説明

鋼管の冷間曲げ加工方法

【課題】最適なマンドレル形状と潤滑性能に優れた潤滑剤を適用することにより、成形能率および加工歩留まりに優れたエルボの冷間曲げ加工方法を提供する。
【解決手段】被加工材である短尺素管を加工用のマンドレルに連続して環装したのち、プッシャーにより常温の前記素管を前記マンドレルで拡管しつつ押し抜くことによってエルボを成形する鋼管の冷間加工方法であって、前記マンドレルは素管案内部、拡管部および製品案内部に区分され、拡管部での周長が製品案内部での周長より長いことを特徴とする鋼管の冷間曲げ加工方法である。さらに、マンドレルの拡管部の断面形状を楕円形状とし、または略三角形の楕円形状とし、引き続く製品案内部の出側端部における断面形状を円形状とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電および化学プラント等に用いられるエルボ配管を構成する鋼管の冷間曲げ加工方法に関し、さらに詳しくは、短尺に切断された冷間状態の素管を用いて、優れた成形能率および加工歩留まりでエルボを成形することができる鋼管の冷間曲げ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電および化学プラント等に用いられるエルボ配管は、エルボとエルボの両端に溶接された直管部とから構成される。エルボ配管に用いられるエルボの成形方法としては、押し曲げ方式やマンドレル方式があるが、通常の肉厚寸法品(t/D≦15%)を主体として、マンドレル方式が広く適用されている。
【0003】
マンドレル方式でエルボを製造する場合には、所定の長さに切断した製品外径より小さい鋼管を素管とし、その素管をキセル状に先端が曲がったマンドレル(芯金)にリング状に装着(環装)して、バーナーまたは高周波誘導電流により加熱しながら、熱間加工によりプレスで押し抜いて成形する。そして、エルボの成形加工後には、金型を用いてエルボ断面の真円が保たれるように整形が行われる。
【0004】
ところが、熱間加工によるエルボの成形加工では、バーナー加熱炉または高周波誘導加熱装置が必要となり、加熱エネルギーに要する費用が増大するとともに、加熱は素管の周方向に均一に行う必要があるが、加熱温度や加熱部位のばらつきにより、形状不良にともなう加工不良が発生し易くなる。さらに、エルボの熱間曲げ加工では、成形時にエルボの内面に疵が入り易く、また素管の微小な欠陥であっても製品欠陥になり易く、さらに素管を所定の加工温度まで加熱する必要があることから、加熱処理に多大な時間を要し成形能率が低下することになる。
【0005】
このため、特許文献1では、熱間加工によるエルボの成形加工に替えて、冷間加工により押通し曲げ方式でエルボを成形する曲管の製造装置を提案している。すなわち、提案の製造装置では、ワーク導入坑道を具えたガイド金型と、ガイド金型の上方に設けられ曲管の内側曲率と合致する円弧状型面を具えた内金型と、曲管の外側曲率と合致する円弧状型面を具えた外金型と、当該外金型と内金型の型締に基づき構成される彎曲坑道内にその上方口側から挿脱可能に嵌挿し、ワークの肉厚相当の環状間隙mを形成するための彎曲マンドレルとで成形金型を構成している。
【0006】
したがって、エルボの成形に際しては、ワーク(素管)はプッシャーの作動により、彎曲マンドレルが形成する環状間隙m内に圧入され、内金型および外金型により、所定の曲率を具えた曲管に成形されることとなる。このため、成形加工されたワークは、加工中にワークを押えた進退爪片をそれぞれ後退させた解放状態にして、下方に落下させて装置から取り出し、その成形加工を完了する。また、提案の製造装置を用いて、エルボの成形加工を行うには、ワークの両端を斜め切りするようにエルボ形成用に形状設定することが必要になる。さらに、加工力の関係で比較的小径の製品の加工に限定されている。
【0007】
上述の通り、特許文献1で提案される製造装置では、冷間加工によりエルボを成形することができるが、ワーク(素管)一本ごとの成形加工が必要であり、成形能率の向上を期待することができない。さらに、エルボ形成用としてワークの両端に斜め切り加工が必要であり、加工工数を要するだけでなく、素管の先端部分での不整変形の発生や曲がり部分での偏肉発生の問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平6−114453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の通り、熱間加工によりエルボを成形する場合には、加熱炉または高周波誘導加熱装置が必要になり、加熱エネルギーに要する費用が増大するとともに、加熱ばらつきにより加工不良が発生し易く、また加工にともなう製品欠陥も多く、加工歩留まりや成形能率が低下するという問題がある。
