説明

鍛造金型装置

【課題】鍛造成形する際、素材肉の流れが偏ることなく、成形品の偏肉不良を防止する鍛造金型装置を提供する。
【解決手段】本鍛造金型装置1は、下型本体16内に上下方向に摺動自在に設けられ、成形前素材100の下面を支持する第1のフローティングスリーブ19と、該第1のフローティングスリーブ19の外周面に上下方向に摺動自在に設けられ、成形前素材100の外周面を保持する第2のフローティングスリーブ25とを備えているので、成形直前には、成形前素材100を正確に位置決めでき、しかも、鍛造成形の過程において、成形前素材100の水平方向への急激な膨出を防ぎ、素材肉の流れが偏ることなく、成形品110の偏肉不良を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上型と下型との間に成形前素材を挟持し、型締めすることにより成形前素材を加圧して所定形状に鍛造成形する鍛造金型装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鍛造金型装置を図4に基いて説明する。
図4に示す従来の鍛造金型装置50は、例えば、図5(a)に示すような、円柱状の成形前素材100を、上下方向から加圧することで、図5(b)に示すような、円板状で、上面及び下面のそれぞれの中央部位に截頭円錐状の凹部111、111を有する形状の成形品110を鍛造成形する際に使用されていた。
【0003】
従来の鍛造金型装置50は、図示しないプレス装置に連結され、上下方向に往復運動する上型2と、該上型2が収容される凹部4を有し、固定台5に固定される下型3とが備えられている。
上型2は、円筒状の上型本体10と、該上型本体10の内部に、その下面から截頭円錐状の下端部が下方に突設されるように一体的に挿入される上側ポンチ11とから構成されている。また、上側ポンチ11内には、その下端部の平坦面から出没可能で上下方向に摺動するホールドピン12が挿通されている。このホールドピン12の下面が、成形前素材100の上面の中央部位に当接するようになる。
【0004】
一方、下型3は、円筒状の上段固定台5a及び下段固定台5cで構成される固定台5に固定具15等を介して固定されている。この下型3は、円筒状で上面視形状が円形で所定深さの凹部4を有する下型本体16と、この下型本体16の内部に、その凹部4の底面から截頭円錐状の上端部が上方に突設されるように一体的に挿入される下側ポンチ17とから構成されている。下型本体16に設けた凹部4の内周径は、上型本体10の外周径と略同一で、成形品110の外周径と略同一に形成されている。なお、下側ポンチ17は、その下端部が下段固定台5cに固定され、上段固定台5a及び下型本体16内を上方に延び、その截頭円錐状の上端部が下型本体16の凹部4の底面から上方に突設されている。
また、下型本体16内で下側ポンチ17の外周面には、下型本体16の凹部4の底面から出没可能で上下方向に摺動する円筒状のスリーブ18’が設けられている。このスリーブ18’の下端部には、外方に突設する環状爪部18a’が周設されている。
【0005】
さらに、固定台5の上段固定台5aの下端部の内壁面には、スリーブ18’の下端部に設けた環状爪部18a’が上下方向に摺動する凹部5dが所定高さで設けられている。このスリーブ18’の環状爪部18a’の下面に、下段固定台5c内を挿通し上下方向に摺動自在な複数の摺動ピン30の上面がそれぞれ当接され、これらの摺動ピン30の駆動によってスリーブ18’が上下方向に摺動自在となる。
【0006】
次に、従来の鍛造金型装置50により、図5(a)に示す成形前素材100から、図5(b)に示す成形品110を鍛造成形する成形過程を説明する。
まず、図4(a)に示すように、ホールドピン12を上型2の上側ポンチ11の下面から下方に突出させると共に、スリーブ18’を下型本体16の凹部4の底面から上方に突出させて、これらホールドピン12とスリーブ18’とにより、円柱状の成形前素材100を立てた状態で挟持する。
次に、図4(b)に示すように、上型2を下降させて、上型2を下型本体16の凹部4内に収容して成形前素材100を加圧する。すると、ホールドピン12が、上型2の下降と相対的に上側ポンチ11内へ退入すると共に、スリーブ18’も、下型本体16内に退入して、所定圧力が成形前素材100に付与されて、所定形状の成形品110が鍛造成形される。
【0007】
しかしながら、従来の鍛造金型装置50では、成形前素材100は、ホールドピン12とスリーブ18’とにより挟持されているものの、水平方向に自由度があるために、成形過程の初期段階において、成形前素材100の素材肉が矢印(図4(a)参照)に示すように外方に急激に膨出してしまい、軸芯がずれて、成形品110が偏肉する不良が発生していた。
