説明

錫めっき手法を活用して作製した光触媒膜及び光触媒材の製造方法

【課題】優れた光触媒活性を有する光触媒を工業的量産化に適した安価な方法にて製造する方法を提供する。
【解決手段】チタン又はチタン合金上に、結晶質の酸化チタン皮膜及び結晶質の酸化錫皮膜が形成されてなる光触媒の製造方法であって、(1)チタン又はチタン合金1上に、錫皮膜を部分的に形成させることにより錫皮膜形成体を得る工程、並びに(2)工程(1)で得られた錫皮膜形成体を酸化処理することにより、結晶質の酸化チタン皮膜2及び結晶質の酸化錫皮膜3を形成させる工程、を含む光触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫めっき手法を活用して作製した光触媒膜及び光触媒材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒に光が照射されると、電子(e)と正孔(h)を生じさせ、該正孔が周囲(例えば空気中、水中等)の水分と反応することによりヒドロキシラジカル(・OH)が生じる。このヒドロキシラジカルは有害物質や悪臭物質を分解することができると考えられている。従って、光触媒には、例えば、脱臭剤、水浄化剤等としての使用が期待されている。
【0003】
また、光触媒は、表面に光が照射されると超親水性を発現することにより、セルフクリーニング効果を発揮できる。従って、光触媒は、汚れが付きにくい照明器具、街路灯、建築材料等を実現できる。
【0004】
光触媒の中でも、特に、酸化チタンは、高い光触媒活性を有し、化学的に安定していること、安全で且つ使用が容易であること等から種々の分野での応用が期待されている。
【0005】
この酸化チタンの結晶構造としては、ルチル型、ブルッカイト型及びアナターゼ型の3種類が存在する。主に工業的に利用されているのは、ルチル型とアナターゼ型の2種類である。特に、アナターゼ型酸化チタンは、優れた光触媒活性を有する。一方、ルチル型酸化チタンはほとんど光触媒活性を有しない。
【0006】
アナターゼ型酸化チタンとしては、直径数nmのアナターゼ型酸化チタン微粒子が主に工業的に利用されている。前記アナターゼ型酸化チタン微粒子は、通常、バインダーとともに混練して得られた混練物を塗布して利用されている。
【0007】
しかしながら、前記混練物を基材に塗布して形成された皮膜は、基材から剥離しやすいという問題がある。また、前記アナターゼ型酸化チタン微粒子の多くが、皮膜表面に露出していないため、十分な光触媒活性を発揮できないという問題がある。
【0008】
一方、金属チタンを直接酸化処理して光触媒作用がある皮膜を形成させる技術についても精力的に開発・検討されている。例えば、特許文献1には、酸を含み、且つ光触媒活性を有する微粒子が添加されている電解浴中に、チタン材を浸漬し、火花放電発生電圧以上の電圧を印加して陽極酸化処理を行う方法が開示されている。また特許文献2には、硫酸、燐酸及び過酸化水素を含有する電解液を用いてチタンを陽極電解酸化する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2の方法は、工程が煩雑であるため、光触媒を工業的に量産化する場合、コストが高いという問題がある。また、得られる酸化チタン中におけるアナターゼ型酸化チタンの割合が少ないため、特許文献1及び2の光触媒は、十分な光触媒活性を有さない。
【0010】
また、アナターゼ型酸化チタンの結晶構造は不安定であるため、酸化チタンの製造プロセスによっては、光触媒活性をほとんど有しないルチル型酸化チタンが得られるという問題がある。
【0011】
このような従来技術を背景として、工業的量産化に適した安価な方法により、優れた光触媒活性を有する光触媒を製造する方法の確立が望まれている。
【特許文献1】特開平11−100695号公報
【特許文献2】特開平11−315398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の主な目的は、優れた光触媒活性を有する光触媒を工業的量産化に適した安価な方法にて製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の工程を経る製造方法が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の光触媒の製造方法及び該方法により製造された光触媒に係る。
1. チタン又はチタン合金上に、結晶質の酸化チタン皮膜及び結晶質の酸化錫皮膜が形成されてなる光触媒の製造方法であって、
(1)チタン又はチタン合金上に、錫皮膜を部分的に形成させることにより、錫皮膜形成体を得る工程、並びに
