説明

鋼管杭の接続構造

【課題】溶接作業を要することなく鋼管杭を迅速且つ確実に接続することができ、基礎工事の工期の短縮及びコストの低減が図れる鋼管杭の接続構造を提供する。
【解決手段】軸方向に接続される鋼管杭1a,1bの対向する端部に溶接された端板5,6と、その一方の端板5上に周方向に所定の間隔で突設された複数のボルト10と、もう一方の端板6に設けられ、上記ボルト10の頭部11を挿入する挿入穴12と、鋼管杭1,1b同士を相対的に回動させることにより周方向へのボルト10の移動を許容しつつボルト10の頭部11を端板6の裏面に係合させて端板5,6同士を接続状態とする長穴13と、上記両端板5,6の対向部に形成されたキー溝17a,17bに挿入されることにより端板5,6同士の相対的回動を阻止するキー部材18とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭の接続構造に係り、特に接続を迅速且つ確実に行えるようにした鋼管杭に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は鋼管杭の使用状態の一例を説明する説明図、図7は従来の鋼管杭の接続構造の一例を示す縦断面図である。図6に示すように、ビル、建物等の構造物20を建設する場合、地表の表層部21では十分な支持力を得ることが難しい地盤(軟弱地盤等)の場合、基礎工事として地中深くの岩盤(支持層)22まで鋼管杭1を圧入して支持力を得る基礎工法が採用されている。鋼管杭1は、例えば1本あたり6m程度の長さであり、岩盤22までの深さに応じて複数本の鋼管杭1を順に軸方向に直列に接続しながら例えば回転圧入装置によって地盤に圧入される。最先端の鋼管杭1の先端部には地盤を掘削するための螺旋翼23が設けられている。
【0003】
特に、上記地盤の場合、鋼管杭1には岩盤22から上方に行くほど横揺れ時に水平方向の大きな曲げモーメントMが作用するため、これに耐え得るよう、設計上、下部の鋼管杭1aよりも上部の鋼管杭1bの肉厚が厚く形成されている場合がある。
【0004】
ところで、従来の鋼管杭においては、図7に示すように下部の鋼管杭1aと上部の鋼管杭1bの端部同士を溶接25により接続する接続構造が採用されている。この場合、下部の鋼管杭1aと上部の鋼管杭1bの軸心を合わせるために、裏当用の継手管26が用いられている。この継手管26は、肉厚の異なる上下の鋼管杭1a,1bを嵌合接続するために、大径部26aと小径部26bとを有するように削り出しにより形成されている。なお、上下の鋼管杭1a,1bを溶接25により接続する技術としては、例えば特許文献1に記載されているものもある。
【0005】
【特許文献1】特開2005−171532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記鋼管杭の接続構造においては、いずれも鋼管杭の接続の度に鋼管杭の圧入作業を中断して現場で1本当たり少なくとも30分程度かかる鋼管杭の溶接作業を行わなければならず、このため、鋼管杭の接続に多くの時間と労力を要し、基礎工事の工期の延長及びコストの上昇を招いていた。
【0007】
そこで、本発明は、前記事情を考慮してなされたもので、溶接作業を要することなく鋼管杭を迅速且つ確実に接続することができ、基礎工事の工期の短縮及びコストの低減が図れる鋼管杭の接続構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、軸方向に接続される鋼管杭の対向する端部に溶接された端板と、その一方の端板上に周方向に所定の間隔で突設された複数のボルトと、もう一方の端板に設けられ、上記ボルトの頭部を挿入する挿入穴と、鋼管杭同士を相対的に回動させることにより周方向へのボルトの移動を許容しつつボルトの頭部を端板の裏面に係合させて端板同士を接続状態とする長穴と、上記両端板の対向部に形成されたキー溝に挿入されることにより端板同士の相対的回動を阻止するキー部材とを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記ボルトはハイテンションボルトであることが好ましい。上記一方の端板には上記ボルトを螺着するネジ孔が設けられ、該ネジ孔に螺着されたボルトには上記端板の裏側でナットが締付けられていることが好ましい。上記キー部材が角ピンからなることが好ましい。上下に接続される鋼管杭の肉厚は、同じ場合と異なる場合とがあり、地盤の状態により適宜設計される。例えば岩盤から上方に行くほど水平方向の大きな曲げモーメントが作用する場合、上部の鋼管杭の肉厚が下部の鋼管杭の肉厚よりも厚く形成されていることが好ましい。上下の鋼管杭の肉厚が同じ場合と異なる場合の双方において、全く同じ方法・材料で上下の鋼管杭同士を接続することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一方の端板に突設されたボルトの頭部を他方の端板の挿入穴に挿入して鋼管杭同士を相対的に回動し、キー溝にキー部材を挿入するだけで、溶接作業を要することなく鋼管杭を迅速且つ確実に接続することができ、基礎工事の工期の短縮及びコストの低減が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を基に詳述する。図1は本発明の実施形態に係る鋼管杭の接続構造を示す概略的縦断面図、図2は鋼管杭の一方の接続部の分解断面図、図3は鋼管杭の他方の接続部の分解断面図、図4は鋼管杭の一方の接続部の平面図、図5は鋼管杭の他方の接続部の平面図である。
