説明

鋼管杭接続構造

【課題】継手部に曲げや引張りが作用しても雄雌円筒のキーが脱落するおそれのない鋼管杭接続構造を提供する。
【解決手段】雌円筒10は6個の雌円筒内外貫通孔13を備え、雄円筒20は雌円筒10に挿入したとき上記6個の雌円筒内外貫通孔13に対向する位置に雄円筒内外貫通孔23を有するとともに内周部24に雄円筒内外貫通孔23を塞ぐように配備された円周帯状部材40を備え、結合部材30は雌円筒内外貫通孔13および雄円筒内外貫通孔23に嵌合する形状を有する栓とし、円周帯状部材40は雌円筒内外貫通孔13および雄円筒内外貫通孔23に嵌合した結合部材30をそれぞれボルト70で固定するボルト孔41を有するとともに隣接するボルト孔41相互間の円周部の位置で雄円筒20の内周部24に溶接固定され、円周帯状部材40の雄円筒内外貫通孔23を塞ぐ部分の外周面を平面形状とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭どうしを接続する接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭は、通常、ねじ継手その他の機械的な継手、または現場溶接によって上下鋼管杭を接続し、長尺の基礎支持材等として供用されている。ねじ継手は、鋼管杭端部にテーパねじなどからなる雄ねじを形成し、雌ねじを有するソケットまたは拡径部等にねじ込んで接続する。そのため、ねじ継手は加工が面倒で高価である。また、現場溶接は天候に支配される影響が大きく溶接資格者の確保の点でも難点がある。
【0003】
また、土木用の基礎杭では、杭外径より突設する厚さは、杭径により、9mm以内又は12mm以内に制限されているので、ソケットやスリーブを用いる継手等は構造上不可となる場合もある。
【0004】
このような要求に合致する技術として、現場溶接を必要としない継手であって、外径が鋼管杭の外径と同等の寸法の鋼管杭の接続構造が開示されている。この接続構造は、高い加工精度を必要としない簡単な構造で、高い結合力を得られる接続構造である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
その技術手段は、連結する一方の筒体の端部にソケット部材を取付け、他方の筒体の端部にプラグ部材を取り付けて、他方の筒体のプラグ部材に一方の筒体のソケット部材を嵌め、プラグ部材とソケット部材のキー孔を合わせてキーを挿入することによって一方の筒体と他方の筒体とを連結する接続構造である。さらに、この接続構造は、上記キーが、軸方向にボルトあるいはピンを挿通する貫通孔を有し、一方、上記プラグ部材の接続部のキー孔を設けた内側に係止部材を溶接で止めて、その係止部材に、ソケット部材にプラグ部材を嵌入してキー孔を合わせて挿入したキーの上記貫通孔へ挿通したボルトあるいはピンを螺合させて係止する構成によって、キー孔に挿入したキーの抜け落ちを防止するようにしている。
【特許文献1】特開2006−37619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された接続構造によれば、ソケット部材とプラグ部材がキーによって連結しているので、筒体は回転力、引張力、圧縮力にも十分な抗力を有する。ところが、上記プラグ部材の接続部のキー孔を設けた内側に上記係止部材を溶接で止めることによってこの係止部材とプラグ部材とが一体化されるように接合されているため、継手部に曲げや引張りが作用するとその係止部材も曲げや引張りの作用を受け、この係止部材に設けられたねじ孔が変形するおそれがある。その結果、キー孔に挿入したキーを固定しているボルトが係止部材から抜け落ち、キーの脱落を招くおそれがある。
【0007】
