鍋
【課題】 一般家庭で、棒状のパスタなどの長い棒状の折り曲げられない調理素材を茹でたりする際、従来の鍋よりも少ない液体の量で調理できる鍋を提供する。また、すべての調理素材において、鍋を持ち上げたり、水平移動する際、従来の鍋よりも、手にかかる負荷を小さくする鍋を提供する。
【解決手段】 折り曲げられない棒状の調理素材を円筒形の鍋に入れると、自重により鍋の側面部に斜めに倒れ、側面から見ればX状の形をとるが、このとき、鍋の側面部を従来の鍋にないほど細くして、調理素材に近づけることで、必要最小限の液体の量は大幅に減る。このように、鍋の内径が、下方から上方に行くに従い次第に細くなる鍋にして、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%以下とする。また、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手にかかる負荷であるトルクを小さくする。
【解決手段】 折り曲げられない棒状の調理素材を円筒形の鍋に入れると、自重により鍋の側面部に斜めに倒れ、側面から見ればX状の形をとるが、このとき、鍋の側面部を従来の鍋にないほど細くして、調理素材に近づけることで、必要最小限の液体の量は大幅に減る。このように、鍋の内径が、下方から上方に行くに従い次第に細くなる鍋にして、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%以下とする。また、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手にかかる負荷であるトルクを小さくする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理に利用される鍋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般家庭では、長い棒状の折り曲げられない調理素材であるパスタやゴボウや長い骨付き肉、長い蟹の足などをお湯で茹でたり、油で揚げたりする時は、大きな鍋を用意する必要があった。その場合は、その調理素材よりも長い内径をもつ鍋か、その調理素材がお湯や油に漬かるだけの高さのある鍋に入れるなどしか方法はなかった。長い棒状の折り曲げられない調理素材の中で、一般家庭で調理する頻度が高いと考えられる棒状の乾燥麺のパスタを例に取ると、これを茹でる時には、例えば「特開2001−128845号」の図1に記載されているような側面部が垂直または垂直に近い円筒形の鍋がある。また、「意匠登録0554052号」や「意匠登録第0771312号」の図面に記載されているような、側面部が多少細くなった形状の鍋もあるが、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の、細くても90%前後のものがほとんどであり、これら一般家庭で多く使われる汎用性の高い鍋では、パスタがはみ出て全体をお湯に漬けることができない場合が多い。そこで、汎用性の高い鍋から専用性を持たせた鍋として、調理素材の全体あるいはできるだけ多くの部分がお湯に漬かるよう、例えば「意匠登録第1196616号」の図面に記載されているような、背の高い形状にしている鍋がある。そうした形状の鍋は、「パスタパン(pasta pan)」や「パスタポット(pasta pot)」、「パスタ鍋」などの総称で、国内外で広く販売されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−128845号
【特許文献2】意匠登録0554052号
【特許文献3】意匠登録第0771312号
【特許文献4】意匠登録第1196616号
【非特許文献1】伊藤アルミニウム工業株式会社カタログ「ワンダーシェフIHパスタポット20−G」
【非特許文献2】ラゴスティーナ社(Lagostina、イタリア)「パスタロボ(Pasta ROBO)」
【非特許文献3】フィスラー社(Fissler、ドイツ)「マルチスター(Multi star)」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、一般家庭では、長い棒状の折り曲げられない調理素材であるパスタやゴボウや長い骨付き肉、長い蟹の足などをお湯で茹でたり、油で揚げたりする時は、大きな鍋を用意する必要があった。その場合は、その調理素材よりも長い内径をもつ鍋か、その調理素材がお湯や油に漬かるだけの高さのある鍋に入れるなどしか方法はなかった。
【0005】
長い棒状の折り曲げられない調理素材の中で、一般家庭で調理する頻度が高いと考えられる棒状の乾燥麺のパスタを例に取ると、これを茹でる時には、例えば「特開2001−128845号」の図1に記載されているような側面部が垂直または垂直に近い円筒形の鍋や、「意匠登録0554052号」や「意匠登録第0771312号」の図面に記載されているような側面部が多少細くなった形状の、汎用性の高い鍋で茹でることが多い。これら一般家庭で多く使われる汎用性の高い鍋では、パスタがはみ出て全体をお湯に漬けることができない場合が多く、お湯にパスタを投入後、数分間はパスタがお湯に漬からずにはみ出てしまう状態になる。そのまま放っておけば、鍋からはみ出た部分が、コンロの炎によって焦げたり、火災にまで発展する危険があった。そこで、パスタ全体がお湯に漬かるまでその場に留まり監視する必要があり、さらには、菜箸などでパスタをお湯に押し込む作業が必要であった。
【0006】
ある日本の大手製粉会社の棒状の乾燥麺のパスタの場合、太さが1.6ミリメートルのパスタの茹で時間は7分間であるが、汎用性の高い鍋で茹でる際、お湯に漬かった部分が軟らかくなり折れ曲がって、お湯からはみ出た部分が、お湯にすべて漬かるまで2〜3分かかるとすれば、麺の茹で時間に差が生じて麺の硬さが均一にならなくなり、麺全体で茹で過ぎの部分か、あるいは茹で方の足りない部分が混在した状態になり、麺全体をアルデンテといわれる最適な硬さに均一に茹でることが不可能になるという課題がある。特にパスタは、出来上がり後は早く食べなければならないといわれており、数分の茹で時間の違いで硬さが大きく変化する。おいしく食べるには均一な茹で時間が重要となっているにもかかわらず、一般家庭では汎用性の高い、パスタがすべてお湯に漬からない鍋で茹でることが多く、一般家庭で棒状のパスタをおいしく食べることが困難であった。
【0007】
調理素材が、長い骨付き肉や長い蟹の足など、茹でたりしても軟らかくならない調理素材の場合は、一般家庭で多く使われる汎用性の高い鍋では、調理素材がはみ出て全体をお湯などに漬けることができない場合が多く、その場に留まり、何度も調理素材を反転するなどの作業が必要であり、調理素材の中間部分と両端の部分で液体に漬かっている時間が異なるため、調理素材全体を均一に加熱することが困難であった。
【0008】
これらの課題に少しでも対応するため、棒状のパスタをはじめとして長い棒状の折り曲げられない調理素材が、全体あるいはできるだけ多くの部分がお湯に漬かるよう、汎用性の高い鍋から専用性を持たせた鍋として、例えば「意匠登録第1196616号」の図面に記載されているような、背の高い形状にしている鍋が広く市販されている。それでもなお、棒状のパスタなどを投入した時に、パスタがお湯からはみ出る鍋が多く存在するが、それは、パスタが完全にお湯に漬かるまで水を入れると、今度は鍋が非常に重くなり、取り扱いが難しくなるといった相反する状況などが原因になっている。
【0009】
棒状のパスタをお湯に投入した時に完全にお湯に漬かる鍋の場合では、その背の高い形状のために、必然的に大量の水を沸かす必要があり、お湯を沸かすまでに長時間待たなければならない課題があった。例えば世界中で広く普及している棒状のパスタをすべてお湯に漬けるためには、5リットル程度の大量の水を入れる必要があり、これを20℃から100℃に沸騰させるのに、一般家庭のガスコンロではおよそ15分程度かかる。棒状のパスタの茹で時間が5〜11分程度のものがほとんどであるので、茹でる時間よりも、お湯を沸かすまで待つ時間の方が長いという、心理的におっくうになる課題もある。
【0010】
こうした背の高い鍋は、必然的にその大量の水のため、お湯を排水する時には、持ち上げるのが非常に重くなる。料理をするのは女性である場合が多いが、両手鍋の場合で両手で排水する時には、両手首に大きな力を入れてひねる必要がある。また、例えば非力な女性や高齢者が、鍋つかみと一緒に取っ手をつかんだ時などは、手を滑らせたり、誤ったところに熱湯をこぼすなどして熱湯による火傷などの危険もあった。
【0011】
片手鍋を取っ手をつかんで持ち上げる場合、実際に手にかかる負荷は、テコの原理が働いて、単に液体を入れた時の鍋の重力だけがかかるのではない。図8に示すように、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、手にかかる負荷は、液体を入れた時の鍋の重力に、手でつかむ支点と交点との距離(R1+R2)を掛け合わせたトルク(kg・cm)で算出される。同じ重さの鍋でも、その支点と交点との距離(R1+R2)が長いほど手にかかるトルクが増し、短いほどトルクが減る。よって、同じ重さの鍋でも、図1のような側面部が垂直の鍋よりも、「意匠登録0771312号」の図面に記載されているような、側面部が多少細くなった形状で、その支点と交点との距離が短い鍋の方が、手に負荷となってかかる垂直方向へのトルクが小さい。それでもなお、現在市販されている側面部が多少細くなった形状の鍋は、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の、細くても90%前後のものがほとんどであり、意図的にその支点と交点との距離を短くして、手にかかる負荷である垂直方向へのトルクを小さくしようとするという目的を持っていない課題があった。
【0012】
液体を入れた状態の重い鍋をガスレンジから流し台などに水平移動する際、鍋を動かし始める時と止める時に、ふらつきが発生する。これにはニュ−トンの運動の法則(F=am)が働いており、加速度aを付けて、質量mの鍋を移動させるので、質量mと加速度aを掛け合わせた力Fが、図8における鍋の重心点に生じている。特に鍋の水平移動でふらつきを大きくさせるのは、図9に示すような、力Fを平行四辺形の2辺に成分分解した時の、手でつかむ支点と交点を結んだ直線方向に対して直角方向にかかる分力F1である。鍋の重心点が交点にあると仮定すれば、鍋を水平移動する際、手にかかる水平方向への負荷は、図9に示すように、分力F1に、その支点と交点との距離(R1+R2)を掛け合わせたトルク(F1×(R1+R2))がかかる。片手鍋および両手鍋の場合、その支点と交点との距離が離れれば離れるほど、手には水平方向に大きなトルクがかかり、鍋を水平移動する際に、ふらつきが大きくなりバランスが取りにくくなる。場合によっては、熱湯をこぼすなどして火傷をするなどの危険もあった。よって同じ質量mの鍋を同じ加速度aで水平移動しても、図1のような側面部が垂直の鍋よりも、「意匠登録0554052号」や「意匠登録0771312号」の図面に記載されているような、側面部が多少細くなった形状で、その支点と交点との距離が短い鍋の方が、手に負荷となってかかる水平方向へのトルクが小さい。それでもなお、現在市販されている側面部が多少細くなった形状の鍋は、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の、細くても90%前後のものがほとんどであり、意図的にその支点と交点との距離を短くして、手にかかる負荷である水平方向へのトルクを小さくして、持ち運ぶ時のふらつきを小さくするという目的を持っていない課題があった。
【0013】