(2)工程(1)で得られた錫皮膜形成体を酸化処理することにより、結晶質の酸化チタン皮膜及び結晶質の酸化錫皮膜を形成させる工程、
を含む光触媒の製造方法。
2. チタン又はチタン合金が、シート状である上記項1に記載の光触媒の製造方法。
3. 工程(1)において、チタン又はチタン合金の表面に水素化チタン皮膜を形成させた後、電気めっき処理を行うことにより、該水素化チタン皮膜上に、錫皮膜を部分的に形成させる上記項1又は2に記載の光触媒の製造方法。
4. 工程(1)における水素化チタン皮膜の形成が、フッ化物塩及び酸解離定数が低いカルボン酸を含む溶液中に、チタン又はチタン合金を浸漬させることにより行われる上記項3に記載の光触媒の製造方法。
5. 工程(1)における電気めっき処理が、電気量1000クーロン未満の条件下で行われる上記項3又は4に記載の光触媒の製造方法。
6. 工程(2)における酸化処理が、酸素存在下、700℃以上で加熱することにより行われる上記項1〜5のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
7. 工程(2)において形成された酸化チタン皮膜の結晶構造がルチル型である上記項1〜6のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
8. 上記項1〜7のいずれかに記載の方法により得られる光触媒。
【0015】
<光触媒の製造方法>
本発明の光触媒の製造方法は、
チタン又はチタン合金上に、結晶質の酸化チタン皮膜及び結晶質の酸化錫皮膜が形成されてなる光触媒の製造方法であって、
(1)チタン又はチタン合金上に、錫皮膜を部分的に形成させることにより錫皮膜形成体を得る工程、並びに
(2)工程(1)で得られた錫皮膜形成体を酸化処理することにより、結晶質の酸化チタン皮膜及び結晶質の酸化錫皮膜を形成させる工程、
を含む。
【0016】
本発明の製造方法は、前記工程(1)及び工程(2)を一体的に採用することにより、優れた光触媒活性を有する光触媒を低コストで製造することを可能にする。
【0017】
本明細書において、「光触媒活性」とは、超親水作用及び強力な酸化作用を意味する。
【0018】
本発明の製造方法により得られる光触媒中の酸化チタンの結晶構造はルチル型である。ルチル型酸化チタンは、チタン又はチタン合金を酸化処理することにより容易に得られるため大量生産できるという利点がある。しかしながら、ルチル型酸化チタンは、光励起により生じた電子(e)と正孔(h)とが再結合しやすいため、十分な光触媒活性を発揮できないという問題がある。
【0019】
本発明の製造方法は、前記工程(1)及び工程(2)を一体的に採用することにより、前記再結合を防止又は抑制し、優れた光触媒活性を発揮できるルチル型酸化チタン光触媒を製造できる。
【0020】
工程(1)
工程(1)では、チタン又はチタン合金上に、錫皮膜を部分的に形成させることにより錫皮膜形成体を得る。
【0021】
<チタン及びチタン合金>
前記チタン合金としては、光触媒用として一般的に用いられているチタン合金を使用することができる。例えば、Ti−6Al−4V、Ti−0.5Pd、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−3Al−2.5V、Ti−6Al−2Cb−1Ta−1Mo、Ti−
8Al−1Mo−1V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−13V−11Cr−3Al等が挙げられる。
【0022】
以下、本明細書では、チタン及びチタン合金について説明する際、チタンを代表例として本発明の製造方法及び該方法により得られる光触媒について具体的に説明する。
【0023】
前記チタンは、シート状のものが好ましい。シート状のチタンを用いる場合、シート状の光触媒が得られる。従来の粒子状の光触媒は、使用に際して酸化チタン粒子が欠落しやすいという問題がある。また、欠落しないようにバインダーと混合して使用する場合には、バインダー中に光触媒が埋設されてしまい、十分な光触媒活性を発揮できないという問題がある。これに対し、シート状の光触媒は、前記問題を好適に回避し、高い光触媒活性を安定して発揮できる。
【0024】
シート状のチタンの面積は、特に限定されず、光触媒の用途等に応じて適宜設定すればよい。
【0025】
シート状のチタンの厚みについては限定的ではないが、0.1〜500μm程度が好ましく、10〜50μm程度がより好ましい。
【0026】
<前処理>
