説明

鋼線の製造方法

【課題】伸線時には十分な潤滑性能を発揮し、焼鈍雰囲気の制御が容易で、かつ鋼線コイルの圧着も荷崩れも発生させない鋼線の製造方法の提供
【解決手段】大気中で昇温速度10℃/minで加熱した場合の質量減少率が400℃で75%以上、600℃で97%以下である潤滑剤を使用して伸線して鋼線を得る工程と、この鋼線を巻き取って得た鋼線コイルを縦置きの状態で連続式焼鈍炉に装入し、400〜600℃の温度域での酸化性雰囲気における予備加熱、続いて600〜800℃の温度域での焼鈍を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼線や銅線の製造方法に関しては、下記の技術が開示されている。
【0003】
特許文献1には、「伸線、圧延等により鋼線に付着した圧延油、潤滑剤等の異物を流動床等の加熱炉により400〜600℃の温度に加熱し焼却した後、焼入れ焼戻し処理により最終製品とする、鋼線の表面清浄化熱処理方法」に関する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、「少なくとも、溶体化処理工程、冷間加工工程、時効熱処理工程を有する析出強化型銅合金トロリ線の製造方法において、該冷間加工工程において最後に用いる潤滑剤が、140〜700℃で分解する有機成分のみからなる固体潤滑剤であることを特徴とする、析出強化型銅合金トロリ線の製造方法。」に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−87738
【特許文献2】特開2003−237427
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は、従来の鋼線コイルの製造方法の一例を示すフロー図であり、図2は、酸洗工程を示す図、図3は、連続焼鈍工程を示す図である。
【0007】
図1に示すように、高炭素クロム軸受鋼または冷間鍛造に用いられる鋼線製品は、熱間圧延された後の線材に焼鈍を施し、酸洗またはショットブラストにて酸化スケールを除去した後に、中間伸線を行い、中間伸線で付着した潤滑剤を酸洗で除去し、さらに中間伸線で加工硬化した中間段階の鋼線を再度軟化焼鈍し、続いて酸洗と潤滑被膜処理を施した後に、仕上伸線により客先仕様を満足する寸法精度および硬さに調整して、製造されることが多い。
【0008】
図1に示す鋼線の製造方法では、伸線および焼鈍を各々2回行う必要があるのに加え、酸洗も3回行なわれることになるので、工程が複雑で製造コストが上昇するという問題点を有している。
【0009】
いずれの酸洗においても、例えば、図2に示すように、鋼線コイル1がCフック3に吊された状態で、酸洗槽4に浸漬することにより、酸洗処理が行われる。酸洗処理後は、例えば、図3に示すように、鋼線コイル1を縦置き(コイルの中心軸がほぼ鉛直となるような置き方。以下、同じ。)した状態で、連続方式の焼鈍炉2(バッチ式焼鈍炉を用いる場合もある。)に装入し、予備加熱室にて予備加熱の後、焼鈍室にて焼鈍が行なわれる。このとき、焼鈍室における焼鈍は、鋼線表面の脱炭層または浸炭層の生成を抑制するために、焼鈍炉雰囲気中のCO量とCO量との比を制御しながら行われている。
【0010】
ここで、中間伸線では、ダイスの直前で金属石けんと消石灰等を主成分とする潤滑剤を塗布しながら伸線を行っており、中間伸線後の鋼線コイル1の表面には上記の潤滑剤が付着、残存する。鋼線コイル1をそのまま焼鈍しようとすると(即ち、図1中の(a)のルート)、潤滑剤中の金属石けんが燃焼してCO等の炭素含有ガスが発生するため、焼鈍室の雰囲気中のCO量とCO量との比の制御が困難となる。また、鋼線表面に残存する潤滑剤が過剰な場合には、リング間の摩擦係数が小さくなり、焼鈍時にコイルの荷崩れが発生しやすくなる。これに対しては、インナーステムを使用して荷崩れを抑制する方法も考えられるが、作業性が悪化し、ステム自体の製作・管理など、製造コストを上昇させる。
【0011】
