説明

鋳造用鋳型の製造方法

【課題】水蒸気を通気させた際に生じ易い成形型の通気口周辺部に存在するRCSの粘結剤の流出を防止して、造型される鋳型表面の不具合を解消するのみならず、成形型から鋳型を脱型する際の鋳型の離型性を有利に改善すると共に、得られる鋳型の効果的な強度向上を為し得る鋳造用鋳型の改善された製造方法を提供すること。
【解決手段】(a)予め加熱された鋳物砂と水溶性アルカリレゾール樹脂の水溶液とを混練乃至混合して得られる、常温流動性を有する乾態の樹脂被覆砂を準備する第一の工程と、(b)その準備された樹脂被覆砂を、加熱された成形型内に充填せしめた後、得られた充填相内に、100℃未満の温度の水蒸気を0.1MPa以下の加圧下に通気させて、該充填相を構成する樹脂被覆砂を湿らせ、相互に結合させる第二の工程と、(c)かかる湿って結合した樹脂被覆砂の充填相を硬化させる第三の工程とによって、目的とする鋳造用鋳型を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用鋳型の製造方法に係り、特に、常温流動性を有する乾態の樹脂被覆された粉末状鋳物砂を用いて、鋳造用鋳型を製造する方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水溶性フェノール樹脂、具体的には、水溶性のアルカリレゾール樹脂を、粘結剤(バインダ)として用い、その水溶液にて鋳物砂の表面を被覆して得られるレジン・コーテッド・サンド(RCS:樹脂被覆砂)により、目的とする鋳造用鋳型を製造する方法が、有機自硬性鋳型造型法やガス硬化性鋳型造型法等の鋳型造型法における一つの手法として、知られている。
【0003】
一方、鋳型造型に係る技術分野においては、近年、そのような鋳型を用いて得られる鋳物の薄肉化や複雑形状化が急速に進んでおり、それに応えるための要求に対して有効な鋳型の製造(造型)に用いられるRCSにも、高流動性で充填性に優れること、しかも、得られる鋳型も、寸法精度に優れること等が、求められている。
【0004】
このため、本願出願人は、先に、特開2008−55468号公報において、アルカリレゾール樹脂水溶液を用いつつ、経時変化が著しく少なく、且つ充填性の良好な、常温流動性を有する乾態の粉末状樹脂被覆砂組成物(RCS)を、有利に製造する方法を明らかにすると共に、そのようなRCSを用いて、鋳型強度の向上した鋳型を製造する方法を、提案した。
【0005】
しかしながら、そのような乾態のRCSを用いた鋳型の製造方法にあっては、目的とする鋳型を造型するための成形型内に、かかる乾態のRCSを充填せしめて、その形成された充填相に加熱水蒸気を通気して、その硬化が行なわれるようにすると、その充填されたRCSの表面に存在する粘結剤が、加熱水蒸気により溶解、流出して、加熱水蒸気を吹き込むための成形型の通気口周辺部に位置するRCSにて形成される鋳型表面の強度が低下して、そこに強度的不具合が惹起されたり、硬化したRCSにて構成される鋳型を成形型から脱型する際に、鋳型の離型性の悪化を招く等という問題が内在していることが、明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−55468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、目的とする鋳造用鋳型を造型するための成形型内に充填された、常温流動性を有する乾態のRCSの充填相に、水蒸気を通気させた際に生じ易い、成形型の通気口周辺部に存在するRCSの粘結剤の流出を防止して、造型される鋳型表面の不具合を解消するのみならず、成形型から鋳型を脱型する際の鋳型の離型性を有利に改善すると共に、得られる鋳型の効果的な強度向上を図り得る鋳造用鋳型の改善された製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明者は、上述せる如き課題につき種々検討を行なった結果、目的とする鋳造用鋳型を造型するための、加熱された成形型内に充填されたRCS(樹脂被覆砂)の充填相に、水蒸気を通気せしめ、更に硬化せしめるに際して、かかる水蒸気の特定の通気条件、即ち、低い温度下の水蒸気と低い水蒸気圧力の下での通気を採用することにより、加熱水蒸気を用いた従来のRCSの通気・硬化段階での