説明

鋳造における空洞欠陥の原因の識別方法

【課題】非破壊で空洞欠陥を調べることが可能であり、かつ空洞欠陥の発生原因を識別することが可能である、鋳造における空洞欠陥の原因の識別方法を提供する。
【解決手段】鋳造品に対して、X線CT装置を用いて透過画像を得た後、得られた画像において空洞欠陥を抽出し、この抽出した空洞欠陥に関するパラメータの空間分布のフラクタル次元の値を算出し、算出されたフラクタル次元の値から前記空洞欠陥の原因を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種金属の鋳造において生じる、内部の空洞欠陥の原因を、非破壊で識別する識別方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造法は、大量生産が可能であることから高い生産性を有する等、様々な利点がある(例えば、非特許文献1参照)。
このダイカスト鋳造法は、鋳型内に、アルミニウム合金や亜鉛合金等の高温に加熱されて溶融状態にある溶湯金属を圧入することによって、この溶湯金属を鋳型内のガスと置換して、鋳型内部で冷却されることによって、鋳造物の製品を得るものである。
【0003】
しかし、ダイカスト鋳造法では、製品内における鋳巣の発生が避けられない(例えば、非特許文献2参照)。
鋳巣には、ガスの巻き込みによる「ガス欠陥」や、溶湯金属の凝固収縮により生じる「引け巣」がある。
【0004】
鋳巣は、製品の強度や、カーエアコン用コンプレッサー等の耐圧性製品の気密性に、多大な影響を及ぼす。
そのため、実際の生産現場では、適切な鋳造方法・条件や金型を採用し、いかに鋳巣を許容範囲内に収めることができるかが重要である。
【0005】
新しく鋳造方法・条件や金型を検討している場合や、製品製造中に不良品ができた場合等では、製品内部に発生した鋳巣を手がかりに、その発生原因を特定し、鋳造方法・条件や金型を改善する必要がある。
【0006】
現状では、X線透過装置や切断により、鋳巣の位置・大きさ・分布状況等を定性的に把握することはできるが、鋳巣の発生要因を特定するためには、専門家による組織分析を必要としている。
しかし、定性的な把握によって正確な原因を特定するには、生産現場での長年の経験が不可欠となっている。そのため、経験不足等に起因して、誤った判断を下して全く逆効果の対策を採ってしまうことや、重要な情報を見逃してしまうこともある。
【0007】
鋳巣の発生原因を正確かつ迅速に特定するためには、鋳巣の形状や分布状況等の特徴を定量化し、定量的に判断するのが有効である。
鋳巣は、上述した「ガス欠陥」と「引け巣」とに大別される。「ガス欠陥」はガスの要因が強く、「引け巣」は引け(収縮)の要因が強く、発生原因が異なっている。また、それぞれで、鋳巣の形状や分布状況等が異なっている。
ガスの要因と引けの要因とが混在した鋳巣も数多く存在するが、どちらの要因が主であるか定量的に判別できれば、その対策をとることが可能である。
【0008】
ガス欠陥は、射出部内の空気やガス化した潤滑剤、金型内の空気やガス化した離型剤が、溶湯金属中に巻き込まれ、製品内部に気泡として残留することにより生じる。
その対策としては、例えば、空気の逃げ道であるチルベントの位置調整や、潤滑剤・離型剤の量調整等が考えられる。
【0009】
一方、引け巣は、金型内に充填された溶湯金属が凝固収縮する際に、金型に接触している外周部が早く凝固してしまい、溶湯金属の補給が途絶えて、収縮分を補充できないことにより生じる。
その対策としては、例えば、金型の温度の調整や湯口の形状や位置の調整等が考えられる。
【0010】
ところで、従来は、鋳造品内部の空洞欠陥を調べるために、作製した鋳造品を切断していた。
そして、露出した切断面を観察していた。
【0011】
しかしながら、作製した鋳造品を切断して空洞欠陥を調べる方法では、調べた鋳造品は欠陥がなくても製品としては使用できなくなる。また、切断するための時間及び工程を要する。また、切断面を電子顕微鏡で観察する場合には、切断面を研磨する工程等も必要になる。
【0012】
