説明

鋳造品の製造装置及び製造方法

【課題】 キャビティの隅々に溶湯を充填して湯廻り性及び歩留まり率が向上する鋳造品の鋳造方法及び鋳造装置を提供する。
【解決手段】 上側型板6aと、下側型板6bとで金型6が形成され、金型6内にキャビティ13が形成される。下側型板6bには、キャビティ面の一部を、残りのキャビティ面に対してキャビティ容積を変化させる方向に移動可能な型板可動部6cが設けられている。型板可動部6cは、押し出しピン15を支持する第1押し出し板19とは別の第2押し出し板20に支持されている。溶湯17の鋳込み時、型板可動部6cをキャビティ容積が増大する方向に移動させておき、溶湯注入後、凝固前にキャビティ13の容積を減少する方向に動かしてキャビティ内容積を鋳造品の大きさに対応する容積に戻す。これによってキャビティ13内に一旦注入された余剰の溶湯が排出され、このときキャビティ内の溶湯17が加圧されてキャビティ13の隅々に行き渡る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内に形成されたキャビティに金属又は合金の溶湯を鋳込んで鋳造品を成形する鋳造品の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の鋳型(以下、金型という)に金属又は合金の溶湯を鋳込んで鋳物を形成する装置を鋳造装置といい、特に、加圧することなく、重力によって溶湯を金型に鋳込んで鋳物を製造する装置をグラビティ鋳造装置という。図5(a)乃至(e)は、このようなグラビティ鋳造装置を使用した鋳造品の製造方法を示す図である。
【0003】
図5(a)において、上側型板36aと下側型板36bとを接合することにより、鋳造用のキャビティ43が形成される。このキャビティ43は、図中左側から右方向に向かって例えば3箇所の拡径部43aと、3箇所の縮径部43bとが交互に形成され、左端の拡径部43aの先端部はテーパ状に先細になっている。一方、右端の縮径部43bには図中右側に向かって延びる縮径部43bよりもさらに細い円筒部分43cを有し、この円筒部分43cは湯口と連通している。金型36の湯口部には溶湯を一時貯留する溶湯貯留部46が設けられている。このキャビティ43は例えばロッド鋳造用のものである。
【0004】
上側型板36aと下側型板36bを夫々貫通するように2本の押し出しピン45及び1本のリターンピン44が設けられており、この押し出しピン45及びリターンピン44は上側型板36aの上側及び下側型板36bの下側に夫々配置された2重構造の押し出し板49に夫々固定されている。
【0005】
上側型板36aと下側型板36bを接合させてキャビティ43を形成した後、キャビティ43の湯口部に付設された溶湯貯留部46に例えばアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単にアルミニウムという)の溶湯47を注入する。アルミニウムの溶湯47を溶湯貯留部46に注入した後、金型36を例えば図5(b)に示したように、水平に対して約30度傾斜させると、溶湯貯留部46内のアルミニウムの溶湯47のキャビティ43内への注入が開始され、その後、更に金型36を傾斜させていくと、溶湯貯留部46内の溶湯47はキャビティ43内に注入されていく。最終的に、金型36を垂直状態にしてアルミニウムの溶湯47のキャビティ43内への鋳込みが終了する(図5(c))。
【0006】
この状態でキャビティ43に鋳込んだアルミニウムの溶湯47を凝固させ、溶湯が凝固した後、図5(d)に示したように金型36を水平状態に戻す。
【0007】
その後、上側及び下側型板36a、36bを夫々リターンピン44に沿ってパーティングラインを開く方向に移動させると共に押し出しピン45によって鋳造品48を押し出すと、図5(e)に示したように、金型36が開き、鋳造品48が回収される。
【0008】
このようなグラビティ鋳造法に関する従来技術として、例えば特開平6−47517号公報(特許文献1)が挙げられる。
【0009】
図6(a)及び(b)は、従来技術における鋳造品製造方法を示す説明図であり、図6(a)は、金型のパーティングラインに沿った断面図、図6(b)はパーティングラインに直交する断面図である。図6(a)及び(b)において、鋳造品は以下のようにして製造される。
【0010】
