説明

錫めっき鋼帯の製造方法

【課題】メタンスルホン酸を含有するめっき浴を用い、高電流密度のめっき条件でも優れためっき均一性の得られる錫めっき鋼帯の製造方法を提供する。
【解決手段】搬送される鋼帯に電気錫めっきを施す錫めっき鋼帯の製造方法において、10〜80 g/lの錫イオン、15〜70 g/lの遊離メタンスルホン酸、0.1〜10 g/lの光沢剤および0.1〜5 g/lの酸化防止剤を含有するめっき浴を使用し、かつめっき時の電流密度をC A/dm2、鋼帯の搬送速度をR m/min、めっき浴中の鉄イオン濃度を[Fe] g/lとしたとき、めっき浴中の錫イオン濃度[Sn] g/lを下記の式1を満足するように調整する。
[Sn]≧(7.2+0.3×C−0.05×R+0.65×[Fe]) ・・・式1

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンスルホン酸が含有される錫めっき浴を用い、電気錫めっきを施して錫めっき鋼帯を製造する方法、および錫めっき後に溶錫処理を行って錫めっき鋼帯を製造する方法に関する。特に、めっき浴中の鉄イオン濃度が高くなっても、均一な錫めっきが行える錫めっき鋼帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯に錫めっきを施す場合、錫イオンを主成分とし、電導助剤と光沢剤あるいはさらに酸化防止剤の添加されためっき浴が用いられている。めっき浴は用いられる電導助剤の種類によって分類され、塩素、フッ素等のハロゲンを用いたハロゲン浴、メタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸を用いたアルキルスルホン酸浴、フェノールスルホン酸を用いたフェロスタン浴、アルカノールスルホン酸を用いたアルカノールスルホン酸浴等が使用されている。
【0003】
めっき浴にハロゲン浴を用いると、広い電流密度範囲にわたる電気錫めっき条件で優れためっき均一性が得られるが、ハロゲンイオンを含むスラッジが多量に発生する。これは、空気中の酸素によって2価から4価に酸化された錫が溶解度の小さいハロゲン化物塩となって沈殿するためである。この多量に発生するスラッジをめっきセル底に沈殿除去させるために、鋼帯には水平型のめっきセルで片面ずつめっきが施される。このため、先にめっきを施す面(「先めっき面」と呼ぶ)と後からめっきを施す面(「後めっき面」と呼ぶ)が生じ、後めっき面は先めっき面にめっきが施されるまで鋼帯表面が露出されたままになっている。通常、電気めっきを行う場合は、めっき前に鋼帯を酸洗し、表面の酸化物を除去して鋼帯表面を活性な状態にする。しかし、酸洗後に鋼帯表面が乾燥されると再び不活性な酸化物が形成され、めっき後に外観色調不良を招くため、酸洗後の鋼帯表面は常に濡れた状態に保たれる。実際には、後めっき面が、先めっき面へのめっきが終了するまでめっき浴中に浸漬された状態に保たれる。そのため、後めっき面からめっき浴中に多量の鉄が溶出する。鉄が溶出して3価の鉄イオンが生じると錫の酸化が促進されるため、鉄イオンと反応して化合物を作る性質を有する添加剤を使用して鉄イオンを不溶性の塩として沈殿除去させる方法が取られているが、そのために多量のスラッジの発生が伴う。
【0004】
フェロスタン浴の場合は、たて型のめっきセルが用いられ、基本的に鋼帯には両面同時にめっきが施されるため、鋼帯から溶出する鉄は少ない。しかし、鋼帯がめっき浴に浸漬し始めてから錫めっき層がある程度形成されるまでは鉄の溶出は免れない。
【0005】
このように、めっきセル設備により鋼帯表面からの鉄の溶出速度は異なる。一方、めっき浴中の鉄イオン濃度の減少は、鋼帯表面に付着するめっき液膜による鉄イオンの持ち出しが主因である。鉄イオンの持ち出し量も、めっきセルやそれに続くめっきリンス設備によって異なる。いずれの錫めっき設備においても、鋼帯から溶出する鉄イオンの増加量とめっき液膜による持ち出しによる鉄イオンの減少量がバランスして、めっき浴中の鉄イオン濃度が決まってくる。実際の電気錫めっき設備のめっき浴では、水平型のめっきセルで30〜40 g/l(リットル)程度、たて型のめっきセルで5〜8 g/l程度の鉄イオン濃度となる。
