説明

錫の追加によって相乗効果を発揮するレニウム及びゲルマニウム含有触媒、及び該触媒を用いたアルキル芳香族トランスアルキル化プロセス

【課題】アルキル芳香族化合物のトランスアルキル化のための触媒において、芳香環飽和を低減させ、且つ軽質物質の併産を低減させることにより、望ましい触媒の選択性を伴った所望の転化処理が可能となる触媒を提供する。
【解決手段】アルキル芳香族化合物のトランスアルキル化に適した触媒において、前記触媒が、触媒として有効な量の酸性分子篩と、元素ベースで少なくとも0.05質量%のレニウムと、そして錫及びゲルマニウムの組み合わせとによって構成する触媒とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキル芳香族化合物のトランスアルキル化のための改良された触媒及びプロセスに関するものである。この触媒には、レニウムと、一定量のゲルマニウム及び錫とが含まれ、環損失が少なく、且つ望ましい触媒の選択性を伴った所望の転化処理が可能となる。
【背景技術】
【0002】
キシレン異性体は、種々の重要な工業化学製品の供給原料として、石油から大量に生産される。最も重要なキシレン異性体はp−キシレンである。このp−キシレンは、ポリエステルのための主要な供給原料であって、その需要の規模の大きさから、(市場における需要が)高い成長率を示し続けている。o−キシレンは無水フタル酸の生成に用いられ、大量に生産されるが、その市場は比較的十分に成長しきった市場といえる。m−キシレンは上記の例と比較して用いられる量は少ないが、可塑剤、アゾ染料及び木材用防腐剤等の製品のために大量に生産される。
【0003】
先行技術の芳香族化合物の生成フローについては、Meyersによって、HANDBOOK OF PETROLEUM REFINING PROCESSES, 2d. Edition, in 1997 published by McGraw-Hillのpart 2に開示されている。
【0004】
一般的に、キシレンの製造設備においては、種々の処理反応が存在する。1つはトランスアルキル化である。このトランスアルキル化においては、ベンゼン及び/又はトルエンがC9+芳香族化合物と反応し、よりメチル化された芳香族化合物を形成する。もう1つはキシレン異性化である。このキシレン異性化には脱アルキル化が含まれる。ここでは、キシレンの不均衡状態混合物が異性化される。さらにもう1つはトルエンの不均化である。ここでは、生成されるキシレン1モルにつき1モルのベンゼンが生成される。
【0005】
トランスアルキル化プロセスにおいては、不利な反応も生じ得る。例えば、芳香環が飽和し、また時には開裂して、ナフテンが同時に生成される。これらの非芳香族化合物の併産は、もちろん有用な芳香族化合物の損失につながる。さらに、ベンゼンは多くの場合キシレン製造設備における所望の副生成物である。ナフテンの中にはベンゼンと同じ沸点を有するものもあるので、それらの除去が容易ではなく、商用として所望の純度を有するベンゼンの生成が困難となる。多くの場合、商用として有用なベンゼン生成物は、少なくとも99.85%の純度を有する。
【0006】
従って、所望の選択性を伴い、且つ商業的に実現可能な十分に高い転化率で、キシレン等の所望のアルキル芳香族化合物への転化を可能にする、アルキル芳香族化合物のトランスアルキル化のための触媒及びプロセスが必要とされている。
【0007】
米国特許第3,562,345号(Mitsche)明細書には、モルデナイト等のアルミノシリケートから成るアルキル芳香族化合物のトランスアルキル化又は不均化のための触媒が開示されている。ここでは、VIB及びVIII族金属等の触媒活性金属が存在している。
【0008】
米国特許第3,951,868号(Wilhelm)明細書には、白金族金属及びインジウム、またオプションとしてゲルマニウム又は錫等のIVA族成分から成る、炭化水素の転化のための触媒が開示されている。
【0009】
米国特許第4,331,822号(Onoderaら)明細書には、ZSM-5等の分子篩、白金、及びチタニウム、クロミウム、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、パラジウム、錫、バリウム、セシウム、セリウム、タングステン、オスミウム、鉛、カドミウム、水銀、インジウム、ランタン、ベリリウム、リチウム及びルビジウムから成る群より選択される少なくとも1つの金属を含む、キシレン異性化のための触媒が開示されている。
