説明

鋼材の連続加熱方法

【課題】鋼材を予熱帯及び加熱帯で加熱し、その後、均熱帯を通過させて鋼材を加熱する連続式加熱炉において、伝熱効率の向上した連続加熱方法を提供する。
【解決手段】均熱帯3を鋼材100が通過する際に、均熱帯の炉壁への放熱により鋼材温度が上昇し難くなるのを防止するため、均熱帯の炉壁の輻射率を、予熱帯1及び加熱帯2の炉壁の輻射率よりも小さくする。予熱帯及び加熱帯の炉壁に高輻射率塗料を塗布し、該路へ気の輻射率を高めるとともに、均熱帯の炉壁の輻射率を、均熱帯に使用する耐火物の輻射率と同等にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材を予熱帯及び加熱帯で加熱し、その後、均熱帯を通過させて該鋼材の温度を均一にする鋼材の連続加熱方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延前の鋼材を加熱するために、一般的には、燃料を燃焼させる方式の連続式加熱炉が使用されている(例えば特許文献1参照)。この連続式加熱炉では、鋼材を装入し、予熱帯及び加熱帯で所定温度まで加熱し、その後、均熱帯で均熱状態にして、抽出している。この連続式加熱炉では、一般的に鋼材を加熱、均熱する際に投入される熱量の約半分が損失熱となると言われている。それ故、鋼材の抽出温度の条件を満足させながら熱効率を改善し、燃料消費量の低減が図られるように、従来から種々の対策が提案されている。その中で、炉壁の輻射率(輻射率)を向上させる(例えば値を1に近づける)という考えが一般的である(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−220621号公報
【特許文献2】特許第2985206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、連続式加熱炉において、予熱帯、加熱帯及び均熱帯の全ての炉壁の輻射率を単純に高くしても、その効果を、伝熱効率向上の効果として100%発揮できないという問題がある。その一方で、連続式加熱炉では、当然のことながら、能力向上、省エネの観点から、より伝熱効率の向上が求められている。
本発明の課題は、炉壁の高輻射率化を、伝熱効率の向上に効果的に結びつけることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために、本発明に係る請求項1に記載の鋼材の連続加熱方法は、鋼材を予熱帯及び加熱帯で加熱し、その後、均熱帯を通過させて該鋼材の温度を均一にする鋼材の連続加熱方法において、前記均熱帯の炉壁の輻射率を、前記予熱帯及び加熱帯の炉壁の輻射率よりも小さくすることを特徴としている。
また、本発明に係る請求項2に記載の鋼材の連続加熱方法は、請求項1に記載の鋼材の連続加熱方法において、前記鋼材が前記均熱帯の炉壁に放熱し、前記鋼材の温度が上昇し難くなるのを防止するために、前記均熱帯の炉壁の輻射率を、前記予熱帯及び加熱帯の炉壁の輻射率よりも小さくすることを特徴とする。
【0005】
また、本発明に係る請求項3に記載の鋼材の連続加熱方法は、請求項1又は2に記載の鋼材の連続加熱方法において、前記予熱帯及び加熱帯の炉壁に高輻射率塗料を塗布して、該予熱帯及び加熱帯の炉壁の輻射率を高くするとともに、前記均熱帯の炉壁の輻射率を、該均熱帯の炉壁に使用する耐火物の輻射率と同等にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
均熱帯の炉内温度と鋼材の温度とが近くなる場合に、均熱帯の炉壁温度と鋼材の温度との温度差に起因して、鋼材が炉壁に放熱して、鋼材の温度が上昇し難くなる現象を示す場合があるが、本発明によれば、均熱帯の炉壁の輻射率を、予熱帯及び加熱帯の炉壁の輻射率よりも小さくすることで、そのような鋼材の放熱を抑制し、鋼材の温度を上昇しやすくすることができる。このようにすることで、特に予熱帯及び加熱帯では炉壁の高輻射率化を実現しつつ、連続式加熱炉全体として伝熱効率の向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という。)を図面を参照しながら詳細に説明する。
(構成)
本実施形態は、本発明を適用した連続式加熱炉を示す。
図1は、連続式加熱炉の構成を示す。
図1に示すように、連続式加熱炉は、鋼材(鋼板)100の装入側から順に予熱帯1、加熱帯2及び均熱帯3を備えている。
