説明

鋳造型の加熱方法

【課題】鋳造型に熱媒通路を設ける必要がなく、比較的に簡易な構造で鋳造型を適切に加熱する技術を提供する。
【解決手段】鋳造型の加熱方法は、鋳造型のキャビティ形成面の少なくとも一部に、S12で準備された伝熱部材を接触させる接触工程S16と、キャビティ内の伝熱部材を加熱する加熱工程S18と、を備え、接触工程では、鋳造型のキャビティ形成面に伝熱部材を接触させる。加熱工程では、伝熱部材を加熱する。加熱された伝熱部材の熱が鋳造型に伝達することによって、鋳造型が加熱される。伝熱部材は、鋳造型への伝熱量が異なる複数の部分を備え、鋳造型を加熱する過程で、キャビティ形成面に表面塗布剤として繊維状カーボンを塗布することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造型を加熱する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造型のキャビティ内に溶湯を注入する際に鋳造型の温度が低いと、溶湯はキャビティ内をスムーズに流れることができない。この結果、キャビティ内に溶湯が行渡らずに、鋳造製品の寸法精度が低下する等の不具合が生じる虞がある。このため、キャビティ内に溶湯を注入する前に、鋳造型を加熱する必要がある。
【0003】
特許文献1に、鋳造型を加熱する技術が開示されている。特許文献1の技術では、鋳造型に形成された熱媒通路に熱媒体を通過させることによって、鋳造型を加熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−291831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、鋳造型に熱媒通路を設ける必要があり、鋳造型の構造が複雑になる。本明細書は、比較的に簡易な構造で鋳造型を加熱する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する技術は、鋳造型の加熱方法である。この加熱方法は、接触工程と加熱工程とを備える。接触工程では、鋳造型のキャビティ形成面に伝熱部材を接触させる。加熱工程では、伝熱部材を加熱する。加熱された伝熱部材の熱が鋳造型に伝達することによって、鋳造型が加熱される。この構成によれば、鋳造型を加熱するための構造を鋳造型に設けることなく、鋳造型を加熱することができる。鋳造型を複雑な構造にしなくて済み、加熱される伝熱部材をキャビティ形成面に接触させるという比較的に簡易な構造で鋳造型を加熱することができる。なお、加熱工程は、接触工程よりも前に実施される工程であってもよいし、後に実施される工程であってもよい。また、伝熱部材は、キャビティ形成面の少なくとも一部と同じ形状の面を有しているものであってもよい。
【0007】
上記の鋳造型の加熱方法は、さらに、接触工程の前に、キャビティ形成面に接触する伝熱部材表面に表面塗布剤を塗布する塗布工程を備えていてもよい。この構成では、接触工程で伝熱部材がキャビティ形成面に接触すると、伝熱部材の表面に塗布された表面塗布剤が、キャビティ形成面に付着する。即ち、鋳造型を加熱する過程で、キャビティ形成面に表面塗布剤を塗布することができる。
【0008】
伝熱部材は、鋳造型への伝熱量が異なる複数の部分(複数の表面範囲)を備えていてもよい。この構成によれば、部分的に鋳造型への伝熱量を調整することができる。
【0009】
キャビティ形成面は、繊維状カーボンによって被覆されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本明細書に開示される技術によれば、鋳造型を加熱するための構成を鋳造型に設ける必要がない。このため、既存の鋳造型を改修することなく、適切に鋳造型を加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】鋳造型の模式的断面図を示す。