この問題を回避するためには、図1中の(b)のルートに沿って、鋼線コイルの焼鈍前に鋼線表面に付着している潤滑剤を酸洗して除去する必要がある。しかしながら、この方法では、酸洗後の鋼線のメタル表面が露出する。このため、図3に示すように、酸洗後の鋼線コイル1を縦置きで連続焼鈍炉2に装入した場合には、自重により鋼線間で圧着するという問題がある。したがって、焼鈍中の鋼線の圧着を防止するために、中間伸線後の鋼線は酸洗後、さらに表面に消石灰を塗布した後(即ち、図1中の(c)のルート)、焼鈍を行う必要があった。
【0012】
なお、上記の酸洗工程では潤滑剤に含まれる石けんカスなどが発生し、廃酸処理などにコストを要する。また、酸の使用は、作業環境の管理負荷が高いため、省略できれば製造コストを低減できるというメリットもある。
【0013】
特許文献1には、具体的に、どのような潤滑剤を用いたのかが開示されていない。また、この技術は、ばね用オイルテンパー鋼線の最終製品に必要な寸法・形状にした後の最終の鋼線を、鋼線コイルの状態のまま加熱するのではなく、鋼線を連続的に走行させながら予備加熱し、焼入れ焼戻しするものであり、コイル状態の鋼線を熱処理するものではない。この技術を中間伸線後の鋼線コイルに適用しても、縦置きの状態で焼鈍した鋼線コイルの鋼線間では圧着が発生する可能性がある。
【0014】
特許文献2の技術は、鋼線ではなく、銅合金のトロリ線を350〜550℃で時効熱処理する際に同時に固体潤滑剤を分解させるものである。銅合金の350〜550℃の時効熱処理とは異なり、鋼線の600〜800℃での焼鈍では、脱炭または浸炭という現象が起こるため、固体潤滑剤が付着した鋼線をそのまま軟化焼鈍炉に装入することはできない。
【0015】
本発明は、このような課題を解決するものであり、中間伸線後から軟化焼鈍までの間に、実施されていた伸線用潤滑剤を除去するための酸洗、および、鋼線間の圧着を防止するための消石灰塗布を省略可能とし、かつ鋼線コイルの荷崩れが生じにくい鋼線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく、焼鈍炉内の雰囲気を安定させるためには、伸線用潤滑剤として800℃以下の温度域で炭素含有ガスを発生させる物質を、酸洗以外の方法により除去できる潤滑剤を用いて伸線することを基本方針として、鋭意研究を行った。
【0017】
既に述べたように、伸線用潤滑剤を完全に除去すると鋼線コイルのリング間で圧着が生じる一方で、伸線用潤滑剤の残存量が過剰な場合には焼鈍時の荷崩れが生じる。このため、伸線用潤滑剤の選定に当たっては、伸線時には十分な潤滑性を有しているが、焼鈍時には、鋼線コイルのリング間の圧着を防止するべく、薄膜の状態で鋼線コイル表面に残存し、かつ、荷崩れを防止するべく、潤滑作用が消失している材料であることが必要である。
【0018】
本発明者らは、伸線用潤滑剤として、(1)伸線温度では安定して高い潤滑性を維持するが、(2)予備加熱工程(焼鈍の前工程)では大部分が熱分解し、(3)焼鈍開始時には微量の潤滑剤が鋼線表面に残存するが、焼鈍中には炭素含有ガスをほとんど発生させないものを用いるとともに、(4)このような潤滑剤に適した予備加熱条件を採用することとした。
【0019】
本発明者らは、伸線温度、予備加熱温度および焼鈍温度における潤滑剤の熱分解性能を更に調査すべく、下記(A)式から求められる潤滑剤の質量減少率に着目して、更なる検討を行った結果、従来用いられた潤滑剤(共栄社化学/コーシンS550)では、200℃における質量減少率は1%と良好であるものの、400℃における質量減少率が20%程度であり、焼鈍温度の600℃における質量減少率も31%程度と低い。その結果、焼鈍炉内で炭素含有ガスを多量に発生させることが予想される。
【0020】
なお、質量減少率R(%)は、熱重量測定装置(TGA)を用い、大気中で室温から温度T℃まで昇温速度10℃/minで加熱したときの質量変化に基づいて、下記の(A)式から求めることができる。
=(M−M)/M×100(%) (A)
但し、(A)式中の各記号の意味は下記の通りである。
:温度Tにおける質量(mg)
:加熱前(室温)における質量(mg)
【0021】
本発明者らは、市販されている様々な潤滑剤を200℃、400℃および600℃における質量減少率の観点から整理し、鋼線コイルの製造に適した伸線用潤滑剤を見出し、本発明を完成した。
