説明

鋼床版垂直補剛材の切欠部加工装置

【課題】垂直補剛材に半円形の切欠部を容易に加工することができ、作業時間の短縮及び労力の軽減が図れる鋼床版垂直補剛材の切欠部加工装置を提供する。
【解決手段】鋼床版のデッキプレート1の下面に設けられる垂直補剛材5に応力を緩和するための半円形の切欠部7を加工する装置10であって、前記垂直補剛材5に保持手段16を介して着脱可能に保持されるベース部11と、該ベース部11より前記切欠部7を加工すべき位置に延出された延出部12と、該延出部12に支軸13を介して所定の半径で回動可能に設けられた回動腕部14と、該回動腕部14に設けられ前記垂直補剛材5に前記半円形の切欠部7を加工する切断手段15とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼床版垂直補剛材の切欠部加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば道路橋は、図3に示すように鋼床版のデッキプレート1と、このデッキプレート1を下方から支持する主桁(例えば箱桁)2と、この主桁2を支持する橋脚(図示省略)とを備えている。前記デッキプレート1の下面には橋軸方向に沿って複数のUリブ3が設けられ、デッキプレート1の上面には舗装(図示省略)が施される。
【0003】
前記主桁2は、橋軸方向に連続して設けられた主桁ウエブ4を有し、この主桁ウエブ4には上下方向に連続した垂直補剛材5が橋軸方向に所定の間隔で設けられている。各垂直補剛材5の上端部が前記デッキプレート1の下面に溶接されている。
【0004】
ところで、前記デッキプレート1上の舗装上には車両が走行し、デッキプレート1と垂直補鋼剛材5の溶接部の先端には繰返し応力が作用することから、デッキプレート1に疲労亀裂が発生する場合がある。
【0005】
このように疲労亀裂が発生する原因は、次のようなメカニズムによる。垂直補剛材5がある個所では十分な剛性(剛度)を有し、車両が通過してもデッキプレート1の撓みは小さいが、そのすぐ先端の溶接部6では垂直補剛材5がないので、デッキプレート1が撓みやすくなる。すなわち、デッキプレート1における垂直補剛材5が存在する個所と存在しない箇所では剛性が極端に違う。そのため、デッキプレート1における垂直補剛材5の先端溶接部6では車両の通過により撓みが繰り返されることにより、疲労亀裂が発生しやすい。
【0006】
そこで、デッキプレート1における垂直補剛材5が存在する個所を撓みやすくして、デッキプレート1における剛性の極端な差をなくすために、垂直補剛材5に半円形の切欠部7を設ける高疲労耐久性鋼構造物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
垂直補剛材5に半円形の切欠部7を加工する場合、例えば図4の(a)に示すように先ず垂直補剛材5に穿孔機により例えば直径10mm程度の孔8を半円の罫書き線9に沿って開けていき、次に図4の(b)に示すように各孔8間をグラインダで削り、切欠部7を滑らかな半円形にしていくことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−223393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記垂直補剛材5に半円形の切欠部7を加工するには、多数の孔8を開ける必要があると共に、その後も滑らかな半円形に仕上げる必要があり、多くの作業時間及び労力を要するという問題がある。
【0010】
本発明は、前記事情を考慮してなされたものであり、垂直補剛材に半円形の切欠部を容易に加工することができ、作業時間の短縮及び労力の軽減が図れる鋼床版垂直補剛材の切欠部加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、鋼床版のデッキプレートの下面に設けられる垂直補剛材に応力を緩和するための半円形の切欠部を加工する装置であって、前記垂直補剛材に保持手段を介して着脱可能に保持されるベース部と、該ベース部より前記切欠部を加工すべき位置に延出された延出部と、該延出部に支軸を介して所定の半径で回動可能に設けられた回動腕部と、該回動腕部に設けられ前記垂直補剛材に前記半円形の切欠部を加工する切断手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
前記切断手段が、金鋸刃を往復動させて前記垂直補剛材を切断する電動カッターであることが好ましい。
【0013】
前記金鋸刃が前記切欠部の曲率に沿う断面円弧状に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、垂直補剛材に半円形の切欠部を容易に加工することができ、作業時間の短縮及び労力の軽減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る鋼床版垂直補剛材の切欠部加工装置を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図2】(a)は電動カッターを概略的に示す図、(b)はその金鋸刃の部分的斜視図である。
【図3】鋼床版垂直補剛材溶接部の応力緩和構造を示す断面図である。
【図4】垂直補剛材に半円形の切欠部を加工する従来の加工手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0017】
高速道路等に使用される道路橋は、図1に示すように鋼床版のデッキプレート1と、このデッキプレート1を下方から支持する主桁(例えば箱桁)2と、この主桁2を支持する橋脚(図示省略)とを備えている。前記デッキプレート1の下面には橋軸方向に沿って複数のUリブ(図示省略)が溶接により設けられ、デッキプレート1の上面には舗装(図示省略)が施される。
【0018】
前記主桁2は、橋軸方向に連続して設けられた主桁ウエブ4を有し、この主桁ウエブ4の内側面には上下方向に連続した垂直補剛材5が橋軸方向に所定の間隔で溶接により設けられている。各垂直補剛材5の上端部が前記デッキプレート1の下面に溶接されている。
【0019】
前記デッキプレート1における垂直補剛材5がある個所とない箇所での剛性の差をなくすべく垂直補剛材5に半円形の切欠部7を設けるために、本実施形態に係る鋼床版垂直補剛材5の切欠部加工装置10が用いられる。この切欠部加工装置10は、前記垂直補剛材5に保持手段である万力16を介して着脱可能に保持されるベース部11と、このベース部11より前記切欠部7を加工すべき位置に延出された延出部12と、該延出部12に支軸13を介して所定の半径で回動可能に設けられた回動腕部14と、該回動腕部14に設けられ前記垂直補剛材5に前記半円形の切欠部7を加工する切断手段である電動カッター15とを備えている。
【0020】
前記ベース部11は、前記垂直補剛材5の一側面に当接されて保持される金属板からなる。このベース部11は、前記垂直補剛材5の一側面に当接された状態で、万力16により挟持されて保持される。
【0021】
前記万力16は、平面視コ字状のフレーム16aの一側部に設けたネジ穴(図示省略)にハンドル16bを有するネジ軸16cを螺合して構成されている。ネジ軸16cの先端部とフレーム16aの他側部とには対向させてパッド16d,16dが設けられている。前記ベース部11には万力16を垂直補剛材5側に入り込ませるための切欠部17が形成されていることが好ましい。保持手段である万力16は、ベース部11に一体的に設けられていることが好ましいが、ベース部11とは別体であってもよい。
【0022】
前記延出部12は、前記ベース部11の前記垂直補剛材5より外側に延出した部分にその厚さ方向に延出した第1延出部12aと、この第1延出部12aの先端から上方向に立ち上がった第2延出部12bと、この第2延出部12bの先端から更に垂直補剛材5側に延出した第3延出部12cとからなっていることが好ましい。前記第3延出部12cの先端部には垂直補剛材5と直交する方向の前記支軸13を介して前記回動腕部14が回動可能に設けられ、この回動腕部14に前記電動カッター15が設けられている。
【0023】
前記電動カッター15は、図2に示すように長尺の金鋸刃15aと、この金鋸刃15aを往復動させる駆動部15bとを有し、金鋸刃15aを往復動させながら回動腕部14にて電動カッター15を回動操作することにより前記垂直補剛材5の所定の一部を半円形に切断して切欠部7を形成するようになっている。前記金鋸刃15aは、半円形の切欠部7の曲率に沿う断面円弧状に形成されていることが好ましい。電動カッター15で垂直補剛材5を切断する場合には、回動腕部14に支持された電動カッター15を支軸13を支点に手動で回動操作すればよい。
【0024】
このように構成された鋼床版垂直補剛材5の切欠部加工装置10によれば、鋼床版のデッキプレート1の下面に設けられる垂直補剛材5に応力を緩和するための半円形の切欠部7を加工する装置であって、前記垂直補剛材5に着脱可能に保持されるベース部11と、該ベース部11より前記切欠部7を加工すべき位置に延出された延出部12と、該延出部12に支軸13を介して所定の半径で回動可能に設けられた回動腕部14と、該回動腕部14に設けられ前記垂直補剛材5に前記半円形の切欠部7を加工する切断手段である電動カッター15とを備えているため、垂直補剛材5に半円形の切欠部7を容易に形成加工することができ、既存の道路橋におけるデッキプレートの疲労強度を容易に高めることができると共に、作業時間の短縮及び労力の軽減が図れる。
【0025】
前記切断手段が、金鋸刃15aを駆動部15bにより往復動させて前記垂直補剛材5を切断する電動カッター15であることから、穿孔機による場合と異なり、半円形の切欠部7を連続的に滑らかな曲面で迅速に形成することができる。
【0026】
また、前記金鋸刃15aが前記切欠部7の曲率に沿う断面円弧状に形成されていることから、半円形の切欠部7を容易に形成することができる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。例えば、ベース部の保持手段としては、万力以外に例えば磁石等であってもよい。切断手段としては、電動式のグラインダ、ガス溶断機等も適用可能である。また、回動腕部の回動方式としては、手動式が例示されているが、モータによる回転機構を用いた電動式であってもよく、電動式の場合、遠隔操作で切断作業を行うことが可能となる。本発明は、立体駐車場の鋼製の床や船舶のデッキの補強にも適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 デッキプレート
2 主桁
5 垂直補剛材
7 切欠部
10 切欠部加工装置
11 ベース部
12 延出部
13 支軸
14 回動腕部
15 電動カッター(切断手段)
15a 金鋸刃
15b 駆動部
16 万力(保持手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼床版のデッキプレートの下面に設けられる垂直補剛材に応力を緩和するための半円形の切欠部を加工する装置であって、前記垂直補剛材に保持手段を介して着脱可能に保持されるベース部と、該ベース部より前記切欠部を加工すべき位置に延出された延出部と、該延出部に支軸を介して所定の半径で回動可能に設けられた回動腕部と、該回動腕部に設けられ前記垂直補剛材に前記半円形の切欠部を加工する切断手段とを備えたことを特徴とするデッキプレートの垂直補剛材の切欠部加工装置。
【請求項2】
前記切断手段が、金鋸刃を往復動させて前記垂直補剛材を切断する電動カッターであることを特徴とする請求項1記載のデッキプレートの垂直補剛材の切欠部加工装置。
【請求項3】
前記金鋸刃が前記切欠部の曲率に沿う断面円弧状に形成されていることを特徴とする請求項2記載のデッキプレートの垂直補剛材の切欠部加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−26179(P2012−26179A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166399(P2010−166399)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【特許番号】特許第4607246号(P4607246)
【特許公報発行日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(395013212)株式会社IHIインフラ建設 (10)
【Fターム(参考)】