説明

鋼管の継手部材

【課題】溶接を行わず、経済的で迅速な鋼管の接続ができる継手部材を提供する。
【解決手段】上段鋼管の内部に挿入する第一挿入筒と、既圧入鋼管の内部に挿入する第二挿入筒とより構成する。第一と第二の挿入筒の間に鍔板が位置している。各挿入筒の一部を外向きに切り起こして弾性板を形成する。この弾性板の先端部は鍔板側に向けて形成し、かつその端部を各挿入筒の外径よりも外側に突設して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の継手部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
比較的短い鋼管を次々に同一軸線上に接続して地中に圧入したり打設する工法が知られている。
一般には長い鋼管を扱う方が接続の手間がなく経済的である。
したがって短い鋼管を接続する場合とは、上部の空間に制約があって長い鋼管を圧入することができない場合に要求されることが多い。
例えば沈下して傾斜した家屋を地下からジャッキで持ち上げる場合のジャッキの反力をとるための鋼管群などがその典型である。
そのような沈下家屋のジャッキ作業の実際を説明する。
まず、図3に示すように、沈下部分の地盤を掘削して作業ピットKを形成する。
この作業ピットKから反力杭を形成するために、地中に短い鋼管、すなわち既圧入鋼管p1圧入する。
圧入の終わった既圧入鋼管p1の上に、新たな鋼管、すなわち上段鋼管p2を接続して再度圧入する。
一定の深さまで鋼管群を圧入したら、鋼管群の上端と不等沈下した家屋Hの地中梁などの間にジャッキJを介在させる。
そしてこのジャッキJの反力を鋼管群に取って伸張し、不等沈下していた家屋Hを押し上げる。

【特許文献1】特開平8−27829号公報。
【特許文献2】特開2005−133417号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記した従来の鋼管の継手部材にあっては、次のような問題点がある。
<1> 家屋の下を掘削して形成するピットのサイズは、一般には隣家との境界ギリギリに形成するから大きな容積のものは形成できない。
<2> そのために短い鋼管を繰り返し接続する作業が必要になる。
<3> 一般に鋼管と鋼管の接続は溶接によって行っているが、狭い空間において鋼管の全周囲を確実に溶接する作業は容易ではない。
<4> 狭いピットの中で行う溶接は、暑さとガスが停滞しやすい、劣悪な条件の下での作業となる。
<5> 溶接ではなく継手用の短い鋼管を使用する場合もある。その際に継手の外径が鋼管の外径より大きいので、継手部だけが外周に飛び出して、圧入の抵抗となりやすい。
<6> 鋼管の内径の精度はそれほど高くないから、精密な形状の継手ではかえって作業が困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記のような課題を解決するために、本発明の鋼管の継手部材は、同一軸線上に2本の鋼管を接続する継手部材であって、接続時に一方の鋼管の中心軸と同一軸線上にあり、その鋼管の内部に挿入する第一挿入筒と、接続時に他方の鋼管の中心軸と同一軸線上にあり、その鋼管の内部に挿入する第二挿入筒と、第一と第二の挿入筒の間に位置しており、各挿入筒の中心軸を横断する方向に鍔状に突出した鍔板と、各挿入筒の一部を外向きに切り起こして弾性板を形成し、弾性板の先端部は鍔板側に向けて形成し、かつその端部を各挿入筒の外径よりも外側に突設して形成した鋼管の継手部材を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の鋼管の継手部材は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 現場での溶接作業が不要であるから、狭いピット内の作業であっても能率的で迅速な継手作業を達成できる。
<2> 各挿入筒の外径と鋼管の内径の寸法精度が高くなくとも、迅速で確実な接続が可能である。それは弾性板の長さ次第で、各挿入筒の外側への突出幅を調整できるからである。
<3> 鋼管と鋼管の接続作業は単に上から新たな鋼管を圧入するだけであるが、弾性板の弾性で鋼管を内側から支持するから、何らかの状況の下に鋼管群を吊り上げる場合でも、全体が一体化した状態で扱うことができる。