【0010】
米国特許第5,847,256号(Ichiokaら)明細書には、エチル基を有するC9アルキル芳香族化合物を含有する供給原料から、好ましくはモルデナイトであるゼオライト成分、及び好ましくはレニウムである金属成分を含有する触媒を用いて、キシレンを生成するためのプロセスが開示されている。
【0011】
米国特許第6,060,417号(Katoら)明細書には、アルキル芳香族化合物のトランスアルキル化のための触媒及びプロセスが開示されている。この触媒は、モルデナイト、無機酸化物及び/又はクレイ(粘土)、及びレニウム、白金及びニッケルの内の少なくとも1つの金属成分で構成される。米国特許第6,359,184号(Katoら)参照のこと。
【0012】
米国特許第6,150,292号及び同第6,465,705号(Merlenら)明細書には、モルデナイト含有触媒を利用したキシレン異性化プロセスが開示されている。この触媒はさらに、少なくとも1つの白金族金属、周期律表のIII族に由来する、ガリウム、インジウム又はタリウム等の少なくとも1つの金属、そしてオプションとして周期律表のIV族に由来する、ゲルマニウム、錫又は鉛等の少なくとも1つの金属を含有する。
【0013】
米国特許第6,613,709号及び同第6,864,400号(Merlenら)明細書には、ゼオライトNES、及びVIIB族、VIB族及びインジウムから選択される少なくとも1つの金属、またオプションとして周期律表のIII族及びIV族から選択される、好ましくはインジウム及び錫の内の少なくとも1つの金属を含有するトランスアルキル化触媒が開示されている。
【0014】
米国特許第6,855,854号(James, Jr.)明細書には、2種類のトランスアルキル化触媒を用いてC9+芳香族化合物をベンゼンと反応させるプロセスが開示されている。この触媒は、ゼオライトと、そしてIUPAC8〜10金属及び錫、ゲルマニウム、鉛、インジウム、及びそれらの混合物等の改質剤等のオプションの金属成分とによって構成される。
【0015】
米国特許第6,872,866号(Nemethら)明細書には、ゼオライトベータ及びペンタシル型ゼオライトを用いた液相キシレン異性化プロセスが開示されている。この触媒は、白金族金属等の水素化金属成分、及びレニウム、錫、ゲルマニウム、鉛、コバルト、ニッケル、インジウム、ガリウム、亜鉛、ウラニウム、ジスプロシウム、タリウム、及びそれらの混合物等の改質剤を含有する。
【発明の開示】
【発明の概要】
【0016】
本発明によれば、軽質物質及び非芳香族ベンゼンコボイラーの併産率が比較的低く、且つ望ましいトランスアルキル化活性及び選択性を示すレニウム含有触媒が提供される。ここで用いられる『トランスアルキル化』という用語は、アルキル芳香族化合物内でのトランスアルキル化、そしてまたベンゼンとアルキル芳香族化合物との間でのトランスアルキル化を含めた意味で用いられる。本発明によって、レニウムに関して錫とゲルマニウムの組み合わせが存在する場合には、不利な特性である環飽和、環開裂、及び軽質物質の併産が実質的に低減するということが明らかとなった。
【0017】
本発明の1つの広範な態様において、本発明の触媒は、触媒として有効な量の酸性分子篩と、元素ベースで少なくとも0.05質量%、好ましくは0.1〜1質量%、最も好ましくは0.15〜1質量%のレニウムと、そして錫及びゲルマニウムの組み合わせとによって構成され、ここでこの触媒は、評価条件下で、この触媒と実質的に同質であるが錫を含まない触媒、及びこの触媒と実質的に同質であるがゲルマニウムを含まない触媒と比較して、これらの触媒よりも低い環損失を示すことを特徴とする。評価条件は次のとおりである。
[評価条件]
供給原料(+/-0.5質量%)
トルエン: 75質量%
トリメチルベンゼン: 10質量%
メチルエチルベンゼン: 10質量%
プロピルベンゼン: 2質量%
ジメチルエチルベンゼン: 1質量%
ジエチルベンゼン: 0.5質量%
テトラメチルベンゼン: 0.5質量%
その他のアルキル芳香族化合物
及びベンゼン: 残りの質量%

圧力 1725 kPa(絶対圧)
重量空間速度(hr-1) 4
H2:HC 6
総転化率 30質量%
【0018】
環損失は、トランスアルキル化反応器への供給物中の全芳香族化合物の質量と、このトランスアルキル化反応器から流出する流出物中の全芳香族化合物の質量との差分を質量%の形で表したものである。H2:HCは、水素/炭化水素のモル比である。総転化率は、供給物中の化合物の加重平均転化率である。