本発明は、前記課題の少なくとも1つを解決するものであり、主に、長い棒状の折り曲げられない調理素材を調理する際に使用する液体の量を減らすこと、手に負荷となってかかる垂直方向のトルクを小さくすること、手に負荷となってかかる水平方向のトルクを小さくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
長い棒状の折り曲げられない調理素材はパスタやゴボウや長い骨付き肉、長い蟹の足など多数あるが、その中で一般家庭で調理する頻度が高いと考えられる棒状の乾燥麺のパスタを例に取り説明する。調理素材全体が液体に漬かり調理素材の上端部が液体の水位とした条件とすると、必要最小限の液体の量は、図1のように、従来の円筒形の鍋の場合、パスタを鍋の底部と側面部が交差する角に並べて入れると自重によりパスタが鍋の側面部に斜めに倒れかかり、側面から見ればX状の形になり、必要最小限の液体の体積は、立体的に見れば円筒形の形になる。このとき、図2のように、鍋の側面部を従来の鍋にないほど細くして、調理素材に近づけることで、調理素材全体は液体に漬かりながらも、必要最小限の液体の量は減る。
【0015】
最大限に側面部を細くすると、鍋の断面はX状の形になり、液体の量は最小となり、体積は立体的に見れば円錐が上下に2つ頂点で接した形になる。また、もっとも細い部分の高さ位置は、どの高さにしても鍋の側面部を調理素材に近づけることは可能であり、調理素材の上端部、すなわち調理素材全体が液体に漬かる水位にした場合は、鍋の断面はギリシャ文字のΛ(ラムダ)状の形になり、この高さ位置での液体の量は最小となり、体積は立体的に見れば円錐の形になる。このように、鍋の側面部を細くして、調理素材に近づけることで、液体の量は減る。
【0016】
図10または図11のように、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、図8のような側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、手でつかむ支点と交点との距離を短くする。
【0017】
最大限に側面部を細くした時に、本発明の最大の効果を得られるが、実際に利用する際は、少なくとも調理素材の出し入れや、鍋の内部の洗浄、鍋全体の強度などに課題が生じない内径の大きさを確保することが望ましい。
【0018】
鍋は、図1のような側面部が垂直の鍋ばかりではなく、「意匠登録0554052号」や「意匠登録0771312号」の図面に記載されているように、側面部が多少細くなった鍋も存在する。しかしこれらの鍋は、鍋を置いた時の安定性や蓋の受け止め、ふきこぼれ防止、排水時の液だれ防止、意匠上の美観などの目的が主であり、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の、細くても90%前後のものがほとんどである。本発明の、鍋の側面部を細くして、調理素材の形状に近づけることで、水を減らすことや手にかかる負荷を小さくするなどの目的とは異なる。したがって本発明の鍋では、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の90%前後の従来の鍋の細さと比較して、今までの鍋に存在しないほど細い内径にして、本発明の目的を達成する形状とする。
【0019】
図4〜7に示す実施例1〜6において、一般家庭で調理する長い棒状の折り曲げられない調理素材として、世界中で普及し、本発明の産業上利用価値がもっとも高いと考えられる26cmのパスタと、一般家庭で普及している鍋の底部の内径の大きさを実施例に取り上げ、図1〜3、図8および図10〜11のように、調理素材全体が液体に漬かり調理素材の上端部が液体の水位という条件で、鍋の底部の内径を共通にして、側面部が垂直の円筒形の鍋から、鍋の側面部がもっとも細い部分の内径が底部の内径の90%前後の多少細くなった従来の鍋を含む、側面部を次第に細くしていった72パターンの組み合わせの鍋を、減る水の体積、減る沸騰時間、減る手にかかる垂直方向のトルクの3つの観点で比較、検討した。
【0020】
例えば実施例1のように、図1〜2あるいは図8および図10の鍋の底部の内径D1を17cmと共通の条件に設定し、これを100%として、図2あるいは図10におけるもっとも細い部分の内径D2を、これより下方にあるもっとも広い底部の内径D1の40%に細くした場合、本発明の鍋の棒状のパスタがすべて水に漬かるまで必要な「水の体積」は、図1のような側面部が垂直の鍋よりも2252.5立方cm、50.4%、およそ半分の水を減らすことができる。「沸騰時間」も、本発明の鍋の「沸騰時間」は、側面部が垂直の鍋よりも6.3分、50.4%、およそ半分の時間を減らすことができる。片手鍋にした時に、手にかかる負荷である垂直方向への「トルク」においても、本発明の鍋は、側面部が垂直の鍋よりも48.5kg・cm、65.8%、およそ3分の2のトルクを減らすことができる。すべての実施例で、もっとも細い部分の内径が底部の内径の60%以下では、50%、40%、30%、20%と細くするにしたがい、水を減らすことや手にかかる負荷を小さくするなどの本発明の効果が高くなる。
【0021】
図3あるいは図11の形状における、もっとも細い部分の高さ位置を、調理素材の上端部、すなわち調理素材全体が液体に漬かる水位にした場合は、図6と図7の実施例6の表とグラフに示すように、ある細い部分の内径比率では「水の体積」、「沸騰時間」、「トルク」の3つの観点で逆の効果が出る場合があり、底部の内径に対する細い部分の内径を細くすればするほど、一律に水が減ったりトルクが減るなどの効果を得られるものではない。したがって、従来の鍋の中の、もっとも細い部分の内径が底部の内径の90%前後の鍋では、逆の効果が出る場合もあり、単に側面部を細くするだけでは本発明の目的とする効果は出ず、今までの鍋に存在しないほど大幅に細い内径にする必要があることがわかった。
【0022】
図3あるいは図11の形状における実施例6のように、もっとも細い部分の高さ位置を、調理素材の上端部、すなわち調理素材全体が液体に漬かる水位にした場合において、もっとも細い部分の内径を、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%に細くした時、「水の体積」および「沸騰時間」における効果はわずかしかないものの、「トルク」に関しては側面部が垂直の鍋よりも24.4%、およそ4分の1のトルクを減らすことができる。しかし、もっとも細い部分の内径がもっとも広い部分の内径の65%の細さでは、「水の体積」および「沸騰時間」が側面部が垂直の鍋よりも1.3%増え、この2つの観点では本発明の目的と逆の効果が出る。したがってこれを臨界的意義と判断し、一般家庭で調理する長い棒状の折り曲げられない調理素材として、世界中で普及し本発明の産業上利用価値がもっとも高いと考えられる26cmのパスタと、一般家庭で普及している鍋の底部の内径の大きさを参考にし、ほとんどの組み合わせを考慮して、本発明の効果を得るため、もっとも細い部分の内径は、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%以下であることが望ましい。
【0023】
実施例では、26cmの棒状のパスタを調理素材として取り上げて水にすべてが漬かる状態で比較したが、たとえ本発明の鍋が、調理素材が水からはみ出る大きさの場合、あるいは水からはみ出るほど調理素材が長い場合であっても、その同じ調理素材が、本発明の鍋の場合と同じ長さ分、水からはみ出る従来の鍋と比較すれば、本発明の鍋が持つ水が大幅に減ることや手にかかるトルクを小さくするなどの本発明の効果は得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、長い棒状の折り曲げられない調理素材をお湯で茹でたり、油で揚げたりする際、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、より少ない液体の量で調理することができる。
【0025】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、長い棒状の折り曲げられない調理素材をお湯で茹でたり、油で揚げたりする際、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、より少ない液体の量であると同時に、調理素材を均一に茹でたり揚げたりすることができる。
【0026】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、液体の量を大幅に減らせるので、お湯を沸かしたり、油の温度を上げる時間を短くでき、調理作業の効率化を高めることができる。
【0027】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、液体の量を大幅に減らせるので、水代や油代、また、加熱する際のガス代や電気代が節約できて経済的である。
【0028】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、液体の量を大幅に減らして軽量化でき、また、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手でつかむ支点と交点との距離を短くすることができるので、垂直方向へのトルクも小さくすることができる。よって手にかかる負荷は大幅に減少し、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、お湯を排水したり油を排油する時、非力な女性や高齢者の人でも持ち上げることが容易になり、滑って落としたり、誤ったところに液体をこぼすなどによる火傷の危険が減少する。
【0029】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、液体の量を大幅に減らして軽量化でき、また、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手でつかむ支点と交点との距離を短くすることができるので、垂直方向へのトルクも小さくすることができる。よって手にかかる負荷は大幅に減少し、片手鍋にすることも可能で、両手鍋で両手で排水や排油をする時に、両手首に大きな力を入れてひねる必要があったり、腕が高さ方向に長い円筒形の鍋の側面部などに触れて火傷をするなどの危険があったが、片手で重力を利用してより少ない力で傾けて排水や排油ができ、調理作業が軽減化され、また、腕が鍋の側面部に触れて火傷するという危険が減少する。
【0030】
本発明の片手鍋は、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手でつかむ支点と交点との距離を短くするので、たとえ同じ重さの鍋を持っても、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、手にかかる負荷である垂直方向へのトルクを小さくすることができる。調理素材は、長い棒状の折り曲げられない調理素材に限らず、どのような調理素材を調理する時でも垂直方向へのトルクを小さくする効果を得られる。
【0031】
本発明の片手鍋または両手鍋は、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手でつかむ支点と交点との距離を短くするので、たとえ同じ重さの鍋を水平移動しても、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、手にかかる負荷である水平方向へのトルクを小さくすることができる。そのことによって、液体を入れた状態の重い鍋を水平移動する際発生するふらつきを小さくすることができ、鍋に入れた液体がこぼれにくく、素早く、バランス良く持ち運ぶことができる。また、熱湯をこぼすなどして火傷をするなどの危険も減少する。調理素材は、長い棒状の折り曲げられない調理素材に限らず、どのような調理素材を調理する時でも水平方向へのトルクを小さくする効果を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づき図面を参照して説明する。
