
【0040】
本発明の鋳物製造用構造体は、水を含む鋳物製造用構造体用組成物から製造された場合は、該構造体の使用前(鋳造に供せられる前)の質量含水率は5%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。含水率が低いほど、鋳造時の水蒸気に由来するガス発生量を低く抑えることができ、ガス欠陥を低減できる。
【0041】
本発明の鋳物製造用構造体は、構造体(I)の表面に、レシチン層が形成されている。一般的にレシチンは、動物、植物、微生物に多く分布し、特に大豆、酵母、卵黄、肝臓、脳、血清に含まれる。本発明に用いるレシチンはL−α−レシチンが挙げられ、大豆や卵黄に含まれるレシチンが好ましく、大豆のレシチンがより好ましい。一方、合成法から得られるレシチンを使用することもできる。
【0042】
レシチン層の形成は、構造体(I)の表面にレシチンを含有する物質(溶液、薄膜等)を接触させる方法により行うことができる。具体的には、(1)構造体(I)を、レシチンを含有する液状組成物(溶液等)に浸漬する、(2)構造体(I)に、レシチンを含有する液状組成物(溶液等)を噴霧する、(3)構造体(I)に、レシチンを含有する薄膜を転写する、等の方法により行うことができる。本発明では、(3)の方法である構造体(I)の表面に、レシチンを含有する薄膜を付着させることでレシチン層を形成するのが好ましい。この方法には、金属、プラスチック、木等、適当な材料からなる担体にレシチンを含有する薄膜を形成し、これを構造体(I)と接触させて構造体(I)の表面にレシチンを含有する薄膜を転写することが好ましい。よって、本発明では、レシチンを含む薄膜を構造体(I)と接触させて、構造体(I)の表面にレシチン層を形成する工程と、前記レシチン層が形成された構造体(I)の表面に耐火粒子を含有する塗膜を形成する工程と、を有する鋳物製造用構造体の製造方法を提供することができる。後述の通り、構造体(I)は、本発明に係る鋳物製造用構造体用組成物を成形型内に充填して製造することが好ましいため、レシチンを含有する組成物を成形型内に塗布して、構造体(I)を成形すると共に構造体(I)の表面にレシチン系離型剤を転写してレシチン層を形成することができる。その際、レシチンを含有する組成物として、例えば、コンクリートの分野でレシチン系離型剤として知られているものを使用するのが好適である。
【0043】
レシチン系離型剤の塗布方法としては噴霧が好ましく、レシチンを含有する溶液(好ましくはキャリア溶液にレシチンを所定量溶解した溶液)を、噴霧用スプレー缶に、スプレー噴霧ガス(LPG、エタン、プロパン、ジメチルエーテル、二酸化炭素等)と共に充填させた形態のものが使用できる。また、レシチンを含有する所定溶液を、手動式スプレーヤーを具備する簡便なスプレー容器に充填して噴霧することもできる。また、レシチンを含有する溶液を適量に希釈し刷毛などで直接金型に塗布することもできる。
【0044】
レシチン層の厚さは成形性の観点から0.01〜100μm、より0.05〜50μm、更に0.1〜10μmが好ましい。また、レシチン層は、本発明の効果が得られるならば、構造体(I)の表面を完全に被覆していなくてもよい。従って、レシチン層が構造体(I)の表面に散在していてもよい。前記の通り、レシチン系離型剤を塗布した成形型内に本発明に係る鋳物製造用構造体用組成物を充填して、構造体(I)を成形すると共に構造体(I)の表面にレシチン系離型剤を転写する方法では、レシチン層が構造体(I)の表面に散在した構造を得ることができる。なお、レシチン層は、成形性の観点から構造体(I)の耐火粒子を含有する塗膜が形成される面積の1〜100%、更に10〜100%、より更に30〜80%を占める割合で存在することが好ましい。レシチン層は、レシチン以外の成分を含んでいてもよいが、成形性の観点からレシチンの含有量が1〜100質量%、更に10〜100質量%であることが好ましく、実質的にレシチンからなることがより好ましい。
【0045】
