説明

鍵盤楽器の蓋体開閉構造

【課題】部品点数を少なく押えた簡単な構成で、ケースと蓋体を連結する連結機構を含む鍵盤楽器の外観を良好にする。
【解決手段】鍵盤楽器の蓋体開閉構造であって、ケースの側板6の内側面6cと蓋体20の端部とにその両端がリンク支持された連結具31と、蓋体20に取り付けたスライド部材45がケースに取り付けたガイド部材43に対してスライド可能な状態で嵌合しているスライド機構を備えると共に、鍵盤の見え掛り部よりも後側の上方を覆うように設置した板状のパネル部材55を備え、パネル部材55は、その幅方向の端部55aに設けたカバー部54がスライド機構及び連結具31の少なくとも一部を覆った状態で側板6の内側面6cに対峙するように設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子オルガンや電子ピアノをはじめとする各種の鍵盤楽器において、ケース内に設置した鍵盤の上面側を開閉する蓋体と、ケースに対して蓋体を移動可能に連結してなる連結機構とを備えた鍵盤楽器の蓋体開閉構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子オルガンや電子ピアノをはじめとする各種の鍵盤楽器には、ケース内に設置した鍵盤の上面側を開閉するための鍵盤蓋(蓋体)を備えたものがある。このような鍵盤蓋を開閉する開閉機構の従来技術として、例えば、特許文献1に示す開閉機構がある。特許文献1に記載の開閉機構は、ピアノ本体側に奥屋根を介して回動自在に取り付けた蓋体を開閉するための機構であって、奥屋根の下面側に取り付けた緩衝器と鍵盤蓋との間を連結する細板状のリンクバー(連結具)を有するリンク機構を備えている。そして、奥屋根と鍵盤との間には、鍵盤の後端上面を覆う板状の鍵盤押え(パネル部材)が設置されており、当該鍵盤押えの両端部におけるリンクバーに対向する位置には、鍵盤押えとリンクバーとの干渉を防止するための切欠きが形成されている。
【0003】
そして、特許文献1に記載の開閉機構では、鍵盤蓋を開いたときに、鍵盤押えの切欠きやその後ろ側のリンクバーの大部分が見えてしまうことで、ピアノの外観を損ねるという課題がある。そのため、当該課題を解決するための構成として、鍵盤蓋が開位置にあるときに鍵盤押えの切欠きを塞ぐカバー部材を設けている。このカバー部材は、リンクバーに嵌め込まれて一体に取り付けられた薄板状の部材である。これにより、鍵盤蓋が開位置にあるときに、リンクバーと一体に移動するカバー部材が鍵盤押えの切欠きを塞ぐように構成している。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の鍵盤蓋の開閉構造では、鍵盤押えの端部と、該端部に設けた切欠きを塞ぐためのカバー部材との少なくとも二部品で、リンクバー及びその周囲を覆うための部品を構成している。そのため、リンク機構を覆うための部品の点数増加、リンク機構の周辺構造の煩雑化などにつながるおそれがある。また、鍵盤蓋の開閉に伴い移動する部品であるリンクバーにカバー部材を取り付けた構成であるため、鍵盤蓋の繰り返しの開閉動作に伴いカバー部材や鍵盤押えの端部に位置ずれや破損などの不具合が生じる可能性もあり、開閉構造の耐久性を確保することが難しいという問題もある。
【0005】
また、上記のようなリンク機構を備えた開閉構造では、カバー部材の切り欠きから露出するリンクバーと本体部の側壁などとの間に微小な隙間があることで、当該隙間に指などを挟んでしまうおそれがあるため、このような指挟みを防止するための構造を採用することが望ましい。
【0006】
また、上記のようなリンク機構を備えた開閉構造では、油圧式ダンパなどからなる緩衝器をリンクバーの鍵盤蓋側の端部に取り付ける場合がある。その場合、通常の軸受などと比較して外形寸法が大きい油圧式ダンパなどの部品を鍵盤蓋の下面(内面)に取り付ける必要がある。しかしながら、外形寸法が大きい油圧式ダンパなどの部品を設置していると、鍵盤蓋を閉じた際に、油圧式ダンパなどの部品が鍵盤押えの上面などと干渉し易くなるという問題がある。そのため、当該干渉を防止するための形状や配置構成を採用する必要がある。
【0007】
また、上記のような鍵盤押え(パネル部材)は、鍵盤の見え掛り部の後側上方を覆う部材であるため、その前端辺を鍵の配列方向に対して厳密に平行な状態で設置しなければならない。しかしながら、実際には、鍵盤押えを鍵盤の後側に取り付ける際にその位置決めを正確に行うことは必ずしも容易ではないため、鍵盤押えを正確な位置に取り付ける作業に手間と時間を要するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3589377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を少なく押えた簡単な構成で、鍵盤楽器の鍵盤を収容してなるケースと蓋体を連結する連結機構を含む鍵盤楽器の外観を良好にできると共に、鍵盤楽器の後部を覆うパネル部材の取付性向上や、鍵盤楽器のコンパクト化などを図ることができる鍵盤楽器の蓋体開閉構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、複数の鍵(5a,5b)からなる鍵盤(5)を収容してなるケース(10)と、前記ケース(10)に対して、該ケース(10)における前記鍵盤(5)の上方を閉じる閉位置と該上方を開く開位置との間で移動可能となるように取り付けられた板状の蓋体(20)と、前記ケース(10)における前記鍵(5a,5b)の配列方向の両側に配置した一対の側部(6,6)と、それらに対向する前記蓋体(20)における前記鍵(5a,5b)の配列方向の両端部(20d,20d)それぞれとを連結してなる一対の連結機構(30,30)と、前記ケース(10)内で前記鍵盤(5)の見え掛り部(4)よりも後側の上方を覆うように設置した板状のパネル部材(55)と、を備えた鍵盤楽器の蓋体開閉構造であって、前記連結機構(30)は、前記側部(6)と前記蓋体(20)の端部(20d)との間に取り付けられて、一端(31a)が前記側部(6