説明

鋼帯のスケール除去方法及びその実施に使用する設備

【課題】珪素鋼帯の脱スケールを効率よく除去できる鋼帯のスケール除去方法及びその実施に使用する設備を提供する。
【解決手段】珪素鋼からなる鋼帯10の表面に生成したスケールを除去する鋼帯のスケール除去方法であって、塩酸水溶液又は硫酸水溶液からなる酸洗液2で前記鋼帯10の表面を酸洗処理する前に、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化水素アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液のいずれかからなる前処理液1で前記鋼帯10の表面を前処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の表面に生成したスケールを除去する方法及びその実施に使用する設備に関し、特に、珪素鋼の鋼帯のスケールを除去する方法及びその実施に使用する設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼は、高品質化や多用途化に伴い、各種の添加元素を含有する特殊鋼が開発されてきている。このような特殊鋼として代表的な珪素鋼(珪素含有量:約0.5〜3.5質量%)は、製銑、製鋼、連鋳、熱延、酸洗、冷延等の各工程を経て製造され、電磁鋼や高張力鋼等として利用されている。
【0003】
前記珪素鋼は、上記熱延工程において、表面に生成する鉄酸化物のスケール中に珪素が濃化して、上記酸洗工程において、上記スケールが酸洗液に対して不動態膜の様相を示し、脱スケール時間が普通鋼に比べて長くなって、生産効率の低下を引き起こしてしまうという問題があった。このことについて、より具体的に以下に説明する。
【0004】
熱延処理した後の普通鋼帯の表面のスケールの概略構造を図9に示す。図9において、Aは、熱延処理した後の普通鋼帯を550℃以下にまで急速冷却してコイルに巻き取った場合のスケールの概略構造を示し、Bは、熱延処理した後の普通鋼帯を560℃以上でコイルに巻き取って徐冷した場合のスケールの概略構造を示している。
【0005】
図9Aに示すように、熱延処理した後の普通鋼帯を550℃以下にまで急速冷却してコイルに巻き取った場合、母材21の表面には、非常に脆いウスタイト(FeO)からなる第一の層22aが生成する。この第一の層22a上には、ウスタイトの次に脆いマグネタイト(Fe34)からなる第二の層22bが生成する。この第二の層22b上には、ヘマタイト(Fe23)からなる第三の層22cが生成する。
【0006】
また、図9Bに示すように、熱延処理した後の普通鋼帯を560℃以上でコイルに巻き取って徐冷した場合、母材21の表面には、ウスタイト(FeO)からなる前記第一の層22aを生成することなく、マグネタイト(Fe34)からなる第二の層22bが生成する。この第二の層22b上には、ヘマタイト(Fe23)からなる第三の層22cが生成する。
【0007】
このような鉄酸化物の上記層22a〜22cからなるスケール22が表面に生成した普通鋼帯20においては、スケールブレーカで引張曲げを加えることにより、上記スケール22に亀裂(クラック)を形成し、塩酸水溶液等の酸洗液を入れられた酸洗槽内を通過させて、上記スケール22の上記クラック内に上記酸洗液を浸入させることにより、上記スケール22の各層22a〜22cと上記酸洗液とが反応し(下記式(1)〜(3)参照)、当該スケール22が溶解すると共に、酸洗液を介して上記スケール22と上記母材21との間に局部電池が形成され(下記式(4)〜(6)参照)、当該母材21がわずかに腐食して当該母材21に対する当該スケール22の密着性が低下することにより、当該スケール22が除去される。
【0008】
〈ウスタイト〉
FeO +2HCl→FeCl2+H2O (1)
〈マグネタイト〉
Fe34+8HCl→2FeCl3+FeCl2+4H2O (2)
〈ヘマタイト〉
Fe23+6HCl→2FeCl3+3H2O (3)
【0009】
〈アノード反応:母材表面上〉
Fe→Fe2++2e- (4)
〈カソード反応:酸洗液中〉
Fe3++ e-→Fe2+ (5)
2H+ +2e-→H2 ↑ (6)
【0010】
他方、熱延処理した後の珪素鋼帯の表面のスケールの概略構造を図8に示す。図8において、Aは、珪素含有量が比較的少ない(約1質量%前後)場合のスケールの概略構造を示し、Bは、珪素含有量が比較的多い(約3質量%前後)の場合のスケールの概略構造を示している。
【0011】
図8Aに示すように、珪素含有量が比較的少ない(約1質量%前後)場合、母材11の表面には、珪素の濃化した鉄酸化物からなるファイアライト(Fe2SiO4)とウスタイト(FeO)との共晶状態の第一の層12aαが生成する。この第一の層12aα上には、マグネタイト(Fe34)からなる第二の層12bが生成する。この第二の層12b上には、ヘマタイト(Fe23)からなる第三の層12cが生成する。
