説明

鋳造用中子および鋳造用中子の変位防止方法

【課題】鋳造製品の寸法精度を向上させるために、注湯時の前後において、中子が変位することを確実に防止できる簡易な鋳造用中子および鋳造用中子の変位防止方法を提供する。
【解決手段】上型2および下型3によって変位が規制される部位である各幅木部5b・6bと、上型2および下型3によって形成されるキャビティ4に配置され、上型2および下型3により鋳造される製品形状の一部を成す部位である各型部5a・6aと、を備える各中子5・6であって、各型部5a・6aに内蔵される各錘7・8を備え、キャビティ4に溶湯を注湯するときに前記溶湯により各錘7・8を内蔵する各型部5a・6aに作用する浮力Fに比して、各錘7・8を内蔵する各型部5a・6aに作用する重力Gが大きい各中子5・6とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用中子の技術に関し、より詳しくは、注湯時の変位を防止することができる鋳造用中子および鋳造用中子の変位防止方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造時に鋳造用金型とともに用いられる鋳造用中子は、鋳造用金型に形成されるキャビティ内に配置され製品形状の一部を成す部位である型部と、それ以外の部位である幅木部と、を備える構成が一般的であり、鋳造用金型により幅木部を保持することによって、キャビティに対する型部の位置決めをする方法が一般的に知られている。ここで、鋳造用金型によって幅木部を保持する部位では、鋳造時における各部材の熱膨張を考慮して、鋳造用金型と幅木部との間にクリアランスを設定している。
【0003】
キャビティに溶湯が注湯されると、鋳造用中子の型部は溶湯から浮力を受けて浮き上がろうとする。このとき、鋳造用金型と幅木部との間にクリアランスがあると、そのクリアランスの範囲では鋳造用中子の変位を規制することができない。
つまり、従来は、注湯時の前後において、鋳造用中子を精度良く一定位置に保持するのが難しかったため、鋳造製品の寸法精度を確保することが困難であった。
このため、注湯時の前後において、鋳造用中子を精度良く一定位置に保持するための技術が種々検討されており、例えば、以下に示す特許文献1〜4等にその技術が開示され公知となっている。
【0004】
特許文献1に示された従来技術では、鋳造用金型の上型に上下動自在なウェイト(錘)を設けておき、注湯時に錘で幅木部を押圧することによって、鋳造用中子の浮き上がりを防止する構成としている。また、特許文献2には、特許文献1に記載された構成のように注湯時に錘で幅木部を押圧する場合には、錘の材料をより密度の大きい材料とすることによって、錘による押圧部位をコンパクトな構成とすることができる旨が開示されている。
【0005】
また、特許文献3に示された従来技術では、鋳造用中子の一端(即ち、幅木部)を鋳造用金型に形成した凹部に嵌合させるとともに、鋳造用中子の他端(即ち、型部)を押圧するための鋳造用中子を設定することによって、鋳造用中子の変位(浮き上がり)を防止する構成としている。
【0006】
さらに、特許文献4に示された従来技術では、鋳造用中子の一端(即ち、幅木部)を鋳造用金型に形成する凹部に嵌合させるとともに、鋳造用中子の他端(即ち、型部)を吸引することができる吸引手段を備える構成とし、該吸引手段で鋳造用中子の他端を吸引することによって、鋳造用中子を精度良く位置決めして、変位を防止する構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−155896号公報
【特許文献2】特開2004−230403号公報
【特許文献3】特開平8−276243号公報
【特許文献4】特開平9−174195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された従来技術では、鋳造用中子の幅木部のみを押圧して鋳造用中子の変位を規制しているため、鋳造用中子の拘束されていない部位(即ち、型部)に作用する浮力によって、幅木部による支持部位近傍を回転中心とするモーメント力が作用するため、鋳造用中子が変位したり、撓んだり、あるいは、折れたりすることが懸念されていた。
また、特許文献3に開示された従来技術では、鋳造用中子の形状が複雑になってしまい、さらに、特許文献4に開示された従来技術のように、吸引手段を備える構成では、鋳造用金型の構造が複雑になったり、鋳造設備の構成が大掛かりになったりしていた。
つまり、注湯時の前後において中子の変位を防止するための従来技術には、改善の余地が残されており、鋳造製品の寸法精度の向上を図るためにも、さらなる改善が望まれている状況であった。
【0009】
本発明は、係る現状の課題を鑑みてなされたものであり、鋳造製品の寸法精度を向上させるために、注湯時の前後において、中子が変位することを確実に防止できる簡易な鋳造用中子および鋳造用中子の変位防止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、鋳造用金型によって変位が規制される部位である幅木部と、前記鋳造用金型によって形成されるキャビティに配置され、前記鋳造用金型により鋳造される製品形状の一部を成す部位である型部と、を備える鋳造用中子であって、前記型部に内蔵される錘を備え、前記キャビティに溶湯を注湯するときに前記溶湯により前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力に比して、前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力が大きいものである。
【0012】
請求項2においては、前記錘は、前記型部の体積と前記溶湯の密度から、前記溶湯により前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力を算出するとともに、前記錘の体積を所定の体積とした場合において、算出した浮力に比して前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力が大きくなる前記錘の密度の条件を算出して、算出した前記錘の密度の条件を満足する材料により構成されるものである。
【0013】
請求項3においては、前記錘は、前記型部の、前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力によって前記型部に生じる応力を、前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力によって前記型部に生じる応力によって打ち消すことができる部位に内蔵されるものである。
【0014】
請求項4においては、前記錘は、前記型部の、前記幅木部から最も離間した部位であり、かつ、前記鋳造用金型と当接する部位である端部に、該端部から前記錘に形成する当接面を露出して内蔵されるものである。
【0015】
請求項5においては、前記錘は、前記当接面に、前記鋳造用金型の前記端部と当接する部位に形成される凹凸形状に嵌合する形状を有する位置決め部が形成されるものである。
【0016】
請求項6においては、鋳造用金型によって変位が規制される部位である幅木部と、前記鋳造用金型によって形成されるキャビティに配置され、前記鋳造用金型により鋳造される製品形状の一部を成す部位である型部と、を備える鋳造用中子の変位防止方法であって、前記型部に錘を内蔵して、前記キャビティに溶湯を注湯するときに前記溶湯により前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力に比して、前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力が大きくするものである。
