説明

鋼片分塊圧延機の圧下指針電磁ツースクラッチの電磁コイル焼損時の固定方法

【課題】 鋼片分塊圧延機の圧下指針電磁ツースクラッチの電磁コイル焼損時の固定方法を提供する。
【解決手段】 鋼片分塊圧下指針電磁ツースクラッチにおいて、電磁コイルが焼損した場合に、ハブ4にリング状部品15を固定し、その固定したハブ4のリング状部品15に寸切ボルト17を固定し、その寸切ボルト17とナット18で位置の調整が可能な筒状部品16にて、電磁吸引体2を電磁コイルユニット1側へ押しつけ、フェイスギヤ9およびフェイスギヤ10を噛み合わせて固定する。このリング状部品15および筒状部品16、寸切ボルト17、ナット18からなる治具が、それぞれ単品で一人が手で持ち運びできる重量で、かつ全ての取付部はボルト締めで簡単に取付可能な構造で、入力軸19のトルクを出力軸20へ伝達可能な鋼片分塊圧下指針の電磁ツースクラッチの固定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼片分塊圧延機設備において、圧下指針の電磁ツースクラッチの電磁コイルが焼損した場合に、リング状部品および筒状部品、寸切ボルト、ナットからなる治具を使用し、短時間で入力軸のトルクを出力軸へ伝達可能な状態に復旧する鋼片分塊機における圧下指針の電磁ツースクラッチの固定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁ツースクラッチは、いわゆる電磁クラッチの一種であり、組み込まれている電磁コイルを励磁して電磁吸引力を発生させることによって、電磁吸引体を引き付け、電磁体および電磁吸引体それぞれに取り付いているフェイスギヤを噛み合わせることによって、入力軸のトルクを出力軸へ伝達している。電磁ツースクラッチを長期間使用した場合、あるいは、電磁コイルの励磁および消磁の繰返しが極端に激しい場合、電磁コイルと電磁吸引体の隙間が広がった際に電磁コイルへの負担が大きくなって電磁コイルが焼損し、入力軸のトルクを出力軸へ伝達することができず、その結果、機械の停止につながる。
【0003】
そこで、一般的な鋼片分塊装置の圧下指針電磁ツースクラッチの概略図を図2により示す。図2において、圧下指針電磁ツースクラッチは、電磁コイルユニット1、電磁吸引体2、軸受ケース3、ハブ4、ベアリング5、ベアリング6、スプリング7、スプリング8、フェイスギヤ9、フェイスギヤ10、スプラインギヤ11、スプラインギヤ12、その他付帯設備より構成される。
【0004】
図2は電磁ツースクラッチの作動状態を示すもので、この図2は鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチのクラッチ接続時の状態を示している。電磁コイルユニット1を励磁させ、スプリング7およびスプリング8のバネの弾撥力以上の電磁吸引力を発生させ、電磁吸引体2を電磁コイルユニット1に引き付けている。この引きつけにより、電磁コイルユニット1および電磁吸引体2のそれぞれに設けられているフェイスギヤ9およびフェイスギヤ10が噛み合い、電磁吸引体2および軸受ケース3のそれぞれに設けられているスプラインギヤ11およびスプラインギヤ12を介して、ハブ4へ入力軸19からのトルクが伝達され、入力軸19から出力軸20へ回転力が伝達される。
【0005】
図3は同じく電磁ツースクラッチの作動状態を示すもので、この図3は鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチのクラッチ切断時の状態、および、電磁コイルユニット1の電磁コイルによる電磁吸引力が無いため、電磁コイルユニット1および電磁吸引体2のそれぞれに付いているフェイスギヤ9およびフェイスギヤ10が噛み合うことなく、したがって、トルクをハブ4まで伝達することができない時の状態を示している。すなわち、ハブ4へ入力軸19からのトルクが伝達されない状態である。
【0006】
図4は、従来の鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチのコイル焼損時の応急復旧方法を説明する図である。この場合は、電磁吸引体2に矢印13の方向の外的な力を加えることにより電磁コイルユニット1および電磁吸引体2のそれぞれについているフェイスギヤ9およびフェイスギヤ10を噛み合わせた状態とし、その状態においてフェイスギヤ9およびフェイスギヤ10を溶接部14で溶接により接合して一体化することによって、入力軸19のトルクをハブ4まで伝達させるものである。
【0007】
一般的には、電磁ツースクラッチの電磁コイルが焼損した場合に、電磁ツースクラッチを復旧するためには、電磁コイルを取り替える以外に方法はない。しかし、応急的に入力軸のトルクを出力軸へ伝達したい場合は、図4により説明する上記の方法のように、入力軸と出力軸を溶接するなどの何らかの方法で固定して一体化している。
【0008】
従来からこのような電磁コイルの焼損に対する対策として、電磁クラッチ・ブレーキについては、各種の空隙調整装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この例における電磁クラッチ・ブレーキにおける空隙調整装置の場合は、一般的な電磁クラッチ・ブレーキの回転体と摩擦体間の空隙を調整し、電磁コイルの焼損を防ぐためのものであり、このものは鋼片分塊圧延機の圧下指針電磁ツースクラッチのように、常に励磁状態であり、月に4〜5時間しか消磁しない箇所で使用され、かつ、トルクの大きな箇所に使用されている電磁ツースクラッチにおける電磁コイル焼損時の応急復旧方法についての問題を解消させるものではない。しかも、このような状況下における問題の解決あるいは対処方法の提案はあまりされていない。
