説明

鍵盤楽器の蓋開閉構造

【課題】 鍵盤蓋の開閉時における鍵盤蓋の開閉力を軽くして、安全に鍵盤蓋を開閉することができる鍵盤楽器の蓋開閉構造を提供する。
【解決手段】 鍵盤蓋8を閉じた状態から開いて起立させる際に、鍵盤蓋8が閉じた状態から予め定められた角度に開くまでの間と、鍵盤蓋8が予め定められた角度に開いた状態から起立した状態に開くまでの間とにおいて、鍵盤蓋8の支点位置を第1支点13と第2支点14とに切り替えるように構成した。従って、鍵盤蓋8のモーメントを小さく抑えることができるので、鍵盤蓋8の開閉時における鍵盤蓋8の開閉力を軽くすることができ、これにより安全に鍵盤蓋8を開閉することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ピアノや電子オルガンなどの鍵盤楽器の蓋開閉構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子ピアノなどの鍵盤楽器においては、特許文献1に記載されているように、楽器本体内に設けられた鍵盤部を覆うための鍵盤蓋を備え、この鍵盤蓋の後部における両側に、一対のアーム部材を鍵盤蓋の後方に延出させて設け、この一対のアーム部材を楽器本体内の両側に設けられた一対の取付軸に回転可能に取り付けることにより、この一対の取付軸を中心に鍵盤蓋を上下方向に回転させて開閉するように構成したものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−313653号公報
【0004】
このような鍵盤楽器の蓋開閉構造は、鍵盤蓋の後部と取付軸とを連結するアーム部材が2つに分割されて連結軸によって折れ曲がり可能に連結された構成であるから、鍵盤蓋を開閉する際に、アーム部材が連結軸を中心に折れ曲がりながら取付軸を中心に鍵盤蓋が上下方向に回転することにより、鍵盤蓋が開閉するように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の鍵盤楽器における蓋開閉構造では、鍵盤蓋が開いて楽器本体の後部に起立した際に、アーム部材が連結軸を中心に折れ曲がることにより、鍵盤蓋の高さを低くして鍵盤蓋の重心位置を下げることができても、アーム部材が鍵盤蓋の後部に設けられ、このアーム部材を回転可能に支持する取付軸が楽器本体の後部に固定されているため、鍵盤蓋のモーメントが大きくなり、鍵盤蓋の開閉時における鍵盤蓋の開閉力が重くなるので、安全に鍵盤蓋を開閉することができないという問題がある。
【0006】
すなわち、この従来の蓋開閉構造では、鍵盤蓋を支持する支持軸と鍵盤蓋の重心位置との水平方向における距離が長いため、鍵盤蓋のモーメントが大きくなる。このため、鍵盤蓋を開く際には、鍵盤蓋を持ち上げるための力が重くなり、逆に鍵盤蓋を閉じる際には、鍵盤蓋を支えるための力が重くなる。このため、鍵盤蓋の開閉時における鍵盤蓋の開閉力が重くなり、鍵盤蓋を安全に開閉することができない。
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、鍵盤蓋の開閉時における鍵盤蓋の開閉力を軽くして、安全に鍵盤蓋を開閉することができる鍵盤楽器の蓋開閉構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、鍵盤部が設けられた楽器本体と、前記鍵盤部を開閉可能に覆う鍵盤蓋と、この鍵盤蓋に設けられて前記楽器本体内における前後方向のほぼ中間部に向けて延出されたアーム部材と、このアーム部材に設けられて前記鍵盤蓋が閉じた状態から予め定められた角度に開くまでの間において前記アーム部材を回転可能に支持する第1支点と、前記楽器本体の後部に設けられて前記鍵盤蓋が予め定められた前記角度に開いた状態から起立する状態に開くまでの間において前記鍵盤蓋を回転可能に支持して前記第1支点を上下方向に移動させるための第2支点と、を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の蓋開閉構造である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記鍵盤蓋の開閉動作に応じて前記第1支点を支持すると共に上下方向にガイドするガイド部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の蓋開閉構造である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記第2支点が、前記楽器本体の後部に設けられ、前記第1支点を中心に前記鍵盤蓋が回転する際にその回転軌跡に沿う円弧状の湾曲部の下端部に設けられており、前記第1支点をガイドする前記ガイド部は、前記第2支点を中心として上下方向に向けて円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍵盤楽器の蓋開閉構造である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記第2支点が、前記楽器本体の後部に設けられ、前記鍵盤蓋を上下方向に向けてガイドする傾斜部であり、前記第1支点をガイドする前記ガイド部は、前記鍵盤蓋が前記第2支点の前記傾斜部の上端部から前記傾斜部の下端部に亘って移動する際に前記第1支点を斜め上方に向けてガイドする傾斜ガイド部と、前記鍵盤蓋が前記第2支点の前記傾斜部の下端部を中心に回転して起立する際に前記鍵盤蓋を前記楽器本体の後部に引き寄せるように前記第1支点を円弧状にガイドする湾曲ガイド部とを有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍵盤楽器の蓋開閉構造である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、前記第1支点を上方に向けて付勢するためのばね部材を更に備えていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の鍵盤楽器の蓋開閉構造である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、鍵盤蓋を閉じて鍵盤部を覆った状態から鍵盤蓋を開いて起立させる際に、鍵盤蓋が閉じた状態から予め定められた角度に開くまでの間と、鍵盤蓋が予め定められた角度に開いた状態から起立する状態に開くまでの間とにおいて、鍵盤蓋の支点位置を第1支点と第2支点とに切り替えることができる。このため、鍵盤蓋のモーメントを小さく抑えることができるので、鍵盤蓋の開閉時における鍵盤蓋の開閉力を軽くすることができ、これにより鍵盤蓋を安全に開閉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明を適用した鍵盤楽器の実施形態1において鍵盤蓋を開いた状態を示した斜視図である。
