説明

鋼矢板の打設方法

【課題】
異形鋼矢板を使用せず安価且つ正確に長尺の鋼矢板を打設することができるとともに、気象・海象条件にも左右され難い鋼矢板の打設方法の提供。
【解決手段】
複数の本設鋼矢板1,1...をその長さ方向を上下方向に向けるとともに、幅方向で互いに隣接する配置に地盤A中に打ち込む場合であって、地盤Aの本設鋼矢板1の打ち込み予定位置に本設鋼矢板1より短いガイド用鋼矢板2をその長さ方向を上下方向に向けて打ち込むことにより上下方向に向けたガイド穴6,6...を形成し、しかる後、ガイド用鋼矢板2を引き抜き、引き抜いたガイド用鋼矢板2に代えてガイド穴6に本設鋼矢板1の下端側を挿入して設置し、その本設鋼矢板1を地盤A中の所定の深さまで打ち込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岸壁及び護岸の土留壁等に使用される長尺の鋼矢板を地盤中に打ち込むための鋼矢板の打設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河岸、海岸、港湾の岸壁及び護岸構造には、上下方向に向けた複数の鋼矢板を幅方向に互いに隣接した配置に並べて設置した鋼矢板壁を有するものが知られており、このような複数の鋼矢板を地盤に対し並べて打設する方法として、単独打ちによる施工方法及び幅方向に並べて設置した鋼矢板を多段打ち(屏風多段打ち)により施工する方法等が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
単独打ちによる施工方法では、最初に1又は2枚の鋼矢板を導枠に沿って設置し、それを杭打機又は杭打船により地盤中の所定の深さまで打ち込んだ後、次の鋼矢板を既設の鋼矢板と隣り合う配置に設置し、一方の側縁部を既設の鋼矢板にガイドさせつつ地盤中の所定深さまで打ち込む作業を行い、この作業を各鋼矢板について順次繰り返すことにより複数の鋼矢板を互いに幅方向に並べて打設するようにしている。
【0004】
また、この方法では、鋼矢板の片側縁のみをガイドさせた状態で打設するため鋼矢板が傾いて打設され易く、その為、矢板壁の端部又は中央部において楔状の異形鋼矢板を打ち込み、鋼矢板間の隙間を埋めてその傾きを修正するようにしている。
【0005】
一方、屏風多段打ちによる鋼矢板の打設方法では、所定の間隔を隔てて打設された鋼管矢板の上端部間に導枠を架設し、この導枠に沿って複数の鋼矢板を幅方向に並べて設置した後、両端側の鋼矢板を所定量打ち込み、その打ち込まれた鋼矢板に合わせて両端の鋼矢板間に配置された各鋼矢板を互いにガイドさせつつ同じ深さまで打ち込む作業を行い、調整を行いながらこの作業を数回に分けて繰り返し、各鋼矢板を互いにガイドさせつつ全体が所定深さに至るまで打設する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−294127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上述の如き従来の単独打ちによる施工方法では、楔状の異形鋼矢板を各鋼矢板の傾き具合に合わせて施工現場において製作しなければならず製作に困難が伴うという問題があった。
【0008】
特に長尺の異形鋼矢板の製作は困難であり、製作時の反りや曲がりが打設精度に影響を及ぼすため、その製作には熟練した技術を必要とするという問題があった。
【0009】
一方、多段打ちによる施工方法では、複数の長尺の鋼矢板を並べて設置するために大規模な設置装置及び導枠を必要とし経費が嵩むという問題があった。
【0010】
また、多段打ちによる施工では、各鋼矢板を均一且つ正確に打設するために調整を行いながら各鋼矢板の打ち込みを数回に分けて行うため、杭打ち機(又は杭打ち船)を数回に渡って移動させる必要があり、工期が長期化し、費用も嵩むという問題があった。
【0011】
更に海上での作業において鋼矢板を途中まで打設した状態にあっては、一の鋼矢板の打設作業を行っている間、他の各鋼矢板は、その上側部分の大半が水面上に突出した状態のまま放置されるので風波を受けやすく、気象・海象条件に左右されやすいという問題があり、特に長尺の鋼矢板においては水面上に突出する部分が長い為に気象・海象条件による影響が大きいという問題があった。