これに対して、非破壊で空洞欠陥を調べることができれば、切断のための時間と工程が不要になる。また、調べた結果、空洞欠陥が無かった鋳造品については、製品として使用することが可能になる。
【0013】
【非特許文献1】社団法人日本ダイカスト協会,「ダイカストって何?」,(2004),p.26
【非特許文献2】社団法人日本鋳造工学会, 「ダイカストの鋳造欠陥・不良及び対策事例集」,(2000) p.7,pp.27-34
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
定量的な評価としては、例えば、個々の鋳巣の輪郭線形状に対して、フラクタル解析を行って、フラクタル次元を算出する方法が考えられる。
ガス欠陥と引け巣とでは、鋳巣の形状が異なることから、輪郭線形状についてのフラクタル次元の値に、ある程度の差を生じる。そのため、フラクタル次元の値から、鋳巣の発生原因を定量的に評価することが可能になる。
【0015】
一方、非破壊で空洞欠陥を調べる方法としては、例えば、X線透過装置や、X線CT装置等を用いて、鋳造品にX線を透過させて、内部構造の情報を得ることが考えられる。
【0016】
しかしながら、鋳造品にX線を透過させた場合には、鋳造品を切断して切断面を観察した場合に得られる画像等のような鮮明な画像を得ることが難しい。そのため、輪郭線形状についてのフラクタル次元の値を高い精度で得ることが難しく、空洞欠陥の発生原因を識別することが困難になる。
なお、鋳造品を切断した場合には、切断面を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察することにより、鮮明な画像を得て、高い精度で輪郭線形状についてのフラクタル次元の値を算出することが可能である。
【0017】
上述した問題の解決のために、本発明においては、非破壊で空洞欠陥を調べることが可能であり、かつ空洞欠陥の発生原因を識別することが可能である、鋳造における空洞欠陥の原因の識別方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の鋳造における空洞欠陥の原因の識別方法は、鋳造品に対して、X線CT(コンピュータ断層撮影;Computed Tomography)装置を用いて透過画像を得た後、得られた画像において空洞欠陥を抽出し、この抽出した空洞欠陥に関するパラメータの空間分布のフラクタル次元の値を算出し、算出されたフラクタル次元の値から前記空洞欠陥の原因を特定するものである。
【0019】
上記本発明の鋳造における空洞欠陥の原因の識別方法において、さらに、前記空洞欠陥に関するパラメータの空間分布のフラクタル次元として、空洞欠陥の面積の空間分布のフラクタル次元の値を算出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
上述の本発明によれば、鋳造物をフラクタル次元という定量的判定で、空洞欠陥の発生原因を特定するので、生産現場での長年の経験がなくても、容易に短時間で空洞欠陥の発生原因を特定することができる。
また、鋳造品に対して、X線CT装置を用いて透過画像を得るため、非破壊で鋳造品内部の空洞欠陥の情報を得ることができる。これにより、鋳造品を切断する工程や、電子顕微鏡用の試料を作製する工程にかかる時間や手間を必要としない。さらに、調べた結果、空洞欠陥が無かった鋳造品については、製品として使用することが可能になる。
【0021】
従って、本発明により、製造者において即応的な対処が可能となり、不良品の発生を低減し、作業の簡易化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の鋳造における空洞欠陥の原因の識別方法は、鋳造品に対して、X線CT(コンピュータ断層撮影;Computed Tomography)装置を用いて透過画像を得た後、得られた画像において空洞欠陥を抽出し、この抽出した空洞欠陥に関するパラメータの空間分布のフラクタル次元の値を算出し、算出されたフラクタル次元の値から前記空洞欠陥の原因を特定するものである。