【0019】
多くの場合、ゲルマニウム/レニウムの原子比は少なくとも2:1、例えば2:1〜50:1、好ましくは2.5:1〜25:1である。錫の量には大幅な変化があるが、多くの場合、錫/レニウムの原子比は少なくとも0.1:1、好ましくは少なくとも0.2:1、例えば0.2〜20:1である。
【0020】
本発明の他の態様において、本発明のトランスアルキル化触媒は、触媒として有効な量の酸性分子篩と、元素ベースで少なくとも0.05質量%、好ましくは0.1〜1質量%、最も好ましくは0.15〜1質量%の触媒として有効な量のレニウムと、そしてゲルマニウム/レニウムの原子比が少なくとも2:1、そして錫/レニウムの原子比が少なくとも0.1:1となる錫及びゲルマニウムの組み合わせとによって構成される。
【0021】
本発明の広範な1つの態様において、本発明のトランスアルキル化プロセスは、軽質芳香族化合物及び重質芳香族化合物から成るトランスアルキル化供給物ストリームを、トランスアルキル化条件下での処理にかけるステップで構成される。このトランスアルキル化条件には、元素ベースで少なくとも0.05質量%、好ましくは0.1〜1質量%、最も好ましくは0.15〜1質量%のレニウムと、そして錫及びゲルマニウムの特定の組み合わせとによって構成されるトランスアルキル化触媒の存在が含まれる。この錫及びゲルマニウムの組み合わせにおいて、本発明のプロセスは、この触媒と実質的に同質であるが錫を含まない触媒を用いた実質的に同一のトランスアルキル化プロセス、及びこの触媒と実質的に同質であるがゲルマニウムを含まない触媒を用いた実質的に同一のトランスアルキル化プロセスと比較して、これらのプロセスよりも低い環損失を示すことを特徴とする。
【0022】
本発明の他の態様において、本発明のトランスアルキル化プロセスは、軽質芳香族化合物及び重質芳香族化合物から成るトランスアルキル化供給物ストリームを、トランスアルキル化条件下での処理にかけるステップで構成される。このトランスアルキル化条件には、触媒として有効な量の酸性分子篩と、元素ベースで少なくとも0.05質量%、好ましくは0.1〜1質量%、最も好ましくは0.15〜1質量%の触媒として有効な量のレニウムと、そしてゲルマニウム/レニウムの原子比が少なくとも2:1となり、錫/レニウムの原子比が少なくとも0.1:1となる錫及びゲルマニウムの組み合わせとによって構成されるトランスアルキル化触媒の存在が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[プロセス]
本発明のプロセスは、軽質(非置換又は少置換)芳香族化合物及び重質・多置換アルキル芳香族化合物間のトランスアルキル化(アルキル交換)で構成されている。このプロセスにおける生成物は、これら軽質留分及び重質留分の中間の置換数を有するアルキル芳香族化合物である。この軽質芳香族化合物の置換数は0〜2、重質芳香族化合物の置換数は2〜5、そして生成物はこの中間の置換数を有する。例えば、ベンゼンはメチルエチルベンゼンとトランスアルキル化され、トルエン及びエチルベンゼンが生成される。同様に、ベンゼン又はトルエンはトリメチルベンゼンとトランスアルキル化され、キシレンが生成される。キシレンの製造設備によっては、ベンゼンを副生成物として生成するよりも、トランスアルキル化において消費する方が望ましい場合もある。副生成物として生成する場合、ベンゼンは軽質芳香族化合物中の5〜80質量%、好ましくは10〜60質量%を占める。
【0024】
本発明のプロセスに供給される供給物ストリームは、通常、一般式C6H(6-n)Rnで表されるアルキル芳香族炭化水素によって構成される。この式で、nは0〜5の整数値、そしてRはCH3、C2H5、C3H7、又はC4H9それぞれの任意の組み合わせである。適切なアルキル芳香族炭化水素には、例えば、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、エチルトルエン、プロピルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ジメチルエチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メチルプロピルベンゼン、エチルプロピルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、及びそれらの混合物等がある。
