説明

鋼管矢板の防食構造

【課題】 継手を覆う多数の補助カバーを簡単に固定できる鋼管矢板の防食構造を提供する。
【解決手段】 この防食構造は、隣接する各鋼管(1a)の継手(2)近傍にほぼ対向して固着されたブラケット(4)と、ブラケットに取り付けられて鋼管の海側を覆う耐食性のカバーパネル(5)と、鋼管に固着された底板(7a,7b)と、前記継手(2)を覆う耐食性の補助カバー(10)とからなり、さらに前記カバーパネル(5)の両端に爪(17)を設け、前記補助カバー(10)を可撓性材料を用いて断面略V字形とし、該補助カバー(10)の屈曲部分を内側にしてその両側を前記爪(17,17)に係止している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾、護岸工事に用いられる鋼管矢板の防食構造、特に鋼管の継手部分を覆う補助カバーの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管矢板の干満域及び飛沫域は、マクロ電池の作用によって集中的に腐食するため、その海側を耐食性のカバーパネルで個々に被覆し、カバーパネル内にモルタル等を充填する防食工事が行なわれている。また鋼管を連結している継手も金属製で同様に腐食するので、例えば実開昭60−45750号の防食構造では鋼管の外面にブラケットとアングルを固着し、鋼管の底部に底板を溶接して対向するアングル間に上方から耐食性の補助カバーを落とし込んでいる。
【0003】
しかしこの種の防食構造は新規の工事には有効であるが、補修工事のように鋼管上部に笠コンクリートが既に構築されている場合には、補助カバーを上から挿入できない難点がある。
【0004】
そこで実開昭63−156237号では、補助カバーの中央縦方向にヒンジを設け、カバーを折り曲げた状態で正面からアングル間に挿入して再び伸ばしており、また特開昭55−145210号では、カバー取り付け後に隙間をシールするため半円筒形の補助カバーを正面から固着している。
【0005】
しかし、実際の鋼管矢板は、正確な等間隔で打ち込まれているわけではなく、傾斜したりずれているのが普通であるから、実開昭63−156237号のように一定サイズで量産された補助カバーでは横寸法が足りなかったり、逆にアングル間に入らなかったりする場合が多い。また、補助カバーの内側には最終的にモルタルが充填されるのであるが、鋼管矢板の継手は数も多いのでモルタル量もばかにならない。
【0006】
そこで特開平9−111795号の防食構造では、継手を覆う補助カバーをFRP等の可撓性材料を用いて断面V字形とし、その両端をブラケットに固着している。これで各継手間隔にばらつきがあっても補助カバーの屈曲角度を調整するだけで対応でき、また補助カバーと継手の間に充填されるモルタルの量も節約できる。
【0007】
【特許文献1】実開昭63−156237号
【特許文献2】特開昭55−145210号
【特許文献3】特開平9−111795号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この防食構造では、多数の補助カバーをブラケットに現場でボルト止めするのでかなりの手間を必要としていた。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、多数の補助カバーを継手近傍に容易に取り付けられる鋼管矢板の防食構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明では、隣接する各鋼管の継手近傍にほぼ対向して固着されたブラケットと、ブラケットに取り付けられて鋼管の海側を覆う耐食性のカバーパネルと、鋼管に固着された底板と、前記継手(2)を覆う耐食性の補助カバー(10)とを有す0防食構造において、前記カバーパネルの両端に爪を設け、前記補助カバーを可撓性材料を用いて断面略V字形とし、該補助カバーの屈曲部分を内側にしてその両側を前記爪に係止している。
【発明の効果】
【0011】
カバーパネルの爪が継手付近に対向しているので、鋼管矢板の上方に笠コンクリートがない場合は補助カバーを爪の間に落とし込むことができ、また既設の鋼管矢板で上に笠コンクリートがある場合でも補助カバーは屈曲可能なため正面から両爪にはめ込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1及び図2には、各々本発明が適用された防食構造の平面図と継手付近の拡大平面図が示されている。
【0013】
鋼管矢板1は、海中に打ち込まれた複数の鋼管1aを継手2により連結して構築され、図4から分かるようにその上方に笠コンクリート3が形成されている。各鋼管1aの海側には2箇所ずつブラケット4が固着され、ブラケット4,4間に円弧状のカバーパネル5がボルト11によって取り付けられている。
