説明

鋼床版の補強部材及び補強構造

【課題】 デッキプレートから切除したUリブ等の閉断面縦リブを、溶接によってデッキプレートに再接合することなく、閉断面縦リブの切除後も、鋼床版の強度を維持することができる鋼床版の補強部材、及び、当該補強部材を利用した補強構造を提供することを目的とする。
【解決手段】 補強部材をなす補強リブ7は、フランジ7aとウェブ7bとから構成されており、ウェブ7bの一部が、切除されずにデッキプレート2に残っているUリブ3及び横リブ4へと、連結部材8a〜8cで固定することによって、鋼床版1を補強するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デッキプレートからUリブ等の閉断面縦リブの一部が切除された鋼床版を補強するための補強部材、及び、当該補強部材を利用した補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋梁の床版構造の一つとして、デッキプレートと、これを補剛する縦リブ及び横リブとからなる鋼床版が使用されている。図15は、このような鋼床版1の基本的な構造を示したものである。図示されているように、鋼床版1は、デッキプレート2と、縦リブをなすUリブ3と、横リブ4とから構成されている。尚、本図において、Pは、デッキプレート2の上に施された舗装を示している。
【0003】
ところで、橋梁の施工後においては、このような鋼床版1について、Uリブ3で覆われている部分のデッキプレート2に生じた亀裂を観察したり、当該亀裂を補修したりするため、デッキプレート2からUリブ3の一部を、図16に示したようにして、切除しなくてはならない場合がある。
【0004】
この場合、Uリブ3の一部を切除したままにしておくと、当然ながら、鋼床版1全体の強度が低下し、橋梁の安全性に問題が生じる。そのため、通常は、前記のような観察や補修等の終了後、切除したUリブ3を、溶接によってデッキプレート2に再接合して、鋼床版1を使用するようにしている。
【特許文献1】特開2001−40782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、デッキプレート2に亀裂が存在している場合、切除したUリブ3を、溶接によってデッキプレート2に再接合すると、当該亀裂を、溶接時の熱によって、さらに拡張させてしまい、鋼床版1の崩壊(脆性破壊)を招くおそれがある、という問題があった。
【0006】
また、切除したUリブ3をデッキプレート2に溶接する作業は、橋梁の架設現場で行われるため、鋼床版の製造時における工場での作業に比べ、作業性の低下は避けられない。そのため、溶接作業時に溶接欠陥が発生し、鋼床版1全体の強度低下を招いてしまうおそれがあるという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決すべくなされたものであって、デッキプレートから切除したUリブ等の閉断面縦リブを、溶接によってデッキプレートに再接合することなく、閉断面縦リブの切除後も、鋼床版の強度を維持することができる鋼床版の補強部材、及び、当該補強部材を利用した補強構造を提供することを目的としている。
【0008】
そのための手段として、本発明に係る鋼床版の補強部材の一つ(補強リブ)は、フランジとウェブとから構成されており、当該ウェブの一部が、切除されずにデッキプレートに残っている閉断面縦リブへと、連結部材を介して固定されることによって、鋼床版を補強するようになっていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明に係る鋼床版の補強構造の一つは、デッキプレートから閉断面縦リブの一部が切除された鋼床版を、フランジとウェブとからなる補強リブが、デッキプレートの下側から、当該フランジによって当該デッキプレートを挟むようにして、当該デッキプレートの上面に設置された平鋼板に固定されており、前記補強リブのウェブが、切除されずに前記デッキプレートに残っている閉断面縦リブへと、連結部材によって連結されていることを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明に係る鋼床版の補強部材の一つは、一対のプレート材と、当該一対のプレート材それぞれの片面に取り付けられた板片と、当該板片を両側から挟むことによって前記プレート材同士を接続するようになっている一対の接続部材とから構成されており、前記一対のプレート材それぞれの一部が、切除されずにデッキプレートに残っている閉断面縦リブへと、当該閉断面縦リブの内側において固定されることによって、鋼床版を補強するようになっていることを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る鋼床版の補強構造の一つは、デッキプレートから閉断面縦リブの一部が切除された鋼床版を、一対のプレート材と、当該一対のプレート材それぞれの片面に取り付けられた板片と、当該板片を両側から挟むことによって前記プレート材同士を接続するようになっている一対の接続部材と、から構成される補強部材によって補強する補強構造であって、前記一対のプレート材それぞれの一部が、切除されずにデッキプレートに残っている閉断面縦リブへと、当該閉断面縦リブの内側において固定されるようになっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る補強部材、及び、当該補強部材を利用した補強構造は、溶接接合を必要としないため、溶接による熱を発生させることがない。そのため、本発明に係る補強部材及び補強構造によれば、溶接時の熱によって、デッキプレート等に生じた亀裂をさらに拡張させ、鋼床版の崩壊(脆性破壊)を招くおそれがない。
【0013】
また、本発明に係る補強構造は、補強部材を構成する他の部材等との連結・固定を、溶接ではなく、ボルト締めでおこなっているので、溶接欠陥等を発生させるおそれがなく、作業性が低下しがちなの架設現場においても、鋼床版の強度を低下させることなく、鋼床版を強固に補強することができる。
【0014】
さらに、本発明に係る補強構造のうち、一対のプレート材と、板片と、一対の接続部材とからなる補強部材を利用したものは、デッキプレートの上に施された舗装を除去することなく施工することができる。そのため、この補強構造によれば、施工時における橋梁上の交通を遮断することなく、鋼床版を補強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、閉断面縦リブをなすUリブ3の一部が、デッキプレート2から切除された鋼床版1に、本発明に係る補強構造を施した様子を示したものである。また、図2は、本発明に係る補強構造を構成する部材(但し、横リブ4の手前側に位置する部材のみ)の分解図である。これらの図において、5は平鋼板を、6はボルト6a及びナット6bからなる締結部材を、7はフランジ7a及びウェブ7bからなる補強リブを、8a〜8cは連結部材を、9は補強構造を構成する各部材に設けられたボルト挿通用の貫通孔を示している。
【0016】
補強リブ7は、本補強構造の補強部材として利用されるものであって、図示されているように、横リブ4の手前側と向こう側にそれぞれ二つずつ用意され、Uリブ3の長手方向(橋軸と平行な方向)に配置される。そして、これらの補強リブ7は、デッキプレート2の下側から、フランジ7aによってデッキプレート2を挟むようにして、デッキプレート2の上面に設置された平鋼板5に、締結部材6によってそれぞれ固定されている。
【0017】
また、補強リブ7は、図1に示したように、そのウェブ7bの一部において、連結部材8aを介して、切除されずにデッキプレート2に残っているUリブ3に連結されており、さらに、連結部材8b及び8cを介して、横リブ4に連結されている。
【0018】
ここで、フランジ7aとウェブ7bとがなす角度は、補強リブ7が、連結部材8aを介してUリブ3と好適に連結できるように、デッキプレート2と連結部材8aによって連結しようとするUリブ3の側壁とがなす角度の±5°以内とすることが好ましい。
【0019】
尚、本実施形態では、Uリブ3が、横リブ4と交差する位置において切除されているが、本実施形態に係る補強構造は、Uリブ3が、横リブ4と交差していない位置において切除されている場合であっても適用することが可能である。この場合は、ウェブ7bの両端を、連結部材8aによって、切除されずに残ったUリブ3の側壁へと固定するように連結する。
【0020】
次に、以上に説明したような補強構造の工法について説明する。図3は、本発明に係る方法によって補強しようとする鋼床版1の一部を示した斜視図である。尚、本図において、Pは舗装を示している。
【0021】
まず、図4に示したように、切除されたUリブ3が存在していた位置の上であって、平鋼板5を設置しようとする部分の舗装Pを、デッキプレート2の上から取り除き、舗装Pを取り除いたデッキプレート2に、ボルト挿通用の貫通孔9をあける。
【0022】
次に、図5に示したように、ボルト挿通用の貫通孔9が複数あけられた平鋼板5を、デッキプレート2の上面から置き、これにボルト6aを挿通させて、デッキプレート2に設置する。その後、図6に示したように、平鋼板5の上面に、舗装P’を施してから、補強リブ7を、ボルト6a及びナット6bによって、デッキプレート2の下面に固定する。同時に、切除されずに残ったUリブ3の一部、及び、横リブ4に、ボルト挿通用の貫通孔9をあける。