【図2】図1の鍵盤楽器の要部を分解して示した拡大斜視図である。
【図3】図2のA−A矢視において鍵盤蓋を閉じた状態を示した拡大断面図である。
【図4】図3の鍵盤楽器において鍵盤蓋を時計回りに回転させて少し開いた状態を示した拡大断面図である。
【図5】図4の鍵盤楽器において鍵盤蓋が予め定められた角度θに開いて、鍵盤蓋の支点位置を第1支点から第2支点に切り替わる状態を示した拡大断面図である。
【図6】図5の鍵盤楽器において鍵盤蓋が第2支点を中心に回転して楽器本体の後部に起立する状態を示した拡大断面図である。
【図7】この発明を適用した鍵盤楽器の実施形態2において要部を分解して示した拡大斜視図である。
【図8】図7のB−B矢視において鍵盤蓋を閉じた状態を示した拡大断面図である。
【図9】図8の鍵盤楽器において鍵盤蓋が第1支点の支持軸を中心に第1の角度θ1だけ回転して、鍵盤蓋の支点位置を第1支点から第2支点に切り替わり、この第2支点である傾斜部に沿って斜め後方に向けて移動する状態を示した拡大断面図である。
【図10】図9の鍵盤楽器において鍵盤蓋が第2支点である傾斜部の下端部を中心に回転して開く状態を示した拡大断面図である。
【図11】図10の鍵盤楽器において鍵盤蓋の支点位置が第2支点である傾斜部の下端部から第1支点の支持軸に切り替わって鍵盤蓋が回転して起立する状態を示した拡大断面図である。
【図12】図11の鍵盤楽器において鍵盤蓋が第1支点の支持軸を中心に更に回転して楽器本体1の後方に傾斜して起立する状態を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
以下、図1〜図6を参照して、この発明を適用した鍵盤楽器の実施形態1について説明する。
この鍵盤楽器は、図1〜図3に示すように、楽器本体1を備えている。この楽器本体1は、脚部を兼ねる一対の側板2と、この一対の側板2間に架け渡された棚板3と、この棚板3の前端部(図3では左端部)に起立して設けられた前板4と、棚板3の後端部(図3では右端部)に起立して設けられた後板5と、この後板5上に設けられた上板6とを備えている。
【0016】
この場合、後板5は、図3に示すように、棚板3の後端部から斜め後方(図3では斜め右側)に向けて傾いた状態で、棚板3の後端部上に設けられている。上板6は、図1および図3に示すように、後板5の上端部から前側上方(図3では右側上方)に向けて緩やかに湾曲した湾曲部6aと、この湾曲部6aの前端部が前側に向けて水平に突出し、この突出した前端部が楽器本体1の後部において垂下された水平部6bとを有している。
【0017】
これにより、楽器本体1は、上板6の前部側(図3では左側)が上方に開放された箱形状に形成されている。この楽器本体1の内部には、図1および図3に示すように、鍵盤部7が設けられている。この鍵盤部7は、白鍵7aおよび黒鍵7bを備え、これら白鍵7aおよび黒鍵7bが鍵盤シャーシ(図示せず)上に上下方向に回転可能に取り付けられた状態で多数配列された構成になっている。
【0018】
また、この楽器本体1には、図1〜図6に示すように、鍵盤部7を開閉自在に覆う鍵盤蓋8が蓋開閉機構10によって開閉可能に取り付けられている。この鍵盤蓋8は、図3に示すように、蓋開閉機構10によって上下方向に回転することにより、楽器本体1の上部に配置されて閉じた際に鍵盤部7を覆い隠し、また図6に示すように、楽器本体1の後方(図6では右側)に少し傾いた状態で起立して開いた際に鍵盤部7を上方に露出させるように構成されている。
【0019】
この鍵盤蓋8の蓋開閉機構10は、図2〜図6に示すように、鍵盤蓋8の下面における両側に取り付けられた一対のアーム部材12(図2〜図6では一方のみを示す)と、このアーム部材12に設けられて鍵盤蓋8が閉じた状態から、図5に実線で示すように、予め定められた角度θ(例えば約60度)に開くまでの間においてアーム部材12を回転可能に支持する第1支点13と、鍵盤蓋8が予め定められた角度θに開いた状態から、図6に示すように、起立した状態に開くまでの間において鍵盤蓋8を回転可能に支持して第1支点13を上下方向に移動させるための第2支点14と、を備えている。
【0020】
アーム部材12は、図2および図3に示すように、鍵盤蓋8の下面における両側に設けられて、楽器本体1の一対の側板2と鍵盤部7の両側との間に配置されている。このアーム部材12は、図3に示すように、鍵盤蓋8を閉じて鍵盤部7を覆った状態で、鍵盤蓋8の後部から楽器本体1内の前側(図3では左側)に向けて斜め下側に延出されている。すなわち、このアーム部材12は、図3に示すように、その下端部が楽器本体1内における前後方向のほぼ中間部の下側に位置することにより、閉じた状態の鍵盤蓋8の重心Gに対応する付近の下側に位置するように、鍵盤蓋8の後部から斜め下側に延出されている。
【0021】
第1支点13は、図2および図3に示すように、アーム部材12の下部に設けられた支持軸15を備えている。この支持軸15は、楽器本体1の側板2の内面に設けられたガイド板16に上下方向に向けて移動可能に支持されるように構成されている。すなわち、ガイド板16は、図2に示すように、側板2の内面に設けられた凹部2a内に嵌め込まれている。このガイド板16には、アーム部材12に設けられた支持軸15が回転可能な状態で支持されると共に、支持軸15を上下方向に移動可能にガイドするガイド溝17が設けられている。
【0022】