【0010】
一方、冷間加工により押通し曲げ方式でエルボを成形することも提案されたが、エルボの成形に際し、ワーク(素管)一本ごとの成形加工が必要であり、しかもエルボ形成用としてワークの両端に斜め切り加工が必要になることから、成形能率を充分に向上させることができない。
【0011】
本発明は、上述したエルボの成形加工における問題点に鑑みてなされたものであり、マンドレル形状の最適化とともに、優れた潤滑性能を発揮する潤滑剤を開発することによって、冷間加工においても、短尺に切断された素管を連続してエルボに形成することができ、成形能率を向上させることができる鋼管の冷間曲げ加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記の課題を解決するため、種々の曲げ加工について検討した結果、効率的にエルボを成形加工するには、いわゆるハンブルグ曲げによるエルボの冷間成形が有効であることに着目した。
【0013】
したがって、本発明の冷間曲げ加工方法は、被加工材である短尺素管を加工用のマンドレルに連続して環装したのち、プッシャーにより常温の前記素管を前記マンドレルで拡管しつつ押し抜くことによってエルボを成形する鋼管の冷間加工方法であって、前記マンドレルは素管案内部、拡管部および製品案内部に区分され、拡管部での周長が製品案内部での周長より長いことを特徴としている。
【0014】
さらに、本発明の冷間曲げ加工方法では、マンドレルの拡管部における押し抜き方向に垂直な断面形状を曲げ半径方向を短径としその直角方向を長径とする楕円形状とし、または曲げ半径方向の短径の内側に頂点を設けた略三角形の楕円形状とし、引き続く製品案内部の出側端部における同断面形状を円形状にすることにしている。
【0015】
このように、マンドレル形状を構成することにより、被加工材である素管はマンドレルにより拡管され、それと同時に素管の押し抜き方向の歪みを素管の円周方向に傾斜分布させることによって、偏肉が少なく寸法精度に優れるエルボを成形することができる。
【0016】
本発明の冷間曲げ加工方法は、素管内面に施される潤滑剤として、下地鋼側から下地皮膜、金属石鹸および湯溶石鹸からなる化成処理された潤滑皮膜と、前記潤滑皮膜に塗布される金属石鹸粉末、黒鉛粉末または二硫化モリブデン粉末のいずれかの潤滑粉末とからなることを特徴とする。3層構造からなる化成潤滑皮膜と、その表面に塗布される金属石鹸粉末などからなる潤滑粉末と作用が相まって優れた冷間潤滑性能を発揮することができる。
【0017】
本発明の冷間曲げ加工方法では、マンドレルの表面処理として、窒化処理、CVDコーティングまたはPVDコーティングのいずれかを施すのが望ましい。例えば、TiC、TiCN、TiN等の皮膜を形成することによって、エルボの内面疵の発生を防止し、マンドレル寿命の延長を図ることができる。
【0018】
本発明の冷間曲げ加工方法では、素管の平均内径をdiとし、マンドレルの拡管部での最大周長部における平均外径をDoとした場合に、下記(1)式で示される内径拡管率DIが5〜20%とするのが望ましい。内径拡管率DIが5%未満であると、素管の押し抜き方向の歪みを円周方向に充分に傾斜分布させることができず、偏肉の改善が図れない。一方、内径拡管率DIが20%を超えると、著しく成形抵抗が増大し、押し抜きが困難になる。
【0019】
内径拡管率DI={(Do−di)/di}×100(%) ・・・ (1)
【発明の効果】
【0020】
本発明の鋼管の冷間曲げ加工方法によれば、エルボの冷間成形に最適なマンドレル形状と、冷間加工での潤滑性能に優れた潤滑剤を開発することにより、短尺に切断された冷間状態の素管を連続して内面疵を発生することなく形成することができるので、成形能率および加工歩留まりを大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明の鋼管の冷間曲げ加工方法の構成を模式的に説明する図である。エルボ1の成形加工に用いられるマンドレル3は芯金竿4に支持され、その後端はサポート5によって固定される。被加工材となる素管2は素材鋼管から切断加工されるが、エルボ1の形状によってロングエルボ(曲げ半径が1.5×外径)、またはショートエルボ(曲げ半径が外径)に相当する短尺寸法に切断される。本発明に適用できる素管材質として、炭素鋼、合金鋼(Mn鋼、Cr−Mo鋼等)の他に、ステンレス鋼(JIS SUS304、316L鋼)が例示される。
【0022】