【0012】
更に又、両施工方法に共通して、最初に鋼矢板を設置する際に、地盤に対し鋼矢板の向きを鉛直方向に向けて位置合せすることは困難を伴い、この最初の位置合わせの精度が低いと後に打設する鋼矢板の打設精度にも影響するという問題があり、鋼矢板が長尺であるほどこの位置合わせの困難性が増すという問題があった。
【0013】
そこで本発明は、上述の如き従来の問題を鑑み、異形鋼矢板を使用せず安価且つ正確に長尺の鋼矢板を打設することができるとともに、気象・海象条件にも左右され難い鋼矢板の打設方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、複数の本設鋼矢板をその長さ方向を上下方向に向けるとともに、幅方向で互いに隣接する配置に地盤中に打ち込む鋼矢板の打設方法において、前記地盤の本設鋼矢板の打ち込み予定位置に前記本設鋼矢板より短いガイド用鋼矢板をその長さ方向を上下方向に向けて打ち込むことにより上下方向に向けたガイド穴を形成し、しかる後、前記ガイド用鋼矢板を引き抜き、該引き抜いたガイド用鋼矢板に代えて前記ガイド穴に前記本設鋼矢板の下端側を挿入して設置し、該設置された本設鋼矢板を地盤中の所定の深さまで打ち込むことにある。
【0015】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、複数の前記ガイド用鋼矢板を幅方向に並べて設置し、前記各ガイド用鋼矢板を互いにガイドさせつつ前記地盤中に打ち込んだ後、前記ガイド用鋼矢板を引き抜き、該ガイド用鋼矢板に代えて前記本設鋼矢板を設置することにある。
【0016】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項2の構成に加え、幅方向に並べて打ち込まれた複数のガイド用鋼矢板の一部を引き抜き、該引き抜いたガイド用鋼矢板に代えて前記本設鋼矢板を、その両側縁を前記引き抜かれたガイド用鋼矢板の両側部に配置されていた前記本設鋼矢板又はガイド用鋼矢板にガイドさせつつ前記ガイド穴に挿入して設置することにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る鋼矢板の打設方法は、上述したように、複数の本設鋼矢板をその長さ方向を上下方向に向けるとともに、幅方向で互いに隣接する配置に地盤中に打ち込む鋼矢板の打設方法において、前記地盤の本設鋼矢板の打ち込み予定位置に前記本設鋼矢板より短いガイド用鋼矢板をその長さ方向を上下方向に向けて打ち込むことにより上下方向に向けたガイド穴を形成し、しかる後、前記ガイド用鋼矢板を引き抜き、該引き抜いたガイド用鋼矢板に代えて前記ガイド穴に前記本設鋼矢板の下端側を挿入して設置し、該設置された本設鋼矢板を地盤中の所定の深さまで打ち込むことにより、多段打ちでなくとも長尺の鋼矢板を正確に打ち込むことができ、工期を短縮し費用の低減を図ることができるとともに、楔状の異形鋼矢板を用いての傾斜の修正を行う必要がなく熟練工によらずとも施工することができる。また、本発明方法では、ガイド穴にガイドさせつつ本設鋼矢板を設置することができるので、長尺且つ重量の嵩む本設鋼矢板であっても、容易に位置決めを行うことができる。更に、本発明方法は、屏風多段打ちの如く本設鋼矢板を長期に亘って水上より突出させた状態で放置することがなく、気象・海象条件による影響が少ない。
【0018】
また、本発明において、複数の前記ガイド用鋼矢板を幅方向に並べて設置し、前記各ガイド用鋼矢板を互いにガイドさせつつ前記地盤中に打ち込んだ後、前記ガイド用鋼矢板を引き抜き、該ガイド用鋼矢板に代えて前記本設鋼矢板を設置することにより、ガイド用鋼矢板の打ち込みに関しては、鋼矢板が短尺であるので、打込みを数回に分けることなく、或いは多段打ちであっても少ない回数で打ち込むことができるので杭打機等の移動を少なくすることができ工期の短縮を図ることができる一方、高い打設精度が得られるので、本設鋼矢板をガイドするガイド穴の傾斜を抑えることができ高い打設精度をもって本設鋼矢板の打ち込みをすることができる。
【0019】