<4> 鋼管には内径、外径ともに許容誤差があり、必ずしも真円を形成してはいない。その上に貯蔵時に偏った荷重が加わって変形している場合も多い。しかし鋼管と次の鋼管との間に介在させる本発明の継手は、外向きに弾性板が突出しているから、鋼管を内側から強固に保持することができ、ガタつきの発生を阻止することができる。
<5> 鋼管と鋼管との継手機能が確実に達成できるから、上下方向の力の伝達が確実であるだけでなく、なんらかの理由で鋼管群を引き上げる場合にも十分に引張力を伝達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0007】
<1>用途の例。
本発明の継手部材を使用する一例として、図3に示すように、不等沈下した家屋HをジャッキJで持ち上げる場合を取り上げて説明する。
前記したように、一般には家屋Hの下には大きなピットKを掘削することが困難である。
そこで小さい容積のピットK内で、長さの短い鋼管を扱い、圧入した既圧入鋼管p1の上端に本発明の継手部材Aを圧入し、その継手部材Aの上に、同一軸線上に上段鋼管p2を、順次鋼管を接続してゆく。
この場合に上下の鋼管を接続するために使用するのが本発明の継手部材Aであり、その詳細について説明する。
【0008】
<2>全体の構成。
本発明の継手部材Aは、第一挿入筒1と、第一挿入筒1と同軸上に位置する第二挿入筒2と、中心軸を横断する方向に位置する鍔板3と、各挿入筒から外側へ向けて弾性的に突出した弾性板4とによって構成する。
【0009】
<3>第一挿入筒1。
第一挿入筒1は中空の筒体である。
そして、第一挿入筒1は、本発明の継手部材Aを使用して鋼管を上下方向に接続する際に上段鋼管p2の中心軸と同一軸線上に位置しており、その鋼管p2の内部に挿入するための筒体である。
そのために第一挿入筒1の外径は、接続対象の上段鋼管p2の内径よりも小さい外径を備えているように形成する。
ただし、一般に接続対象の鋼管の内径の精度はそれほど高くない。
その上に、鋼管は運搬中や積み上げてストックしておく段階で多少変形して真円を形成していない場合が少なくない。
そこで第一挿入筒1の外径は、対象とする上段鋼管p2の内径に対して余裕をもって十分に小さい寸法に形成する。
したがって第一挿入筒1の上から上段鋼管p2を挿入すると、両者の間には広い隙間が生じてガタつきが発生することになるが、その点は後述する弾性板4によって確実な係合を期待することができる。
なお、各挿入筒は単純な円筒でもよいが、重量や材料費を軽減するために図1の右側の例のように、多数の窓5を開口しておく場合もある。
【0010】
<4>第二挿入筒2。
第二挿入筒2も鋼製の筒体である。
そして第二挿入筒2は、接続時に既圧入鋼管p1の中心軸と同一軸線上にあって、その鋼管p1の内部に挿入する筒体である。
この第二挿入筒2の外径と、既圧入鋼管p1の内径との関係も、上記した第一挿入筒1の外径と上段鋼管の内径との関係と同様である。
したがって第二挿入筒2を既圧入鋼管p1の内部に嵌合した場合に、両者の間でガタつきが生じるが、やはり弾性板4の弾性によって確実な嵌合が可能となる。
【0011】
<5>鍔板3。
鍔板3は、ドーナツ状の鋼製の板体である。
そしてこの鍔板3は、第一と第二の挿入筒1、2の間に位置している。
そしてこの鍔板3は、各挿入筒の中心軸を横断する方向に鍔状に突出する。
すなわち両挿入筒は、鍔板3を介して一体の筒状体を構成することになる。
鍔板3の外径は、挿入する鋼管の外径とほぼ等しく、その結果、本発明の継手部材Aを介して2本の鋼管を接続した場合に、鋼管の外部に鍔板3が突出することがなく、接続後の外周表面は円滑に形成される。
【0012】
<6>弾性板4。
各挿入筒の一部を外向きに切り起こして、外向きの羽板状に弾性板4を形成する。
この弾性板4は、基端は切り離すことなく、先端は挿入筒の表面から離れるように切り起こすものであり、その先端が鍔板3方向に向くように形成する。
したがって各挿入筒からは、弾性板4が先端を鍔板3に向けて外向きに斜めに突設した状態を呈することになる。
弾性板4の先端は、挿入筒の表面よりも外部へ拡大しているので、本発明の継手部材Aを平面的に見た場合に、挿入筒1、2の外径よりも弾性板4の先端が外部に突出しているものである。
【0013】
<7>弾性板4の弾性。
