説明

鎖シャフリングおよび任意に体細胞超変異を用いる、改善された抗原結合物質の生成方法

本発明は、対象とする抗原に結合する所望の抗原結合物質を同定する方法に関する。該方法は、コンビナトリアルアプローチを利用するものであり、抗原結合物質の第1の成分を含むポリペプチドをコードする核酸配列が、それぞれが抗原結合物質の第2の成分を含むポリペプチドをコードする核酸配列のライブラリと共に細胞集団に提供される。該方法は更に、第1の成分、第2の成分、および/または同定された抗原結合物質をコードする1以上の核酸配列を体細胞超変異に供することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子的に提出された資料の参照による組み込み
本明細書と同時に提出され、以下:2009年11月4日に作成された“705436_ST25.TXT”という名称の一つの442,976バイトのASCII(テキスト)ファイルとして特定される、コンピュータで読み取り可能なヌクレオチド/アミノ酸の配列表が、参照することによりその全体として本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
抗体多様性を生成するための自然のメカニズムは、体細胞超変異(SHM)のプロセスを利用して免疫グロブリン可変領域の進化を誘発し、それにより液性応答と関連する第2の抗体レパートリーを迅速に生成する。in vivoでは、SHMは効率性の高いプロセスを示し、生産的な折り畳み構造を迅速に探索し、抗体最適化のための自然のプロセスを示す様式で高親和性の抗体を進化させることができる。そのため、in vitroでSHMを再現することで、直接的に哺乳動物細胞の状況内において親和性成熟の自然のプロセスを模倣することができる単純でロバストなプロセスを生成し、それにより、免疫学的に寛容な、哺乳動物細胞内で高度に発現される抗体を選択し、そして進化させるという試みに対して大きな関心が存在する(Cumbers et al., Nat Biotechnol., 20(11): 1129-1134 (2002); Wang et al., Prot. Eng. Des. Sel., 17(9): 569-664 (2004); Wang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 101(48): 16745-16749 (2004); Ruckerl et al., Mol. Immunol., 43 (10): 1645-1652 (2006); Todo et al., J. Biosci. Bioeng., 102(5): 478-81 (2006); Arakawa et al., Nucleic Acids Res., 36(1): e1 (2008))。
【0003】
しかしながら、個体のヒトまたは動物から単離された天然の抗体は、最適な親和性特性を示さないことがしばしばである。免疫系に内在する固有の親和性上限が、約100pMより強い親和性を有する抗体のin vivoでの識別、および従って選択を妨げるためである(BatistaおよびNeuberger, Immunity, 8(6): 751-9 (1998); およびEMBO J., 19(4): 513-20 (2000))。
【0004】
ファージディスプレイライブラリを使用することでこれらの問題の一部に対処することができ、ファージディスプレイに基づくアプローチにより、高親和性の抗体をルーチンに製造できることが示されている。例えば、ファージディスプレイは、「鎖シャフリング」として記載されるアプローチを通じて抗体の親和性を増加させるために使用されている(Marks, J.D., “Antibody Engineering: Methods and Protocols”, Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Humana Press, NJ, pp. 327-343 (2004)、およびKang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 11120-11123 (1991))。ファージディスプレイはまた、対象とする抗原に結合する抗体をヒト化するための手段としても使用されている(Jespers et al., Nat. Biotech., 12: 899-903 (1994); 米国特許第5,565,332号および第6,258,562号; 米国特許出願公開公報2006/0029594 A1; および国際特許出願公開WO 93/06213)。
【0005】
しかしながら、理論的見地からは、そのような静的なファージディスプレイライブラリは、サイズおよび範囲が内在的に制限されている。最も大きい(1012)ライブラリでさえ、可能な本来の免疫レパートリーのうちのごくわずかしか探索できないためである。また、ファージディスプレイと組み合わせたランダムな突然変異生成の使用は、抗体の親和性成熟の自然のプロセスで見られる固有の選択特性を欠いており、ヒト抗ヒト免疫または望ましくない交差反応特性の問題を生じることがしばしばである。
【0006】
殆どの生物製剤は哺乳動物の系で製造されるという事実に起因して、抗体を同定するための手段としての細菌系におけるファージ表面での鎖シャフリングは更なる内在する欠点を有している。例えば、良好な哺乳動物発現および高親和性の両方に基づいてファージディスプレイアプローチを通じて抗体を同時に共進化させることはできない。このことは、さもなければ哺乳動物宿主細胞における乏しい発現に起因する、潜在的な下流の製造問題に繋がり得る。更には、哺乳動物細胞に存在する抗体産生およびプロセシングの重要な成分(糖鎖付加およびタンパク質安定化の機構等)を細菌は欠いている。
【発明の概要】
【0007】
対象とする抗原に対する高親和性抗体を進化させる、代替的な改善された系および方法に対する必要性が残っている。本発明はそのような系および方法を提供する。本発明は更に、本明細書に記載の系および方法により進化された抗体、ならびにそのような抗体および担体を含む組成物を提供する。
【0008】
発明の要旨
本発明は、対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定する方法を提供する。該方法は、(a)第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の集団を提供することを含み、該第1の核酸配列は、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドをコードしており、該第1の核酸配列は、任意には核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、該一組の第2の核酸配列は、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含み、該第2の核酸配列は、任意には核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、かつ、(1)該第1の成分および(2)第2の成分は一緒になって抗原結合物質を形成し、かつ該細胞集団は、任意には活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)を発現し、(b)該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が発現されて一組の抗原結合物質を産生する条件下で該細胞集団を維持することを含み、(c)該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定することを含み、かつ(d)任意には、該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の一方または両方を体細胞超変異に供して、該対象とする抗原に結合する所望の抗原結合物質をコードする変異体核酸配列を提供することを含み、但し、該第1の核酸配列、該第2の核酸配列、および/または該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の少なくとも1つは体細胞超変異に供される。
【0009】
本発明はまた、対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定する方法を提供し、該方法は、第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む哺乳動物細胞の集団を提供することを含み、該第1の核酸配列は、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドをコードしており、該一組の第2の核酸配列は、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含み、かつ、(1)該第1の成分および(2)第2の成分は一緒になって抗原結合物質を形成し、(b)該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が発現されて一組の抗原結合物質を産生する条件下で該哺乳動物細胞の集団を維持することを含み、かつ(c)該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定することを含む。
【0010】
本発明は更に、抗原結合物質およびその担体を含む組成物を提供し、該抗原結合物質は、(a)第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の集団を提供することを含み、該第1の核酸配列は、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドをコードしており、該第1の核酸配列は、任意には核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、該一組の第2の核酸配列は、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含み、該第2の核酸配列は、任意には核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、かつ、(1)該第1の成分および(2)第2の成分は一緒になって抗原結合物質を形成し、かつ該細胞集団は、任意には活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)を発現し、(b)該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が発現されて一組の抗原結合物質を産生する条件下で該細胞集団を維持することを含み、(c)該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定することを含み、かつ任意には、(d)該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の一方または両方を体細胞超変異に供して、該対象とする抗原に結合する所望の抗原結合物質をコードする変異体核酸配列を提供することを含み、但し、該第1の核酸配列、該第2の核酸配列、および/または該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の少なくとも1つは体細胞超変異に供される、方法により提供されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】図1A−Cは、体細胞超変異(SHM)を起こした固定されたHC(以下、「成熟HC」という)、およびカッパLCのライブラリを同時形質移入されたHEK293細胞におけるIgG発現(y軸)およびIL−17a−myc発現(x軸)の一組のフローサイトメトリーのプロットである。細胞は、未処理のままにしたか、あるいは25nMのIL−17a−myc(ラウンド1,図1A)、10nMのIL−17a−myc(ラウンド2,図1B)、または3nMのIL−17a−myc(ラウンド3,図1C)と共にインキュベートした。ラウンド2およびラウンド3でスクリーニングされた細胞は、それぞれラウンド1およびラウンド2で回収された陽性にゲートされた細胞から増幅した。