本発明の製造方法においては、錫皮膜の形成を容易にするために、チタン上に錫皮膜を形成させるのに先だって、脱脂処理、エッチング処理等の前処理を行うことが好ましい。特に、チタンを脱脂処理した後に、エッチング処理を行うことが好ましい。
【0027】
(i)脱脂処理
前記脱脂処理は、公知の方法に従って行えばよい。公知の方法としては、例えば、チタンを界面活性剤中に浸漬させる方法が挙げられる。
【0028】
前記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンナフチルエーテル、ポリオキシアルキレンビスフェノールエーテル等のノニオン系界面活性剤を好適に使用できる。また、ノニオン系界面活性剤として、市販の中性洗剤を使用することもできる。
【0029】
前記界面活性剤の温度及び浸漬時間については特に限定されず、チタンの大きさ等に応じて適宜設定すればよい。
【0030】
その他、チタンを電解液中に浸漬させて直流電流を流す方法(電解研磨処理)、チタンを有機溶剤中に浸漬させる方法等により脱脂処理を行うこともできる。
【0031】
(ii)エッチング処理
前記エッチング処理は、例えば、脱脂処理後のチタンをエッチング液に浸漬させる方法により行える。
【0032】
エッチング液としては、チタンに対してエッチング効果を発揮できる限り特に限定されず、例えば、無機酸や有機酸を含む水溶液を用いることができる。
【0033】
無機酸としては、例えば、フッ化水素酸、硝酸、硫酸等が挙げられる。これらは一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0034】
有機酸としては、例えば、スルファミン酸、クエン酸、リンゴ酸等が挙げられる。これらは一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
特に、前記エッチング液としては、フッ化水素酸及び硝酸を含む水溶液が好ましい。
【0036】
前記水溶液中のフッ化水素酸の濃度は、0.01〜1M程度が好ましい。また、前記水溶液中の硝酸の濃度は、0.01〜1M程度が好ましい。
【0037】
エッチング液の温度は、エッチング効果が好適に得られる範囲内であればよく特に限定されない。例えば、常温程度でよい。
【0038】
浸漬時間は、通常数秒〜60分間程度、好ましくは1〜5分間程度である。
【0039】
<錫皮膜の形成>
チタン上に錫皮膜を部分的に形成させる方法としては、例えば、前記前処理を施したチタンの表面に水素化チタン(TiH)皮膜を形成させた後、電気めっき処理を行う方法が挙げられる。
【0040】
(i)水素化チタン皮膜の形成
水素化チタン皮膜を形成させることにより、チタン上に錫皮膜を好適に密着させることができる。水素化チタン皮膜は、通常、チタンの表面全体に形成する。
【0041】
前記水素化チタン皮膜の厚みは、0.1〜5μm程度が好ましく、1〜2μm程度がより好ましい。
【0042】
なお、本明細書における水素化チタン皮膜の厚みは、渦電流膜厚計(製品名「EDY−I」サンコウ電子研究所製)を用いて測定した値である。
【0043】
また、後記錫皮膜、酸化錫皮膜及び酸化チタン皮膜の厚みについても、上記と同様の方法により測定した値である。
【0044】
前記水素化チタン皮膜の面積及び厚みは、例えば、下記フッ化物塩等の濃度、浸漬時間等を適宜設定することにより容易に調整できる。
【0045】
前記水素化チタン皮膜を形成する方法としては、例えば、チタンを化成処理する方法が挙げられる。前記化成処理の具体例として、例えば、フッ化物塩及び酸解離定数(pKa)が低いカルボン酸を含む溶液中にチタンを浸漬させる方法がある。
【0046】
前記溶液は、例えば、前記フッ化物塩及び前記カルボン酸を溶媒に溶解させることにより調製できる。
【0047】
前記フッ化物塩としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム等が挙げられる。これらフッ化物塩は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
前記溶液中における前記フッ化物塩の濃度は、0.01〜1M程度が好ましい。
【0049】
前記カルボン酸としては、pKaが0.635〜4.874程度のカルボン酸が好ましい。前記カルボン酸としては、例えば、スルファミン酸、しゅう酸、蟻酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、ジクロロ酢酸、酒石酸、チオグリコール酸、トリクロロ酢酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、マレイン酸、マロン酸、モノクロロ酢酸、酪酸、安息香酸、サリチル酸、ピコリン酸、フタル酸等が挙げられる。これらカルボン酸は、一種又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0050】