【0017】
請求項7においては、前記型部の体積と前記溶湯の密度から、前記溶湯により前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力を算出するとともに、前記錘の体積を所定の体積とした場合において、算出した浮力に比して前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力が大きくなる前記錘の密度の条件を算出して、前記錘を、算出した前記錘の密度の条件を満足する材料により構成するものである。
【0018】
請求項8においては、前記錘を、前記型部の、前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力によって前記型部に生じる応力を、前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力によって前記型部に生じる応力によって打ち消すことができる部位に内蔵するものである。
【0019】
請求項9においては、前記錘を、前記型部の、前記幅木部から最も離間した部位であり、かつ、前記鋳造用金型と当接する部位である端部に、該端部から前記錘に形成する当接面を露出させて内蔵するものである。
【0020】
請求項10においては、前記錘の前記当接面に、前記鋳造用金型の前記端部と当接する部位に形成される凹凸形状に嵌合する形状を有する位置決め部を形成するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0022】
請求項1においては、簡易な構成の鋳造用中子によって、注湯前後における中子の変位を確実に防止できる。これにより、鋳造製品の寸法精度を向上させることができる。
【0023】
請求項2においては、錘を内蔵する鋳造用中子に作用する重力を、錘を内蔵する鋳造用中子に作用する浮力に比して確実に大きくすることができる。
【0024】
請求項3においては、鋳造用中子が撓んだり、折れたりすることを確実に防止できる。
【0025】
請求項4においては、鋳造用中子の位置決めを精度よく行うことができる。
【0026】
請求項5においては、鋳造用中子の位置決めをより精度よく行うことができる。
【0027】
請求項6においては、簡易な構成の鋳造用中子によって、注湯前後における中子の変位を確実に防止できる。これにより、鋳造製品の寸法精度を向上させることができる。
【0028】
請求項7においては、錘を内蔵する鋳造用中子に作用する重力を、錘を内蔵する鋳造用中子に作用する浮力に比して確実に大きくすることができる。
【0029】
請求項8においては、鋳造用中子が撓んだり、折れたりすることを確実に防止できる。
【0030】
請求項9においては、鋳造用中子の位置決めを精度よく行うことができる。
【0031】
請求項10においては、鋳造用中子の位置決めをより精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第一実施例に係る鋳造用中子を備えた鋳型の全体構成(型閉めした状態)を示す断面模式図。
【図2】本発明の第一実施例に係る鋳造用中子を備えた鋳型の全体構成(片開きして分解した状態)を示す断面模式図。
【図3】本発明の第一実施例に係る鋳造用中子における錘の設計方法の一連の流れを示すフロー図。
【図4】片持ち支持される中子に作用する浮力および重力を説明する模式図、(a)従来の鋳造用中子に作用する浮力および重力を示す断面模式図、(b)本発明の第一実施例に係る鋳造用中子に作用する浮力および重力を示す断面模式図。
【図5】本発明の第一実施例に係る鋳造用中子の当接面による位置決め状態を示す断面模式図。
【図6】両持ち支持される中子に作用する浮力および重力を説明する模式図、(a)従来の鋳造用中子に作用する浮力および重力を示す断面模式図、(b)本発明の第一実施例に係る鋳造用中子に作用する浮力および重力を示す断面模式図。
【図7】本発明の第一実施例に係る鋳造用中子を製造するための中子型およびその中子型による鋳造用中子の製造方法を説明する断面模式図。
【図8】本発明に係る鋳造用中子を備えた鋳型による鋳造方法の一連の流れを示すフロー図。
【図9】本発明の第二実施例に係る鋳造用中子を備えた鋳型の全体構成(型閉めした状態)を示す断面模式図。
【図10】本発明の第二実施例に係る鋳造用中子を備えた鋳型の全体構成(片開きして分解した状態)を示す断面模式図。
【図11】本発明の第二実施例に係る鋳造用中子の当接面および位置決め部による位置決め状態を示す断面模式図。
【図12】本発明の第二実施例に係る鋳造用中子を製造するための中子型およびその中子型による鋳造用中子の製造方法を説明する断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0034】
まず始めに、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子を含む鋳型の全体構成について、図1および図2を用いて説明をする。尚、本実施例では、本発明に係る鋳造用中子を含む鋳型の一例としてエンジンのシリンダヘッドを製造するための鋳型を例示して説明をするが、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子が用いられる鋳型の用途をこれに限定するものではない。
【0035】
図1および図2に示す如く、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子を含む鋳型の一例である鋳型1は、鋳造用金型である上型2および下型3と、鋳造用中子である各中子5・6・9・10・11等を備えている。
上型2には、製品形状を成す成型面2aを形成しており、同様に下型3には、製品形状を成す成型面3aを形成している。そして、各成型面2a・3aを向かい合わせるとともに所定位置に位置決めした状態で上型2および下型3を型閉めすることによって、各型2・3の合わせ面に製品形状を成す空隙部であるキャビティ4を形成する構成としている。
【0036】
また、上型2のキャビティ4の外周縁部となる部位には、各中子5・6の支持部位となる凹部2b・2cを形成しており、同様に、下型3のキャビティ4の外周縁部となる部位には、各中子5・6の支持部位となる各凹部3b・3cを形成している。またさらに下型3には、各中子5・6が当接する部位である各当接面3e・3fを形成している。
【0037】
また鋳型1の内部には、キャビティ4によって成型される鋳造体の内部に空洞部分を形成するための型部材である各中子5・6・9・10・11を配置している。本実施例に示す鋳型1において、中子5および中子6は吸排気ポートとなる一対の空洞部分を形成するための中子であり、その他の各中子9・10・11は、ウォータージャケットとなる空洞部分を形成するための中子である。
【0038】
そして、本実施例では、鋳型1の内部に配置される本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6・9・10・11のうち、主に吸排気ポート用の一対の空洞部分を形成するための各中子5・6について例示して説明をする。尚、その他の各中子9・10・11についても、例えば、中子9に錘9aを内蔵しているように、各中子5・6と同様に本発明の第一実施例に係る鋳造用中子に該当するものであるが、以下に示す詳細な説明では、各中子9・10・11についての詳細な説明は省略する。
【0039】
ここで、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子の全体構成について、図2を用いて説明をする。