)の内側面(6c)に対してリンク支持されており、他端(31b)が前記蓋体(20)の端部(20d)に対してリンク支持されてなる一又は複数の連結具(31)と、前記側部(6)と前記蓋体(20)のいずれか一方に設けた凹部(43a)を有するガイド部材(43)と、他方に設けた凸部(45a)を有するスライド部材(45)とを備え、前記ガイド部材(43)の前記凹部(43a)に前記スライド部材(45)の前記凸部(45a)が摺動可能な状態で嵌合しているスライド機構(40)と、を備え、前記蓋体(20)が前記閉位置と前記開位置との間を移動する際に、該蓋体(20)の後端部(20a)が前記鍵(5a、5b)の長手方向を前後にスライド移動するように構成されており、前記パネル部材(55)は、その幅方向の端部(55a)に設けたカバー部(54)が、前記スライド機構(40)及び前記連結具(31)の少なくとも一部を覆った状態で、前記側部(6)の内側面(6c)に対峙していることを特徴する。
【0011】
本発明の蓋体開閉構造ように、連結具及びスライド機構を備えた連結構造を有するものでは、仮に、連結具及びスライド機構の少なくとも一部を覆うカバー部を設けていないと、蓋体を開いたときに、演奏者の側から連結機構を構成する連結具やスライド機構の構成部品が見えてしまうことで、鍵盤楽器の外観が損なわれるおそれがある。また、連結具とケースの側部などとの間に微小な隙間があることで、当該隙間に指などを挟んでしまうおそれもある。また、スライド機構の凹部と凸部の嵌合箇所が露出していると、それらの隙間にも指などを挟んでしまうおそれがある。そこで、本発明に係る蓋体開閉構造では、上記のように、パネル部材の両端部に設けたカバー部でスライド機構及び連結具の少なくとも一部を覆うように構成した。これにより、蓋体を開いた際に連結具やスライド機構の構成部品が露出せずに済む。このように、連結機構やスライド機構など蓋体開閉構造の構成部品を鍵盤楽器の外観上見え難くすることができるので、鍵盤楽器の外観を良好にすることができる。また、連結具と側壁などとの隙間やスライド機構の隙間に指などを挟んでしまうおそれがなくなる。したがって、上記構成の蓋体開閉構造を備えた鍵盤楽器の取扱いにおける安全性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る蓋体開閉構造では、上記のパネル部材を合成樹脂製の成型品とし、上記のカバー部をパネル部材の端部に一体形成された部分としてもよい。これによれば、鍵盤楽器の部品点数を少なく抑えることが可能となる。これにより、鍵盤楽器の組立工程の煩雑化を防止でき、鍵盤楽器の低コスト化を図ることができる。この点、特許文献1に示す従来構造では、鍵盤押えとカバー部材とが別体である構造のため、鍵盤楽器の部品点数の増加、構造及び組立工程の煩雑化につながってしまう。
【0013】
また、上記の蓋体開閉構造では、前記ガイド部材(43)の少なくとも一の端面(43b)は、前記側部(6)の内側面(6a)に対峙させた前記パネル部材(55)の前記カバー部(54)を位置決めするための位置決め部になっているとよい。
【0014】
この構成によれば、パネル部材を取り付ける際の位置決めが行い易くなる。すなわち、パネル部材の両端部をケースの側部に対して正確に位置決めした状態で取り付けることができるようになるので、鍵盤の見え掛り部の後側上方に設置するパネル部材は、その前端辺を鍵の配列方向に対して厳密に平行な状態で設置しなければならないところ、それを容易に実現できるようになる。したがって、鍵盤楽器の組立性を向上させることができる。
【0015】
また、上記の蓋体開閉構造では、カバー部(54)における側部(6)の内側面(6a)に対峙する面には、連結具(31)を挿通させるための切込部(55c)が設けられているとよい。この構成によれば、ケースと蓋体とを連結する連結具を覆いながらも、蓋体の開閉に伴う連結具の動作を確保することができる。
【0016】
また、上記の蓋体開閉構造では、パネル部材(55)の上面は、開位置での蓋体(20)の内面(20c)に立て掛ける譜面を載置するための譜面受け(53)になっており、譜面受け(53)は、鍵(5a,5b)の長手方向の前側から後側に向かうにつれてその面が次第に下降するように傾斜する傾斜平面状の底面を有する窪みであり、譜面受け(53)における幅方向の両端部は、蓋体(20)が閉位置にある状態で、前記連結具(31)を前記蓋体(20)に対してリンク支持するための軸受部品(36)を収容するための収容部(52)になっているとよい。
【0017】
この構成によれば、蓋体が閉位置にある状態で、パネル部材の上面側に設けた譜面受けの両端部に連結具を蓋体に対してリンク支持するための軸受部品が収容されるので、蓋体が閉位置にある状態での鍵盤楽器の高さ寸法を低く抑えることができる。また、パネル部材に設けた譜面受けで軸受部品の収容部を兼用するように構成したことで、鍵盤楽器の構成の簡素化、部品点数の削減による低コスト化などを図ることも可能となる。特に、連結具を蓋体に対してリンク支持するための軸受部品をトルク発生型の軸受部品とすると、トルク発生機能を有しない通常の軸受部品と比較してその径寸法や軸方向の長さ寸法が大きくなるところ、本発明にかかる上記構成によれば、パネル部材に設けた譜面受けの窪みが軸受部品の収納部になることで、径寸法や長さ寸法の大きな軸受部品をケース内に確実に収容することが可能となる。また、連結具を蓋体に対してリンク支持するための軸受部品として、トルク発生型の軸受部品とトルク発生機能を有しない軸受部品との両方を使用可能となるので、蓋体開閉構造の設計自由度を向上させることができる。さらに、複数種類の機種間で同一構成の蓋体開閉構造を共用する場合でも、鍵盤楽器の各部の寸法(ケースの高さ寸法など)の機種ごとの変更が不要となるので、蓋体開閉構造の汎用性を向上させることができる。