【0033】
実施例で取り上げる調理素材に関しては、ゴボウや長い骨付き肉など不揃いな長さのものではなく、一定の長さを持ち、一般家庭で調理する頻度の高い棒状の乾麺とした。24cm程度のそばやうどんが普及しているが、製造会社によって20cm〜28cm程度の間でばらつきが大きい。世界中の主食用の食品としても広く普及していること、棒状のパスタはそばやうどんよりも軟らかくなるのが遅くてお湯からはみ出た状態で茹でる場合が多く、調理素材を均一に茹でにくいといった一般家庭で長い調理素材を調理する際の課題を多く持つこと、棒状のパスタ以上に長い調理素材も多様にあることを考慮することなどの理由から、世界中で広く普及して、世界の市場占有率の多くを占め、本発明の産業上利用価値がもっとも高いと考えられる26cmの棒状のパスタを実施例の調理素材に取り上げた。
【0034】
図4〜7に示す実施例1〜6において、調理素材として26cmのパスタと、一般家庭で普及している鍋の底部の内径の大きさを実施例に取り上げ、図1〜3、図8および図10〜11のように、調理素材全体が液体に漬かり調理素材の上端部が液体の水位という条件で、鍋の底部の内径を共通にして、側面部が垂直の円筒形の鍋から、もっとも細い部分の内径がこれより下方にある底部の内径の90%前後の多少細くなった従来の鍋を含む、鍋の側面部を次第に細くしていった72パターンの組み合わせの鍋を、減る水の体積、減る沸騰時間、減る手にかかる垂直方向のトルクの3つの観点で比較、検討した。
【0035】
実際に利用する際は、実施例にあげた組み合わせでなくてもよく、もっとも細い部分の高さ位置は、鍋の側面部の形状を、長い棒状の調理素材の形状に近づけることが可能なので、鍋の高さ方向のどこの位置にあってもよい。実施例ではもっとも細い部分の高さ位置を、鍋の高さ方向の中間点の場合と、26cmの棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部の、大きく2種類に分けた。本発明の鍋の高さは、パスタがすべて水に漬かる水位と同じでは沸騰により水がこぼれてしまうので、数cm高くした。
【0036】
図4〜7に示す実施例1〜6の合計72パターンの側面部を細くした鍋は、もっとも細い部分の高さ位置を、鍋の高さの中間点と、長さ26cmの棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部の高さの2パターン、鍋の底部の内径を一般家庭で普及している鍋の大きさの17cm、20cm、23cmの3パターン、もっとも細い部分の内径を底部の内径の95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、50%、40%、30%、20%と細くしていった12パターンである。
【0037】
実施例の水の体積やトルクなどの計算では、実際の鍋の底部の角の丸みや、側面部のもっとも細い部分の角の丸みは考慮せず、側面から見れば直線のみで構成しているものとし、鍋本体の厚みと棒状のパスタの太さはゼロに近い値と仮定し、理論的に計算した。また、もっとも細い部分より下方にあるもっとも広い部分の内径の高さ位置は、鍋の底部のゼロに近い位置とした。
【0038】
液体を入れた状態の重い鍋を水平方向に移動する際にふらつきとなって発生する、手にかかる水平方向のトルクについては、実施例では、鍋をガスレンジから流し台に水平移動する時など、人によって加速度のかけ方に大きな幅があって平均値を出せないなどの理由で、理論値での算出はしていない。しかし加速度をある値に設定すれば、実施例での垂直方向での「トルク」の場合と同じ重さ、同じ支点と交点との距離で算出するので、垂直方向での「トルク」のトルク比率の結果を目安に判断できる。
【0039】
1気圧のもとで純粋な水1グラムの温度を1℃上げるのに必要な熱量は1カロリーである。5リットルの水を20℃から100℃に沸騰させるのに、400キロカロリー必要となる。一般家庭のガスコンロの最大火力はおよそ4000キロカロリー/時間のものが多く、ガスコンロで沸騰させる場合は6分かかる計算になる。しかしガスコンロの熱効率はおよそ40%なので、5リットルの水を20℃から100℃に沸騰させるのに、一般家庭のガスコンロではおよそ15分かかる。なお、1リットルは、およそ1000立方cmである。実施例では、水が沸騰するのは100℃であるが、実際の調理では100℃になるまで待たずに乾麺を投入すると仮定して、20℃から95℃になるまでの時間を、ガスコンロを使用した時の沸騰時間として計算した。
【0040】
図4と図5に示した「A.細い部分の高さ位置が鍋の中間点」の実施例1〜3は、図2と図10のように、細い部分の高さ位置を、鍋の高さ方向の中間点に設定した。図6と図7に示した「B. 細い部分の高さ位置が調理素材の上端部」の実施例4〜6は、図3と図11のように、細い部分の高さ位置を、26cmの棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部に設定した。比較する図1と図8のような側面部が垂直の鍋は、実施例1〜6の「細い部分の内径比率」が100%として示してある。図1と図8および図3と図11の形状の鍋の場合、必要とする水の体積は鍋の高さに関係せずに決まるが、図2と図10の形状の鍋の場合、鍋の高さによってもっとも細い部分とする中間点が決まり体積も決まるので、図2と図10の形状の場合の鍋の高さは、パスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部から、沸騰により水がこぼれない、数cm高い高さに設定した。したがって「A.細い部分の高さ位置が鍋の中間点」の実施例1では鍋の高さは24cm、実施例2では鍋の高さは22cm、実施例3では鍋の高さは20cmで計算した。
【実施例】
【0041】
図2の形状の「A.細い部分の高さ位置が鍋の中間点」で実施例1を説明すると、「細い部分の内径比率」は図1および図2の鍋の底部の内径D1を17cmと設定し、これを100%として、図2における細い部分の内径D2を底部の内径D1の95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、50%、40%、30%、20%と12パターンに細くしていった。棒状のパスタがすべて水に漬かるまで必要な「水の体積」は、図1のような側面部が垂直の鍋では4465.2立方cmであるが、内径D2を細くするにつれて水の体積は減少し、D2が60%では「水の体積」が2851.9立方cmで、側面部が垂直の鍋よりも1613.4立方cm、36.1%、およそ3分の1の水を減らすことができる。D2を40%に細くすると、「水の体積」が2212.7立方cmで、側面部が垂直の鍋よりも2252.5立方cm、50.4%、およそ半分の水を減らすことができる。図2のような断面図では、側面部を細くして減る部分の断面積は小さく見えるが、体積はこの断面図を360度回転するので、減る水の体積は大きい。「沸騰時間」も、図1のような側面部が垂直の鍋では12.6分沸騰時間が必要になるが、細い部分の内径D2を細くするにつれて沸騰時間は減少し、D2が60%では「沸騰時間」が8.0分で、側面部が垂直の鍋よりも4.5分、36.1%、およそ3分の1の時間を減らすことができる。D2を40%に細くすると、「沸騰時間」が6.2分で、側面部が垂直の鍋よりも6.3分、50.4%、およそ半分の時間を減らすことができる。
【0042】
図3の形状の「B. 細い部分の高さ位置が調理素材の上端部」で実施例4を説明すると、「細い部分の内径比率」は図1および図3の鍋の底部の内径D1を17cmと設定し、これを100%として、図3における細い部分の内径D2を底部の内径D1の95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、50%、40%、30%、20%と12パターンに細くしていった。棒状のパスタがすべて水に漬かるまで必要な「水の体積」は、図1のような側面部が垂直の鍋では4465.2立方cmであるが、内径D2を細くするにつれて水の体積は減少し、D2が60%では「水の体積」が3286.1立方cmで、側面部が垂直の鍋よりも1179.1立方cm、26.4%、およそ4分の1の水を減らすことができる。D2を40%に細くすると、「水の体積」が2728.5立方cmで、側面部が垂直の鍋よりも1736.7立方cm、38.9%、およそ3分の1の水を減らすことができる。「沸騰時間」も、図1のような側面部が垂直の鍋では12.6分沸騰時間が必要になるが、細い部分の内径D2を細くするにつれて沸騰時間は減少し、D2が60%では「沸騰時間」が9.2分で、側面部が垂直の鍋よりも3.3分、26.4%、およそ4分の1の時間を減らすことができる。D2を40%に細くすると、「沸騰時間」が7.7分で、側面部が垂直の鍋よりも4.9分、38.9%、およそ3分の1の時間を減らすことができる。
【0043】
図8および図10〜11は、図1〜3の鍋本体の形状を同じままで、手にかかる負荷である垂直方向へのトルクを理解しやすくするために取っ手の形状のみを変えたものである。図8および図10〜11におけるR1は、取っ手が付いている高さ位置での鍋の内面壁から手でつかむ支点までの距離を示しており、側面部が垂直の片手鍋と本発明の片手鍋は同じ距離とし、人の手の大きさを考慮して8cmと設定して計算した。図8および図10〜11におけるR2およびR3は、鍋の重心点から垂直に伸びる線と、取っ手が付いている高さ位置での鍋の内面壁から水平に伸ばした線との交点までの距離を示している。片手鍋にして取っ手をつかんで鍋を持ち上げる時、実際に手にかかる負荷はテコの原理が働いて、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、手にかかる負荷は、液体を入れた時の鍋の重力に、手でつかむ支点と交点との距離を掛け合わせたトルク(kg・cm)で算出される。水1000立方cmはおよそ1kgである。したがって、手にかかる垂直方向へのトルクは、図8では、「水の体積×(R1+R2)」で算出され、図10および図11では、「水の体積×(R1+R3)」で算出される。この時、鍋の重心点は、鍋の内径の中心上にあると仮定した。また、トルクを算出する上で、鍋の重さは水のみの重さとして、鍋本体の重さと取っ手の重さは無視できるほど軽いと仮定した。なお、図1〜3のような、図8および図10〜11の取っ手の形状とは異なった取っ手であっても、図2〜3のように鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることは可能であって、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、手でつかむ支点と交点との距離を短くできるので、本発明の目的とする、手にかかる負荷であるトルクを小さくすることはできる。
【0044】
図11の形状の「B. 細い部分の高さ位置が調理素材の上端部」で実施例4を説明すると、「細い部分の内径比率」は図8および図11の鍋の底部の内径D1を17cmと設定し、これを100%として、図11における細い部分の内径D2を底部の内径D1の95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、50%、40%、30%、20%と12パターンに細くしていった。棒状のパスタがすべて水に漬かる時、手にかかる垂直方向への「トルク」は、図8のような側面部が垂直の鍋では、73.7kg・cmになるが、内径D2を細くするにつれてトルクは減少し、D2が60%では「トルク」が43.0kg・cmで、側面部が垂直の鍋よりも30.6kg・cm、41.6%のトルクを減らすことができる。D2を40%に細くすると、「トルク」が31.1kg・cmで、側面部が垂直の鍋よりも42.6kg・cm、57.8%のトルクを減らすことができる。