また、上記特許文献1に開示された接続構造では、上記係止部材の外周面が円筒面であるため、キーと係止部材とは一点で接触し、その周囲は隙間を生ずる。従って、キーを係止部材に固定するボルトは、この接触部で集中応力を受け、折損等のおそれがある。これを避けるためにキーの端面を曲面加工することも考えられるが、その製作及び組立作業に大きな困難性を伴う。また、このような欠点を改善する技術として、係止部材を小片の平板状の部材とし、プラグ部材の内面に溶接取り付けする例も示されているが、この構造は、小片の係止部材を溶接取り付けするので、プラグ部材と係止部材との完全な一体化による欠点が顕著に生ずる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、継手部の圧縮、引張り、曲げ、ねじり強度が十分に確保されるとともに、継手部に曲げや引張りが作用しても雄雌円筒のキーが脱落するおそれのない鋼管杭接続構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の鋼管杭接続構造は、互いに挿脱自在な雄円筒と雌円筒とこれらの結合部材とからなり、上記雄円筒と上記雌円筒はそれぞれ鋼管杭の端部に取り付ける取付部を備え、上記雌円筒は複数の雌円筒内外貫通孔を備え、上記雄円筒は上記雌円筒に挿入したとき上記複数の雌円筒内外貫通孔に対向する位置に雄円筒内外貫通孔を有するとともに内周部にこの雄円筒内外貫通孔を塞ぐように配備された円周帯状部材を備え、上記結合部材は上記雌円筒内外貫通孔および上記雄円筒内外貫通孔に嵌合する形状を有する栓とし、上記円周帯状部材は上記雌円筒内外貫通孔および上記雄円筒内外貫通孔に嵌合した上記結合部材をそれぞれ固定する固定手段を有するとともにこの固定手段相互間の円周部の位置で上記雄円筒の内周部に溶接固定され、この円周帯状部材の上記雄円筒内外貫通孔を塞ぐ部分の外周面を平面形状としたことを特徴とする。
【0010】
本発明の鋼管杭接続構造は、上記雌円筒が複数の雌円筒内外貫通孔を備え、上記雄円筒が上記雌円筒に挿入したとき上記複数の雌円筒内外貫通孔に対向する位置に雄円筒内外貫通孔を有するものであるため、構造が簡易であり加工が容易である。また、本発明の鋼管杭接続構造は、上記結合部材が上記雌円筒内外貫通孔および上記雄円筒内外貫通孔に嵌合する形状を有する栓としたことから、継手部の圧縮、引張、曲げ、ねじり強度が十分に確保された構造である。
【0011】
また、本発明の鋼管杭接続構造は、上記雄円筒が内周部に上記雄円筒内外貫通孔を塞ぐように配備された円周帯状部材を備え、この円周帯状部材に上記結合部材をそれぞれ固定する固定手段を備えている。この固定手段は、ねじ孔等でもよい。本発明では、上記円周帯状部材を固定手段から離れた位置で雄円筒の内周部に溶接固定したことにより、この円周帯状部材の固定手段近傍の部分は雄円筒の内周部に溶接部以外では一体化されない構造となる。そのため、継手部に曲げや引張りが作用しても、円周帯状部材の固定手段位置と溶接位置が、杭軸方向に対して互いにずれているため、例えばねじ孔はその曲げや引張りの影響を直接受けない。従って、結合部材の固定部が損傷を受けることが防止され、雄雌円筒の結合部材(キー)が脱落するおそれがない。
【0012】
また、本発明の鋼管杭接続構造では、上記円周帯状部材の上記雄円筒内外貫通孔を塞ぐ部分の外周面を平面形状としたため、その外周面が結合部材の端面と密着する。従って、従来技術の問題点を生ずることなく、円周帯状部材と結合部材の対向する面同士を隙間なく接触させることができ、かつ、上記雄円筒および上記雌円筒の設計断面と結合部材の有効断面を同一にすることができる。
【0013】
ここで、上記本発明の鋼管杭接続構造は、上記円周帯状部材の溶接固定がこの円周帯状部材の杭軸方向上端部および/または杭軸方向下端部であってもよく、特に、円周帯状部材の杭軸方向上端部または杭軸方向下端部のみで溶接固定されていると、継手部に曲げや引張りが作用しても円周帯状部材の固定手段はその曲げや引張りの影響をより一層受けづらいため、好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鋼管杭接続構造によれば、継手部の圧縮、引張、曲げ、ねじり強度が十分に確保されるとともに、継手部に曲げや引張りが作用しても円周帯状部材の固定手段はその曲げや引張りの影響を直接受けないことから結合部材の固定部が損傷を受けることが防止されて雄雌円筒の結合部材(キー)が脱落するおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明の鋼管杭接続構造の実施例である鋼管杭接続構造における接続後の状態を斜め上から見た斜視図であり、図2は、図1に示す鋼管杭接続構造の縦断面図である。また、図3は、図2のA−A矢視断面図であり、図4は、図3のB部拡大図である。また、図5は、図1〜図3に示す雌円筒10の縦断面図であり、図6は、図1〜図3に示す雄円筒20の縦断面図であり、図7は、図1〜図4に示す結合部材30の斜視図である。