前記溶液中における前記カルボン酸の濃度は、0.01〜1M程度が好ましい。
【0051】
前記溶媒としては、前記フッ化物塩及び前記カルボン酸を溶解できるものであればよく特に限定されない。例えば、水、極性溶媒等が挙げられる。前記極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、氷酢酸、ニトロベンゼン、アニリン等が挙げられる。
【0052】
前記溶液の温度は、95℃程度以下が好ましく、65℃程度以下がより好ましく、10〜65℃程度がさらに好ましい。
【0053】
浸漬時間は、通常1〜30分間程度、好ましくは3〜7分間程度である。
【0054】
(ii)電気めっき処理
電気めっき処理を行う方法としては、例えば、水素化チタン皮膜が形成されたチタンを錫イオンを含む電解液に浸漬させ、直流電流を流す方法が挙げられる。
【0055】
前記錫イオンとしては、2価又は4価の錫イオンがある。これらは、一種単独で含有していてもよいし、両者が併存していてもよい。
【0056】
前記電解液は、公知の錫化合物を溶媒に溶解させることにより調製する。前記錫化合物としては、例えば、硫酸第一錫、硫酸第二錫、塩化第一錫、ピロリン酸第二錫、錫酸ナトリウム、錫酸カリウム、メタ錫酸、スルファミン酸第一錫、スルファミン酸第二錫等が挙げられる。これら錫化合物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0057】
前記溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、DMSO,DMF,氷酢酸、ニトロベンゼン、アニリン等が挙げられる。これら溶媒については一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0058】
前記電解液中における錫イオンの濃度は、0.001〜5M程度が好ましく、0.01〜0.05M程度がより好ましい。錫イオンの濃度が0.001〜5M程度である場合、優れた光触媒活性を有する光触媒が好適に得られる。
【0059】
前記電解液には、前記錫化合物以外にも、公知の添加剤を含有させてもよい。前記添加剤としては、例えば、導電性塩、光沢剤、湿潤剤等が挙げられる。
【0060】
前記導電性塩としては、例えば、ポリリン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム等のナトリウム塩;ポリリン酸カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム等のカリウム塩;塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩等が挙げられる。これらは一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。この中でも特に、アンモニウム塩が好ましく、硫酸アンモニウムがより好ましい。
【0061】
前記光沢剤としては、例えば、サッカリン、サッカリンナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ブチンジオール、クマリン、ジエチルトリアミン等が挙げられる。これら光沢剤は一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0062】
前記湿潤剤としては、例えば、アルカノールアミン、アルキレングリコール等が挙げられる。これらは一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0063】
前記電解液中におけるこれら添加剤の含有量は、特に限定されず、目的とする錫皮膜の面積、厚み等に応じて適宜設定すればよい。
【0064】
前記電解液の温度(浴温)は、95℃程度以下が好ましく、60℃程度以下がより好ましく、20〜60℃程度がさらに好ましい。
【0065】
前記チタンの浸漬時間(電気めっき処理時間)は、後述する電流密度等に応じて適宜設
定すればよいが、通常30分間程度以下、好ましくは1〜10分間程度である。
【0066】
本発明の製造方法では、前記電流の電気量及び電流密度を調整することにより、形成される錫皮膜の面積や厚みを調整できる。
【0067】