問題を、悉く解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、上記した課題の解決のために、(a)予め加熱された鋳物砂と水溶性アルカリレゾール樹脂の水溶液とを混練乃至混合して製造される、常温流動性を有する乾態の樹脂被覆砂を準備する第一の工程と、(b)その準備された樹脂被覆砂を、加熱された成形型内に充填せしめた後、そこに形成された充填相内に、100℃未満の温度の水蒸気を0.1MPa以下の加圧下に通気させて、該充填相を構成する樹脂被覆砂を湿らせ、相互に結合させる第二の工程と、(c)かかる湿って結合した樹脂被覆砂の充填相を硬化させて、目的とする鋳造用鋳型を得る第三の工程とを、含むことを特徴とする鋳造用鋳型の製造方法を、その要旨とするものである。
【0010】
なお、このような本発明に従う鋳造用鋳型の製造方法の望ましい態様の一つによれば、樹脂被覆砂(RCS)の成形型内への充填性を向上させるべく、前記第一の工程で準備される樹脂被覆砂(RCS)は、水分率が、0.5質量%以下となるように構成されて、常温流動性がより有利に付与された乾態とされており、また、成形型内のRCS充填相における水蒸気の通気性をより向上させるべく、成形型の排気口から型内の雰囲気を吸引しつつ、水蒸気の通気が行なわれるようになっている。
【0011】
また、本発明に従う鋳造用鋳型の製造方法の他の望ましい態様によれば、成形型によって造型される鋳型の硬化を有利に促進させるべく、前記した水蒸気の通気と共に、アルキレンカーボネート及び/又は有機エステルが、同時的に又は別個に成形型内に導入せしめられたり、或いは、前記水蒸気の通気と共に、炭酸ガスが、同時的に又は別個に成形型内に導入せしめられることとなる。
【0012】
さらに、本発明にあっては、望ましくは、前記第三の工程における充填相の硬化が、前記成形型の加熱状態若しくは高温状態の保持、又は加熱空気の通気によって、有利に進行せしめられることとなる。
【0013】
加えて、本発明に従う鋳造用鋳型の製造方法の別の望ましい態様によれば、RCSからなる上述の如き鋳型の硬化をより一層有利に促進させるべく、前記成形型内において硬化せしめられたRCSの充填相内に、乾燥空気又は加熱乾燥空気が、成形型内に通気せしめられるのである。
【0014】
また、本発明に従う鋳造用鋳型の製造方法の他の異なる望ましい態様によれば、前記樹脂被覆砂(RCS)は、予め40℃以上の温度に加熱された後、前記成形型内に充填せしめられ、これによって、鋳型の強度が有利に高められ得ることとなる。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明に従う鋳造用鋳型の製造方法にあっては、常温流動性を有する乾態の樹脂被覆砂(RCS)を用いて、それを加熱された成形型内に充填せしめた後、その得られた充填相内に、100℃未満の低温度の水蒸気を、0.1MPa以下の低圧の加圧下において通気させることにより、かかる充填相を構成するRCSを湿らせて、相互に結合せしめ、次いで、その得られた結合・一体化されたRCSの充填相を硬化せしめるようにしたものであるところから、成形型における水蒸気の通気口周辺部に位置するRCS表面の粘結剤が、導入される水蒸気によって溶解、流出することが、効果的に抑制乃至は阻止され得るようになるのである。
【0016】
そして、その結果、従来の如き通気口周辺部に位置する鋳型の強度的不具合が、本発明では、惹起されることもなく、しかも、成形型から鋳型を脱型する際の離型性にも優れるという格別の特徴を発揮し、更には、鋳型の充填密度も向上することから、改善された強度を有する鋳型を有利に造型することが出来るという特徴を発揮するのである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ところで、本発明に従う鋳造用鋳型の製造方法にあっては、先ず、第一の工程として、予め加熱された鋳物砂と水溶性アルカリレゾール樹脂の水溶液とを混練乃至混合して得られる、常温流動性を有する乾態の樹脂被覆砂(RCS)を準備する工程が、採用される。
【0018】