本発明の鋳物製造用構造体には、構造体(I)及びレシチン層を被覆する、耐火粒子を含有する塗膜(以下、耐火塗膜という)が形成されている。耐火粒子は被覆性向上の観点から黒鉛が好ましく、なかでも鱗状黒鉛が好ましい。
【0046】
本発明で用いる鱗状黒鉛は構造体(I)から発生するガスの遮蔽性、構造体(I)との密着性などの観点から、平均粒子径が5〜100μmであることが好ましく、更に10〜80μmが好ましく、より更に20〜70μmが好ましい。
【0047】
成形性の観点から、構造体(I)の表面(レシチン層が形成されている部分の面積も含む)が50%以上、更に80%以上、より更に90%以上、耐火塗膜で被覆されていることが好ましい。
【0048】
耐火塗膜の厚さ(乾燥後の構造体の表面に鱗状黒鉛等の耐火粒子を含む塗膜を付着した断面の塗膜の肉厚)は、鋳物品質であるガス欠陥の低減効果及び被覆の垂れ性能から、1〜800μmが好ましく、更に5〜500μm、より更に50〜300μmが好ましい。なお、耐火塗膜の厚さは、以下の測定方法により求めることができる。
【0049】
<耐火塗膜の厚さ測定方法>
耐火塗膜形成前の構造体(I)(レシチン層が形成されたもの)と耐火塗膜形成後の鋳物製造用構造体の厚さをダイヤルゲージで測定し、構造体(I)の厚さとの差で耐火塗膜の厚さを求める(下記式参照)。各厚さは10箇所測定し、その平均を採用する。
耐火塗膜の厚さ=〔鋳物製造用構造体の厚さ構造体(I)の厚さ〕/2
【0050】
また、構造体(I)の表面への耐火塗膜の形成方法として、耐火粒子を含む分散液(塗液組成物)を用いた塗布、例えば刷毛塗布、スプレー塗布、静電塗装、焼付塗装、ぶっ掛け塗布、浸漬塗布等の方法が挙げられるが、付着層の厚さの均一性、効率、及び経済性の観点から、浸漬塗布が好ましい。浸漬塗布の工程を詳細に説明すると、構造体(I)を、耐火粒子を含む分散液(塗液組成物)を所定量入れた浴槽に浸漬(どぶ漬け)する。浸漬温度(分散液温度)は5〜40℃の範囲が好ましく、更に好ましくは15〜30℃、更に好ましくは20〜30℃の範囲で且つ恒温になるように設備設定することが好ましい。また、生産性の面から浸漬時間は1〜60秒の範囲が好ましく、バッチ又は連続的に浸漬することができる。また、耐火粒子を含む塗膜の膜厚を調整するために、耐火粒子を含む分散液を塗布した構造体(I)に、振動テーブル等で振動を与えることができる。このように、構造体(I)(好ましくは予め100〜300℃で熱処理した構造体(I))表面に耐火粒子を付着したものを、より強固な付着状態とするには乾燥工程を行うことが好ましい。乾燥方法としてヒーターによる熱風乾燥、遠赤外乾燥、マイクロ波乾燥、過熱蒸気乾燥等が挙げられるが、限定されるものではない。熱風乾燥機を用いて乾燥させる場合は乾燥炉内中心部の乾燥温度については100〜500℃の範囲が好ましく、更に有機物やバインダーの熱分解による影響及び発火による安全性の観点から105〜300℃の範囲がより好ましい。なお分散媒としては、水、アルコール等が挙げられ、水が好ましい。また、分散媒は耐火粒子100質量部に対して、20〜100質量部、更に25〜70質量部用いられることが好ましい。
【0051】
耐火塗膜は、鋳物製造用構造体の耐熱性向上の観点から、更に耐火粒子以外の粘土鉱物を含有することが好ましい。また、粘土鉱物を、耐火塗膜を得るための分散液(塗液組成物)に配合することで、適度な粘度を付与することができる。粘土鉱物としては、層状ケイ酸塩鉱物、複鎖構造型鉱物などが挙げられ、これらは天然、合成を問わない。層状ケイ酸塩鉱物としては、スメクタイト属、カオリン属、イライト属に属する粘土鉱物、例えばベントナイト、スメクタイト、ヘクトライト、活性白土、木節粘土、ゼオライト等が挙げられる。複鎖構造型鉱物としては、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト等が挙げられる。好ましくは、アタパルジャイト、ベントナイト、スメクタイト群より選ばれる一種以上が挙げられる。粘土鉱物は、耐火粒子100質量部に対して、1〜30質量部、更に3〜20質量部用いられることが好ましい。