これにより、第1支点13は、図3〜図5に示すように、鍵盤蓋8が閉じて鍵盤部7を覆った状態から、図5に実線で示すように、予め定められた角度θ(例えば約60度)に開くまでの間において、アーム部材12の支持軸15がガイド溝17の下端部に位置して支持された状態で、鍵盤蓋8が支持軸15を中心に上下方向に回転するように構成されている。この場合、上板6の湾曲部6aは、その湾曲面がガイド溝17の下端部に位置する支持軸15を中心として鍵盤蓋8が回転移動する軌跡に沿う円弧面に形成されている。
【0023】
第2支点14は、図3〜図6に示すように、楽器本体1の上板6に設けられた湾曲部6aの下端部に位置した部分であり、鍵盤蓋8が予め定められた角度θ(例えば約60度)に開いた状態から楽器本体1の後方に起立する状態に開くまでの間において、鍵盤蓋8の下面が湾曲部6aの下端部を中心に回転するように構成されている。すなわち、この第2支点14は、鍵盤蓋8が湾曲部6aの下端部を中心に回転する際に、第1支点13の支持軸15をガイド板16のガイド溝17に沿って上下方向に移動させるように構成されている。
【0024】
この場合、第1支点13のガイド溝17は、図2〜図6に示すように、ガイド板16にその上下方向に沿って緩やかに湾曲する円弧状に形成されている。すなわち、第1支点13の支持軸15は、鍵盤蓋8が第2支点14である湾曲部6aの下端部を中心に回転する際に、鍵盤蓋8の傾きに伴ってアーム部材12が徐々に上下方向に傾くことにより、支持軸15の移動軌跡が第2支点14の湾曲部6aの下端部を中心として上下方向に沿って緩やかな円弧を描くように構成されている。このため、第1支点13のガイド溝17は、支持軸15の移動軌跡と同じ上下方向に沿って緩やかな円弧形状に形成される。
【0025】
また、楽器本体1の側板2の内面には、図3〜図6に示すように、第1支点13を上方に向けて付勢するためのばね部材18が設けられている。このばね部材18は、コイルばねであり、その一端部18aがアーム部材12の支持軸15に下側から弾接し、他端部18bが側板2の内面に固定されている。これにより、ばね部材18は、支持軸15をガイド溝17に沿って上方に向けて付勢するように構成されている。
【0026】
次に、このような鍵盤楽器の鍵盤蓋8を開閉する場合について説明する。
まず、図3に示すように、鍵盤蓋8を閉じて鍵盤部7を覆った状態から、鍵盤蓋8を開く場合には、鍵盤蓋8の前端部(図3では左端部)を持ち上げる。すると、アーム部材12の支持軸15がガイド板16のガイド溝17の下端部に位置して支持されているので、このガイド溝17の下端部に位置する支持軸15を中心にアーム部材12が時計回りに回転して鍵盤蓋8が図3に2点鎖線で示すように上方に回転する。
【0027】
このときには、アーム部材12は、鍵盤蓋8の後部から楽器本体1内の前側に向けて斜め下側に延びており、この延びた下部に設けられた支持軸15が鍵盤蓋8の重心Gの下方に位置する付近に支持されているので、鍵盤蓋8のモーメントが小さく、鍵盤蓋8の重量に対して軽い力で持ち上げることができると共に、支持軸15がばね部材18によって押し上げられているので、これによっても鍵盤蓋8を軽い力で持ち上げることができる。
【0028】
また、このときには、図3および図4に示すように、鍵盤蓋8が楽器本体1の後方に向けて移動しながら鍵盤蓋8の後部が下側に移動するので、これに伴って鍵盤蓋8の重心Gが楽器本体1の後方(図3では右側)に向けて移動しながら僅かに上方に移動するだけであるから、ほぼ同じ力で鍵盤蓋8を押し上げることができる。
【0029】
この状態で、鍵盤蓋8が更に押し上げられて時計回りに回転する際には、図4に示すように、支持軸15がガイド溝17の下端部に位置して支持された状態で、鍵盤蓋8が上板6の湾曲部6aに沿って、その上部から下部に向けて回転しながら移動する。このときには、鍵盤蓋8の重心Gが楽器本体1の後方(図4では右側)に向けて移動しながら下方に移動する。このため、鍵盤蓋8の重心Gが第1支点13の支持軸15よりも楽器本体1の後方に位置するので、鍵盤蓋8を更に軽い力で押し上げることができる。
【0030】
そして、鍵盤蓋8が更に押し上げられて、図5に示すように、予めさめられた角度θ(例えば約60度)に開くと、鍵盤蓋8の下面が第2支点14である上板6の湾曲部6aの下端部に到達する。これにより、鍵盤蓋8の支点が第1支点13から第2支点14に切り替わる。この状態で、鍵盤蓋8を更に押し上げて時計回りに回転すると、図5に2点鎖線で示すように、鍵盤蓋8が第2支点14である湾曲部6aの下端部を中心に時計回りに回転する。
【0031】
このときには、図5に2点鎖線で示すように、鍵盤蓋8が時計回りに回転しながら楽器本体1の後方(図5では右側)に向けて起立するように移動する。このため、アーム部材12は、鍵盤蓋8の傾きに伴って第2支点14である湾曲部6aの下端部を中心に徐々に時計回りに回転する。これにより、アーム部材12の支持軸15は、ばね部材18のばね力によって押し上げられながら、ガイド板16のガイド溝17に沿って徐々に上方に移動すると共に、鍵盤蓋8を楽器本体1の後部に引き寄せる。
【0032】
この後、図6に示すように、鍵盤蓋8が第2支点14である湾曲部6aの下端部を中心に時計回りに回転して起立し、鍵盤蓋8が楽器本体1の後板5の後面に当接して楽器本体1の後方に向けて傾いた状態で起立する。このときにも、鍵盤蓋8の傾きに伴ってアーム部材12が第2支点14である湾曲部6aの下端部を中心に時計回りに回転するため、アーム部材12の支持軸15が、ばね部材18のばね力によって押し上げられながら、ガイド板16のガイド溝17に沿って上方に移動してガイド溝17の上端部に位置して支持される。
【0033】
このように、鍵盤蓋8が第2支点14である湾曲部6aの下端部を中心に時計回りに回転して起立するときには、アーム部材12の支持軸15が、鍵盤蓋8を楽器本体1の後部に引き寄せるので、鍵盤蓋8を良好に起立させることができる。また、このときには、鍵盤蓋8の重心Gが楽器本体1の後方(図5では右側)に向けてほぼ水平に移動し、鍵盤蓋8がその自重で回転するので、鍵盤蓋8を更に軽い力で回転させることができる。
【0034】
一方、図6に示すように、鍵盤蓋8を起立させて鍵盤部7を露出させた状態から、鍵盤蓋8を閉じる場合には、鍵盤蓋8の上端部を手前側(図6では左側)に引き寄せる。すると、鍵盤蓋8が第2支点14である上板6の湾曲部6aの下端部を中心に反時計回りに回転して、鍵盤蓋8が前側に傾く。このときには、図6に示すように、支持軸15が、鍵盤蓋8を楽器本体1の後部に引き寄せながら、ばね部材18のばね力に抗してガイド溝17の上端部から下側に向けて移動する。