【0009】
【特許文献1】特開昭56-90131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチの電磁コイルの焼損時に、電磁ツースクラッチを介することなく入力軸のトルクを出力軸へ直接に伝達可能に短時間で復旧する方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題を解決するための手段は、請求項1の発明では、鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチにおいて、電磁コイルが焼損した場合に、出力軸20のハブ4にリング状部品15を内周側の肉薄部15aで固定し、そのハブ4に固定したリング状部品15の外周側の肉厚部15bに寸切ボルト17のボルト一端部17aをねじ螺合により固定する。さらに、この寸切ボルト17のボルト他端部17bに2個のナット18、18により位置調整可能に挟持して筒状部品16の軸方向の一端側のフランジ部16cを固定し、この筒状部品16の内周と軸受ケース3の外周との間に間隙を設け、筒状部品16の軸方向の他端側に形成の肉薄外周部内面16aを電磁吸引体2の軸方向の一端側の筒状部外周面2bに被覆しかつ電磁吸引体2の一端側の筒状部端面2aを筒状部品16の他端側の肉厚部内端面16bに当接して電磁吸引体2を電磁コイルユニット1側へスプリング8に抗して押しつけ、この押しつけにより電磁吸引体2のフェイスギヤ10に電磁コイルユニット1のフェイスギヤ9を噛み合わせて係合することを特徴とする入力軸19のトルクを出力軸20へ伝達可能とする鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチの固定方法である。
【0012】
上記の手段における本発明の作用効果を説明すると、上記の手段の方法において、リング状部品15および筒状部品16、寸切ボルト17およびナット18からなる治具部品は、これらがそれぞれ単品で一人の手で持ち運びできる重量であり、かつ、これらの全ての治具部品の取付部はボルト締めにより組み立て得るものであり、従来の方法における、電磁コイルの焼損時の入力軸19と出力軸20との接続を電磁コイルユニット1と電磁吸引体2の溶接部14の形成による方法などにより応急措置を行う場合のように、溶接作業の必要がなく、作業員一人で本発明の手段におけるリング状部品15および筒状部品16、寸切ボルト17およびナット18からなる治具部品を簡単にボルト21のねじ螺合により取付可能であり、かつ、溶接することがないので、部品を簡単に交換することができ、無駄を生じることがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、鋼片分塊装置の圧下指針電磁ツースクラッチの電磁コイルの焼損時に、作業員が一人で、簡単に、また短時間で入力軸のトルクを出力軸へ伝達できるよう固定することが可能となるため、応急修理時間の大幅な削減が実現でき、従来のように電磁ツースクラッチ本体に溶接を行なう必要がないため、電磁ツースクラッチは、焼損した電磁コイルの取替のみでオーバーホールが可能であり、修繕費用の大幅な削減ができ、さらに使用する冶具部品であるリング状部品および筒状部品は、それぞれ一人でも持ち運びできる重量であり、しかも各取付部は全てボルト止めされるので、誰でも簡単に取付取外し可能なようになるなど、本発明は極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最良の形態を、図1にしたがって説明する。図1は、本発明の方法を説明するための図面である。この図1において、鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチは、電磁コイルユニット1、電磁吸引体2、軸受ケース3、ハブ4、ベアリング5、ベアリング6、スプリング7、スプリング8、フェイスギヤ9、フェイスギヤ10、スプラインギヤ11、スプラインギヤ12、その他付帯設備より基本的に構成されている。
【0015】
ところで、この図1における本発明の方法は、固定冶具を使用した鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチのコイル焼損時の復旧方法である。本発明の方法に用いる固定冶具であるリング状部品15、筒状部品16、寸切ボルト17、ナット18を、上記した図2に示す従来の鋼片分塊圧延装置における圧下指針電磁ツースクラッチに追加して図1に示す構成にしたものである。
【0016】
すなわち、鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチにおいて、電磁コイルユニット1の電磁コイルが焼損した場合に、出力軸20側のハブ4にリング状部品15をその内周側の肉薄部15aにボルト21により固定する。一方、そのハブ4にボルト21で固定したリング状部品15の外周側の肉厚部15bに寸切ボルト17のボルト一端部17aをねじ螺合して固定する。その固定した寸切ボルト17のボルト他端部17bと2個のナット18、18により筒状部品16の軸方向の一端側のフランジ部16cを挟持して電磁吸引体2を電磁コイルユニット1側へ押しつけるようにして位置調整可能に固定する。