得られた素管2は、マンドレル3および芯金竿4に連続して環装される。その後、プッシャー6により素管2に押し抜き力を加えることにより、冷間状態の素管2がマンドレル3によって拡管されながら、エルボ1毎に押し抜かれて成形が行われる。本発明の冷間曲げ加工方法では、順次、エルボ1が連続して成形加工されることから、成形能率の向上を図ることができる。
【0023】
その後、成形加工されたエルボは、金型を用いてエルボ断面の真円が保たれるように整形を行った後、所定の製品熱処理によって機械的性質を整えるとともに、ベベル加工によって端面形状が仕上げられる。
【0024】
図2は、本発明の鋼管の冷間曲げ加工方法で採用するマンドレルの形状を示す図である。マンドレル3は、素管の押し抜き側から素管案内部、拡管部および製品案内部に区分されており、素管案内部(A位置)での押し抜き方向に垂直な断面形状は円形状であるが、拡管部(B〜D位置)では楕円形状となり、製品案内部になると楕円形状から出側端部(E位置)で円形状となる。
【0025】
このとき、本発明の冷間曲げ加工方法では、拡管部での周長が製品案内部での周長より長くなるように構成する必要がある。このように構成することにより、被加工材である素管はマンドレルにより拡管され、それと同時に素管の押し抜き方向の歪みを素管の円周方向に傾斜分布させることによって、偏肉が少なく寸法精度に優れるエルボを成形することができる。
【0026】
図3は、マンドレルの各部における押し抜き方向に垂直な断面形状を例示した図である。同(a)は素管案内部のA位置における円形状を示し、同(b)は拡管部のB〜D位置における楕円形状を示し、同(c)は製品案内部のE位置の円形状を示している。本発明では、拡管部での周長を長くするため、種々の形状を採用することができることから、図3(b)に示すように、マンドレルの曲げ半径方向を短径とし、その直角方向を長径とする楕円形状とし、製品案内部の出側端部において、再び円形状としている。
【0027】
図4は、マンドレルの拡管部におけるその他の断面形状を例示した図である。本発明では、拡管部のB〜D位置における楕円形状を図3(b)に示す形状に限定する必要はなく、例えば、図4に示すように、曲げ半径方向の短径の内側に頂点を設けた略三角形の楕円形状、すなわちおむすび形状としてもよい。拡管部での周長が製品案内部での周長より長くなるように構成する限りにおいては、本発明の所期の効果が達成できることによる。
【0028】
本発明で採用するマンドレルは、その表面処理として、窒化処理、CVDコーティングまたはPVDコーティングのいずれかを施すのが望ましい。例えば、TiC、TiCN、TiN等の皮膜を形成することによって、マンドレルの耐摩耗性および耐焼き付き性を改善し、疲れ強さと潤滑性を向上させることができるので、エルボの内面疵の発生を防止し、マンドレル寿命の延長を図ることができる。
【0029】
表面処理として行われる窒化処理、CVDコーティングまたはPVDコーティングは、特に限定した条件で行う必要がなく、慣用される処理方法であればよい。例えば、窒化処理はNH3ガスを用いる方法であり、CVDコーティングは低圧CVD、プラズマCVDを採用すればよく、またPVDコーティングは真空蒸着、スパッタリングまたはイオンプレーティングを適用することができる。
【0030】
図5は、本発明の鋼管の冷間曲げ加工方法に適用できる潤滑剤の全体構成を示す図である。本発明で素管2内面に施される潤滑剤7は、下地鋼側から下地皮膜7a、金属石鹸7bおよび湯溶石鹸7cからなる化成処理された潤滑皮膜と、この潤滑皮膜に塗布されるステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸粉末、黒鉛粉末または二硫化モリブデン粉末のいずれかの潤滑粉末7dとから構成される。
【0031】
下地皮膜7aは下地鋼との密着性が要求されることから、化学反応により下地鋼に強固に結合し、潤滑剤7を保持し加工時に潤滑皮膜を追随させることが必要になる。通常、下地皮膜7aは下地鋼の鋼種によって使い分けられ、炭素鋼、低合金鋼の場合にはリン酸第一鉄(FePO4)、ステンレス鋼の場合にはシュウ酸第一鉄(FeC24)が用いられる。
【0032】
金属石鹸7bは耐焼き付き性に作用するものであり、下地皮膜7aと化学反応により強く結合することにより、優れた潤滑性を発揮する。このため、具体的な金属石鹸7bとしては、ステアリン酸鉄(Fe(C1735COO)2)を用いることができる。
【0033】
次に、湯溶石鹸7cは潤滑剤7に低摩擦性を付与するものであり、付属的に金属石鹸7b上に堆積させ潤滑性を発揮させるようにする。このため、具体的な湯溶石鹸7cとしては、ステアリン酸ナトリウム(2C1735COONa)を用いることができる。