【0006】
近年、環境問題がクロ−ズアップされる中で、ハロゲンイオンを含むスラッジの処理が困難となってきており、ハロゲン浴からメタンスルホン酸浴への切り替えが行われるようになった。また、フェロスタン浴も、芳香族であるフェノールスルホン酸が用いられるため、やはりメタンスルホン酸浴への切り替えが行われるようになった。
【0007】
しかしながら、メタンスルホン酸浴では、めっき浴のpHが低いため、ハロゲン浴やフェロスタン浴に比べ鋼帯からの鉄の溶出速度が速く、めっき浴中の鉄イオン濃度は高くなる。それに伴い、高電流密度条件で電気錫めっきを行うとめっき均一性が劣化することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。上述のようにめっき浴中の鉄イオン濃度はめっきセルやリンス設備によって異なるが、めっきセル数の限られた設備で十分なめっき付着量の錫めっき鋼帯を製造するには生産性を考慮して高電流密度条件で操業を行うことが望ましい。したがって、鉄イオン濃度が高い場合に低電流密度条件で操業すると、必要な電気量を得るために電解時間を長くする必要があり、それには鋼帯の搬送速度、すなわちライン速度を下げる必要があるため、生産性の低下を招く。さらに、本発明者らの知見によれば、同じ電流密度条件で行ってもライン速度を低下させるとめっき均一性が低下し、良好なめっき均一性の得られる操業条件が極めて狭くなり、実操業が困難となる。
【0008】
めっき浴中に鉄イオンを含有させて錫めっき鋼帯の耐食性を向上させる技術も開示されている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、フェノールスルホン酸浴に鉄イオンを含有させ、めっき層に微量の鉄を存在させて耐食性の向上が図られている。しかし、鉄イオンがめっき均一性に及ぼす影響については言及されていない。また、メタンスルホン酸浴を用いた例も上がっているが、高耐食性が得られる最適な電流密度範囲が存在せず、めっき均一性に問題のあることが推察される。
【0009】
なお、下記の非特許文献2は、後述の[実施例]で述べるめっき均一性の評価法に関する。
【特許文献1】国際公開第97/32058号パンフレット
【非特許文献1】George A. Federman et al: “5thInternational Tinplate Conference” (Industrial Tin Research Institute), 1992, P.88-98
【非特許文献2】M. Tsurumura et al: “2ndInternational Tinplate Conference” (Industrial Tin Research Institute), 1980, P.348-359
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、電導助剤としてメタンスルホン酸を用いためっき浴で錫めっき鋼帯を製造しようとすると、めっきが施される前に鋼帯から鉄イオンが溶出し、めっき浴中の鉄イオン濃度は高くなる。本発明者らの知見によれば、この鉄イオン濃度が5 g/l以上になると均一なめっき層の形成が困難になり、特に、高い生産性を可能にする高電流密度条件ではその程度が著しく、めっき層が形成されない部分が生じる。
【0011】
本発明は、メタンスルホン酸を含有するめっき浴を用い、めっき浴の鉄イオン濃度が5 g/l以上になっても、高電流密度条件で優れためっき均一性の得られる錫めっき鋼帯の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが、メタンスルホン酸浴中の鉄イオン濃度が高くなると高電流密度条件でめっき均一性が劣化する要因を検討したところ、以下のような知見が得られた。