【0052】
また、耐火塗膜を形成する際に水溶性バインダーを用いることが、鋳物製造用構造体の常温強度、耐熱性向上の観点から好ましい。水溶性バインダーとしては、例えば、水溶性アルキド樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、水溶性アクリル樹脂、水溶性多糖類、酢酸ビニル樹脂又はその共重合体、硫酸塩、珪酸塩、燐酸塩等の水溶性無機バインダ−などが挙げられる。好ましくは、アラビアガム、水溶性フェノール樹脂及びリン酸アルミニウムからなる群より選ばれる一種以上が挙げられる。水溶性バインダーは、耐火粒子100質量部に対して、有効分換算で、1〜30質量部、更に1〜20質量部用いられることが好ましい。なお、水溶性バインダーについて、「水溶性」とは、25℃の水100gに対して、3g以上溶解することをいう。
【0053】
これら粘土鉱物及び/又は水溶性バインダーは、耐火粒子を含む分散液(塗液組成物)の調製時に配合して用いることが好ましい。
【0054】
本発明に係る塗液組成物は耐火粒子を含有し、前記で述べた理由により、好ましくは、更に粘土鉱物及び/又は水溶性バインダーを含有する。
【0055】
本発明に係る塗液組成物は、前記で述べたように、耐火粒子、粘土鉱物及び水溶性バインダー等の固形分材料に水やアルコール等の分散媒を添加して、攪拌してスラリー状に製造する。得られた塗液組成物は、水やアルコール等の分散媒で適度に希釈してレシチン層が形成された構造体(I)に前記した手段で塗布する。その後、乾燥工程を経て耐火塗膜がレシチン層が形成された構造体(I)の表面に形成され、本発明の鋳物製造用構造体が得られる。
【0056】
本発明により得られた鋳物製造用構造体は、内面に鋳物製品形状のキャビティを有する主型、その主型に入れて使用する中子、或いは湯道などの注湯系部材、フィルター保持具等に適用することができるが、本発明の鋳物製造用構造体が表面平滑性に優れており、良好な鋳肌の鋳物を得ることができるため、主型や中子への適用が好ましい。特に本発明の鋳物製造用構造体は、鋳物のガス欠陥低減効果に優れる為、注型時に溶湯金属に覆われてガス欠陥が発生しやすくなる中子への適用が好ましく、中空中子への適用がより好ましい。
【0057】
<鋳物製造用構造体の製造方法>
次に、本発明の鋳物製造用構造体の製造方法を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。
【0058】
本発明の鋳物製造用構造体の製造方法は、レシチンを含む薄膜を構造体(I)と接触させて、構造体(I)の表面にレシチン層を形成する工程〔以下、工程1という〕と、前記レシチン層が形成された構造体(I)の表面に耐火粒子を含有する塗膜を形成する工程〔以下、工程2という〕とを有することが好ましい。
【0059】
工程1としては、具体的には、無機粒子、無機繊維、熱硬化性樹脂及び分散媒を含有する鋳物製造用構造体用組成物(成形原料)を調製し、当該組成物を、レシチン系離型剤を塗布した成形型内に充填し、該成形型を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させて成形して構造体(I)を得ると共に、構造体(I)の表面にレシチン系離型剤を転写してレシチン層を形成することが好ましい。すなわち、工程1を、構造体(I)の表面にレシチン層を形成する工程を、構造体(I)の成形原料を型に充填して成形する際に、前記型表面に形成したレシチンを含む薄膜を前記成形原料の表面に転写することにより行うことが好ましい。
【0060】
工程2としては、具体的には、レシチン層が形成された構造体(I)の表面に、耐火粒子を含有する塗液組成物を塗布して、構造体(I)及びレシチン層を被覆する耐火塗膜を形成するのが好ましい。耐火塗膜の形成は前記の通り行うのが好ましい。
【0061】
本発明の鋳物製造用構造体の製造方法は、