【0045】
すべての実施例の比較結果から、「水の体積」、「沸騰時間」、「トルク」の3つの観点を比較すると、「トルク」の減少した比率の方が、「水の体積」や「沸騰時間」の減少した比率よりも常に大きい。また、鍋の形状においてもっとも細い部分の高さ位置に注目すると、図2または図10のような「A. 細い部分の高さ位置が鍋の中間点」の形状の鍋の方が、図3または図11のような「B. 細い部分の高さ位置が調理素材の上端部」の形状の鍋よりも、本発明の効果が高い。また、もっとも細い部分の内径が底部の内径の60%以下では、50%、40%、30%、20%と細くするにしたがい、本発明の効果が高くなる。
【0046】
図3あるいは図11の形状における、もっとも細い部分の高さ位置を、調理素材の上端部、すなわち調理素材全体が液体に漬かる水位にした場合は、図6と図7の実施例6の表とグラフに示すように、ある細い部分の内径比率では「水の体積」、「沸騰時間」、「トルク」の3つの観点で逆の効果が出る場合があり、底部の内径に対する細い部分の内径を細くすればするほど、一律に水が減ったりトルクが減るなどの効果を得られるものではない。したがって、従来の鍋の中の、もっとも細い部分の内径が底部の内径の90%前後の鍋では、逆の効果が出る場合もあり、単に側面部を細くするだけでは本発明の目的とする効果は出ず、今までの鍋に存在しないほど大幅に細い内径にする必要があることがわかった。
【0047】
図3あるいは図11の形状における実施例6のように、もっとも細い部分の高さ位置を、調理素材の上端部、すなわち調理素材全体が液体に漬かる水位にした場合において、もっとも細い部分の内径を、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%に細くした時、「水の体積」および「沸騰時間」における効果はわずかしかないものの、「トルク」に関しては側面部が垂直の鍋よりも24.4%、およそ4分の1のトルクを減らすことができる。しかし、もっとも細い部分の内径がもっとも広い部分の内径の65%の細さでは、「水の体積」および「沸騰時間」が側面部が垂直の鍋よりも1.3%増え、この2つの観点では本発明の目的と逆の効果が出る。したがってこれを臨界的意義と判断し、一般家庭で調理する長い棒状の折り曲げられない調理素材として、世界中で普及し本発明の産業上利用価値がもっとも高いと考えられる26cmのパスタと、一般家庭で普及している鍋の底部の内径の大きさを参考にし、ほとんどの組み合わせを考慮して、本発明の効果を得るため、もっとも細い部分の内径は、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%以下であることが望ましい。
【0048】
なお、調理素材全体が水に漬かる液体の量は、鍋の底部の内径を調理素材の太さよりわずかに太くして、鍋の高さを調理素材の長さより高くするか、鍋の底部の内径を調理素材の長さより大きくして、水位を調理素材の太さと同じにすれば、ほとんどいらない量になる。しかし本発明は、一般家庭で調理されやすい素材と、一般家庭で利用されやすい鍋の底部の内径の大きさを考慮して、側面部を調理素材に近づけて、側面部を細くする方法を取ることによって、水を減らすことや手にかかる負荷を小さくするものである。また、本発明の鍋は、調理素材は短いものや長いものなど多様なものを想定しており、鍋の底部の内径や、調理素材の長さを規定するものではない。
【0049】
実施例では、26cmの棒状のパスタを調理素材として取り上げて水にすべてが漬かる状態で比較したが、たとえ本発明の鍋が、調理素材が水からはみ出る大きさの場合、あるいは水からはみ出るほど調理素材が長い場合であっても、その同じ調理素材が、本発明の鍋の場合と同じ長さ分、水からはみ出る従来の鍋と比較すれば、本発明の鍋が持つ水が大幅に減ることや手にかかるトルクを小さくするなどの本発明の効果は得ることができる。
【0050】
もっとも細い部分より下方にあるもっとも広い部分の内径の高さ位置は、製造の容易性や意匠上の美観などの目的から、「意匠登録0554052号」や「意匠登録0771312号」に記載された図面のように、ゼロに近い位置でなくてもよい。
【0051】
本発明の鍋の、水平面で切った断面形状は、円形に限らず、多角形や、楕円などでも、本発明の効果を得ることができるので、多角形や、楕円などでもよい。また、本発明の鍋の、垂直面で切った断面形状は、すべてが直線で構成されいなくても、本発明の効果を得ることができるならば、意匠上の美観などの目的から多少湾曲していたり、曲線で構成されていてもよい。
【0052】
実施例で示したように、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の、細くて90%前後の従来の鍋であっても、4リットル前後の液体が必要になる。通常、人が片手で持ち上げることができる重さの事例として、片手で本体を握って注げることを想定したと考えられる1.5〜2リットル程度のペットボトルの飲料が広く普及して存在する。これを参考にすると、本発明の鍋は、実施例で示したように、2リットル前後まで液体を減らすこともでき、ペットボトルと違って握りやすい取っ手を取り付けるので、従来の鍋では困難であった片手鍋による調理作業を行うことも可能となる。図12のような、排水あるいは排油する時、開閉可能あるいは着脱可能なザルを開口部に取り付けることで、排水あるいは排油と同時に湯切りもできる鍋が実現可能となる。さらに、取っ手などにタイマーを取り付けることで、調理素材を正確な時間で茹でたり揚げたりすることができる。特に調理素材が、最適な硬さを保っている時間が短い棒状のパスタの場合、少ない水の量であるにも関わらずパスタ全体をお湯に漬けられ、麺全体がアルデンテと呼ばれる最適な硬さに均一に茹でるための利便性が高まり、本発明の鍋とザルとタイマーの組み合わせにより、今までの鍋に存在しないパスタ用の鍋を提供することもできる。
【0053】
鍋の開口部に、ザルや、蓋に穴を開けてザルの機能を付けた「実用新案登録第3099344号」や「実用新案登録第3006469号」や「United States Patent 5638984」などの図面に示されるような両手鍋があるが、このタイプの鍋の場合、パスタなどの調理素材を茹であがったあとお湯の排水と湯切りを同時にしたのち調理素材を鍋から出す時に、鍋の内面に付着したパスタなどの調理素材を、片手で鍋を反転させ、もう一方の片手で箸やフォークなどを使って取り出すという作業が、手にかかるトルクを小さくできないので困難であった。しかし、本発明の鍋は側面部を細くさせて手にかかるトルクを小さくすることなどの効果によって、片手鍋にすることが可能なので、図12のような本発明の片手鍋の場合であれば、鍋の内面に付着したパスタなどの調理素材を、片手で鍋を持ち、もう一方の片手で箸やフォークなどを使って取り出すという作業が容易になり、調理作業を安全で迅速化できる。
【0054】
調理素材を主にパスタ用として広く販売されている、鍋とその中に入れる籠またはザルまたはコランダー(Colander)などからなる「意匠登録第0753829号」や「意匠登録第1196616号」などの図に示されるような両手鍋がある。「意匠登録第0753829号」の図のような籠などに2つの取っ手が付属していて、両手で持ち上げて湯切りをするタイプの鍋の場合、パスタなどの調理素材を茹であがったあと湯切りをして調理素材を出す時に、籠などの内面に付着したパスタなどの調理素材を、片手で籠を反転させ、もう一方の片手で箸やフォークなどを使って取り出すという作業が、手にかかるトルクを小さくできないので困難であった。また、「意匠登録第1196616号」などの図に示されるような、籠などを半円形の取っ手で吊して湯切りをするタイプの鍋の場合、籠などを持ち上げる時にその籠などに付属した高熱になった金属製の半円形の取っ手をつかむ必要があり、火傷の危険があった。さらに、持ち上げた籠などの中から調理素材を皿などに移すため、片手で半円形の取っ手を持ち、もう一方の片手で籠などの底を持ち上げて反転する時、高熱になっている金属製の籠などの底部を触れて反転しなければならず、また、反転すると半円形の取っ手に熱湯が流れてきたり、籠などの底や側面から熱湯のしずくも垂れるので、火傷の危険があり取り扱いが不便であった。本発明の鍋は側面部を細くして水を減らせて軽くできることや手にかかるトルクを小さくすることなどの効果によって、片手鍋で調理作業を行うことが可能となるので、図12のような本発明の片手鍋の場合であれば、鍋の内面に付着したパスタなどの調理素材を、片手で鍋を持ち、もう一方の片手で箸やフォークなどを使って取り出すという作業が容易になり、調理作業を安全で迅速化できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、側面部が垂直な円筒形の鍋の垂直断面図。
【図2】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、もっとも細い部分の高さ位置を、鍋の高さ方向の中間点に設定した場合の、本発明の鍋の垂直断面図。
【図3】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、もっとも細い部分の高さ位置を、棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部に設定した場合の、本発明の鍋の垂直断面図。
【図4】側面部が垂直な円筒形の鍋と、もっとも細い部分の高さ位置が鍋の高さ方向の中間点である場合の本発明の鍋とを比較した表。
【図5】側面部が垂直な円筒形の鍋と、もっとも細い部分の高さ位置が鍋の高さ方向の中間点である場合の本発明の鍋とを比較したグラフ。
【図6】側面部が垂直な円筒形の鍋と、もっとも細い部分の高さ位置が棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部である場合の本発明の鍋とを比較した表。
【図7】側面部が垂直な円筒形の鍋と、もっとも細い部分の高さ位置が棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部である場合の本発明の鍋とを比較したグラフ。
【図8】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、側面部が垂直な円筒形の片手鍋の垂直断面図。
【図9】側面部が垂直な円筒形の片手鍋の平面図であり、重心点が交点にあると仮定した時、水平方向に移動する際に交点で生じる力F、およびこれを平行四辺形の2辺に成分分解した分力F1と分力F2を矢印で表した図。
【図10】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、もっとも細い部分の高さ位置を、鍋の高さ方向の中間点に設定した場合の、本発明の片手鍋の垂直断面図。
【図11】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、もっとも細い部分の高さ位置を、棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部に設定した場合の、本発明の片手鍋の垂直断面図。
【図12】本発明の鍋の上端開口部に、開閉可能なザルと、取っ手にタイマーを取り付けた状態の斜視概観図。
【符号の説明】
【0056】
1 棒状のパスタ
2 側面部が垂直な円筒形の鍋本体
3 取っ手
4 本発明の一実施例の鍋本体
5 本発明の一実施例の鍋本体
6 水平に取り付けた棒状の取っ手
7 開閉可能なザル