【0012】
図1において、1は地中に回転圧入される鋼管杭で、この鋼管杭1は下部の鋼管杭1aの上端部に上部の鋼管杭1bの下端部を接合するために次のような接合構造が採用されている。軸方向に接続される鋼管杭1a,1bの対向する端部すなわち下の鋼管杭1aの上端部と上の鋼管杭1bの下端部とには端板5,6がそれぞれ溶接4a,4bで接合(固定)されている。端板5,6は、鋼管杭1a,1bの直径(外径)と同じ直径の円板状に形成されている。端板5,6を溶接するために、鋼管杭1a,1bの端部には開先7,8が設けられていることが好ましい(図2,図3参照)。また、岩盤から上方に行くほど水平方向の耐力を増強するために、上下に接続される上記鋼管杭1a,1bのうち、上部の鋼管杭1bの肉厚taが下部の鋼管杭1aの肉厚tbよりも厚く形成されていることが好ましい。鋼管杭1a,1bの材料としては、SKK400又は490、STK400又は490が好ましい。下の鋼管杭1aの肉厚tbは例えば6〜8mm程度であり、上の鋼管杭1bの肉厚taは例えば9〜12mm程度である。
【0013】
上下に相対向する端板5,6のうち、一方(例えば下側)の端板5上には図2,図4に示すように周方向に所定の間隔で複数例えば4本のボルト10が起立状態に突設されている。もう一方(例えば上側)の端板6には図3,図5に示すように上記ボルト10の頭部11を挿入する挿入穴12と、鋼管杭1a,1b同士を相対的に回動させることにより周方向へのボルト10の移動を許容しつつボルト10の頭部11を端板6の裏面(図1では上面)に係合(当接ないし係止ともいう)させて端板5,6同士を接続状態とする長穴(接続穴)13とが設けられている。なお、上記とは逆に、ボルト10が上の端板6に下向きに突設され、挿入穴12及び長穴13が下の端板5に設けられていてもよい。
【0014】
上記ボルト10は、ハイテンションボルト(高張力ボルト)であることが好ましい。上記一方の端板5には上記ボルト10を螺着するネジ孔15が設けられている。ボルト10の螺着後、振動等によるボルト10の緩みや離脱を防止するために、端板5に対してボルト10が溶接されていてもよい。ボルト10の引き抜け強度を向上させるために、上記ネジ孔15に螺着され、上記端板5の裏面から突出したボルト10の先端部にはナット16が端板5の裏側から螺着されて締付けられていることが好ましい。この場合にもボルト10やナット16の緩みを防止するべくこれらが端板5に溶接されていてもよい。なお、このようにナット17を採用する場合には、予め端板5にボルト10やナット17を組付けた後、その端板5を鋼管杭1aの上端部に溶接4aで取付ければよい。上記ボルト10の頭部11は、図示例のように平面円形であってもよく、あるいは六角形等であってもよい。
【0015】
上記挿入穴12は、上記ボルト10の頭部11を挿通(貫通)可能な穴径の円形穴に形成されている。上記長穴13は、ボルト10の頭部11の直径よりも小さく且つボルト10の直径よりも若干大きい幅とされ、長手方向の一端が挿入穴12と連通しており、他端が端板6の周方向に円弧状に延びて形成されている。この場合、上記長穴13は、鋼管杭1a,1bの回転圧入時にロックがかかる(ボルト10と長穴13が係合し、一方の端板5とボルト10の頭部11との間で他方の端板6を挟んで上下の鋼管杭1a,1b同士を接続する状態となる)方向、図示例では回転圧入時の回転方向とは反対の方向に形成されている。
【0016】
一方、上記鋼管杭1は回転圧入時に例えば障害物に当った場合などにこれを回避すべく逆回転される場合があり、この場合に上記ロック(ボルト10と長穴13の係合)が解除されてしまう恐れがあることから、これを防止するために、上記両端板5,6の対向部にはキー溝17a,17bが形成され、該キー溝17a,17bには端板5,6同士の相対的回動を阻止するキー部材18が挿入されている。この場合、キー部材18は、断面円形のピンであってもよいが、相対的回動阻止機能を高めるために、角ピン(角柱状のピン)であることが好ましい。上記キー溝17a,17bは、角ピンに対応する角溝とされている。キー溝17a,17bは上下に対向する端板5,6の対向面に直径方向にそれぞれ形成されており、上下の鋼管杭1a,1bを接続ロックさせた時に上下のキー溝17a,17b同士が一致し、キー部材18を挿入できるようになっている。キー部材18は、端板5,6の側方からキー溝17a,17b内に挿入される。この場合、キー溝17a,17bからキー部材18が引き抜ける(離脱する)のを防止するために、キー部材18の少なくとも一端が端板に溶接されることが好ましい。