無機粒子、無機繊維、熱硬化性樹脂及び分散媒を含有する鋳物製造用構造体用組成物を、レシチン系離型剤を塗布した成形型内に充填し、該成形型を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させて成形して構造体(I)を得ると共に、構造体(I)の表面にレシチン系離型剤を転写してレシチン層を形成し、
前記レシチン層が形成された構造体(I)の表面に、耐火粒子を含有する塗液組成物を塗布して、構造体(I)及びレシチン層を被覆する、耐火粒子を含有する塗膜を形成する、
本発明の鋳物製造用構造体を製造する方法として実施できる。
【0062】
鋳物製造用構造体用組成物中に、水溶性高分子化合物を含有することによって、成形原料中にポリマー分子鎖によるマトリクスを形成して分散媒との分離を抑制できていると考えられる。また、同時に成形原料の凝集も抑制し、当該組成物の流動性を確保し、当該構造体の成形性向上に寄与していると考えられる。
【0063】
本発明に使用される好適な鋳物製造用構造体用組成物の各成分の配合比(質量比率)は、無機粒子/無機繊維/熱硬化性樹脂/水溶性高分子化合物=40〜90/1〜20/1〜30/1〜10(質量比率)が好ましく、50〜85/2〜16/2〜25/1〜7(質量比率)がより好ましく、50〜85/2〜16/2〜20/1〜7(質量比率)がさらに好ましい。(ただし上記質量比率に用いる各成分の数値の合計は100である。)また、鋳物製造用構造体用組成物中、(1)無機粒子、無機繊維及び熱硬化性樹脂の合計含有量、又は、(2)無機粒子、無機繊維、熱硬化性樹脂及び水溶性高分子化合物の合計含有量、又は、(3)無機粒子、無機繊維、熱硬化性樹脂及び熱膨張性粒子の合計含有量、又は、(4)無機粒子、無機繊維、熱硬化性樹脂、水溶性高分子化合物及び熱膨張性粒子の合計含有量は、90〜100質量%、更に95〜100質量%であることが好ましい。なお、鋳物製造用構造体用組成物中、紙繊維、フィブリル化した合成繊維、再生繊維等の有機繊維の含有量は0.1質量%以下、更に0.05質量%以下とすることができる。有機繊維を含有させることにより、構造体自体の強度が向上するが、有機繊維の熱分解ガスが発生し易くなり、ガス欠陥を誘発するおそれがある。
【0064】
無機粒子の配合量が前記範囲であると、鋳込み時での形状保持性、成形品の表面性が良好となり、また成形後の離型性も好適となり易い。無機繊維の配合量が前記範囲であると、成形性、鋳込み時の形状保持性が良好となり易い。熱硬化性樹脂の配合量が前記範囲であると、鋳型の成形性、鋳込み後の形状保持性、表面平滑性が良好となり易い。水溶性高分子化合物の配合量が前記範囲であると、成形原料(成形体製造用組成物に分散媒を添加し調製して得られる原料)を成形型内に充填する際に、成形原料中の分散媒が分離することなく流動性が良好な状態で充填可能であるとともに、得られる構造体の通気性が良好となり易い。
【0065】
鋳物製造用構造体用組成物を調製するにあたり、無機粒子、前記無機繊維、前記熱硬化性樹脂を予め乾式で混合することが好ましく、均一に混合できる観点及び成形性向上の観点から、更に水溶性高分子化合物も予め乾式で混合することが好ましく、成形性の観点から、更に熱膨張性粒子も予め乾式で混合することが好ましい。そしてこれらの混合物を、分散媒に分散させて混練機で混練し、鋳物製造用構造体用組成物をドウ状に調製することが好ましい。該ドウ状の鋳物製造用構造体用組成物をレシチン系離型剤を塗布した成形型内に充填し、該成形型を加熱して前記熱硬化性樹脂を硬化させて成形することが好ましい。また、この工程により、構造体(I)の表面にレシチン系離型剤を転写してレシチン層を形成する。
【0066】
ここで、鋳物製造用構造体用組成物をドウ状に調製するとは、無機粒子、無機繊維、及び熱硬化性樹脂を含む組成物と分散媒を捏和混練し、流動性を有しながらも無機粒子及び無機繊維と分散媒が容易に分離することがない状態に調製することをいう。
【0067】