8 タイマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理に利用される鍋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般家庭では、長い棒状の折り曲げられない調理素材であるパスタやゴボウや長い骨付き肉、長い蟹の足などをお湯で茹でたり、油で揚げたりする時は、大きな鍋を用意する必要があった。その場合は、その調理素材よりも長い内径をもつ鍋か、その調理素材がお湯や油に漬かるだけの高さのある鍋に入れるなどしか方法はなかった。長い棒状の折り曲げられない調理素材の中で、一般家庭で調理する頻度が高いと考えられる棒状の乾燥麺のパスタを例に取ると、これを茹でる時には、例えば「特開2001−128845号」の図1に記載されているような側面部が垂直または垂直に近い円筒形の鍋がある。また、「意匠登録0554052号」や「意匠登録第0771312号」の図面に記載されているような、側面部が多少細くなった形状の鍋もあるが、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の、細くても90%前後のものがほとんどであり、これら一般家庭で多く使われる汎用性の高い鍋では、パスタがはみ出て全体をお湯に漬けることができない場合が多い。そこで、汎用性の高い鍋から専用性を持たせた鍋として、調理素材の全体あるいはできるだけ多くの部分がお湯に漬かるよう、例えば「意匠登録第1196616号」の図面に記載されているような、背の高い形状にしている鍋がある。そうした形状の鍋は、「パスタパン(pasta pan)」や「パスタポット(pasta pot)」、「パスタ鍋」などの総称で、国内外で広く販売されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−128845号
【特許文献2】意匠登録0554052号
【特許文献3】意匠登録第0771312号
【特許文献4】意匠登録第1196616号
【非特許文献1】伊藤アルミニウム工業株式会社カタログ「ワンダーシェフIHパスタポット20−G」
【非特許文献2】ラゴスティーナ社(Lagostina、イタリア)「パスタロボ(Pasta ROBO)」
【非特許文献3】フィスラー社(Fissler、ドイツ)「マルチスター(Multi star)」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、一般家庭では、長い棒状の折り曲げられない調理素材であるパスタやゴボウや長い骨付き肉、長い蟹の足などをお湯で茹でたり、油で揚げたりする時は、大きな鍋を用意する必要があった。その場合は、その調理素材よりも長い内径をもつ鍋か、その調理素材がお湯や油に漬かるだけの高さのある鍋に入れるなどしか方法はなかった。
【0005】
長い棒状の折り曲げられない調理素材の中で、一般家庭で調理する頻度が高いと考えられる棒状の乾燥麺のパスタを例に取ると、これを茹でる時には、例えば「特開2001−128845号」の図1に記載されているような側面部が垂直または垂直に近い円筒形の鍋や、「意匠登録0554052号」や「意匠登録第0771312号」の図面に記載されているような側面部が多少細くなった形状の、汎用性の高い鍋で茹でることが多い。これら一般家庭で多く使われる汎用性の高い鍋では、パスタがはみ出て全体をお湯に漬けることができない場合が多く、お湯にパスタを投入後、数分間はパスタがお湯に漬からずにはみ出てしまう状態になる。そのまま放っておけば、鍋からはみ出た部分が、コンロの炎によって焦げたり、火災にまで発展する危険があった。そこで、パスタ全体がお湯に漬かるまでその場に留まり監視する必要があり、さらには、菜箸などでパスタをお湯に押し込む作業が必要であった。
【0006】
ある日本の大手製粉会社の棒状の乾燥麺のパスタの場合、太さが1.6ミリメートルのパスタの茹で時間は7分間であるが、汎用性の高い鍋で茹でる際、お湯に漬かった部分が軟らかくなり折れ曲がって、お湯からはみ出た部分が、お湯にすべて漬かるまで2〜3分かかるとすれば、麺の茹で時間に差が生じて麺の硬さが均一にならなくなり、麺全体で茹で過ぎの部分か、あるいは茹で方の足りない部分が混在した状態になり、麺全体をアルデンテといわれる最適な硬さに均一に茹でることが不可能になるという課題がある。特にパスタは、出来上がり後は早く食べなければならないといわれており、数分の茹で時間の違いで硬さが大きく変化する。おいしく食べるには均一な茹で時間が重要となっているにもかかわらず、一般家庭では汎用性の高い、パスタがすべてお湯に漬からない鍋で茹でることが多く、一般家庭で棒状のパスタをおいしく食べることが困難であった。
【0007】
調理素材が、長い骨付き肉や長い蟹の足など、茹でたりしても軟らかくならない調理素材の場合は、一般家庭で多く使われる汎用性の高い鍋では、調理素材がはみ出て全体をお湯などに漬けることができない場合が多く、その場に留まり、何度も調理素材を反転するなどの作業が必要であり、調理素材の中間部分と両端の部分で液体に漬かっている時間が異なるため、調理素材全体を均一に加熱することが困難であった。
【0008】
これらの課題に少しでも対応するため、棒状のパスタをはじめとして長い棒状の折り曲げられない調理素材が、全体あるいはできるだけ多くの部分がお湯に漬かるよう、汎用性の高い鍋から専用性を持たせた鍋として、例えば「意匠登録第1196616号」の図面に記載されているような、背の高い形状にしている鍋が広く市販されている。それでもなお、棒状のパスタなどを投入した時に、パスタがお湯からはみ出る鍋が多く存在するが、それは、パスタが完全にお湯に漬かるまで水を入れると、今度は鍋が非常に重くなり、取り扱いが難しくなるといった相反する状況などが原因になっている。
【0009】
棒状のパスタをお湯に投入した時に完全にお湯に漬かる鍋の場合では、その背の高い形状のために、必然的に大量の水を沸かす必要があり、お湯を沸かすまでに長時間待たなければならない課題があった。例えば世界中で広く普及している棒状のパスタをすべてお湯に漬けるためには、5リットル程度の大量の水を入れる必要があり、これを20℃から100℃に沸騰させるのに、一般家庭のガスコンロではおよそ15分程度かかる。棒状のパスタの茹で時間が5〜11分程度のものがほとんどであるので、茹でる時間よりも、お湯を沸かすまで待つ時間の方が長いという、心理的におっくうになる課題もある。
【0010】
こうした背の高い鍋は、必然的にその大量の水のため、お湯を排水する時には、持ち上げるのが非常に重くなる。料理をするのは女性である場合が多いが、両手鍋の場合で両手で排水する時には、両手首に大きな力を入れてひねる必要がある。また、例えば非力な女性や高齢者が、鍋つかみと一緒に取っ手をつかんだ時などは、手を滑らせたり、誤ったところに熱湯をこぼすなどして熱湯による火傷などの危険もあった。
【0011】
片手鍋を取っ手をつかんで持ち上げる場合、実際に手にかかる負荷は、テコの原理が働いて、単に液体を入れた時の鍋の重力だけがかかるのではない。図8に示すように、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、手にかかる負荷は、液体を入れた時の鍋の重力に、手でつかむ支点と交点との距離(R1+R2)を掛け合わせたトルク(kg・cm)で算出される。同じ重さの鍋でも、その支点と交点との距離(R1+R2)が長いほど手にかかるトルクが増し、短いほどトルクが減る。よって、同じ重さの鍋でも、図1のような側面部が垂直の鍋よりも、「意匠登録0771312号」の図面に記載されているような、側面部が多少細くなった形状で、その支点と交点との距離が短い鍋の方が、手に負荷となってかかる垂直方向へのトルクが小さい。それでもなお、現在市販されている側面部が多少細くなった形状の鍋は、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の、細くても90%前後のものがほとんどであり、意図的にその支点と交点との距離を短くして、手にかかる負荷である垂直方向へのトルクを小さくしようとするという目的を持っていない課題があった。
【0012】
液体を入れた状態の重い鍋をガスレンジから流し台などに水平移動する際、鍋を動かし始める時と止める時に、ふらつきが発生する。これにはニュ−トンの運動の法則(F=am)が働いており、加速度aを付けて、質量mの鍋を移動させるので、質量mと加速度aを掛け合わせた力Fが、図8における鍋の重心点に生じている。特に鍋の水平移動でふらつきを大きくさせるのは、図9に示すような、力Fを平行四辺形の2辺に成分分解した時の、手でつかむ支点と交点を結んだ直線方向に対して直角方向にかかる分力F1である。鍋の重心点が交点にあると仮定すれば、鍋を水平移動する際、手にかかる水平方向への負荷は、図9に示すように、分力F1に、その支点と交点との距離(R1+R2)を掛け合わせたトルク(F1×(R1+R2))がかかる。片手鍋および両手鍋の場合、その支点と交点との距離が離れれば離れるほど、手には水平方向に大きなトルクがかかり、鍋を水平移動する際に、ふらつきが大きくなりバランスが取りにくくなる。場合によっては、熱湯をこぼすなどして火傷をするなどの危険もあった。よって同じ質量mの鍋を同じ加速度aで水平移動しても、図1のような側面部が垂直の鍋よりも、「意匠登録0554052号」や「意匠登録0771312号」の図面に記載されているような、側面部が多少細くなった形状で、その支点と交点との距離が短い鍋の方が、手に負荷となってかかる水平方向へのトルクが小さい。それでもなお、現在市販されている側面部が多少細くなった形状の鍋は、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の、細くても90%前後のものがほとんどであり、意図的にその支点と交点との距離を短くして、手にかかる負荷である水平方向へのトルクを小さくして、持ち運ぶ時のふらつきを小さくするという目的を持っていない課題があった。
【0013】
本発明は、前記課題の少なくとも1つを解決するものであり、主に、長い棒状の折り曲げられない調理素材を調理する際に使用する液体の量を減らすこと、手に負荷となってかかる垂直方向のトルクを小さくすること、手に負荷となってかかる水平方向のトルクを小さくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
長い棒状の折り曲げられない調理素材はパスタやゴボウや長い骨付き肉、長い蟹の足など多数あるが、その中で一般家庭で調理する頻度が高いと考えられる棒状の乾燥麺のパスタを例に取り説明する。調理素材全体が液体に漬かり調理素材の上端部が液体の水位とした条件とすると、必要最小限の液体の量は、図1のように、従来の円筒形の鍋の場合、パスタを鍋の底部と側面部が交差する角に並べて入れると自重によりパスタが鍋の側面部に斜めに倒れかかり、側面から見ればX状の形になり、必要最小限の液体の体積は、立体的に見れば円筒形の形になる。このとき、図2のように、鍋の側面部を従来の鍋にないほど細くして、調理素材に近づけることで、調理素材全体は液体に漬かりながらも、必要最小限の液体の量は減る。
【0015】
最大限に側面部を細くすると、鍋の断面はX状の形になり、液体の量は最小となり、体積は立体的に見れば円錐が上下に2つ頂点で接した形になる。また、もっとも細い部分の高さ位置は、どの高さにしても鍋の側面部を調理素材に近づけることは可能であり、調理素材の上端部、すなわち調理素材全体が液体に漬かる水位にした場合は、鍋の断面はギリシャ文字のΛ(ラムダ)状の形になり、この高さ位置での液体の量は最小となり、体積は立体的に見れば円錐の形になる。このように、鍋の側面部を細くして、調理素材に近づけることで、液体の量は減る。
【0016】
図10または図11のように、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、図8のような側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、手でつかむ支点と交点との距離を短くする。