即ち、金型Aの固定型aと可動型bを合わせて型閉めした後、ベント孔51からキャビティ52内のガスを吸引してキャビティ52内を減圧し、この状態で湯口53から溶湯を注入する。溶湯は重力により湯道を通ってキャビティ52内に鋳込まれる。
【0011】
溶湯を鋳込んだ後、加圧シリンダ54を動作させて加圧子55によってキャビティ52内の溶湯に圧力を加え、この状態で溶湯が凝固して製品が鋳造されるまで放置する。このような従来技術によれば、鋳造品への加圧効果によってより寸法精度の良い鋳造品が得られるということである。
【0012】
【特許文献1】特開平6−47517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来技術には以下のような問題点がある。即ち、薄肉鋳造品を製造する際、金型内に鋳込まれた溶湯の冷却速度が速いために、溶湯をキャビティの狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで十分に充填させることができず、湯廻り性及び歩留まり率が低下するという問題点がある。
【0014】
図4は、鋳造装置におけるキャビティ内に鋳込まれた溶湯の冷却速度曲線を示すものである。図4において、鋳造品の肉厚が30mmの場合、溶湯を鋳込んだ後、溶湯温度が570℃になるまでに約60秒を要しており、その後、約20秒間570℃が維持されている。これに対し、肉厚が20mmの場合は、溶湯を鋳込んだ後、約40秒で570℃に降下し、その後15秒間570℃を維持した後、急激に温度を低下させ、溶湯を鋳込んでから70秒後には500℃まで温度が低下している。一方、肉厚が10mmの場合は、溶湯鋳込み後、20秒で570℃に温度降下し、40秒後には500℃まで溶湯温度が低下していることが分かる。このように薄肉鋳造品を製造する場合は急激に溶湯温度が低下するので、特にキャビティ内の狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで溶湯を充填することが困難となる。
【0015】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、キャビティの狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで溶湯を充填して湯廻り性を向上させると共に、溶湯の歩留まり率を向上させることができる鋳造品の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る鋳造品の製造装置は、1対の型板を接合した金型内に形成されたキャビティに金属又は合金の溶湯を鋳込んで鋳造品を成形する鋳造品の製造装置において、前記型板は前記キャビティを形成するキャビティ面を有し、少なくとも一方の型板は、そのキャビティ面の一部が残りの部分に対して前記キャビティの容積を変化させる方向に移動する型板可動部を有することを特徴とする。
【0017】
この場合において、前記型板可動部は鋳造品を押し出す押し出しピンが支持された押し出し板とは別の押し出し板に支持されていることが好ましい。
【0018】
また、前記型板可動部及びこの型板可動部を有する型板が他方の型板に対して移動可能に形成されていることが好ましい。
【0019】
更にまた、前記溶湯は、重力によってキャビティ内に鋳込まれるものとすることができる。
【0020】
更にまた、前記型板可動部は、溶湯鋳込み時に下側となる型板に設けられていることが好ましい。
【0021】
更にまた、前記溶湯をアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯とすることができる。
【0022】
本発明に係る鋳造品の製造方法は、1対の型板を接合した金型内に形成されるキャビティに金属又は合金の溶湯を鋳込んで鋳造品を成形する鋳造品の製造方法において、前記型板は前記キャビティを形成するキャビティ面を有し、少なくとも一方の型板は、そのキャビティ面の一部が残りの部分に対して前記キャビティの容積を変化させる方向に移動する型板可動部を有するものであり、溶湯注入後、凝固前に前記型板可動部を移動させて前記キャビティ容積を変化させることを特徴とする。
【0023】