本発明の第一実施例に係る鋳造用中子の一例である中子5および中子6は、シリンダブロック内に一対の吸排気用ポートとなる空洞部分を形成するための型部材であり、互いの形状が略線対称となっている。中子5および中子6は、主に鋳砂からなる砂状の材料を固めて形成されるものであり、鋳造後において粉砕して離型することができるものである。
尚、本実施例では、中子5および中子6が主に鋳砂を固めて形成される砂中子である場合を例示して説明をするが、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子の主材料は、必ずしも鋳砂でなくてもよく、合成樹脂やワックス等であってもよい。
【0040】
中子5には、型部5aと幅木部5bを形成しており、中子6にも同様に、型部6aと幅木部6bを形成している。
各型部5a・6aは、キャビティ4とともに製品形状の一部を成す型面を形成する部位であり、キャビティ4の内部に配置される部位である。つまり、各型部5a・6aは、キャビティ4に配置され、鋳型1により鋳造される鋳造製品の形状の一部を成す部位である。
【0041】
また、型部5aの幅木部5bから最も離間した部位である端部5eには、下型3の当接面3eに当接する部位である当接面5fを形成しており、同様に型部6aの幅木部6bから最も離間した部位である端部6eには、下型3の当接面3fに当接する部位である当接面6fを形成している。
【0042】
各幅木部5b・6bは、上型2および下型3によって各中子5・6を支持するための支持部としての役割を果たすための部位である。
中子5の幅木部5bには、下型3の凹部3bに対応する凸部5cと、上型2の凹部2bに対応する凸部5dを形成しており、同様に、中子6の幅木部6bには、下型3の凹部3cに対応する凸部6cと、上型2の凹部2cに対応する凸部6dを形成している。
【0043】
ここで、中子5の幅木部5bに形成する各凸部5c・5dは、下型3の凹部3bと上型2の凹部2bに対して、熱膨張を考慮してクリアランス(図示せず)を設定しており、同様に中子6の幅木部6bに形成する各凸部6c・6dは、下型3の凹部3cと上型2の凹部2cに対して、熱膨張を考慮してクリアランス(図示せず)を設定している。
【0044】
そして、中子5の型部5aには、錘7を内蔵しており、同様に中子6の型部6aには、錘8を内蔵している。
各錘7・8は、各中子5・6の重量を増大させるために内蔵する部材であり、各中子5・6や溶湯に比して、密度が大きい材料により形成される部材である。
【0045】
錘7は、型部5aの幅木部5bから最も離間した部位である端部5eにおいて、錘7に形成される当接面7aを端部5eに形成される当接面5fから露出させつつ、当接面7aが当接面5fと一体的な平面を形成するように内蔵される。
同様に錘8は、型部6aの幅木部6bから最も離間した部位である端部6eにおいて、錘8に形成される当接面8aを端部6eに形成される当接面6fから露出させつつ、当接面8aが当接面6fと一体的な平面を形成するように内蔵される。
【0046】
上型2および下型3を型閉めするときに、まず下型3に形成される凹部3bに中子5の幅木部5bに形成される凸部5cを挿入するとともに、各当接面5f・7aを下型3の当接面3eに当接させて、下型3の所定位置に中子5を配置する。
また同様に、下型3に形成される凹部3cに中子6の幅木部6bに形成される凸部6cを挿入するとともに、各当接面6f・8aを下型3の当接面3fに当接させて、下型3の所定位置に中子6を配置する。
【0047】
そして、上型2に形成される凹部2bに中子5の幅木部5bに形成される凸部5dを挿入するとともに、同様に上型2に形成される凹部2cに中子6の幅木部6bに形成される凸部6dを挿入しつつ、上型2および下型3を型閉めする。これにより、上型2および下型3によって各中子5・6を支持して、各型部5a・6aをキャビティ4内の所定位置に保持する構成としている。
【0048】
このような上型2および下型3によって各中子5・6を支持する構成の鋳型1においては、各中子5・6と上型2および下型3との間には熱膨張を考慮したクリアランスを設定しているため、上型2および下型3では、各中子5・6の変位を確実に規制することができなかったが、本発明の第一実施例に係る各中子5・6では、各型部5a・6aに各錘7・8を内蔵することにより、クリアランスを設定していても各中子5・6の変位を規制することを可能にしている。以下では、各錘7・8によって各中子5・6の変位を規制する方法について説明をする。
【0049】
次に、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子に内蔵される錘の一連の設計手順について、図2および図3を用いて説明をする。
図2に示すような各中子5・6に内蔵する各錘7・8を設計するときには、図3に示す如く、まず鋳造に使用される溶湯(例えば、アルミ等)の成分分析の結果や溶湯となる材料の既知の物性値等から当該溶湯の密度を予め知得しておき、注湯された溶湯から各中子5・6に作用する浮力Fを算出する(STEP−101)。
この浮力Fは、以下に示す数式1により求められる。尚、数式1において示すρは溶湯の密度、Vは中子の体積、gは重力加速度である。
【0050】
【数1】

【0051】
次に、各錘7・8を各中子5・6のどの位置に内蔵するかを決定するとともに、決定した配置場所の形状および体積等を考慮して、各錘7・8の体積Vを決定する(STEP−102)。
【0052】
次に、各錘7・8の体積Vとした場合における、各錘7・8を内蔵した状態の各中子5・6に作用する重力Gを算出する(STEP−103)。
各錘7・8を内蔵した状態の各中子5・6に作用する重力Gは、以下の数式2により求められる。尚、数式2において示すρは中子の密度、ρは錘の密度である。
【0053】
【数2】

【0054】
次に、各中子5・6が注湯時に溶湯から受ける浮力により浮かないようにするための条件を検討する。この場合、数式1で求めた浮力Fが、数式2で求めた重力Gに比して小さければ、各錘7・8を内蔵した各中子5・6が浮き上がることはないから、各中子5・6が注湯時に溶湯から受ける浮力により浮かないようにするための条件は、以下に示す数式3のように表される。
【0055】
【数3】

【0056】
そして、数式3を整理すると、以下に示す数式4のように表され、この数式4に具体的な値を代入することにより、各中子5・6に内蔵するのに適した各錘7・8の密度の条件が算出される(STEP−104)。
【0057】
【数4】

【0058】
具体的には、例えば、アルミ鋳造で砂中子を用いる場合には、溶湯(アルミ)の密度ρ=2.4g/cmであり、各中子5・6の密度ρ=1.8g/cmとなる。そして、各錘7・8の体積を各中子5・6の体積の10%とする(即ち、V/V=0.1)ものと仮定して、各値を数式4に代入すると、以下に示す数式5のように表される。
【0059】
【数5】


【0060】
つまり、数式5に示す如く、ここで例示した具体的な条件において、各中子5・6の浮き上がりを防止するために必要となる錘の密度ρの条件は、ρ>7.8g/cmとなる。
そして、この条件を満たす(即ち、密度が7.8g/cmより大きい)材料を検討すると、例えば、炭素鋼(密度:7.83g/cm)や銅(密度:8.96g/cm)等が、各錘7・8の材料として採用できる。
【0061】
このようにして、数式1〜数式5による計算結果に基づいて、各錘7・8の体積を体積V(V/V=0.1)と仮定した場合において、各錘7・8を形成するのに適した材料を決定することができる(STEP−105)。
【0062】