そこにおいて、かかる乾態のRCS(粉末)の製造に用いられる鋳物砂としては、従来から鋳型用に用いられている各種の耐火性粒状材料が、適宜に選択されて用いられ得るところであって、具体的には、ケイ砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナサンド、合成ムライト砂等を挙げることが出来る。なお、これらの鋳物砂は、新砂であっても、或いは、鋳物砂として鋳型の造型に一回或いは複数回使用された再生砂又は回収砂であっても、更には、そのような再生砂や回収砂に新砂を加えて混合せしめてなる混合砂であっても、何等差支えないのである。そして、そのような鋳物砂は、一般に、AFS指数で40〜80程度の粒度のものとして、好ましくは60程度の粒度のものとして、用いられることとなる。
【0019】
また、そのような鋳物砂に混練乃至は混合されて鋳物砂粒子の表面を被覆せしめる、粘結剤(バインダ)としての水溶性アルカリレゾール樹脂の水溶液には、従来から公知の各種の水溶性アルカリレゾール樹脂の水溶液が用いられ得、また、市販品の中から適宜に選択されて用いられることとなる。なお、かかる水溶性アルカリレゾール樹脂としては、フェノールやクレゾール、レゾルシノール、キシレノール、ビスフェノールA、その他置換フェノール等のフェノール類を、大量のアルカリ性物質の存在下において、例えば、フェノール類に対するアルカリ性物質のモル数が、0.01〜2.0倍モル程度となる割合において、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒド等のアルデヒド類と反応させることによって得られる、アルカリ性のレゾール型のフェノール樹脂である。また、そこで用いられるアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物等を例示することが出来、それらが単独で、或いは2種以上が混合されて、用いられ得るものであるが、アルカリ性物質の中でも、特に、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムにあっては、触媒活性が良好であるところから、好適に用いられるのである。
【0020】
なお、目的とする乾燥RCSの製造に際して、かかるアルカリレゾール樹脂水溶液は、鋳物砂に対して、従来のRCSの製造の場合と同様な配合量において、用いられ得るものであって、例えば、そのようなアルカリレゾール樹脂水溶液の配合量としては、鋳物砂の100質量部に対して、固形分換算で、一般に、0.3〜5質量部程度の割合が、好ましくは0.5〜3質量部程度となる割合が、採用されることとなる。
【0021】
そして、本発明にあっては、それら鋳物砂とアルカリレゾール樹脂水溶液とを混練乃至は混合せしめて、鋳物砂の表面をアルカリレゾール樹脂水溶液にて被覆するようにすると共に、そのようなアルカリレゾール樹脂水溶液の水分を蒸散せしめることによって、常温流動性を有する乾態の粉末状RCSを得るようにしたものであるが、そのようなアルカリレゾール樹脂水溶液の水分の蒸散は、樹脂の硬化が進む前に、迅速に行なわれる必要があり、一般に、5分以内、好ましくは2分以内に、含有水分を飛ばして、乾態の粉末状RCSとする必要がある。
【0022】
このため、本発明にあっては、かかるアルカリレゾール樹脂水溶液中の水分を迅速に蒸散せしめるための一つの手段として、鋳物砂を予め加熱しておき、それに、アルカリレゾール樹脂水溶液を混練乃至は混合せしめるようにしたのである。この予め加熱された鋳物砂に、アルカリレゾール樹脂水溶液を混練乃至は混合することによって、アルカリレゾール樹脂水溶液の水分は、そのような鋳物砂の熱にて、極めて迅速に蒸散せしめられ得ることとなるのであり、以て、得られるRCSの水分率を効果的に低下せしめて、常温流動性を有する乾態の粉体が、有利に得られることとなる。なお、この鋳物砂の予熱温度としては、アルカリレゾール樹脂水溶液の含有水分量や、その配合量等に応じて、適宜に選定されることとなるが、一般に、100〜140℃程度の温度に、鋳物砂を加熱しておくことが望ましい。この予熱温度が低くなり過ぎると、水分の蒸散を効果的に行ない難くなるからであり、また、予熱温度が高くなり過ぎると、樹脂の硬化が進む恐れがあり、RCSとしての機能に問題を生じるようになるからである。
【0023】