【0008】
そこで、特許文献1には、下型上に載置されたクッションダイに、パンチにより退入される位置決め部材を有する位置決め機構を設けてなる鍛造における素材の位置決め装置が開示されている。
【特許文献1】実開昭62−72742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1の位置決め装置では、素材を水平方向から弾性支持して、素材を位置決めしており、この特許文献1の位置決め装置を図4に示す従来例に採用し、すなわち、特許文献1の位置決め部材を、下型3の凹部4の内側面から水平方向に出没可能に配設し、成形前素材100の水平方向の自由度を無くすようにしてもよいが、位置決め部材は成形前素材100の加圧方向と直交する水平方向に摺動するために、成形前素材100が上下方向から大きな荷重で加圧されると、位置決め部材が下型3内へ適切に退入することができず、途中部位で屈曲する事態が予想され、特許文献1の位置決め装置を採用することはできない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、鍛造成形する際、素材肉の流れが偏ることなく、成形品の偏肉不良を防止する鍛造金型装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の鍛造金型装置は、下型内に上下方向に摺動自在に配設され、成形前素材の下面を支持する支持部材と、該支持部材の周りを上下方向に摺動自在に配設され、前記成形前素材の外周面を保持する位置決め部材とを備えていることを特徴としている。
これにより、成形前素材を鍛造金型装置に正確に位置決めできると共に、鍛造成形の際、成形前素材が水平方向に急激に膨出することを防ぎ、素材肉の流れが偏らないので、成形品の偏肉不良を防止して、欠肉、バリ等の品質不良のない鍛造成形品を得ることができる。
なお、本発明の鍛造金型装置の各種態様およびそれらの作用については、以下の(発明の態様)の項において詳しく説明する。
【0012】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。なお、各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付して、必要に応じて他の項を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施の形態等に参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要件を付加した態様も、また、各項の態様から構成要件を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)、(2)、(4)の各々が、請求項1乃至3の各々に相当する。
【0013】
(1)上型と下型とで型締めして成形前素材を所定形状に鍛造成形する鍛造金型装置であって、該鍛造金型装置は、前記下型内に上下方向に摺動自在に配設され、成形前素材の下面を支持する支持部材と、該支持部材の周りを上下方向に摺動自在に配設され、前記成形前素材の外周面を保持する位置決め部材とを備えていることを特徴とする鍛造金型装置。
従って、(1)項の鍛造金型装置では、成形前素材が上型と下型との間に挟持された際、成形前素材が位置決め部材によって正確に位置決めされると共に、鍛造成形が開始されると、位置決め部材により成形前素材が水平方向に急激に膨出することが防止され、その後位置決め部材は支持部材と共に成形前素材の膨出部分により押し下げられて、上型と下型とが型締めされて所定形状の成形品が鍛造成形される。
これにより、成形前素材を鍛造金型装置に正確に位置決めできると共に、鍛造成形の際、素材肉の流れが偏ることなく、成形品の偏肉不良を防止して、欠肉、バリ等の品質不良のない鍛造成形品を得ることができる。
【0014】
(2)前記支持部材は、その下端に外方に突設する鍔部を設けた円筒状に形成され、前記位置決め部材の下端と、前記支持部材の前記鍔部の上面との間に弾性部材が介設されることを特徴とする(1)項に記載の鍛造金型装置。
従って、(2)項の鍛造金型装置では、位置決め部材は弾性部材の弾性力により支持部材に対して上下方向に摺動自在となる。
これにより、成形品の形状によって、支持部材及び位置決め部材の摺動形態を適宜選択して、成形前素材を正確に位置決めできると共に、成形品の偏肉不良を防止して、欠肉、バリ等の品質不良のない鍛造成形品を得ることができる。
【0015】
(3)前記支持部材の前記鍔部の下面に、前記下型を固定する固定台に複数配設されたシリンダからのシリンダロッドが当接されることを特徴とする(2)項に記載の鍛造金型装置。