この場合において、溶湯注入前に前記型板可動部を移動させて前記キャビティ容積を鋳造品の容積よりも増大させる工程を有し、前記溶湯注入後、凝固前にキャビティ容積を変化させる工程が、前記キャビティ容積を鋳造品の容積に戻す工程であることが好ましい。
【0024】
また、前記鋳造品を成形した後、前記型板可動部及びこの型板可動部を有する型板を他方の型板から離隔する方向に移動させて鋳造品を取り出す工程を有することが好ましい。
【0025】
更にまた、前記溶湯は、重力によって前記キャビティ内に鋳込まれるものとすることができる。
【0026】
更にまた、前記型板可動部は、溶湯鋳込み時に下側となる型板に設けられていることが好ましい。
【0027】
更にまた、前記溶湯をアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯とすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本願発明である請求項1に係る鋳造品の製造装置によれば、キャビティ容積を変化させる型板可動部を有するので、例えば溶湯注入前に、型板可動部を移動させてキャビティ容積を増大させ、例えば溶湯注入後、凝固前に型板可動部を移動させてキャビティ容積を減少させることにより、一旦必要量以上の溶湯をキャビティ内に注入した後、余剰の溶湯をキャビティ外に押し出すことができ、この溶湯押し出し時に、キャビティの狭窄部又は肉厚部の端部まで溶湯を行き渡らせることができるので、湯廻り性及び歩留まり率が向上する。
【0029】
本願請求項2に係る鋳造品の製造装置によれば、鋳造品を押し出す押し出しピンを操作することなく、型板可動部のみを移動させてキャビティ容積を変化させることができる。
【0030】
本願請求項3に係る鋳造品の製造装置によれば、鋳造品鋳造後、型板可動部及びこの型板可動部が設けられた型板を他方の型板に対して離隔する方向に移動させてパーティングラインを開くことができるので、鋳造品を容易に取り出すことができる。
【0031】
本願請求項4に係る鋳造品の製造装置によれば、一旦キャビティ内に注入された余剰の溶湯をキャビティ外に押し出す際、キャビティ内の隅々に溶湯が行きわたるので、溶湯の注入時に加圧しない重力鋳造装置であっても湯廻り性が向上する。
【0032】
本願請求項5に係る鋳造品の製造装置によれば、キャビティ内に鋳込まれた余剰の溶湯を上方に押し上げてキャビティ外に排出する際に、溶湯がキャビティの隅々まで行き渡り易くなって湯廻り性が向上する。
【0033】
本願請求項6に係る鋳造品の製造装置によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯の湯廻り性が向上し、歩留まり率よくアルミニウム又はアルミニウム合金製の鋳造品を製造することができる。
【0034】
本願発明である請求項7に係る鋳造品の製造方法によれば、例えば溶湯鋳込み後、凝固前にキャビティ容積を減少させることにより、一旦キャビティ内に鋳込んだ溶湯をキャビティ外に押し出す際に、キャビティの狭窄部又は肉厚部端部まで溶湯を行き渡らせることができるので、湯廻り性及び歩留まり率が向上する。
【0035】
本願請求項8に係る鋳造品の製造方法によれば、溶湯注入前に型板可動部を移動させてキャビティ容積を鋳造品の容積よりも増大させ、溶湯注入後、凝固前にキャビティ容積を鋳造品の容積まで戻すことにより、一旦キャビティ内に注入された鋳造品の容積以上の余剰の溶湯をキャビティ外に押し出す際に、キャビティの狭窄部又は肉厚部端部まで溶湯を行き渡らせることができるので、湯廻り性及び歩留まり率が向上する。
【0036】
本願請求項9乃至12に係る鋳造品の製造方法は、夫々上述した請求項3乃至6に係る鋳造品の製造装置を使用した鋳造品の製造方法に関するものであり、対応する鋳造品の製造装置と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して詳細に説明する。図1及び図2は本実施形態に係る重力鋳造装置を示す説明図であって、図1(a)は正面図、図1(b)は図1(a)の左側面図である。また図2(a)乃至図2(e)は、夫々図1の要部を示す図であって、鋳造工程に沿った金型部分を示す断面図である。
【0038】
図1(a)において、この重力鋳造装置の鋳造機本体1は、架台2上に載置されており、直立状態から水平状態に至るまで傾動可能に構成されている。鋳造機本体1の上下両端には夫々矩形の可動側取付板3及び固定側取付板4が配置されており、この可動側取付板3と固定側取付板4とは夫々その4角に配置された4本のタイバー5によって連結されている。