なお、上記における括弧内の符号は、後述する実施形態における対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる鍵盤楽器の蓋体開閉構造によれば、部品点数を少なく押えた簡単な構成で、鍵盤を収容してなるケースと蓋体とを連結する連結機構を含む鍵盤楽器の外観を良好にできると共に、鍵盤楽器の後部を覆うパネル部材の取付性向上や、鍵盤楽器のコンパクト化などを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる蓋体開閉構造を備えた鍵盤楽器の全体構成例を示す斜視図である。
【図2】蓋体開閉構造の詳細構成を示す図で、鍵盤楽器の側断面図である。
【図3】スライド機構の詳細構成を示す図で、下ケースの一方の側部を示す部分拡大斜視図である。
【図4】(a)は、パネル部材の端部の詳細構成を示す図で、下ケースの一方の側部を示す部分拡大斜視図、(b)は、(a)のX部分を正面側から見た平面視の拡大図である。
【図5】パネル部材の取付手順を説明するための図である。
【図6】蓋体が閉位置から開位置へ移動する際の動作を説明するための図である。
【図7】本発明の第2実施形態にかかる蓋体開閉構造を示す図で、(a)は、鍵盤楽器の側断面図、(b)は、ケース及びパネル部材を正面側から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の一実施形態にかかる蓋体開閉構造を備えた鍵盤楽器1の全体構成例を示す斜視図である。また、図2は、本実施形態にかかる蓋体開閉構造の詳細構成を示す図で、鍵盤楽器1の側断面図である。なお、図2(a)は、後述する蓋体20が開位置にある状態を示しており、(b)は、蓋体20が閉位置にある状態を示している。本実施形態の鍵盤楽器1は、下ケース(ケース)10と、該下ケース10内に設置された鍵盤5と、下ケース10に取り付けられた蓋体(鍵盤蓋)20とを備えている。なお、以下の説明では、横方向又は幅方向というときは、鍵盤5の各鍵5a,5bが配列された左右方向を示し、前又は後というときは、鍵盤5の手前側(演奏者側)又は奥側を示すものとする。
【0021】
鍵盤5は、横方向に沿って配列された複数の黒鍵5aと白鍵5bとを有している。鍵盤5を収容している下ケース10は、鍵盤5の左右両側それぞれを覆う一対の側板(側部)6,6と、鍵盤5の前側を覆う前板(前部)7と、後側を覆う後板(後部)8と、底側を覆う底板(底部)9とで囲まれており、全体が横長の略直方体状に形成されている。下ケース10の上面側は、鍵盤5の上面が露出する開口になっている。そして、蓋体20は、下ケース10に対して該開口を完全に閉じる閉位置と、該開口を完全に開く開位置との間で移動可能となるように取り付けられている。この蓋体20は、一対の側板6,6の上端面6a,6aに載置された状態で開口を塞ぐ一枚板状の部材であり、その外形は、下ケース10の外形に沿う横長の長方形状になっている。蓋体20の内面(下面)20cにおける前端近傍には、前板7の上方で鍵盤5の前面を覆う蓋前21が取り付けられている。なお、上記では、側板6,6は、その側面視の形状が方形状であって、上端面6a,6aが下ケース10の後方から前方に向かって水平な(下ケース10の底板9と平行な)形状である場合を示したが、これ以外にも、詳細な図示は省略するが、側板6,6は、その側面視の形状が略台形形状であって、その上端面6a,6aが下ケース10の後方から前方に向かって下降するように傾斜する傾斜平面状に形成されていてもよい。
【0022】
また、鍵盤5の両側部を覆う一対の側板6,6それぞれと、それらに対向する蓋体20の両側の端部20d,20dそれぞれとの間には、下ケース10に対して蓋体20を移動可能に連結してなる連結機構30が設けられている。本実施形態の鍵盤楽器1では、連結機構30,30は、一対の側板6,6それぞれと蓋体20における鍵5a,5bの配列方向の両端部20d,20dそれぞれとの間に取り付けた一対の連結具31,31を有している。一対の連結具31,31は、互いが左右対称な形状及び取付構造を有している。なお、ここでいう蓋体20の端部20dとは、蓋体20の幅方向における両側の端面とその近傍の内面20cや外面を含む部分を示すものである。
【0023】
図2に示すように、連結具31は、長尺板状の部材であり、その長手方向の一方の端部31aが側板6の内側面6cに設けた第1リンク支点33に回動自在に支持されており、他方の端部31bが蓋体20の鍵盤5側を向く内面20cに設けた第2リンク支点35に回動自在に支持されている。第1リンク支点33は、側板6の内側面6cに対して、連結具31の一方の端部31aを下ケース10の幅方向を軸方向とする回転軸周りで回転自在に支持(リンク支持)している。また、第2リンク支点35は、蓋体20の内面20cに対して、連結具31の他方の端部31bを蓋体20の幅方向及び面方向を軸方向とする回転軸周りで回転自在に支持(リンク支持)している。また、第1リンク支点33は、側板6の内側面6cに固定した軸受部品32で連結具31の端部31aを支持している。この軸受部品32は、トルク発生機能を有しない通常の軸受部品である。また、第2リンク支点35は、蓋体20の内面20cにネジで固定した取付板34に設けたトルク発生型の軸受部品36で連結具31の端部31bを支持している。
【0024】
第2リンク支点35に設置したトルク発生型の軸受部品36は、その詳細な図示及び構造の説明は省略するが、例えば、内部に作動油が充填された筒状のハウジングと、該ハウジング内に回転自在に嵌合する回転部材とを備えて構成され、作動油の油圧による摺動抵抗によって回転部材の回転に対する制動力が作用するように構成された回転ダンパ機構(オイルダンパ機構)を用いることができる。このような回転ダンパ機構からなるトルク発生型の軸受部品36として、例えば、特開2001‐349364号公報や特開2008‐185215号公報などに開示された構造の軸受部品を用いることが可能である。なお、上記のトルク発生型の軸受部品36は、蓋体20と連結具31との相対的な回動に対する抵抗力を発生する抵抗力発生部として機能する部品である。
【0025】