【0034】
さらに、潤滑粉末7dも潤滑剤に低摩擦性を付与するものであり、水に不溶で加工熱により溶融し潤滑膜を形成することができる。特に、ステアリン酸カルシウムは軟化点が約150℃と低く、展着性に優れている。潤滑粉末7dとしては、上記ステアリン酸カルシウムと同様の作用を発揮するものとして、固体潤滑剤である黒鉛粉末または二硫化モリブデン粉末を使用することができる。
【0035】
通常、素管の冷間曲げ加工前に処理された潤滑剤7は、曲げ加工後の製品熱処理前に脱脂処理を行い、素管2内面より除去される。潤滑剤によるエルボ内面の熱処理による浸炭を回避するためである。
【0036】
本発明の冷間曲げ加工方法では、前記(1)式で示される内径拡管率DIを5〜20%とするのが望ましい。内径拡管率DIが5%未満であると、素管の押し抜き方向の歪みを円周方向に充分に傾斜分布させることができず、偏肉の改善が図れないのに対し、内径拡管率DIが20%を超えると、著しく成形抵抗が増大し、押し抜きが困難になる。
【実施例】
【0037】
本発明の冷間曲げ加工方法で採用するマンドレル形状および潤滑剤による効果を、実施例1、2に基づいて説明する。
(実施例1)
本発明の冷間曲げ加工に最適なマンドレル形状を確認するために、供試用の素管として寸法が外径157mm×内径141.6mm×厚さ7.7mmであるステンレス鋼(SUS304)を準備し、120トンプレスを用いて、呼称寸法が外径168.3mm×内径 154.1mm×厚さ7.1mmで、曲げ半径が1.5DRのエルボを加工した。
【0038】
供試材の潤滑剤は、いずれの場合も下地皮膜はシュウ酸第一鉄(FeC24)、金属石鹸はステアリン酸鉄(Fe(C1735COO)2)、湯溶石鹸はステアリン酸ナトリウム(2C1735COONa)とし、金属石鹸粉末はステアリン酸カルシウムとして化成処理皮膜の表面に塗布した。
【0039】
使用したマンドレルは前記図2に示す形状とし、素管案内部、拡管部および製品案内部から構成されており、各部でのA〜E位置での断面形状を測定し、その結果を表1に示した。すなわち、素管案内部のA位置では円形状であり、拡管部のB位置、C位置およびD位置では楕円形状であり、さらに製品案内部は楕円形状から出側端部のE位置では円形状であった。断面形状が楕円である場合の測定結果は、表中の上段では短径、長径寸法を示し、その下段では楕円形状の平均外径を示した。
【0040】
加工時の条件としては、前記(1)式により算出される内径拡管率を求めた。このときの成形状況を○(成形良好)、△(成形可)および×(成形不可)で評価し、その結果を表1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果に示すように、比較例である形状1では、マンドレルの周長が素管案内部、拡管部および製品案内部にわたって順次長くなる形状であることから、押し抜き時に座屈を発生して成形加工ができなかった。
【0043】
本発明例である形状2、3では、拡管部での周長が製品案内部での周長より長く構成されていることから、押し抜きによる成形加工はいずれも可能であった。特に、形状3では、拡管部における押し抜き方向に垂直な断面形状を横楕円とし、次の製品案内部の出側端部において円形状としていることから、良好な成形状況であった。
(実施例2)
本発明の冷間曲げ加工に適用する潤滑剤の性能を確認するため、本発明の冷間曲げ加工に最適なマンドレル形状を確認するために、供試用の素管として寸法が外径157mm×内径141.6mm×厚さ7.7mmであるステンレス鋼(SUS304、SUS316L)を準備し、120トンプレスを用いて、呼称寸法が外径168.3mm×内径154.1mm×厚さ7.1mmで、曲げ半径が1.5DRのエルボを加工した。
【0044】
供試した潤滑剤は6種類(試験No.1〜No.6)とし、潤滑処理後に温風乾燥炉による乾燥の有無で区分した。その後の成形時の加工条件として成形速度および押抜圧(プッシャーゲージ圧)を測定するとともに、このときの成形加工の結果を○(成形良好)、△(成形不調)および×(成形不可)で評価した。潤滑条件、加工条件および成形結果を表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
試験No.1の潤滑剤では、供試素管に化成潤滑処理を施すことなく、ステアリン酸カルシウムによる浸漬皮膜を形成したが、成形速度は16mm/分と低速に留まり、成形加工は不調であった。
【0047】
試験No.2の潤滑剤では、化成潤滑処理としてシュウ酸塩被膜(シュウ酸第一鉄)による下地皮膜の形成のみとし、その表面に金属石鹸粉末としてステアリン酸カルシウムを塗布したが、潤滑性能は不十分であり、成形速度は22mm/分と低速に留まり、成形加工は不調と判断した。