空洞欠陥に関するパラメータの空間分布のフラクタル次元としては、例えば、空洞欠陥の面積の空間分布のフラクタル次元が挙げられる。空洞欠陥の面積の空間分布の他にも、空洞欠陥の大きさ(最大径や代表径)の空間分布、空洞欠陥の形状係数(最大径/最少径、等)の空間分布等が考えられる。
以下では、主に、空洞欠陥の面積の空間分布のフラクタル次元を算出する場合について、説明する。
【0023】
本発明の鋳造における空洞欠陥の原因の識別方法を実施するには、X線CT装置と、コンピュータ等の演算装置とを、少なくとも使用する。
X線CT装置としては、一般的な市販の装置を使用することができる。
コンピュータ等の演算装置では、画像データの2値化、2値化したデータからの空洞欠陥(鋳巣)の抽出、抽出したそれぞれの空洞欠陥(鋳巣)の面積の計算、並びに、面積の空間分布のフラクタル次元の算出の各過程を行う。
これらの各過程については、コンピュータのソフトウェアで実行する構成、或いは、回路等でハードウェア的に実行する構成を、それぞれ採用することが可能であるが、全ての過程をコンピュータのソフトウェアで実行すれば、X線CT装置の画像から、迅速にフラクタル次元の算出を行うことができる。
【0024】
そして、好ましくは、X線CT装置と演算装置との間を信号線で接続して、X線CT装置で得られた画像を演算装置に送るように構成する。
【0025】
さらにまた、あらかじめ空洞欠陥の種類(ガス欠陥と引け巣)毎の面積の空間分布のフラクタル次元の値を求めたデータベースを用意しておいて、演算装置において、算出したフラクタル次元の値とデータベース内に記録されたフラクタル次元の値とを照合して識別を行うようにしても構わない。
【0026】
面積の空間分布のフラクタル次元の算出方法としては、例えば、後述する試験で説明するように、各空洞欠陥(鋳巣)について、その面積Aよりも大きい面積を持つ空洞欠陥(鋳巣)の数Nを算出していき、多数の空洞欠陥(鋳巣)の面積A及び数Nをプロットして、フラクタル性を有する部分の傾きよりフラクタル次元を算出する。
フラクタル次元の値そのものにはあまり意味がないが、同じ材質(例えば、アルミニウム合金)を対象とし、同じ条件の下での解析であれば、値を比較することが可能となるので、空洞欠陥(鋳巣)の面積の空間分布の違いを定量的に識別することが可能となる。
【0027】
そして、ガス欠陥が要因の空洞欠陥(鋳巣)は、引け巣が要因の空洞欠陥(鋳巣)と比較して、面積の空間分布のフラクタル次元の値が大きくなることがわかっている。
そこで、例えば、特定の値Xを境界として、フラクタル次元の値Dが、D<Xであれば引け巣が主要因であり、D>Xであればガス欠陥が主要因であると特定することが可能である。
なお、材質や条件によって、ガス欠陥が要因の空洞欠陥と、引け巣が要因の空洞欠陥とが混在することがある。この場合でも、フラクタル次元の値Dから、どちらの要因の空洞欠陥が主であるかを特定することができる。
【0028】
空洞欠陥(鋳巣)の面積の空間分布のフラクタル次元の値Dは、鋳造品の材質(金属・合金の種類や合金組成)や鋳造条件(寸法形状や温度等)によって異なる。
これに対して、同一の製品であれば材質や条件が同様であるため、フラクタル次元の値Dを比較したり、前述した特定の値Xを境界として空洞欠陥(鋳巣)の要因を識別したりすることができる。
【0029】
また、前述したデータベースを用意する場合において、同一製品の位置毎や、製品の種類毎に、空洞欠陥の要因の識別のためのフラクタル次元の値Dや境界値Xを用意しておけば、様々な位置や製品に対応させることが可能になる。
【0030】
本発明の識別方法を採用すれば、鋳造物をフラクタル次元という定量的判定で、空洞欠陥(鋳巣)の発生原因を特定することができる。
そのため、生産現場での長年の経験がなくても、空洞欠陥の発生原因を特定することができ、専門家等に判定を依頼する必要もない。
そして、容易に短時間で、空洞欠陥の発生原因を特定することができる。
【0031】
また、本発明の識別方法を採用すれば、鋳造品に対して、X線CT装置を用いて透過画像を得るため、非破壊で鋳造品内部の空洞欠陥の情報を得ることができる。
そのため、内部を観察するために鋳造品を切断する工程や、電子顕微鏡用の試料を作製する工程にかかる時間や手間を必要としない。