【0035】
このため、鍵盤蓋8を反時計回りに回転させる際に、ばね部材18のばね力が付与されているので、鍵盤蓋8を閉じるための力が重くなり、鍵盤蓋8が急激に回転するのを防ぐことができる。また、この場合には、支持軸15が鍵盤蓋8を楽器本体1の後部に引き寄せているので、鍵盤蓋8が安定した状態で回転する。
【0036】
そして、鍵盤蓋8が更に反時計回りに回転すると、図5に実線で示すように、鍵盤蓋8の傾きに伴ってアーム部材12が第2支点14を中心に徐々に反時計回りに回転するので、アーム部材12の支持軸15がばね部材18のばね力に抗して押し下げられながら、ガイド板16のガイド溝17に沿って徐々に下方に移動してガイド溝17の下端部に位置して支持される。これにより、鍵盤蓋8は、第2支点14である上板6の湾曲部6aの下端部を乗り越えるので、鍵盤蓋8の支点が、第2支点14から第1支点13に切り替わる。
【0037】
この状態で、鍵盤蓋8を更に押し下げると、図4に実線で示すように、ガイド板16のガイド溝17の下端部に位置して支持された第1支点13の支持軸15を中心に、鍵盤蓋8が上板6の湾曲部6aに沿って下部側から上部側に向けて移動する。このときには、アーム部材12が第1支点13の支持軸15を中心に反時計回りに回転して徐々に起立するように傾きながら、鍵盤蓋8を反時計回りに回転させて楽器本体1の前側(図4では左側)に向けて移動させる。
【0038】
このように、鍵盤蓋8が反時計回りに回転しながら楽器本体1の前方(図4では左側)に向けて移動するときには、鍵盤蓋8の重心Gが楽器本体1の前方(図4では左側)に向けて移動しながら徐々に上方に移動すると共に、鍵盤蓋8の重心Gが鍵盤蓋8を支持する第1支点13である支持軸15よりも楽器本体1の後方に位置するので、鍵盤蓋8のモーメントが大きくなり、鍵盤蓋8を閉じる力が重くなる。このため、鍵盤蓋8が急激に閉じる方向に回転することがない。
【0039】
この後、鍵盤蓋8が更に反時計回りに回転すると、図3に示すように、鍵盤部7を覆って楽器本体1上に配置される。このときには、鍵盤蓋8の重心Gが楽器本体1の前方(図4では右側)に向けて移動しながら僅かに下側に移動するので、鍵盤蓋8がその自重で回転する。この場合には、アーム部材12が鍵盤蓋8の後部から楽器本体1内の前側に向けて斜め下側に延びており、この延びた下部に設けられた支持軸15が鍵盤蓋8の重心Gの下方に位置する付近に支持されているので、鍵盤蓋8のモーメントが小さくなり、鍵盤蓋8の重量に係わらず、鍵盤蓋8を軽く閉じることができる。
【0040】
このように、この鍵盤楽器の蓋開閉構造によれば、楽器本体1に設けられた鍵盤部7を開閉可能に覆う鍵盤蓋8を上下方向に回転させて開閉する際に、鍵盤蓋8が閉じた状態から予め定められた角度θ(例えば約60度)に開くまでの間と、鍵盤蓋8が予め定められた角度θに開いた状態から起立した状態に開くまでの間とで、蓋開閉機構10によって鍵盤蓋8の支点位置を第1支点13と第2支点14とに切り替えることにより、鍵盤蓋8のモーメントを小さく抑えることができ、これによりダンパー装置を用いずに、鍵盤蓋8を軽い力で安全に開閉することができる。
【0041】
すなわち、この蓋開閉構造では、鍵盤蓋8に設けられて楽器本体1内における前後方向のほぼ中間部に向けて延出されたアーム部材12と、このアーム部材12に設けられて鍵盤蓋8が閉じた状態から予め定められた角度θに開くまでの間においてアーム部材12を回転可能に支持する第1支点13と、楽器本体1の上部に設けられて鍵盤蓋8が予め定められた角度θに開いた状態から起立する状態に開くまでの間において鍵盤蓋8を回転可能に支持して第1支点13を上下方向に移動させるための第2支点14と、を備えているので、鍵盤蓋8を開閉操作する際に、鍵盤蓋8の支点位置を開閉動作に応じて第1支点13と第2支点14とのいずれかに確実に切り替えることができる。
【0042】
この場合、鍵盤蓋8に設けられたアーム部材12は、楽器本体1内における前後方向のほぼ中間部に対応する箇所の下側に向けて延出され、このアーム部材12の下部に設けられた第1支点13である支持軸15によって、鍵盤蓋8が閉じた状態から予め定められた角度θに開く際に、アーム部材12を支持する構成であるから、第1支点13である支持軸15によって鍵盤蓋8をその重心Gのほぼ下側に対応する位置で支持することができる。
【0043】
このため、第1支点13を中心に鍵盤蓋8を回転させる際に、鍵盤蓋8のモーメントを小さくすることができるので、鍵盤蓋8の開閉時における鍵盤蓋8の開閉力を小さくすることができ、これにより鍵盤蓋8を軽い力で安全に開閉することができる。また、第1支点13は、これを中心に鍵盤蓋8を回転させて開く際に、鍵盤蓋8を後下がりに傾けながら回転させることができるので、鍵盤蓋8の重心Gの位置が上下方向に変動するのを小さく抑えることができ、これによりほぼ一定の力で鍵盤蓋8を開閉することができるので、第1支点13によって安定した状態で鍵盤蓋8を開閉することができる。
【0044】
また、第2支点14は、楽器本体1における上板6の後側上部に設けられた湾曲部6aの下端部に設けられ、鍵盤蓋8を回転可能に支持して予め定められた角度θに開いた状態から更に開いて起立させる際に、鍵盤蓋8の傾きに応じて第1支点13を上下方向に向けて移動させる構成であるから、鍵盤蓋8を良好に開閉することができる。
【0045】
すなわち、この第2支点14は、楽器本体1の上板6に設けられた湾曲部6aの下端部であり、この湾曲部6aの下端部で鍵盤蓋8を回転可能に支持した状態で回転移動させて、第1支点13を上下方向に向けて移動させるので、鍵盤蓋8の開閉時における鍵盤蓋8の開閉力を小さくすることができ、これにより軽い力で鍵盤蓋8を開閉することができる。また、鍵盤蓋8の重心Gの位置が上下方向に変動するのを小さく抑えることができるので、ほぼ一定の力で鍵盤蓋8を軽く開閉することができる。
【0046】