【0022】
本発明は「大気中で昇温速度10℃/minで加熱した場合の質量減少率が400℃で75%以上、600℃で97%以下である潤滑剤を使用して伸線して鋼線を得る工程と、この鋼線を巻き取って得た鋼線コイルを縦置きの状態で連続式焼鈍炉に装入し、400〜600℃の温度域での酸化性雰囲気における予備加熱、続いて600〜800℃の温度域での焼鈍を行う工程を含むことを特徴とする鋼線の製造方法。」を要旨とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、伸線時には十分な潤滑性能を発揮し、焼鈍時には炭素含有ガスの発生を防止し、かつ、鋼線コイルの圧着も荷崩れも発生させない。また、従来、伸線工程と焼鈍工程との間に行っていた酸洗工程および消石灰塗布工程を省略できるので、製造コストの大幅な低減が可能となる。特に、取扱に相当な注意を要する酸洗工程を省略できることから、作業環境の大幅な改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来の鋼線コイルの製造方法の一例を示すフロー図
【図2】酸洗工程を示す図
【図3】連続焼鈍工程を示す図である。
【図4】本発明に係る鋼線コイルの製造方法を例示したフロー図
【図5】比較例1に係る鋼線コイルに続いて比較例2に係る鋼線コイルを連続焼鈍炉に装入した場合の焼鈍室内のCO濃度の測定値の時間的変化を示す図
【図6】比較例1に係る鋼線コイルに続いて本発明例1に係る鋼線コイルを連続焼鈍炉に装入した場合の焼鈍室内のCO濃度の測定値の時間的変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る鋼線コイルの製造方法は、潤滑剤を使用して伸線して鋼線を得る工程と、この鋼線を巻き取って得た鋼線コイルを縦置きの状態で連続式焼鈍炉に装入し、400〜600℃の温度域での予備加熱室での予備加熱、続いて600〜800℃の温度域での焼鈍室での焼鈍を行う工程を含むものである。
【0026】
図4は、本発明に係る鋼線コイルの製造方法を例示したフロー図である。図4に示すように、本発明に係る鋼線コイルの製造方法においては、例えば、熱間圧延された後の線材に焼鈍を施し(この焼鈍は省略する場合がある。)、酸洗またはショットブラストにて酸化スケールを除去した後に、中間伸線を行い、鋼線コイルの予備加熱をした後、中間伸線で加工硬化した中間段階の鋼線を再度、軟化焼鈍し、その後、酸洗と潤滑被膜処理を施し、仕上伸線により客先仕様を満足する寸法精度および硬さに調整する。
【0027】
上記の中間伸線後の焼鈍において前述の問題が生じるので、以下の説明では、主として、中間伸線とその後の焼鈍について述べるが、伸線後に焼鈍が行われる工程であれば、本発明に係る鋼線コイルの製造方法を適用可能である。また、予備加熱および軟化焼鈍は、例えば、図3に示す焼鈍炉を用いて、連続的に実施することができるが、この場合、予備加熱室と焼鈍室との間には扉、パージ室および扉が設けられており、それぞれの分室で雰囲気が独立しているものを使用するのが好ましい。
【0028】
予備加熱の雰囲気は、伸線用潤滑剤を熱分解させるために酸化性雰囲気とする必要があるが、ガス量を制御する必要がないことから大気雰囲気が望ましい。
【0029】
予備加熱は、400〜600℃の温度域で行う。予備加熱温度が400℃未満では、伸線用潤滑剤を十分に熱分解することができず、続く焼鈍において炭素含有ガスを多量に発生して焼鈍室の雰囲気中のCO量とCO量との比の制御を困難にする。一方、予備加熱温度が600℃を超えると、伸線用潤滑剤の熱分解が進みすぎて鋼線表面の潤滑剤の残存量が少なくなり、続く焼鈍時に鋼線コイルのリング間で圧着が発生する。また、予備加熱温度が600℃を超えると予備加熱の酸化性雰囲気により、鋼線表面に脱炭層が生成するおそれがある。従って、予備加熱は、400〜600℃の温度域で行うこととした。
【0030】
予備加熱の時間には、特に制約はないが、3〜30分で行うのが好ましい。3分未満では、コイルが十分に昇温しない。一方、30分を超えると、最高温度(600℃)では脱炭する場合がある。