従って、(3)項の鍛造金型装置では、支持部材は、固定台に配設された各シリンダの駆動により上下方向に摺動自在となる。
【0016】
(4)前記支持部材は、前記下型が固定される固定台に上下方向に摺動自在に支持されると共に、前記位置決め部材の下端と、前記固定台との間に弾性部材が介設されることを特徴とする(1)項に記載の鍛造金型装置。
従って、(4)項の鍛造金型装置では、支持部材は固定台に上下方向に摺動自在に支持され、一方、位置決め部材は固定台との間に介設した弾性部材の弾性力により上下方向に摺動自在となり、これら支持部材と位置決め部材とはそれぞれ独立して上下方向に摺動自在となる。
これにより、成形品の形状によって、支持部材及び位置決め部材の摺動形態を適宜選択して、成形前素材を正確に位置決めできると共に、成形品の偏肉不良を防止して、欠肉、バリ等の品質不良のない鍛造成形品を得ることができる。
【0017】
(5)前記位置決め部材は、前記支持部材の外周面を上下方向に摺動する円筒状に形成されることを特徴とする(2)項〜(4)項のいずれかに記載の鍛造金型装置。
従って、(5)項の鍛造金型装置では、円筒状の位置決め部材の内周面が、例えば、円柱状の成形前素材の外周面全周に当接して保持でき、成形前素材の位置決めが容易に成されると共に、鍛造成形の際、位置決め部材により成形前素材の水平方向への急激な膨出を防止することができる。
【0018】
(6)前記弾性部材は、コイルスプリングであることを特徴とする(2)項〜(5)項のいずれかに記載の鍛造金型装置。
従って、(6)項の鍛造金型装置では、その構造が簡素化される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、鍛造成形する際、素材肉の流れが偏ることなく、成形品の偏肉不良を防止する鍛造金型装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図3に基いて詳細に説明する。なお、従来例と同一部材は同一符号を使用して説明する。
本発明の実施の形態に係る鍛造金型装置1は、図5(a)の成形前素材100を加圧して、図5(b)の成形品110を鍛造成形するものであり、図1(a)に示すように、図示しないプレス機に連結されて上下方向に往復運動する上型2と、該上型2が収容される凹部4を有し、固定台5に固定される下型3とが備えられている。以下に上型2及び下型3の構成を詳細に説明する。
【0021】
上型2は、前述した従来例と同様で図1(a)に示すように、プレス機に連結されて上下方向に往復運動する円筒状の上型本体10と、該上型本体10の内部に、その下面から截頭円錐状の下端部が下方に突設されるように一体的に挿入される上側ポンチ11とから構成されている。また、上側ポンチ11内には、その下端部の平坦面から出没可能で上下方向に摺動するホールドピン12が挿通されている。このホールドピン12の下面が成形前素材100の上面の中央部分に当接する。
【0022】
下型3は、図1(a)に示すように、円筒状の上段固定台5a及び下段固定台5cで構成される固定台5に固定具15等を介して固定されている。この下型3は、円筒状で、上面視形状が円形で所定深さの凹部4を有する下型本体16と、この下型本体16の内部に、その凹部4の底面から截頭円錐状の上端部が上方に突設されるように一体的に挿入される下側ポンチ17とから構成されている。下型本体16の凹部4の内周径は、上型本体10の外周径と略同一で、成形品110の外周径と略同一に形成されている。なお、下側ポンチ17は、その下端部が下段固定台5cに固定され、上段固定台5a及び下型本体16内を上方に延び、截頭円錐状の上端部が下型本体16の凹部4の底面から上方に突設される。また、下型本体16の下側ポンチ17の外周面には、上下方向に摺動する円筒状のノックアウトスリーブ18が設けられている。このノックアウトスリーブ18の下端部には、外方に突設する環状爪部18aが周設されている。
【0023】
図1(a)に示すように、ノックアウトスリーブ18の外周面には、円筒状の第1のフローティングスリーブ(支持部材)19が上下方向に摺動自在に設けられている。この第1のフローティングスリーブ19は、その上端が、成形前素材100の下面の外周端部に当接されるように配置される。また、この円筒状の第1のフローティングスリーブ19の下端部には、外方に突設される環状鍔部20が周設されている。この第1のフローティングスリーブ19の環状鍔部20の下面に、上段固定台5aに周方向に所定の間隔を置いて複数配設されたシリンダ21からのシリンダロッド22の上面が当接される。
そして、第1のフローティングスリーブ19は各シリンダ21の駆動によりノックアウトスリーブ18の外周面を上下方向に摺動自在となる。