各挿入筒の外径より突出させた各弾性板4は、挿入筒の厚さや長さによって異なるが、適度な弾性を備えていることが必要である。
その場合の適度な弾性とは、後述するように各挿入筒へ接続対象の鋼管を加圧して挿入した場合に、内側へ変形するが弾性は維持しており、塑性変形しない程度の弾性を意味する。
【0014】
<8>接続工程。
次に本発明の継手部材Aを使用して2本の鋼管p1、p2を同一軸上に接続する場合を説明する。
【0015】
<9>第二挿入筒2の挿入。
まず先行した1本の鋼管を地中に圧入し、これを既圧入鋼管p1とする。
その既圧入鋼管p1の上端に、本発明の継手部材Aの第二挿入筒2を同一軸線上に設置して挿入する。
第二挿入筒2には、鍔板3向きに切り起こした、すなわち上向きの弾性板4が突出している。
そのために既圧入鋼管p1の内面には弾性板4が加圧状態で接触しつつ挿入されることになる。
したがって既圧入鋼管p1の内径と、第二挿入筒2の外径に多少の相違があっても、弾性板4の加圧力によって第二挿入筒2は強固に既圧入鋼管p1の内面に固定される。
第二挿入筒2の挿入量は、鍔板3の位置によって決まり、鍔板3がストッパとなってそれ以上の挿入はできない。
鍔板3の外周は、鋼管の外周とほぼ等しく形成してあるので、鍔板3の外周片が、鋼管の外部に突出することはない。
継手部材Aの第二挿入筒2の圧入は、家屋の基礎の下面と、継手部材Aの上端との間に介在させたジャッキの伸張によって行う。
こうして既圧入鋼管p1の上端に本発明の継手部材Aが強固に取り付けられる。
【0016】
<10>第一挿入筒1の挿入。
次に、既圧入鋼管p1に上部に接続する上段の鋼管p2を吊り上げて設置する。
すなわち、上段鋼管p2の下端を、本発明の継手部材Aの第一挿入筒1の上から加圧状態で嵌合する。
第一挿入筒1には、下向きに突設した弾性板4が、第一挿入筒1の外周より突出した状態で張り出しているから、その弾性板4を押し下げる状態で上段鋼管p2を圧入する。
そのために上段鋼管p2の内面には弾性板4が加圧状態で接触しつつ挿入されることになる。
したがって上段鋼管p2の内径と、第一挿入筒1の外径に多少の相違があっても、弾性板4の加圧力によって第一挿入筒1は強固に上段鋼管p2の内面に固定される。
第一挿入筒1の挿入量もまた鍔板3の位置によって決まり、鍔板3がストッパとなってそれ以上の挿入はできない。
鍔板3の外周は、鋼管の外周とほぼ等しく形成してあるので、鍔板3の外周片が、鋼管の外部に突出することはない。
上段鋼管p2の圧入は、家屋の基礎の下面と、上段鋼管p2の上端との間に介在させたジャッキの伸張によって行う。
こうして既圧入鋼管p1の上端に、鋼管の中心軸と同一軸線上に、本発明の継手部材Aを介在して上段鋼管p2が強固に取り付けられる。
以上の工程を繰り返して、短い鋼管を溶接作業を行わずに順次継続してゆき、長い基礎杭を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の鋼管の継手部材の実施例の説明図。
【図2】鋼管の接続状態の説明図。
【図3】使用例の説明図。
【符号の説明】
【0018】
1:第一挿入筒
2:第二挿入筒
3:鍔板
4:弾性板
5:窓
p1:既圧入鋼管
p2:上段鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一軸線上に2本の鋼管を接続する継手部材であって、
接続時に一方の鋼管の中心軸と同一軸線上にあり、その鋼管の内部に挿入する第一挿入筒と、
接続時に他方の鋼管の中心軸と同一軸線上にあり、その鋼管の内部に挿入する第二挿入筒と、
第一と第二の挿入筒の間に位置しており、
各挿入筒の中心軸を横断する方向に鍔状に突出した鍔板と、
各挿入筒の一部を外向きに切り起こして弾性板を形成し、
弾性板の先端部は鍔板側に向けて形成し、
かつその端部を各挿入筒の外径よりも外側に突設して形成した、
鋼管の継手部材。
【請求項2】
各挿入筒の外径より突出させた各弾性板は、
接続対象の鋼管への各挿入筒への加圧挿入によって、内側へ変形するが塑性変形しない程度の弾性を維持するように構成した、
請求項1記載の鋼管の継手部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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