そして、このようにして得られた乾燥RCSにあっては、鋳物砂表面がアルカリレゾール樹脂にて被覆されてなる樹脂被覆鋳物砂となっており、しかも、水分率が0.5質量%以下、有利には0.3質量%以下にまで低下せしめられていることにより、サラサラな乾態の粉体となって、常温流動性が付与された優れた特性を有するものとなっているのである。
【0024】
従って、そのような乾燥RCS(アルカリ性の乾燥砂粒子)として得られるものを用いることにより、湿体のものと比べて、その経時変化が著しく少なく、それ故に、長期保存が可能となり、以て、その取扱い性が良好となることに加えて、そのようなRCSの充填性が効果的に向上せしめられ得て、複雑な形状の鋳型の成形型の成形キャビティ内への充填も、有効に行なわれ得ることとなる他、得られた鋳型の強度も有利に向上せしめられ得ることとなるのである。
【0025】
次いで、かくの如くして得られた乾態のRCSを用いて、本発明に従う第二の工程が、実施されることとなる。この第二の工程は、かかる乾態のRCSを、加熱された成形型内に、具体的には、その成形キャビティ内に充填せしめた後、そこに形成される充填相内に、100℃未満の温度の水蒸気を、0.1MPa以下のゲージ圧での加圧下に通気させて、該充填相を構成するRCSを湿らせて、相互に結合して連結せしめ、一体的な鋳型形状のRCS集合体(結合物)を形成する工程である。
【0026】
従って、かかる第二の工程では、RCSの硬化が目的とされるものではなく、流動性を有する乾態のRCSを湿らせて、相互に結合した充填相にて、鋳型形状を呈するRCS集合体(結合物)を形成するのが、主たる目的とするものであるところから、100℃未満の低い温度の水蒸気を用いて、0.1MPa以下の加圧下において通気させれば、充分となるものである。そして、そのような低温度の水蒸気を低圧力(低ゲージ圧)で吹き込むものであるために、成形型の成形キャビティに対する水蒸気の通気口周辺部におけるRCSの表面に存する粘結剤が、通気せしめられる水蒸気によって溶解、流出するようなことが、効果的に抑制乃至は阻止され得ることとなるのであり、以て、かかる通気口周辺部に位置する鋳型表面に強度的不具合が惹起されたり、成形型からの鋳型の脱型に際しての離型性が低下するようなことも効果的に阻止されつつ、強度に優れた鋳型が有利に得られることとなったのである。
【0027】
なお、そのような成形型の通気口を通じて吹き込まれて、RCSの充填相内を通気せしめられる水蒸気の温度としては、100℃未満とされ、それよりも高い温度が採用されるようになると、通気圧力も必然的に高くなり、そのために、従来と同様な、成形型における通気口周辺部の強度的不具合や離型性悪化の問題、鋳型強度の低下等の問題が、惹起されるようになる。また、そのように通気される水蒸気の温度は、常温でも差支えないが、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、100℃未満の温度が、有利に採用されることとなる。また、同時に、本発明に従って通気せしめられる水蒸気の圧力としては、ゲージ圧で、0.1MPa以下の圧力が採用され、そのような低い圧力下において、水蒸気が通気せしめられるのである。この水蒸気を通気せしめるための圧力が、0.1MPaを超えるようになると、上述した水蒸気温度が100℃以上の場合と同様な問題が惹起されるようになるからである。そして、このような低温度及び低圧力の水蒸気は、公知の各種の手法にて容易に得ることが出来、例えば、常圧下において水を蒸発させることにより、また、加熱・加圧下において発生せしめた水蒸気を減圧する等することによって、容易に得ることが可能である。
【0028】
また、このような低温度・低圧力の水蒸気を成形型の通気口から吹き込み、成形型の成形キャビティ内に充填されたRCS(相)内を通気せしめる時間としては、かかる充填されたRCSの表面に水蒸気を供給して、その表面の粘結剤(バインダ)を充分に湿らせ、RCSを相互に結合(接合)し得るような時間が、成形型の大きさや通気口の数等によって、適宜に選定されることとなるが、一般に、5秒程度から60秒程度までの通気時間が、採用されることとなる。この水蒸気通気時間が短くなり過ぎると、RCS表面を充分に湿らせることが困難となるからであり、また、通気時間が長くなり過ぎると、RCS表面の粘結剤が溶解、流出する恐れ等が生じるからである。なお、この成形型内に充填されたRCS内における水蒸気の通気性の向上は、かかる成形型の排気口から型内の雰囲気を吸引しつつ、水蒸気の通気を行なうことによって、更に高めることが出来る。