【0017】
図1〜図3に示す鋼管杭接続構造は、互いに挿脱自在な雄円筒20と雌円筒10とこれらの結合部材30とからなる接続構造である。この鋼管杭接続構造は、下側の鋼管杭50の頭部に取付られた雌円筒10内に、上側の鋼管杭60の底部に取付られた雄円筒20を挿入するように構成されている。
【0018】
雌円筒10は、図2,図5に示すように、下側の鋼管杭50内に裏当て板51を当てて基部11を円周溶接52によって取り付けられている。この基部11は、本発明にいう取付部の一例に相当する。また、この雌円筒10は、下側の鋼管杭50の外径と一致する外径を有する。また、この雌円筒10は、例えば図1,図2,図5に示すように、端面12から一定距離の位置に形成された6個の雌円筒内外貫通孔13を備えている。
【0019】
雄円筒20は、図2,図6に示すように、上側の鋼管杭60内に裏当て板61を当てて基部21を円周溶接62によって取り付けられている。この基部21は、本発明にいう取付部の一例に相当する。また、この雄円筒20は、上側の鋼管杭60の外径と一致する外径を有する。また、この雄円筒20は、例えば図2,図6に示すように、雌円筒10の端面12に当接する当接面22を備えるとともに、その雌円筒10に挿入したとき上記6個の雌円筒内外貫通孔13に対向する位置に雄円筒内外貫通孔23を有する。さらに、この雄円筒20は、図2,図3,図6に示すように、内周部24に雄円筒内外貫通孔23を塞ぐように配備された円周帯状部材40を備えている。
【0020】
このような雌円筒10や雄円筒20は、構造が簡易であるため、例えば旋削加工及びフライス加工やレーザ加工によって容易に加工することができ、コストアップを招来することがない。
【0021】
結合部材30は、例えば図1,図2,図7に示すように、雌円筒内外貫通孔13および雄円筒内外貫通孔23からなる空間に嵌合する円形状断面を有する栓である。また、結合部材30は、頭部31から底部32までを貫通し、ボルト70が挿入されるボルト貫通孔33を有する。尚、ボルト貫通孔33の頭部31側には拡径部34が形成されており、挿入したボルト70の頭部が拡径部34に収納されるようになっている。
【0022】
また、上記円周帯状部材40は、雌円筒内外貫通孔13および雄円筒内外貫通孔23からなる空間に結合部材30を嵌合したときに、結合部材30のボルト貫通孔33と対向する位置にボルト70と螺合するボルト孔41を有し、結合部材30のボルト貫通孔33に挿入したボルト70をボルト孔41に螺合することによって結合部材30が固定されている。このボルト孔41が、本発明にいう固定手段の一例に相当する。
【0023】
さらに、この円周帯状部材40は、隣接するボルト孔41相互間の円周部の位置で、雄円筒20の内周部24に、円周帯状部材の杭軸方向上端部および杭軸方向下端部が溶接80により固定されており、ボルト孔41近傍では溶接固定されていない。そのため、円周帯状部材40のボルト孔41近傍の部分は雄円筒20の内周部24に溶接部以外では一体化されないような形態で結合されることとなる。そのため、継手部に曲げや引張りが作用しても円周帯状部材40のボルト孔41はその曲げや引張りの影響を直接受けない。従って、結合部材30のボルト孔41が損傷を受けることが防止され、ボルト70が抜け落ちたり結合部材30が脱落するおそれがない。尚、溶接80による固定は、隣接するボルト孔41の間の円周部の位置で雄円筒20の内周部24に施せばよく、前記円周帯状部材の杭軸方向上端部または杭軸方向下端部のみで溶接されていてもよく、両方の位置で溶接されていてもよい。
【0024】
また、円周帯状部材40は、図4に示すように、円周帯状部材40の雄円筒内外貫通孔23を塞ぐ部分の外周面が平面形状とされている。そのため、その外周面が、結合部材30の対向する面(底部32)と密着する。従って、円周帯状部材40と結合部材30の対向する面同士を隙間なく接触させることができ、かつ、雄円筒20および雌円筒10の断面と結合部材30の有効断面を同一にすることができる。