軸受部品36は、上記のオイルダンパ機構に代えて、軸回りに設置した複数の樹脂部品の摺動により摩擦力を発生する回転ダンパ機構(回転摩擦機構)であってもよい。そして、この回転摩擦機構は、一方への回転においてのみ大きな摩擦力を発生し、なおかつ、回転速度が大きければ大きい程、大きな摩擦力を発生するダンパ機構(これを「ワンウェイクラッチ機構」)ともいう。)を用いてよい。そして、このようなダンパ機構を用いる場合は、蓋体20を開位置から閉位置へ向けて移動させる方向で大きな摩擦力を発生するように設置すれば、閉位置へ移動する蓋体20の動きがゆっくりとしたものになるので、蓋体20を閉じる際に蓋体20と側板6の上端面6aとの間に指などを挟むおそれを低減できる。
【0026】
連結具31は、その長手方向が第1リンク支点33から第2リンク支点35に向かって延びる細板状で、第1リンク支点33と第2リンク支点35との中間の部分が平面内で略「く」字型に屈曲する屈曲部31cになっている。この連結具31は、その面を側板6の内側面6cと平行にして、屈曲部31cの内側を上方に向けた状態で取り付けられている。また、第1リンク支点33は、第2リンク支点35よりも下側かつ前側(下ケース10の下側かつ前側)に配置されている。
【0027】
また、本実施形態の蓋体開閉構造は、蓋体20が閉位置と開位置との間を移動する際に、該蓋体20の後端部20aが側板6の上端面6a(下ケース10の上面)に沿ってスライド移動するように構成したスライド機構40を備えている。図3は、スライド機構40の詳細構成を説明するための図で、下ケース10の幅方向における一方の端部を示す部分拡大斜視図である。なお、この図3及び先の図1においては、スライド機構40の構成部品を示すために、後述するパネル部材55の一方の端部55a及びその近傍(図4参照)を省略した状態で図示している。図3に示すように、スライド機構40は、側板6の内側面6cに取り付けたガイド部材43と、ガイド部材43に設けた直線状のガイド溝(凹部)43aと、蓋体20側の取付板34の下端に設けたリンク支点34bに回動自在に取り付けたスライド部材45と、スライド部材45に設けたスライド突起(凸部)45aとを備え、ガイド溝43aにスライド突起45aをスライド自在に嵌合させた構成である。そして、蓋体20が閉位置から開位置へ移動する際に、上記のスライド機構40によって、蓋体20の後端部20aが側板6の上端面6a及び鍵5a,5bの長手方向と平行に下ケース10の前側へ移動するようになっている。
【0028】
ガイド部材43とスライド部材45は、いずれも表面が滑らかな合成樹脂製の成型品などからなる。そして、ガイド部材43は、側板6の内側面6cに取り付けた略矩形状の部材である。ガイド溝43aは、断面が略コ字型の溝部であり、その長手方向が側板6の上端面6a及び鍵5a,5bの長手方向と平行な方向に沿って前後に延びている。一方、スライド部材45は、蓋体20の開閉動作に伴い前後方向に移動するようになっている。スライド突起45aは、ガイド溝43aにスライド自在に嵌合する断面が略コ字型の突起である。なお、ガイド溝43aは、蓋体20が閉位置から開位置まで移動する際の全域でスライド突起45aを嵌合させる長さ寸法を有している。
【0029】
上記のスライド機構40では、ガイド溝43aにスライド突起45aが嵌合していることで、これらが互いに離間することなくスライド移動するようになっている。これにより、蓋体20のよりスムーズな開閉動作を実現できる。また、蓋体20が閉位置と開位置との間で移動する際に、側板6の上端面6aと蓋体20の後端部20aとの間隔が常に一定に保たれるので、それらの間に指などを挟むことを効果的に防止できる。さらに、側板6と蓋体20とを連結している連結具31にねじれやゆがみが生じることも防止できる。
【0030】
次に、上記の連結機構30の連結具31及びスライド機構40を覆う構造について説明する。下ケース10内の鍵盤5の後部上方には、板状のパネル部材(鍵盤押え)55が設置されている。パネル部材55は、鍵盤5の見え掛り部4より後側の上面を覆っている。なお、ここでいう鍵盤5の見え掛り部4とは、鍵盤5におけるパネル部材55で覆われておらずその上面(演奏面)が露出している部分を指す。そして、パネル部材55の幅方向両側の端部55a,55aを除く部分は、開位置での蓋体20の内面20cに立て掛けた譜面(図示せず)の下端を載置するための譜面受け53になっている。この譜面受け53は、鍵5a,5bの長手方向に沿って前側から後側に向かうにつれて次第に下降するように傾斜する傾斜平面状の底面を有する窪みからなる。譜面受け53は、下ケース10の幅方向に沿って一方の側板6の近傍から他方の側板6の近傍まで延伸している。
【0031】
図4(a)は、パネル部材55の端部55aの詳細構成を示す図で、下ケース10の一方の側板6及びその近傍を示す部分拡大斜視図である。同図に示すように、パネル部材55の端部55aには、スライド機構40及び連結具31の一部を覆うカバー部54が設けられている。本実施形態のパネル部材55は、合成樹脂製の成型品であって、カバー部54は、当該パネル部材55における幅方向の両端(譜面受け53の両端)に一体形成された部分である。このカバー部54は、スライド機構40を構成するガイド部材43の周囲を覆うと共に、連結具31の下ケース10側の一部を覆う形状に形成されている。具体的には、カバー部54は、その側板6側の端面(譜面受け53と反対側の端面)が側板6の内側面6cに対峙(対向)しており、かつ、上面が側板6の上端面6aに沿う平面状に形成されており、全体が略矩形状の箱型の部分として形成されている。
【0032】
このようなカバー部54の内部にスライド機構40及び連結具31の一部が収容されている。また、カバー部54における側板6の内側面6cに対向する部分には、連結具31を挿通させるための切込部55cが設けられている。これにより、連結具31は、切込部55cを介してパネル部材55の下側から上方に突出し、その先の端部31bが蓋体20の内面20cに設けた第2リンク支点35に連結されている。切込部55cは、連結具31の厚さ寸法よりも大きな幅寸法と、蓋体20が閉位置と開位置との間で移動する際に連結具31が移動する範囲よりも大きな奥行寸法とを有している。
【0033】