【0048】
試験No.3、4の潤滑剤では、化成潤滑処理をシュウ酸塩被膜による下地皮膜、ステアリン酸鉄による金属石鹸、およびステアリン酸ナトリウムによる湯溶石鹸で構成したが、金属石鹸粉末を使用しなかった。このため、潤滑処理後に乾燥を行わなかった試験No.3の潤滑剤では、全く潤滑性能が発揮されず成形加工ができなかった。また、乾燥を行った試験No.4の潤滑剤でも、成形速度は13mm/分と低速に留まり、成形加工は不調であった。
【0049】
試験No.5、6の潤滑剤は、化成潤滑処理をシュウ酸塩被膜による下地皮膜、ステアリン酸鉄による金属石鹸、およびステアリン酸ナトリウムによる湯溶石鹸で構成した後、その表面に金属石鹸粉末としてステアリン酸カルシウムを塗布することにより、いずれも充分な潤滑性能が発揮され、成形速度が220mm/分を超える安定した加工状態であり、良好な成形結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の鋼管の冷間曲げ加工方法によれば、エルボの冷間成形に最適なマンドレル形状と、冷間加工での潤滑性能に優れた潤滑剤を開発することにより、短尺に切断された冷間状態の素管を連続して内面疵を発生することなく成形することができるので、成形能率および加工歩留まりを大幅に向上させることができる。これによりエルボ配管に用いられるエルボの成形方法として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の鋼管の冷間曲げ加工方法の構成を模式的に説明する図である。
【図2】本発明の鋼管の冷間曲げ加工方法で採用するマンドレルの形状を示す図である。
【図3】マンドレルの各部における押し抜き方向に垂直な断面形状を例示した図であり、同(a)は素管案内部のA位置における円形状を示し、同(b)は拡管部のB〜D位置における楕円形状を示し、同(c)は製品案内部のE位置の円形状を示している。
【図4】マンドレルの拡管部におけるその他の断面形状を例示した図である。
【図5】本発明の鋼管の冷間曲げ加工方法に適用できる潤滑剤の全体構成を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1:エルボ、 2:素管
3:マンドレル、 4:芯金竿
5サポート、 6:プッシャー
7:潤滑剤、 7a:下地皮膜
7b:金属石鹸、 7c:湯溶石鹸
7d:潤滑粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材である短尺素管を加工用のマンドレルに連続して環装したのち、プッシャーにより常温の前記素管を前記マンドレルで拡管しつつ押し抜くことによってエルボを成形する鋼管の冷間加工方法であって、
前記マンドレルは素管案内部、拡管部および製品案内部に区分され、拡管部での周長が製品案内部での周長より長いことを特徴とする鋼管の冷間曲げ加工方法。
【請求項2】
前記マンドレルの拡管部における押し抜き方向に垂直な断面形状が、曲げ半径方向を短径としその直角方向を長径とする楕円形状であり、または曲げ半径方向の短径の内側に頂点を設けた略三角形の楕円形状であり、引き続く製品案内部の出側端部における同断面形状が円形状であることを特徴とする請求項1に記載の鋼管の冷間曲げ加工方法。
【請求項3】
前記素管内面に施される潤滑剤が、下地鋼側から下地皮膜、金属石鹸および湯溶石鹸からなる化成処理された潤滑皮膜と、前記潤滑皮膜に塗布される金属石鹸粉末、黒鉛粉末または二硫化モリブデン粉末のいずれかの潤滑粉末とからなることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼管の冷間曲げ加工方法。
【請求項4】
前記マンドレルの表面処理として、窒化処理、CVDコーティングまたはPVDコーティングのいずれかが施されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼管の冷間曲げ加工方法。
【請求項5】
前記素管の平均内径をdiとし、前記マンドレルの拡管部での最大周長部における平均外径をDoとした場合に、下記(1)式で示される内径拡管率DIが5〜20%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼管の冷間曲げ加工方法。
内径拡管率DI={(Do−di)/di}×100(%) ・・・ (1)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate