説明

鍵盤装置

【課題】アコースティックピアノに特有のクリック感を再現できる鍵盤装置を提供する。
【解決手段】摺接面45の第1傾斜部45c(平面または曲面)は、押鍵のときの突起の変位方向に対して突起の基部から漸次離れる方向に傾斜しているので、突起に加わる抵抗力を小さくすることができ、抵抗感が漸次増加することを抑制できる。さらに、突起が第1傾斜部を経て至るところに位置する隆起部45dにより、突起に加わる抵抗力を大きくすることで抵抗感を大きくすることができ、突起が隆起部45dを乗り越えると、抵抗感を小さくできる。このように隆起部45dの前後の抵抗感の変化を大きくできるので、アコースティックピアノに特有のクリック感を再現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鍵盤装置に関し、特に、アコースティックピアノに特有のクリック感を再現できる鍵盤装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子ピアノ等の電子鍵盤楽器では、所定の質量を有するハンマーを鍵の下方に設け、そのハンマーを押鍵動作に伴い回動変位させることで、所定のアクション荷重を鍵に付与し、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近づける技術がある。さらにアコースティックピアノには、鍵をゆっくり押さえると途中で抵抗感を増してからすっと軽くなる特有のクリック感がある。このクリック感を再現することで、電子鍵盤楽器の鍵タッチ感を、アコースティックピアノの鍵タッチ感に、より近似させることができる。
【0003】
このような技術として、例えば特許文献1や特許文献2には、ハンマーの所定部に突起を設け、その突起をシャーシ(ガイド部)や鍵に摺接させるものが開示されている。以下、図7を参照して、特許文献1や特許文献2に開示される技術について説明する。
【0004】
図7(a)は特許文献1に開示される従来の鍵盤装置501の側面図であり、離鍵された状態、即ち初期状態を示している。図7(a)に示すように、鍵盤装置501は、電子鍵盤楽器(図示せず)の棚等に固定されるシャーシ502と、そのシャーシ502にヒンジ部503aを介して一端が支点503bを中心に回動可能に固定されると共に、他端側に下方を臨む平坦面503cが形成される鍵503と、その鍵503の平坦面503cの前部側に突設される断面ほぼ半円形状の突部503dと、鍵503の下方のシャーシ502に立設されるハンマー取付部502aと、そのハンマー取付部502aに回動軸504aを中心に回動可能に支持され、自重により図7(a)時計回りに付勢されるハンマー504と、そのハンマー504の後部側に突設されると共に、突部503dの後部側の平坦面503cに当接する突起504bとを備えている。
【0005】
また、鍵盤装置501は、押鍵情報を検出するための第1及び第2の鍵スイッチ505a,505bがシャーシ502に配設される一方、鍵503は、第1及び第2の鍵スイッチ505a,505bに対応して下方に向かって突設される第1及び第2のスイッチ押圧部503e,503fを備えている。鍵503がゆっくり押されると、鍵503及び平坦面503cが下降変位し、それに伴い第1及び第2の鍵スイッチ505a,505bが第1及び第2のスイッチ押圧部503e,503fに順次押圧される。さらに、ハンマー504の突起504bが平坦面503cに摺接して、突部503dを乗り越えながら平坦面503cの前部側(図7(a)右側)に変位する。
【0006】
図7(b)は特許文献2に開示される従来の鍵盤装置601の側面図であり、離鍵された状態、即ち初期状態を示している。図7(b)に示すように、鍵盤装置601は、電子鍵盤楽器の棚等に固定されるシャーシ602と、そのシャーシ602の前部(図7(b)右側)に立設されるガイド部602a(シャーシ602の一部)と、そのガイド部602aの後部側の平坦面602bに突設される断面ほぼ円形状の突部602cと、シャーシ602にヒンジ部603aを介して一端が支点603bを中心に回動可能に固定されると共に、他端側に回動軸604aが支持される鍵603と、その鍵603が支持する回動軸604aを中心に回動可能に支持され、自重により図7(b)時計回りに付勢されるハンマー604と、そのハンマー604の前部側に突設されると共に、突部603cの上部側のガイド部602aの平坦面602bに当接する突起604bとを備えている。
【0007】
また、鍵盤装置601は、押鍵情報を検出するための第1及び第2の鍵スイッチ605a,605bがシャーシ602に配設される一方、鍵603は、第1及び第2の鍵スイッチ605a,605bに対応して下方に向かって突設される第1及び第2のスイッチ押圧部603c,603dを備えている。鍵603がゆっくり押されると、鍵603及びハンマー604が下降変位し、それに伴い第1及び第2の鍵スイッチ605a,605bが第1及び第2のスイッチ押圧部603c,603dに順次押圧される。さらに、ハンマー604の突起604bがガイド部602aの平坦面602bに摺接して、突部602cを乗り越えながらガイド部602a(平坦面602b)の下部側(図7(b)下側)に変位する。
【0008】
次に、図7(a)に示す鍵盤装置501の鍵荷重について説明する。図7(c)は鍵ストロークと鍵荷重との関係を示す模式図である。なお、以下の鍵盤装置501,601における説明では、平坦面503c,602b及び突部503d,602cと突起504b,604bとの関係に着目するため、第1及び第2のスイッチ押圧部503e,503f,603c,603dが第1及び第2の鍵スイッチ505a,505b,605a,606bを押圧することにより生じる荷重は省略する。
【0009】
鍵503が押されると、鍵503が支点503bを中心に下方に回動し、まず、ヒンジ部503aの弾性力およびハンマー504の付勢力(図7(a)時計回り)に起因する荷重が鍵503に作用する(図7(c)符号A)。次に、鍵503の平坦面503cをハンマー504の突起504bが摺接するときに、平坦面503cと突起504bとの干渉による抵抗力が生じる。この抵抗力による荷重は、鍵503の回動に伴い漸次増加する(図7(c)符号B)。次いで、ハンマー504の突起504bが突部503dを乗り上げるときに生じる抵抗力による荷重が鍵503に作用し(図7(c)符号C)、突起504bが突部503dを乗り越えると、鍵503に作用する荷重が小さくなる(図7(c)符号D)。