【0017】
最大限に側面部を細くした時に、本発明の最大の効果を得られるが、実際に利用する際は、少なくとも調理素材の出し入れや、鍋の内部の洗浄、鍋全体の強度などに課題が生じない内径の大きさを確保することが望ましい。
【0018】
鍋は、図1のような側面部が垂直の鍋ばかりではなく、「意匠登録0554052号」や「意匠登録0771312号」の図面に記載されているように、側面部が多少細くなった鍋も存在する。しかしこれらの鍋は、鍋を置いた時の安定性や蓋の受け止め、ふきこぼれ防止、排水時の液だれ防止、意匠上の美観などの目的が主であり、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の、細くても90%前後のものがほとんどである。本発明の、鍋の側面部を細くして、調理素材の形状に近づけることで、水を減らすことや手にかかる負荷を小さくするなどの目的とは異なる。したがって本発明の鍋では、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の90%前後の従来の鍋の細さと比較して、今までの鍋に存在しないほど細い内径にして、本発明の目的を達成する形状とする。
【0019】
図4〜7に示す実施例1〜6において、一般家庭で調理する長い棒状の折り曲げられない調理素材として、世界中で普及し、本発明の産業上利用価値がもっとも高いと考えられる26cmのパスタと、一般家庭で普及している鍋の底部の内径の大きさを実施例に取り上げ、図1〜3、図8および図10〜11のように、調理素材全体が液体に漬かり調理素材の上端部が液体の水位という条件で、鍋の底部の内径を共通にして、側面部が垂直の円筒形の鍋から、鍋の側面部がもっとも細い部分の内径が底部の内径の90%前後の多少細くなった従来の鍋を含む、側面部を次第に細くしていった72パターンの組み合わせの鍋を、減る水の体積、減る沸騰時間、減る手にかかる垂直方向のトルクの3つの観点で比較、検討した。
【0020】
例えば実施例1のように、図1〜2あるいは図8および図10の鍋の底部の内径D1を17cmと共通の条件に設定し、これを100%として、図2あるいは図10におけるもっとも細い部分の内径D2を、これより下方にあるもっとも広い底部の内径D1の40%に細くした場合、本発明の鍋の棒状のパスタがすべて水に漬かるまで必要な「水の体積」は、図1のような側面部が垂直の鍋よりも2252.5立方cm、50.4%、およそ半分の水を減らすことができる。「沸騰時間」も、本発明の鍋の「沸騰時間」は、側面部が垂直の鍋よりも6.3分、50.4%、およそ半分の時間を減らすことができる。片手鍋にした時に、手にかかる負荷である垂直方向への「トルク」においても、本発明の鍋は、側面部が垂直の鍋よりも48.5kg・cm、65.8%、およそ3分の2のトルクを減らすことができる。すべての実施例で、もっとも細い部分の内径が底部の内径の60%以下では、50%、40%、30%、20%と細くするにしたがい、水を減らすことや手にかかる負荷を小さくするなどの本発明の効果が高くなる。
【0021】
図3あるいは図11の形状における、もっとも細い部分の高さ位置を、調理素材の上端部、すなわち調理素材全体が液体に漬かる水位にした場合は、図6と図7の実施例6の表とグラフに示すように、ある細い部分の内径比率では「水の体積」、「沸騰時間」、「トルク」の3つの観点で逆の効果が出る場合があり、底部の内径に対する細い部分の内径を細くすればするほど、一律に水が減ったりトルクが減るなどの効果を得られるものではない。したがって、従来の鍋の中の、もっとも細い部分の内径が底部の内径の90%前後の鍋では、逆の効果が出る場合もあり、単に側面部を細くするだけでは本発明の目的とする効果は出ず、今までの鍋に存在しないほど大幅に細い内径にする必要があることがわかった。
【0022】
図3あるいは図11の形状における実施例6のように、もっとも細い部分の高さ位置を、調理素材の上端部、すなわち調理素材全体が液体に漬かる水位にした場合において、もっとも細い部分の内径を、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%に細くした時、「水の体積」および「沸騰時間」における効果はわずかしかないものの、「トルク」に関しては側面部が垂直の鍋よりも24.4%、およそ4分の1のトルクを減らすことができる。しかし、もっとも細い部分の内径がもっとも広い部分の内径の65%の細さでは、「水の体積」および「沸騰時間」が側面部が垂直の鍋よりも1.3%増え、この2つの観点では本発明の目的と逆の効果が出る。したがってこれを臨界的意義と判断し、一般家庭で調理する長い棒状の折り曲げられない調理素材として、世界中で普及し本発明の産業上利用価値がもっとも高いと考えられる26cmのパスタと、一般家庭で普及している鍋の底部の内径の大きさを参考にし、ほとんどの組み合わせを考慮して、本発明の効果を得るため、もっとも細い部分の内径は、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%以下であることが望ましい。
【0023】
実施例では、26cmの棒状のパスタを調理素材として取り上げて水にすべてが漬かる状態で比較したが、たとえ本発明の鍋が、調理素材が水からはみ出る大きさの場合、あるいは水からはみ出るほど調理素材が長い場合であっても、その同じ調理素材が、本発明の鍋の場合と同じ長さ分、水からはみ出る従来の鍋と比較すれば、本発明の鍋が持つ水が大幅に減ることや手にかかるトルクを小さくするなどの本発明の効果は得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、長い棒状の折り曲げられない調理素材をお湯で茹でたり、油で揚げたりする際、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、より少ない液体の量で調理することができる。
【0025】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、長い棒状の折り曲げられない調理素材をお湯で茹でたり、油で揚げたりする際、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、より少ない液体の量であると同時に、調理素材を均一に茹でたり揚げたりすることができる。
【0026】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、液体の量を大幅に減らせるので、お湯を沸かしたり、油の温度を上げる時間を短くでき、調理作業の効率化を高めることができる。
【0027】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、液体の量を大幅に減らせるので、水代や油代、また、加熱する際のガス代や電気代が節約できて経済的である。
【0028】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、液体の量を大幅に減らして軽量化でき、また、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手でつかむ支点と交点との距離を短くすることができるので、垂直方向へのトルクも小さくすることができる。よって手にかかる負荷は大幅に減少し、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、お湯を排水したり油を排油する時、非力な女性や高齢者の人でも持ち上げることが容易になり、滑って落としたり、誤ったところに液体をこぼすなどによる火傷の危険が減少する。
【0029】
本発明の鍋は、鍋の側面部を大幅に細くすることで、液体の量を大幅に減らして軽量化でき、また、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手でつかむ支点と交点との距離を短くすることができるので、垂直方向へのトルクも小さくすることができる。よって手にかかる負荷は大幅に減少し、片手鍋にすることも可能で、両手鍋で両手で排水や排油をする時に、両手首に大きな力を入れてひねる必要があったり、腕が高さ方向に長い円筒形の鍋の側面部などに触れて火傷をするなどの危険があったが、片手で重力を利用してより少ない力で傾けて排水や排油ができ、調理作業が軽減化され、また、腕が鍋の側面部に触れて火傷するという危険が減少する。
【0030】
本発明の片手鍋は、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手でつかむ支点と交点との距離を短くするので、たとえ同じ重さの鍋を持っても、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、手にかかる負荷である垂直方向へのトルクを小さくすることができる。調理素材は、長い棒状の折り曲げられない調理素材に限らず、どのような調理素材を調理する時でも垂直方向へのトルクを小さくする効果を得られる。
【0031】
本発明の片手鍋または両手鍋は、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手でつかむ支点と交点との距離を短くするので、たとえ同じ重さの鍋を水平移動しても、側面部が垂直または垂直に近いか多少細くなった従来の鍋と比較して、手にかかる負荷である水平方向へのトルクを小さくすることができる。そのことによって、液体を入れた状態の重い鍋を水平移動する際発生するふらつきを小さくすることができ、鍋に入れた液体がこぼれにくく、素早く、バランス良く持ち運ぶことができる。また、熱湯をこぼすなどして火傷をするなどの危険も減少する。調理素材は、長い棒状の折り曲げられない調理素材に限らず、どのような調理素材を調理する時でも水平方向へのトルクを小さくする効果を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づき図面を参照して説明する。
【0033】
実施例で取り上げる調理素材に関しては、ゴボウや長い骨付き肉など不揃いな長さのものではなく、一定の長さを持ち、一般家庭で調理する頻度の高い棒状の乾麺とした。24cm程度のそばやうどんが普及しているが、製造会社によって20cm〜28cm程度の間でばらつきが大きい。世界中の主食用の食品としても広く普及していること、棒状のパスタはそばやうどんよりも軟らかくなるのが遅くてお湯からはみ出た状態で茹でる場合が多く、調理素材を均一に茹でにくいといった一般家庭で長い調理素材を調理する際の課題を多く持つこと、棒状のパスタ以上に長い調理素材も多様にあることを考慮することなどの理由から、世界中で広く普及して、世界の市場占有率の多くを占め、本発明の産業上利用価値がもっとも高いと考えられる26cmの棒状のパスタを実施例の調理素材に取り上げた。
【0034】
図4〜7に示す実施例1〜6において、調理素材として26cmのパスタと、一般家庭で普及している鍋の底部の内径の大きさを実施例に取り上げ、図1〜3、図8および図10〜11のように、調理素材全体が液体に漬かり調理素材の上端部が液体の水位という条件で、鍋の底部の内径を共通にして、側面部が垂直の円筒形の鍋から、もっとも細い部分の内径がこれより下方にある底部の内径の90%前後の多少細くなった従来の鍋を含む、鍋の側面部を次第に細くしていった72パターンの組み合わせの鍋を、減る水の体積、減る沸騰時間、減る手にかかる垂直方向のトルクの3つの観点で比較、検討した。
【0035】
実際に利用する際は、実施例にあげた組み合わせでなくてもよく、もっとも細い部分の高さ位置は、鍋の側面部の形状を、長い棒状の調理素材の形状に近づけることが可能なので、鍋の高さ方向のどこの位置にあってもよい。実施例ではもっとも細い部分の高さ位置を、鍋の高さ方向の中間点の場合と、26cmの棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部の、大きく2種類に分けた。本発明の鍋の高さは、パスタがすべて水に漬かる水位と同じでは沸騰により水がこぼれてしまうので、数cm高くした。