このように、各中子5・6に内蔵する各錘7・8について、各中子5・6が注湯時に溶湯から受ける浮力Fにより確実に浮かないようにすることができる錘の材料の密度および体積等を予め計算で決定しておくことにより、各中子5・6が注湯時に変位する(浮き上がる)ことを確実に防止することができる。
【0063】
即ち、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6に内蔵される各錘7・8は、各型部5a・6aの体積Vと溶湯の密度ρから、前記溶湯により各錘7・8を内蔵する各型部5a・6aに作用する浮力Fを算出するとともに、各錘7・8の体積Vを所定の体積(例えば、V/V=0.1)とした場合において、算出した浮力Fに比して各錘7・8を内蔵する各型部5a・6aに作用する重力Gが大きくなる各錘7・8の密度ρの条件を算出して、算出した各錘7・8の密度ρの条件を満足する材料により構成されるものである。
【0064】
また、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6による変位防止方法は、各型部5a・6aの体積Vと溶湯の密度ρから、前記溶湯により各錘7・8を内蔵する各型部5a・6aに作用する浮力Fを算出するとともに、各錘7・8の体積Vを所定の体積(例えば、V/V=0.1)とした場合において、算出した浮力Fに比して各錘7・8を内蔵する各型部5a・6aに作用する重力Gが大きくなる各錘7・8の密度ρの条件を算出して、各錘7・8を、算出した各錘7・8の密度ρの条件を満足する材料により構成するものである。
これにより、各錘7・8を内蔵する各中子5・6に作用する重力Gを、各錘7・8を内蔵する各中子5・6に作用する浮力Fに比して確実に大きくすることができる。
【0065】
尚、中子の重量を大きくし過ぎると、中子を運搬等する作業者の負担が大きくなったり、あるいは、中子が自重で壊れたりすること等が懸念されるため、前述した数式1〜数式5を満足しつつ、できる限り錘の重量を軽くするように設計するのが望ましい。
【0066】
次に、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子に作用する浮力および重力について、図4〜図6を用いて説明をする。尚、ここでは、錘7が内蔵される中子5に作用する浮力および重力を例示して説明をするが、錘8が内蔵される中子6に作用する浮力および重力も同様であるため説明は省略する。
【0067】
例えば、図4(a)に示す如く、錘を備えていない従来の中子55は、一端(幅木部55b)を上型2および下型3によって支持され、他端(型部55aの当接面55f)が下型3の当接面3eに当接するように配置される状況において、浮力Fに対して、当接面3eが支持部としての役割を果たさないため、片持ち支持の状態となる。また、錘を備えていない従来の中子55に作用する浮力Fは、該中子55に作用する重力Gに比して大きくなっている。このため、溶湯が湯道3dから注湯され、溶湯による浮力Fが作用すると、幅木部55bに設定されたクリアランス(図示せず)の範囲で中子55が変位したり、あるいは中子55に撓みが生じたりして、中子55の他端(当接面55f)が当接面3eから浮き上がってしまう。
【0068】
またこの状態では、中子55には溶湯による浮力Fによって応力が生じる。このとき生じる応力としては、例えば、中子55が片持ち支持される部位(図4(a)中に示す点Aの近傍)に集中して曲げモーメントM等が作用するため、曲げモーメントMが集中する部位の近傍において中子55が折れることが懸念される。
【0069】
一方、本発明の第一実施例に係る中子5では、錘7を、支持端側(即ち、幅木部5b)とは反対側の他端側(即ち、型部5aの端部5e)に配置する構成としている。中子5に錘7を内蔵することにより、中子5に作用する浮力Fは、錘7を内蔵する中子5に作用する重力Gに比して小さくなっている。
【0070】
これにより、図4(b)に示す如く、錘7に作用する重力によって、幅木部5bに設定されたクリアランス(図示せず)の範囲での変位を防止するとともに、中子5が片持ち支持される部位(図4(b)中に示す点Aの近傍)に集中して作用する曲げモーメントMを打ち消すことができる。このとき、中子5が片持ち支持される部位(図4(b)中に示す点Aの近傍)には、曲げモーメントMに比して小さい逆向きの曲げモーメントMを作用させることができる。尚、この曲げモーメントMができる限り小さくなるように、錘7の重量・体積および内蔵位置等を設定することが望ましい。
【0071】
つまり、錘7を中子5に作用する応力および重力を考慮して適切な場所に内蔵することにより、中子5が片持ち支持される場合において、注湯前後の中子5の変位を防止することができるとともに、溶湯による浮力Fによって生じる応力を打ち消して、中子5が撓んだり、あるいは、折れたりすることを確実に防止することができる。
【0072】
即ち、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6に内蔵される各錘7・8は、各型部5a・6aの、各錘7・8を内蔵する各型部5a・6aに作用する浮力Fによって各型部5a・6aに生じる応力(例えば、曲げモーメントM)を、各錘7・8を内蔵する各型部5a・6aに作用する重力Gによって各型部5a・6aに生じる応力(例えば、曲げモーメントM)によって打ち消すことができる部位(本実施例では、各型部5a・6aの各端部5e・6e)に内蔵されるものである。
【0073】
また、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6による変位防止方法は、各型部5a・6aの、各錘7・8を内蔵する各型部5a・6aに作用する浮力Fによって各型部5a・6aに生じる応力(例えば、曲げモーメントM)を、各錘7・8を内蔵する各型部5a・6aに作用する重力Gによって各型部5a・6aに生じる応力(例えば、曲げモーメントM)によって打ち消すことができる部位(本実施例では、各型部5a・6aの各端部5e・6e)に各錘7・8を内蔵するものである。
これにより、各中子5・6が撓んだり、折れたりすることを確実に防止できる。
【0074】
尚、中子に錘を内蔵して、中子に作用する重力をより大きくすることにより、中子の変位を防止する方法では、錘を内蔵する位置によって、変位を防止する効果に差異が生じてくるため、中子に作用する浮力によって曲げモーメントが生じる部位を解析等の手法により特定した上で、浮力により生じる曲げモーメントを打ち消すことができる逆方向への曲げモーメントが生じるように、錘の重量・体積および内蔵位置等を設計するのが望ましい。
【0075】
そして、図3を用いて説明した錘の設計手順において、(STEP−102)の段階で行われる錘の配置の決定に際しては、各中子5・6に作用する浮力および重力によって、各中子5・6の各部に生じる応力を考慮して、小さい錘で効果的に変位を防止することができるように設計をすることが望ましい。
【0076】
また、図5に示す如く、本発明の第一実施例に係る中子5では、錘7を、支持端側(即ち、幅木部5b)とは反対側の他端側(即ち、型部5aの端部5e)に配置する構成とし、中子5の当接面5fの一部を錘7の当接面7aにより形成している。そして、各当接面5f・7aを下型3の当接面3eと面接触させる構成としている。
【0077】
錘7の当接面7aは、中子5の当接面5fとは異なり、型同士が接触した場合であっても面がほとんど削れる(平面度が悪化する)ことがないため、下型の当接面3eと当接面7aとを当接させることによって、中子5を精度よく位置決めをすることができる。
【0078】
即ち、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6に内蔵される各錘7・8は、各型部5a・6aの、各幅木部5b・6bから最も離間した部位であり、かつ、下型3と当接する部位である各端部5e・6eに、該各端部5e・6eから各錘7・8に形成する各当接面7a・8aを露出して内蔵されるものである。