【0010】
図7(b)に示す鍵盤装置601の鍵荷重も同様であり、鍵603が押されると、鍵603が支点603bを中心に下方に回動し、まず、ヒンジ部603aの弾性力およびハンマー604の質量に起因する荷重が鍵603に作用する(図7(c)符号A)。次に、ガイド部602aの平坦面602bをハンマー604の突起604bが摺接するときに、平坦面602bと突起604bとの干渉による抵抗力が生じる。この抵抗力による荷重は、鍵603の回動に伴い漸次増加する(図7(c)符号B)。次いで、ハンマー604の突起604bが突部602cを乗り上げるときに生じる抵抗力による荷重が鍵603に作用し(図7(c)符号C)、突起604bが突部602cを乗り越えると、鍵603に作用する荷重が小さくなる(図7(c)符号D)。
【0011】
以上のように、特許文献1及び特許文献2に開示される鍵盤装置501,601では、突起504b,604bが突部503d,602cに乗り上げるときに抵抗感が増し、突起504b,604bが突部503d,602cを乗り越えると抵抗感が軽くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−165396号公報
【特許文献2】特開平4−166995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら上記従来の技術では、突起が突部に乗り上げる前であっても、鍵の回動に伴い平坦面を突起が摺接するときに抵抗力が生じ、この抵抗力による荷重が漸次増加するように鍵に作用していた。その結果、鍵ストロークに応じて抵抗感が次第に大きくなった後、突起が突部に乗り上げるので、突起が突部に乗り上げたときの抵抗感の増大を識別し難いという問題点があった。また、突起が突部を乗り越えた後、突起は平坦面に摺接するので、突起が突部を乗り越えたときの抵抗感の減少も識別し難いという問題点があった。このような識別し難い抵抗感の変化は、アコースティックピアノのクリック感とは異なるものであり、違和感を覚えるという問題点があった。
【0014】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、アコースティックピアノに特有のクリック感を違和感なく再現できる鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0015】
この目的を達成するために、請求項1記載の鍵盤装置によれば、鍵の押鍵または離鍵に連動してハンマーが回動変位し鍵にアクション荷重が付与される。さらに、ハンマー又は鍵の所定部に突設される突起が、押鍵または離鍵に伴い、シャーシ、鍵、ハンマーのいずれかに形成される摺接面に摺動する。摺接面は、押鍵のときの突起の摺動方向に向かうにつれて突起の基部から漸次離れる方向に傾斜する平面または曲面を有し、隆起部は、その平面または曲面に連成されると共に、押鍵のときの突起の摺動方向に向かうにつれて突起の基部に近づく方向に摺接面から隆起している。
【0016】
そのため、突起が平面または曲面を経て隆起部に至るときは、平面または曲面を摺動する突起に加わる抵抗力を小さくすることができ、抵抗感が漸次増加することを抑制できる。そして、突起が隆起部に乗り上げると抵抗感を大きくすることができ、突起が隆起部を乗り越えると、抵抗感を小さくできる。この場合、突起が隆起部に乗り上げたときの抵抗感の変化を大きくできるので、突起が隆起部を乗り越えたときの抵抗感の変化が小さくても、隆起部の前後で抵抗感が大きく変化するものと識別可能にできる。
【0017】
また、突起が隆起部を経て平面または曲面に至るときは、突起が隆起部を乗り越えたときの抵抗感の変化を大きくできるので、突起が隆起部を乗り上げたときの抵抗感の変化が小さくても、隆起部の前後で抵抗感が大きく変化するものと識別可能にできる。
【0018】
以上のように、摺接面を摺動する突起の位置変化を、大きな抵抗感の変化として識別可能にできるので、アコースティックピアノの特有のクリック感を違和感なく再現できる効果がある。
【0019】
請求項2記載の鍵盤装置によれば、摺接面は、押鍵のときに突起が隆起部に至るまでの間に位置すると共に、押鍵のときの突起の摺動方向に向かうにつれて突起の基部から漸次離れる方向に傾斜する第1傾斜部を備えているので、第1傾斜部を摺動する突起に加わる抵抗力を小さくすることができ、抵抗感が漸次増加することを抑制できる。これにより、突起が隆起部に乗り上げたときの抵抗感の変化を大きくできるので、請求項1の効果に加え、クリック感を際立たせる効果がある。
【0020】
請求項3記載の鍵盤装置によれば、摺接面は、押鍵のときに突起が隆起部を経て至るところに位置すると共に、押鍵のときの突起の摺動方向に向かうにつれて突起の基部から漸次離れる方向に傾斜する第2傾斜部を備え、その第2傾斜部は、第1傾斜部より傾斜角度が大きくなるように形成されているので、隆起部を乗り越えた突起に加わる抵抗力を、急激に小さくすることができる。これにより、請求項2の効果に加え、クリック感をより際立たせる効果がある。
【0021】
請求項4記載の鍵盤装置によれば、隆起部は、第1傾斜部より傾斜角度が大きくなるように設定されているので、隆起部によって急激に抵抗感を増加させることができる。これにより、請求項2又は3の効果に加え、アコースティックピアノのクリック感にさらに近似させることができる効果がある。
【0022】
請求項5記載の鍵盤装置によれば、ハンマーの所定部に形成される摺接面は、離鍵された状態における摺接面の始端とハンマーの回動軸とを結ぶ直線と、鍵の回動軸とハンマーの回動軸とを通る平面との鋭角側の交角が30〜60°となる位置にある。これにより、鍵の所定部に形成される突起と摺接面とが干渉し合う距離を長くすることができ、突起が摺接する距離を長くすることができる。その結果、摺接面に対する隆起部の位置や高さの製造ばらつきを小さくできる。さらに、突起が摺接面を押圧してハンマーを回動させる確実性を確保し、タッチ重さを鍵に付与する確実性を確保できる。これにより、請求項1から4のいずれかの効果に加え、鍵タッチ感にばらつきが生じることを抑制できる効果がある。
【0023】
請求項6記載の鍵盤装置によれば、突起または摺接面は、可撓性を有する部材で形成され又は覆われているので、請求項1から5のいずれかの効果に加え、突起と摺接面とが擦れることによるノイズ(擦過音)を生じ難くできる効果がある。
【0024】
請求項7記載の鍵盤装置によれば、ハンマ本体の連結突起に連結部材の挿通孔を挿通することにより、連結部材をハンマ本体に連結してハンマーを製造できるので、請求項1から6のいずれかの効果に加え、ハンマーを簡便に生産できる効果がある。さらに、連結部材は可撓性を有する部材で摺接面が一体に形成されているので、突起と摺接面とが擦れることによるノイズ(擦過音)を生じ難くできる効果がある。
【0025】
請求項8記載の鍵盤装置によれば、摺接面は突起の下方に位置し、シャーシ、鍵、ハンマーのいずれかは、摺接面の周囲に立設されると共に摺接面を囲繞する壁部を備えているので、壁部に囲繞された摺接面にグリス等の潤滑剤を塗布しておいた場合、潤滑剤を壁部の内側に貯留できる。その結果、潤滑剤が摺接面から流出することを防止できる。これにより、請求項1から7のいずれかの効果に加え、突起や摺接面の磨耗やノイズ(擦過音)の発生を長期間に亘って防止できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施の形態における鍵盤装置の側面図である。
【図2】鍵盤装置の側面図である。
【図3】(a)は摺接面の断面図であり、(b)は鍵ストロークと鍵荷重との関係を示す模式図である。
【図4】(a)は第2実施の形態における鍵盤装置のハンマーの斜視図であり、(b)は第3実施の形態における鍵盤装置のハンマーの斜視図である。
【図5】(a)は第4実施の形態における鍵盤装置の一部を拡大して示す鍵盤装置の側面図であり、(b)は第5実施の形態における鍵盤装置の一部を破断して示すハンマーの一部破断側面図であり、(c)は第6実施の形態における鍵盤装置の一部を拡大して示す鍵盤装置の側面図である。
【図6】(a)は第7実施の形態における鍵盤装置の摺接面の断面図であり、(b)は第8実施の形態における鍵盤装置の摺接面の断面図であり、(c)は第9実施の形態における鍵盤装置の摺接面の断面図である。
【図7】(a)は従来の鍵盤装置の側面図であり、(b)は従来の鍵盤装置の側面図であり、(c)は鍵ストロークと鍵荷重との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1から図3を参照して、本発明の第1実施の形態における鍵盤装置1について説明する。図1及び図2は第1実施の形態における鍵盤装置1の側面図であり、図1は離鍵された状態、即ち初期状態を示し、図2は押鍵された状態、即ち押鍵状態を示している。なお、鍵盤装置1の左右方向は、電子鍵盤装置(図示せず)に搭載されたときに奏者からみた方向を基準とし、前後方向については、電子鍵盤装置(図示せず)に搭載されたときの鍵盤装置1の奏者側を「前方」とする。
【0028】
図1に示す鍵盤装置1は、奏者による鍵盤操作部として構成されると共に、鍵3の操作状態を検出するための装置であり、電子ピアノ等の電子鍵盤楽器(図示せず)に搭載される。鍵盤装置1は、合成樹脂材料や鋼板等により形成されるシャーシ2と、そのシャーシ2に回動自在に支持され白鍵3a及び黒鍵3bから構成される複数(例えば88鍵)の鍵3と、その鍵3毎に配設されると共に鍵3の押鍵または離鍵に連動して回動されるハンマー4とを主に備えて構成されている。
【0029】
鍵3(白鍵3a及び黒鍵3b)はシャーシ2の上面側(図1上側)において、ハンマー4は各鍵3に対応しつつシャーシ2の内部において、それぞれシャーシ2の左右方向(図1紙面垂直方向)へ列設されている。なお、押鍵または離鍵に連動してハンマー4が回動する機構は、白鍵3aも黒鍵3bも同様なので、以下、白鍵3aの場合を説明し、黒鍵3bの場合の説明は省略する。
【0030】
シャーシ2は、鍵盤装置1の骨格をなす部材であり、シャーシ本体21と、そのシャーシ本体21の上面に固設されるシャーシ補強部材22とを備え、そのシャーシ補強部材22は、後端側に鍵軸支突起23が形成されている。鍵軸支突起23は、鍵3を回動自在に軸支するための突起であり、鍵3毎に形成されている。この鍵軸支突起23(回動軸)に、鍵3の側壁部に穿設された軸支孔31が係合され、シャーシ2は鍵3を回動自在に軸支(支持)する。
【0031】
ハンマ軸支凹部24は、ハンマー4を回動可能に支持するための部位であり、シャーシ2の略中央部においてシャーシ補強部材22の前端側に形成された開口部(図示せず)の両側壁にハンマー4毎に凹設されている。このハンマ軸支凹部24に、ハンマー4の両側壁に突設されたハンマ軸支突起43が係合され、シャーシ2はハンマー4を回動自在に軸支(支持)する。なお、開口部は、ハンマー4が遊挿可能な大きさに形成されているので、ハンマー4はシャーシ補強部材22の前端側で回動できる。
【0032】
鍵軸支突起23とハンマ軸支凹部24との間のシャーシ補強部材22の上面には、鍵3の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ5が取着されている。鍵スイッチ5は、シャーシ補強部材22に螺着される回路基板51と、その回路基板51の上面に配設される第1及び第2スイッチ52,53とを備えており、第1及び第2スイッチ52,53が鍵3のスイッチ押圧部32により順次押圧されてオンされた場合には、各スイッチ52,53がオン動作される時間差に基づいて鍵3の押鍵情報(ベロシティ)を検出する。
【0033】
上側延設部25は、シャーシ補強部材22から前端側(図1右側)に向けて略水平に延設される部位である。上側延設部25は、鍵3が離鍵された場合には、鍵3のストッパ部33に当接して鍵3の上限位置を規制すると共に、鍵3が押鍵された場合には、鍵3の下面およびハンマー4の上面に当接して鍵3の下限位置およびハンマー4の上限位置をそれぞれ規制する(図2参照)。
【0034】
下側延設部26は、上側延設部25の下方から前方に位置しシャーシ本体21から前端側に側面視略コ字状に延設される部位である。下側延設部26は、鍵3が離鍵された場合には、ハンマー4の下面に当接してハンマー4の下限位置を規制すると共に、鍵3が押鍵された場合には、ハンマー4の上面に当接してハンマー4の上限位置を規制する(図2参照)。
【0035】
上側延設部25の上面にはクッション材27aが、上側延設部25の下面にはクッション材27b,27cがそれぞれ貼設されている。また、下側延設部26の上端部の上面にはクッション材27dが、下側延設部26の上端部の下面にはクッション材27eが、下側延設部26の底部の上面にはクッション材27fがそれぞれ貼設されている。これらクッション材27a〜27fは、緩衝材または消音材としての役割を担う部材であり、鍵3やハンマー4の回動を規制する際の衝撃を吸収すべく、例えばフェルトや発泡ウレタン等により構成されている。
【0036】
鍵3は、底面側(図1下側)が開放された断面略コ字状の長尺状体に形成される合成樹脂製の部材であり、シャーシ2の上面側に配設され、鍵軸支突起23(回動軸)に軸支孔31が係合することで、シャーシ2に回動自在に支持される。鍵3は、側壁から下方へ向けて延設される側面視L字状のストッパ部33を備えており、ストッパ部33がシャーシ2の上側延設部25(クッション材27c)に当接することにより、離鍵されたときの上限位置が規制される(図1参照)。
【0037】
また、鍵3には、底面部から下方に向けて延設される略尖形形状の突起34が形成されており、この突起34を介してハンマー4の後端部と当接している。これにより、鍵3は、離鍵された場合にはハンマー4の質量により初期位置(図1参照)へ持ち上げられ、押鍵されるときにはハンマー4の質量により所定のタッチ重さが鍵3に付与される。
【0038】
ハンマー4は、鍵3の押鍵または離鍵に連動して回動することによりアコースティックピアノと同様のタッチ重さを付与するための部材であり、POM等で形成される合成樹脂製のハンマ本体41と、そのハンマ本体41に連結され錘としての役割を担う質量体42とを主に備えて構成されている。
【0039】
ハンマ軸支突起43は、ハンマー4を回動可能に支持するための回動軸であり、ハンマ本体41の後端側の両側壁に突設されている。このハンマ軸支突起43がハンマ軸支凹部24に係合することで、ハンマー4はシャーシ2に回動可能に支持される。ハンマー4は、ハンマ軸支突起43より前方(図1右側)に質量体42が位置するので、質量体42の自重により図1時計回りに付勢される。
【0040】
ここで、鍵3の底面から下方に向けて突出される突起34は、ハンマ本体41の後端部の上面に形成される受け部44に挿入されている。受け部44は、ハンマー4の前後方向(図1左右方向)に沿って形成され突起34が当接される摺接面45と、その摺接面45の周囲に立設される壁部46とを備えて構成されている。受け部44は、突起34と摺接面45とが摺接することによる磨耗やノイズ(擦過音)の発生を防止するため、グリス等の潤滑剤が充填されている。
【0041】
なお、鍵3が押鍵されることにより、突起34は鍵軸支突起23(回動軸)を中心に下方(図1時計回り)に回動し、受け部44は突起34に押されて、ハンマ軸支突起43(回動軸)を中心に下方(図1反時計回り)に回動する。これにより、突起34は摺接面45を始端(後端)45a(図1参照)から終端(前端)45b(図2参照)に亘って摺接する。突起34に対して摺接面45が下方に位置しつつ、回動範囲において上方を向き、さらに周囲を壁部46に囲まれているので、潤滑剤が受け部44から流出することを防止できる。その結果、突起34や摺接面45の磨耗やノイズの発生を長期間に亘って防止できる。
【0042】
摺接面45は、押鍵または離鍵のときにハンマ軸支突起43の軸方向に対して直交する方向(図1左右方向)に突起34が摺動する面である。摺接面45は、鍵ストロークに対する鍵荷重を調整するための機能を担う部位であり、突起34の相対的な摺動方向に対して凹凸状に形成されている。以下、図3を参照して、摺接面45及び押鍵のときの鍵荷重について説明する。図3(a)は摺接面45の断面図であり、図3(b)は鍵ストロークと鍵荷重との関係を示す模式図である。なお、図3(b)は押鍵のときの鍵荷重を示しており、押鍵のときに突起34は摺接面45を図3(a)左から右へ摺動する。
【0043】
図3(a)に示すように摺接面45は、押鍵のときの突起34(図1参照)の摺動方向(図3(a)左から右)に向かうにつれて突起34の基部34aから漸次離れる方向に傾斜する第1傾斜部45cと、その第1傾斜部45cに連成されると共に、押鍵のときに突起34が第1傾斜部45cを経て至るところに位置し、押鍵のときの突起34の摺動方向に向かうにつれて突起34の基部34aに近づく方向に隆起し、頂部を越えると突起34の基部34aから漸次離れる方向に傾斜する隆起部45dとを備えて構成されている。さらに、その隆起部45dに連成されると共に、押鍵のときに突起34が隆起部45dを経て至るところに位置し、押鍵のときの突起34の摺動方向に向かうにつれて突起34の基部34aから漸次離れる方向に傾斜する第2傾斜部45eを備えている。
【0044】
第1傾斜部45cは、鍵荷重の増加を抑制するための機能を担う部位であり、摺接面45の始端45a(後端)において摺接面45に接する突起34の接線Tに対する傾斜角度がθ1に設定されている。また、第1傾斜部45cは、接線Tに投影される長さがaに設定されており、本実施の形態では平面状に形成されている。
【0045】
隆起部45dは、鍵荷重を急激に増加させるための機能を担う部位であり、接線Tに対する傾斜角度がθ2に設定されている。また、隆起部45dは、接線Tに投影される長さがbに設定されている。なお、隆起部45dの傾斜角度θ2は第1傾斜部45cの傾斜角度θ1より大きい。さらに、隆起部45dの長さbは第1傾斜部45cの長さaより短い。
【0046】