【0017】
以上の構成からなる鋼管杭1a,1bの接続構造によれば、軸方向に接続される鋼管杭1a,1bの対向する端部に溶接された端板5,6と、その一方の端板5上に周方向に所定の間隔で突設された複数のボルト10と、もう一方の端板6に設けられ、上記ボルト10の頭部11を挿入する挿入穴12と、鋼管杭1a,1b同士を相対的に回動させることにより周方向へのボルト10の移動を許容しつつボルト10の頭部11を端板6の裏面に係合させて端板5,6同士を接続状態とする長穴13と、上記両端板5,6の対向部に形成されたキー溝17a,17bに挿入されることにより端板5,6同士の相対的回動を阻止するキー部材18とを備えているため、一方の端板5に突設されたボルト10の頭部11を他方の端板6の挿入穴12に挿入して鋼管杭1a,1b同士を相対的に回動することにより接続ロックさせることができ、且つキー溝17a,17bにキー部材18を挿入するだけで鋼管杭1a,1bの逆回転時にも上記接続ロック状態を維持することができる。従って、従来の鋼管杭のように鋼管杭の接続の度に必要であった労力と時間を要する溶接作業を必要とすることなく鋼管杭1a,1bを迅速且つ確実に接続することができ、基礎工事の工期の短縮及びコストの低減が図れる。
【0018】
この場合、上記ボルト10をハイテンションボルトとすることにより、鋼管杭1a,1bの接続強度を更に向上させることができる。また、上記一方の端板5には上記ボルト10を螺着するネジ孔15が設けられ、該ネジ孔15に螺着されたボルト10には上記端板5の裏側でナット16が締付けられていることにより、ボルト10の引き抜け強度を向上させることができる。更に、上記キー部材18が角ピンであることにより、鋼管杭1a,1b相互の逆回転阻止機能及び回転圧入時の回転力伝達機能の増大ないし向上が図れる。また、上下に接続される上記鋼管杭1a,1bのうち、上部の鋼管杭1bの肉厚taが下部の鋼管杭1aの肉厚taよりも厚く形成されていることにより、岩盤から上方に行くほど水平方向の耐力の増強が図れる。
【0019】
以上、本発明の実施の形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更等が可能である。例えば、上記実施の形態では上下の鋼管杭の肉厚が異なっているが、上下の鋼管杭の肉厚が同じであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る鋼管杭の接続構造を示す概略的縦断面図である。
【図2】鋼管杭の一方の接続部の分解断面図である。
【図3】鋼管杭の他方の接続部の分解断面図である。
【図4】鋼管杭の一方の接続部の平面図である。
【図5】鋼管杭の他方の接続部の平面図である。
【図6】鋼管杭の使用状態の一例を説明する説明図である。
【図7】従来の鋼管杭の接続構造の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 鋼管杭
1a 下部の鋼管杭
1b 上部の鋼管杭
5,6 端板
10 ボルト
11 ボルトの頭部
12 挿入穴
13 長穴
15 ネジ孔
16 ナット
17a,17b キー溝
18 キー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に接続される鋼管杭の対向する端部に溶接された端板と、その一方の端板上に周方向に所定の間隔で突設された複数のボルトと、もう一方の端板に設けられ、上記ボルトの頭部を挿入する挿入穴と、鋼管杭同士を相対的に回動させることにより周方向へのボルトの移動を許容しつつボルトの頭部を端板の裏面に係合させて端板同士を接続状態とする長穴と、上記両端板の対向部に形成されたキー溝に挿入されることにより端板同士の相対的回動を阻止するキー部材とを備えたことを特徴とする鋼管杭の接続構造。
【請求項2】
上記ボルトがハイテンションボルトであることを特徴とする請求項1記載の鋼管杭の接続構造。
【請求項3】
上記一方の端板には上記ボルトを螺着するネジ孔が設けられ、該ネジ孔に螺着されたボルトには上記端板の裏側でナットが締付けられていることを特徴とする請求項1記載の鋼管杭の接続構造。
【請求項4】
上記キー部材が角ピンからなることを特徴とする請求項1記載の鋼管杭の接続構造。
【請求項5】
上下に接続される上記鋼管杭のうち、上部の鋼管杭の肉厚が下部の鋼管杭の肉厚よりも厚く形成されていることを特徴とする請求項1記載の鋼管杭の接続構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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