【0036】
図4〜7に示す実施例1〜6の合計72パターンの側面部を細くした鍋は、もっとも細い部分の高さ位置を、鍋の高さの中間点と、長さ26cmの棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部の高さの2パターン、鍋の底部の内径を一般家庭で普及している鍋の大きさの17cm、20cm、23cmの3パターン、もっとも細い部分の内径を底部の内径の95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、50%、40%、30%、20%と細くしていった12パターンである。
【0037】
実施例の水の体積やトルクなどの計算では、実際の鍋の底部の角の丸みや、側面部のもっとも細い部分の角の丸みは考慮せず、側面から見れば直線のみで構成しているものとし、鍋本体の厚みと棒状のパスタの太さはゼロに近い値と仮定し、理論的に計算した。また、もっとも細い部分より下方にあるもっとも広い部分の内径の高さ位置は、鍋の底部のゼロに近い位置とした。
【0038】
液体を入れた状態の重い鍋を水平方向に移動する際にふらつきとなって発生する、手にかかる水平方向のトルクについては、実施例では、鍋をガスレンジから流し台に水平移動する時など、人によって加速度のかけ方に大きな幅があって平均値を出せないなどの理由で、理論値での算出はしていない。しかし加速度をある値に設定すれば、実施例での垂直方向での「トルク」の場合と同じ重さ、同じ支点と交点との距離で算出するので、垂直方向での「トルク」のトルク比率の結果を目安に判断できる。
【0039】
1気圧のもとで純粋な水1グラムの温度を1℃上げるのに必要な熱量は1カロリーである。5リットルの水を20℃から100℃に沸騰させるのに、400キロカロリー必要となる。一般家庭のガスコンロの最大火力はおよそ4000キロカロリー/時間のものが多く、ガスコンロで沸騰させる場合は6分かかる計算になる。しかしガスコンロの熱効率はおよそ40%なので、5リットルの水を20℃から100℃に沸騰させるのに、一般家庭のガスコンロではおよそ15分かかる。なお、1リットルは、およそ1000立方cmである。実施例では、水が沸騰するのは100℃であるが、実際の調理では100℃になるまで待たずに乾麺を投入すると仮定して、20℃から95℃になるまでの時間を、ガスコンロを使用した時の沸騰時間として計算した。
【0040】
図4と図5に示した「A.細い部分の高さ位置が鍋の中間点」の実施例1〜3は、図2と図10のように、細い部分の高さ位置を、鍋の高さ方向の中間点に設定した。図6と図7に示した「B. 細い部分の高さ位置が調理素材の上端部」の実施例4〜6は、図3と図11のように、細い部分の高さ位置を、26cmの棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部に設定した。比較する図1と図8のような側面部が垂直の鍋は、実施例1〜6の「細い部分の内径比率」が100%として示してある。図1と図8および図3と図11の形状の鍋の場合、必要とする水の体積は鍋の高さに関係せずに決まるが、図2と図10の形状の鍋の場合、鍋の高さによってもっとも細い部分とする中間点が決まり体積も決まるので、図2と図10の形状の場合の鍋の高さは、パスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部から、沸騰により水がこぼれない、数cm高い高さに設定した。したがって「A.細い部分の高さ位置が鍋の中間点」の実施例1では鍋の高さは24cm、実施例2では鍋の高さは22cm、実施例3では鍋の高さは20cmで計算した。
【実施例】
【0041】
図2の形状の「A.細い部分の高さ位置が鍋の中間点」で実施例1を説明すると、「細い部分の内径比率」は図1および図2の鍋の底部の内径D1を17cmと設定し、これを100%として、図2における細い部分の内径D2を底部の内径D1の95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、50%、40%、30%、20%と12パターンに細くしていった。棒状のパスタがすべて水に漬かるまで必要な「水の体積」は、図1のような側面部が垂直の鍋では4465.2立方cmであるが、内径D2を細くするにつれて水の体積は減少し、D2が60%では「水の体積」が2851.9立方cmで、側面部が垂直の鍋よりも1613.4立方cm、36.1%、およそ3分の1の水を減らすことができる。D2を40%に細くすると、「水の体積」が2212.7立方cmで、側面部が垂直の鍋よりも2252.5立方cm、50.4%、およそ半分の水を減らすことができる。図2のような断面図では、側面部を細くして減る部分の断面積は小さく見えるが、体積はこの断面図を360度回転するので、減る水の体積は大きい。「沸騰時間」も、図1のような側面部が垂直の鍋では12.6分沸騰時間が必要になるが、細い部分の内径D2を細くするにつれて沸騰時間は減少し、D2が60%では「沸騰時間」が8.0分で、側面部が垂直の鍋よりも4.5分、36.1%、およそ3分の1の時間を減らすことができる。D2を40%に細くすると、「沸騰時間」が6.2分で、側面部が垂直の鍋よりも6.3分、50.4%、およそ半分の時間を減らすことができる。
【0042】
図3の形状の「B. 細い部分の高さ位置が調理素材の上端部」で実施例4を説明すると、「細い部分の内径比率」は図1および図3の鍋の底部の内径D1を17cmと設定し、これを100%として、図3における細い部分の内径D2を底部の内径D1の95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、50%、40%、30%、20%と12パターンに細くしていった。棒状のパスタがすべて水に漬かるまで必要な「水の体積」は、図1のような側面部が垂直の鍋では4465.2立方cmであるが、内径D2を細くするにつれて水の体積は減少し、D2が60%では「水の体積」が3286.1立方cmで、側面部が垂直の鍋よりも1179.1立方cm、26.4%、およそ4分の1の水を減らすことができる。D2を40%に細くすると、「水の体積」が2728.5立方cmで、側面部が垂直の鍋よりも1736.7立方cm、38.9%、およそ3分の1の水を減らすことができる。「沸騰時間」も、図1のような側面部が垂直の鍋では12.6分沸騰時間が必要になるが、細い部分の内径D2を細くするにつれて沸騰時間は減少し、D2が60%では「沸騰時間」が9.2分で、側面部が垂直の鍋よりも3.3分、26.4%、およそ4分の1の時間を減らすことができる。D2を40%に細くすると、「沸騰時間」が7.7分で、側面部が垂直の鍋よりも4.9分、38.9%、およそ3分の1の時間を減らすことができる。
【0043】
図8および図10〜11は、図1〜3の鍋本体の形状を同じままで、手にかかる負荷である垂直方向へのトルクを理解しやすくするために取っ手の形状のみを変えたものである。図8および図10〜11におけるR1は、取っ手が付いている高さ位置での鍋の内面壁から手でつかむ支点までの距離を示しており、側面部が垂直の片手鍋と本発明の片手鍋は同じ距離とし、人の手の大きさを考慮して8cmと設定して計算した。図8および図10〜11におけるR2およびR3は、鍋の重心点から垂直に伸びる線と、取っ手が付いている高さ位置での鍋の内面壁から水平に伸ばした線との交点までの距離を示している。片手鍋にして取っ手をつかんで鍋を持ち上げる時、実際に手にかかる負荷はテコの原理が働いて、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、手にかかる負荷は、液体を入れた時の鍋の重力に、手でつかむ支点と交点との距離を掛け合わせたトルク(kg・cm)で算出される。水1000立方cmはおよそ1kgである。したがって、手にかかる垂直方向へのトルクは、図8では、「水の体積×(R1+R2)」で算出され、図10および図11では、「水の体積×(R1+R3)」で算出される。この時、鍋の重心点は、鍋の内径の中心上にあると仮定した。また、トルクを算出する上で、鍋の重さは水のみの重さとして、鍋本体の重さと取っ手の重さは無視できるほど軽いと仮定した。なお、図1〜3のような、図8および図10〜11の取っ手の形状とは異なった取っ手であっても、図2〜3のように鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることは可能であって、鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、手でつかむ支点と交点との距離を短くできるので、本発明の目的とする、手にかかる負荷であるトルクを小さくすることはできる。
【0044】
図11の形状の「B. 細い部分の高さ位置が調理素材の上端部」で実施例4を説明すると、「細い部分の内径比率」は図8および図11の鍋の底部の内径D1を17cmと設定し、これを100%として、図11における細い部分の内径D2を底部の内径D1の95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、50%、40%、30%、20%と12パターンに細くしていった。棒状のパスタがすべて水に漬かる時、手にかかる垂直方向への「トルク」は、図8のような側面部が垂直の鍋では、73.7kg・cmになるが、内径D2を細くするにつれてトルクは減少し、D2が60%では「トルク」が43.0kg・cmで、側面部が垂直の鍋よりも30.6kg・cm、41.6%のトルクを減らすことができる。D2を40%に細くすると、「トルク」が31.1kg・cmで、側面部が垂直の鍋よりも42.6kg・cm、57.8%のトルクを減らすことができる。
【0045】
すべての実施例の比較結果から、「水の体積」、「沸騰時間」、「トルク」の3つの観点を比較すると、「トルク」の減少した比率の方が、「水の体積」や「沸騰時間」の減少した比率よりも常に大きい。また、鍋の形状においてもっとも細い部分の高さ位置に注目すると、図2または図10のような「A. 細い部分の高さ位置が鍋の中間点」の形状の鍋の方が、図3または図11のような「B. 細い部分の高さ位置が調理素材の上端部」の形状の鍋よりも、本発明の効果が高い。また、もっとも細い部分の内径が底部の内径の60%以下では、50%、40%、30%、20%と細くするにしたがい、本発明の効果が高くなる。
【0046】
図3あるいは図11の形状における、もっとも細い部分の高さ位置を、調理素材の上端部、すなわち調理素材全体が液体に漬かる水位にした場合は、図6と図7の実施例6の表とグラフに示すように、ある細い部分の内径比率では「水の体積」、「沸騰時間」、「トルク」の3つの観点で逆の効果が出る場合があり、底部の内径に対する細い部分の内径を細くすればするほど、一律に水が減ったりトルクが減るなどの効果を得られるものではない。したがって、従来の鍋の中の、もっとも細い部分の内径が底部の内径の90%前後の鍋では、逆の効果が出る場合もあり、単に側面部を細くするだけでは本発明の目的とする効果は出ず、今までの鍋に存在しないほど大幅に細い内径にする必要があることがわかった。
【0047】