【0039】
可動側取付板3と固定側取付板4との間には、上側型板6a及び下側型板6bが設けられている。上側型板6a及び下側型板6bの4角には夫々貫通孔が形成されており、この貫通孔に夫々4本のタイバー5が挿入されている。上側型板6a及び下側型板6bはタイバー5に沿って上下動可能に設けられている。
【0040】
上側型板6aは可動側取付板3を貫通して上方に延びる上側型締めシリンダ8に支持されており、下側型板6bは固定側取付板4を貫通して下方に延びる下側型締めシリンダ9に支持されている。上側型締めシリンダ8は上側型板6aをタイバー5に沿って上下動させ、下側型締めシリンダ9は下側型板6bをダイバー5に沿って上下動させる。
【0041】
上側型板6aと下側型板6bとの接合面には鋳造品を成型するためのキャビティが形成され、このキャビティ内に溶湯を鋳込んで鋳造品が製造される。
【0042】
鋳造機本体1は架台2の一端に設けられた1対の軸受け11に支持された傾動軸12に回転可能に支持されている。また鋳造機本体1の長さ方向中央部と架台2とは傾動シリンダ10によって連結されており、傾動シリンダ10と鋳造機本体1との連結部及び傾動シリンダ10と架台2との連結部は夫々回転可能となっている、従って、傾動シリンダ10が伸縮することによって鋳造機本体1は傾動軸12を中心として回動し、架台2に対して垂直状態と水平状態との間を傾動するように構成されている。
【0043】
図1(b)において、傾動軸12は左右両側の軸受け11によって支持されており、鋳造機本体1の固定側取付板4は傾動軸12に回転可能に支持されている。固定側取付板4の4角には4本のタイバー5が配置されており、固定側取付板4はこの4本のタイバー5を介して図示省略した上方の固定側取付板3と連結されている。固定側取付板4のほぼ中央には固定側取付板4を貫通するように下側型締めシリンダ9が設けられている。
【0044】
鋳造機本体1の金型部分は、図2(a)に示すように、上側型板6aと、下側型板6bとで金型6が形成され、この金型6内にキャビティ13が形成される。キャビティ13は、図中左側から右方向に向かって例えば3箇所の拡径部と、3箇所の縮径部とが交互に形成され、左端の拡径部の先端部はテーパ状に先細になっている。一方、右端の縮径部には図中右側に向かって延びる縮径部よりもさらに細い円筒部分としての湯道を有し、この湯道は湯口21と連通している。
【0045】
下側型板6bは二重構造の金型であり、この下側型板6bには、そのキャビティ面の一部を、残りのキャビティ面に対してキャビティ13の内容積を変化させる方向、即ち図2(a)中上下方向に移動可能に形成された型板可動部6cが設けられている。
【0046】
型板可動部6cは、成型後の鋳造品を押し出す押し出しピン15が支持された後述する第1押し出し板19とは別の第2押し出し板20によって支持されている。型板可動部6cは、第2押し出し板20を例えば図示省略した油圧シリンダによって移動させることによって下側型板6b内を図2(a)中上下方向に摺動するように構成されている。
【0047】
上側型板6a及び型板可動部6cには夫々型板部分を上下に貫通するように例えば2本の押し出しピン15が設けられており、上側型板6a及び下側型板6bには夫々上下に貫通するように例えば1本のリターンピン14が設けられている。上側の押し出しピン15及びリターンピン14は上側型板6aの上側に配置された二重構造の押し出し板19に固定されている。一方、下側の押し出しピン15及びリターンピン14は下側型板6の下側に配置された第2押し出し板20の更に下側に配置された二重構造の押し出し板19に固定されている。そして、下方の押し出し板19は押圧板22により支持されている。本実施形態では押圧板22は下方の押し出し板19に固定されている。
【0048】
キャビティ13の湯口21部分には溶湯を一時貯留する溶湯貯留部16が設けられており、この溶湯貯留部16に例えばアルミニウムの溶湯17が注入される。溶湯17は、金型6を傾斜させることによってキャビティ13内に注入される。キャビティ13は例えばロッド鋳造用のものである。
【0049】