また、この蓋開閉構造では、ガイド板16に、鍵盤蓋8の開閉動作に応じて第1支点13を上下方向にガイドするガイド溝17が設けられていることにより、第2支点14によって鍵盤蓋8を回転可能に支持した状態で、鍵盤蓋8が予め定められた角度θに開いた状態から起立する際に、アーム部材12が回転しても、第1支点13の支持軸15を上下方向にガイドすることができ、これによりアーム部材12の回転移動を安定させることができるので、円滑に且つ良好に鍵盤蓋8を開閉動作させることができる。
【0047】
すなわち、このガイド溝17は、湾曲部6aの下端部に位置する第2支点14を中心として支持軸15が上下方向に移動する緩やかな円弧を描く移動軌跡と同じ円弧形状に形成されているので、鍵盤蓋8が開閉する際に、アーム部材12の支持軸15を円滑に且つ良好にガイドすることができると共に、鍵盤蓋8を楽器本体1の後部に引き寄せることができ、これによりアーム部材12の回転動作を安定させることができると共に、鍵盤蓋8を安定した状態で円滑に開閉動作させることができる。
【0048】
さらに、この蓋開閉構造では、第1支点13を上方に向けて付勢するためのばね部材18を備えているので、鍵盤蓋8を開く際には軽い力で開くことができ、また鍵盤蓋8を閉じる際には閉じる力を重くすることができ、これによっても安全に鍵盤蓋8を開閉することができると共に、鍵盤蓋8の開閉操作性を向上させることができる。
【0049】
(実施形態2)
次に、図7〜図12を参照して、この発明を適用した鍵盤楽器の実施形態2について説明する。なお、図1〜図6に示された実施形態1と同一部分には同一符号を付して説明する。
この鍵盤楽器は、図7および図8に示すように、蓋開閉機構20の第2支点21が実施形態1と異なり、これに伴ってガイド板16のガイド溝22が実施形態1と異なる形状に形成された構成であり、これ以外は実施形態1とほぼ同じ構成になっている。
【0050】
すなわち、第2支点21は、図7および図8に示すように、楽器本体1の後側上部に位置する上板6の後部に形成された傾斜部23であり、図9に示すように、鍵盤蓋8が予め定められた第1の角度θ1(例えば約10度)に開いた状態から、図11に示すように、鍵盤蓋8が予め定められた第2の角度θ2(例えば約60度)に開いて起立する状態までの間において、鍵盤蓋8の下面を第2支点21である傾斜部23によって支持するように構成されている。
【0051】
また、この第2支点21は、図9〜図11に示すように、鍵盤蓋8の下面を傾斜部23によって支持しながらガイドする際に、第1支点13の支持軸15をガイド板16のガイド溝22に沿って上下方向に移動させるように構成されている。この場合、ガイド溝22は、図7〜図12に示すように、ガイド板16にその下部から斜め後側上部に向けて傾斜する傾斜ガイド部22aと、この傾斜ガイド部22aの上部から円弧状に湾曲する湾曲ガイド部22bとを備えている。
【0052】
このガイド溝22の傾斜ガイド部22aは、図8に示すように、鍵盤蓋8が閉じた状態から予め定められた第1の角度θ1に開く際に、第1支点13の支持軸15を傾斜ガイド部22aの下端部に位置させた状態で、支持軸15が上下方向に移動することなく、支持軸15を回転可能に支持するように構成されている。
【0053】
また、この傾斜ガイド部22aは、図9に示すように、鍵盤蓋8が第2支点21である傾斜部23の上端部23aに支持された状態で、鍵盤蓋8が予め定められた第1の角度θ1に開いた状態から、鍵盤蓋8の下面が第2支点21である傾斜部23と同じ傾斜角度(例えば約30度)に開く際に、第1支点13の支持軸15を斜め上方に向けて移動させるように傾斜して形成されている。
【0054】
また、この傾斜ガイド部22aは、図9に2点鎖線で示すように、鍵盤蓋8が第2支点21である傾斜部23の傾斜面と同じ傾斜角度(例えば、約30度)に開いて、鍵盤蓋8の下面が傾斜部23の傾斜面に沿って移動する際に、第1支点13の支持軸15を斜め上方に向けて移動させるように傾斜して形成されている。さらに、この傾斜ガイド部22aは、図10に示すように、鍵盤蓋8が第2支点21である傾斜部23の下端部23bに支持されて回転する際に、第1支点13の支持軸15を斜め上方に向けて移動させて湾曲ガイド22bの下部に到達させるように形成されている。
【0055】
一方、ガイド溝22の湾曲ガイド部22bは、図10および図11に示すように、鍵盤蓋8が第2支点21である傾斜部23の下端部23bに支持された状態で更に回転して鍵盤蓋8が楽器本体1の後方に起立するように開く際に、鍵盤蓋8を楽器本体1の後部に引き寄せるように、第1支点13の支持軸15を上方に向けて湾曲移動させるように湾曲して形成されている。
【0056】
また、この湾曲ガイド部22bは、図12に示すように、鍵盤蓋8が楽器本体1の後板5に当接して起立する際に、鍵盤蓋8を楽器本体1の後部に引き寄せるように、第1支点13の支持軸15を斜め上方に向けて湾曲移動させて湾曲ガイド部22bの上端部に位置させ、この状態で支持軸15を回転可能に支持するように形成されている。
【0057】
この場合、楽器本体1の後板5は、実施形態1と異なり、棚板3の後端部にほぼ垂直に設けられている。また、この場合にも、楽器本体1の側板2の内面には、図8〜図12に示すように、第1支点13の支持軸15を上方に向けて付勢するためのばね部材18が設けられている。このばね部材18も、コイルばねであり、その一端部18aがアーム部材12の支持軸15に下側から弾接し、他端部18bが側板2の内面に固定されている。
【0058】
これにより、この蓋開閉機構20は、図8に示すように、鍵盤蓋8が閉じた状態から予め定められた第1の角度θ1に開く際に、第1支点13の支持軸15を中心に鍵盤蓋8が回転し、この鍵盤蓋8が予め定められた第1の角度θ1に開いた際に、鍵盤蓋8の支点位置が第1支点13から第2支点21に切り替わるように構成されている。
【0059】
また、この蓋開閉機構20は、図9に示すように、鍵盤蓋8が予め定められた第1の角度θ1に開いた状態から予め定められた第2の角度θ2に開く際に、第2支点21を中心に鍵盤蓋8が回転移動し、この鍵盤蓋8が予め定められた第2の角度θ2に開いた際に、図11に示すように、鍵盤蓋8の支点位置が第2支点21から第1支点13に切り替わり、鍵盤蓋8が予め定められた第2の角度θ2に開いた状態から更に回転して開く際に、図12に示すように、第1支点13を中心に鍵盤蓋8が回転して起立するように構成されている。