【0014】
カバーパネル5は、FRP等の耐食性材料で作られ、鋼管2の干満域と飛沫域を被覆している。カバーパネル5の下端は、図示してないが内側に湾曲して先端のシールが鋼管1aに当接して中に海水が入り込まないようになっており、またパネル5の下方にはモルタル注入口と逆止弁が設けられている。カバーパネル5と鋼管1aとの間には、スペーサ6が介装されて両者を一定間隔に維持しており、各スペーサ6は工事しやすいように予めパネル5の内面に固着されている。
【0015】
継手2の下方には、図3に示すように底板7a,7bが溶接されてる。この底板7a,7bは、継手2及び鋼管1aの外面に適合した形状で、カバーの載置台と底部シールの役割を果たしている。また、底板7a,7bは2つに分割されて各鋼管1a,1a隙間形状にばらつきがあっても対応できるようになっており、中央の重ね合わせ部分は溶接またはボルト止めされる。さらに底板7bと継手2との間のシールが問題となる場合は、図1に示すようにこの部分に詰物8を充填する。底板7a,7bの取り付けに当たって前端が水平より下がるときは、図3のようにロッド9で仮に支持し、工事終了後にロッド9を除去する。
【0016】
カバーパネル5の端には、ボルト16により爪17が連結されている。 爪17はカバーと同じFRP製で屈曲しており、カバーの端とで二又形状となっている。この爪17は、現場作業を容易にするため予めカバーに連結された状態で搬送するのが望ましい。また、爪17をカバーと一体に形成しても良い。
【0017】
カバーパネル5及び補助カバー10と笠コンクリート3の間は、図4から分かるようにカバー取り付け作業のため一定の隙間があり、最終的にFRP製の上部カバー14で被覆される。上部カバー14には複数の長孔14aが形成され、一方パネル5には長孔14aと重なるように延長部5aが形成され、各延長部5aにボルト15の雌ねじが穿設されている。従って、上部カバー14は長孔14aの距離だけ上下に位置調節してから、隙間が生じないようにボルト止めすることができる。
【0018】
以上のように構成された防食工事の手順を説明すると、まず図3に示すように鋼管1aの下方にシール用底板7a,7bを溶接し、底板中央の重ね合わせ部分をしっかりと固着する。次に予めブラケット4、スペーサ6及び爪17が取り付けられたカバーパネル5を底板7a,7b上に載置し、ブラケット4の内側を鋼管1aの所定位置に溶接する。こうして各鋼管1aに順次カバーパネル5を取り付けていくと、継手2付近に一対の爪17,17が対向する。カバーパネル5が大きい場合は、適宜ブラケット4または金具の数を増加する。
【0019】
次に補助カバー10を爪17,17にはめ込むのであるが、鋼管上方に笠コンクリート3がある場合は、正面から補助カバー10の一端を一方の爪17に係止し、次いで補助カバーの中央を屈曲させて他端を対向する爪17にはめればよい。新設の鋼管矢板の場合は笠コンクリートがないので、補助カバー10を上から爪の間に落とし込むことができる。
【0020】
カバーパネル5及び補助カバー10が取り付けられたら、図4のように上部カバー14で笠コンクリート3とカバーパネル5の間を完全に被覆する。あとはカバーパネル5下方のモルタル注入口(図示せず)にホースを接続してモルタルを注入すると、モルタルはカバーパネル5内だけでなくブラケット4の隙間を通って補助カバー10の内側にも流入する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の防食構造を示す平面図である。
【図2】鋼管継手付近の拡大平面図である。
【図3】継手下方部分の斜視図である。
【図4】カバーパネル上方部分の正面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 鋼管矢板
1a鋼管
2 継手
4 ブラケット
5 カバーパネル
7a,7b シール用底板
10 V字形の補助カバー
17 爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する各鋼管(1a)の継手(2)近傍にほぼ対向して固着されたブラケット(4)と、ブラケットに取り付けられて鋼管の海側を覆う耐食性のカバーパネル(5)と、鋼管に固着された底板(7a,7b)と、前記継手(2)を覆う耐食性の補助カバー(10)とを有する防食構造において、前記カバーパネル(5)の両端に爪(17)を設け、前記補助カバー(10)を可撓性材料を用いて断面略V字形とし、該補助カバー(10)の屈曲部分を内側にしてその両側を前記爪(17,17)に係止したこと、を特徴とする鋼管矢板の防食構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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