分散媒としては、水、エタノール、メタノール等の溶剤又はこれらの混合系等の水系の分散媒が挙げられる。成形体の品質の安定性、費用、取り扱い易さ等の点から水が好ましい。
【0068】
分散媒の鋳物製造用構造体用組成物中の含有量は、流動性を有しながらも無機粒子及び無機繊維と分散媒が容易に分離することがない状態に鋳物製造用構造体用組成物を調製できる観点から、無機粒子、無機繊維、熱硬化性樹脂及び水溶性高分子化合物の総質量に対し、好ましくは10〜100%(質量%)であり、より好ましくは25〜80%(質量%)であり、さらに好ましくは30〜70%(質量%)である。
【0069】
次に、本発明の鋳物製造用構造体の製造方法に使用する成形型は、例えば、図1に示す中空棒状品に対応したキャビティを有する主型と中空を形成する芯材とを備えることによって構成される。
【0070】
成形型の温度は、分散媒の蒸発、熱硬化性樹脂の硬化や熱膨張性粒子の膨張を考慮して、120〜250℃程度に加熱される。
【0071】
次に、成形型にはゲートの開閉手段を設けることにより、鋳物製造用構造体用組成物が成形型に充填される。充填圧力は、エア圧力を手段にした場合は、0.5〜3MPa程度が好適である。
【0072】
次に、成形型された鋳物製造用構造体用組成物は、成形型の温度により分散媒由来の蒸気、熱硬化性樹脂由来のガス等が発生するのを、成形型外へ放出させつつ乾燥させ、冷却後、必要に応じてトリミング等を行うことができる。なお、成形型へのレシチン系離型剤の塗布、構造体(I)表面への転写は前記の通り行う。これにより、表面にレシチン層が形成された構造体(I)が得られる。
【0073】
更に、レシチン層が形成された構造体(I)の表面に、耐火粒子を含有する塗液組成物を塗布して、構造体(I)及びレシチン層を被覆する耐火塗膜を形成する。耐火塗膜の形成は前記の通り行う。
【0074】
本発明により製造された鋳物製造用構造体は、鋳物砂内及びバックアップ粒子(鋳物砂の替わりにショット玉やその他の粒子)内に配し、主型、中子、湯道(注湯系)や揚がり湯道として使用することができ、鋳物欠陥であるガス欠陥を低減した鋳物を製造することができる。
【0075】
すなわち、本発明に係るレシチン層が形成された構造体(I)の原料やその組成比率を適正化し、且つ該構造体(I)の表面に耐火塗膜を形成することにより、鋳物のガス欠陥を改善できる鋳物製造用構造体を提供することができる。本発明により、鋳物のガス欠陥が改善される理由として定かではないが、熔湯に接する表面側に付着、好ましくは付着層を形成している耐火粒子が熔湯側へ進入するガスをバリアし、かつ、熔湯に接しない面から鋳型外へガスを排除できている結果によるものと推定される。
【0076】
その場合のレシチン層が形成された構造体(I)の熔湯に接する表面に耐火塗膜を形成する方法としては、耐火粒子を含む分散液(塗液組成物)を用いた浸漬塗布、刷毛塗布、スプレー塗布が好ましい。
【0077】
本発明により製造される鋳物製造用構造体中における耐火塗膜に由来する耐火粒子の質量は、0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜25質量%であることがより好ましい。
【0078】
<鋳物の製造方法>
次に、本発明の鋳物製造用構造体を用いた鋳物の製造方法を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。本実施形態の鋳物の製造方法では、上述のようにして得られた鋳物製造用構造体を鋳物砂内の所定位置に埋設して造型する。鋳物砂には、従来からこの種の鋳物の製造に用いられている通常のものを特に制限なく用いることができる。
【0079】
そして、注湯口から溶融金属を注ぎ入れ、鋳込みを行う。このとき、本発明の構造体は、熱間強度が維持され、鋳物製造用構造体の熱分解に伴う熱収縮が小さいため、各鋳物製造用構造体のひび割れや、鋳物製造用構造体自体の破損が抑制され、溶融金属の鋳物用構造体への差込みや鋳物砂などの付着も生じにくい。
【0080】
鋳込みを終えた後、所定の温度まで冷却し、鋳枠を解体して鋳物砂を取り除き、さらにブラスト処理によって鋳物製造用構造体を取り除いて鋳物を露呈させる。この時、前記熱硬化性樹脂が熱分解しているため、鋳物製造用構造体の除去処理は容易である。その後必要に応じて鋳物にトリミング処理等の後処理を施して鋳物の製造を完了する。
【0081】
更に好ましい鋳物の製造方法としては、本発明の鋳物製造用構造体を中空中子として使用する態様であり、鋳型内に中空中子を、中空中子の開口部の少なくとも1つが鋳型外に開放するように配置し、次いで、鋳型内に溶融金属を注湯する方法が挙げられる。
【0082】
具体的には、図3に示すように、図1の中空中子を主型に配置し、ケレンにより中空中子を支持し、中空中子の開口部の1つが鋳型外に開放するように配置し、次いで、鋳型内に溶融金属を注湯して鋳物を製造する方法が挙げられる。
【0083】
尚、中空中子の開口部の1つが鋳型外に開放するように配置する方法としては、主型に中空中子の中空部と連通するように開口部を備える方法でもかまわない。
【実施例】
【0084】
実施例1〜4、比較例1〜7
<鋳物製造用構造体用組成物の調製>
無機粒子71g、無機繊維12g、熱硬化性樹脂10g、水溶性高分子化合物5g〔下記CMC(1)を3gと下記CMC(2)を2g〕及び熱膨張性粒子2gからなる原料100gに水175gを添加し、20〜40℃において2000rpmで10分間攪拌して、固形分材料濃度が36.4質量%(鋳物製造用構造体用組成物中、固形分材料が36.4質量%)、水分濃度が63.6質量%である鋳物製造用構造体用組成物を調製した。それぞれの成分は、下記の通りである。
【0085】
[無機粒子]
土状黒鉛:(株)中越黒鉛工業所製「AE−1」、平均粒子径425μm、形状係数2.05
【0086】
[無機繊維]
炭素繊維:PAN炭素繊維(三菱レーヨン(株)製、商品名「パイロフィルチョップドファイバー」、平均繊維長3mm)
【0087】
[熱硬化性樹脂]
フェノール樹脂:エア・ウォーター(株)製「ベルパールS−890」(レゾールタイプ)
【0088】
[熱膨張性粒子]
熱膨張性粒子:松本油脂製薬(株)製、商品名「マツモトマイクロスフェアーF−48D」、膨張開始温度120℃
【0089】
[水溶性高分子化合物]
CMC(1):カルボキシルメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)製「セロゲンMP−60」、重量平均分子量:37万〜40万、25℃の水100gに対して、3g以上溶解)
CMC(2):カルボキシルメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)製「HE−1500F」、重量平均分子量:33万〜36万、25℃の水100gに対して、3g以上溶解)
【0090】
<構造体(I)の製造>
図1に示す中空棒状品に対応するキャビティを有する主型と中空を形成する芯材を備える成形金型(上下金型)のキャビティ表面に、3秒間離型剤を噴霧し、上記で調製した鋳物製造用構造体用組成物をエア圧力1MPaで、160℃に加熱された成形金型へ充填した。5分間加熱することにより、外形11mm(中空部径5mm)×長さ380mmの図1に示す中空棒状品〔構造体(I)〕を得た。中空棒状品〔構造体(I)〕の表面には離型剤が転写されていた。レシチン系離型剤を用いたものは、レシチンからなる厚さ1μmの層が、耐火粒子を含有する塗膜が形成される表面の65%(面積基準)で形成されていた。なお、用いた離型剤は下記の通りである。
【0091】
レシチン系離型剤(1):レシチン〔和光純薬工業(株)製 試薬1級〕10gを、エタノール40g及びトルエン40gに分散溶解させた溶液を、300ccの噴霧式スプレー容器に入れたもの。
レシチン系離型剤(2):(株)タイホーコーザイ製 タイホーコーザイ離型剤 00124
ふっ素系離型剤:ダイキン工業(株)製 ふっ素系離型剤ダイフリー GA−6010
シリコーン系離型剤:コニシ(株)製 離型剤URA−202
【0092】
<構造体(I)の成形性評価>
上記により製造された構造体(I)の表面を観察し、以下の基準で成形性を評価した。結果を表2に示す。
A:構造体(I)の表面が金型表面形状同様に凹凸がなく綺麗に転写したもの
B:構造体(I)の表面が金型表面形状に近く、やや凹凸がみられるもののほぼ滑らかに転写したもの
C:構造体(I)の表面が金型表面形状同様に転写せず、荒れているもの
【0093】
<塗液組成物の調製>
耐火粒子、粘土鉱物、水溶性バインダーの組成及び配合率(質量比率)が表1に示すような固形分材料と、水[水の量は、該固形分材料と水との混合物の針入度200〔(株)離合社製800S−01、25℃で測定〕となる量とする]とを混練機にて15分間混練し、ペースト状〔針入度200、(株)離合社製800S−01、25℃で測定〕の組成物(表中、塗液組成物と表記する)を得た。尚、表1に示すそれぞれの成分は、下記の通りである。
【0094】
[耐火粒子]
鱗状黒鉛:伊藤黒鉛工業(株)製「SRP−100」、平均粒子径33μm
【0095】
[粘土鉱物]
アタパルジャイト:林化成(株)製、商品名「アタゲル50」
ベントナイト:クリミネ工業(株)製、商品名「クニゲル VA」
【0096】
[水溶性バインダー]
アラビアガム:三栄薬品貿易(株)製、商品名「アラビアガム末KC」
レゾールフェノール樹脂:昭和高分子(株)製、商品名「BRL−1583」
第一リン酸アルミニウム:太平化学産業(株)製、商品名「50%第一リン酸アルミニウム液」
【0097】
<耐火塗膜の形成>
上記のペースト状の塗液組成物を水で希釈して、表1に示すような濃度(ボーメ度)に調整し、前記構造体(I)を浸漬塗布(液温23℃、5秒間)した後、塗液組成物(未乾燥状態)が付着した構造体(I)を取り出した。その後200℃で30分間、熱風乾燥機で乾燥させ、耐火塗膜が形成された鋳物製造用構造体を得た。耐火塗膜の厚さ(測定方法は前記の通り)を表2に示す。
【0098】
<塗液組成物の構造体(I)に対する被覆性評価>
上記の耐火塗膜の形成において、構造体(I)に塗液組成物が付着した状態(未乾燥状態)及び耐火塗膜の状態(乾燥状態)を観察し、以下の基準で塗液組成物の構造体(I)に対する被覆性を評価した。結果を表2に示す。
A:塗液組成物の付着性が優れ、形成された耐火塗膜の平滑性が非常に優れる。
B:塗液組成物の付着性が優れ、形成された耐火塗膜の平滑性が優れる。
C:塗液組成物の付着性がやや劣り、形成された耐火塗膜の平滑性がやや劣る。
D:塗液組成物の付着性が劣り、形成された耐火塗膜の平滑性が劣る。
【0099】
<耐火塗膜の耐剥離性評価>
耐火塗膜が形成された鋳物製造用構造体に、幅50mm、長さ185mmの粘着テープ(日東工業(株)製:日東テープ)を巻きつけ、十分接着させ、再びその粘着テープを剥がした。その粘着面に剥離した耐火塗膜の重量を正確に測定した。従って、剥離した耐火塗膜の重量が少ない程、耐火塗膜の耐剥離性が良好であることを示す。結果を表2に示す。
【0100】
<構造体(I)及び鋳物製造用構造体の通気度測定方法>
JIS Z2601(1993)「鋳物砂の試験方法」に基づいて規定された、「消失模型用塗型剤の標準試験方法」(平成8年3月 社団法人日本鋳造工学会関西支部)の「5.通気度測定法」に従い、当該刊行物(24ページ図5−2)に記載された通気度測定装置(コンプレッサー空気通気方式)と同等原理の装置を用いて測定した。通気度Pは「P=(h/(a×p))×v」で表わされる。式中はそれぞれ、h:試験片厚さ(cm)、a:試験片断面積(cm2)、p:通気抵抗(cmH2O)、v:空気の流量(cm3/min)である。
【0101】
ここで、試験片厚さは前記中空棒状品〔構造体(I)又は鋳物製造用構造体〕の肉厚すなわち「(外径−中空部直径)/2」とし、試験片断面積は「中空部直径×円周率×長さ」とした。
【0102】
測定に際して、図2に示すとおり通気度試験器には前記中空棒状品の中空部に漏れなく接続できるようゴムチューブ及び接続冶具(パッキン)を取り付け、更に前記中空棒状品の中空部の片端に前記接続冶具を隙間無く接続し、他方の片端を空気の漏れを防ぐためパッキンで塞ぎ、測定を行った。結果を表2に示す。