【0025】
所望の生成物がキシレン又はエチルベンゼンである場合、そのための供給ストリームは、軽質留分としての、ベンゼン及びトルエンの内の少なくとも1つ、そして重質留分としての、少なくとも1つのC9+芳香族化合物によって構成される。ベンゼン及びトルエン/C9+芳香族化合物のモル比は、好ましくは0.3:1〜10:1、より好ましくは0.4:1〜6:1である。所望の生成物がキシレンである場合の、供給原料の好ましい成分は、C9+芳香族化合物から成る重質芳香族化合物ストリームである。またC10+芳香族化合物も、通常、この供給物中の50重量%以下の分量で存在する。この重質芳香族化合物ストリームは、通常、少なくとも90重量%の芳香族化合物を含有する。
【0026】
この供給原料は、好ましくは、気相中で、そして水素の存在下でトランスアルキル化される。この供給原料が気相中でトランスアルキル化される場合、通常、アルキル芳香族化合物1モル当たり0.1モルから、供給物中の全芳香族化合物1モル当たり10モルまでの量の水素が加えられる。また水素の芳香族化合物に対する比率は、水素/炭化水素比と呼ばれる。トランスアルキル化が液相中で行われる場合、通常、実質的に水素の存在しない条件下で行われる。トランスアルキル化以前に、水素は既に存在していて、標準的な液状芳香族化合物供給原料中に溶解する。部分的な液相中では、水素はアルキル芳香族化合物1モル当たり1モル未満の量分加えられる。
【0027】
通常、トランスアルキル化の条件には、高温、例えば100℃〜540℃、好ましくは200℃〜500℃の温度が含まれる。多くの場合、工業設備においては、触媒の失活を補うためにトランスアルキル化の温度を上昇させる。トランスアルキル化反応帯への供給物は、通常、まず反応帯の流出物との間接的熱交換によって加熱され、次に温熱ストリーム、蒸気又は加熱炉との熱交換によって反応温度に到達するまで加熱される。続いて供給物はこの反応帯を通過する。この反応帯は、本発明の触媒をその内に含む1つ又は複数の個別の反応器によって構成される。
【0028】
この反応器は、任意の適切なタイプそして構造のものであってよい。触媒の固定円筒状床を有する単一の反応容器の使用が好ましいが、必要に応じて、触媒の移動床方式又は半径流方式の反応器を用いた、その他の反応構造が利用されるものであってもよい。
【0029】
トランスアルキル化の条件には、絶対圧で100kPa〜6MPa、好ましくは0.5〜5MPaの圧力が含まれる。トランスアルキル化反応は、広範囲の空間速度で生じる。重量空間速度(WHSV)は、通常0.1〜20hr-1、好ましくは0.5〜15hr-1であって、1〜5hr-1の範囲内である場合が最も多い。
【0030】
トランスアルキル化は、重質アルキル芳香族化合物の少なくとも10モル%、好ましくは少なくとも20モル%、そして最も多くの場合は20〜45モル%が消費されるのに十分なだけの時間、またその他の条件下で有利に行われる。好ましくは、消費される重質アルキル芳香族化合物の内、少なくとも70モル%、最も好ましくは少なくとも75モル%が低分子量の芳香族化合物に転化される。このトランスアルキル化の好ましい生成物は、キシレン製造設備のためのキシレン類である。
【0031】
トランスアルキル化ステップからの流出物には、通常、トランスアルキル化生成物に加え、未反応軽質及び重質芳香族化合物が含まれる。またナフテン及び軽質物質等の副生成物も存在する。通常、この流出物は、反応帯に供給される供給物との間接的熱交換によって冷却され、続いて空気又は冷却水によってさらに冷却される。この流出物は蒸留処理にかけられ、この処理において、この流出物中のC5以下の炭化水素の実質上全てが塔頂ストリーム内に供給され、本プロセスから除去される。この蒸留処理と同じ又は異なる蒸留処理によって、未反応軽質物質の少なくとも一部がリサイクルのために回収される。トランスアルキル化生成物留分は回収され、重質物質ストリームが生成される。この重質物質ストリームの全て又は一部がトランスアルキル化帯へリサイクルされる。また軽質芳香族化合物の全て又は一部がトランスアルキル化帯へリサイクルされる。
【0032】
[触媒]