【図1B】図1A−Cは、体細胞超変異(SHM)を起こした固定されたHC(以下、「成熟HC」という)、およびカッパLCのライブラリを同時形質移入されたHEK293細胞におけるIgG発現(y軸)およびIL−17a−myc発現(x軸)の一組のフローサイトメトリーのプロットである。細胞は、未処理のままにしたか、あるいは25nMのIL−17a−myc(ラウンド1,図1A)、10nMのIL−17a−myc(ラウンド2,図1B)、または3nMのIL−17a−myc(ラウンド3,図1C)と共にインキュベートした。ラウンド2およびラウンド3でスクリーニングされた細胞は、それぞれラウンド1およびラウンド2で回収された陽性にゲートされた細胞から増幅した。
【図1C】図1A−Cは、体細胞超変異(SHM)を起こした固定されたHC(以下、「成熟HC」という)、およびカッパLCのライブラリを同時形質移入されたHEK293細胞におけるIgG発現(y軸)およびIL−17a−myc発現(x軸)の一組のフローサイトメトリーのプロットである。細胞は、未処理のままにしたか、あるいは25nMのIL−17a−myc(ラウンド1,図1A)、10nMのIL−17a−myc(ラウンド2,図1B)、または3nMのIL−17a−myc(ラウンド3,図1C)と共にインキュベートした。ラウンド2およびラウンド3でスクリーニングされた細胞は、それぞれラウンド1およびラウンド2で回収された陽性にゲートされた細胞から増幅した。
【図2】図2は、参照IL−17抗体LCのCDR3および3つの配列LOGOのアラインメントである。配列LOGOは、図1に示すラウンド1のスクリーニングで同定された3つのLC配列分岐の各々における配列保存を示す。矢印は、分岐コンセンサス配列間の差異を示す。
【図3】図3は、図1に示すラウンド2のスクリーニングから獲得されたLC配列の分岐図である。影を付けた長円形は、もはやラウンド2では現れないラウンド1で同定された分岐2および3を示す。アスタリスクは、参照IL−17抗体のLCの配列を示す。
【図4A】図4A−Cは、CDR3を除く可変領域の全部または部分が体細胞超変異(SHM)を欠いた固定されたHC(以下、「生殖細胞系列HC」という)、およびカッパLCのライブラリを同時形質移入されたHEK293細胞におけるIgG発現(y軸)およびIL−17a−myc発現(x軸)の一組のフローサイトメトリーのプロットである。細胞は、未処理のままにしたか、あるいは3回のスクリーニングラウンドの各々について25nMのIL−17a−myc抗原と共にインキュベートした。ラウンド2(図4B)およびラウンド3(図4C)でスクリーニングされた細胞は、それぞれラウンド1(図4A)およびラウンド2で回収された陽性にゲートされた細胞から増幅した。
【図4B】図4A−Cは、CDR3を除く可変領域の全部または部分が体細胞超変異(SHM)を欠いた固定されたHC(以下、「生殖細胞系列HC」という)、およびカッパLCのライブラリを同時形質移入されたHEK293細胞におけるIgG発現(y軸)およびIL−17a−myc発現(x軸)の一組のフローサイトメトリーのプロットである。細胞は、未処理のままにしたか、あるいは3回のスクリーニングラウンドの各々について25nMのIL−17a−myc抗原と共にインキュベートした。ラウンド2(図4B)およびラウンド3(図4C)でスクリーニングされた細胞は、それぞれラウンド1(図4A)およびラウンド2で回収された陽性にゲートされた細胞から増幅した。
【図4C】図4A−Cは、CDR3を除く可変領域の全部または部分が体細胞超変異(SHM)を欠いた固定されたHC(以下、「生殖細胞系列HC」という)、およびカッパLCのライブラリを同時形質移入されたHEK293細胞におけるIgG発現(y軸)およびIL−17a−myc発現(x軸)の一組のフローサイトメトリーのプロットである。細胞は、未処理のままにしたか、あるいは3回のスクリーニングラウンドの各々について25nMのIL−17a−myc抗原と共にインキュベートした。ラウンド2(図4B)およびラウンド3(図4C)でスクリーニングされた細胞は、それぞれラウンド1(図4A)およびラウンド2で回収された陽性にゲートされた細胞から増幅した。
【図5A】図5AおよびBは、生殖細胞系列HC、およびカッパLCのライブラリを同時形質移入されたHEK293細胞におけるIL−17a−myc発現(x軸)の一組のフローサイトメトリーのプロットである。細胞は、未処理のままにしたか、あるいは両方のスクリーニングラウンドについて25nMのIL−17a−myc抗原と共にインキュベートした。ラウンド2(図5B)でスクリーニングされた細胞は、ラウンド1(図5A)で回収された陽性にゲートされた細胞から増幅した。
【図5B】図5AおよびBは、生殖細胞系列HC、およびカッパLCのライブラリを同時形質移入されたHEK293細胞におけるIL−17a−myc発現(x軸)の一組のフローサイトメトリーのプロットである。細胞は、未処理のままにしたか、あるいは両方のスクリーニングラウンドについて25nMのIL−17a−myc抗原と共にインキュベートした。ラウンド2(図5B)でスクリーニングされた細胞は、ラウンド1(図5A)で回収された陽性にゲートされた細胞から増幅した。
【図6A】図6Aは、図4に示すラウンド1のスクリーニングから獲得されたLC配列の分岐図である。3つの同定された分岐のコンセンサス配列を配列LOGOにより示している。図6Bは、成熟HCを用いたラウンド1およびラウンド2のスクリーニングの間、ならびに生殖細胞系列HCを用いたラウンド1のスクリーニングの間の、分岐1、2または3に入る配列の相対的な同定頻度を示す円グラフである。
【図6B】図6Aは、図4に示すラウンド1のスクリーニングから獲得されたLC配列の分岐図である。3つの同定された分岐のコンセンサス配列を配列LOGOにより示している。図6Bは、成熟HCを用いたラウンド1およびラウンド2のスクリーニングの間、ならびに生殖細胞系列HCを用いたラウンド1のスクリーニングの間の、分岐1、2または3に入る配列の相対的な同定頻度を示す円グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明は、対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定する方法を提供する。該方法は、(a)第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の集団を提供することを含み、該第1の核酸配列は、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドをコードしており、該第1の核酸配列は、任意には核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、該一組の第2の核酸配列は、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含み、該第2の核酸配列は、任意には核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、かつ、(1)該第1の成分および(2)第2の成分は一緒になって抗原結合物質を形成し、かつ該細胞集団は、任意には活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)を発現し、(b)該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が発現されて一組の抗原結合物質を産生する条件下で該細胞集団を維持することを含み、(c)該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定することを含み、かつ(d)任意には、該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の一方または両方を体細胞超変異に供して、該対象とする抗原に結合する所望の抗原結合物質をコードする変異体核酸配列を提供することを含み、但し、該第1の核酸配列、該第2の核酸配列、および/または該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の少なくとも1つは体細胞超変異に供される。
【0013】
一部の実施形態では、第1の核酸配列は、核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものではなく、かつ第2の核酸配列は、核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものである。
【0014】
他の実施形態では、第1の核酸配列は、核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、かつ第2の核酸配列は、核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものではない。
【0015】
また別の実施形態では、第1の核酸配列は、核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、かつ第2の核酸配列は、核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものである。
【0016】
更に別の実施形態では、第1の核酸配列は、核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものではなく、かつ第2の核酸配列は、核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものではない。
【0017】
本発明はまた、本発明の方法により得られた1以上の変異体核酸配列を利用して、対象とする抗原に結合する所望の抗原結合物質を提供することも包含する。ある実施形態では、該方法は、本発明の方法の工程(a)、(b)、(c)、および任意に(d)を繰り返すことを含み、但し、該繰り返される工程では、第1の核酸配列は、最初の工程(a)、(b)、(c)、および(d)により提供された所望の抗原結合物質をコードする変異体核酸配列の一つを含む。
【0018】
「抗原」は、哺乳動物において免疫応答を誘導する分子である。「免疫応答」は、例えば、免疫エフェクター細胞(例、T細胞)の抗体産生および/または活性化を引き起こし得る。本発明の文脈における抗原は、哺乳動物において免疫応答を誘発する任意のタンパク質または非タンパク質(例、炭水化物または脂質)分子の任意のサブユニット、断片、またはエピトープを含み得る。「エピトープ」は、抗体または抗原受容体により認識される抗原上の配列を意味する。当該技術分野において、エピトープは「抗原決定基」とも呼ばれる。
【0019】
「抗原結合物質」は、分子、好ましくはタンパク質分子であって、抗原に特異的に結合するものを意味する。抗原結合物質は、少なくとも2つの成分(即ち、前述の第1および第2の成分)を含み、それらは、組み合わさって(または一緒になって)抗原結合物質の抗原結合部位を形成する。抗原結合物質はまた、2つの成分、即ち前述の第1および第2の成分から構成されてもよく、それらは、他の成分を伴わずに、組み合わさって(または一緒になって)抗原結合物質を形成する。両方の成分が抗原結合に直接関与することは必要とされない。例えば、第2の成分は、抗原結合を促進する抗原結合物質の構造変化に寄与するが、それ自体は抗原に直接的に結合しなくてもよい。更には、第1および第2の成分が別個のポリペプチドであることは必要とされない。例えば、第1および第2の成分は、任意にはリンカーにより分離されて、単一のポリペプチド鎖内に含まれていてもよい。抗原結合物質は、一つの抗原結合部位を有してもよいし、または1つより多く(例、2つまたはそれより多く)の抗原結合部位を有してもよい。例えば、抗原結合物質は、対象とする抗原とは別個の異なる分子上の第2の抗原に結合してもよいし、あるいは対象とする抗原上の第2のエピトープに結合してもよい。
【0020】
好ましくは、抗原結合物質は、抗体またはその断片(例、免疫原性断片)である。抗原結合物質は全長抗体であり得る。全長抗体は4つのポリペプチド:2つの同一コピーの重(H)鎖および2つのコピーの軽(L)鎖から構成される。重鎖の各々は、1つのN末端可変(V)領域および3つのC末端定常(CH、CHおよびCH)領域を含み、各軽鎖は、1つのN末端可変(V)領域および1つのC末端定常(C)領域を含む。抗体の軽鎖は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)またはラムダ(λ)のいずれかの2つの異なる種類の1つに割り当てることができる。典型的な全長抗体では、各軽鎖はジスルフィド結合により重鎖に連結されており、2つの重鎖はジスルフィド結合により互いに連結されている。軽鎖可変領域は重鎖の可変領域と並んでおり、軽鎖定常領域は重鎖の第1の定常領域と並んでいる。重鎖の残りの定常領域は互いに並んでいる。
【0021】
軽鎖と重鎖の各ペアの可変領域は、抗体の抗原結合部位を形成する。V領域およびV領域は同一の一般構造を有し、各領域は、配列が比較的保存された4つのフレームワーク領域を含む。フレームワーク領域は、3つの相補性決定領域(CDR)により連結されている。CDR1、CDR2およびCDR3として知られる3つのCDRは、抗体の「超可変領域」を形成し、それが抗原結合に関与する。4つのフレームワーク領域(FWまたはFR)は、主としてベータシート構造をとっており、CDRは、該ベータシート構造を連結し、場合によっては該ベータシート構造の一部を構成するループを形成する。
【0022】
軽鎖および重鎖の定常領域は、抗原に対する抗体の結合に直接的に関与しないが、様々なエフェクター機能(エフェクター分子および細胞との相互作用を介した抗体依存性の細胞毒性への参加、等)を示す。
【0023】
抗原結合物質はまた、抗体の断片であってもよい。用語「抗体の断片」、「抗体断片」または「抗体の機能的断片」は本明細書では交換可能に使用され、抗体の1以上の断片であって、抗原に対して特異的に結合する能力を保持しているものを意味する(一般には、Holliger et al., Nat. Biotech., 23(9): 1126-1129 (2005)を参照)。抗体断片の例としては、以下に限定されないが、(i)V、V、CおよびC1ドメインからなる1価の断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域においてジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む2価の断片であるF(ab’)断片、および(iii)抗体の単一アームのVおよびVドメインからなるFv断片が挙げられる。
【0024】
抗原結合物質はまた、単鎖抗体断片であってもよい。単鎖抗体断片の例としては、以下に限定されないが、(i)単鎖Fv(scFv)(これは、2つのドメインが単一ポリペプチド鎖として合成されるのを可能にする合成リンカーにより連結されたFv断片の2つのドメイン(即ち、VおよびV)からなる1価の分子である。)(例えば、Bird et al., Science, 242: 423-426 (1988);およびHuston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 5879-5883 (1988);およびOsbourn et al., Nat. Biotechnol., 16: 778 (1998)を参照)、および(ii)ダイアボディ(これは、ポリペプチド鎖の二量体であって、各ポリペプチド鎖は、同一ポリペプチド鎖上のVおよびV間のペア形成を可能にするには短すぎるペプチドリンカーによりVに連結されたVを含むことにより、異なるV−Vポリペプチド鎖上の相補性ドメイン間のペア形成を推進して、2つの機能的な抗原結合部位を有する二量体分子を生成したものである。)が挙げられる。抗体断片は当該技術分野で公知であり、より詳細には例えば、米国特許出願公開公報2009/0093024 A1に記載されている。
【0025】
抗原結合物質は細胞内抗体またはその断片であってもよい。細胞内抗体は、発現されて細胞内で機能する抗体である。細胞内抗体は、典型的にはジスルフィド結合を欠いており、その特異的な結合活性を通じて標的遺伝子の発現または活性を調節することができる。細胞内抗体は、孤立したVドメインおよびVドメインならびにscFV等の単一ドメイン断片を含む。細胞内抗体は、細胞内抗体のN末端またはC末端に取り付けられた細胞内輸送シグナルを含んでもよく、それにより、標的タンパク質が位置する細胞内区画における高濃度での発現が可能となる。標的遺伝子と相互作用すると、細胞内抗体は、標的タンパク質の機能を調節し、かつ/または、標的タンパク質の分解の加速、非生理学的な細胞内区画中への標的タンパク質の隔離等の機構により、表現型/機能的なノックアウトを達成する。細胞内抗体介在性の遺伝子不活性化の他の機構は、細胞内抗体が標的とするエピトープ(標的タンパク質上の触媒部位への結合、または、タンパク質−タンパク質、タンパク質−DNA、もしくはタンパク質−RNA相互作用に関与するエピトープへの結合等)に依存し得る。
【0026】
一つの実施形態では、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドは抗体重鎖またはその断片であり、かつ、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドの各々は抗体軽鎖またはその断片である。別の実施形態では、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドは抗体軽鎖またはその断片であり、かつ、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドの各々は抗体重鎖またはその断片である。抗体軽鎖は、カッパ(κ)軽鎖であってもよいし、ラムダ(λ)軽鎖であってもよい。好ましくは、軽鎖はカッパ軽鎖である。
【0027】
抗体重鎖の任意の抗原結合断片が本発明の文脈において使用され得る。該断片は、例えば、1以上のCDR、可変領域(またはその部分)、定常領域(またはその部分)、またはそれらの組み合わせを含むことが望ましい。同様に、抗体軽鎖の任意の断片が本発明において使用され得る。抗体軽鎖の断片は、例えば、1以上のCDR、可変領域、定常領域、またはそれらの組み合わせを含むことが望ましい。該断片は、組み合わさって第1の成分および第2の成分が抗原結合物質を形成する限り、重鎖または軽鎖の任意の部分であり得る。
【0028】
抗原結合物質の第1の成分は、ヒト抗体、非ヒト抗体、またはキメラ抗体から得ることができる。「キメラ」は、ヒト領域と非ヒト領域の両方を含む抗体またはその断片を意味する。非ヒト抗体には、例えばげっ歯類(例、マウスまたはラット)等の任意の非ヒト動物から単離された抗体が含まれる。抗原結合物質の第1の成分がヒト抗体から得られたのか、非ヒト抗体から得られたのか、それともキメラ抗体から得られたのかに関わらず、抗原結合物質の第2の成分もまた、ヒト抗体、非ヒト抗体、またはキメラ抗体から得ることができる。換言すれば、例えば、第1の成分はヒト抗体から得ることができ、かつ第2の成分は非ヒト抗体から得ることができる。反対に、第1の成分は非ヒト抗体から得ることができ、かつ第2の成分はヒト抗体から得ることができる。例えば、第1の成分は、げっ歯類の抗体またはその断片を含むポリペプチドをコードする核酸であってよく、かつ第2の成分は、核酸のライブラリであって、各核酸がヒト抗体またはその断片を含むポリペプチドをコードするものであってよい。このシナリオは、例えば、抗原結合物質のヒト化のために有用であり得る。別の実施形態では、第1の成分および第2の成分の両方がヒト抗体または非ヒト抗体から得られる。あるいは、第1の成分および第2の成分の両方がキメラ抗体である。
【0029】
ヒト抗体、非ヒト抗体、またはキメラ抗体は、in vitroの供給源(例、ハイブリドーマまたは組み換えにより抗体を産生する細胞株)およびin vivoの供給源(例、げっ歯類)を含む任意の手段により得ることができる。抗体を生成するための方法は当該技術分野で公知であり、例えば、例えば、KohlerおよびMilstein, Eur. J. Immunol., 5: 511-519 (1976)、HarlowおよびLane (eds.), Antibodies: A Laboratory Manual, CSH Press (1988)、およびC.A. Janeway et al. (eds.), Immunobiology, 5th Ed., Garland Publishing, New York, NY (2001))を参照に記載されている。ある実施形態では、1以上の内在性免疫グロブリン遺伝子が1以上のヒト免疫グロブリン遺伝子で置換されたトランスジェニック動物(例、マウス)を用いて、ヒト抗体またはキメラ抗体を生成できる。内在性の抗体遺伝子が効果的にヒト抗体遺伝子で置換されているトランスジェニックマウスの例としては、以下に限定されないが、HUMAB−MOUSE(登録商標)、Kirin TC MOUSE(商標)、およびKM−MOUSE(登録商標)(例えば、Lonberg N., Nat. Biotechnol., 23(9): 1117-25 (2005)、およびLonberg N., Handb. Exp. Pharmacol., 181: 69-97 (2008)を参照)が挙げられる。
【0030】
抗体またはその断片の代わりに、抗原結合物質はまた、「代替スカフォールド」またはその断片であってもよい。「代替スカフォールド」は、非抗体ポリペプチドまたはポリペプチドドメインであって、抗体のそれと同様の対象とする抗原に対する親和性および特異性を示すものを意味する。例示的な代替スカフォールドとしては、フィブロネクチン(例、アドネクチン)等のβサンドイッチドメイン、リポカリン(例、アンチカリン)、Kunitzドメイン、チオレドキシン(例、ペプチドアプタマー)、protein A(例、AFFIBODY(登録商標)分子)、アンキリンリピート(例、DARPin)、γ−β−クリスタリンまたはユビキチン(例、AFFLIN(商標)分子)、CTLD(例、テトラネクチン)、および多価の複合体(例、ATRIMER(商標)分子またはSIMP(商標)分子)が挙げられる。代替スカフォールドは、例えば、Binz et al., Nat. Biotechnol., 23: 1257-1268 (2005); Skerra, Curr. Opin. Biotech., 18: 295-304 (2007); および米国特許出願公開公報2009/0181855 A1に記載されている。
【0031】
一つの実施形態では、代替スカフォールドはAVIMER(商標)分子であり得る。AVIMER(商標)分子は、抗体および抗体断片とは無関係である、ヒト起源のあるクラスの治療タンパク質であって、A−ドメイン(クラスAモジュール、補体型リピート(complement type repeat)もしくはLDL受容体クラスAドメインとも呼ばれる)と呼ばれるいくつかのモジュラー式かつ再利用可能な結合ドメインから構成されるものである。AVIMER(商標)分子は、in vitroエキソンシャフリングおよびファージディスプレイにより、ヒト細胞外受容体ドメインから開発された(Silverman et al., Nat. Biotechnol., 23: 1493-94 (2005)、およびSilverman et al., Nat. Biotechnol. 24: 220 (2006))。AVIMER(商標)分子は、単一のエピトープに結合するタンパク質と比較して改善された親和性(場合によってはサブナノモル)および特異性を示し得る、複数の独立した結合ドメインを含み得る。例えば、米国特許出願公開公報2005/0221384 A1; 2005/0164301 A1; 2005/0053973 A1; 2005/0089932 A1; 2005/0048512 A1; および2004/0175756 A1を参照。既知の217のヒトA−ドメインの各々は、約35アミノ酸(約4kDa)を含む。天然のA−ドメインは、主としてカルシウムの結合およびジスルフィド形成に介在されて均一で安定な構造に迅速かつ効率的に折り畳まれる。わずか12アミノ酸の保存されたスカフォールドモチーフがこの共通構造のために必要である。AVIMER(商標)分子は、平均で5アミノ酸長のリンカーにより互いに分離された複数のA−ドメインを含む。その最終結果は、各々が別個の機能を示す複数のドメインを含む単一のタンパク質鎖である。AVIMER(商標)分子の各ドメインは独立して抗原に結合し、各ドメインのエネルギー的寄与は相加的である。
【0032】
抗原結合物質は、(1)抗体、代替スカフォールド、またはそれらの断片と、(2)タンパク質または非タンパク質部分との抱合体(コンジュゲート)であってもよい。例えば、抗原結合物質は、ペプチド、蛍光分子、または化学療法剤に抱合された抗体であり得る。
【0033】
本発明の文脈では、抗原結合物質の第1の成分および第2の成分は、典型的には、対象とする抗原に結合する抗体に由来する。抗原結合物質の第1の成分を含むポリペプチドは、該ポリペプチドをコードする核酸の形態で細胞集団に提供される。「核酸」には、DNAまたはRNAのポリマー、即ちポリヌクレオチドが包含されることが意図され、ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖であり得、かつ非天然または改変ヌクレオチドを含有し得る。核酸は、典型的には、リン酸結合を介して連結されて核酸またはポリヌクレオチドを形成するが、多くの他の連結が当該技術分野で知られている(例、ホスホロチオエート、ボラノリン酸等)。
【0034】
抗原結合物質の第1または第2の成分を含むポリペプチドをコードする核酸配列が知られていない場合、標準的な分子生物学の技術(例えば、Sambrook et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory, (1989)を参照)により、対象とする抗原に結合する抗体を発現する供給源(ハイブリドーマ等)から核酸をクローニングすることにより該配列を決定できる。
【0035】
一部の実施形態では、抗原結合物質の第1および/または1以上の第2の成分は、「退化(devolved)」されていてもよい。「退化」は、抗原結合物質の成分を含むポリペプチドが、抗原への結合の親和性(アフィニティー)またはアビディティーを低減するような1以上のアミノ酸改変を受けていることを意味する。抗原結合物質の退化された成分を生成する方法は、例えば、1以上の体細胞超変異事象を起こした抗体の抗原結合領域のアミノ酸配列をその生殖細胞系列の同等物に戻すことにより達成できる。
【0036】
本明細書で論じたように、第1および第2の成分は別個のポリペプチド上に提供される必要はない。例えば、第1および第2の成分は、任意にはリンカーにより分離された、単一のポリペプチド鎖内に含有されてもよい。これに関して、第1の核酸配列および少なくとも1つの第2の核酸配列は、同一の核酸分子上に提供されてもよい。あるいは、第1の核酸配列および少なくとも1つの第2の核酸配列は、異なる核酸分子上に提供されてもよい。第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列は、細胞に対して同時にまたは順次に提供され得る。
【0037】
抗原結合物質の第2の成分は、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含むライブラリの形態で細胞集団に提供されることが好ましい。本明細書で使用される場合、用語「ライブラリ」とは、2以上(例、10以上、100以上、1000以上、10000以上、または100000以上)の非同一のメンバーの集まりを含む、複数のポリヌクレオチド、タンパク質、または細胞をいう。本発明によれば、ライブラリは、ヒトおよび非ヒトのポリヌクレオチドまたは遺伝子配列の混合を含み得る。ライブラリは、ヒトまたは非ヒトの細胞または組織の酵素的な増幅(例、PCR)により生成され得る。
【0038】
ある実施形態では、ライブラリは「合成ライブラリ」である。「合成ライブラリ」は、複数の「合成ポリヌクレオチド」もしくは「合成遺伝子」、または複数の「合成ポリヌクレオチド」もしくは「合成遺伝子」を含む細胞集団を意味する。「合成ポリヌクレオチド」または「合成遺伝子」は、対応するポリヌクレオチド配列またはその部分が、設計された配列、またはde novo合成された配列、または、同等の天然に存在する配列と比較して改変された配列に由来することを意味する。合成ポリヌクレオチドまたは合成遺伝子は、当該技術分野で公知の方法により作製でき、該方法としては、以下に限定されないが、化学合成、またはPCR増幅(もしくは同様の酵素的増幅系)を介したものが挙げられる。
【0039】
他の実施形態では、ライブラリは「半合成ライブラリ」である。「半合成ライブラリ」は、複数の「半合成ポリヌクレオチド」もしくは「半合成遺伝子」、または複数の「半合成ポリヌクレオチド」もしくは「半合成遺伝子」を含む細胞集団を意味する。用語「半合成ポリヌクレオチド」および「半合成遺伝子」とは、増幅反応のための開始材料として天然ドナー(例、末梢血単球)を利用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または他の同様の酵素的増幅系を介して得られた核酸配列から部分的になるポリヌクレオチド配列をいう。残りの「合成」ポリヌクレオチド、即ちPCRまたは他の同様の酵素的増幅系を介して得られていない半合成ポリヌクレオチドの部分は、当該技術分野で公知の方法を用いてde novoで合成できる。該方法としては、以下に限定されないが、核酸配列の化学合成が挙げられる。
【0040】
合成ライブラリまたは半合成ライブラリは、1以上の体細胞超変異(SHM)事象を起こしたポリヌクレオチドまたは遺伝子を含み得る。他の実施形態では、ライブラリは「シードライブラリ」であり得る。「シードライブラリ」は、複数(例、2以上、10以上、100以上、1000以上、10000以上、または100000以上)の、合成もしくは半合成ポリヌクレオチドまたはそのようなポリヌクレオチドを含む細胞であって、該ポリヌクレオチドが1以上の配列またはその部分であって、体細胞超変異(SHM)のための基質として働くように改変されており、SHMが作用したときにin situでポリヌクレオチド、タンパク質、または細胞のライブラリを創出できるものを含むものを意味する。ライブラリを生成する方法は、例えば、米国特許出願公開公報2009/0093024 A1に記載されている。
【0041】