【0013】
一般的に、めっき均一性は光沢剤(界面活性剤が用いられることが多い)によって大きく左右されることが知られている。酸化防止剤も、有機系化合物であることから光沢剤と同様に界面活性剤としての作用を有していることが多く、めっき均一性に影響することが考えられる。従って、鉄イオンが存在するメタンスルホン酸浴では、光沢剤あるいは酸化防止剤は、鉄イオンと何らかの相互作用を行い本来の機能を充分発揮していない可能性がある。そこで、光沢剤あるいは酸化防止剤の添加量を増してめっき均一性が改善されるかどうかを調査した。その結果、めっき均一性の改善は全くみられず、光沢剤あるいは酸化防止剤と鉄イオンとの相互作用は無いと結論された。
【0014】
次に、錫イオンとメタンスルホン酸についても鉄イオンと何らかの相互作用があるかどうかを調査した。その結果、鉄イオン濃度が高い場合には、錫イオン濃度と遊離メタンスルホン酸の濃度が初期の濃度に比べ大きく減少していることがわかった。錫イオン濃度の減少は次のように考えられる。鋼帯から鉄は2価のイオンとして溶出するが、鋼帯の移動やめっき液の循環によって空気と接触し、酸化されて3価のイオンとなる。3価の鉄イオンは還元作用のある2価の錫イオンによって2価の鉄イオンに還元されるが、このとき錫は4価のイオンに酸化され、不溶性の水酸化錫を形成してスラッジとなる。すなわち高濃度の鉄イオンがめっき浴中に含有されると錫イオンが酸化されスラッジとなり錫イオン濃度が減少する。めっき均一性の劣化はこの錫イオン濃度減少による可能性があるので、錫イオン濃度の影響について詳細に調査したところ、鉄イオン濃度が高い場合は、単に錫イオン濃度を増加するだけではめっき均一性の改善が認められず、鉄イオン濃度、電気錫めっき時の電流密度および鋼帯の搬送速度に応じて錫イオン濃度を増加させることがより優れためっき均一性を得る上で重要であることが明らかになった。
【0015】
また、鋼帯から溶出する鉄は、メタンスルホン酸と反応して水素ガスを発生させ、負の電荷をもったメタンスルホン酸イオン2モルに対して鉄1モルの割合で会合していると考えられる。すなわち、鉄が鋼帯から溶出して鉄イオン濃度が高くなっためっき浴では、全メタンスルホン酸の量は鉄の溶出前後で変わらないが、遊離メタンスルホン酸の濃度が低くなっていると考えられる。めっき均一性の劣化はこの遊離メタンスルホン酸の濃度減少による可能性があるので、遊離メタンスルホン酸の濃度の影響について詳細に調査した。その結果、遊離メタンスルホン酸は、めっき浴の抵抗を低減する電導助剤としての役割を演じるだけではなく、めっき均一性やめっき外観にも影響を及ぼし、その濃度を常に所定の範囲内に納めることが重要であることがわかった。
【0016】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下の錫めっき鋼帯の製造方法を提供する。
【0017】
すなわち、搬送される鋼帯に電気錫めっきを施す錫めっき鋼帯の製造方法において、10〜80 g/lの錫イオン、15〜70 g/lの遊離メタンスルホン酸、0.1〜10 g/lの光沢剤および0.1〜5 g/lの酸化防止剤を含有するめっき浴を使用し、かつ電気錫めっき時の電流密度をC A/dm2、鋼帯の搬送速度をR m/min、めっき浴中の鉄イオン濃度を[Fe] g/lとしたとき、めっき浴中の錫イオン濃度[Sn] g/lを下記の式1を満足するように調整することを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。
[Sn]≧(7.2+0.3×C−0.05×R+0.65×[Fe]) ・・・式1
【0018】