本発明の触媒は、酸性分子篩、レニウム、錫及びゲルマニウムから構成される。分子篩には、ゼオライトベータ、ゼオライトMTW、ゼオライトY(立方体及び六面体の両方)、ゼオライトX、モルデナイト、ゼオライトL、ゼオライトフェリエライト、MFI、及びエリオナイト等が含まれる。ゼオライトベータについては、その構造、組成、及び好ましい合成法が米国特許第3,308,069号明細書に述べられている。Yゼオライトについては、米国特許第3,130,007号明細書に、その定義が広範に述べられており、またその合成、構造の詳細についても述べられている。モルデナイトは、8又は12員環で画定される分子チャネルを有する天然のケイ酸ゼオライトである。Donald W. Breckは、ZEOLITE MOLECULAR SIEVES(John Wiley and Sons, 1974, pp. 122-124 and 162-163)において、モルデナイトの構造及び性質について述べている。ゼオライトLについては、米国特許第3,216,789号明細書にその定義が述べられており、またその特有の構造及び合成の詳細についても述べられている。その他の利用可能なゼオライトの例は、Structure Commission of the International Zeolite Association(ATLAS OF ZEOLITE STRUCTURE TYPES, by Meier, W. M.; Olsen, D. H; and Baerlocher, Ch., 1996)によって、MFI、FER、ERl、MTW及びFAUの三文字記号表示によって分類される、それらの構造タイプの知られているゼオライトである。ゼオライトXは、後者の構造タイプの具体例である。好ましい分子篩は、少なくとも6Å、例えば6〜12Åの細孔径を有する酸性分子篩である。モルデナイトは、好ましい分子篩の1つの具体的なタイプである。本発明において有用な分子篩には、合成後に、例えば脱アルミニウム化、交換、及び焼成によって処理される分子篩が含まれる。
【0033】
耐火性結合剤又はマトリクスは、触媒の製造を円滑化し、強度を高め、そして製造コストを削減するために、オプションとして利用される。この結合剤は組成が均一で、本プロセスにおける条件に対して比較的耐火性を有するものでなければならない。適切な結合剤には、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、クロミア、チタニア、ボリア、トリア、リン酸塩、酸化亜鉛、及びシリカの内の1つ又は複数のような無機酸化物がある。
【0034】
分子篩は、触媒の5〜99質量%の範囲で存在し、耐火性無機酸化物は、1〜95質量%の範囲で存在する。アルミナは特に好ましい無機酸化物結合剤である。
【0035】
またこの触媒はレニウムも含む。レニウムは、最終触媒複合物中に、酸化物又は硫化物又はこの複合物中の1つ以上の他の成分との化学結合物のような化合物として、又は、好ましくは元素金属として存在する。この成分は、最終触媒複合物中に、触媒として有効な量、つまり元素ベースで、この最終触媒の少なくとも0.05、好ましくは0.1〜1質量%の範囲の任意の量で存在する。このレニウム成分は、担体物質との共混練、共沈又は共ゲル化、イオン交換又は含浸等の任意の適切な方法で触媒中に組み込まれる。
【0036】
またこの触媒はゲルマニウム及び錫をも含む。レニウム及びゲルマニウムの最適な相対量は、例えば触媒上に供給されるレニウムの量に応じて変化する。またこのレニウム、錫及びゲルマニウムの3つの成分の組み合わせが、必ずしもレニウムと錫のみを含む触媒、又は金属成分としてレニウムとゲルマニウムのみを含む触媒に比べて良好な性能を示すとは限らない。一般的にいって、ゲルマニウムの量が多すぎると、触媒活性の低下につながる傾向がある。
【0037】
本発明の最も有用な触媒は、相乗効果、つまり、錫を含まない触媒又はゲルマニウム成分を含まない触媒を用いた(本発明のプロセスと)実質的に同一のプロセスを利用した場合よりも環損失が少ない、などの効果を示す。触媒が相乗効果を有するか否かを判定するための1つの方法は、それらのトランスアルキル化の条件は触媒の意図する用途のための条件とは異なるかもしれないが、評価条件下で評価を行うことである。実際の工業施設において、比較触媒を特に調製し、触媒の転回を中断させ、比較触媒を用いて最も生産性の高い方式に達しない方式で設備を稼動させる方法は実際的ではない。従って、実際の工業施設において用いられる温度、圧力及び重量空間速度でパイロット実験(実規模に近い実験)を行い、この触媒が工業設備における実際的なプロセスに対して相乗効果を示すのか否かを判定する。