そして、本実施形態の蓋体開閉構造では、既述のように、蓋体20の内面20cに設けた第2リンク支点35には、トルク発生型の軸受部品36が設置されている。このトルク発生型の軸受部品36は、軸方向の一方の端部(外側の端部)36aに連結具31の端部31bが係合しており、そこから軸方向に沿って下ケース10の内側(幅方向の内側)へ延びており、かつ、蓋体20の内面20cからその径寸法分だけ突出している。そして、パネル部材55に設けた譜面受け53の両端部は、蓋体20が閉位置にある状態で上記のトルク発生型の軸受部品36を収容するための収容部52になっている。
【0034】
図5は、パネル部材55の取付手順を説明するための図で、下ケース10の一方の側部を示す部分拡大斜視図である。パネル部材55は、下ケース10の手前側から両側の側板6,6の間に差し込まれて取り付けられている。この際、パネル部材55の両端部55a,55aに設けたカバー部54,54の外側の端面が側板6,6の内側面6c,6cに対向するように取り付けられる。このとき、仮に鍵盤5が無ければ、パネル部材55は、その面を略水平な状態にした状態で、図5(a)に符号Yの点線で示した仮想位置から後方へ略水平にスライド移動させて取り付けることができる。しかしながら、実際にはパネル部材55の取付位置の前側には鍵盤5があり、上記のY位置からパネル部材55を取り付けると黒鍵5aの上端と干渉してしまう。そこで、パネル部材55の取り付けにおいては、パネル部材55を鍵盤5の上方から斜め下後方に向かって移動させて鍵盤5の後側に取り付けるようにする。このとき、パネル部材55におけるカバー部54の側板6側の前端部(角部)は、図5に示すP1→P2→P3の順で移動する。
【0035】
また、上記のようにパネル部材55が鍵盤5の後側に設置される際に、側板6の内側面6cに取り付けたガイド部材43の前側上下の端面43b,43b(図3参照)が、パネル部材55のカバー部54の側板6側の端面に設けた段部(図示せず)に当接係合するように構成されている。これにより、側板6,6の内側面6c,6cに対するパネル部材55の両端部55a,55aの位置決め(上下及び前後方向の位置決め)が行われるようになっている。すなわち、ガイド部材43の上下の端面43b,43bは、パネル部材55を側板6の内側面6cに対峙させて配置する際の位置決め部になっている。このように、ガイド部材43の上下の端面43b,43bが位置決め部になっていることで、下ケース10内にパネル部材55を設置する際の位置決めが行い易い。また、パネル部材55の両端部55a,55aを側板6,6の内側面6c,6cに対して正確に位置決めした状態で取り付けることが可能となる。これにより、鍵盤5の見え掛り部4の後側上方に設置するパネル部材55は、その前端辺を黒鍵5a及び白鍵5bの配列方向(鍵盤楽器1の幅方向)に対して厳密に平行な状態で設置しなければならないところ、それが容易に実現できるようになる。したがって、鍵盤楽器1の組立性を向上させることができる。
【0036】
上記のように、ガイド部材43の端面43b,43bをカバー部54の段部に当接係合させてガイド部材43及びパネル部材55を位置決めした状態で、ガイド部材43の上側の端面43bに設けたネジ孔(図3参照)44と、それに対応するカバー部54に設けたネジ孔(図示せず)とにネジ(図4(a)参照)46を締結することで、ガイド部材43に対するパネル部材55の固定を行う。これにより、パネル部材55及びカバー部54は、ガイド部材43を介して側板6に対して間接的に固定される。そして、側板6の内側面6cとカバー部54の側板6側の端面とは、それらの間に互いの寸法誤差を許容するための僅かな隙間を有して(隙間が無い場合もある)対峙した状態となる。なお、カバー部54に設けた図示しないネジ孔をケース10及びパネル部材55の幅方向を長手方向とする長孔としておけば、ケースの側板6,6間の幅寸法(両側のガイド部材43,43間の寸法)に多少の誤差があっても、当該長孔でその誤差を許容することができるので、パネル部材55の取り付けを容易かつ確実に行うことができる。
【0037】
図4(b)は、図4(a)のX部分を正面側から見た平面視の拡大図である。この図4(b)に示すように、トルク発生型の軸受部品36の端部36aと連結具31の端部31bとの間には、軸方向において幅寸法W2の隙間35aが設けられている。一方、図4(a)に示すように、パネル部材55のカバー部54における譜面受け53側の端面54aと切込部55cとの間の突出部54bは、幅寸法W1になっている。そしてここでは、上記のW1とW2の関係は、W2>W1、より詳細にはW1+α=W2となるように設定されている。ここでのαはクリアランスであり、W1,W2よりも小さい寸法である。このような寸法関係に設定したことで、後述する手順で蓋体20を閉位置へ移動させた際に、連結具31の端部31bと軸受部品36の端部36aとの隙間35aにカバー部54の突出部54bが収まるようになる。したがって、軸受部品36がカバー部54と干渉せずにパネル部材55上の収容部52に収容されるようになる。
【0038】
また、図2及び図4(a)に示すように、蓋体20が開位置にある状態で、連結具31の移動を停止させるためのストッパ部37が設けられている。ストッパ部37は、パネル部材55の切込部55cの前端部(前端辺)に設けた連結具31の端辺を当接させる係止部37aを備えている。係止部37aは、図2(a)に示すように、蓋体20が完全に開いた開位置で連結具31の屈曲部31cの内端辺に当接することで、第1リンク支点33を中心とする連結具31の回動をその位置で規制する(停止させる)ようになっている。
【0039】