【0008】
このような連続式加熱炉において、鋼材100は、装入口から例えばプッシャー、チャージャー等の装入機4によって装入され、炉内におけるウォーキングビーム5の矩形状の往復運動の繰り返しによって、予熱帯1を構成する予熱帯上部1a及び予熱帯下部1b、加熱帯2を構成する加熱帯上部2a及び加熱帯下部2b、均熱帯3を構成する均熱帯上部3a及び均熱帯下部3bを順次搬送されながら各加熱帯に一旦停止し、それぞれの加熱帯に設置された上部バーナ6(炉幅方向に複数設置される軸流バーナ又は炉長方向に複数設置されるルーフバーナ)及び下部バーナ7(鋼材の下方に炉長方向に複数設置されるサイドバーナ)により所定の加熱温度に加熱される。そして、均熱帯3を構成する均熱帯上部3a及び均熱帯下部3bにより目標抽出温度(例えば1200℃)に加熱された鋼材100は抽出口からエキストラクター8で抽出され、後段の圧延工程へ送られる。
【0009】
ここで、予熱帯1及び加熱帯2の炉壁の輻射率(放射率)ε,εは、一般的な耐火物で構成した炉壁に市販の高輻射塗料、例えば市販のチタニア系の塗料であるTi(酸化チタン)からなる塗料が塗布されることで、耐火物の輻射率ε(例えば0.7)よりも大きく、例えばε,ε=0.9とされている。一方、均熱帯3の炉壁の輻射率εは、耐火物の輻射率ε(例えば0.7)と同等とされ、例えばε=0.7とされている。例えば、輻射率が低い塗料を炉壁に塗布することで、又は炉壁に輻射率を変化させてしまうような塗料を塗布しないことで、均熱帯3の炉壁の輻射率εを、耐火物の輻射率εと同等にしている。すなわち、均熱帯3の炉壁の輻射率εと予熱帯1及び加熱帯2の炉壁の輻射率ε,εとを異ならせ、均熱帯3の炉壁の輻射率εを予熱帯1及び加熱帯2の炉壁の輻射率ε,εよりも小さくしている。
【0010】
図2は、予熱帯1、加熱帯2及び均熱帯3の炉内温度及び炉壁温度と鋼材の温度との関係を示す。
図2に示すように、連続式加熱炉に搬入された鋼材100は、予熱帯1及び加熱帯2を搬送される間に炉内温度に近い1200℃近くまで上昇して、均熱帯3でその温度に一定に保たれつつ炉外へ搬出される。
(作用及び効果)
作用及び効果は次のようになる。
前述のように、均熱帯3の炉壁の輻射率εを予熱帯1及び加熱帯2の炉壁の輻射率ε,εよりも小さくしている。これにより、均熱帯3で鋼材が炉壁に放熱してしまうのを抑制し、均熱帯3で鋼材の受熱量が減少してしまうのを防止している。
【0011】
熱源の輻射率εが大きくなるほど、被加熱体への伝熱量が多くなる(伝熱効率が高くなる)ので、予熱帯1及び加熱帯2は、鋼材を加熱するといった目的があることから、輻射率ε,εが大きい方が好ましい。しかし、均熱帯3でも予熱帯1及び加熱帯2と同じく輻射率εが大きいままだと、鋼材を加熱してしまい、場合によっては、均熱帯3の炉壁温度と鋼材の温度とが逆転してしまう場合がある。すなわち、加熱帯2から搬送されてきた鋼材の温度が均熱帯3の炉壁温度とほぼ同等であったとき、均熱帯3の輻射率εが大きいままだと、均熱帯3の炉壁温度と鋼材の温度とが逆転してしまう場合がある。このように、均熱帯3の炉壁温度と鋼材の温度とが逆転してしまうと、鋼材が炉壁に放熱を起こし、鋼材の炉内から受熱量が相対的に減少し、好ましくない状態になる。
【0012】
例えば、輻射による伝熱は、下記(1)式として示すことができる。
Q=εσ(T0−T1) ・・・(1)
ここで、Qは伝熱量であり、σはボルツマン定数であり、T0は熱源温度であり、T1は被加熱体の温度である。
この式にも示すように、熱源の温度T0と被加熱体の温度T1とは伝熱量に大きく影響する。このようなことから、均熱帯3で輻射率εが大きいと、均熱帯3でも鋼材がさらに加熱され、特に均熱帯3の炉壁温度(T0)と鋼材の温度(T1)とが同等になる領域では、均熱帯3の炉壁温度(T0)と鋼材の温度(T1)とが逆転する。そして、その逆転現象により、均熱帯3の炉壁温度(T0)が鋼材の温度(T1)よりも小さくなった場合、鋼材が炉壁に放熱するようになり、炉内からの鋼材の受熱量が減少してしまう場合がある。
【0013】
このようなことから、均熱帯3の炉壁の輻射率εを予熱帯1及び加熱帯2の炉壁の輻射率ε,εよりも小さくする、好ましくは炉壁を構成する耐火物の輻射率εと同等にすることで、均熱帯3で鋼材の温度が上昇し難くなるのを防止している。