【0038】
ゲルマニウム及び錫成分は、担体物質との共混練、共沈又は共ゲル化、イオン交換又は含浸等の任意の適切な方法で触媒中に組み込まれる。多くの場合、含浸のためには、水又は金属のアルコール可溶性化合物が用いられる。錫及びゲルマニウムの触媒への混合は、レニウム成分の混合の前、後又は同時に行われる。
【0039】
この触媒は、オプションとして、追加の改質剤成分を含む。この触媒の、好ましい追加金属改質剤成分には、例えば鉛、インジウム、及びそれらの混合物がある。触媒として有効な量の、この金属改質剤が、任意の適切な方法で触媒中に組み込まれる。好ましい量は、元素ベースで、0.01〜2.0質量%の範囲である。
【0040】
一般的にいって、水は触媒に対して有害であり、米国特許第5,177,285号明細書及び同第5,030,786号明細書に述べられているように、触媒と長時間接触させることによって、活性の損失を生じさせる。従って、通常、水は200 wt-ppm未満の低濃度であることで、結果的に良好な稼動につながる。
【0041】
以下の実施例において、ここに記載する部及び百分率(%)はすべて、別段の指定がない限り、又は文脈から見て明らかである場合を除いて、液体及び固体は質量、気体はモルで表す。以下の実施例は本発明の例示のみを目的として示されるものであって、本発明の広範な態様に制限を加えるものではない。
【実施例1】
【0042】
一連の担持触媒を以下の手順で調製する。最終触媒中に所望の金属含有量を得るのに適切な量の金属成分を含んだ含浸溶液を、容器に加える。各含浸溶液は、触媒上に所望の金属含有量が得られるよう、適量の、次に示す保存試薬の1つ又は複数を用いて調製する。

水中に過レニウム酸(HReO4)、レニウム1.07質量%
水中に塩化錫(IV)(SnCl4)、錫2.7質量%
1−プロパノール中にゲルマニウムエトキシド(Ge(OCH2CH3)4)、
ゲルマニウム0.75質量%
【0043】
塩化錫溶液は不安定であると考えられ、錫は沈殿し、触媒上に供給されない。さらに、錫は触媒粒子とは対照的に容器の壁上に堆積する。代わりとなる錫の堆積法は、含浸溶液がどの程度新鮮であるかに関連すると考えられる。従って、触媒中の錫の量が目標の量を下回り、触媒上に堆積する錫の量も予測不可能となる可能性がきわめて高い。
【0044】
蒸留水を各含浸溶液に加え、担体1g当たり7.4mlの含浸溶液を供給する。75重量部のモルデナイト(H-MOR)、及び結合剤として25重量部のγ−アルミナを含んだモルデナイト担体物質を容器中に配置する。このモルデナイトのシリカ/アルミナ比は20:1である。この担体の粒子径は、ふるいにかけられて0.25〜0.43 mmの範囲の粒子径となる。この混合物を、ロータリーエバポレータ内で易流動性となるまで乾燥させる。次にこの含浸触媒を、空気中で、100℃で1時間かけて乾燥させ、続いて空気中で、510℃で6時間かけて焼成する。
【0045】
これらの触媒を、50モル%のトルエン、25モル%の1,3,5−トリメチルベンゼン、及び25モル%の4−エチルトルエンから成る供給原料を用いて、そのトランスアルキル化特性を評価した。この評価は、絶対圧で2800kPaの圧力、3hr-1の重量空間速度、及び表Iに示す条件下で行った。その効果を表Iに示す。

【0046】
表Iのデータは、錫含有量の偏差を考慮すると最終的なデータとはいえないが、これらはレニウム、錫及びゲルマニウムの間に潜在的な相互作用が存在することを示している。従って、錫含有量の測定可能な追加の触媒を調製し、試験する。
【実施例2】
【0047】
もう1つの一連の担持触媒を以下の手順で調製する。最終触媒中に所望の金属含有量を得るのに適切な量の金属成分を含んだ含浸溶液を、容器に加える。各含浸溶液は、触媒上に所望の金属含有量が得られるよう、適量の、以下の保存試薬の1つ又は複数を用いて調製する。

水中に過レニウム酸(HReO4)、レニウム1.07質量%
水中に塩化錫(IV)(SnCl4)、錫2.7質量%
1−プロパノール中にゲルマニウムエトキシド(Ge(OCH2CH3)4)、
ゲルマニウム0.75質量%
【0048】
蒸留水を各含浸溶液に加え、担体にその担体の体積と同じ体積分の含浸溶液を供給する。75重量部のモルデナイト(H-MOR)、及び結合剤として25重量部のγ−アルミナを含んだモルデナイト担体物質を容器中に配置する。このモルデナイトのシリカ/アルミナ比は20:1である。この担体は、直径が1.6 mm、長さ/直径比が4の円筒状ペレットである。この混合物を、ロータリーエバポレータ内で、易流動性となるまで冷間圧延することによって乾燥させる。次にこの含浸触媒を、空気中で、100℃で1時間かけて乾燥させ、続いて空気中で、510℃で6時間かけて焼成する。