図6は、蓋体20が閉位置と開位置との間で移動する際の動作を説明するための図である。なお、図6では、連結具31など蓋体20の開閉動作に関連する主要な部品のみを図示している。また、同図では、開位置と閉位置との間で移動する蓋体20及び連結具31の軌跡を連続的に図示している。まず、図6の(A)に示す状態で、蓋体20が下ケース10における鍵盤5の上方を完全に閉じた閉位置にある。この状態では、蓋体20の両端部20d,20dの内面20cが側板6,6の上端面6a,6aに被さっている。この状態から蓋体20の前端部20bを上方に持ち上げると、図6の(B)→(J)の順で蓋体20が回動して、下ケース10における鍵盤5の上方が開かれてゆく。このとき、第1リンク支点33を中心に第2リンク支点35が前側かつ上側に向かって回動すると共に、図3に示すスライド機構40のスライド突起45aがガイド溝43aに沿って後側から前側に向かって水平にスライド移動することで、蓋体20の後端部20aが側板6の上端面6aに沿って後方から前方へスライド移動する。これにより、蓋体20は、後端部20aの近傍を支点に前端部20bが上方に回動する。そして、最終的には、図6の(K)に示すように、連結具31がストッパ部37の係止部37aに当接する位置で、連結具31及び蓋体20の動作が停止する。この位置で、蓋体20が完全に開かれた開位置となる。この閉位置では、蓋体20の後端部20aが前端部20bよりも若干前側に位置しており、蓋体20の内面20cが下から上に向かって後方に若干傾斜した状態になっている。
【0040】
一方、図6の(K)に示す開位置にある蓋体20の前端部20bを手前側に引くと、蓋体20が閉位置に向かって移動する。この場合は、上記とは逆に、図6の(J)→(B)の順で蓋体20が回動して、下ケース10における鍵盤5の上方が閉じられてゆく。このとき、第1リンク支点33を中心に第2リンク支点35が後側かつ下側に向かって回動すると共に、蓋体20の後端部20aが側板6の上端面6aに沿って前方から後方へスライド移動する。これにより、蓋体20は、後端部20aの近傍を支点に前端部20bが下方に回動する。そして、最終的には、図6の(A)に示すように、蓋体20の内面20cの両端部20d,20dが側板6,6の上端面6a,6aに載置された状態で、蓋体20が鍵盤5の上方を完全に閉じた閉位置となる。そして、図2(b)に示すように、この閉位置で、蓋体20の内面20cに取り付けたトルク発生型の軸受部品36,36がパネル部材55の譜面受け53の両端部に設けた収容部52,52内に配置されるようになっている。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の鍵盤楽器1が備える蓋体開閉構造では、側板6と蓋体20の端部20dとの間に取り付けられた連結具31と、側板6に設けたガイド溝43aと連結具31に設けたスライド突起45aとを備えるスライド機構40とからなる連結機構30を備えている。そして、鍵盤5の見え掛り部4の後側上方を覆うパネル部材55は、その幅方向の両側の端部55aに設けたカバー部54がスライド機構40及び連結具31の一部を覆った状態で側板6の内側面6cに対峙している。
【0042】
本実施形態にかかる鍵盤楽器1のような連結具31及びスライド機構40を備えた連結機構30を有する蓋体開閉構造では、仮に、連結具31及びスライド機構40の一部を覆うカバー部54を設けていないと、蓋体20を開いたときに、演奏者の側から連結機構30を構成する連結具31やスライド機構40の構成部品が見えてしまうことで、鍵盤楽器1の外観が損なわれるおそれがある。また、側板6などの部品と連結具31との間に微小な隙間があることで、当該隙間に指などを挟んでしまうおそれがある。また、スライド機構40のガイド溝43aとスライド突起45aとの嵌合箇所が露出していると、スライド突起45aがガイド溝43a内を摺動する際に、それらの間に指などを挟んでしまうおそれがある。そこで、本実施形態の鍵盤楽器1では、上記のようにパネル部材55の両側の端部55aに設けたカバー部54でスライド機構40及び連結具31の一部を覆うように構成した。これにより、蓋体20を開いた際に連結具31やスライド機構40の構成部品が露出せずに済み、それらを鍵盤楽器1の外観上見え難くすることができるので、鍵盤楽器1の外観を良好にすることができる。また、連結具31と側板6との隙間やスライド機構40の隙間などが露出せずに済むので、それらの隙間に指などを挟んでしまうおそれがなくなる。したがって、鍵盤楽器1が備える蓋体開閉構造の取扱いにおける安全性を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態の蓋体開閉構造では、連結機構30の構成部品を覆うためのカバー部54を、鍵盤5の見え掛り部4より後側上方を覆うパネル部材55と一体に形成したことで、鍵盤楽器1の部品点数を少なく抑えている。これにより、鍵盤楽器1の組立工程の煩雑化を防止でき、低コスト化を図ることができる。また、カバー部54をパネル部材55に一体形成していることで、カバー部54をガイド部材43に当接係合させるだけで、カバー部54とパネル部材55の両者を一体的に位置決めでき、その状態で両者を固定することができる。したがって、カバー部54及びガイド部材43の取付作業の簡素化を図ることができる。
【0044】
また、本実施形態の蓋体開閉構造では、側板6の内側面6cに取り付けたガイド部材43の端面43bで、パネル部材55のカバー部54を側板6の内側面6cに取り付ける際の位置決めを行うようにしている。これにより、パネル部材55を取り付ける際の位置決めが行い易くなる。また、鍵盤5の見え掛り部4の後側上方に設置するパネル部材55は、その前端辺を各鍵5a,5bの配列方向に対して厳密に平行な状態で設置しなければならないところ、それが容易に実現できるようになる。したがって、鍵盤楽器1の組立性を向上させることができる。
【0045】
また、本実施形態の蓋体開閉構造では、カバー部54における側板6の内側面6cに対向する部分には、連結具31を挿通させるための切込部55cが設けられている。これにより、下ケース10と蓋体20とを連結する連結具31を覆いながらも、蓋体20の開閉に伴う連結具31の動作を確保することができる。
【0046】
また、本実施形態の蓋体開閉構造では、パネル部材55の上面は、開位置での蓋体20の内面20cに立て掛ける譜面を載置するための譜面受け53になっており、この譜面受け53は、鍵5a,5bの長手方向に沿って前側から後側に向かうにつれて次第に下降するように傾斜する傾斜平面状の底面を有する窪みからなる。そして、当該譜面受け53の両側の端部は、蓋体20が閉位置にある状態で、第2リンク支点35を構成するトルク発生型の軸受部品36を収容するための収容部52になっている。