前記電流の電気量は、1000C未満程度が好ましく、180〜720C程度がより好ましい。前記電気量を1000C未満程度に設定することにより、形成される錫(又は酸化錫)皮膜が剥離する等の問題を好適に回避できる。また、前記電気量を180C程度以上に設定することにより、光触媒活性に優れた光触媒が好適に得られる。
【0068】
前記電流の電流密度は、2.0A/dm未満程度が好ましく、0.5〜1.5A/dm程度がより好ましい。前記電流の電流密度は、2.0A/dm未満程度に設定することにより、形成される錫(又は酸化錫)皮膜が剥離する等の問題を好適に回避できる。また、前記電流密度を0.5A/dm程度以上に設定することにより、光触媒活性に優れた光触媒が好適に得られる。
【0069】
例えば、水素化チタン皮膜が形成されたチタンを錫イオンの濃度が0.01〜0.05M程度の電解液に浸漬させ、電気量180〜720C程度及び電気密度0.5〜1.5A/dm程度の条件下で、1〜10分間程度電気めっき処理を行うことにより、水素化チタン皮膜上に錫皮膜を部分的に形成できる。
【0070】
<錫皮膜形成体>
工程(1)で得られる錫皮膜形成体は、チタン上又は水素化チタン皮膜上に錫皮膜が部分的に形成されたものである。すなわち、前記成形体は、チタン又は水素化チタン皮膜の一部が露出している。チタン又は水素化チタン皮膜の全面にではなく、部分的に錫皮膜を形成させることにより、酸化チタンが露出した光触媒が得られる。酸化チタンを露出させることにより、光触媒活性を十分に発揮できる。
【0071】
前記錫皮膜の面積は、チタンの全面積の20〜80%程度が好ましく、40〜60%程度がより好ましい。錫皮膜の面積が、チタンの全面積の20〜80%程度である場合、優れた光触媒活性を有する光触媒が好適に得られる。
【0072】
前記錫皮膜の面積は、走査型電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析装置(EDX)とを組み合わせた分析走査電子顕微鏡(製品名「SEMEDX TypeN」日立製作所製)を用いて撮影した画像を解析することにより求めることができる。
【0073】
前記錫皮膜の厚みは、0.01μm程度以上が好ましく、1〜10μm程度がより好ましい。
【0074】
前記錫皮膜の面積及び厚みについては、前述する条件(電気量、電流密度、浸漬時間等)を適宜設定することにより調整できる。
【0075】
工程(2)
工程(2)では、工程(1)で得られた錫皮膜形成体を酸化処理することにより、結晶質の酸化チタン(TiO)皮膜及び結晶質の酸化錫(SnO)皮膜を形成させる。
【0076】
すなわち、前記酸化処理により酸化される部分は、前記錫皮膜形成体中における1)錫皮膜及び2)チタン又は水素化チタン皮膜錫皮膜に対して行われる。
【0077】
酸化処理を行う方法は、結晶質の酸化チタン皮膜及び結晶質の酸化錫皮膜を形成できる条件下であれば特に制限されない。
【0078】
例えば、工程(1)で得られた錫皮膜形成体を、酸素存在下、700℃程度以上、好ましくは700〜1000℃程度で加熱する方法が挙げられる。700℃程度以上で加熱することにより、結晶質の酸化チタン皮膜及び結晶質の酸化錫皮膜を好適に形成できる。
【0079】
加熱には、ガスフローにて処理する雰囲気炉等の公知の加熱炉を用いることができる。
【0080】
加熱時間は、加熱炉の種類に応じて適宜設定すればよく、例えば、加熱炉として雰囲気炉を用いる場合、通常10時間程度以下、好ましくは1〜3時間程度である。
【0081】
前記酸素存在下で加熱する際の酸素源としては、高純度酸素を用いてもよいし、経済性を考慮して空気を利用してもよい。
【0082】
<光触媒>
本発明の光触媒は、前記本発明の製造方法により得られる。前記光触媒は、結晶質の酸化チタン皮膜及び結晶質の酸化錫皮膜がチタン上に混在している。
【0083】
本発明の光触媒の断面図(概念図)を図4に示す。
【0084】
前記酸化チタン皮膜の厚みは、通常0.1〜10μm程度、好ましくは2〜4μm程度である。
【0085】
前記酸化チタン皮膜の結晶構造は、ルチル型である。
【0086】
本発明の光触媒は、酸化チタン皮膜の結晶構造がルチル型であっても、後記酸化錫皮膜を有することにより、優れた光触媒活性を発揮できる。
【0087】
前記酸化錫皮膜の面積は、チタン又はチタン合金の面積に対して面積に対して20〜80%程度が好ましく、40〜60%程度がより好ましい。
【0088】
前記酸化錫皮膜の厚みは、通常0.1〜10μm程度、好ましくは2〜4μm程度である。
【0089】