【0060】
この場合、蓋開閉機構20は、図9に示すように、鍵盤蓋8が第2支点21である傾斜部23の上端部23aに位置した状態から鍵盤蓋8が傾斜部23と同じ角度(例えば約30度)に開く際に、第2支点21である傾斜部23の上端部23aを中心に鍵盤蓋8が回転し、鍵盤蓋8が傾斜部23と同じ傾斜角度に開いた際に、鍵盤蓋8の支点位置が第2支点21である傾斜部23の上端部23aから傾斜部23の傾斜面に切り替わり、この傾斜部23の傾斜面に沿って鍵盤蓋8が楽器本体1の後方に向けて移動するように構成されている。
【0061】
また、この蓋開閉機構20は、図10に示すように、鍵盤蓋8が傾斜部23と同じ傾斜角度に回転して開いた状態から予め定められた第2の角度θ2(例えば約60度)に開いた際に、鍵盤蓋8の支点位置が第2支点21である傾斜部23の傾斜面から傾斜部23の下端部23bに切り替わり、この傾斜部23の下端部23bを中心に鍵盤蓋8が回転するように構成されている。
【0062】
次に、このような鍵盤楽器の鍵盤蓋8を開閉する場合について説明する。
まず、図8に示すように、鍵盤蓋8を閉じて鍵盤部7を覆った状態から、鍵盤蓋8を開く場合には、鍵盤蓋8の前端部(図8では左端部)を持ち上げる。すると、アーム部材12の支持軸15がガイド板16のガイド溝22における傾斜ガイド部22aの下端部に位置して支持されているので、このガイド溝22の傾斜ガイド部22aの下端部に位置する支持軸15を中心にアーム部材12が時計回りに回転して鍵盤蓋8が図8に示すように上方に回転する。
【0063】
このときには、図8に示すように、アーム部材12が鍵盤蓋8の後部から楽器本体1内の前側に向けて斜め下側に延びており、この延びた下部に設けられた支持軸15が鍵盤蓋8の重心Gの下方に位置する付近に支持されているので、鍵盤蓋8のモーメントが小さく、鍵盤蓋8の重量に対して軽い力で持ち上げることができると共に、支持軸15がばね部材18によって押し上げられているので、これによっても鍵盤蓋8を軽い力で持ち上げることができる。
【0064】
この場合には、鍵盤蓋8が楽器本体1の後方に向けて移動しながら時計回りに回転するので、これに伴って鍵盤蓋8の重心Gが楽器本体1の後方(図8では右側)に向けて移動しながら僅かに上方に移動するだけであるから、鍵盤蓋8の重心Gにおける上下方向への変動が小さく、このためほぼ同じ力で鍵盤蓋8を押し上げることができる。
【0065】
そして、鍵盤蓋8が予め定められた第1の角度θ1(例えば約10度)に開くと、図9に示すように、鍵盤蓋8の下面が第2支点21である楽器本体1の上板6に設けられた傾斜部23の上端部23aに当接して支持されるので、鍵盤蓋8の支点位置が第1支点13から第2支点21に切り替わる。この状態で、鍵盤蓋8を更に押し上げると、図9に示すように、鍵盤蓋8が第2支点21である傾斜部23の上端部23aによって支持された状態で、鍵盤蓋8が楽器本体1の後方に移動しながら時計回りに回転する。
【0066】
このときには、鍵盤蓋8の傾きに伴ってアーム部材12が楽器本体1の後方に移動しながら、傾斜部23の上端部23aを中心に徐々に時計回りに回転することにより、図9に2点鎖線で示すように、アーム部材12の支持軸15がばね部材18のばね力によって押し上げられながら、ガイド板16のガイド溝22における傾斜ガイド部22aに沿って徐々に斜め上方に向けて移動する。
【0067】
この状態で、鍵盤蓋8が更に押し上げられると、図9に2点鎖線で示すように、鍵盤蓋8の下面が第2支点21の傾斜部23と同じ傾斜角度(例えば約30度)になる。すると、鍵盤蓋8が、図9に2点鎖線で示すように、傾斜部23の傾斜面に沿って後方に向けて移動する。このときには、鍵盤蓋8の後方への移動に伴ってアーム部材12が楽器本体1の後方に向けて移動することにより、アーム部材12の支持軸15がばね部材18のばね力によって押し上げられながら、ガイド板16のガイド溝22における傾斜ガイド部22aに沿って徐々に斜め上方に向けて移動する。
【0068】
この後、鍵盤蓋8が更に押し上げられると、図10に示すように、鍵盤蓋8が第2支点21である傾斜部23の下端部23bに支持されることにより、鍵盤蓋8の支点位置が第2支点21における傾斜部23の傾斜面から傾斜部23の下端部23bに切り替わる。この状態で、鍵盤蓋8が第2支点21における傾斜部23の下端部23bを中心に時計回りに回転する際には、鍵盤蓋8が斜め後側下部に向けて移動する。
【0069】
このときにも、鍵盤蓋8の傾きに伴ってアーム部材12が傾斜部23の下端部23bを中心に徐々に時計回りに回転することにより、アーム部材12の支持軸15がばね部材18のばね力によって押し上げられながら、ガイド板16のガイド溝22における傾斜ガイド部22aに沿って徐々に斜め上方に向けて移動して、ガイド溝22の湾曲ガイド部22bの下部に到達する。また、このときには、図10に示すように、鍵盤蓋8の重心Gが楽器本体1の後方(図10では右側)に向けて斜め下側に移動するため、鍵盤蓋8の重心Gは徐々に下側に移動する。このため、鍵盤蓋8を押し上げる力が徐々に軽くなる。
【0070】
そして、図11に示すように、鍵盤蓋8が第2支点14の傾斜部23の下端部23bを中心に更に時計回りに回転して、予め定められた第2の角度θ2(例えば約60度)に開くと、鍵盤蓋8が更に後側下部に移動して、鍵盤蓋8が第2支点14の傾斜部23の下端部23bから離れようとする。このときには、アーム部材12の支持軸15がばね部材18のばね力によって押し上げられながら、支持軸15がガイド溝22の湾曲ガイド部22bに沿って上方に移動するので、この支持軸15によって鍵盤蓋8が楽器本体1の後板5に引き寄せられながら回転する。
【0071】
この状態で、鍵盤蓋8が更に時計回りに回転すると、図12に示すように、支持軸15がガイド溝22の湾曲ガイド部22bにおける上端部に位置して支持されるので、鍵盤蓋8の支点位置が第2支点21から再び第1支点13に切り替わる。この状態では、支持軸15を中心に鍵盤蓋8が楽器本体1の後板5に引き寄せられながら回転して楽器本体1の後方に向けて傾いた状態で起立する。このときには、図12に示すように、鍵盤蓋8の重心Gが楽器本体1の後側下部(図12では右側下部)に向けて移動する。このため、鍵盤蓋8はその自重によって回転するので、鍵盤蓋8を軽く回転させることができる。