【0024】
第1のフローティングスリーブ19の外周面には、円筒状の第2のフローティングスリーブ(位置決め部材)25が上下方向に摺動自在に設けられている。第2のフローティングスリーブ25の下端と、第1のフローティングスリーブ19の下端部に設けた環状鍔部20の上面との間には、周方向に所定の間隔を置いて複数配置されたコイルスプリング(弾性部材)26が介設されている。
そして、第2のフローティングスリーブ25は、各コイルスプリング26の弾性力により第1のフローティングスリーブ19の外周面を、第1のフローティングスリーブ19に対して上下方向に摺動自在となる。
【0025】
また、これら第1及び第2のフローティングスリーブ19、25の高さ関係について、成形直前では、成形品110、120、130の形状に関係無く、図1(a)に示すように、第2のフローティングスリーブ25の上端が、第1のフローティングスリーブ19の上端よりも上方に突出しており、第1のフローティングスリーブ19の上端が成形前素材100の下面の外周端部を支持すると共に、第2のフローティングスリーブ25の上端部の内周面が成形前素材100の下端部の外周面に当接して保持し、成形前素材100を正確に位置決めする。
また、成形途中では、成形品110の形状に依存するが、図5(b)に示す成形品110の形状であれば、図1(b)に示すように、各コイルスプリング26が全て圧縮された段階で、第2のフローティングスリーブ25の上端が第1のフローティングスリーブ19の上端と同一高さとなり、成形直後においては、図1(d)に示すように、第1及び第2のフローティングスリーブ19、25それぞれの上端が、下型本体16の凹部4の底面及びノックアウトスリーブ18の上端と同一高さとなる。
【0026】
なお、図1(a)に示すように、固定台5の上段固定台5aの内壁面には、ノックアウトスリーブ18の下端部に設けた環状爪部18aが上下方向に摺動する凹部5dが所定高さで設けられている。このノックアウトスリーブ18の環状爪部18aの下面に、下段固定台5c内を挿通し上下方向に摺動自在な複数の摺動ピン30の上面が当接されている。これら摺動ピン30の駆動によってノックアウトスリーブ18が上下方向に摺動自在となる。また、このノックアウトスリーブ18は、図5(b)に示す形状の成形品110を鍛造成形する際には、その上端が下型本体16の凹部4の底面と同一高さになるように設定される。さらに、このノックアウトスリーブ18は、鍛造成形の途中では上下方向に摺動せず、成形品110が鍛造成形された後、成形品110を外部に取り出す際に上下方向に摺動するようになる。
【0027】
次に、本発明の実施の形態に係る鍛造金型装置1により、図5(b)に示す成形品110を鍛造成形する成形過程を図1(a)〜(d)に基いて説明する。
まず、図1(a)に示すように、上型2の上側ポンチ11の下面からホールドピン12を下方に突出させると共に、第1及び第2のフローティングスリーブ19、25を下型本体16の凹部4の底面から上方に突出させて、円柱状の成形前素材100を立てた状態で、ホールドピン12と、第1及び第2のフローティングスリーブ19、25とにより挟持する。
すなわち、ホールドピン12の下面を成形前素材100の上面の中央部位に当接させると共に、第1のフローティングスリーブ19の上端を成形前素材100の下面の外周端部に当接させて支持し、且つ第2のフローティングスリーブ25の上端部の内周面を成形前素材100の下端部の外周面に当接させて保持し、成形前素材100を位置決めする。
【0028】
次に、図1(b)に示すように、上型2の下降が開始されると、成形前素材100が除々に加圧されて、上型2の上側ポンチ11内にホールドピン12が退入すると共に、成形前素材100の外周面が第2のフローティングスリーブ25により水平方向に急激に膨出するのを規制されつつ除々に膨出する。その後、この膨出部分により第2のフローティングスリーブ25だけが各コイルスプリング26の弾性力に抗して下降し、第2のフローティングスリーブ25の上端が第1のフローティングスリーブ19の上端と同一高さになる。
なお、この段階までは、第1のフローティングスリーブ19は、まだ下降を開始していない状態であり、第1のフローティングスリーブ19を摺動自在に支持する各シリンダ21は、円柱状の成形前素材100が成形初期の加圧により樽形状になりその膨出部分により各コイルスプリング26が全て圧縮されるまでは、シリンダロッド22を退入させない高圧に設定されている。
【0029】