【0029】
さらに、かかる本発明に従う第二の工程において、乾態のRCSが充填せしめられる成形型(例えば、金型や木型等)は、予め、加熱により保温されていることが望ましく、その保温温度としては、一般に、80〜100℃程度が採用されるものの、特にこれに限定されるものではない。このような温度に保温された成形型を用いることによって、充填せしめられるRCSへの水蒸気の供給や分散を効果的に進行せしめ得て、目的とする鋳型をより一層有利に得ることが出来るのである。
【0030】
加えて、かかる成形型内に充填せしめられる乾態のRCSは、有利には、予熱されていることが望ましい。一般に、40℃以上の温度に加温されたRCSを、充填せしめるようにすることによって、得られる鋳型の強度が、有利に高められ得ることとなるのである。このようなRCSの加温温度としては、好ましくは、40〜100℃程度とされ、特に、40〜80℃の温度に加温されたRCSが、有利に用いられることとなる。
【0031】
そして、かくの如き第二の工程における水蒸気の通気によって、成形型内において湿らされて、相互に結合せしめられてなるRCSの充填相は、水蒸気自体からの熱エネルギに加えて、成形型やRCSからの熱エネルギの作用によって、或る程度の硬化、換言すればRCS表面を被覆している粘結剤(バインダ)の硬化が進行するものと推定されるが、本発明にあっては、そのようなRCSの硬化を更に一層有利に進行せしめて、目的とする鋳型の強度を効果的に向上せしめるべく、かかる相互に結合したRCSからなる充填相を硬化せしめて、目的とする鋳造用鋳型を得る第三の工程が採用されることとなるのである。
【0032】
この第三の工程におけるRCSの硬化は、前記した第二の工程における水蒸気の通気を停止した後においても、成形型やRCS自身の有する熱によって進行せしめられ得るものであるところから、かかる水蒸気の通気が終了した後において、成形型の加熱(加温)状態、若しくはその高温状態を保持することにより、或いは成形型を積極的に加熱して、型内のRCS充填相に熱エネルギを供給するようにすることにより、かかるRCS充填相の硬化を進行せしめることが可能であり、更に、水蒸気の通気の後、水蒸気に代えて、加熱空気を、同様に、RCS充填相内に通気せしめることによって、同様に、そのようなRCS充填相の硬化を、有利に進行せしめることが出来るのである。
【0033】
また、RCSの硬化には、従来と同様に、アルキレンカーボネートや有機エステルを用いて行なうことも可能であり、その場合においては、それらアルキレンカーボネート及び/又は有機エステルが、第二の工程における水蒸気の通気が終了した後に、第三の工程として成形型内に導入せしめられる他、かかる水蒸気の通気と共に、同時的に成形型内に導入せしめられ、これによって、本発明に従う第二の工程と第三の工程とが、同時的に実施されることとなる。
【0034】
なお、ここで用いられるアルキレンカーボネートや有機エステルは、何れも、水溶性アルカリレゾール樹脂の硬化剤として公知であり、その公知の各種のものの中から、適宜に選定されて、用いられることとなる。その中で、例えば、アルキレンカーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、4−エチルジオキソロン、4−ブチルジオキソロン、4,4−ジメチルオキソロン、4,5−ジメチルジオキソロン等を挙げることが出来、また、有機エステルとしては、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸エチル、乳酸エチル、クエン酸トリエチル、コハク酸ジメチル、マロン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル、蓚酸ジメチル、アクリル酸メチル、エチレングリコールジアセテート、ジアセチン、トリアセチン等のカルボン酸エステル類や、γ−ブチロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類を、挙げることが出来る。中でも、蟻酸メチル、トリアセチン、γ−ブチロラクトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が、好適に用いられることとなる。