【0025】
次に、雄円筒20と雌円筒10との接続について説明する。
【0026】
図3の実施例に示すように、下側の鋼管杭50に取り付けられた雌円筒10に6個の雌円筒内外貫通孔13が設けられている。これらの雌円筒内外貫通孔13の位置に、上側の鋼管杭60に取り付けられた雄円筒20に形成された雄円筒内外貫通孔23の位置を合わせて、雄円筒20を雌円筒10内に上方から杭軸に沿って挿入する。これにより、雌円筒10の端面12に雄円筒20の当接面22が当接する。
【0027】
次に、雌円筒内外貫通孔13および雄円筒内外貫通孔23からなる空間に結合部材30を嵌合する。
【0028】
次に、結合部材30のボルト貫通孔33にボルト70を挿入し、雄円筒20の内周部24に雄円筒内外貫通孔23を塞ぐように配備された円周帯状部材40のボルト孔41にそのボルト70を螺合し、結合部材30を固定する。
【0029】
これにより、鋼管杭50と60との接続部は強固な接続構造となり、圧縮、引張、曲げ、ねじりに対して強固な継手を形成する。
【0030】
尚、上述した実施形態では、下側の鋼管杭に雌円筒を取付け、上側の鋼管杭に雄円筒を取り付けた例を挙げて説明したが、これに限られるものではなく、下側の鋼管杭に雄円筒を取付け、上側の鋼管杭に雌円筒を取り付けた態様であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の鋼管杭接続構造の実施例である鋼管杭接続構造における接続後の状態を斜め上から見た斜視図である。
【図2】図1に示す鋼管杭接続構造の縦断面図である。
【図3】図2のA−A矢視断面図である。
【図4】図3のB部拡大図である。
【図5】図1〜図3に示す雌円筒の縦断面図である。
【図6】図1〜図3に示す雄円筒の縦断面図である。
【図7】図1〜図4に示す結合部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
10 雌円筒
11 基部
12 端面
13 雌円筒内外貫通孔
20 雄円筒
21 基部
22 当接面
23 雄円筒内外貫通孔
24 内周部
30 結合部材
31 頭部
32 底部
33 ボルト貫通孔
34 拡径部
40 円周帯状部材
41 ボルト孔
50 下側の鋼管杭
51 裏当て板
52 円周溶接
60 上側の鋼管杭
61 裏当て板
62 円周溶接
70 ボルト
80 溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに挿脱自在な雄円筒と雌円筒とこれらの結合部材とからなり、前記雄円筒と前記雌円筒はそれぞれ鋼管杭の端部に取り付ける取付部を備え、前記雌円筒は複数の雌円筒内外貫通孔を備え、前記雄円筒は前記雌円筒に挿入したとき前記複数の雌円筒内外貫通孔に対向する位置に雄円筒内外貫通孔を有するとともに内周部に該雄円筒内外貫通孔を塞ぐように配備された円周帯状部材を備え、前記結合部材は前記雌円筒内外貫通孔および前記雄円筒内外貫通孔に嵌合する形状を有する栓とし、前記円周帯状部材は前記雌円筒内外貫通孔および前記雄円筒内外貫通孔に嵌合した前記結合部材をそれぞれ固定する固定手段を有するとともに該固定手段相互間の円周部の位置で前記雄円筒の内周部に溶接固定され、該円周帯状部材の前記雄円筒内外貫通孔を塞ぐ部分の外周面を平面形状としたことを特徴とする鋼管杭接続構造。
【請求項2】
前記円周帯状部材の溶接固定は該円周帯状部材の杭軸方向上端部および/または杭軸方向下端部であることを特徴とする請求項1記載の鋼管杭接続構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−138382(P2009−138382A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314559(P2007−314559)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(394002981)株式会社岡本建設用品製作所 (10)
【出願人】(591082362)シントク工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】