なお、前記実施形態では、鋼材を予熱帯及び加熱帯で加熱し、その後、均熱帯を通過させて該鋼材の温度を均一にする鋼材の連続加熱方法において、前記均熱帯の炉壁の輻射率を、前記予熱帯及び加熱帯の炉壁の輻射率よりも小さくすることを特徴とする鋼材の連続加熱方法を実現している。
【0014】
(実施例1)
加熱炉(均熱帯の加熱炉)とその加熱炉により加熱される鋼材との間の伝熱モデルを用いて、加熱炉の炉内温度を1250℃とし、炉内燃焼のための炉内空気比を1.15とした場合の、鋼材の表面温度と鋼材に入る熱流束との関係を演算により得た。図3は、炉壁の輻射率εをパラメータとし、0.5.0.7.0.9で変化させた場合に得た結果を示す。
【0015】
図3に示すように、どの輻射率εの条件でも、鋼材の表面温度が上昇すると、鋼材の熱流束が減少するようになる。そして、輻射率εが大きくなるほど、熱流束の減少割合が大きくなる。さらに、均熱帯の炉壁温度付近である1200℃以上になると、輻射率ε間で、鋼材の表面温度に対する鋼材の熱流束の大きさが、逆転するようになる。このとき、輻射率εが小さくなるほど、熱流束が大きくなる。すなわち、鋼材の受熱量が増加するようになる。
この結果からもわかるように、均熱帯3の炉壁の輻射率εを予熱帯1及び加熱帯2の炉壁の輻射率ε,εよりも小さくすることで、均熱帯3で鋼材の受熱量の減少を防止できる。
【0016】
(実施例2)
連続式加熱炉は、燃料ガスにミックスガス(低位発熱量2700kcal/Nm)を用い、炉内空気比が1.15とされて、燃焼している。また、炉内温度は、概ね1250℃とし、鋼材を約100℃から1200℃に3時間かけて、予熱、加熱、そして均熱する操業を行った。予熱帯及び加熱帯の炉壁の輻射率を大きくするために市販の高輻射塗料(Ti)を使用して、炉壁の輻射率を0.9程度(通常の炉壁の輻射率は0.7程度)とした。図4はその結果として得た省エネ率を示す。
【0017】
図4に示すように、本発明の場合、省エネ率が6%増程度であるのに対して、全ての炉壁の輻射率を大きくした場合(均熱帯の炉壁の輻射率も0.9)、省エネ率は3.5%増に留まる結果となった。これにより、本発明の場合、炉能力を向上させることができる。これは、省エネ分で得た燃料を余分に連続式加熱炉に投入することで、加熱炉全体の加熱能力を向上させることができるので、省エネ率の増加は、炉能力の向上に繋がるからである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の連続式加熱炉の構成を示す図である。
【図2】予熱帯、加熱帯及び均熱帯の炉内温度及び炉壁温度と鋼材の温度との関係を示す特性図である。
【図3】実施例で得た結果であり、炉内温度に対して鋼材の表面温度が変化する場合における、該鋼材の表面温度と鋼材の熱流束との関係を示す特性図である。
【図4】実施例で得た結果であり、予熱帯、加熱帯及び均熱帯の輻射率と省エネ率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 予熱帯、2 加熱帯、3 均熱帯、100 鋼材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を予熱帯及び加熱帯で加熱し、その後、均熱帯を通過させて該鋼材の温度を均一にする鋼材の連続加熱方法において、
前記均熱帯の炉壁の輻射率を、前記予熱帯及び加熱帯の炉壁の輻射率よりも小さくすることを特徴とする鋼材の連続加熱方法。
【請求項2】
前記鋼材が前記均熱帯の炉壁に放熱し、前記鋼材の温度が上昇し難くなるのを防止するために、前記均熱帯の炉壁の輻射率を、前記予熱帯及び加熱帯の炉壁の輻射率よりも小さくすることを特徴とする請求項1に記載の鋼材の連続加熱方法。
【請求項3】
前記予熱帯及び加熱帯の炉壁に高輻射率塗料を塗布して、該予熱帯及び加熱帯の炉壁の輻射率を高くするとともに、前記均熱帯の炉壁の輻射率を、該均熱帯の炉壁に使用する耐火物の輻射率と同等にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼材の連続加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−240066(P2008−240066A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82038(P2007−82038)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】