【0035】
さらに、かかるアルキレンカーボネートや有機エステルと同様に、RCSの硬化に寄与可能な他の方法としては、炭酸ガスを用いた硬化方法があり、そこでは、炭酸ガスが、上記したアルキレンカーボネートや有機エステルと同様に、成形型内に導入せしめられることとなる。具体的には、炭酸ガスが、水蒸気の通気と共に、同時的に成形型内に導入されて、本発明に従う第二の工程と第三の工程とが同時的に実施される他、水蒸気の通気とは別個に、換言すれば水蒸気の通気の終了の後に、炭酸ガスが成形型内に導入されて、成形型内のRCSの硬化が、より一層迅速に進行せしめられるようにされるのである。
【0036】
そして、このようにして成形型内に充填されたRCSの充填相が硬化せしめられることによって、目的とする鋳造用鋳型を、かかる成形型より取り出すことが可能となるのであるが、本発明においては、有利には、乾燥空気又は加熱乾燥空気を、更に成形型内に吹き込んで、かかる硬化せしめられたRCS充填相(硬化物)に通気せしめられるようにすることが望ましい。このような乾燥空気又は加熱乾燥空気の通気によって、硬化物の内部まで乾燥させるようにすることにより、得られる鋳型の強度が有利に高められ得ることとなるのである。
【実施例】
【0037】
以下に、幾つかの実施例を用いて、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明は、そのような実施例の記載によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。なお、以下の実施例において、部及び百分率は、特に断りのない限りにおいて、質量基準にて示されるものである。
【0038】
また、以下の実施例において、得られたRCSの水分率の測定を、以下のようにして行なう一方、かかる得られたRCSを用いて製造された鋳型について、その抗折強度、充填密度、離型性及び表面状態の評価は、それぞれ、以下のようにして行なった。
【0039】
(1)水分率(%)
得られたRCSの2.0gを、アクアミクロン脱水溶剤ML(三菱化学株式会社製)の100mLが入った、カールフィッシャー水分測定機(平沼産業株式会社製;AQV−7 HIRANUMA AQUACOUNTER)のフラスコ[予め、カールフィッシャー試薬(Sigma−Aldrich Laborchemikalien Gmbh社製;ハイドラナールコンポジット5)を滴下して、水分を0にしておく。]内に投入し、マグネチックスターラーを用いて数分間撹拌し、その後、前記ハイドラナールコンポジット5を滴下して、水分量を定量し、その得られた値から、水分率を算出した。
【0040】
(2)抗折強度(N/cm2
幅25mm×高さ25mm×長さ200mmの大きさの試験片を用いて、その破壊荷重を、測定器(高千穂精機株式会社製:デジタル鋳物砂強度試験機)を用いて、測定した。そして、この測定された破壊荷重を用いて、抗折強度を、下記の式により、算出した。
抗折強度=1.5×LW/ab2
[但し、L:支点間距離(cm)、W:破壊荷重(kgf)、a:試験片の幅(c m)、b:試験片の長さ(cm)]
【0041】
(3)充填密度(g/cm3
各試験片の重量を測定し、それを体積で除して、算出した。
【0042】
(4)試験片の離型性
成形金型内に離型剤を塗布することなく、5回連続して造型したときの試験片の離型状態を、目視評価した。評価基準は、以下の通りである。
◎:全く問題なく、スムーズに離型出来る
○:少し抵抗があるが、離型は問題なし
×:離型不良
【0043】
(5)試験片の通気口周辺部の表面状態
各試験片の造型において、水蒸気を通気した後、成形金型の通気口周辺部に位置する試験片の表面状態を目視で観察し、以下の基準に従って評価した。
◎:爪が入らないほど強度もあり、全く問題ない
○:力を入れると爪は入るが、製品としては問題ない
×:表面強度が低く、触ると壊れる
【0044】
−RCSの製造例−