【0017】
すなわち、この寸切ボルト17で固定された筒状部品16は軸受ケース3の外周に間隙をあけて配設されている。一方、一端側のフランジ部16cと軸方向で反対側の筒状部品16の他端側の肉薄外周部内面16aにより電磁吸引体2の軸方向の一端側の筒状部外周面2bを覆うように当接し、さらに、電磁吸引体2の一端側の筒状部端面2aを筒状部品16の他端側の肉厚部内端面16bに当接させる。この当接により電磁吸引体2を電磁コイルユニット1へ押しつける。この押しつけによりスプリング8に抗してフェイスギヤ9およびフェイスギヤ10を噛み合わせ状態として固定し、入力軸19の駆動力を電磁コイルユニット1から電磁吸引体2に直接伝達可能する。
【0018】
本発明においては、リング状部品15が出力軸20側のハブ4にボルト21で螺合して固定されている。そしてこのリング状部品16を寸切ボルト17および2個のナット18、18で筒状部品16に連結している。そこで、この寸切ボルト17と2個のナット18、18とでリング状部品15の外周側の肉厚部15bと筒状部品16の一端側のフランジ部16cとの間隔を調節することで、筒状部品16の他端側の肉厚部内端面16bを電磁吸引体2の一端側の筒状部端面2aに押しつけ、この押しつけによりフェイスギヤ9およびフェイスギヤ10を噛み合わせることによって、入力軸19のトルクをハブ4まで伝達させ、出力軸20を回転させる。このように、本発明は電磁コイルの焼損時に、リング状部品15、リング状部品16、寸切ボルト17およびナット18を使用することで、応急復旧することが容易にできる。
【0019】
一方、従来の電磁コイル焼損時の応急復旧方法は、図4に示すように、フェイスギヤ9およびフェイスギヤ10を直接に溶接していたため、応急復旧とはいえ時間がかかり、また、一度このように溶接すると、電磁ツースクラッチをオーバーホールすることができなくなり、このため電磁コイルの取替だけではなく、フェイスギヤ9およびフェイスギヤ10の取替など、すなわち、ほぼ全ての部品を新品に更新する必要がある。このために修理費用が多大にかかっていた。
【0020】
これに対し、図1に示す治具部品を適用する上記の本発明における方法では、作業者が一人であっても短時間で復旧することが可能であり、また、電磁ツースクラッチのオーバーホールの際にも、電磁コイルユニット1を取り替えるのみで新品同様に復旧でき、大幅に新規購入費用および取替修理費用を削減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明における、鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチ電磁コイル焼損時の、冶具による復旧方法の模式図である。
【図2】従来の鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチのクラッチ接続状態の模式図である。
【図3】従来の鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチのクラッチ切断状態および電磁コイル焼損時の模式図である。
【図4】従来の鋼片分塊圧下指針電磁ツースクラッチ電磁コイル焼損時の応急復旧方法の模式図である。
【符号の説明】
【0022】
1 電磁コイルユニット
2 電磁吸引体
2a 一端側の筒状部端面
2b 一端側の筒状部外周面
3 軸受ケース
4 ハブ
5 ベアリング
6 ベアリング
7 スプリング
8 スプリング
9 フェイスギヤ
10 フェイスギヤ
11 スプラインギヤ
12 スプラインギヤ
13 矢印
14 溶接部
15 リング状部品
15a 内周側の肉薄部
15b 外周側の肉厚部
16 筒状部品
16a 他端側の肉薄外周部内面
16b 他端側の肉厚部内端面
16c 一端側のフランジ部
17 寸切ボルト
17a ボルト一端部
17b ボルト他端部
18 ナット
19 入力軸
20 出力軸
21 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチにおいて、電磁コイルが焼損した場合に、出力軸20のハブ4にリング状部品15を内周側の肉薄部15aで固定し、このハブ4に固定したリング状部品15の外周側の肉厚部15bに寸切ボルト17のボルト一端部17aをねじ螺合により固定し、この寸切ボルト17のボルト他端部17bに2個のナット18、18により位置調整可能に挟持して筒状部品16の軸方向の一端側のフランジ部16cを固定し、この筒状部品16の内周と軸受ケース3の外周との間に間隙を設け、筒状部品16の軸方向の他端側に形成の肉薄外周部内面16aを電磁吸引体2の軸方向の一端側の筒状部外周面2bに被覆しかつ電磁吸引体2の一端側の筒状部端面2aを筒状部品16の他端側の肉厚部内端面16bに当接して電磁吸引体2を電磁コイルユニット1側へスプリング8に抗して押しつけ、この押しつけにより電磁吸引体2のフェイスギヤ10に電磁コイルユニット1のフェイスギヤ9を噛み合わせて係合することを特徴とする入力軸19のトルクを出力軸20へ伝達可能とする鋼片分塊圧延装置の圧下指針電磁ツースクラッチの固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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