【0047】
この構成によれば、蓋体20が閉位置にある状態で、パネル部材55に設けた譜面受け53の両側の端部に第2リンク支点35の軸受部品36が収容されるようになる。したがって、蓋体20が閉位置にある状態での鍵盤楽器1の高さ寸法を低く抑えることができる。また、パネル部材55に設けた譜面受け53でトルク発生型の軸受部品36を収容するための収容部52を兼用するように構成したことで、鍵盤楽器1の構成の簡素化、部品点数の削減による低コスト化などを図ることも可能となる。特に、第2リンク支点35を構成する軸受部品をトルク発生型の軸受部品36とすると、トルク発生機能を有しない通常の軸受部品と比較して、その径寸法が大きくなるところ、本実施形態の鍵盤楽器1が備える上記構成によれば、パネル部材55に設けた譜面受け53の窪みが軸受部品36の収容部52になっていることで、径寸法や長さ寸法の大きな軸受部品36を下ケース10内に確実に収容することが可能となる。また、第2リンク支点35を構成する軸受部品として、トルク発生型の軸受部品36とトルク発生機能を有しない軸受部品との両方を使用可能となるので、蓋体開閉構造の設計自由度を向上させることができる。さらに、複数種類の機種間で同一構成の蓋体開閉構造を共用する場合でも、鍵盤楽器1の各部の寸法(下ケース10の高さ寸法など)の機種ごとの変更が不要となるので、蓋体開閉構造の汎用性を向上させることができる。
【0048】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。図7は、本発明の第2実施形態にかかる蓋体開閉構造を示す図で、(a)は、鍵盤楽器1の側断面図、(b)は、下ケース10及びパネル部材55を正面側から見た概略図である。第1実施形態では、下ケース10内でのパネル部材55の固定は、図3及び図4に示すように、パネル部材55の端部55aに設けたカバー部54をガイド部材43に対してネジ46の締結によって固定することで行われていた。すなわち、パネル部材55は、側板6の内側面6cに取り付けたガイド部材43に固定されていた。これに対して、本実施形態では、パネル部材55は、ケース10の底板9上に立設した支持部9dによって該底板9に対して固定されている。
【0049】
すなわち、底板9の上面(内面)には、上方に向かって立設された柱状(ボス状)の支持部9dが一体形成されている。支持部9dの数は、一例として88鍵の鍵盤楽器であれば、図7(b)に示すように、ケース10の幅方向の両側の近傍にそれぞれ1本ずつ設けると共に、さらに図示は省略するがケース10の幅方向の途中に少なくとも2本を設け、合計4本を形成するとよい。一方、パネル部材55の下面における各支持部9dに対応する位置には、下方に突出する小突起状のボス部55dが形成されている。そして、パネル部材55は、鍵盤5の後側の所定位置(取付位置)に配置すると、ボス部55dの下端面が支持部9dの上端面に当接する(載置される)ようになっている。その状態で、支持部9dの内部(上端面の下側)からボス部55dに挿入したネジ48を締結固定することで、支持部9dにボス部55dを固定する。これにより、パネル部材55は、支持部9dによって支持された状態でケース10内に設置される。このとき、パネル部材55の両端部55a,55a(カバー部54,54)が側板6,6の内側面6c,6cに対峙した状態となる。なお、本実施形態においても、パネル部材55の位置決めは、図3,4に示すものと同様、側板6の内側面6cに取り付けたガイド部材43の端面43b,43bとカバー部54の側板6側の端面に設けた段部(図示せず)との係合によってなされるようにしている。
【0050】
本実施形態の構成によれば、ケース10内に設置したパネル部材55を固定するための固定具(ネジ)48を鍵盤楽器の外観上に現れないように隠すことができるので、鍵盤楽器の外観を良好にすることができる。
【0051】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、蓋体開閉構造を適用した鍵盤楽器1として、卓上型の鍵盤楽器を示したが、本発明にかかる蓋体開閉構造は、卓上型の鍵盤楽器以外にも、脚部を備えた自立型(大型)の鍵盤楽器などに適用することも可能である。
【0052】
また、上記の各実施形態では、蓋体20側に設けた第2リンク支点35は、蓋体20の内面20cにおける後端部20a側に配置されている場合を示したが、第2リンク支点35は、蓋体20の幅方向(鍵5a,5bの配列方向)の端部20dに設けてさえいれば、上記実施形態に示す以外の場所に配置することも可能である。例えば、蓋体20の内面20cにおける後端部20aと前端部20bの中間位置や、蓋体20の幅方向の端面における後端部20a、又は後端部20aと前端部20bの中間位置などに設けてもよい。
【0053】
また、上記の各実施形態では、閉位置にある蓋体20の両端部(幅方向の両端部)20d,20dの内面20cが側板6の上端面6aに載置されるように構成した場合を示したが、これ以外にも、図示は省略するが、側板6の内側面6cに蓋止用の他の部材を取り付けておき、閉位置にある蓋体20の両端部(幅方向の両端部)20d,20dの内面20cが、この蓋止用の部材の上端面に載置されるように構成してもよい。この場合、側板6の内側面6cに取り付ける蓋止用の部材は、その上端面が側板6の上端面6aと平行かつ側板6の上端面6aに対して蓋体20の厚さ寸法分だけ低い位置となるように取り付けておけば、閉位置の蓋体20の外面(上面)と側板6の上端面6aとを同一の高さ位置で連続する一の面内に配置することができる。これにより、蓋体20を閉じた状態の鍵盤楽器の外観を良好にすることができる。
【0054】