【0012】
このような珪素含有量が比較的少ない(約1質量%前後)珪素鋼帯10においては、母材11の表面に生成している第一の層12aαが、酸洗液に対して不溶性のファイアライト(Fe2SiO4)と酸洗液に対して易溶性のウスタイト(FeO)との共晶状態であることから、酸洗液に対して難溶性を示してしまい、脱スケールに長時間を要してしまっている。
【0013】
また、図8Bに示すように、珪素含有量が比較的多い(約3質量%前後)の場合、母材11の表面には、珪素の濃化した鉄酸化物からなるファイアライト(Fe2SiO4)からなる単晶状態の第一の層12aβが生成する。この第一の層12aβ上には、マグネタイト(Fe34)からなる第二の層12bが生成する。この第二の層12b上には、ヘマタイト(Fe23)からなる第三の層12cが生成する。
【0014】
このような珪素含有量が比較的多い(約3質量%前後)珪素鋼帯10においては、母材11の表面に生成している第一の層12aβが、酸洗液に対して不溶性のファイアライト(Fe2SiO4)からなることから、酸洗液を介して母材11とスケール12との間に形成される局部電池による当該母材11のわずかな腐食に伴う当該母材11に対する当該スケール12の密着性の低下だけで当該スケール12を除去することしかできず、脱スケールに非常に長時間を要してしまっている。
【0015】
このため、例えば、下記特許文献1等においては、塩酸とフッ化水素酸との混合溶液からなる酸洗液に珪素鋼帯を浸漬することにより、ウスタイト(FeO)やマグネタイト(Fe34)やヘマタイト(Fe23)の溶解と、珪素が濃化したファイアライト(Fe2SiO4)の溶解とを同時に行うようにして、スケールを除去するようにすると共に、酸洗液に対する珪素鋼帯の浸漬前後に当該珪素鋼帯に過酸化水素水溶液を噴霧することにより、酸洗液の塩酸及びフッ化水素酸の活性化及び再生化を図るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特表2004−525262号公報
【特許文献2】特開平4−180582号公報
【特許文献3】特開平10−152800号公報
【特許文献4】国際公開第99/046426号パンフレット
【特許文献5】特開2007−136469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、近年、鋼帯の生産効率のさらなる向上が強く求められており、珪素鋼帯の脱スケールにおいても、前記特許文献1等に記載されている手段よりもスケールをさらに効率よく除去できるようにすることが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述した課題を解決するための、本発明に係る鋼帯のスケール除去方法は、珪素鋼からなる鋼帯の表面に生成したスケールを除去する鋼帯のスケール除去方法であって、塩酸水溶液又は硫酸水溶液からなる酸洗液で前記鋼帯の表面を酸洗処理する前に、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化水素アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液のいずれかからなる前処理液で前記鋼帯の表面を前処理することを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る鋼帯のスケール除去方法は、上述した鋼帯のスケール除去方法において、前記酸洗液で前記鋼板の表面を酸洗処理する前に、前記前処理液で前処理した前記鋼帯の表面をリンス液で洗浄することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る鋼帯のスケール除去方法は、上述した鋼帯のスケール除去方法において、前記前処理液で前記鋼帯の表面を前処理する前に、当該鋼帯の前記スケールに亀裂を加えることを特徴とする。
【0021】
他方、前述した課題を解決するための、本発明に係る鋼帯のスケール除去設備は、普通鋼又は珪素鋼からなる鋼帯の表面に生成したスケールを除去する鋼帯のスケール除去設備であって、塩酸水溶液又は硫酸水溶液からなる酸洗液で前記鋼帯の表面を酸洗処理する酸洗装置と、前記酸洗装置よりも前記鋼帯の走行方向上流側に配設されて、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化水素アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液のいずれかからなる前処理液で前記鋼帯の表面を前処理する前処理手段とを備えていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る鋼帯のスケール除去設備は、上述した鋼帯のスケール除去設備において、前記酸洗装置と前記前処理手段との間に配設されて、前記鋼帯の表面をリンス液で洗浄する前処理液洗浄手段を備えていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る鋼帯のスケール除去設備は、上述した鋼帯のスケール除去設備において、前記前処理手段よりも前記鋼帯の走行方向上流側に配設されて、前記鋼帯の前記スケールに亀裂を加える亀裂付与手段を備えていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る鋼帯のスケール除去設備は、上述した鋼帯のスケール除去設備において、前記鋼帯が普通鋼であり、前記前処理手段が、前記鋼帯の表面に前記前処理液を接触させることなく当該鋼帯を通過させる手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る鋼帯のスケール除去方法及びその実施に使用する設備においては、前処理液がスケールの亀裂の隙間に浸入してファイアライト(Fe2SiO4)を溶解し、スケールと母材との間の密着性を低下させた後に、酸洗液がスケールの亀裂の隙間に浸入してウスタイト(FeO)やマグネタイト(Fe34)やヘマタイト(Fe23)を溶解し、スケールと母材との間の密着性を引き続いて低下させることができることから、スケールを母材の表面から容易に除去することができるので、脱スケールに要する時間を短くすることができ、生産効率を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る鋼帯のスケール除去設備の第一番目の実施形態の概略構成図である。
【図2】本発明に係る鋼帯のスケール除去方法の第一番目の実施形態のスケール除去過程の説明図である。
【図3】本発明に係る鋼帯のスケール除去方法及びその実施に使用する設備の第一番目の実施形態の効果確認試験の結果を表すグラフである。
【図4】本発明に係る鋼帯のスケール除去設備の第二番目の実施形態の概略構成図である。
【図5】本発明に係る鋼帯のスケール除去設備の第三番目の実施形態の概略構成図である。
【図6】本発明に係る鋼帯のスケール除去設備の第四番目の実施形態の概略構成図である。
【図7】本発明に係る鋼帯のスケール除去設備の他の実施形態の概略構成図である。
【図8】熱延処理した後の珪素鋼帯の表面のスケールの概略構造図である。
【図9】熱延処理した後の普通鋼帯の表面のスケールの概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る鋼帯のスケール除去方法及びその実施に使用する設備の実施形態を図面に基づいて以下に説明するが、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0028】
[第一番目の実施形態]
本発明に係る鋼帯のスケール除去方法及びその実施に使用する設備の第一番目の実施形態を図1〜3に基づいて説明する。
【0029】
図1に示すように、電磁鋼や高張力鋼等のような珪素を含有する(約0.5〜3.5質量%)熱間圧延済みの珪素鋼帯10を送り出すペイオフリール111の近傍(鋼帯10の走行方向下流側)には、当該ペイオフリール10Aからの上記鋼帯10の表面に歪を加えるように引張曲げを加えて当該鋼帯10の表面のスケールに亀裂(クラック)を加える亀裂付与手段であるスケールブレーカ112が上記鋼帯10の入側を近くに位置付けるようにして配設されている。
【0030】
前記スケールブレーカ112の上記鋼帯10の出側の近傍(鋼帯10の走行方向下流側)には、フッ化アンモニウム(NH4F)水溶液、フッ化水素アンモニウム(NH4HF2)水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液のいずれかからなる前処理液1を貯留する前処理手段である前処理槽113が上記鋼帯10の入側を近くに位置付けるようにして配設されている。前処理槽113の上記鋼帯10の出側の近傍(鋼帯10の走行方向下流側)には、水等のリンス液で上記鋼帯10の表面を洗浄する前処理液洗浄手段である前処理用リンス槽114が上記鋼帯10の入側を近くに位置付けるようにして配設されている。
【0031】
前記前処理用リンス槽114の上記鋼帯10の出側の近傍(鋼帯10の走行方向下流側)には、塩酸(HCl)水溶液又は硫酸水溶液(H2SO4)からなる酸洗液2を貯留する酸洗装置である酸洗槽115が上記鋼帯10の入側を近くに位置付けるようにして配設されている。酸洗槽115の上記鋼帯10の出側の近傍(鋼帯10の走行方向下流側)には、水等のリンス液で上記鋼帯10の表面を洗浄する酸洗用リンス手段である酸洗用リンス槽116が上記鋼帯10の入側を近くに位置付けるようにして配設されている。
【0032】
前記酸洗用リンス槽116の上記鋼帯10の出側の近傍(鋼帯10の走行方向下流側)には、当該鋼帯10の表面の水分を除去する乾燥手段であるドライヤ117が上記鋼帯10の入側を近くに位置付けるようにして配設されている。ドライヤ117の上記鋼帯10の出側の近傍(鋼帯10の走行方向下流側)には、当該ドライヤ117からの上記鋼帯10を巻き取るテンションリール118が配設されている。なお、図1中、119aはピンチロール、119bはテンションブライドルである。
【0033】
このような本実施形態に係るスケール除去設備100を使用したスケール除去方法を次に説明する。
【0034】
熱間圧延された珪素鋼帯10は、先に説明したように、熱間圧延後の冷却に伴って、図2Aに示すように、母材11の表面にファイアライト(Fe2SiO4)とウスタイト(FeO)との共晶状態、又は、ファイアライト(Fe2SiO4)の単晶状態の第一の層12aが生成し、この第一の層12a上にマグネタイト(Fe34)からなる第二の層12bが生成し、この第二の層12b上にヘマタイト(Fe23)からなる第三の層12cが生成する。
【0035】
このような上記層12a〜12cからなるスケール12が表面に生成した上記鋼帯10は、前記ペイオフリール111から送り出されると、前記スケールブレーカ112により、その表面のスケール12に亀裂(クラック)12dが加えられる(図2B参照)。
【0036】
スケール12にクラック12dを加えられた上記鋼帯10は、前処理槽113内の前処理液1中を通過させられることにより、前記クラック12d内に前処理液1が入り込んで、下記の式(7)〜(9)に示すような反応を生じ、前記スケール12の前記第一の層12aのファイアライト(Fe2SiO4)が溶解して、前記母材11と当該スケール12との密着性が低下する(図2C参照)。
【0037】
〈フッ化アンモニウムの場合〉
Fe2SiO4+6NH4F+4H+
→(NH4)2SiF6+4(NH4+)+2Fe2++4OH- (7)
〈フッ化水素アンモニウムの場合〉
Fe2SiO4+3NH4HF2+H+
→(NH4)2SiF6+NH4++2Fe2++4OH- (8)
〈水酸化ナトリウムの場合〉
Fe2SiO4+2NaOH+H+
→Na2SiO3+2Fe2++3OH- (9)
【0038】
このようにして前処理液1で前処理された上記鋼帯10は、前処理用リンス槽114に送給されることにより、前記リンス液で表面を洗浄処理され、当該表面に付着残留している前記前処理液1が当該表面から除去される。
【0039】
続いて、上記鋼帯10は、酸洗槽115内の酸洗液2中を通過させられることにより、表面に酸洗液2が接触すると共に前記クラック12d内に酸洗液2が入り込んで、先に説明した式(1)〜(3)に示したように、前記スケール12の前記層12a〜12cのウスタイト(FeO)やマグネタイト(Fe34)やヘマタイト(Fe23)を溶解すると共に、先に説明した式(4)〜(6)に示したように、酸洗液2を介して上記スケール12と母材11との間に局部電池が形成されて、当該母材11がわずかに腐食することにより、当該スケール12と当該母材11との密着性がさらに低下する。これにより、図2Dに示すように、前記スケール12は、前記母材11の表面から除去される。
【0040】
このようにして酸洗液2で表面を酸洗処理された上記鋼帯10は、酸洗用リンス槽116に送給されることにより、前記リンス液で表面を洗浄処理され、当該表面に付着残留している前記酸洗液2が当該表面から除去される。
【0041】
そして、上記鋼帯10は、ドライヤ117に送給されて、表面の水分が除去された後、テンションリール118に巻き取られる。
【0042】
つまり、前記特許文献1等に記載されているような従来においては、塩酸とフッ化水素酸とを混合した酸洗液で珪素鋼帯10を酸洗処理することにより、ウスタイト(FeO)やマグネタイト(Fe34)やヘマタイト(Fe23)の溶解と、ファイアライト(Fe2SiO4)の溶解とを同時に行うようにして、スケールを除去するようにしていたが、本実施形態においては、塩酸水溶液又は硫酸水溶液からなる酸洗液2で鋼帯10を酸洗処理する前に、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化水素アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液のいずれかからなる前処理液1で当該鋼帯10の表面を前処理する、すなわち、当該前処理液1によるファイアライト(Fe2SiO4)の溶解を行ってから、上記酸洗液1によるウスタイト(FeO)やマグネタイト(Fe34)やヘマタイト(Fe23)の溶解を行うようにしたのである。
【0043】
このため、本実施形態においては、ファイアライト(Fe2SiO4)の溶解と、ウスタイト(FeO)やマグネタイト(Fe34)やヘマタイト(Fe23)の溶解とをそれぞれ効果的に行うことができ、珪素鋼帯10のスケール12を母材11から短時間で除去することができる。
【0044】
したがって、本実施形態によれば、珪素鋼帯10であっても、スケール12を効率よく除去することができるので、生産効率を大幅に向上させることができると共に、前記槽113,115の合計長さを短くすることができ、設置スペースの削減を図ることができる。
【0045】
また、フッ化アンモニウム(NH4F)水溶液、フッ化水素アンモニウム(NH4HF2)水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液のいずれかからなる前処理液1によりファイアライト(Fe2SiO4)を溶解させるようにしたことから、前記鋼帯10から除去したスケール12の珪素成分を塩化合物にして水中に溶解することができるので、当該鋼帯10から除去された珪素成分の後処理を非常に容易に行うことができ、設備の簡素化を図ることができる。
【0046】
また、前記酸洗液2で前記鋼帯10の表面を酸洗処理する前に、前処理液1で前処理した前記鋼帯10の表面を前記リンス液で洗浄するようにしたことから、酸洗槽115内の酸洗液2中に前処理液1が混入する、すなわち、酸溶液中にアルカリ溶液が混入することを抑制できるので、酸洗液2の機能低下の抑制を図ることができ、酸洗液2の使用可能時間の低下を抑制することができる。
【0047】
また、前処理液1で前記鋼帯10の表面を前処理する前に、当該鋼帯10のスケール12にスケールブレーカ112でクラックを加えるようにしたことから、母材11とスケール12との界面に存在するファイアライト(Fe2SiO4)に対して前処理液1を容易に到達させることができるので、前処理液1による前処理効果を大きく高めることができる。
【0048】
ここで、本実施形態に係る効果を確認するために行った試験の結果を図3に示す。
図3からわかるように、前処理液1で前処理した後に酸洗液2で酸洗処理することによりスケール12を除去するのに要した時間は、前処理を行うことなく酸洗液2だけでスケール12の除去に要した時間に比べて、短縮することができ、特に、前処理液1としてフッ化アンモニウム水溶液を用いると、水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合よりも短時間で処理することができる(フッ化水素アンモニウム水溶液も同程度)。
【0049】
しかしながら、前処理液1として水酸化ナトリウム水溶液を用いると、万が一、前記鋼帯10に付着している前処理液1が前記リンス液で除去しきれずに酸洗槽115内に入り込んだとしても、当該酸洗槽115内で中和されて当該鋼帯10から確実に除去されるので、後処理工程を簡素化することができるようになる。
【0050】
[第二番目の実施形態]
本発明に係る鋼帯のスケール除去方法及びその実施に使用する設備の第二番目の実施形態を図4に基づいて説明する。なお、前述した第一番目の実施形態の場合と同様な部分については、前述した第一番目の実施形態の説明で用いた符号と同様な符号を用いることにより、前述した第一番目の実施形態での説明と重複する説明を省略する。
【0051】
図4に示すように、前記前処理槽113の下方には、貯留タンク213が配設されている。前処理槽113の下部と貯留タンク213の上部とは、バルブ212を有する回収ライン211を介して連絡している。貯留タンク213の下部と前処理槽113の上方側とは、バルブ215及び送給ポンプ216を有する戻しライン214を介して連絡している。
【0052】
なお、本実施形態においては、回収ライン211、バルブ212、貯留タンク213、戻しライン214、バルブ215、送給ポンプ216等により、鋼帯の表面に前処理液1を接触させることなく鋼帯を通過させる手段を構成している。
【0053】
このような本実施形態に係るスケール除去設備200において、前記珪素鋼帯10の表面の前記スケール12を除去する場合には、前述した第一番目の実施形態に係るスケール除去設備100の場合と同様にして処理する。
【0054】
そして、普通鋼帯20の表面のスケールを除去する場合には、前記バルブ212を開放して、前記前処理槽113内の前処理液1を貯留タンク213内に回収ライン211を介して回収した後、珪素鋼帯10の場合と同様にして処理すると、上記普通鋼帯20は、前処理槽113内に送給されるものの、前処理液1がないため、当該前処理液1による前処理を施されることなく当該前処理槽113をそのまま通行する。そして、前記前処理用リンス槽114による洗浄処理を施すことなく当該前処理用リンス槽114内を通過させた後、以下、前記珪素鋼帯10の場合と同様にして処理する。
【0055】
そして、また、珪素鋼帯10の表面のスケール12を除去する場合には、前記バルブ212を閉鎖すると共に前記バルブ215を開放し、前記ポンプ216を作動して、前記貯留タンク213内の前記前処理液1を前記前処理槽113内に戻しライン214を介して戻した後、前述した第一番目の実施形態に係るスケール除去設備100の場合と同様にして処理する。
【0056】
つまり、本実施形態では、普通鋼帯20の表面のスケールを除去する場合には、当該普通鋼帯20の表面のスケールの除去に不要な上記前処理液1を当該普通鋼帯20の表面に接触させることなく当該普通鋼帯20を通過させるようにしたのである。
【0057】
このため、本実施形態においては、前処理液1を無駄に劣化させてしまうことを防止することができる。
【0058】
したがって、本実施形態によれば、前述した第一番目の実施形態の場合と同様な効果を得ることができるのはもちろんのこと、前処理液1による前処理を必要なときのみに行うことができるので、前処理液1の無駄な劣化を防止することができ、前処理液1の使用サイクルを延ばすことができる。
【0059】
[第三番目の実施形態]
本発明に係る鋼帯のスケール除去方法及びその実施に使用する設備の第三番目の実施形態を図5に基づいて説明する。なお、前述した第一,二番目の実施形態の場合と同様な部分については、前述した第一,二番目の実施形態の説明で用いた符号と同様な符号を用いることにより、前述した第一,二番目の実施形態での説明と重複する説明を省略する。
【0060】
図5に示すように、前記前処理槽113の上方には、当該前処理槽113内の前処理液1に前記鋼帯20を接触させることなく通過させる手段である通過用ガイドロール311が配設されている。
【0061】
このような本実施形態に係るスケール除去設備300において、前記珪素鋼帯10の表面の前記スケール12を除去する場合には、前述した第一,二番目の実施形態に係るスケール除去設備100,200の場合と同様にして処理する。
【0062】
そして、普通鋼帯20の表面のスケールを除去する場合には、前記通過用ガイドロール311を経由させるように当該普通鋼帯20のパスラインを設定した後、前記珪素鋼帯10の場合と同様にして処理すると、上記普通鋼帯20は、前処理槽113内の前処理液1に接触することなく通過するため、当該前処理液1による前処理を施されることなくそのまま通行する。そして、前記前処理用リンス槽114による洗浄処理が施されることなく当該前処理用リンス槽114内を通過した後、以下、前記珪素鋼帯10の場合と同様にして処理される。
【0063】
そして、また、前記珪素鋼帯10の表面の前記スケール12を除去する場合には、当該珪素鋼帯10のパスラインを当初の状態に戻した後、前述した第一,二番目の実施形態に係るスケール除去設備100,200の場合と同様にして処理する。
【0064】
つまり、前述した第二番目の実施形態では、前処理液1を前処理槽113から貯留タンク213内に抜き出すことにより、当該前処理液1を前記普通鋼帯20の表面に接触させることなく当該普通鋼帯20を通過させるようにしたが、本実施形態では、当該前処理槽113内での前記普通鋼帯20の通行を回避させることにより、当該前処理液1を当該普通鋼帯20の表面に接触させることなく当該普通鋼帯20を通過させるようにしたのである。
【0065】
したがって、本実施形態によれば、前述した第二番目の実施形態の場合と同様な効果を得ることができる。
【0066】
[第四番目の実施形態]
本発明に係る鋼帯のスケール除去方法及びその実施に使用する設備の第四番目の実施形態を図6に基づいて説明する。なお、前述した第一〜三番目の実施形態の場合と同様な部分については、前述した第一〜三番目の実施形態の説明で用いた符号と同様な符号を用いることにより、前述した第一〜三番目の実施形態での説明と重複する説明を省略する。
【0067】
図6に示すように、前記前処理液1を貯留する前処理槽413は、昇降移動可能となっており、本実施形態においては、当該前処理槽413内の前処理液1に鋼帯を接触させることなく通過させる手段と共に前処理手段を構成している。
【0068】
このような本実施形態に係るスケール除去設備400において、前記珪素鋼帯10の表面の前記スケール12を除去する場合には、前述した第一〜三番目の実施形態に係るスケール除去設備100,200,300の場合と同様にして処理する。
【0069】
そして、普通鋼帯20の表面のスケールを除去する場合には、前記前処理槽413を下降させた後、前記珪素鋼帯10の場合と同様にして処理すると、上記普通鋼帯20は、前処理槽113内の前処理液1に接触することなく通過するため、当該前処理液1による洗浄処理を施されることなくそのまま通行する。そして、前記前処理用リンス槽114による洗浄処理が施されることなく当該前処理用リンス槽114内を通過した後、以下、前記珪素鋼帯10の場合と同様にして処理される。
【0070】
そして、また、前記珪素鋼帯10の表面の前記スケール12を除去する場合には、前記前処理槽413を上昇させて当初の状態に戻した後、前述した第一〜三番目の実施形態に係るスケール除去設備100,200,300の場合と同様にして処理する。
【0071】
つまり、前述した第二番目の実施形態では、前処理液1を前処理槽113から貯留タンク213内に抜き出すことにより、当該前処理液1を前記普通鋼帯20の表面に接触させることなく当該普通鋼帯20を通過させるようにしたが、本実施形態では、前処理槽113を移動させることにより、前処理液1を前記普通鋼帯20の表面に接触させることなく当該普通鋼帯20を通過させるようにしたのである。
【0072】
したがって、本実施形態によれば、前述した第二,三番目の実施形態の場合と同様な効果を得ることができる。
【0073】
[他の実施形態]
なお、前述した実施形態においては、前処理液1で前処理した前記鋼帯10に対して継続して酸洗液2で洗浄処理するようにしたが、他の実施形態として、例えば、図7に示すように、前処理液1で前処理された前記鋼帯10をテンションリール518で一旦巻き取って、所定時間経過後、ペイオフリール511で送出してリンス液で洗浄処理してから、酸洗液2で酸洗処理するようにすることも可能である。
【0074】
このように前処理液1で前処理した前記鋼帯10を一旦コイル状に巻き取って、所定時間経過してから、再び送給して酸洗液2で酸洗処理するようにすると、前記前処理液1を前記鋼帯10の表面に付着させた状態で所定時間保持されるので、前記スケール12の前記第一の層12aに対する浸食の具合をさらに大きく進行させることができ、酸洗液2による酸洗処理をさらに効果的に行うことができるようになる。
【0075】
さらに、前処理槽113と酸洗槽115とを大きく引き離して設置することができることから、既設の酸洗設備に対して、前処理槽113等をわざわざ組み込む必要がなく、別の場所に前処理槽113等を設置することで対応できるので、設置場所やレイアウトの制約が少なくて済み、汎用性を高めることができる。
【0076】
また、前述した実施形態においては、スケールブレーカ112で前記鋼帯10のスケール12にクラック12dを加えてから、前処理液1で前処理するようにしたが、他の実施形態として、例えば、熱間圧延されてコイル状に巻き取られた上記鋼帯10のスケール12にクラック12dが十分に生じているのであれば、上記スケールブレーカ112を省略することも可能である。
【0077】
また、前述した実施形態においては、前処理液1で前処理した前記鋼帯10をリンス液で洗浄してから酸洗液2で酸洗処理するようにしたが、他の実施形態として、例えば、前処理液1や酸洗液2の濃度や液量等の各種条件によっては、前処理用リンス槽114を省略して、前処理液1で前処理した前記鋼帯10をリンス液で洗浄することなくそのまま酸洗液2で酸洗処理するようにすることも可能である。
【0078】
また、前述した実施形態においては、各種槽を1つだけ図示して説明したが、本発明はこれに限らず、各種の条件に応じて、これらの各種槽を適宜複数配設することが可能である。
【0079】
また、前述した実施形態においては、前処理液1を貯留する前処理槽113,413等の浸漬手段を前処理手段として適用した場合について説明したが、他の実施形態として、例えば、前処理液1を前記鋼帯10に噴霧するスプレノズル等の噴霧手段や、前処理液1を前記鋼帯10に塗布するブラシロール等の塗布手段を前処理手段として適用することも可能である。
【0080】
また、前述した実施形態においては、リンス液を貯留するリンス槽114,116等の浸漬手段を洗浄手段として適用した場合について説明したが、他の実施形態として、例えば、リンス液を前記鋼帯10,20に噴霧するスプレノズル等の噴霧手段や、リンス液を前記鋼帯10,20に塗布するブラシロール等の塗布手段を洗浄手段として適用することも可能である。
【0081】