前記酸化チタン皮膜の厚みと前記酸化錫皮膜の厚みの合計は、0.2〜20μm程度が好ましく、5〜8μm程度がより好ましい。
【0090】
本発明の光触媒は、従来の光触媒よりも優れた光触媒活性を有する。そのため、種々有害物質、悪臭物質等を好適に分解できる。特に、本発明の光触媒は、アセトアルデヒド、ダイオキシン、窒素酸化物等の空気中の有機物質を好適に分解することができる。従って、本発明の光触媒は、例えば、脱臭剤、空気清浄機のフィルター、壁紙等として好適に使用できる。
【0091】
また、本発明の光触媒は、水中に存在する難分解性物質(例えばトリハロメタン等)等を好適に分解することができる。従って、本発明の光触媒は、例えば、水浄化剤としても好適に使用できる。
【0092】
さらに、本発明の光触媒に光が照射されると、その表面が超親水性になる。従って、本発明の光触媒は、十分なセルフクリーニング効果を発揮できるため、汚れが付きにくく、且つ、汚れが落ちやすい部材(例えば、照明器具、街路灯、建築材料等)を実現できる。
【発明の効果】
【0093】
本発明の製造方法は、前記工程(1)及び工程(2)を一体的に採用することにより、優れた光触媒活性を有する光触媒を低コストで製造することを可能にする。
【0094】
本発明の製造方法により得られる光触媒は、アセトアルデヒド、ダイオキシン、窒素酸化物等の空気中の有害物質や悪臭物質を好適に分解できるため、例えば、脱臭剤、空気清浄機のフィルター、壁紙等として好適に使用できる。
【0095】
また、前記光触媒は、水中に存在する難分解性物質(例えばトリハロメタン等)等を好適に分解することができるため、例えば、水浄化剤として好適に使用できる。
【0096】
さらに、前記光触媒は、優れたセルフクリーニング効果を発揮できるため、例えば、照明器具、街路灯、建築材料等の部材表面に設置することにより、これら部材に汚れが付着することを防止又は抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0097】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0098】
実施例1
厚さ0.4mm、縦50mm、横20mmのシート状のチタンをノニオン系界面活性剤の浴に入れ、浴温度50℃で5分間、脱脂処理を施した。ノニオン系界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤(商品名「エマルゲン」花王製)を用いた。
【0099】
次に、前記脱脂処理物をフッ化水素酸及び硝酸を溶解させた混合水溶液(フッ化水素酸:0.01M、硝酸:0.01M)の浴中に、浴温度20℃で5分間浸漬させることにより、エッチング処理を行った。
【0100】
得られたエッチング処理物を、スルファミン酸とフッ化リチウムを水に溶解させてなる溶液(スルファミン酸:0.1M、フッ化リチウム:0.35M)中に浸漬させることにより化成処理を行い、水素化チタン皮膜(厚み約1μm)をチタン表面全体に形成させた。
【0101】
得られた水素化チタン皮膜形成物を表1に示す組成の電解液浴に浸漬させ、電気めっき処理を行った。電気めっき処理は、電気量720C、電流密度1.5A/dm、浴温60℃、浸漬時間8分間の条件下で行った。
【0102】
かかる処理により、水素化チタン皮膜上に錫皮膜(厚み:1〜2μm、面積:チタンに対して50%)を形成させた。
【0103】
【表1】

【0104】
次に、得られた錫皮膜形成体を大気中で酸化処理をした。本実施例では、熱分析装置(製品名「TGA-60」島津製作所製)を用いて、錫の状態変化を分析しながら酸化処理を行った。
【0105】
熱分析結果を図1に示す。
【0106】
図1から、約700℃以上の温度で酸化処理を行うことにより、結晶質の酸化錫が得られることがわかる。
【0107】
実施例2
実施例1で得られた錫皮膜形成体を、大気中700℃で2時間加熱することにより酸化処理を行った。加熱には、電気炉(製品名「KDF P-80」デンケン製)を用いた。
【0108】
得られた酸化処理物(光触媒)の皮膜構造の解析を薄膜用X線回折装置(製品名「RINT2000」理学電機製)を用いて行った。
【0109】
結果を図2に示す(図2のb))。
【0110】
図2のb)のX線回折(XRD)から、結晶質の酸化錫(SnO2)及びルチル型酸化チタンが形成されていることがわかる。
【0111】
なお、図2には、実施例1で得られた錫皮膜形成体(酸化処理前)のXRDを併せて示す(図2のa))。
【0112】
実施例3
電気めっき処理における電気量を360Cとした以外は実施例2と同様の方法により光触媒を作製した。
【0113】
実施例4