【0031】
焼鈍は、600〜800℃の温度域で行う。600℃未満では、鋼線を十分に軟化できない。一方、焼鈍温度が高くなりすぎると燃料費のみ高くなり、800℃を超えても特段の効果はないため、焼鈍は、600〜800℃の温度域で行うこととした。
【0032】
焼鈍時間には、特に制約はないが、600〜1800分で行うのが好ましい。600分未満では、鋼線を十分軟化することができない場合があり、焼鈍時間が長くなりすぎると燃料費のみ高くなる。
【0033】
伸線用潤滑剤は、熱重量測定装置(TGA)を用い、大気中で室温から温度T℃まで昇温速度10℃/minで加熱した場合の質量減少率、即ち、下記(A)式から求められる質量減少率R(%)が400℃で75%以上、600℃で97%以下であることが必要である。
=(M−M)/M×100(%) (A)
但し、(A)式中の各記号の意味は下記の通りである。
:温度Tにおける質量(mg)
:加熱前(室温)における質量(mg)
【0034】
200℃における質量減少率は10%以下がよい。10%を超えると伸線時の摩擦熱によって潤滑効果が低下し、ダイスとの焼付きが生じやすく、また、潤滑剤の消費量が多くなるためである。
【0035】
ここで、伸線用潤滑剤の400℃における質量減少率が75%未満の場合、予備加熱工程における潤滑剤の残存量が過剰であり、続く焼鈍工程において炭素含有ガスが多量に発生して、焼鈍雰囲気を乱してしまう。従って、400℃における質量減少率が75%以上の伸線用潤滑剤を用いて、400〜600℃の温度域での予備加熱を実施することにより、潤滑剤の大部分を除去することができるので、続く焼鈍室の雰囲気中のCO量とCO量との比の制御に支障を来たさない。
【0036】
伸線用潤滑剤の600℃における質量減少率が97%を超える場合には、焼鈍開始時の鋼線表面の潤滑剤の残存量が少なくなり、続く焼鈍工程において鋼線コイルのリング間で圧着が発生する。従って、伸線用潤滑剤は、加熱による質量減少率が400℃で75%以上、600℃で97%以下であるものを使用することとした。
【実施例1】
【0037】
本発明の効果を確認するべく、本発明例の潤滑剤としてワックス系潤滑剤(共栄社化学/コーシンU−100)と、比較例の潤滑剤として石けん+消石灰混合潤滑剤(共栄社化学/コーシンS550)とを用意した。本発明例の潤滑剤の大気中での加熱(昇温速度:10℃/min)による質量減少率は、200℃で2%、400℃で80%、600℃で96%である。一方、比較例の潤滑剤の大気中での加熱(昇温速度:10℃/min)による質量減少率は、200℃で1%、400℃で20%、600℃で31%である。
【0038】
続いて、17.0mmφのSCr435Hの線材コイルについて上記のワックス系潤滑剤(共栄社化学/コーシンU−100)を用いて伸線を施し、14.2mmφの鋼線コイルを複数製造し、本発明例1の鋼線コイルとした。
【0039】
同じく17.0mmφのSCr435Hの線材コイルについて上記の石けん+消石灰混合潤滑剤(共栄社化学/コーシンS550)を用いて伸線を施し、14.2mmφの鋼線コイルを複数製造し、比較例に係る鋼線コイルとした。比較例に係る鋼線コイルの内の一部は、11質量%の硫酸に5分間浸漬した後、続く焼鈍中の鋼線間の圧着防止のため消石灰を塗布し、比較例1(酸洗あり)の鋼線コイルとした。比較例に係る鋼線コイルの残部は、比較例2(酸洗なし)の鋼線コイルとした。
【0040】
まず、比較例1(酸洗あり)の鋼線コイルを連続焼鈍炉に連続的に装入した後、続いて比較例2(酸洗なし)の鋼線コイルを連続焼鈍炉に連続的に装入し、予備加熱室での予備加熱及び焼鈍室での焼鈍を行った。次に、上記の比較例1(酸洗あり)の鋼線コイルを連続焼鈍炉に連続的に装入した後、続いて本発明例1の鋼線コイルを連続焼鈍炉に連続的に装入し、同様に予備加熱室での予備加熱及び焼鈍室での焼鈍を行った。これらの結果を図5および図6に示す。
【0041】
それぞれ予備加熱は、550℃で10分、焼鈍は、760℃(最高温度)で720分行った。
【0042】