溶湯17をキャビティ13内に鋳込む場合、予め、第2押し出し板20を図示省略した油圧シリンダによって図2(a)中下方に移動させ、これによって下側型板6bの型板可動部6cを下方に移動させてキャビティ13の内容積を鋳造品18に対応する容積よりも大きくしておく。この状態で、金型6を例えば図2(b)に示したように、水平に対して約30度傾斜させると、アルミニウムの溶湯17のキャビティ13内への注入が開始する。
【0050】
その後、更に金型6を傾斜させていくと、溶湯貯留部16内の溶湯17はキャビティ13内に注入されていく。最終的に、金型6を垂直状態にしてアルミニウムの溶湯17のキャビティ13内への鋳込みが終了する(図2(c))。
【0051】
溶湯17のキャビティ13内への注入が終了した後、溶湯17が凝固する前に第2押し出し板20を操作して型板可動部6cをキャビティ13の内容積が減少する方向、即ち図2(c)中左方向に動かしてキャビティ13の内容積を鋳造品18の大きさに対応する容積に戻す。このとき、型板可動部6cを支持する第2押し出し板20は下側型板6bの端部に当接した状態となる。
【0052】
型板可動部6cを動かしてキャビティ13の内容積を鋳造品18の大きさに対応する大きさに戻すと、一旦、鋳造品18に対応する容積よりも大きい容積のキャビティ13内に注入されていた溶湯は、キャビティ13の内容積を減少する方向に移動する型板可動部6cによって押圧され、更に余剰の溶湯は押し出されて、製品鋳造用のキャビティとは別に設けられた余剰の溶湯を受けるためのキャビティ(図示省略)内に貯められる。このとき型板可動部6cの移動によってキャビティ内の溶湯17が加圧され、溶湯17が成型用のキャビティの隅々に行きわたる。
【0053】
このようにして、キャビティ13内に溶湯17を鋳込んだ後、静置し、溶湯が凝固した後、図2(d)に示したように金型6を水平状態に戻し、下側型板6bを型板可動部6cごと下降させると共に、押圧板22を上昇させて下側の押し出し板19に支持された押し出しピン15を押し出すと、鋳造品18が下側型板6bから離型する。
【0054】
その後、上側型板6aの押し出しピン15を図中下方に押し出すと、図2(e)に示したように、鋳造品18が完全に離型し、製品として回収される。
【0055】
以下、上述のように構成された本実施形態の鋳造品の鋳造装置の動作を説明する。鋳造を開始するに際し、先ず、図1の傾動シリンダ10を伸長して鋳造機本体1を垂直の初期状態に戻す。この状態において、上側型板6aと下側型板6bとを当接させてキャビティ13を形成する。
【0056】
本実施形態においては、溶湯注入後、凝固前に型板可動部6cを移動させてキャビティ13の容積を変化させるが、先ず、キャビティ13に溶湯17を注入する前に、図2(a)に示したように、第2押し出し板20を操作して型板可動部6cを下側型板6bに対して下方に移動させ、これによってキャビティ13の内容積を鋳造品18に対応する大きさよりも大きい容積とする。次に、溶湯貯留部16にアルミニウムの溶湯17を注ぐ。このときアルミニウムの溶湯17は前記内容積を増大させたキャビティ13を十分満たす量とする。
【0057】
キャビティ13の内容積を鋳造品18に対応する大きさよりも大きい容積とした金型6を図2(b)に示したように例えば水平状態に対して30゜傾斜させると溶湯17のキャビティ13内への注入が始まる。
【0058】
その後、更に金型6を傾斜させていくと、溶湯貯留部16内の溶湯17は更にキャビティ13内に注入されていく。最終的に、金型6を垂直状態にしてアルミニウムの溶湯17のキャビティ13内への鋳込みが終了する(図2(c))。
【0059】
溶湯17のキャビティ13内への注入が終了した後、溶湯17が凝固する前に型板可動部6cを上側型板6aに向けて若干移動させてキャビティ13の容積を変化させる。即ち、第2押し出し板20を操作して型板可動部6cをキャビティ13の内容積が減少する方向に動かしてキャビティ13の内容積を鋳造品18の大きさに対応する容積に戻す(図2(c))。
【0060】
型板可動部6cを動かしてキャビティ13の内容積を鋳造品18の大きさに対応する容積に戻すタイミングは、予め測定した溶湯鋳込み開始時から鋳込み完了時までの経過時間である、例えば溶湯鋳込み開始から10秒の時間の経過後とされる。この場合において、溶湯鋳込み後、最も速く冷却される部分の金型表面温度が約560℃になった時点で型板可動部6cを移動してキャビティ13の内容積が鋳造品18に対応する容積となるようにしてもよい。