【0049】
表IIはこれらの触媒を示す。レニウム、錫及びゲルマニウムの量はICP分析によって測定する。

【実施例3】
【0050】
実施例2において調製した触媒のトランスアルキル化活性を評価する。供給物には以下の成分が含まれる。

トルエン: 74.7質量%
トリメチルベンゼン: 9.6質量%
メチルエチルベンゼン: 9.9質量%
ジエチルベンゼン: 0.4質量%
ジメチルエチルベンゼン: 1.1質量%
その他: 残りの質量%
【0051】
重量空間速度が4hr-1、圧力が1725kPa(ゲージ圧)、そして水素/炭化水素比が5.8:1となるように水素を供給する、といった条件下で評価を行った。この評価の結果を表IIIに要約する。

【0052】
表IIIに要約されたデータは、レニウム及びゲルマニウムの両成分を含有する触媒に錫を加えることで、芳香族の環損失が低下することを示している。また錫及びレニウム含有触媒における環損失が、ゲルマニウム及びレニウム含有触媒における環損失よりも大きいことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル芳香族化合物のトランスアルキル化に適した触媒において、前記触媒が、触媒として有効な量の酸性分子篩と、元素ベースで少なくとも0.05質量%のレニウムと、そして錫及びゲルマニウムの組み合わせとによって構成されており、前記触媒が、評価条件下で、実質的に同質ではあるが錫を含まない触媒、及び実質的に同質ではあるがゲルマニウムを含まない触媒よりも低い環損失を示すことを特徴とする触媒。
【請求項2】
ゲルマニウム/レニウムの原子比が少なくとも2:1、そして錫/レニウムの原子比が少なくとも0.1:1であることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項3】
錫とゲルマニウムの合計/レニウムの原子比が少なくとも3:1、そして錫/ゲルマニウムの原子比が少なくとも0.2:1であることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項4】
前記酸性分子篩が、少なくとも6Åの細孔径を有する分子篩によって構成されることを特徴とする請求項3記載の触媒。
【請求項5】
前記レニウムの量が、元素ベースで0.1〜1質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項6】
さらに結合剤によって構成される触媒において、前記酸性分子篩が、前記触媒の質量に基づいて5〜95質量%の量のモルデナイトによって構成されることを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項7】
アルキル芳香族化合物のトランスアルキル化のためのプロセスにおいて、前記プロセスが、軽質芳香族化合物及び重質芳香族化合物から成るトランスアルキル化供給物ストリームを、触媒として有効な量の酸性分子篩と、触媒として有効な量のレニウムと、及びゲルマニウム/レニウムの原子比が少なくとも2:1、また錫/レニウムの原子比が少なくとも0.1:1となる錫及びゲルマニウムの組み合わせとによって構成されるトランスアルキル化触媒の存在を含むトランスアルキル化条件下での処理にかけるステップで構成されることを特徴とするプロセス。
【請求項8】
前記酸性分子篩が、少なくとも6Åの細孔径を有する分子篩によって構成されることを特徴とする請求項7記載のプロセス。
【請求項9】
前記酸性分子篩がモルデナイトによって構成され、そして前記触媒が、元素ベースで0.1〜1質量%のレニウムを含むことを特徴とする請求項7記載のプロセス。
【請求項10】
前記ゲルマニウム/レニウムの原子比が、2:1〜50:1の範囲内であることを特徴とする請求項7記載のプロセス。

【公開番号】特開2008−55413(P2008−55413A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−195290(P2007−195290)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】