また、上記の各実施形態では、第2リンク支点35を支持するための取付板34が、蓋体20の端部20dの内面20cに取り付けられている場合を示したが、これ以外にも図示は省略するが、上記の取付板34に代わる他の取付板を蓋体20の内面20cではなく幅方向(鍵の配列方向)の端面(外側面)に取り付けるようにしてもよい。その場合は、蓋体20の幅方向の端面とそれに対向する側板6の内側面6cとの隙間に上記の取付板がおさまるように構成する。あるいは、蓋体20の幅方向の端面を若干窪ませておき、その部分に上記の取付板を固定すれば、閉位置の蓋体20及び側板6に上記の取付板が干渉せずに済む。また、蓋体20の幅方向の端面に、蓋体20の外面側(上面側)よりも内面側(下面側)の方が一段内側(幅方向の内側)に下がった位置となるような段部を形成しておき、当該段部の下がった位置に取付板を取り付けるようにすれば、蓋体20を閉じた状態で、取付板の端部(端辺)が蓋体20の外面(上面)側に露出せずに済むので、蓋体20を閉じた状態の鍵盤楽器の外観を良好にすることができる。
【0055】
また、上記実施形態では、連結機構30は、蓋体20と下ケース10の側板6とを連結する1本の連結具31を備えた構成である場合を示したが、これ以外にも、本発明にかかる連結機構は、蓋体とケースの側板とを連結するための連結具を2本以上備えた構成であってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、スライド機構40及び連結具31の一部を覆うカバー部54が、パネル部材55の両端に一体形成された部分である場合を示したが、これ以外にも、詳細な図示は省略するが、カバー部をパネル部材とは別部品として構成することも可能である。その場合は、別部品であるカバー部とパネル部材を予め互いに結合させて一体化しておき、その状態で下ケース10内に設置するようにしてもよいし、カバー部とパネル部材を分離した状態にしておき、先にカバー部を側板6の内側面6aに対峙させた状態で下ケース10内に設置し、その後、カバー部にパネル部材を取り付けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1・・・鍵盤楽器、4・・・見え掛り部、5・・・鍵盤、6・・・側板(側部)、10・・・下ケース(ケース)、20・・・蓋体、30・・・連結機構、31・・・連結具、33・・・第1リンク支点、35・・・第2リンク支点、36・・・軸受部品(トルク発生型の軸受部品)、40・・・スライド機構、43・・・ガイド部材、43a・・・ガイド溝(凹部)、43b・・・端面、45・・・スライド部材、45a・・・スライド突起(凸部)、52・・・収容部、53・・・譜面受け、54・・・カバー部、55・・・パネル部材、55a・・・端部、55c・・・切込部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鍵からなる鍵盤を収容してなるケースと、
前記ケースに対して、該ケースにおける前記鍵盤の上方を閉じる閉位置と該上方を開く開位置との間で移動可能となるように取り付けられた板状の蓋体と、
前記ケースにおける前記鍵の配列方向の両側に配置した一対の側部と、それらに対向する前記蓋体における前記鍵の配列方向の両端部それぞれとを連結してなる一対の連結機構と、
前記ケース内で前記鍵盤の見え掛り部よりも後側の上方を覆うように設置した板状のパネル部材と、
を備えた鍵盤楽器の蓋体開閉構造であって、
前記連結機構は、
前記側部と前記蓋体の端部との間に取り付けられて、一端が前記側部の内側面に対してリンク支持されており、他端が前記蓋体の端部に対してリンク支持されてなる一又は複数の連結具と、
前記側部と前記蓋体のいずれか一方に設けた凹部を有するガイド部材と、他方に設けた凸部を有するスライド部材とを備え、前記ガイド部材の前記凹部に前記スライド部材の前記凸部が摺動可能な状態で嵌合しているスライド機構と、を備え、
前記蓋体が前記閉位置と前記開位置との間を移動する際に、該蓋体の後端部が前記鍵の長手方向を前後にスライド移動するように構成されており、
前記パネル部材は、その幅方向の端部に設けたカバー部が、前記スライド機構及び前記連結具の少なくとも一部を覆った状態で、前記側部の内側面に対峙して設置されている
ことを特徴する鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項2】
前記ガイド部材の少なくとも一の端面は、前記側部の内側面に対峙させた前記パネル部材の前記カバー部を位置決めするための位置決め部になっている
ことを特徴する請求項1に記載の鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項3】
前記カバー部における前記側部の内側面に対峙する面には、前記連結具を挿通させるための切込部が設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項4】
前記パネル部材の上面は、前記開位置での前記蓋体の内面に立て掛ける譜面を載置するための譜面受けになっており、
前記譜面受けは、前記鍵の長手方向の前側から後側に向かうにつれてその面が次第に下降するように傾斜する傾斜平面状の底面を有する窪みであり、
前記譜面受けにおける幅方向の両端部は、前記蓋体が前記閉位置にある状態で、前記連結具を前記蓋体に対してリンク支持するための軸受部品を収容する収容部になっている
ことを特徴する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項5】
前記パネル部材は、合成樹脂製の成型品であって、
前記カバー部は、前記パネル部材の端部に一体形成された部分である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の蓋体開閉構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−20154(P2013−20154A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154358(P2011−154358)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】