【0072】
一方、図12に示すように、鍵盤蓋8を開いて起立させた状態から、鍵盤蓋8を閉じる場合には、鍵盤蓋8の上端部を手前側(図12では左側)に引き寄せる。すると、ガイド溝22の湾曲ガイド部22bにおける上端部に位置して支持された第1支点13であるアーム部材12の支持軸15を中心に、鍵盤蓋8が反時計回りに回転する。そして、図11に示すように、鍵盤蓋8が第2支点21である傾斜部23の下端部23bに当接すると、鍵盤蓋8の支点位置が第1支点13から第2支点21に切り替わる。
【0073】
この状態で、第2支点21である傾斜部23の下端部23bを中心に、鍵盤蓋8が反時計回りに回転して予め定められた第2の角度θ2に閉じる際には、図11に示すように、鍵盤蓋8が前側に傾きながら徐々に上方に移動し、アーム部材12の支持軸15をばね部材18のばね力に抗してガイド溝22の湾曲ガイド部22bに沿って下側に移動させる。このときには、鍵盤蓋8の重心Gが斜め前側上方に向けて移動するので、鍵盤蓋8を閉じる力が少し重くなり、鍵盤蓋8が急激に反時計回りに回転するのを防ぐことができる。
【0074】
この後、図10に示すように、鍵盤蓋8が第2支点21である傾斜部23の下端部23bを中心に反時計回りに更に回転する際には、鍵盤蓋8が前側に傾きながら徐々に楽器本体1の前側に向けて移動する。このときには、支持軸15がばね部材18のばね力に抗してガイド溝22の傾斜ガイド部22aに沿って斜め下側に向けて移動する。このため、鍵盤蓋8を回転させる力が重くなり、鍵盤蓋8が急激に反時計回りに回転するのを防ぐことができる。
【0075】
そして、鍵盤蓋8が更に反時計回りに回転して、図9に2点鎖線で示すように、鍵盤蓋8の下面が第2支点21である傾斜部23と同じ傾斜角度(例えば約30度)になると、鍵盤蓋8の支点位置が第2支点21における傾斜部23の下端部23bから傾斜部23の傾斜面に切り替わる。この状態で、鍵盤蓋8の前端部を引き上げると、支持軸15がばね部材18のばね力に抗してガイド溝22の傾斜ガイド部22aに沿って斜め下側に向けて移動しながら、鍵盤蓋8が傾斜部23の傾斜面に沿って楽器本体1の前側に向けて斜め上方に移動する。
【0076】
この後、図9に2点鎖線で示す状態で、鍵盤蓋8が閉じる方向に移動すると、鍵盤蓋8の支点位置が第2支点21における傾斜部23の傾斜面から傾斜部23の上端部23aに切り替わる。この状態で、鍵盤蓋8が傾斜部23の上端部23aを中心に反時計回りに回転して予め定められた第1の角度θ1になると、図9に実線で示すように、支持軸15がガイド溝22の傾斜ガイド部22aの下端部に移動して支持される。
【0077】
このときには、鍵盤蓋8の支点位置が第2支点21から第1支点13に切り替わり、この第1支点13の支持軸15を中心に鍵盤蓋8が反時計回りに回転し、図8に示すように、鍵盤部7を覆って楽器本体1上に配置される。このときには、鍵盤蓋8の回転中心となる第1支点13の支持軸15が鍵盤蓋8の重心Gの下側に対応する箇所に位置しているので、鍵盤蓋8のモーメントが小さくなり、鍵盤蓋8をその自重で回転する力が小さくなるので、鍵盤蓋8が軽く閉じる。
【0078】
このように、この鍵盤楽器の蓋開閉構造においても、実施形態1と同様、鍵盤蓋8を閉じて鍵盤部7を覆った状態から鍵盤蓋8を開いて起立させる際に、鍵盤蓋8が閉じた状態から予め定められた第1の角度θ1に開くまでの間と、鍵盤蓋8が予め定められた第1の角度θ1に開いた状態から起立する状態に開くまでの間とにおいて、蓋開閉機構20によって鍵盤蓋8の支点位置を第1支点13と第2支点21とに切り替えることにより、鍵盤蓋8の開閉時における鍵盤蓋8のモーメントを小さくすることができ、これにより鍵盤蓋8の開閉力を小さく抑えることができるので、ダンパー装置を用いずに、鍵盤蓋8を軽い力で安全に開閉することができる。
【0079】
すなわち、この蓋開閉機構20は、鍵盤蓋8に設けられて楽器本体1内における前後方向のほぼ中間部に向けて延出されたアーム部材12と、このアーム部材12に設けられて鍵盤蓋8が閉じた状態から予め定められた第1の角度θ1に開くまでの間においてアーム部材12を回転可能に支持する第1支点13と、楽器本体1の上部に設けられて鍵盤蓋8が予め定められた第1の角度θ1に開いた状態から起立する状態に開くまでの間において鍵盤蓋8を回転可能に支持して第1支点13を上下方向に移動させるための第2支点21と、を備えているので、実施形態1と同様、鍵盤蓋8を開閉操作する際に、その開閉動作に応じて鍵盤蓋8の支点位置を第1支点13と第2支点21とに確実に且つ良好に切り替えることができる。
【0080】
この場合、鍵盤蓋8に設けられたアーム部材12は、実施形態1と同様、楽器本体1内における前後方向のほぼ中間部に対応する箇所の下側に向けて延出され、このアーム部材12の下部に設けられた第1支点13の支持軸15によって、鍵盤蓋8が閉じた状態から予め定められた第1の角度θ1に開く際に、アーム部材12を回転可能に支持する構成であるから、第1支点13によって鍵盤蓋8をその重心Gに対応する箇所の下側で支持することができる。
【0081】
このため、第1支点13を中心に鍵盤蓋8を回転させて開く際に、実施形態1と同様、鍵盤蓋8のモーメントを小さくすることができるので、鍵盤蓋8の開閉時における鍵盤蓋8の開閉力を小さくすることができ、これにより鍵盤蓋8を軽い力で安全に開閉することができる。また、第1支点13は、これを中心に鍵盤蓋8を回転させて開く際に、鍵盤蓋8を後下がりに傾けながら回転させることができるので、鍵盤蓋8の重心Gの位置が上下方向に変動するのを小さく抑えることができ、これによりほぼ一定の力で鍵盤蓋8を開閉することができるので、第1支点13によって安定した状態で鍵盤蓋8を開閉することができる。
【0082】
また、この蓋開閉機構20の第2支点21は、楽器本体1の後側上部に位置する上板6に設けられた傾斜部23であり、この傾斜部23によって鍵盤蓋8が予め定められた第1の角度θ1に開いた状態から予め定められた第2の角度θ2に開いて起立する際に、鍵盤蓋8を回転可能に支持した状態で、第1支点13を上下方向に移動させる構成であるから、実施形態1と同様、鍵盤蓋8を良好に開閉することができる。