および、搬送される鋼帯に電気錫めっきを施した後に溶錫処理を行う錫めっき鋼帯の製造方法において、10〜80 g/lの錫イオン、15〜70 g/lの遊離メタンスルホン酸、0.1〜10 g/lの光沢剤および0.1〜5 g/lの酸化防止剤を含有するめっき浴を使用し、かつ電気錫めっき時の電流密度をC A/dm2、鋼帯の搬送速度をR m/min、めっき浴中の鉄イオン濃度を[Fe] g/lとしたとき、めっき浴中の錫イオン濃度[Sn] g/lを下記の式2を満足するように調整することを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。
[Sn]≧(0.3×C−0.05×R+0.65×[Fe]) ・・・式2
【発明の効果】
【0019】
本発明により、メタンスルホン酸を含有するめっき浴を用い、めっき浴の鉄イオン濃度が5 g/l以上になっても、めっき浴中の錫イオン濃度と遊離メタンスルホン酸の濃度を所定の範囲に調整することにより、高電流密度条件でめっき均一性に優れた錫めっき鋼帯を製造できるようになった。なお、本発明により、めっき浴の鉄イオン濃度が5 g/l未満の場合や低電流密度条件においても、めっき均一性に優れた錫めっき鋼帯が製造できることは言うまでもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
上述のように、本発明で使用されるめっき浴には、10〜80 g/lの錫イオン、15〜70 g/lの遊離メタンスルホン酸、0.1〜10 g/lの光沢剤および0.1〜5 g/lの酸化防止剤が含有される。以下に、各構成成分の含有量の限定理由を述べる。
【0021】
錫イオン濃度:搬送される鋼帯に錫めっきを施す場合、錫イオン濃度が低い場合にはめっき均一性に優れた錫めっき鋼帯が得られない。メタンスルホン酸のめっき浴中には多量の鉄イオンが溶出されるので、錫が酸化されて錫イオン濃度が低下し易くなるため、錫イオン濃度の下限値は10 g/lとする。一方、錫イオン濃度が80 g/lを超えると、めっき浴から鋼帯面に付着するめっき液膜としてリンス槽へ持ち出される錫イオンの量が多くなりコスト高となるとともに、めっき浴中のロール等に錫が付着し易くなり鋼帯面の汚れ発生の原因ともなるので、錫イオン濃度の上限値は80 g/lとする。より好ましくは20〜40 g/lである。さらに、優れためっき均一性を得るには、錫イオン濃度を10〜80 g/lの範囲内に納めるとともに、鉄イオン濃度、電気錫めっき時の電流密度および鋼帯の搬送速度に応じて錫イオン濃度を上記の式1や式2を満足するように調整する必要がある。式1は、例えばDI缶用途等の錫めっき鋼帯を製造する場合のように溶錫処理行わないときに必要な錫イオン濃度の条件であり、式2は、錫めっき後引き続き溶錫処理を行う場合の条件である。式2の方がより低い錫イオン濃度でめっき均一性が得られるのは、錫めっきが付着していないあるいはめっき付着量が少ない部分でも、溶錫処理により溶けた錫がある程度被覆性を改善してくれるためと考えられる。錫イオン濃度の調整は、例えば、実操業中鉄イオン濃度をモニターしながら式1や式2を満足するようにメタンスルホン酸錫を補給して行える。錫イオンも、鉄イオンと同様に、水溶液中では遊離スルホン酸と会合し、メタンスルホン酸錫となるため、錫イオンを単独で補給した場合、遊離スルホン酸濃度が減少していまうため、メタンスルホン酸錫を補給するのが望ましい。
【0022】
遊離メタンスルホン酸:本発明では、メタンスルホン酸の濃度として遊離メタンスルホン酸の濃度を調整することが重要である。遊離メタンスルホン酸の濃度が低い場合にはめっき浴の抵抗が高くなり、電圧上昇による電力消費量が多くなる。また、上述のようにめっき均一性やめっき外観にも影響を及ぼすため、遊離メタンスルホン酸の濃度は15 g/l以上とする。一方、遊離メタンスルホン酸の濃度が高いと、めっき浴から鋼帯面に付着する液膜としてリンス槽へ持ち出される遊離メタンスルホン酸の量が多くなりコスト高となるとともに、pHが低下して鋼帯からの鉄イオンの溶出量が多くなるので、遊離メタンスルホン酸の濃度の上限値は70 g/lとする。より好ましくは20〜40 g/lである。このように、遊離メタンスルホン酸の濃度は15〜70 g/lとする必要があるが、上述したように、遊離メタンスルホン酸の量は鋼帯からの鉄イオンの溶出量が多くなるとともに減少する。そこで、実操業中はそれを補給する必要があるが、それにはメタンスルホン酸を使用すれば良い。