【0023】
そして、図1に示したように、連結部材8aを介して、ウェブ7bの一部と切除されずにデッキプレート2に残っているUリブ3の一部とを連結し、これらを締結部材6によって固定する。また、連結部材8b及び8cを介して、ウェブ7bの一部と横リブ4とを連結し、これらを締結部材6によって固定する。このようにして、図1に示したような、本実施形態に係る補強構造を完成させる。
【0024】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図7は、本実施形態に係る補強構造において使用される補強部材20を示したものである。また、図8は、この補強部材20の分解図である。これらの図において、21は一対のプレート材を、22は板片を、23は一対の接続部材を、また、6はボルト6a及びナット6bからなる締結部材を、9は補強部材20を構成する各部材に設けられたボルト挿通用の貫通孔を示している。
【0025】
図示されているように、板片22は、プレート材21それぞれの片面に取り付けられており、この板片22,22を、一対の接続部材23が両側から挟むことによって、プレート材21同士を接続するようになっている。また、この接続部材23は、締結部材6によって固定されるようになっている。尚、補強部材20において、一対のプレート材21は、図7に示したように、その断面形状が逆ハの字形をなすように、それぞれ所定の傾斜を有している。詳しくは後述するが、この傾斜により、補強部材20は、Uリブ3の内側に好適に納まるようになっている。
【0026】
次に、以上に説明した補強部材20を利用した補強構造の工法について説明する。本工法では、まず、図9に示したように、切除されずにデッキプレート2に残っているUリブ3の一部に、ボルト挿通用の貫通孔9を複数あけてから、このUリブ3の内側に補強部材20を入れる。
【0027】
その後、図10に示したように、貫通孔9にボルト6aを挿通してから、図11に示したように、連結部材24をUリブ3の外側より取り付けてナット6bを締め、補強部材20をUリブ3の内側において固定する。このようにして、本実施形態に係る補強構造を完成させる。
【0028】
尚、本実施形態に係る補強構造は、補強部材20がデッキプレート2の下面に直接固定されるようなものとはなっていないので、図12に示したように、Uリブ3の下側部分の一部だけが切除され、Uリブ3の側壁がデッキプレート2に残っているような場合にも適用することができる。
【0029】
また、本実施形態に係る補強構造は、Uリブ3が横リブ4との交差部において切除されている場合にも適用することができる。この場合は、まず、図13に示したように、補強部材20をUリブ3の内側に入れてから、連結部材24をUリブ3の外側から一時的に取り付け、これを、図14に示したように、ブラケット25を介して、締結部材6によって横リブ4に固定し、補強構造を完成させる。
【0030】
以上に説明したように、本発明に係る補強部材、及び、当該補強部材を利用した補強構造は、溶接接合を必要としないため、溶接による熱を発生させることがない。そのため、本発明に係る補強部材及び補強構造によれば、溶接時の熱によって、デッキプレート2等に生じた亀裂をさらに拡張させ、鋼床版1の崩壊(脆性破壊)を招くおそれがない。
【0031】
また、本発明に係る補強構造は、Uリブ3が切除された部分の鋼床版1において加わる力を、補強部材(補強リブ7や補強部材20)を介して、切除されずに残ったUリブ3や横リブ4に逃すことができるようになっているため、当該補強構造が施された鋼床版1は、デッキプレート2からUリブ3の一部を切除した場合であっても、その強度を維持することができる。
【0032】
さらに、本発明に係る補強構造は、各補強部材との連結・固定を、溶接ではなく、ボルト締めでおこなっているので、溶接欠陥等を発生させるおそれがなく、作業性が低下しがちなの架設現場においても、鋼床版1の強度を低下させることなく、これを強固に補強することができる。
【0033】
尚、以上に説明した実施形態においては、補強しようとする鋼床版1の閉断面縦リブが、Uリブ3となっているが、当然ながら、本発明に係る補強構造は、Uリブから構成される鋼床版だけでなく、Yリブなど、その他の閉断面縦リブから構成される鋼床版にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る補強構造を施した鋼床版1の斜視図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る補強構造の部材の分解図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る補強構造の工法の説明図1。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る補強構造の工法の説明図2。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る補強構造の工法の説明図3。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る補強構造の工法の説明図4。
【図7】補強部材20の斜視図。
【図8】補強部材20の分解図。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る補強構造の工法の説明図1。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る補強構造の工法の説明図2。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る補強構造の工法の説明図3。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る補強構造の工法の説明図4。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る補強構造の工法の説明図5。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る補強構造の工法の説明図6。
【図15】鋼床版1の基本的な構造を示した図。
【図16】鋼床版1からUリブ3を切除した様子を示した図。
【符号の説明】
【0035】
1 :鋼床版、
2 :デッキプレート、
3 :Uリブ、
4 :横リブ、
5 :平鋼板、
6 :締結部材、
6a:ボルト、
6b:ナット、
7 :補強リブ、
7a:補強リブ7のフランジ、
7b:補強リブ7のウェブ、
8a〜8c:連結部材、
9 :ボルト挿通用の貫通孔、
20:補強部材、
21:プレート材、
22:板片、
23:接続部材、
24:連結部材、
25:ブラケット、
P :舗装、
P’:舗装

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキプレートから閉断面縦リブの一部が切除された鋼床版を補強するための補強部材であって、
フランジとウェブとから構成されており、当該ウェブの一部が、切除されずにデッキプレートに残っている閉断面縦リブへと、連結部材を介して固定されることによって、鋼床版を補強するようになっていることを特徴とする補強部材。
【請求項2】
デッキプレートから閉断面縦リブの一部が切除された鋼床版を補強するための補強構造であって、
フランジとウェブとからなる補強リブが、デッキプレートの下側から、当該フランジによって当該デッキプレートを挟むようにして、当該デッキプレートの上面に設置された平鋼板に固定されており、
前記補強リブのウェブが、切除されずに前記デッキプレートに残っている閉断面縦リブへと、連結部材によって連結されていることを特徴とする鋼床版の補強構造。
【請求項3】
デッキプレートから閉断面縦リブの一部が切除された鋼床版を補強するための補強部材であって、
一対のプレート材と、当該一対のプレート材それぞれの片面に取り付けられた板片と、当該板片を両側から挟むことによって前記プレート材同士を接続するようになっている一対の接続部材とから構成されており、
前記一対のプレート材それぞれの一部が、切除されずにデッキプレートに残っている閉断面縦リブへと、当該閉断面縦リブの内側において固定されることによって、鋼床版を補強するようになっていることを特徴とする補強部材。
【請求項4】
デッキプレートから閉断面縦リブの一部が切除された鋼床版を、一対のプレート材と、当該一対のプレート材それぞれの片面に取り付けられた板片と、当該板片を両側から挟むことによって前記プレート材同士を接続するようになっている一対の接続部材と、から構成される補強部材によって補強する補強構造であって、
前記一対のプレート材それぞれの一部が、切除されずにデッキプレートに残っている閉断面縦リブへと、当該閉断面縦リブの内側において固定されるようになっていることを特徴とする鋼床版の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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