【0103】
<鋳物の鋳造>
図3に示すように図1の中空棒状品(中空中子)を主型に配置した鋳型を使用し、下記熔湯を注入して下記形態の鋳物を鋳造した。
熔湯:鋳鉄 JIS FC300相当、熔湯温度1400℃
鋳物の形態:外径54mm、長さ280mm、中空部径11mmの中空棒状
鋳型(主型):シェルモールド鋳型で鋳物中心線を水平分割面とした上下割型
【0104】
<鋳物の品質評価>
鋳造された鋳物の中子面の鋳物品質を評価するため、図4のように鋳物を軸方向に切断し、目視でそれぞれ発生した欠陥の種類と個数を集計した。この評価は、鋳物内面中空部の欠陥の種類と欠陥発生部位を調査するものである。評価する欠陥の種類は下記の3つであり、表2に、図4に基づき欠陥が発生した部位(図4中の部位)について併記した。
・塗膜の飛ばされた欠陥数:鋳造時において、中子表面の耐火塗膜が剥がれ鋳物表面が凸状になっているものの数
・差込の欠陥数:鋳物中子面表面の金属が中子に浸透固着したものであって、鋳物中子面表面が荒れている状態のものの数
・ピンホールの欠陥数:比較的小さな球状で気泡状の巣であり、肉眼で確認できるものの数
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
*1:比較例7は、レシチン系離型剤(1)を鋳物製造用構造体用組成物に配合し、成形金型には離型剤を噴霧せずに成形して得た構造体(I)を用いた。すなわち、前記構造体(I)の原料99gに対し、レシチン系離型剤(1)(原液)1gを混合し、水175gを添加し、20〜40℃において2000rpmで10分間攪拌して、固形分材料濃度が36.0質量%、水分濃度が64.0質量%の鋳物製造用構造体用組成物を調製し、これを用いて成形金型(上下金型)のキャビティ表面への離型剤の噴霧はせずに、製造した構造体(I)を用いた。比較例7の構造体(I)は、レシチン系離型剤の一部は表面に点在(露出)するが、層として認識できる状態では存在しない。耐火塗膜の製造は前記と同様に行った。
【0108】
表2に示すように、レシチン系離型剤を成形金型に噴霧して構造体(I)を成形した実施例1〜4は、構造体(I)の成形性、塗液組成物の構造体(I)に対する被覆性、耐火塗膜の耐剥離性、通気度及び鋳物品質の全てにおいて、比較例1〜7より顕著に優れていることが分かる。なかでも、レシチン系離型剤を使用し、塗液組成物(iii)を用いた実施例1及び4では、塗液組成物の構造体(I)に対する被覆性と耐火塗膜の耐剥離性がより良好となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子、無機繊維及び熱硬化性樹脂を含有する構造体(I)の表面に、レシチンを含む層(以下、レシチン層という)が形成されており、更に、構造体(I)及びレシチン層を被覆する、耐火粒子を含有する塗膜が形成されている、鋳物製造用構造体。
【請求項2】
前記鋳物製造用構造体が中子である請求項1記載の鋳物製造用構造体。
【請求項3】
レシチン層の厚さが0.01〜100μmである請求項1又は2記載の鋳物製造用構造体。
【請求項4】
レシチンを含む薄膜を構造体(I)と接触させて、構造体(I)の表面にレシチン層を形成する工程と、
前記レシチン層が形成された構造体(I)の表面に耐火粒子を含有する塗膜を形成する工程と、
を有する請求項1〜3の何れか1項記載の鋳物製造用構造体の製造方法。
【請求項5】
構造体(I)の表面にレシチン層を形成する工程を、構造体(I)の成形原料を型に充填して成形する際に、前記型表面に形成したレシチンを含む薄膜を前記成形原料の表面に転写することにより行う、請求項4記載の鋳物製造用構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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