電気めっき処理における電気量を180Cとした以外は実施例2と同様の方法により光触媒を作製した。
【0114】
実施例5
電気めっき処理における電流密度を1.0A/dmとした以外は実施例2と同様の方法により光触媒を作製した。
【0115】
実施例6
電気めっき処理における電流密度を0.5A/dmとした以外は実施例2と同様の方法により光触媒を作製した。
【0116】
試験例1(光触媒活性評価)
実施例2〜6で作製した光触媒の光触媒活性をメチレンブルー脱色試験により評価した。
【0117】
まず、実施例2〜6にて作製した光触媒を15mm角に加工し試験片を作製した。得られた試験片を10ppmのメチレンブルー水溶液(50ml)中に浸漬し、ブラックライトを用いて60cm離れた距離から近紫外線(中心波長約360nm)を0〜120分間照射した。
【0118】
その後、近紫外線照射後のメチレンブルー水溶液のメチレンブルー濃度Cを経時的に求めた。前記メチレンブルー濃度は、紫外可視分光分析装置(製品名「UV−2500」島津製作所製)を使用して、波長680nmの吸光度を測定することにより算出した。
【0119】
そして、算出したメチレンブルー濃度Cを近紫外線照射前のメチレンブルー水溶液のメチレンブルー濃度Cで除することにより、メチレンブルー除去率(C/C)を求めた。
【0120】
結果を図3に示す。
【0121】
なお、図3には、前記エッチング処理物を直接700℃で酸化処理して得られたシート状の酸化チタンに対して、前記メチレンブルー脱色試験を行った場合の結果も併せて示す。
【0122】
図3から、実施例2〜6にて作製された光触媒は、いずれもメチレンブルーを効果的に分解しており、優れた光触媒活性を発揮できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1には、実施例1における熱分析結果を示す。
【図2】図2には、実施例2において測定したXRD図(a)酸化処理前のXRD図、b)酸化処理後のXRD図)を示す。
【図3】図3には、近紫外線照射時間(分)を横軸とし、試験例1において求めたメチレンブルー除去率(C/C)を縦軸としてプロットしたグラフを示す。
【図4】図4には、本発明の光触媒の断面図(概念図)を示す。
【符号の説明】
【0124】
1…チタン又はチタン合金
2…酸化チタン皮膜
3…酸化錫皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金上に、結晶質の酸化チタン皮膜及び結晶質の酸化錫皮膜が形成されてなる光触媒の製造方法であって、
(1)チタン又はチタン合金上に、錫皮膜を部分的に形成させることにより、錫皮膜形成体を得る工程、並びに
(2)工程(1)で得られた錫皮膜形成体を酸化処理することにより、結晶質の酸化チタン皮膜及び結晶質の酸化錫皮膜を形成させる工程、
を含む光触媒の製造方法。
【請求項2】
チタン又はチタン合金が、シート状である請求項1に記載の光触媒の製造方法。
【請求項3】
工程(1)において、チタン又はチタン合金の表面に水素化チタン皮膜を形成させた後、電気めっき処理を行うことにより、該水素化チタン皮膜上に、錫皮膜を部分的に形成させる請求項1又は2に記載の光触媒の製造方法。
【請求項4】
工程(1)における水素化チタン皮膜の形成が、フッ化物塩及び酸解離定数が低いカルボン酸を含む溶液中に、チタン又はチタン合金を浸漬させることにより行われる請求項3に記載の光触媒の製造方法。
【請求項5】
工程(1)における電気めっき処理が、電気量1000クーロン未満の条件下で行われる請求項3又は4に記載の光触媒の製造方法。
【請求項6】
工程(2)における酸化処理が、酸素存在下、700℃以上で加熱することにより行われる請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
【請求項7】
工程(2)において形成された酸化チタン皮膜の結晶構造がルチル型である請求項1〜6のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法により得られる光触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−94571(P2010−94571A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264858(P2008−264858)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(593204292)株式会社昭和 (5)
【Fターム(参考)】