【0061】
なお、溶湯鋳込み時の金型温度は、通常300乃至400℃であるが、厚肉部と薄肉部とが隣接する鋳造品の場合、厚肉部の冷却を優先させるために、例えば薄肉部の金型温度が250℃以下になる場合がある。また、溶湯が金型の表面近傍を流れて金型先端部に注入される場合は、溶湯温度の低下速度が速くなる。このような状況を考慮すると、上述したように、金型可動部6cを移動させてキャビティ13の内容積を鋳造品18に対応させる場合の時間以外のタイミングとして、金型温度が約560℃になった時点が挙げられる。但し、溶湯注入後、型板可動部6cを動かしてキャビティ13の内容積を鋳造品18の大きさに対応する容積に戻すタイミングは特に限定されるものではなく、キャビティ13内に鋳込まれた溶湯17が凝固する前に行えばよい。
【0062】
上述したように、溶湯17のキャビティ13内への注入を開始した後、型板可動部6cを移動させてキャビティ13の内容積を鋳造品18に対応する大きさに戻すまでの間隔は時間にして10秒前後であり、この間に溶湯17が凝固することはなく、溶湯17は液体又は半凝固状態を維持する。
【0063】
従って、キャビティ13の内容積を鋳造品18の大きさに対応する大きさに戻す際、一旦、鋳造品18に対応する容積よりも大きい容積のキャビティ13内に注入された余剰の溶湯は、押し出されて製品鋳造用のキャビティとは別に設けられた余剰の溶湯を受けるためのキャビティ(図示省略)内に貯められる。このとき、キャビティ13の内容積を減少させようとする型板可動部6cの移動によってキャビティ13内の溶湯17が加圧され、溶湯17はキャビティ13の隅々にまで行きわたる。
【0064】
溶湯17をキャビティ13の隅々に行きわたらせた状態で静置し、キャビティ13に鋳込んだアルミニウムの溶湯17を凝固させて鋳造品18とする。溶湯17が凝固した後、図2(d)に示したように金型6を水平状態に戻し、下側型板6bを型板可動部6cごと下降させ、型板可動部6cに対応する押し出し板19に支持された押し出しピン15を押し出すと鋳造品18は下側型板6b及び型板可動部6cから離型する。
【0065】
その後、上側型板6aに対応する押し出し板19を動かして押し出しピン15を図中下方に押し出し、図2(e)に示したように、鋳造品18を完全に離型させ、製品として回収する。
【0066】
本実施形態によれば、下側型板6bに、キャビティ面の一部をキャビティ13の容積が変化する方向に移動可能な型板可動部6cを設け、溶湯鋳込み時に予め型板可動部6cをキャビティ13の内容積が増大する方向に移動させ、溶湯の鋳込みが終了した後、溶湯の凝固前に型板可動部6cを戻してキャビティ13の内容積を鋳造品18に対応する大きさに戻すようにしたので、一旦キャビティ13内に注入された余剰の溶湯17が押し出される際の加圧力によって溶湯17がキャビティ13の隅々にまで行きわたる。従って、湯廻り性が向上し、溶湯の歩留まり率が向上すると共に、溶湯内の内部巣が減少して良好な鋳造品を得ることができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、型板可動部6cを、鋳造品を押し出す押し出しピン15が支持された第1押し出し板19とは別の第2押し出し板20で支持したので、押し出しピン15とは別に型板可動部6cのみを可動させてキャビティ13の内容積を調整して湯廻り性を改善することができる。
【0068】
更にまた、本実施形態によれば、湯廻り性が改善されることにより、金型温度を従来の300乃至400℃から例えば20乃至30℃引き下げることができ、また、溶湯温度を5乃至10℃引き下げることができる。これによって、従来5分程度を要していた鋳造品製造までのリードタイムを例えば10乃至20秒短縮することができる。また、相対的に鋳造品冷却速度が速くなるので、内部組織のDAS(デントライトアームスペーシング)が密になり、製品強度が向上する。
【0069】
更にまた、本実施形態によれば、湯廻り対策として、従来からキャビティの薄肉部又は狭小部に対応する金型部分に配置されていたセラミック等の保温材を不要とすることができる。
【0070】