さらに、調べた結果、空洞欠陥が無かった鋳造品については、製品として使用することが可能になる。
【0032】
従って、本発明の識別方法を採用することにより、製造者において即応的な対処が可能となり、不良品の発生を低減し、作業の簡易化を図ることができる。
【0033】
さらにまた、空洞欠陥(鋳巣)の面積の空間分布のフラクタル次元を算出することにより、充分に鮮明ではない画像からでも、フラクタル次元の値を算出することが可能である。
これにより、非破壊で撮像したX線CT装置の画像からでも、空洞欠陥(鋳巣)の面積の空間分布のフラクタル次元の算出を行って、空洞欠陥の原因の識別を行うことができる。
なお、空洞欠陥の面積の空間分布のフラクタル次元に限らず、前述した空洞欠陥に関するパラメータ(大きさや形状係数等)の空間分布のフラクタル次元も、充分に鮮明ではない画像から算出することが可能である。
【0034】
個々の空洞欠陥(鋳巣)の輪郭線形状に対してフラクタル解析を行って、フラクタル次元を算出する方法では、輪郭線を精度良く抽出することが重要であり、充分に鮮明な画像を用いないと、フラクタル次元の値の算出が困難になる。また、輪郭線形状のフラクタル次元を算出するためには、画像処理の際の解像度の関係から、ある程度以上の大きさの鋳巣を選択する必要があり、鋳巣の選択には偏りが生じてしまう可能性がある。
【0035】
(試験)
ここで、実際に、鋳造品のX線CT画像から鋳巣の面積の空間分布のフラクタル次元を算出して、鋳巣の定量化の試験を行った。
【0036】
<試験片>
図1Aに断面図を示すような、実際に自動車部品として用いられているカーエアコン用コンプレッサーの部品から、鋳巣サンプルの採取を行った。コンプレッサーの製品は、ADC12アルミニウム合金で、大気開放ダイカスト法により製造した。
【0037】
図1Aに示す部品中、A領域では、気密漏れが多発し、鋳巣が多く発生していることが観察されている。
また、この図1AのA領域の拡大図を、図1Bに示す。
図1Bに示すように、A領域の中心からの距離をdとして、d=0の製品中心部から、d=dの製品表層部までのB領域(斜線部)を観察領域とした。また、このB領域を、製品中心部から製品表層部まで、B1,B2,B3の3つの領域に分けて考えることとする。
このB領域を、1辺約7mmの立方体形状となるように、ファインカッターで切り出して、試験片とした。
【0038】
<X線CT撮像方法>
X線CT撮像は、(株)島津製作所製のマイクロフォーカスX線CT、SMX−225CTを用いて行った。X線源は、タングステンである。断面の解像度は1024×1024で、1ピクセルの大きさはほぼ10μmである。収集ビュー数(撮像データ取り込み数/試料1回転)は1200回、収集アベレージ数(撮像データの平均処理回数)は9回である。用いたX線管電圧は100kV、X線管電流は150μAである。
X線CT撮像は、図1AのA領域と平行な面について行い、1つの試験片から高さ方向に0.5mm間隔で約十数枚のX線CT画像を得た。
【0039】
なお、今までの経験から、この試験に用いたダイカストには直径が0.5mmを越えるような鋳巣は、ほとんどないことが確かめられている。
従って、0.5mm間隔で撮像すれば、同一の鋳巣を重複して撮像する可能性はほとんどないものと思われる。
【0040】
<鋳巣サンプル採取方法>
得られたX線CT画像の一例を、図2Aに示す。図中、灰色の部分がアルミニウム合金であり、内部の黒色の部分が鋳巣である。
このような画像を、図1Bに示すB領域の部分領域B1〜B3のように、d=0の製品中心部から、d=dの製品表層部まで3等分して、3等分した各部分領域についてそれぞれ二値化処理を行った。
【0041】
次に、図2Aの画像を3等分して、二値化処理を行った例を、図2Bに示す。
二値化処理は、適切な閾値を設定することで、アルミニウム合金を白色、鋳巣を黒色と分離することが可能である。
【0042】
これらの画像により、B1〜B3のそれぞれの領域から、190個の鋳巣を抽出して、鋳巣サンプルとした。
【0043】
<フラクタル次元算出方法>
まず、ある1つの鋳巣に着目し、その鋳巣面積Aよりも大きな鋳巣面積をもつ鋳巣の数Nを算出した。この数Nの算出を、190個全ての鋳巣について行った。