【0023】
光沢剤:光沢剤はめっき均一性に優れた錫めっき鋼帯を製造させるために必要な成分である。めっき浴の光沢剤としてはノニオン系界面活性剤、例えばポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、脂肪族または芳香族アルキレンオキシド縮合体、ペタイン、アルキレンオキシド縮合体、イミダゾリニウム化合物、第四アンモニウム化合物、アミンのエチレンオキシド誘導体が好適に用いられる。アルキレンオキシド縮合体は単一のアルキレンオキシドから成る縮合体でもよいし、2種以上のアルキレンオキシドから成る縮合体でもよい。さらにこれらの縮合体の中から1種あるいは2種以上を用いて使用することもできる。また、光沢剤の特性としては、発泡性の低いものあるいは消泡性の高いものを用いる必要がある。これは、めっき浴がぶりきの製造ラインのような攪拌の激しい条件下で使用される場合には、気泡が発生し易いからである。めっき浴中の光沢剤の濃度は、使用する光沢剤によって必要量が異なるが、0.1〜10 g/lであればよい。その濃度が0.1 g/l未満の場合には充分なめっき均一性が得られないため光沢剤の濃度の下限値は0.1g/lとする。一方、その濃度が10 g/lを超えてもその効果は飽和し、めっき浴から鋼帯面に付着する液膜としてリンス槽へ持ち出される光沢剤の量が多くなりコスト高となるとともに、発泡性も高くなってめっき外観を損なうので光沢剤の濃度の上限値は10 g/lとする。より好ましくは0.5〜5 g/lである。
【0024】
酸化防止剤:酸化防止剤はスラッジの発生を抑制するために必要な成分である。特に、鉄イオンを含有するめっき浴では錫が酸化され易いため、酸化防止剤を使用する必要がある。また、酸化防止剤は上述のように光沢剤と共にめっき均一性にも好影響を与えるため、有効な成分である。酸化防止剤としては、水溶性で還元作用のあるものであればよく、ベンゼン環にOH基を有するヒドロキノンやカテコール、レゾシノール、カテコールスルホン酸、ナフトールジスルホン酸等が好適に用いられる。その濃度が0.1 g/l未満の場合には充分な酸化防止効果が得られず、スラッジの発生量が多くなり、錫イオンの消費が早くなってコスト高となるとともに、めっき均一性を向上させる効果も見られないため酸化防止剤の濃度の下限値は0.1 g/lとする。一方、その濃度が5 g/lを超えてもその効果は飽和し、めっき浴から鋼帯面に付着する液膜としてリンス槽へ持ち出される酸化防止剤の量が多くなりコスト高となるとともに、酸化防止剤は還元剤であり、生物にとって少なからず有害であるため、使用量は極力少なくする必要があるので、酸化防止剤の濃度の上限値は5 g/lとする。より好ましくは0.5〜3 g/lである。
【0025】
本発明において、電気錫めっき時の電流密度は、実操業で通常行われている10〜80 A/dm2程度でよいが、特に、高電流密度条件で本発明の効果は有効に発揮される。また、本発明の方法により製造された錫めっき鋼板は、その用途がぶりき製品の場合、錫めっき後あるいは錫めっき後に引き続き行われる溶錫処理後にクロメート処理あるいはリン酸塩処理等の化成処理が施される。
【実施例1】
【0026】
鋼帯をアルカリ電解脱脂し、硫酸酸洗処理を行った後、表1に示す組成のめっき浴を用い、表1に示すめっき条件で錫めっきの付着量が片面当り2.8±0.2 g/m2となるよう電気錫めっきを施し試料1〜13を作製した。試料1〜6、9〜11および13については、めっき層の合金錫の量が0.4 g/mm2となるように錫めっき後に溶錫処理を行った。