図3あるいは図11の形状における実施例6のように、もっとも細い部分の高さ位置を、調理素材の上端部、すなわち調理素材全体が液体に漬かる水位にした場合において、もっとも細い部分の内径を、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%に細くした時、「水の体積」および「沸騰時間」における効果はわずかしかないものの、「トルク」に関しては側面部が垂直の鍋よりも24.4%、およそ4分の1のトルクを減らすことができる。しかし、もっとも細い部分の内径がもっとも広い部分の内径の65%の細さでは、「水の体積」および「沸騰時間」が側面部が垂直の鍋よりも1.3%増え、この2つの観点では本発明の目的と逆の効果が出る。したがってこれを臨界的意義と判断し、一般家庭で調理する長い棒状の折り曲げられない調理素材として、世界中で普及し本発明の産業上利用価値がもっとも高いと考えられる26cmのパスタと、一般家庭で普及している鍋の底部の内径の大きさを参考にし、ほとんどの組み合わせを考慮して、本発明の効果を得るため、もっとも細い部分の内径は、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%以下であることが望ましい。
【0048】
なお、調理素材全体が水に漬かる液体の量は、鍋の底部の内径を調理素材の太さよりわずかに太くして、鍋の高さを調理素材の長さより高くするか、鍋の底部の内径を調理素材の長さより大きくして、水位を調理素材の太さと同じにすれば、ほとんどいらない量になる。しかし本発明は、一般家庭で調理されやすい素材と、一般家庭で利用されやすい鍋の底部の内径の大きさを考慮して、側面部を調理素材に近づけて、側面部を細くする方法を取ることによって、水を減らすことや手にかかる負荷を小さくするものである。また、本発明の鍋は、調理素材は短いものや長いものなど多様なものを想定しており、鍋の底部の内径や、調理素材の長さを規定するものではない。
【0049】
実施例では、26cmの棒状のパスタを調理素材として取り上げて水にすべてが漬かる状態で比較したが、たとえ本発明の鍋が、調理素材が水からはみ出る大きさの場合、あるいは水からはみ出るほど調理素材が長い場合であっても、その同じ調理素材が、本発明の鍋の場合と同じ長さ分、水からはみ出る従来の鍋と比較すれば、本発明の鍋が持つ水が大幅に減ることや手にかかるトルクを小さくするなどの本発明の効果は得ることができる。
【0050】
もっとも細い部分より下方にあるもっとも広い部分の内径の高さ位置は、製造の容易性や意匠上の美観などの目的から、「意匠登録0554052号」や「意匠登録0771312号」に記載された図面のように、ゼロに近い位置でなくてもよい。
【0051】
本発明の鍋の、水平面で切った断面形状は、円形に限らず、多角形や、楕円などでも、本発明の効果を得ることができるので、多角形や、楕円などでもよい。また、本発明の鍋の、垂直面で切った断面形状は、すべてが直線で構成されいなくても、本発明の効果を得ることができるならば、意匠上の美観などの目的から多少湾曲していたり、曲線で構成されていてもよい。
【0052】
実施例で示したように、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の、細くて90%前後の従来の鍋であっても、4リットル前後の液体が必要になる。通常、人が片手で持ち上げることができる重さの事例として、片手で本体を握って注げることを想定したと考えられる1.5〜2リットル程度のペットボトルの飲料が広く普及して存在する。これを参考にすると、本発明の鍋は、実施例で示したように、2リットル前後まで液体を減らすこともでき、ペットボトルと違って握りやすい取っ手を取り付けるので、従来の鍋では困難であった片手鍋による調理作業を行うことも可能となる。図12のような、排水あるいは排油する時、開閉可能あるいは着脱可能なザルを開口部に取り付けることで、排水あるいは排油と同時に湯切りもできる鍋が実現可能となる。さらに、取っ手などにタイマーを取り付けることで、調理素材を正確な時間で茹でたり揚げたりすることができる。特に調理素材が、最適な硬さを保っている時間が短い棒状のパスタの場合、少ない水の量であるにも関わらずパスタ全体をお湯に漬けられ、麺全体がアルデンテと呼ばれる最適な硬さに均一に茹でるための利便性が高まり、本発明の鍋とザルとタイマーの組み合わせにより、今までの鍋に存在しないパスタ用の鍋を提供することもできる。
【0053】
鍋の開口部に、ザルや、蓋に穴を開けてザルの機能を付けた「実用新案登録第3099344号」や「実用新案登録第3006469号」や「United States Patent 5638984」などの図面に示されるような両手鍋があるが、このタイプの鍋の場合、パスタなどの調理素材を茹であがったあとお湯の排水と湯切りを同時にしたのち調理素材を鍋から出す時に、鍋の内面に付着したパスタなどの調理素材を、片手で鍋を反転させ、もう一方の片手で箸やフォークなどを使って取り出すという作業が、手にかかるトルクを小さくできないので困難であった。しかし、本発明の鍋は側面部を細くさせて手にかかるトルクを小さくすることなどの効果によって、片手鍋にすることが可能なので、図12のような本発明の片手鍋の場合であれば、鍋の内面に付着したパスタなどの調理素材を、片手で鍋を持ち、もう一方の片手で箸やフォークなどを使って取り出すという作業が容易になり、調理作業を安全で迅速化できる。
【0054】
調理素材を主にパスタ用として広く販売されている、鍋とその中に入れる籠またはザルまたはコランダー(Colander)などからなる「意匠登録第0753829号」や「意匠登録第1196616号」などの図に示されるような両手鍋がある。「意匠登録第0753829号」の図のような籠などに2つの取っ手が付属していて、両手で持ち上げて湯切りをするタイプの鍋の場合、パスタなどの調理素材を茹であがったあと湯切りをして調理素材を出す時に、籠などの内面に付着したパスタなどの調理素材を、片手で籠を反転させ、もう一方の片手で箸やフォークなどを使って取り出すという作業が、手にかかるトルクを小さくできないので困難であった。また、「意匠登録第1196616号」などの図に示されるような、籠などを半円形の取っ手で吊して湯切りをするタイプの鍋の場合、籠などを持ち上げる時にその籠などに付属した高熱になった金属製の半円形の取っ手をつかむ必要があり、火傷の危険があった。さらに、持ち上げた籠などの中から調理素材を皿などに移すため、片手で半円形の取っ手を持ち、もう一方の片手で籠などの底を持ち上げて反転する時、高熱になっている金属製の籠などの底部を触れて反転しなければならず、また、反転すると半円形の取っ手に熱湯が流れてきたり、籠などの底や側面から熱湯のしずくも垂れるので、火傷の危険があり取り扱いが不便であった。本発明の鍋は側面部を細くして水を減らせて軽くできることや手にかかるトルクを小さくすることなどの効果によって、片手鍋で調理作業を行うことが可能となるので、図12のような本発明の片手鍋の場合であれば、鍋の内面に付着したパスタなどの調理素材を、片手で鍋を持ち、もう一方の片手で箸やフォークなどを使って取り出すという作業が容易になり、調理作業を安全で迅速化できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、側面部が垂直な円筒形の鍋の垂直断面図。
【図2】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、もっとも細い部分の高さ位置を、鍋の高さ方向の中間点に設定した場合の、本発明の鍋の垂直断面図。
【図3】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、もっとも細い部分の高さ位置を、棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部に設定した場合の、本発明の鍋の垂直断面図。
【図4】側面部が垂直な円筒形の鍋と、もっとも細い部分の高さ位置が鍋の高さ方向の中間点である場合の本発明の鍋とを比較した表。
【図5】側面部が垂直な円筒形の鍋と、もっとも細い部分の高さ位置が鍋の高さ方向の中間点である場合の本発明の鍋とを比較したグラフ。
【図6】側面部が垂直な円筒形の鍋と、もっとも細い部分の高さ位置が棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部である場合の本発明の鍋とを比較した表。
【図7】側面部が垂直な円筒形の鍋と、もっとも細い部分の高さ位置が棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部である場合の本発明の鍋とを比較したグラフ。
【図8】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、側面部が垂直な円筒形の片手鍋の垂直断面図。
【図9】側面部が垂直な円筒形の片手鍋の平面図であり、重心点が交点にあると仮定した時、水平方向に移動する際に交点で生じる力F、およびこれを平行四辺形の2辺に成分分解した分力F1と分力F2を矢印で表した図。
【図10】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、もっとも細い部分の高さ位置を、鍋の高さ方向の中間点に設定した場合の、本発明の片手鍋の垂直断面図。
【図11】棒状のパスタとその上端部まで水を入れた状態の、もっとも細い部分の高さ位置を、棒状のパスタがすべて水に漬かった時のパスタの上端部に設定した場合の、本発明の片手鍋の垂直断面図。
【図12】本発明の鍋の上端開口部に、開閉可能なザルと、取っ手にタイマーを取り付けた状態の斜視概観図。
【符号の説明】
【0056】
1 棒状のパスタ
2 側面部が垂直な円筒形の鍋本体
3 取っ手
4 本発明の一実施例の鍋本体
5 本発明の一実施例の鍋本体
6 水平に取り付けた棒状の取っ手
7 開閉可能なザル
8 タイマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋の内径が、下方から上方に行くに従い次第に細くなる鍋であって、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%以下である鍋。
【請求項2】
鍋の内径が、下方から上方に行くに従い次第に細くなり、さらに上方に行くに従い次第に広くなる鍋であって、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%以下である鍋。
【請求項3】
鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手でつかむ支点と交点との距離を短くした、請求項1または2記載の鍋。
【請求項1】
鍋の内径が、下方から上方に行くに従い次第に細くなる鍋であって、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%以下である鍋。
【請求項2】
鍋の内径が、下方から上方に行くに従い次第に細くなり、さらに上方に行くに従い次第に広くなる鍋であって、もっとも細い部分の内径が、これより下方にあるもっとも広い部分の内径の60%以下である鍋。
【請求項3】
鍋の重心点から垂直に伸びる線と手でつかむ支点から水平に伸びる線が交わる点を交点としたとき、鍋の側面部を細くした部分に取っ手を付けることによって、手でつかむ支点と交点との距離を短くした、請求項1または2記載の鍋。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−212227(P2006−212227A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28387(P2005−28387)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(300055409)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(300055409)
【Fターム(参考)】
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