第2傾斜部45eは、鍵荷重を急激に減少させるための機能を担う部位であり、接線Tに対する傾斜角度がθ3に設定されている。また、第2傾斜部45eは、接線Tに投影される長さがcに設定されており、本実施の形態では平面状に形成されている。なお、第2傾斜部45eの傾斜角度θ3は第1傾斜部45cの傾斜角度θ1より大きい。さらに、第2傾斜部45eの長さcは、第1傾斜部45cの長さaより短く、隆起部45dの長さbより長い。
【0047】
図3(b)を参照して押鍵時の鍵荷重について説明する。まず、鍵3(図1参照)が押鍵されて回動を開始するときは、ハンマー4の質量が突起34を介して鍵3に作用するため、鍵荷重が急激に大きくなる。ハンマー4の回動につれて突起34は第1傾斜部45c(平面)を摺接するが、第1傾斜部45cは突起34の基部34aから漸次離れる方向に傾斜しているので、鍵荷重が増加することを抑制できる。
【0048】
次いで、摺接する突起34が隆起部45dに到達し突起34が隆起部45dに乗り上げることで、鍵荷重が大きくなる。そして、突起34が隆起部45dの頂部を乗り越えると、鍵荷重が小さくなる。このときに、鍵3に抜ける感じのクリック感が付与される。この後、鍵3がさらに回動し突起34が第2傾斜部45e(平面)を摺動し、摺接面45の終端(前端)45b(図3(a)参照)に到達すると、ハンマー4がクッション材27e(図2参照)に当接するので、鍵荷重が急激に大きくなり、ハンマー4及び鍵3の回動が停止する。
【0049】
なお、隆起部45dの傾斜角度θ2は第1傾斜部45cの傾斜角度θ1より大きいので、隆起部45dによって急激に鍵荷重を増加させることができる。これにより、クリック感をアコースティックピアノのクリック感にさらに近似させることができる。また、第2傾斜部45eの傾斜角度θ3は第1傾斜部45cの傾斜角度θ1より大きいので、隆起部45dを乗り越えた後の鍵荷重を急激に小さくできる。これにより、クリック感をより際立たせることができる。
【0050】
また、隆起部45dの長さbは第1傾斜部45cの長さaより短いので、鍵荷重がほぼ同一となる第1傾斜部45cを突起34が摺接する鍵ストロークを、長く確保できる。さらに、第2傾斜部45eの長さcは、第1傾斜部45cの長さaより短く、隆起部45dの長さbより長いので、クリック感を付与した後にハンマー4及び鍵3の回動が停止するまでの鍵ストロークを短くできる。これにより、鍵タッチ感をアコースティックピアノの鍵タッチ感に近似させることができる。
【0051】
また、鍵盤装置1は、鍵3の下方のシャーシ2の空間にハンマー4の質量体42を収容し、その対角方向に摺接面45を位置させ、その摺接面45に上方から突起34を当接させているので、突起34は、ハンマー4による鍵荷重の変化を高感度で検出できる。摺接面45に形成される第1傾斜部45c、隆起部45d、第2傾斜部45eによる凹凸は微小であるが、上記のように摺接面45の凹凸の突起34による検出感度を高くできるため、アコースティックピアノの繊細な鍵タッチ感を再現できる。
【0052】
図1に戻って説明する。摺接面45の位置は、離鍵された状態(図1参照)における摺接面45の始端45a(後端)とハンマ軸支突起43(ハンマー4の回動軸)の軸心とを結ぶ直線Lと、鍵軸支突起23(鍵3の回動軸)の軸心とハンマ軸支突起43の軸心とを通る平面Pとの鋭角側の交角θiが30〜60°となるように設定される。これにより、突起34に対して前後方向(図1左右方向)に摺接面45が変位する距離を長くすることができる。その結果、摺接面45に対する第1傾斜部45c及び隆起部45dの位置や高さの製造ばらつきを小さくできる。さらに、突起34が摺接面45を押圧してハンマー4を回動させる確実性を確保し、タッチ重さを鍵3に付与する確実性を確保できる。これにより、鍵タッチ感にばらつきが生じることを抑制できる。
【0053】
なお、鋭角側の交角θiが30°より小さくなるにつれ、突起34に対して摺接面45が変位する距離が短くなる傾向がみられる。また、交角θiが60°より大きくなるにつれ、水平方向においてハンマ軸支突起43(ハンマー4の回動軸)の軸心に近い部位を突起34で押圧することになるため、突起34の押圧によりハンマー4を回動させる確実性が低下する傾向がみられる。
【0054】
以上説明したように本実施の形態によれば、押鍵のときに鍵荷重が漸次増加することを第1傾斜部45cにより抑制し、次いで隆起部45dに突起34が乗り上げることで鍵荷重を増加させた後、突起34が隆起部45dを乗り越えることで鍵荷重を減少させることができる。これにより、押鍵のときの鍵ストロークに対する鍵荷重を、アコースティックピアノの特有のクリック感に近似させ、アコースティックピアノの鍵タッチ感を違和感なく再現できる。
【0055】
次に図4(a)を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、摺接面45がハンマ本体41(ハンマー4)の一部として一体に形成される場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、ハンマ本体141と別体に形成される連結部材142を備え、その連結部材142に摺接面142bが形成される場合について説明する。図4(a)は第2実施の形態における鍵盤装置のハンマー104の斜視図である。なお、ハンマー104以外の部分は第1実施の形態と同一であるため図示を省略すると共に、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
ハンマー104は、POM等で形成される合成樹脂製のハンマ本体141と、そのハンマ本体141に連結される質量体42とを主に備えて構成されている。ハンマ本体141は、断面矩形状の連結突起141aが一体に形成されて後端側に突設されている。連結部材142は、可撓性を有する部材で一体に形成されており、上面に摺接面142bが形成されると共に、摺接面142bの下方に連結突起141aが嵌挿される挿通孔142aが形成されている。摺接面142bは、摺接面142bの周囲に立設される壁部46に囲繞されている。
【0057】
ここで、可撓性を有する部材としては、シリコンゴム等のゴム材や熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。摺接面142bが可撓性を有する部材で形成されているので、突起34と摺接面142bとが擦れることによるノイズ(擦過音)を生じ難くできる。さらに、ハンマ本体141の連結突起141aに連結部材142の挿通孔142aを挿通することにより、連結部材142をハンマ本体141に連結してハンマー104を簡便に製造できる。
【0058】
また、壁部46に囲繞された摺接面142bにグリス等の潤滑剤を塗布しておいた場合、壁部46があるので、潤滑剤が摺接面142bから流出することを防止できる。その結果、突起34や摺接面142bの磨耗やノイズの発生を長期間に亘って防止できる。
【0059】
次に図4(b)を参照して、第3実施の形態について説明する。第2実施の形態では、ハンマ本体141と別体に可撓性を有する部材で形成される連結部材142を備え、その連結部材142に摺接面142bが形成される場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、可撓性を有する部材で受け部241a(摺接面)がハンマ本体241と一体に形成されている場合について説明する。図4(b)は第3実施の形態における鍵盤装置のハンマー204の斜視図である。なお、ハンマー204以外の部分は第1実施の形態と同一であるため図示を省略すると共に、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0060】
ハンマー204は、合成樹脂製のハンマ本体241と、そのハンマ本体241に連結される質量体42とを主に備えて構成されている。受け部241aは可撓性を有する部材で構成され、2色成形によりハンマ本体241と一体に形成されている。受け部241aがハンマ本体241と一体であるので、部品点数の増加を抑制できる。また、受け部241a(摺接面)が可撓性を有する部材で形成されているので、突起34と摺接面とが擦れることによるノイズを生じ難くできる。さらに、壁部46が立設された受け部241a(摺接面)にグリス等の潤滑剤を充填しておいた場合、潤滑剤が受け部241aから流出することを防止できる。その結果、突起34や受け部241aの磨耗やノイズの発生を長期間に亘って防止できる。
【0061】
次に図5(a)を参照して、第4実施の形態について説明する。第2実施の形態および第3実施の形態では、摺接面が可撓性を有する部材で形成される場合について説明した。これに対し第4実施の形態では、突起134が可撓性を有する部材で形成され又は覆われている場合について説明する。図5(a)は第4実施の形態における鍵盤装置の一部を拡大して示す鍵盤装置の側面図である。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0062】
鍵103は底面側(図5(a)下側)が開放された断面略コ字状の長尺状体に形成される合成樹脂製の部材であり、その鍵103の底面から下方に向かって突起134が突設されている。突起134は、可撓性を有する部材で構成される被膜が、2色成形により表面に形成されている。これにより、突起134と摺接面45とが擦れることによるノイズを生じ難くできると共に、部品点数の増加を抑制できる。
【0063】
なお、2色成形で突起134の表面に被膜を形成するのに代えて、塗布や接着等により被膜を形成することも可能である。また、被膜を形成するのに代えて、可撓性を有する部材で突起134の全体を形成することも可能である。
【0064】
次に図5(b)を参照して、第5実施の形態について説明する。第3実施の形態では、可撓性を有する部材で受け部241a(摺接面)がハンマ本体241と一体に2色成形により形成される場合について説明した。これに対し、第5実施の形態では、可撓性を有する部材で摺接面345がハンマ本体341に塗布等により形成される場合について説明する。図5(b)は第5実施の形態における鍵盤装置の一部を破断して示すハンマー304の一部破断側面図である。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0065】
ハンマー304は、合成樹脂製のハンマ本体341を備えて構成されている。そのハンマ本体341の後端側に立設される壁部346で囲まれた面に、可撓性を有する部材が塗布され、その硬化後に摺接面345が形成される。これにより、可撓性を有する部材で摺接面が形成されていない鍵盤装置であっても、メンテナンスのときに摺接面345を形成することができる。また、摺接面345を補修することも可能である。その結果、突起34と摺接面345とが擦れることによるノイズを長期間に亘って生じ難くできる。なお、塗布により摺接面345を形成するのに代えて、可撓性を有する部材で摺接面345を別途製造し、それをハンマ本体341に接着しても良い。
【0066】
次に図5(c)を参照して、第6実施の形態について説明する。第6実施の形態では、離鍵のときに生じるクリック感を軽減できる突起234について説明する。図5(c)は第6実施の形態における鍵盤装置の一部を拡大して示す鍵盤装置の側面図である。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0067】
鍵203は底面側(図5(c)下側)が開放された断面略コ字状の長尺状体に形成される合成樹脂製の部材であり、その鍵203の底面から下方に向かって突起234が突設されている。突起234は、押鍵のときに突起234の進行方向を臨み摺接面45に接する第1面234aと、離鍵のときに突起234の進行方向を臨み摺接面45に接する第2面234bとを備え、それら第1面234a及び第2面234bの曲率を異ならせて形成されている。
【0068】
具体的には、第2面234bは、曲率が第1面234aの曲率より小さくなるように設定されている。これにより、離鍵のときに第2傾斜部45eから隆起部45dを経て第1傾斜部45cに至る凹凸に対する第2面234bの追随性を、第1面234aの場合と比較して低下させることができる。これにより、離鍵のときのクリック感を、押鍵のときのクリック感と比較して大幅に低減できる。アコースティックピアノでは、本来、離鍵のときにクリック感は生じないので、第6実施の形態によれば、アコースティックピアノに近似した鍵タッチ感を再現できる。