図5および図6には、それぞれの連続焼鈍炉の焼鈍室内のCO濃度を測定した結果を示す。これらの図では、焼鈍室の入側部分を4つのゾーン(各ゾーンには3つの鋼線コイルが入る)に分け、焼鈍室の入側からZ1、Z2、Z3およびZ4として、各ゾーンにおけるCO濃度の測定値を示している。また、各グラフの測定値は波をうったように上下変動しながら推移しているが、これは予備加熱室と焼鈍室との間に設けられた扉の開閉により鋼線コイルが予備加熱室より焼鈍室に移動装入された時のCO濃度の変動である。すなわち、一つの鋼線コイルが焼鈍室内に移動した場合のCO濃度の変動が、一つの波に相当する。
【0043】
図5に示すように、酸洗ありの比較例1を焼鈍炉に装入しても、焼鈍炉の焼鈍室内のCO濃度はほとんど変化しないが、酸洗を実施しない比較例2を焼鈍炉に装入すると、焼鈍炉の焼鈍室内のCO濃度が急激に上昇していき、炉内雰囲気のコントロールが難しくなることが分かる。一方、図6に示すように、本発明例1では、焼鈍炉の焼鈍室内のCO濃度はほとんど変化しなかった。
【0044】
続いて、焼鈍炉内での荷崩れ防止性能を確認するため、焼鈍後の本発明例1ならびに比較例1および2について、バウデン試験機で、摺動回数:5回、荷重:3kgf、摺動長さ:2mm、鋼球サイズ:2φの条件で、摩擦係数を測定した。その結果、それぞれの摩擦係数μは、本発明例1は0.38、比較例1(酸洗あり)は0.30、比較例2(酸洗なし)は0.20であった。比較例1は、酸洗後に鋼線間の圧着防止のために塗布した消石灰により摩擦係数は低く、比較例2は焼鈍後も潤滑剤が多量に残存していたため摩擦係数は最も低かった。これに対し、本発明例1は予備加熱により潤滑剤が熱分解してしまっており焼鈍後には潤滑剤がほんのわずかしか残っていないため、摩擦係数は最も高かった。従って、本発明によると、鋼線コイルの荷崩れ防止効果にも優れる。
【0045】
次に、上記本発明例1および比較例1について、焼鈍後の各コイルにおける下部30巻に圧着が無いかを目視観察により確認した。また、比較例1においてを酸洗後の消石灰の塗布を省略したものを比較例3の鋼線コイルとして作成し、前述の連続焼鈍炉で本発明例1および比較例1と同様に焼鈍し、焼鈍後のコイルの下部30巻に圧着が無いかを目視観察により確認した。その結果、比較例3では、75%のコイルで圧着が確認されたが、本発明例および比較例1では、全てのコイルで圧着が確認されなかった。従って、本発明によれば、従来酸洗によって伸線用潤滑剤を除去した場合に施す必要があった消石灰を施さずとも優れた圧着防止性能が得られることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、伸線時には十分な潤滑性能を発揮し、焼鈍時には炭素含有ガスの発生を防止し、かつ、鋼線コイルの圧着も荷崩れも発生させない。また、従来、伸線工程と焼鈍工程との間に行っていた酸洗工程および消石灰塗布工程を省略できるので、製造コストの大幅な低減が可能となる。特に、取扱に相当な注意を要する酸洗工程を省略できることから、作業環境の大幅な改善が可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1.鋼線コイル
2.焼鈍炉
3.Cフック
4.酸洗槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中で昇温速度10℃/minで加熱した場合の質量減少率が400℃で75%以上、600℃で97%以下である潤滑剤を使用して伸線して鋼線を得る工程と、この鋼線を巻き取って得た鋼線コイルを縦置きの状態で連続式焼鈍炉に装入し、400〜600℃の温度域での酸化性雰囲気における予備加熱、続いて600〜800℃の温度域での焼鈍を行う工程を含むことを特徴とする鋼線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−269360(P2010−269360A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125130(P2009−125130)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】