更に本発明において、幅方向に並べて打ち込まれた複数のガイド用鋼矢板の一部を引き抜き、該引き抜いたガイド用鋼矢板に代えて前記本設鋼矢板を、その両側縁を前記引き抜かれたガイド用鋼矢板の両側部に配置されていた前記本設鋼矢板又はガイド用鋼矢板にガイドさせつつ前記ガイド穴に挿入して設置することにより、本設鋼矢板を大規模な設備を必要とせず、且つ杭打ち機を数回に分けて移動させる必要のない単独打ちにより打設する一方、両側縁部をガイドさせたことにより多段打ちと同様に高い打設精度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る鋼矢板の打設方法におけるガイド用鋼矢板打設工程の一例の概略を示す正面図である。
【図2】同上のガイド用鋼矢板の引き抜き工程の概略を示す正面図である。
【図3】同上の本設鋼矢板の設置状態の一例を示す正面図である。
【図4】図3中の鋼矢板の連結状態を示す平面図である。
【図5】本発明に係る鋼矢板の打設方法における本設鋼矢板の打ち込み工程の状態を示す正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に本発明に係る鋼矢板の打設方法の実施の形態を図1〜図5に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号Aは水底地盤、符号1は水底地盤Aに打設される本設鋼矢板、符号2はガイド用鋼矢板である。
【0022】
本設鋼矢板1は、長さが25m以上の長尺であって、U字状(山形状)断面が長さ方向に連続した形状に形成され、その両側縁部に互いに隣り合う鋼矢板の側縁部同士を連結する継手部材3a,3aが形成されている。
【0023】
ガイド用鋼矢板2は、本設鋼矢板1と同一の断面形状を有し、その長さが長尺(本実施例では31m)の本設鋼矢板1よりも短く形成されたものであり、その両側縁部には、本設鋼矢板1と同形状の継手部材3a,3aが形成されている。尚、図中の実施例においては本設鋼矢板1の約1/2の長さのものを使用する。
【0024】
この本設鋼矢板1及びガイド用鋼矢板2に用いられる継手3は、隣り合う鋼矢板側縁部に形成された継手部材3a,3aを互いに係合させることにより連結され、且つ係合した状態で鋼矢板の長さ方向に各鋼矢板が互いにスライドできるように形成されている。
【0025】
この本設鋼矢板1を打設するには、まず、鋼管矢板4,4の上端部間に導枠5を架設し、鋼矢板設置手段を形成する。尚、この鋼矢板設置手段は、本設鋼矢板1と同尺の鋼矢板を屏風多段打ちにより打設する場合の鋼矢板設置手段に比べ小さくなっている。
【0026】
次に、図1に示すように、本設鋼矢板1の打ち込み予定位置に合わせて、地盤A上に導枠5に沿って複数のガイド用鋼矢板2,2...をその長さ方向を上下方向に向けると共に幅方向に並べて設置する。その際、隣り合うガイド用鋼矢板2,2の接合部は継手3を介して互いに上下方向にスライド可能な状態で連結され、各ガイド用鋼矢板2,2...は、上下方向の移動に関し互いにガイドされた状態になっている。
【0027】
このガイド用鋼矢板2の設置作業は、ガイド用鋼矢板2が本設鋼矢板1に比べて短く且つ軽量であることから、各ガイド用鋼矢板2,2...を地盤に対し鉛直方向に向けて位置合わせすることや隣り合うガイド用鋼矢板2,2の継手部材3a,3aを係合させる等の作業が行い易くなっている。
【0028】
そして、複数のガイド用鋼矢板2,2...の設置作業が完了したら、鋼管矢板4側に配置されたガイド用鋼矢板2を杭打ち機等の杭打手段により所定深さまで打ち込む。その際、ガイド用鋼矢板2は、一方の側縁部を鋼管矢板4に他方の側縁部を隣り合うガイド用鋼矢板2にそれぞれ継手3を介してガイドさせ、その状態で長さ方向を上下方向に向けて打ち込まれるようになっている。
【0029】
次に、打込まれたガイド用鋼矢板2,2間に配置された各ガイド用鋼矢板2,2...を順次、互いに隣り合うガイド用鋼矢板2にガイドさせつつ所定深さまで打ち込む。この場合、各ガイド用鋼矢板2,2...は、短尺であるので打込み作業を数回に分けることなく、或いは多段打ちであっても少ない回数で地盤中の所定深さまで打ち込むことができる。
【0030】
そして、各ガイド用鋼矢板2,2...を所定深さまで打ち込むことにより、地盤A中には、本設鋼矢板1の打ち込み予定位置に地盤表面に開口した上下方向に向けたガイド穴6,6...が形成される。