【図2】鋳造方法の手順を示すフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して鋳造型の加熱方法を含む鋳造方法(鋳造製品の製造方法)の実施例について説明する。図1に示すように、本実施例の鋳造方法に用いられる鋳造型1は、可動型2と固定型4とを備える。可動型2は、固定型4に圧着及び離間する。固定型4が可動型2に圧着する(以下では「鋳造型1を閉じる」と呼ぶことがある)ことによって、固定型4のキャビティ形成面4aと可動型2のキャビティ形成面2aとで形成される空間がキャビティ9である。以下では、2個のキャビティ形成面2a,4aを合わせて、キャビティ形成面9aと呼ぶ。キャビティ形成面9aは、均一な表面粗さで形成されている。固定型4には、鋳造型1の外部から、キャビティ9に連通する給湯孔6が形成されている。可動型2の上端には、キャビティ9内に溶湯を注入する際に、キャビティ9内の圧力を低減するための減圧孔8が形成されている。なお、鋳造型1は、金型であってもよいし、砂型であってもよい。
【0013】
次いで、鋳造方法について説明する。図2に示すように、まず、S12において、伝熱部材10を準備する。図1に示すように、伝熱部材10は、キャビティ形成面9aと同一の外形形状を有する。伝熱部材10は、アルミニウム合金で作製されている。伝熱部材10の熱伝導率は、鋳造型1の熱伝導率よりも高い。伝熱部材10の表面には、表面粗さが異なる部分表面10a及び部分表面10bが形成されている。部分表面10aは固定型4の凸部4bと接触する面であり、部分表面10bは、伝熱部材10の表面全体のうち、部分表面10a以外の部分である。部分表面10bは、部分表面10aよりも粗く形成されている。なお、図1では、部分表面10aと部分表面10bとを区別するために、部分表面10aが、部分表面10bよりも太い線で記載されている。
【0014】
次いで、図2に示すように、S14では、伝熱部材10の表面に潤滑剤(表面塗布剤)を塗布する。必要に応じて、伝熱部材10の表面全体に潤滑剤を塗布してもよいし、伝熱部材10の表面の一部のみに潤滑剤を塗布してもよい。なお、S14において、潤滑剤以外に、例えば、浸炭剤、フラーレン類等、キャビティ形成面9aに塗布すべき表面塗布剤を、伝熱部材10の表面に塗布してもよい。
【0015】
続いて、S16では、キャビティ形成面9aに、伝熱部材10を接触させる。具体的には、可動型2と固定型4とを離間させて(以下では「鋳造型1を開く」と呼ぶ)、固定型4のキャビティ形成面4aに、伝熱部材10を接触させる。次いで、可動型2を固定型4に圧着させることによって、可動型2のキャビティ形成面2aにも、伝熱部材20を接触させる。なお、図1では、図面の見易さを優先して、キャビティ形成面9aと伝熱部材10との間に隙間が記載されているが、実際には、伝熱部材10の表面は、キャビティ形成面9aの全体と隙間なく接触している。
【0016】
次いで、S18では、伝熱部材10を加熱する。具体的には、鋳造型1の外部から、給湯孔6及び減圧孔8にバーナ20,22を挿入して、伝熱部材10に接触させることによって、伝熱部材10を加熱する。伝熱部材10の熱は鋳造型1に伝熱されて、鋳造型1は加熱される。即ち、バーナ20,22の熱は、伝熱部材10を介して、鋳造型1に伝わる。なお、伝熱部材10の加熱方法としては、バーナ以外に、高周波電流を伝熱部材10に流すことによって発生するジュール熱による加熱、溶湯を保持する保持炉の熱による加熱等の様々な加熱方法を利用することができる。
【0017】
伝熱部材10の部分表面10bの表面は、部分表面10aの表面よりも粗い。キャビティ形成面9aは均一な表面粗さであるために、微視的に見ると、単位面積当たりの部分表面10aとキャビティ形成面9aとの接触面積は、単位面積当たりの部分表面10bとキャビティ形成面9aとの接触面積よりも大きくなる。このため、部分表面10aからキャビティ形成面9aへの単位面積当たりの伝熱量は、部分表面10bからキャビティ形成面9aへの単位面積当たりの伝熱量よりも大きくなる。この結果、部分表面10aに接触しているキャビティ形成面9a近傍の鋳造型1は、部分表面10bに接触しているキャビティ形成面9a近傍の鋳造型1よりも高温となる。
【0018】
次いで、S20では、伝熱部材10を加熱してから予め決められた時間が経過すると、鋳造型1を開いて、伝熱部材10をキャビティ9から取り出す。その後、S22において、鋳造型1を閉じた後、キャビィ9内に溶湯を注入する。溶湯の注入後、予め決められた時間が経過すると、鋳造型1を開いて鋳造製品を取り出す(S24)。通常では、S24が終了すると、S22に戻って、S22及びS24の工程を繰り返し実行する。これにより、連続して鋳造製品が製造される。なお、S12からS20の工程は、S22及びS24の工程が中断している間に鋳造型1を保温するために、あるいは、新たにS22及びS24の工程を実施する前に鋳造型1に予熱を加えるために、実施される。
【0019】
上記の鋳造型1の加熱方法では、キャビティ9内の伝熱部材10を加熱することによって、鋳造型1を加熱する。伝熱部材10は、給湯孔6及び減圧孔8から挿入されたバーナ20,22によって加熱される。この構成によれば、鋳造型1を加熱するために、熱媒通路のように、鋳造型1に加熱のための専用の構成を設ける必要がない。このため、上記の鋳造型1の加熱方法は、既存の鋳造型を加熱する際にも用いることができる。また、キャビティ形成面9a全体を加熱するための大型のバーナ等を用意する必要がない。
【0020】
伝熱部材10は、鋳造型1と比較して高い熱伝導率を有する。この結果、バーナ20、22の熱が伝熱部材10から鋳造型1に伝わって鋳造型1内に拡散される前に、伝熱部材10内に拡散される。従って、多数の熱源を用いて多数の箇所から伝熱部材10を加熱しなくても、少数の熱源で伝熱部材10全体を加熱することができる。その結果、少数の熱源で鋳造型1のキャビティ形成面9aの広い範囲を所定の温度分布(典型的には均一の温度)にすることができる。
【0021】
鋳造型1を加熱する場合、溶湯に接触するキャビティ形成面9aの温度が特に重要である。上記の鋳造型1の加熱方法では、キャビティ形成面9aに伝熱部材10を直接接触させるために、鋳造型1内に熱媒体を通過させる場合と比較して、キャビティ形成面9aを効率よく加熱することができる。さらに、伝熱部材10は、キャビティ形成面9aの全体に亘って接触する。このため、キャビティ形成面9aの全体を適切に加熱することができる。
【0022】
鋳造製品を連続して製造している間(即ち図2のS22及びS24の工程が繰り返し実行されている間)では、鋳造型1の温度は均一にはならず、温度分布を有している。このため、鋳造型1を加熱する際には、鋳造型1が均一な温度になるように加熱するのではなく、鋳造工程中の温度分布を再現するように加熱することが望ましい。上記の伝熱部材10は、鋳造型1への伝熱量が異なる部分表面10a及び部分表面10bを備える。この構成によれば、鋳造型1への伝熱量を部分的に調整することができる。この結果、鋳造製品を連続して製造している最中の鋳造型1の温度分布に対応するように、鋳造型1を加熱することができる。また、鋳造型1への伝熱量は、伝熱部材10の構造によって決定されるために、鋳造型1の温度分布を考慮して伝熱部材10への加熱を調整しなくて済む。また、鋳造型1の温度分布が適正であるために、鋳造型1の加熱が異常であることに起因して、熱によるひずみが鋳造型1に発生することが防止される。また、鋳造型1の加熱後に、鋳造型1の温度分布を安定させて鋳造製品の品質が安定するまでの間、実際に溶湯をキャビティ9に注入して試行品を製造(いわゆる捨て打ち)しなくて済む。
【0023】
上記の鋳造型1の加熱方法では、伝熱部材10に潤滑剤を塗布した後、伝熱部材10を、キャビティ形成面9aに接触させる。このため、潤滑剤をキャビティ形成面9aに直接塗布しなくて済む。これにより、潤滑剤をキャビティ形成面9aに直接塗布する場合と比較して、潤滑剤の塗布のばらつきを抑制することができる。
【0024】
上記の実施例の変形例を以下に列挙する。
(1)上記の実施例では、伝熱部材10をキャビティ形成面9aの全体に接触させる。これに替えて、伝熱部材10をキャビティ形成面9aの一部のみに接触させてもよい。
【0025】
(2)上記の実施例では、表面粗さが異なる表面部分10a、10bを備える熱媒体10を準備する(図2のS12参照)。これにより、鋳造型1への伝熱量を部分的に調整している。これに替えて、表面粗さを変化させること以外の表面処理を伝熱部材10に実施することによって、表面状態が異なる複数個の部分を備える伝熱部材10を準備してもよい。例えば、伝熱部材10から鋳造型1への伝熱量を他の部分よりも多くしたい部分の伝熱部材10の表面に、サーマルジョイント(例えば、銅を含むペースト)を塗布してもよい。あるいは、熱容量が異なる複数の部分を備える伝熱部材10を準備してもよい。この構成によっても、伝熱部材10から鋳造型1に伝わる熱量を部分的に調整することができる。
【0026】
(3)上記の実施例では、均一の材料(アルミニウム合金)で作製された伝熱部材10を準備する(図2のS12参照)。これに替えて、部分的に異なる材料で作製された伝熱部材10を準備してもよい。これにより、鋳造型1への伝熱量が部分的に異なる伝熱部材10を実現してもよい。なお、伝熱部材10は、複数個に分割されていてもよい。
【0027】
(4)上記のキャビティ形成面9aは、繊維状カーボン(カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等)によって被覆されていてもよい。この場合、図2のS14において、表面塗布剤として、伝熱部材10の表面にフラーレン類を付着してもよい。この構成によれば、伝熱部材10を加熱することによって、フラーレン類等の非晶質化が促進される。これにより、表面処理(繊維状カーボンの被覆)の劣化を抑制することができる。
【0028】
(5)上記の実施例では、伝熱部材10をキャビティ形成面9aに接触させた後(図2のS16)、伝熱部材10を加熱する(図2のS18)。これに替えて、伝熱部材10を加熱した後、伝熱部材10をキャビティ形成面9aに接触させてもよい。
【0029】
(6)上記の実施例の鋳造方法は、伝熱部材10を加熱する工程(図2のS18)を含む。しかしながら、伝熱部材10を加熱する工程を含まなくてもよい。即ち、キャビティ形成面9aに接触する部材を準備して、その部材の表面の少なくとも一部に、表面塗布剤を塗布する。次いで、表面塗布剤が塗布された媒体を、キャビティ形成面9aに接触させる。この構成によれば、キャビティ形成面9aに表面塗布剤を直接に塗布することなく、キャビティ形成面9aに表面塗布剤を塗布することができる。この構成によれば、キャビティ形成面9aに直接に表面塗布剤を塗布する場合と比較して、キャビティ形成面9aに表面塗布剤を均一に塗布することが可能となる。
【0030】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0031】
1:鋳造型
6:給湯孔
8:減圧孔
9:キャビティ
2a、4a、9a:キャビティ形成面
10:伝熱部材
20、22:バーナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造型のキャビティ形成面に伝熱部材を接触させる接触工程と、
伝熱部材を加熱する加熱工程と、を備える鋳造型の加熱方法。
【請求項2】
接触工程の前に、キャビティ形成面に接触する伝熱部材表面に表面塗布剤を塗布する塗布工程を、さらに備える請求項1に記載の鋳造型の加熱方法。
【請求項3】
伝熱部材は、鋳造型への伝熱量が異なる複数の部分を備える、請求項1又は2に記載の鋳造型の加熱方法。
【請求項4】
キャビティ形成面は、繊維状カーボンによって被覆されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の鋳造型の加熱方法。

【図1】
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【図2】
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