図3は上述の実施形態の変形例を示す断面図であり、図2(c)に対応する工程を示すものである。上述の実施形態においては、図2(a)で下方になる押し出し板19を支持する押圧板22がこの押し出し板19に固定されているものであったが、図3に示す変形例においては、押圧板22は、型板可動部6cを支持する第2押し出し板20の外方に突出する突出部を介して型板可動部6cの移動方向に移動可能に設けられており、下方の押し出し板19とは分離して移動可能になっている。
【0071】
そして、図2(b)に示すように、溶湯の注入が開始された後、図3に示すように、鋳型を垂直状態にし、第2押し出し板20を第1押し出し板19と共に下側型板6bに向けて移動させ、第2押し出し板20を下側型板6bに当接させる。押圧板22は元の位置に残っている。これにより、可動型板6cが上側型板6aに向けて移動すると共に、第1押し出し板19も下側型板6bに向けて移動しているので、押し出しピン15及びリターンピン14もキャビティ13に向けて移動する。これにより、押し出しピン15の先端が可動型板6cの表面と面一の状態で可動型板6cが移動するので、可動型板6cの移動に伴い溶湯が可動型板6cにおける押し出しピン15挿入用の孔内に侵入してくることを防止できる。本変形例においても、可動型板6cの上側型板6aに向かう移動により、キャビティ13の容積が減少するので、溶湯には押し湯効果が働き、高品質の鋳塊を得ることができる。
【0072】
溶湯凝固後、図2(d)に示すように、鋳型を水平の状態にし、下側型板6b及び可動型板6cを下げると共に、押圧板22を下側型板6b及び可動型板6cに対して相対的に上昇させることにより、第1押し出し板19を第2押し出し板20に当接するまで、又はその近傍まで上昇させ、押し出しピン15及びリターンピン14を夫々可動型板6c及び下側型板6bから相対的に上方に突出させ、押し出しピン15により鋳造品18を可動型板6c及び下側型板6bから押し出す。これにより、鋳造品18が離型する。このようにして、本変形例においても、上記実施形態と同様の効果を奏するのに加え、押し出しピン15が挿入される可動型板6cの孔内に溶湯が侵入することを防止することができるという効果を奏する。
【0073】
上記各実施形態及び変形例において、溶湯17をキャビティ13内に鋳込む際、予め下側型板6bの型板可動部6cを下方に移動させることによってキャビティ13の内容積を鋳造品18に対応する容積よりも大きくしておく場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、溶湯17をキャビティ13内に鋳込みはじめると同時に下側型板6bの型板可動部6cを下方に移動させ、これによってキャビティ13の内容積を鋳造品18に対応する容積よりも大きくすることもできる。
【0074】
また、上記実施形態において、一旦キャビティ13内に注入された余剰の溶湯17を受けるための溶湯受けキャビティ(図示省略)を金型内に設けた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、溶湯受けキャビティを設ける代わりに、キャビティ13と溶湯貯留部16とを連結する湯道部分を太くして、型板可動部6cの移動によりキャビティ13から押し出される余剰の溶湯を湯道部分に貯留するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の鋳造品の製造装置及び製造方法は、キャビティ内の狭窄部又は肉厚部端部の隅々にまで溶湯を充填することができ、湯廻り性及び溶湯の歩留まり率を向上させることができるものであり、鋳造分野、特に重力鋳造分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施形態に係る重力鋳造装置を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る重力鋳造装置の金型部分を示す断面図であり、実施形態の動作を示す。
【図3】本発明の実施形態に係る重力鋳造装置の動作における変形例を示す断面図である。
【図4】鋳造品の肉厚と溶湯の温度降下との関係を示す図である。
【図5】従来技術の説明図である。
【図6】従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0077】
1:鋳造機本体
2:架台
3:可動側取付板
4:固定側取付板
5:タイバー
6:金型
6a:上側型板