【0031】
このガイド穴6は、ガイド用鋼矢板2の断面形状、即ち本設鋼矢板1の断面形状が上下方向に連続した形状の中空部を有するように形成され、挿入された本設鋼矢板1の上下方向の移動をガイドするようになっている。
【0032】
次に、図2〜図3に示すように、ガイド用鋼矢板2をクレーン等により上向きに引き抜き、その引き抜いたガイド用鋼矢板2に代えて導枠5に沿って本設鋼矢板1をガイド穴6に挿入し、本設鋼矢板1を設置する。
【0033】
この本設鋼矢板1の設置作業においては、図4に示すように、一方の側縁部を鋼管矢板4又は既設の本設鋼矢板1に継手3を介してガイドさせ、他方の側縁部を隣り合うガイド用鋼矢板2に継手3を介してガイドさせるとともに、一定深さを有する上下方向に向けたガイド穴6にガイドさせつつ地盤A中に挿入されるので長尺且つ重量の嵩む本設鋼矢板1であっても容易且つ正確にその長さ方向を鉛直方向に向けて設置することができる。
【0034】
そして、この設置された本設鋼矢板1を杭打ち機等の杭打ち手段により所定の深さまで打ち込む。
【0035】
このように本設鋼矢板1は、その両側縁部を既設の本設鋼矢板1(鋼管矢板4)及びガイド用鋼矢板2にガイドさせつつ打ち込むことができ、多段打ちと同様に地盤に対する鉛直度を維持した状態で打ち込まれ、従って、打込み方向が傾斜し難く、楔型状の異形鋼矢板を使用する必要もない。
【0036】
そして、上述の一連の作業を一方の端側より順次繰り返し、両鋼管矢板4間に複数の本設鋼矢板1,1...をその長さ方向を上下方向に向けるとともに、幅方向に互いに隣接して並べた配置に打設し、鋼矢板壁が構築される。
【0037】
尚、上述の実施例ではU字状断面を有する鋼矢板を使用した例について説明したが、その他の断面形状を有する鋼矢板にも適用することができる。
【0038】
また、上述の実施例では、ガイド用鋼矢板の長さを本設鋼矢板の約1/2の長さとした例について説明したが、ガイド用鋼矢板の長さは、地盤強度や本設鋼矢板の長さ等の諸条件に基づき適宜決定することができる。
【0039】
更に、上述の実施例では、ガイド用鋼矢板を引き抜き、それに代えて本設鋼矢板を設置し・打込む一連の作業を一方の端側より順次行う例について説明したが、両端側より同時に施工するようにしてもよく、並べられたガイド用鋼矢板を一つおきに引き抜き、その引き抜いたガイド用鋼矢板に代えて本設鋼矢板を打設するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
A 水底地盤
1 本設鋼矢板
2 ガイド用鋼矢板
3 継手部材
4 鋼管矢板
5 導枠
6 ガイド穴


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の本設鋼矢板をその長さ方向を上下方向に向けるとともに、幅方向で互いに隣接する配置に地盤中に打ち込む鋼矢板の打設方法において、
前記地盤の本設鋼矢板の打ち込み予定位置に前記本設鋼矢板より短いガイド用鋼矢板をその長さ方向を上下方向に向けて打ち込むことにより上下方向に向けたガイド穴を形成し、しかる後、前記ガイド用鋼矢板を引き抜き、該引き抜いたガイド用鋼矢板に代えて前記ガイド穴に前記本設鋼矢板の下端側を挿入して設置し、該設置された本設鋼矢板を地盤中の所定の深さまで打ち込むことを特徴としてなる鋼矢板の打設方法。
【請求項2】
複数の前記ガイド用鋼矢板を幅方向に並べて設置し、前記各ガイド用鋼矢板を互いにガイドさせつつ前記地盤中に打ち込んだ後、前記ガイド用鋼矢板を引き抜き、該ガイド用鋼矢板に代えて前記本設鋼矢板を設置する請求項1に記載の鋼矢板の打設方法。
【請求項3】
幅方向に並べて打ち込まれた複数のガイド用鋼矢板の一部を引き抜き、該引き抜いたガイド用鋼矢板に代えて前記本設鋼矢板を、その両側縁を前記引き抜かれたガイド用鋼矢板の両側部に配置されていた前記本設鋼矢板又はガイド用鋼矢板にガイドさせつつ前記ガイド穴に挿入して設置する請求項2に記載の鋼矢板の打設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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