また、前述した実施形態においては、酸洗液2を貯留する酸洗槽115等の浸漬手段を酸洗装置として適用した場合について説明したが、他の実施形態として、例えば、酸洗液2を前記鋼帯10,20に噴霧するスプレノズル等の噴霧手段や、酸洗液2を前記鋼帯10,20に塗布するブラシロール等の塗布手段を酸洗装置として適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る鋼帯のスケール除去方法及びその実施に使用する設備は、スケールを母材の表面から容易に除去することができ、脱スケールに要する時間を短くして、生産効率を大幅に向上させることができるので、製鉄産業等において、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 前処理液
2 酸洗液
10 珪素鋼帯
11 母材
12 スケール
12a,12aα,12aβ 第一の層
12b 第二の層
12c 第三の層
12d 亀裂(クラック)
20 普通鋼帯
21 母材
22 スケール
22a 第一の層
22b 第二の層
22c 第三の層
100 スケール除去設備
111 ペイオフリール
112 スケールブレーカ
113 前処理槽
114 前処理用リンス槽
115 酸洗槽
116 酸洗用リンス槽
117 ドライヤ
118 テンションリール
119a ピンチロール
119b テンションブライドル
200 スケール除去設備
211 回収ライン
212 バルブ
213 貯留タンク
214 戻しライン
215 バルブ
216 送給ポンプ
300 スケール除去設備
311 通過用ガイドロール
400 スケール除去設備
413 前処理槽
500 スケール除去設備
511 ペイオフリール
518 テンションリール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素鋼からなる鋼帯の表面に生成したスケールを除去する鋼帯のスケール除去方法であって、
塩酸水溶液又は硫酸水溶液からなる酸洗液で前記鋼帯の表面を酸洗処理する前に、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化水素アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液のいずれかからなる前処理液で前記鋼帯の表面を前処理する
ことを特徴とする鋼帯のスケール除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼帯のスケール除去方法において、
前記酸洗液で前記鋼板の表面を酸洗処理する前に、前記前処理液で前処理した前記鋼帯の表面をリンス液で洗浄する
ことを特徴とする鋼帯のスケール除去方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鋼帯のスケール除去方法において、
前記前処理液で前記鋼帯の表面を前処理する前に、当該鋼帯の前記スケールに亀裂を加える
ことを特徴とする鋼帯のスケール除去方法。
【請求項4】
普通鋼又は珪素鋼からなる鋼帯の表面に生成したスケールを除去する鋼帯のスケール除去設備であって、
塩酸水溶液又は硫酸水溶液からなる酸洗液で前記鋼帯の表面を酸洗処理する酸洗装置と、
前記酸洗装置よりも前記鋼帯の走行方向上流側に配設されて、フッ化アンモニウム水溶液、フッ化水素アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液のいずれかからなる前処理液で前記鋼帯の表面を前処理する前処理手段と
を備えていることを特徴とする鋼帯のスケール除去設備。
【請求項5】
請求項4に記載の鋼帯のスケール除去設備において、
前記酸洗装置と前記前処理手段との間に配設されて、前記鋼帯の表面をリンス液で洗浄する前処理液洗浄手段を備えている
ことを特徴とする鋼帯のスケール除去設備。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の鋼帯のスケール除去設備において、
前記前処理手段よりも前記鋼帯の走行方向上流側に配設されて、前記鋼帯の前記スケールに亀裂を加える亀裂付与手段を備えている
ことを特徴とする鋼帯のスケール除去設備。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の鋼帯のスケール除去設備において、
前記鋼帯が普通鋼であり、
前記前処理手段が、前記鋼帯の表面に前記前処理液を接触させることなく当該鋼帯を通過させる手段を備えている
ことを特徴とする鋼帯のスケール除去設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−21240(P2011−21240A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167353(P2009−167353)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(502251784)三菱日立製鉄機械株式会社 (130)
【Fターム(参考)】