次に、鋳巣面積Aと鋳巣数Nを対数プロットし、フラクタル性を有する部分の傾きにより、フラクタル次元DaXを算出した(図3参照)。
【0044】
フラクタル次元DaXの値そのものにはあまり意味がないが、同じもの(例えば、アルミニウム合金ダイカスト内部の鋳巣の面積と数の関係)を対象とし、同じ条件(X線CT条件や鋳巣数等)の下での解析であれば、値を比較することが可能となるので、鋳巣面積の空間分布の違いを定量的に識別することが可能となる。
【0045】
<X線CT画像に対するフラクタル次元評価>
図3に、鋳巣面積Aと鋳巣数Nを対数プロットしたものを示す。図3Aは、一番内層部である領域B1(d/d=16.7%)の図であり、図3Bは一番表層部である領域B3(d/d=83.3%)の図である。ただし、距離d/dは、各領域B1,B3の重心位置の値を示す。
【0046】
図3A及び図3Bにおいて、それぞれ中央付近のプロット点が密集している領域に、フラクタル性が見られる。
各図中の破線は、フラクタル性が見られる領域の線形近似であり、この近似線の傾きがフラクタル次元DaXを示している。
内層部の領域B1(図3A)では、広い範囲に鋳巣面積が分布しているため、DaXが小さくなっている。それに対して、表層部の領域B3(図3B)では、内層部に比較して鋳巣面積の分布範囲が狭く、そのためDaXが大きくなっている。
【0047】
ここで、鋳巣面積の小さい領域と大きい領域では、それぞれ近似線から外れている。
この原因として、鋳巣面積の小さい部分では、解像度の影響で、正確な鋳巣面積を算出することができないためと考えられる。
また、鋳巣面積の大きい部分では、画像からはみ出す鋳巣が多いためと考えられる。
しかし、他のフラクタル性を生じていること等も考えられる。
【0048】
次に、図1Bに示した中心からの距離d/dと、図3A及び図3Bに示したように求めたフラクタル次元DaXとの関係を、図4に示す。
図4より、内層部と表層部では、異なったフラクタル次元DaXを示しており、表層部に行くに従って、高いフラクタル次元DaXを示している。
用いたサンプル試験片は比較的肉厚であり、表層部ではガス欠陥が多く、内層部ではガス欠陥と引け巣が混在していることが経験的に分かっており、そのことを考慮すると、フラクタル次元DaXにより、鋳巣面積分布状況の特徴を定量的に表現することが可能であることが示唆される。
ただし、この鋳巣面積の空間分布のフラクタル次元DaXは、ガス欠陥と引け巣を直接的に識別しているわけではなく、対象としている領域において、ガスの要因が強いのか、引けの要因が強いのかといったことのみを示していると考えられる。
【0049】
カーエアコン用コンプレッサーでは、気密性を保つことが重要である。
気密漏れは、主に、長く伸びる引け巣によって、製品内部から表面にかけて圧漏れ経路が形成されることによって、引き起こされるものと考えられる。
従って、鋳巣面積の空間分布のフラクタル次元DaXにより、引けの要因の割合が高いか低いかを判別することができれば、鋳巣対策を立てる際の定量的な指針となる。
【0050】
<光学顕微鏡写真に対するフラクタル次元評価とX線CT画像に対するフラクタル次元評価の比較>
X線CT画像を用いたフラクタル次元DaXの有効性を検討するために、光学顕微鏡写真を用いたフラクタル次元DaMとの比較を行った。
X線CT画像を得た領域(図1BのB領域)とほぼ同じ領域について、d=0の製品中心部から、d=dの製品表層部までを6等分して、6等分した各分割領域のそれぞれの光学顕微鏡写真を撮影した。そして、この写真から、1つの分割領域について540個ずつ鋳巣を抽出し、それぞれの鋳巣について面積を計算して、鋳巣の面積の空間分布からフラクタル次元DaMを算出した。
図4と同様に、図1Bに示した中心からの距離d/dと、図3のように求めたフラクタル次元DaMとの関係を、図5に示す。
ここで、このフラクタル次元DaMの値は、鋳巣の数や観察手法が異なるため、前節のフラクタル次元DaXの値と定量的に比較することはできない。
【0051】