次に、図1(c)に示すように、さらに上型2を下降させると、成形前素材100がさらに加圧されて、樽形状の成形前素材100が第1及び第2のフローティングスリーブ19、25を共にシリンダ圧に抗して押し下げて、図1(d)に示すように、さらに上型2が下型本体16の凹部4内まで下降し、第1及び第2のフローティングスリーブ19、25が下死点に到達すると、第1及び第2のフローティングスリーブ19、25の各上端が、下型本体16の凹部4の底面及びノックアウトスリーブ18の上端と同一高さになり、上型2と下型3との間のキャビティに所定形状の成形品110が鍛造成形される。
その後は、上型2を上昇させて、各摺動ピン30を駆動させれば、ノックアウトスリーブ18が上昇して、成形品110が外部に取り出される。
【0030】
以上説明した本発明の実施の形態に係る鍛造金型装置1によれば、鍛造成形が開始される直前では、第2のフローティングスリーブ25の上端部の内周面が成形前素材100の下端部の外周面に当接して、成形前素材100を保持しているので、成形前素材100が精度良く位置決めされる。さらに、鍛造成形が開始されその初期過程では、第2のフローティングスリーブ25により成形前素材100が水平方向に急激に膨出するを阻止でき、その後加圧が続けられると、成形前素材100の膨出部分により第2のフローティングスリーブ25だけが各コイルスプリング26の弾性力に抗して押し下げられる。さらに、上型2が、第1及び第2のフローティングスリーブ19、25の下死点まで下降すると、第1及び第2のフローティングスリーブ19、25の各上端が、下型本体16の凹部4の底面及びノックアウトスリーブ18の上端と同一高さになり、上型2と下型3との間のキャビティに所定形状の成形品110が鍛造成形される。
これにより、従来のように、成形過程の初期段階における成形前素材100の水平方向への急激な膨出が防止されるので、素材肉の流れが偏ることなく、ひいては、成形品110の偏肉を防止することが可能となる。
【0031】
なお、本発明の実施の形態に係る鍛造金型装置1は、図5(b)に示す成形品110の他、図2に示すような、円板状で、上面及び下面の中央部位に截頭円錐状の凹部121、121を有し、さらに、その下面の外周端部分に、下方に突設する環状突設部122を有する形状の成形品120を鍛造成形する際にも有効である。
つまり、成形前素材100から成形品120を鍛造成形する際には、鍛造金型装置1を、図2に示すように、ノックアウトスリーブ18の上端が下型本体16の凹部4の底面よりも上方に突出するように設定しておき、各コイルスプリング26が全て圧縮され、第1及び第2のフローティングスリーブ19、25が下死点に到達すると、第2のフローティングスリーブ25の上端が第1のフローティングスリーブ19の上端よりも低くなり、下型本体16の凹部4の底面と同一高さになると共に、第1のフローティングスリーブ19の上端がノックアウトスリーブ18の上端と同一高さになるように、第2のフローティングスリーブ25の長さを第1のフローティングスリーブ19の長さよりも短く設定し、且つコイルスプリング26の伸長時及び圧縮時の長さ等を適宜設定すればよい。
当然ながら、成形品120を鍛造成形する際にも成形直前では、第2のフローティングスリーブ25の上端が第1のフローティングスリーブ19の上端よりも上方に突出しており、第2のフローティングスリーブ25の上端部の内周面が成形前素材100の下端部の外周面に当接して保持し、成形前素材100を正確に位置決めしている。
【0032】
次に、図3(b)に示すような、円板状で、上面及び下面の中央部位に截頭円錐状の凹部131、131を有し、さらに、その下面に設けた凹部131の周辺部分に、下方に突設する環状突設部132を有する形状の成形品130を鍛造成形する際には、図3に示す本発明の他の実施の形態に係る鍛造金型装置1aが使用されることになる。この他の実施の形態に係る鍛造金型装置1aの説明に際しては、前述している図1及び図2に示す鍛造金型装置1と相違する点を主に説明する。
【0033】
図3に示す他の実施の形態に係る鍛造金型装置1aは、下型3において、ノックアウトスリーブ18の外周面に、第1のフローティングスリーブ19が上下方向に摺動自在に設けられている。この第1のフローティングスリーブ19は、その下端に、上段固定台5aに周方向に所定の間隔を置いて複数配設されたシリンダ21からのシリンダロッド22の上面が当接し、各シリンダ21の駆動によりノックアウトスリーブ18の外周面を上下方向に摺動自在となる。
また、第1のフローティングスリーブ19の外周面には、第2のフローティングスリーブ25が上下方向に摺動自在に設けられている。この第2のフローティングスリーブ25は、その下端と上段固定台5aの上面との間に、周方向に所定の間隔を置いて複数配置されたコイルスプリング26が介設され、各コイルスプリング26の弾性力により第1のフローティングスリーブ19の外周面を上下方向に摺動自在となる。