鋳物砂として、フラタリーサンドを準備すると共に、アルカリレゾール樹脂水溶液として、市販品:HPR830(商品名:旭有機材工業株式会社製)を準備した。そして、約120℃の温度に加熱した上記のフラタリーサンドを、混練機(遠州鉄工株式会社製スピードマラー)に投入し、更に、前記アルカリレゾール樹脂水溶液を、フラタリーサンドの100部に対して、固形分換算で、1.5部の割合で添加して、50秒間の混練を行ない、その後、送風を行なって、水分を蒸発せしめる一方、砂粒塊が崩壊するまで、攪拌混合せしめた。その後、ステアリン酸カルシウムを0.1部添加して、10秒間混合した後に、取り出すことにより、常温で自由流動性のある乾態のRCSを得た。
【0045】
−実施例1−
上記RCSの製造例にて得られた、温度:20℃のRCSを、100℃に加熱した成形金型内に、圧力:0.3MPaのゲージ圧にて吹き込み、充填した後、更に、0.05MPaのゲージ圧力の下で、温度:99℃の水蒸気を、15秒間吹き込み、成形金型内に充填したRCS相に通気せしめた。次いで、そのような水蒸気の通気を終了した後、成形金型を、所定時間(1分、3分又は5分)の間保持して、成形金型内に充填されたRCSを硬化させることにより、試験片として用いられる鋳型を作製した。
【0046】
そして、かかる得られた試験片について、前述の試験法に従って、抗折強度、充填密度を測定し、また、成形金型の通気口周辺部に位置する試験片部位の表面状態を目視で評価し、更に、試験片の離型性についても、目視評価した。それら鋳型特性に係る結果を、鋳型の造型条件と共に、下記表1に示した。
【0047】
−実施例2−
実施例1において、成形金型内に水蒸気を通気せしめた後、120℃の熱風を60秒間通気させること以外は、実施例1と同様にして、試験片の作製及びその鋳型特性の評価を行ない、それらの結果を、造型条件と共に、下記表1に示した。
【0048】
−実施例3−
実施例1において、100℃に加熱した成形金型内に、上記のRCSを圧力:0.3MPaにて吹き込み、充填した後、温度:92℃の水蒸気を、0.02MPaの圧力下に、15秒間吹き込みつつ、成形金型の下部からは、圧力:50mmHgで60秒間吸引したこと以外は、実施例1と同様にして、試験片の作製を行なった。そして、その得られた試験片の物性の評価を行ない、その結果を、下記表1に、同様に示した。
【0049】
−実施例4−
実施例2において、成形金型内に水蒸気と熱風を順次通気させた後、更に、ガス状態の蟻酸メチルを10秒間通気せしめること以外は、実施例2と同様にして、試験片の作製を行ない、そして、その得られた試験片の物性の評価を行なった。得られた結果を、下記表1に示す。
【0050】
−実施例5−
実施例1において、成形金型内への97℃の水蒸気の通気を、0.05MPaの圧力にて行なった後に、炭酸ガスを60秒間通気せしめること以外は、実施例1と同様にして、試験片の作製を行なった。そして、その得られた試験片について物性の評価を行ない、その結果を、下記表1に示した。
【0051】
−実施例6−
実施例5において、水蒸気及び炭酸ガスを成形金型内に順次通気せしめた後、120℃の温度の熱風を60秒間通気せしめること以外は、実施例5と同様にして、試験片の作製を行なった。そして、その得られた試験片について、物性の評価を行ない、その結果を、下記表1に示した。
【0052】
−実施例7−
実施例6において、RCSを予め60℃に加熱して、その水分率を0.05%に低下させた後、これを、80℃に加熱した成形金型内に、圧力:0.3MPaにて吹き込んで、充填せしめること以外は、実施例6と同様にして、試験片の作製を行なった。そして、その得られた試験片について、その物性の評価を行ない、その結果を下記表1に示した。
【0053】
−比較例1−
実施例1において、130℃に加熱した成形金型内に、圧力:0.3MPaにてRCSを吹き込み、充填せしめた後、0.3MPaの圧力で、温度:126℃の水蒸気を、4秒間通気させること以外は、実施例1と同様にして、試験片の作製を行なった。そして、その得られた試験片の物性の評価を行ない、その結果を、下記表1に併せ示した。
【0054】
−比較例2−
実施例6において、0.05MPaの圧力で、温度:97℃の水蒸気を、15秒間通気させるところを、0.15MPaの圧力で、温度が111℃の水蒸気を、6秒間通気させることに変更したこと以外は、実施例6と同様にして、試験片の作製を行なった。そして、その得られた試験片の物性の評価を行ない、その結果を、下記表1に併せ示した。
【0055】