【0079】
また、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6による変位防止方法は、各型部5a・6aの、各幅木部5b・6bから最も離間した部位であり、かつ、下型3と当接する部位である各端部5e・6eに、該各端部5e・6eから各錘7・8に形成する各当接面7a・8aを露出して各錘7・8を内蔵するものである。
これにより、各中子5・6の位置決めを精度よく行うことができる。
【0080】
さらに、中子が両持ち支持される場合の他の実施例について説明をする。
例えば、図6(a)に示すように錘を備えていない従来の中子65が、両端を上型2および下型3によって両持ち支持される構成である場合には、溶湯により中子65に作用する浮力Fに比して、中子65に作用する重力Gが小さくなっている。
【0081】
このため、溶湯が湯道3dから注湯され、中子65に浮力Fが作用することによって、中子65に応力が生じると、例えば、中子65の左右両端の支持部位(図6(a)中に示す点B・Cの近傍)に集中して曲げモーメントM・Mが作用する。このため中子65は、図6(a)中に示す点B・Cの近傍において、折れることが懸念される。
【0082】
一方、図6(b)に示す本発明に係る鋳造用中子の一実施例である中子15では、中子15の左右両端の支持部位(図6(b)中に示す点B・Cの近傍)に対して略中央に位置する部位に錘17を内蔵する構成としている。そして、溶湯により中子15に作用する浮力Fに比して、錘17を内蔵する中子15に作用する重力Gが大きくなっている。
【0083】
これにより、錘17を内蔵する中子15に作用する重力Gによって、溶湯からの浮力Fによって作用する応力である曲げモーメントM・Mを打ち消して、かつ、曲げモーメントM・Mに比して小さい逆向きの曲げモーメントM・Mを作用させることができ、中子15が両持ちで支持される場合に浮力による曲げモーメントM・Mが集中して作用する部位(図6(b)中に示す点B・C)において、中子15が折れたり、変位したりすることを確実に防止する構成としている。
【0084】
このように、本発明に係る鋳造用中子は、中子に錘を内蔵することによって、該中子が片持ち支持される構成であるか、あるいは、両持ち支持される構成であるか、あるいは、さらに多点で支持される構成であるかに関わらず、中子の変位を確実に防止することができる。
また本実施例では、各中子に内蔵する錘が1個である場合を例示しているが、複数の錘を内蔵する構成とすることも可能であり、浮力によって中子に作用する応力の分布を考慮して複数の錘を分散させて配置する構成とすることも可能である。
【0085】
次に、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子の製造方法について、図7を用いて説明をする。尚、本実施例では、中子5の製造状況を例示しているが、中子6やその他の各中子9・10・11等も同様の方法で製造することが可能である。
【0086】
図7に示す如く、中子5の製造に用いられる中子型12は、第一型12aと第二型12bに分割される構成としており、各型12a・12bを型閉めすることによって、中子5の外形形状となるキャビティ12cが形成される構成としている。また、キャビティ12cには、中子5の当接面5fの型となる型面12dを形成している。
【0087】
そして、この中子型12を用いて中子5を製造するときには、まず錘7に形成される当接面7aをキャビティ12cに形成された型面12dに当接させて所定位置に配置しておく。
そして、この状態で中子型12内に主に鋳砂からなる材料を吹き込んで、粘結剤等の凝固作用等を利用して、キャビティ12cの内面形状を外形形状とする中子5を製造するようにしている。これにより、中子5内の所定位置(端部5e)に錘7が配置され、かつ、錘7の当接面7aを中子5の当接面5fに一致させた状態で露出させることができる。
【0088】
このような方法で中子5を製造することにより、予め中子型12の所定位置に錘7を配置しておく工程以外は、従来通りの工程で中子5を製造することができるため、本発明の第一実施例に係る中子5を、容易に製造することができる。
尚、各錘7・8は繰り返して再利用することができ、また外形形状が異なる中子で共通の各錘7・8を使用できるように設計することも可能であるため、経済性にも優れている。
【0089】
次に、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子を有する鋳型を用いた鋳造方法の一連の工程について、図8を用いて説明をする。
図8に示す如く、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6を有する鋳型1を用いた鋳造方法では、まず始めに、各中子5・6に内蔵する各錘7・8の仕様(材料・体積・形状・内蔵位置等)を決定する(STEP−201)。尚このとき、その他の各中子9・10・11についても同様に仕様を決定しておく。この各錘7・8の仕様決定は、前述した図3に示す設計方法(STEP−101〜STEP−105)により行われる。
【0090】
そして次に、決定した各錘7・8の仕様に従って、各中子5・6およびを製作する(STEP−202)。尚このとき、その他の各中子9・10・11についても同様に製作しておく。ここで各中子5・6・9・10・11は、前述した図7に示す製造方法によって製造される。
【0091】
そして次に、鋳型1を型開きした状態としておき、製作した各中子5・6を、下型3の所定位置に配置する。(STEP−203)。尚このとき、その他の各中子9・10・11についても同様に下型3の所定位置に配置する。
そして、上型2を閉じて鋳型1を型閉めし、上型2および下型3により各中子5・6の各幅木部5b・6bを保持して、鋳型1により各中子5・6を支持する。(STEP−204)。尚このとき、その他の各中子9・10・11についても同様に上型2および下型3により支持する。
【0092】
そして次に、下型3に形成されたキャビティ4に連通する湯道3d・3dから溶湯を注湯し、鋳造を行う(STEP−205)。
このとき、各中子5・6に作用する浮力は、各中子5・6に作用する重力に比して確実に小さいため、注湯前後において、各中子5・6が浮き上がることがなく、また各中子5・6が折れるようなこともない。
【0093】
そして最後に、鋳型1を型開きして、キャビティ4および各中子5・6によって成型された鋳造製品を離型する。(STEP−206)。
さらに、各中子5・6は粉砕して除去される(STEP−207)。粉砕された各中子5・6は、回収され鋳砂として再利用される。
また、各錘7・8も回収され鋳砂等を除去した後に、変形や傷の有無等を確認し、寿命の範囲内で再利用される。
このような一連の鋳造工程により、従来に比して寸法精度が改善された鋳造製品を簡易に製造することができる。
【0094】
次に、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子を含む鋳造用金型の全体構成について、図9および図10を用いて説明をする。尚、第二実施例においても、本発明に係る鋳造用中子を含む鋳型の一例としてエンジンのシリンダヘッドの鋳造に用いる鋳型を例示して説明をするが、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子が用いられる鋳型の用途をこれに限定するものではない。
【0095】
図9および図10に示す如く、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子を含む鋳型の一例である鋳型21は、鋳造用金型である上型22および下型23と、鋳造用中子である各中子25・26・29・30・31等を備えている。
上型22には、製品形状を成す成型面22aを形成しており、同様に下型23には、製品形状を成す成型面23aを形成している。そして、各成型面22a・23aを向かい合わせるとともに所定位置に位置決めした状態で上型22および下型23を型閉めすることによって、各型22・23の合わせ面に製品形状を成す空隙部であるキャビティ24を形成する構成としている。
【0096】
また、上型22のキャビティ24の外周縁部となる部位には、各中子25・26の支持部位となる各凹部22b・22cを形成しており、同様に、下型23のキャビティ24の外周縁部となる部位には、各中子25・26の支持部位となる各凹部23b・23cを形成している。
【0097】
またさらに下型23には、各中子25・26が当接する部位である各当接面23e・23fを形成するとともに、各当接面23e・23fには、各位置決め部23g・23hを形成している。
このように、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子を用いた鋳型21では、各当接面23e・23fにさらに各位置決め部23g・23hを形成している点で、本発明の第一実施例で示した鋳型1とは異なっている。
【0098】
また鋳型21の内部には、キャビティ24によって成形される鋳造体の内部に空洞部分を形成するための型部材である各中子25・26・29・30・31を配置している。本実施例に示す鋳型21において、中子25および中子26は吸排気ポートとなる一対の空洞部分を形成するための中子であり、その他の各中子29・30・31は、ウォータージャケットとなる空洞部分を形成するための中子である。
【0099】
そして、本実施例では、鋳型21の内部に配置される各中子25・26・29・30・31のうち、主に吸排気ポート用の一対の空洞部分を形成するための各中子25・26を本発明に係る鋳造用中子とする場合を例示して説明をする。尚、本実施例では、その他の各中子29・30・31についても、例えば、中子29に錘29aを内蔵しているように、各中子25・26と同様に本発明の第二実施例に係る鋳造用中子に該当するものであるが、以下に示す詳細な説明では、各中子29・30・31についての詳細な説明は省略する。
【0100】
ここで、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子の全体構成について、図10を用いて説明をする。
本発明の第二実施例に係る鋳造用中子の一例である中子25および中子26は、シリンダブロック内に一対の吸排気用ポートとなる空洞部分を形成するための型部材であり、互いの形状が略線対称となっている。中子25および中子26は、主に鋳砂からなる砂状の材料を固めて形成されるものであり、鋳造後において粉砕して離型することができるものである。
尚、本実施例では、中子25および中子26が主に鋳砂を固めて形成される砂中子である場合を例示して説明をするが、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子の主材料は、必ずしも鋳砂でなくてもよく、合成樹脂やワックス等であってもよい。
【0101】
中子25には、型部25aと幅木部25bを形成しており、中子26にも同様に、型部26aと幅木部26bを形成している。
各型部25a・26aは、キャビティ24とともに製品形状の一部を成す型面を形成する部位であり、キャビティ24の内部に配置される部位である。
また、型部25aの幅木部25bから最も離間した部位である端部25eには、下型23の当接面23eに当接する部位である当接面25fを形成しており、同様に型部26aの幅木部26bから最も離間した部位である端部26eには、下型23の当接面23fに当接する部位である当接面26fを形成している。
【0102】
各幅木部25b・26bは、上型22および下型23によって各中子25・26を支持するための支持部を形成する部位である。
中子25の幅木部25bには、下型23の凹部23bに対応する凸部25cと、上型22の凹部22bに対応する凸部25dを形成しており、同様に、中子26の幅木部26bには、下型23の凹部23cに対応する凸部26cと、上型22の凹部22cに対応する凸部26dを形成している。
【0103】
ここで、中子25の幅木部25bに形成する各凸部25c・25dは、下型23の凹部23bと上型22の凹部22bに対して、熱膨張を考慮してクリアランス(図示せず)を設定しており、同様に中子26の幅木部26bに形成する各凸部26c・26dは、下型23の凹部23cと上型22の凹部22cに対して、熱膨張を考慮してクリアランス(図示せず)を設定している。
【0104】
そして、中子25の型部25aには、錘27を内蔵しており、同様に中子26の型部26aには、錘28を内蔵している。
各錘27・28は、各中子25・26の重量を増大させるために内蔵する部材であり、各中子25・26や溶湯に比して、密度が大きい材料により形成される部材である。
【0105】
錘27は、型部25aの幅木部25bから最も離間した部位である端部25eにおいて、錘27に形成される当接面27aを端部25eに形成される当接面25fから露出させつつ、当接面27aが当接面25fと一体的な平面を形成するように内蔵される。
同様に錘28は、型部26aの幅木部26bから最も離間した部位である端部26eにおいて、錘28に形成される当接面28aを端部26eに形成される当接面26fから露出させつつ、当接面28aが当接面26fと一体的な平面を形成するように内蔵される。
【0106】
そしてさらに、錘27の当接面27aには、下型23の位置決め部23gに対応する位置決め部27bを形成しており、また同様に、錘28の当接面28aには、下型23の位置決め部23hに対応する位置決め部28bを形成している。
【0107】
ここで、下型23の位置決め部23gは当接面23eに形成される突出部であり、錘27の当接面27aに形成される位置決め部27bは、位置決め部23gの突出形状に応じた形状の凹陥部であって、位置決め部27bと位置決め部23gとは嵌合可能に構成されている。また、下型23の位置決め部23hは当接面23fに形成される突出部であり、錘28の当接面28aに形成される位置決め部28bは、位置決め部23hの突出形状に応じた形状の凹陥部であって、位置決め部28bと位置決め部23hとは嵌合可能に構成されている。
【0108】
このように、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子である各中子25・26では、各当接面25f・26fにさらに各位置決め部27b・28bを形成している点で、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6とは異なっている。
【0109】
上型22および下型23を型閉めするときに、まず下型23に形成される凹部23bに中子25の幅木部25bに形成される凸部25cを挿入するとともに、錘27の当接面27aに形成される位置決め部27bを下型23の当接面23eに形成される位置決め部23gに嵌合させて、さらに、中子25および錘27の各当接面25f・27aを下型23の当接面23eに当接させて、下型23の所定位置に中子5を配置する。
【0110】
また同様に、下型23に形成される凹部23cに中子26の幅木部26bに形成される凸部26cを挿入するとともに、錘28の当接面28aに形成される位置決め部28bを下型23の当接面23fに形成される位置決め部23hに嵌合させて、さらに、中子26および錘28の各当接面26f・28aを下型23の当接面23fに当接させて、下型23の所定位置に中子26を配置する。
【0111】
そして、上型22に形成される凹部22bに中子25の幅木部25bに形成される凸部25dを挿入するとともに、同様に上型22に形成される凹部22cに中子26の幅木部26bに形成される凸部26dを挿入しつつ、上型22および下型23を型閉めする。これにより、上型22および下型23によって各中子25・26を支持して、各型部25a・26aをキャビティ24内の所定位置に保持する構成としている。
【0112】
このような上型22および下型23によって各中子25・26を支持する構成の鋳型21においては、各中子25・26と上型22および下型23との間には熱膨張を考慮したクリアランスを設定しているため、上型22および下型23では、各中子25・26の変位を確実に規制することができなかったが、本発明の第二実施例に係る各中子25・26では、各型部25a・26aに各錘27・28を内蔵することにより、クリアランスを設定していても各中子25・26の変位を規制することを可能にしている。
【0113】
次に、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子に内蔵する錘の設計手順について、説明をする。
本発明の第二実施例に係る鋳造用中子である各中子25・26に内蔵する各錘27・28の設計手順は、前述した本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6と同様に、図3に示す設計手順を採用している。
また各錘27・28の内蔵位置を検討する際には、前述した本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6の場合と同様に、各中子25・26に作用する浮力および重力を考慮して内蔵位置を決定する方法を採用している。
【0114】
次に、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子における位置決め方法について、図11を用いて説明をする。尚、ここでは、中子25を例示して説明をするが、中子26も同様の方法で位置決めをする構成としている。
【0115】
図11に示す如く、本発明の第二実施例に係る中子25では、錘27を、支持端側(即ち、幅木部25b)とは反対側の他端側(即ち、型部25aの当接面25f)に配置する構成とし、中子25の当接面25fの一部を錘27の当接面27aにより形成している。
さらに、当接面27aには、下型23の位置決め部23gに対応する位置決め部27bを形成している。
そして、各当接面25f・27aを下型23の当接面23eと面接触させるとともに、各位置決め部23g・27bを嵌合させることによって、キャビティ24に対して中子25をより精度良く位置決めする構成としている。
【0116】
錘27の当接面27aおよび位置決め部27bは、中子25の当接面25fとは異なり、型同士が接触した場合であっても面が削れる(面精度が悪化する)ことがほとんどないため、下型23の当接面23eおよび位置決め部23gと錘27の当接面27aおよび位置決め部27bとを当接させても、型崩れにより位置決め精度が悪化することが無く、精度良く位置決めをすることができる。
【0117】
このように、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子である各中子25・26では、各錘27・28の各当接面27a・28aにさらに各位置決め部27b・28bを形成している点で、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6とは異なっており、位置決め精度をさらによくすることができる構成としている。
【0118】
即ち、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子である各中子25・26の各錘27・28は、各当接面27a・28aに、下型23の各端部25e・26eと当接する部位である各当接面23e・23fに形成される凹凸形状を有する各位置決め部23g・23hに嵌合する形状を有する各位置決め部27b・28bが形成されるものである。
【0119】
また、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子である各中子25・26による変位防止方法は、各錘27・28の各当接面27a・28aに、下型23の各端部25e・26eと当接する部位である各当接面23e・23fに形成される凹凸形状を有する各位置決め部23g・23hに嵌合する形状を有する各位置決め部27b・28bを形成するものである。
これにより、各中子25・26の位置決めをより精度よく行うことができる。
【0120】
次に、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子の製造方法について、図12を用いて説明をする。尚、本実施例では、中子25の製造状況を例示しているが、中子26やその他の各中子29・30・31等も同様の方法で製造することが可能である。
【0121】
図12に示す如く、中子25の製造に用いられる中子型32は、第一型32aと第二型32bに分割される構成としており、各型32a・32bを型閉めすることによって、中子25の外形形状となるキャビティ32cが形成される構成としている。また、キャビティ32cには、中子25の当接面25fの型となる型面32dを形成している。
さらに型面32dには、中子25における錘27の配置を位置決めするための位置決め部32eを形成している。
【0122】
そして、この中子型32を用いて中子25を製造するときには、まず錘27の当接面27aに形成される凹部である位置決め部27bを中子型32の当接面25fを形成するための型面32dに形成された凸部である位置決め部32eに嵌合させて位置決めしておく。またこのとき、位置決め部27bの周囲の当接面27aも、位置決め部32eの周囲の型面32dに当接させておく。
【0123】
そして、この状態で中子型32内に主に鋳砂からなる材料を吹き込んで、粘結剤等の凝固作用等を利用して、キャビティ32cの内面形状を外形形状とする中子25を製造するようにしている。これにより、中子25内の端部25eの所定位置に錘27が内蔵され、かつ、錘27の位置決め部27bを精度良く位置決めしつつ当接面27aを中子25の当接面25fに一致させた状態で露出させることができる。
【0124】
このような方法で中子25を製造することにより、予め中子型32の所定位置に錘27を配置しておく工程以外は、従来通りの工程で中子25を製造することができるため、本発明の第一実施例に係る中子25を、容易に製造することができる。
尚、各錘27・28は繰り返して再利用することができ、また外形形状が異なる中子で共通の各錘27・28を使用できるように設計することも可能であるため、経済性にも優れている。
【0125】
次に、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子を有する鋳型を用いた鋳造方法の一連の工程について、説明をする。
本発明の第二実施例に係る鋳造用中子である各中子25・26を有する鋳型21を用いた鋳造方法は、本発明の第一実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6を有する鋳型1を用いた鋳造方法と同様に、図8に示す鋳造方法を採用している。
そして、本発明の第二実施例に係る鋳造用中子である各中子25・26を有する鋳型21を用いた鋳造方法では、下型23に形成した各位置決め部23g・23hと各錘27・28に形成した各位置決め部27b・28bの作用により、本発明の第一実施例に係る各中子5・6を有する鋳型1を用いる場合に比して、より精度良く各中子25・26の位置決めをすることができるため、さらに寸法精度が改善された鋳造製品を簡易に製造することができる。
【0126】
即ち、本発明の第一実施例および第二実施例に係る鋳造用中子である各中子5・6・25・26は、上型2および下型3によって変位が規制される部位である各幅木部5b・6b・25b・26bと、上型2および下型3によって形成されるキャビティ4に配置され、上型2および下型3により鋳造される製品形状の一部を成す部位である各型部5a・6a・25a・26aと、を備えるものであって、各型部5a・6a・25a・26aに内蔵される各錘7・8・27・28を備え、キャビティ4に溶湯を注湯するときに前記溶湯により各錘7・8・27・28を内蔵する各型部5a・6a・25a・26aに作用する浮力Fに比して、各錘7・8・27・28を内蔵する各型部5a・6a・25a・26aに作用する重力Gが大きいものである。
【0127】
また、本発明の第一実施例および第二実施例に係る各中子5・6・25・26による変位防止方法は、各型部5a・6a・25a・26aに各錘7・8・27・28を内蔵させて、キャビティ4に溶湯を注湯するときに前記溶湯により各錘7・8・27・28を内蔵する各型部5a・6a・25a・26aに作用する浮力Fに比して、各錘7・8・27・28を内蔵する各型部5a・6a・25a・26aに作用する重力Gを大きくするものである。
これにより、簡易な構成の鋳造用中子である各中子5・6・25・26によって、注湯前後における各中子5・6・25・26の変位を確実に防止できる。これにより、鋳造製品の寸法精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0128】
1 鋳型
3e 当接面(下型)
3f 当接面(下型)
4 キャビティ
5 中子
5a 型部
5b 幅木部
5e 端部
5f 当接面(中子)
6 中子
6a 型部
6b 幅木部
6e 端部
6f 当接面(中子)
7 錘
7a 当接面(錘)
8 錘
8a 当接面(錘)
21 鋳型
23e 当接面(下型)
23f 当接面(下型)
23g 位置決め部(下型)
23h 位置決め部(下型)
25 中子
26 中子
27 錘
27a 当接面(錘)
27b 位置決め部(錘)
28 錘
28a 当接面(錘)
28b 位置決め部(錘)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造用金型によって変位が規制される部位である幅木部と、
前記鋳造用金型によって形成されるキャビティに配置され、前記鋳造用金型により鋳造される製品形状の一部を成す部位である型部と、
を備える鋳造用中子であって、
前記型部に内蔵される錘を備え、
前記キャビティに溶湯を注湯するときに前記溶湯により前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力に比して、前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力が大きい、
ことを特徴とする鋳造用中子。
【請求項2】
前記錘は、
前記型部の体積と前記溶湯の密度から、前記溶湯により前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力を算出するとともに、
前記錘の体積を所定の体積とした場合において、
算出した浮力に比して前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力が大きくなる前記錘の密度の条件を算出して、
算出した前記錘の密度の条件を満足する材料により構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の鋳造用中子。
【請求項3】
前記錘は、
前記型部の、前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力によって前記型部に生じる応力を、前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力によって前記型部に生じる応力によって打ち消すことができる部位に内蔵される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋳造用中子。
【請求項4】
前記錘は、
前記型部の、前記幅木部から最も離間した部位であり、かつ、前記鋳造用金型と当接する部位である端部に、該端部から前記錘に形成する当接面を露出して内蔵される、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の鋳造用中子。
【請求項5】
前記錘は、
前記当接面に、前記鋳造用金型の前記端部と当接する部位に形成される凹凸形状に嵌合する形状を有する位置決め部が形成される、
ことを特徴とする請求項4に記載の鋳造用中子。
【請求項6】
鋳造用金型によって変位が規制される部位である幅木部と、
前記鋳造用金型によって形成されるキャビティに配置され、前記鋳造用金型により鋳造される製品形状の一部を成す部位である型部と、
を備える鋳造用中子の変位防止方法であって、
前記型部に錘を内蔵して、
前記キャビティに溶湯を注湯するときに前記溶湯により前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力に比して、前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力が大きくする、
ことを特徴とする鋳造用中子の変位防止方法。
【請求項7】
前記型部の体積と前記溶湯の密度から、前記溶湯により前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力を算出するとともに、
前記錘の体積を所定の体積とした場合において、
算出した浮力に比して前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力が大きくなる前記錘の密度の条件を算出して、
前記錘を、
算出した前記錘の密度の条件を満足する材料により構成する、
ことを特徴とする請求項6に記載の鋳造用中子の変位防止方法。
【請求項8】
前記錘を、
前記型部の、前記錘を内蔵する前記型部に作用する浮力によって前記型部に生じる応力を、前記錘を内蔵する前記型部に作用する重力によって前記型部に生じる応力によって打ち消すことができる部位に内蔵する、
ことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の鋳造用中子の変位防止方法。
【請求項9】
前記錘を、
前記型部の、前記幅木部から最も離間した部位であり、かつ、前記鋳造用金型と当接する部位である端部に、該端部から前記錘に形成する当接面を露出させて内蔵する、
ことを特徴とする請求項6〜請求項8のうちいずれか一項に記載の鋳造用中子の変位防止方法。
【請求項10】
前記錘の前記当接面に、前記鋳造用金型の前記端部と当接する部位に形成される凹凸形状に嵌合する形状を有する位置決め部を形成する、
ことを特徴とする請求項9に記載の鋳造用中子の変位防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−140061(P2011−140061A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3320(P2010−3320)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】