【0083】
すなわち、この第2支点21は、楽器本体1の上板6に設けられた傾斜部23であり、この傾斜部23によって鍵盤蓋8を回転可能に支持した状態で回転移動させるので、鍵盤蓋8のモーメントを小さくすることができると共に、鍵盤蓋8の開閉時における鍵盤蓋8の開閉力を小さく抑えることができ、これにより鍵盤蓋8を軽い力で開閉することができる。また、鍵盤蓋8の重心Gの位置が上下方向に変動するのを小さく抑えることができるので、ほぼ一定の軽い力で鍵盤蓋8を良好に開閉することができる。
【0084】
また、この蓋開閉構造では、ガイド板16に、鍵盤蓋8の開閉動作に応じて第1支点13を上下方向にガイドするガイド溝22が設けられていることにより、第2支点21によって鍵盤蓋8を回転可能に支持した状態で、鍵盤蓋8が予め定められた第1の角度θ1に開いた状態から起立する状態に開く際に、アーム部材12が回転しても、第1支点13の支持軸15を上下方向にガイドすることができ、これによりアーム部材12の回転移動を安定させることができるので、円滑に且つ良好に鍵盤蓋8を開閉動作させることができる。
【0085】
この場合、ガイド溝22は、支持軸15を斜め上方に向けてガイドする傾斜ガイド部22aと、鍵盤蓋8を楽器本体1の後板5に引き寄せるように支持軸15を円弧状にガイドする湾曲ガイド部22bとを備えているので、鍵盤蓋8が閉じた状態から予め定められた第2の角度θ2に開くまでの間において、アーム部材12の支持軸15を傾斜ガイド部22aによって良好にガイドすることができるので、鍵盤蓋8を安定した状態で開閉動作させることができる。
【0086】
また、このガイド溝22は、鍵盤蓋8が第2支点21の傾斜部23の下端部23bを中心に回転して鍵盤蓋8の支点位置が第2支点21から第1支点13に切り替わる際に、アーム部材12の支持軸15を湾曲ガイド部21bによってガイドすることにより、鍵盤蓋8が楽器本体1の後板5から離れないように引き寄せながら、鍵盤蓋8を円滑に且つ良好に回転させて起立させることができる。
【0087】
さらに、この蓋開閉構造においても、第1支点13の支持軸15を上方に向けて付勢するためのばね部材18を備えているので、実施形態1と同様、鍵盤蓋8を開く際には軽い力で開くことができ、また鍵盤蓋8を閉じる際には閉じる力を重くすることができ、これによっても安全に鍵盤蓋8を開閉することができると共に、鍵盤蓋8の開閉操作性を向上させることができる。
【0088】
なお、上述した実施形態1、2では、楽器本体1の側板2の内面にガイド板16を設け、このガイド板16にガイド溝17、22を設けた場合について述べたが、必ずしもガイド板16を用いる必要はなく、側板2の内面に直接、ガイド溝17、22を設けた構成でも良い。
【符号の説明】
【0089】
1 楽器本体
2 側板
3 棚板
4 前板
5 後板
6 上板
6a 湾曲部
7 鍵盤部
8 鍵盤蓋
10、20 蓋開閉装置
12 アーム部材
13 第1支点
14、21 第2支点
15 支持軸
16 ガイド板
17、22 ガイド溝
22a 傾斜ガイド部
22b 湾曲ガイド部
23 傾斜部
23a 傾斜部の上端部
23b 傾斜部の下端部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤部が設けられた楽器本体と、
前記鍵盤部を開閉可能に覆う鍵盤蓋と、
この鍵盤蓋に設けられて前記楽器本体内における前後方向のほぼ中間部に向けて延出されたアーム部材と、
このアーム部材に設けられて前記鍵盤蓋が閉じた状態から予め定められた角度に開くまでの間において前記アーム部材を回転可能に支持する第1支点と、
前記楽器本体の後部に設けられて前記鍵盤蓋が予め定められた前記角度に開いた状態から起立する状態に開くまでの間において前記鍵盤蓋を回転可能に支持して前記第1支点を上下方向に移動させるための第2支点と、
を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の蓋開閉構造。
【請求項2】
前記鍵盤蓋の開閉動作に応じて前記第1支点を支持すると共に上下方向にガイドするガイド部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の蓋開閉構造。
【請求項3】
前記第2支点は、前記楽器本体の後部に設けられ、前記第1支点を中心に前記鍵盤蓋が回転する際にその回転軌跡に沿う円弧状の湾曲部の下端部に設けられており、
前記第1支点をガイドする前記ガイド部は、前記第2支点を中心として上下方向に向けて円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍵盤楽器の蓋開閉構造。
【請求項4】
前記第2支点は、前記楽器本体の後部に設けられ、前記鍵盤蓋を上下方向に向けてガイドする傾斜部であり、
前記第1支点をガイドする前記ガイド部は、前記鍵盤蓋が前記第2支点の前記傾斜部の上端部から前記傾斜部の下端部に亘って移動する際に前記第1支点を斜め上方に向けてガイドする傾斜ガイド部と、前記鍵盤蓋が前記第2支点の前記傾斜部の下端部を中心に回転して起立する際に前記鍵盤蓋を前記楽器本体の後部に引き寄せるように前記第1支点を円弧状にガイドする湾曲ガイド部とを有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍵盤楽器の蓋開閉構造。
【請求項5】
前記第1支点を上方に向けて付勢するためのばね部材を更に備えていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の鍵盤楽器の蓋開閉構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−186377(P2011−186377A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54254(P2010−54254)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】