6b:下側型板
6c:型板可動部
8:上側型締めシリンダ
9:下側型締めシリンダ
10:傾動シリンダ
11:軸受け
12:傾動軸
13:キャビティ
14:リターンピン
15:押し出しピン
16:溶湯貯留部
17:溶湯
18:鋳造品
19:第1押し出し板
20:第2押し出し板
21:湯口
36:金型
36a:上側型板
36b:下側型板
43:キャビティ
43a:拡径部
43b:縮径部
43c:円筒部分
44:リターンピン
45:突き出しピン
46:溶湯貯留部
47:溶湯
48:鋳造品
49:押し出し板
51:ベント孔
52:キャビティ
53:湯口
54:加圧シリンダ
55:加圧子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の型板を接合した金型内に形成されたキャビティに金属又は合金の溶湯を鋳込んで鋳造品を成形する鋳造品の製造装置において、前記型板は前記キャビティを形成するキャビティ面を有し、少なくとも一方の型板は、そのキャビティ面の一部が残りの部分に対して前記キャビティの容積を変化させる方向に移動する型板可動部を有することを特徴とする鋳造品の製造装置。
【請求項2】
前記型板可動部は鋳造品を押し出す押し出しピンが支持された押し出し板とは別の押し出し板に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の鋳造品の製造装置。
【請求項3】
前記型板可動部及びこの型板可動部を有する型板が他方の型板に対して移動可能に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳造品の製造装置。
【請求項4】
前記溶湯は、重力によってキャビティ内に鋳込まれるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鋳造品の製造装置。
【請求項5】
前記型板可動部は、溶湯鋳込み時に下側となる型板に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の鋳造品の製造装置。
【請求項6】
前記溶湯は、アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鋳造品の製造装置。
【請求項7】
1対の型板を接合した金型内に形成されるキャビティに金属又は合金の溶湯を鋳込んで鋳造品を成形する鋳造品の製造方法において、前記型板は前記キャビティを形成するキャビティ面を有し、少なくとも一方の型板は、そのキャビティ面の一部が残りの部分に対して前記キャビティの容積を変化させる方向に移動する型板可動部を有するものであり、溶湯注入後、凝固前に前記型板可動部を移動させて前記キャビティ容積を変化させることを特徴とする鋳造品の製造方法。
【請求項8】
溶湯注入前に前記型板可動部を移動させて前記キャビティ容積を鋳造品の容積よりも増大させる工程を有し、前記溶湯注入後、凝固前にキャビティ容積を変化させる工程は、前記キャビティ容積を鋳造品の容積に戻す工程であることを特徴とする請求項7に記載の鋳造品の製造方法。
【請求項9】
前記鋳造品を成形した後、前記型板可動部及びこの型板可動部を有する型板を他方の型板から離隔する方向に移動させて鋳造品を取り出す工程を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の鋳造品の製造方法。
【請求項10】
前記溶湯は、重力によって前記キャビティ内に鋳込まれることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の鋳造品の製造方法。
【請求項11】
前記型板可動部は、溶湯鋳込み時に下側となる型板に設けられていることを特徴とする請求項10に記載の鋳造品の製造方法。
【請求項12】
前記溶湯は、アルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯であることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項に記載の鋳造品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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