【0069】
次に図6(a)を参照して、第7実施の形態について説明する。第1実施の形態では、摺接面45が第2傾斜部45eを備える場合について説明した。これに対し、第7実施の形態では、摺接面445が第2傾斜部45eに代えて平坦部445eを備える場合について説明する。図6(a)は第7実施の形態における鍵盤装置の摺接面445の断面図である。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0070】
図6(a)に示すように摺接面445は、押鍵のときの突起34(図1参照)の摺動方向(図6(a)左から右)に向かうにつれて突起34の基部34aから漸次離れる方向に摺接面445の始端445aから傾斜する曲面状の第1傾斜部445cと、その第1傾斜部445cに連成されると共に、押鍵のときに突起34が第1傾斜部445cを経て至るところに位置し、押鍵のときの突起34の摺動方向に向かうにつれて突起34の基部34aに近づく方向に隆起する隆起部445dと、その隆起部445dの頂部に連成されると共に、押鍵のときに突起34が隆起部445dを経て至るところに位置し、始端445aにおける突起34の接線Tと略平行に形成される平面状の平坦部445eとを備えて構成されている。
【0071】
第7実施の形態の場合、突起34が第1傾斜部445c(曲面)を経て隆起部445dに至るときは、第1傾斜部445cを摺動する突起34に加わる抵抗力を小さくすることができ、抵抗感が漸次増加することを抑制できる。そして、突起34が隆起部445dに乗り上げると抵抗感を急激に大きくすることができる。突起34が隆起部445dを乗り越えたところに位置するのは平坦部445eのため、突起34が隆起部445dを乗り越えたときの抵抗感の変化は、第1実施の形態の場合と比較して小さい。しかし、第1傾斜部445cが突起34の基部34aから漸次離れる方向に傾斜しているので、突起34が隆起部445dを乗り越えたときの抵抗感の変化が小さくても、隆起部445dの前後で、相対的に大きな抵抗感の変化があるものと識別可能にできる。その結果、アコースティックピアノの特有のクリック感を違和感なく再現できる。
【0072】
次に図6(b)を参照して、第8実施の形態について説明する。第1実施の形態では、摺接面45が第1傾斜部45cを備える場合について説明した。これに対し、第8実施の形態では、摺接面545が第1傾斜部45cに代えて勾配部545cを備える場合について説明する。図6(b)は第8実施の形態における鍵盤装置の摺接面545の断面図である。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0073】
図6(b)に示すように摺接面545は、押鍵のときの突起34(図1参照)の摺動方向(図6(b)左から右)に向かうにつれて突起34の基部34aに漸次近づく方向に摺接面545の始端545aから傾斜する曲面状の勾配部545cと、その勾配部545cに連成されると共に、押鍵のときに突起34が勾配部545cを経て至るところに位置し、押鍵のときの突起34の摺動方向に向かうにつれて突起34の基部34aに近づく方向に隆起する隆起部545dと、その隆起部545dに連成されると共に、押鍵のときに突起34が隆起部545dを経て至るところに位置し、押鍵のときの突起34の摺動方向に向かうにつれて突起34の基部34aから漸次離れる方向に傾斜する曲面状の第2傾斜部545eとを備えている。
【0074】
第8実施の形態の場合、突起34が勾配部545cを経て隆起部545dに至るときは、抵抗感が漸次増加する。そして、突起34が隆起部545dに乗り上げると、抵抗感を急激に大きくすることができる。この突起34が隆起部545dに乗り上げたときの抵抗感の変化は、第1実施の形態の場合と比較して小さい。しかし、突起34が隆起部545dを経て第2傾斜部545e(曲面)に至るときの抵抗感の変化を大きくできるため、隆起部545dの前後で、相対的に大きな抵抗感の変化があるものと識別可能にできる。その結果、アコースティックピアノの特有のクリック感を違和感なく再現できる。
【0075】
次に図6(c)を参照して、第9実施の形態について説明する。第1実施の形態では、摺接面45が第1傾斜部45cを備える場合について説明した。これに対し、第9実施の形態では、摺接面645が第1傾斜部45cに代えて平坦部645cを備える場合について説明する。図6(c)は第9実施の形態における鍵盤装置の摺接面645の断面図である。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0076】
図6(c)に示すように摺接面645は、摺接面645の始端645aにおける突起34(図1参照)の接線Tと略平行に形成される平面状の平坦部645cと、その平坦部645cに連成されると共に、押鍵のときに突起34が平坦部645cを経て至るところに位置し、押鍵のときの突起34の摺動方向に向かうにつれて突起34の基部34aに近づく方向に隆起する隆起部645dと、その隆起部645dに連成されると共に、押鍵のときに突起34が隆起部645dを経て至るところに位置し、押鍵のときの突起34の摺動方向に向かうにつれて突起34の基部34aから漸次離れる方向に傾斜する平面状の第2傾斜部645eとを備えている。
【0077】
第9実施の形態の場合、突起34が平坦部645cを経て隆起部645dに至るときは、抵抗感が漸次増加する。そして、突起34が隆起部645dに乗り上げると、抵抗感を急激に大きくすることができる。この突起34が隆起部645dに乗り上げたときの抵抗感の変化は、第1実施の形態の場合と比較して小さい。しかし、突起34が隆起部645dを経て第2傾斜部645e(平面)に至るときの抵抗感の変化を大きくできるため、隆起部645dの前後で、相対的に大きな抵抗感の変化があるものと識別可能にできる。その結果、アコースティックピアノの特有のクリック感を違和感なく再現できる。
【0078】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0079】