図5より、内層部(d/d≦50%の3つの領域)では、低いフラクタル次元DaMを示しているが、3点ともほぼ一定の値を示している。これにより、この内層部の各領域で、鋳巣面積の分布状況がほぼ同じであることが分かる。
これに対し、表層部(d/d>50%の3つの領域)では、高いフラクタル次元DaMを示している。特に、d/d=80%近傍から表面にかけては、高い値で一定の値を示しており、この領域では、ほぼ同じ鋳巣面積分布状況を示しているものと思われる。
また、d/d=60%近傍は、中間値を示しているが、内層部と表層部との中間の面積分布状況になっているものと思われる。
【0052】
内層部から表層部に行くに従ってフラクタル次元DaMが高くなる傾向は、X線CT画像の結果と同様である。
即ち、X線CT画像により算出したフラクタル次元DaXでも、光学顕微鏡写真により算出したフラクタル次元DaMと、同様に評価することが可能であることが示唆される。
【0053】
通常ダイカストのメーカーに常備されているX線透過装置は、今回の試験で使用したマイクロフォーカスX線CTよりも分解能が低いものである。
しかし、面積の空間分布により算出したフラクタル次元は、分解能による影響を受けにくいため、X線透過装置の画像でも、鋳巣の特徴を定量化することが可能であるものと思われる。
【0054】
上述の実験によれば、ダイカスト製品に発生した鋳巣のX線CT画像を用いて、鋳巣面積の空間分布に対するフラクタル次元(DaX)の有効性について検討を行ったことにより、以下に挙げるような結果が得られた。
(1)鋳巣の面積と鋳巣数との関係には、フラクタル性があることがわかった。
(2)ガス欠陥と引け巣が混在する内層部と、ガス欠陥が大半を占める表層部とにおいて、フラクタル次元DaXには顕著な違いが現れた。
(3)光学顕微鏡写真を用いた面積の空間分布フラクタル次元DaMと、X線CT画像を用いた面積の空間分布フラクタル次元DaXとは、対応していることがわかった。これにより、解像度などのために鋳巣輪郭線形状が抽出できない場合であっても、鋳巣面積の空間分布により鋳巣の特徴を定量的に評価することが可能となり、鋳巣対策の指針となる可能性があることが示された。
【0055】
本発明は、上述した実験で使用した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】A カーエアコン用コンプレッサーの部品の断面図である。B 図1AのA領域の拡大図である。
【図2】A 図1の部品を観察して得られたX線CT画像の一例である。B 図2Aの画像を3等分して、二値化処理を行った例を示す図である。
【図3】A、B 鋳巣面積と鋳巣数との関係を示す図である。
【図4】中心からの距離と、フラクタル次元との関係を示す図である。
【図5】中心からの距離と、顕微鏡写真から求めたフラクタル次元との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造における空洞欠陥の原因を識別する方法であって、
鋳造品に対して、X線CT装置を用いて透過画像を得た後、
得られた画像において、空洞欠陥を抽出し、
抽出した前記空洞欠陥に関するパラメータの空間分布のフラクタル次元の値を算出し、
算出された前記フラクタル次元の値から、前記空洞欠陥の原因を特定する
ことを特徴とする鋳造における空洞欠陥の原因の識別方法。
【請求項2】
前記空洞欠陥に関するパラメータの空間分布のフラクタル次元として、前記空洞欠陥の面積の空間分布のフラクタル次元の値を算出することを特徴とする請求項1に記載の鋳造における空洞欠陥の原因の識別方法。


【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−45659(P2009−45659A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215160(P2007−215160)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(304016804)グンダイ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】