【表1】

【0056】
かかる表1の結果から明らかなように、本発明に従う実施例1〜7において得られた試験片(鋳型)は、何れも、成形金型の通気口周辺部に位置する鋳型部分の表面強度の低下も認められず、また、成形金型からの離型性も効果的に改善され得たことに加え、RCSの充填密度が高く、造型の早い段階での強度発現についても、向上していることが認められるのみならず、改善された抗折強度を有する鋳型を提供することが確認された。
【0057】
これに対して、比較例1において得られた試験片の如く、100℃を超える高い温度の水蒸気を用いて、試験片を作製した場合にあっては、試験片の抗折強度が著しく低くなって、離型性も悪く、更に、成形金型の通気口周辺部に位置する試験片部位の表面状態も悪いことが認められた。また、水蒸気の圧力や温度を低下させても、0.1MPaを超えたり、100℃以上となる場合にあっては、炭酸ガスを硬化剤として用いて通気させても、抗折強度は充分に向上せず、また、離型性や通気口周辺の表面状態が悪い試験片となることが、明らかとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め加熱された鋳物砂と水溶性アルカリレゾール樹脂の水溶液とを混練乃至混合して製造される、常温流動性を有する乾態の樹脂被覆砂を準備する第一の工程と、
その準備された樹脂被覆砂を、加熱された成形型内に充填せしめた後、そこに形成された充填相内に、100℃未満の温度の水蒸気を0.1MPa以下の加圧下に通気させて、該充填相を構成する樹脂被覆砂を湿らせ、相互に結合させる第二の工程と、
かかる湿って結合した樹脂被覆砂の充填相を硬化させて、目的とする鋳造用鋳型を得る第三の工程と、
を含むことを特徴とする鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂被覆砂の水分率が、0.5質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項3】
前記第二の工程において、前記成形型の排気口から型内の雰囲気を吸引しつつ、前記水蒸気の通気を行なうことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項4】
前記水蒸気の通気と共に、アルキレンカーボネート及び/又は有機エステルが、同時的に又は別個に前記成形型内に導入せしめられることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項5】
前記水蒸気の通気と共に、炭酸ガスが、同時的に又は別個に前記成形型内に導入せしめられることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項6】
前記第三の工程における充填相の硬化が、前記成形型の加熱状態若しくは高温状態の保持、又は加熱空気の通気によって進行せしめられる請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項7】
前記成形型内において硬化せしめられた充填相内に、乾燥空気又は加熱乾燥空気が成形型内に通気せしめられることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂被覆砂が、予め40℃以上の温度に加熱された後、前記成形型内に充填せしめられることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の鋳造用鋳型の製造方法。


【公開番号】特開2012−11450(P2012−11450A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152943(P2010−152943)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省東北経済産業局、戦略的基盤技術高度化支援委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【出願人】(510186188)株式会社キャスト (1)
【出願人】(000155366)株式会社木村鋳造所 (23)
【出願人】(510186199)旭通商株式会社 (1)
【Fターム(参考)】