さらに、ノックアウトスリーブ18は、その上端が下型本体16の凹部4の底面よりも低くなるように設定されている。
なお、固定台5は、上段固定台5a、中段固定台5b及び下段固定台5cから構成されており、下側ポンチ17の下端部が下段固定台5cに固定され、中段固定台5bの内壁面にノックアウトスリーブ18の下端部に設けた環状爪部18aが上下方向に摺動する凹部5dが設けられている。このノックアウトスリーブ18の環状爪部18aの下面に、下段固定台5cを挿通し上下方向に摺動自在な複数の摺動ピン30の上面が当接されている。
【0034】
そして、図3に示す他の実施の形態に係る鍛造金型装置1aは、まず、図3(a)に示すように、成形直前では、第2のフローティングスリーブ25の上端が第1のフロティングスリーブ19の上端よりも上方に突出して、第2のフローティングスリーブ25の上端部の内周面が成形前素材100の下端部の外周面に当接して保持し、成形前素材100を位置決めする。
その後成形前素材100への加圧が開始され、図3(b)に示すように、各コイルスプリング26が全て圧縮され、第1及び第2のフローティングスリーブ19、25が下死点に到達すると、第2のフローティングスリーブ25の上端が第1のフローティングスリーブ19の上端よりも上方に突出し、下型本体16の凹部4の底面と同一高さになると共に、第1のフローティングスリーブ19の上端がノックアウトスリーブ18の上端と同一高さになり、成形品130が鍛造成形される。
【0035】
つまり、図3に示す他の実施形態に係る鍛造金型装置1aでは、第1のフローティングスリーブ19を上下方向に摺動させる各シリンダ21と、第2のフローティングスリーブ25を上下方向に摺動させる各コイルスプリング26とが共に固定台5の上段固定台5aに配置されるために、第1及び第2のフローティングスリーブ19、25がそれぞれ独立した状態で上下方向に摺動する形態となる。この点が、図1及び図2に示す鍛造金型装置1の、第2のフローティングスリーブ25が、各コイルスプリング26の弾性力により第1のフローティングスリーブ19に対して上下方向に摺動する形態と相違する点となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る鍛造金型装置を示し、(a)〜(d)は成形品の成形過程を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る鍛造金型装置により図1の成形品とは別の成形品が鍛造成形される形態を示す図である。
【図3】図3は、本発明の他の実施の形態に係る鍛造金型装置を示し、(a)〜(b)は成形品の成形過程を示す図である。
【図4】図4は、従来の鍛造金型装置を示し、(a)〜(b)は成形品の成形過程を示す図である。
【図5】図5(a)は、成形前素材を示し、(b)は、鍛造成形後の成形品を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1、1a 鍛造金型装置,2 上型,3 下型,5 固定台,19 第1のフローティングスリーブ(支持部材),20 環状鍔部,25 第2のフローティングスリーブ(位置決め部材),26 コイルスプリング(弾性部材),100 成形前素材,110、120、130 成形品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型とで型締めして成形前素材を所定形状に鍛造成形する鍛造金型装置であって、
該鍛造金型装置は、前記下型内に上下方向に摺動自在に配設され、成形前素材の下面を支持する支持部材と、
該支持部材の周りを上下方向に摺動自在に配設され、前記成形前素材の外周面を保持する位置決め部材とを備えていることを特徴とする鍛造金型装置。
【請求項2】
前記支持部材は、その下端に外方に突設する鍔部を設けた円筒状に形成され、前記位置決め部材の下端と、前記支持部材の前記鍔部の上面との間に弾性部材が介設されることを特徴とする請求項1に記載の鍛造金型装置。
【請求項3】
前記支持部材は、前記下型が固定される固定台に上下方向に摺動自在に支持されると共に、前記位置決め部材の下端と、前記固定台との間に弾性部材が介設されることを特徴とする請求項1に記載の鍛造金型装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−183567(P2008−183567A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16556(P2007−16556)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】