【0027】
ここで、光沢剤としては、次の2種類の光沢剤aおよびbを用いた。
光沢剤a:プロピレンオキシドを添加したポリエチレングリコールで、平均分子量400と平均分子量2000のものを質量比で1:3に混合したもの。
光沢剤b:平均分子量600のポリエチレングリコール。
【0028】
そして、非特許文献2に記載の鉄露出量測定試験(IEV試験)に基づき、2MのNa2CO3と0.2MのNaHCO3からなる緩衝液中にて、試料を陽極、白金を陰極、Ag/AgClを参照電極として、1.22 Vで定電位電解を行い、3分後の電流密度を測定してめっき均一性を評価した。IEV試験の電流密度が0.5 mA/cm2未満であれば、鉄露出面積が小さく、めっき均一性に優れると判定される。結果を表1に示す。
【0029】
本発明の実施例である試料1〜8では、鉄イオン濃度が5 g/l以上になっても、高電流密度のめっき条件で、IEV試験の電流密度が0.5 mA/cm2未満になっており、めっき均一性が優れる。一方、比較例である試料9では、メタンスルホン酸の濃度が高く、光沢剤と酸化防止剤が添加されていないため、IEV試験の電流密度が5.5 mA/cm2と非常に高く、めっき均一性が著しく劣る。試料10と12では、鉄イオン濃度やめっき条件に従って錫イオン濃度が式1や2を満足するように調整されてないため、IEV試験の電流密度が0.5 mA/cm2を超え、めっき均一性が劣る。試料11と13では、それぞれ光沢剤の濃度、メタンスルホン酸の濃度が低いため、めっき均一性が劣る。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の錫めっき鋼帯の製造方法は、通常の缶等に用いられるぶりきの製法のみならず電子部品の錫めっき法にも適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される鋼帯に電気錫めっきを施す錫めっき鋼帯の製造方法において、10〜80 g/lの錫イオン、15〜70 g/lの遊離メタンスルホン酸、0.1〜10 g/lの光沢剤および0.1〜5 g/lの酸化防止剤を含有するめっき浴を使用し、かつ前記電気錫めっき時の電流密度をC A/dm2、前記鋼帯の搬送速度をR m/min、前記めっき浴中の鉄イオン濃度を[Fe] g/lとしたとき、前記めっき浴中の錫イオン濃度[Sn] g/lを下記の式1を満足するように調整することを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。
[Sn]≧(7.2+0.3×C−0.05×R+0.65×[Fe]) ・・・式1
【請求項2】
搬送される鋼帯に電気錫めっきを施した後に溶錫処理を行う錫めっき鋼帯の製造方法において、10〜80 g/lの錫イオン、15〜70 g/lの遊離メタンスルホン酸、0.1〜10 g/lの光沢剤および0.1〜5 g/lの酸化防止剤を含有するめっき浴を使用し、かつ前記電気錫めっき時の電流密度をC A/dm2、前記鋼帯の搬送速度をR m/min、前記めっき浴中の鉄イオン濃度を[Fe] g/lとしたとき、前記めっき浴中の錫イオン濃度[Sn] g/lを下記の式2を満足するように調整することを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。
[Sn]≧(0.3×C−0.05×R+0.65×[Fe]) ・・・式2

【公開番号】特開2006−328446(P2006−328446A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150287(P2005−150287)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】