上記実施の形態では、鍵3に突設された突起34が、ハンマ軸支突起43の後方に位置する摺接面45に当接し、ハンマー4の質量体42がシャーシ2の前部側を回動する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。シャーシ2の形状や収容されるハンマー4の位置、突起34の位置等を変更して、鍵3に突設された突起34が、ハンマ軸支突起43の前方に位置する摺接面45に当接し、ハンマー4の質量体42がシャーシ2の後部側を回動するように構成することは当然可能である。
【0080】
上記実施の形態では、突起34が鍵3に突設されると共に、摺接面45がハンマー4に形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。押鍵または離鍵によって互いに摺接する部位に、突起および摺接面を適宜形成することが可能である。例えば、特許文献1(図7(a)参照)に開示されるように、突起34がハンマー4の所定部に突設されると共に、摺接面45が鍵3の所定部に形成されるようにすることは当然可能である。また、特許文献2(図7(b)参照)に開示されるように、突起34がハンマー4の所定部に突設されると共に、摺接面45がシャーシ2の所定部(ガイド部602a)に形成されるようにすることは当然可能である。
【0081】
さらに、これらに限られるものではなく、ハンマー4の所定部に突起34を突設する一方で鍵3の底面に摺接面45を形成したり、ハンマー4の所定部に突起34を突設する一方でシャーシ2の底面に摺接面を形成したりすることも当然可能である。これら突起および摺接面の位置は、シャーシ2やハンマー4の形状、回動軸の配設位置等により適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 鍵盤装置
2 シャーシ
23 鍵軸支突起(鍵の回動軸)
3 鍵
34 突起
34a 基部
4 ハンマー
43 ハンマ軸支突起(ハンマーの回動軸)
45,445,545,645 摺接面
45a,445a,545a,645a 始端
45c,445c 第1傾斜部
45d,445d,545d,645d 隆起部
45e,545e,645e 第2傾斜部
103,203 鍵
104,204,304 ハンマー
134,234 突起
141 ハンマ本体
141a 連結突起
142 連結部材
142a 挿通孔
142b,345 摺接面
θi 交角
θ1,θ2,θ3 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャーシに回動自在に支持される鍵と、
前記鍵の押鍵または離鍵に連動して回動変位し前記鍵にアクション荷重を付与するハンマーと、
前記ハンマー又は前記鍵の所定部に突設され押鍵または離鍵に伴い変位する突起と、
前記シャーシ、前記鍵、前記ハンマーのいずれかに形成されると共に、押鍵または離鍵のときに前記突起が摺動し、押鍵のときの前記突起の摺動方向に向かうにつれて前記突起の基部から漸次離れる方向に傾斜する平面または曲面を有する摺接面と、
前記平面または前記曲面に連成されると共に、押鍵のときの前記突起の摺動方向に向かうにつれて前記基部に近づく方向に前記摺接面から隆起する隆起部とを備えていることを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
前記摺接面は、押鍵のときに前記突起が前記隆起部に至るまでの間に位置すると共に、押鍵のときの前記突起の摺動方向に向かうにつれて前記突起の基部から漸次離れる方向に傾斜する第1傾斜部を備えていることを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項3】
前記摺接面は、押鍵のときに前記突起が前記隆起部を経て至るところに位置すると共に、押鍵のときの前記突起の摺動方向に向かうにつれて前記突起の基部から漸次離れる方向に傾斜する第2傾斜部を備え、
前記第2傾斜部は、前記第1傾斜部より傾斜角度が大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項2記載の鍵盤装置。
【請求項4】
前記隆起部は、前記第1傾斜部より傾斜角度が大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の鍵盤装置。
【請求項5】
前記突起は、前記鍵の所定部に形成される一方、
前記摺接面は、前記ハンマーの所定部に形成されるものであり、離鍵された状態における前記摺接面の始端と前記ハンマーの回動軸とを結ぶ直線と、前記鍵の回動軸と前記ハンマーの回動軸とを通る平面との鋭角側の交角が30〜60°となる位置にあることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項6】
前記突起または前記摺接面は、可撓性を有する部材で形成され又は覆われていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項7】
前記ハンマーは、ハンマ本体に突設される連結突起と、前記連結突起に連結されると共に可撓性を有する部材で前記摺接面が一体に形成される連結部材とを備え、
前記連結部材は、前記摺接面の下方に形成されると共に、前記連結突起が挿通される挿通孔を備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項8】
前記摺接面は、前記突起の下方に位置し、
前記シャーシ、前記鍵、前記ハンマーのいずれかは、前記摺接面の周囲に立設されると共に前記摺接面を囲繞する壁部を備えていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の鍵盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−145728(P2012−145728A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3602(P2011−3602)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000116068)ローランド株式会社 (175)
【Fターム(参考)】