抗原結合物質は、当該技術分野で公知の様々な方法を用いて同定できる。好ましくは、抗原結合物質は、当該技術分野において「鎖シャフリング」として知られる方法を用いて同定される。鎖シャフリング(当該技術分野において、「ガイド選択(guided selection)」または「コンビナトリアル抗体ライブラリ」とも呼ばれる)は、例えばファージディスプレイライブラリから、対象とする抗原に結合する抗体を同定することを伴う。抗体の抗原結合部位の成分(例、軽鎖可変領域)をコードする核酸配列は、次いで、ランダムまたは部位特異的突然変異生成により多様化され、一方、抗体の抗原結合部位の別の成分(例、重鎖可変領域)をコードする核酸配列は固定される。これは例えば、対象とする抗原に結合する抗体の重鎖可変領域をコードする野生型核酸配列を、多様化された軽鎖可変領域の核酸配列のライブラリを含有するファージディスプレイベクター系にクローニングし、かつ抗原に対して高親和性で結合するものをスクリーニングすることによって達成できる(Marks,上掲)。典型的には、重鎖可変領域が固定されながら、軽鎖可変領域が最初にシャフリングされる。重鎖可変領域は抗体−抗原相互作用の結合エネルギーの殆どを含むためである。しかし、軽鎖可変領域を固定して重鎖可変領域をシャフリングすることも記載されている(Kang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 11120-11123 (1991)。
【0042】
ファージ表面での鎖シャフリングは、対象とする抗原に結合する抗体をヒト化するための手段としても使用されている(Jespers et al., Nat. Biotech., 12: 899-903 (1994))。このアプローチでは、非ヒト抗体の抗原結合部位の第1の成分(例、げっ歯類抗体の重鎖可変領域)が、ヒト抗体の抗原結合部位の第2の成分のライブラリ(例、ヒトκ軽鎖のライブラリ)を提示するファージ表面においてFab断片として共提示され、該ファージが抗原への結合についてスクリーニングされる(Jespers et al.,上掲)。その後、抗原に結合したファージの抗原結合部位の第2の成分が、ヒト抗体の抗原結合部位の第1の成分のライブラリ(例、ヒト重鎖のライブラリ)を提示するファージ表面においてFab断片として共提示され、該ファージが抗原への結合について再びスクリーニングされる。しばしば「ガイド選択」と呼ばれるこのプロセスは、例えば、ガイダンスのためにTNFαに結合するマウス抗体を利用してTNFαに結合する完全ヒト化抗体を生成するために使用されている(Jespers et al.,上掲)。げっ歯類抗体をテンプレートとして用いる鎖シャフリングによるヒト化抗体の生成は、例えば、米国特許第5,565,332号および第6,258,562号、米国特許出願公開公報2006/0029594 A1、および国際特許出願公開WO 93/06213に記載されている。
【0043】
本発明のある実施形態では、第1の核酸配列、第2の核酸配列、および/または同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の少なくとも一つが、体細胞超変異(SHM)に供される。換言すれば、SHMは、(例えば、鎖シャフリングを介した)抗原結合物質の同定の前、間、または後に生じ得る。一部の実施形態では、第1の核酸配列および/または一組の第2の核酸配列は、対象とする抗原に結合する抗原結合物質の同定の前にSHMに供される。他の実施形態では、第1の核酸配列および/または一組の第2の核酸配列は、抗原結合物質の同定と同時にSHMに供される(例えば、細胞集団における活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)の発現による)。あるいは、同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の一方または両方がSHMに供される(例えば、鎖シャフリング後)。SHMは、本発明の方法に従って、複数の時点において生じ得る。SHMの誘導のタイミングは、抗原結合物質の所望の特徴に従って、当業者により決定され得る。
【0044】
本明細書で使用される場合、「体細胞超変異」または「SHM」とは、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)の作用により惹起され得るまたはそれと関連し得るポリヌクレオチド配列の突然変異をいう。活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)には、DNA配列内のシトシンのウラシルへの脱アミノ化を媒介できる、RNA/DNAエディティングシチジンデアミナーゼのAID/APOBECファミリーのメンバーが含まれる(例えば、Conticello et al., Mol. Biol. Evol., 22: 367-377 (2005)、および米国特許第6,815,194号を参照)。SHMはまた、対象とするポリヌクレオチド配列への例えばウラシルグリコシラーゼおよび/またはエラープローンポリメラーゼの作用によっても惹起され得るか、またはそれとも関連し得る。SHMには、初期DNA損傷のエラープローン修復の結果として生じる突然変異生成が包含されることが意図される。該突然変異生成としては、ミスマッチ修復機構および関連酵素により媒介される突然変異生成が挙げられる。用語「SHMの基質」とは、合成または半合成のポリヌクレオチド配列であって、AIDおよび/またはエラープローンDNAポリメラーゼが作用して、合成または半合成のポリヌクレオチド配列の核酸配列における変化(即ち、突然変異生成)がもたらされるものをいう。
【0045】
本発明のある実施形態では、AIDは、抗原結合物質の1以上の成分を発現する細胞に内因性のものであり得る。あるいは、AIDをコードする核酸が、内因性AIDタンパク質を含むまたは含まない細胞に対して提供されてもよい。外因的に提供されるAIDは野生型AIDであり得る。野生型AIDとは、AIDタンパク質の天然に存在するアミノ酸配列をいう。好適な野生型AIDタンパク質としては、あらゆる脊椎動物の形態のAIDが挙げられ、例えば、霊長類、げっ歯類、鳥類、および硬骨魚のものが挙げられる。野生型AIDのアミノ酸配列の代表例としては、以下に限定されないが、ヒトAID(配列番号1または配列番号2)、イヌAID(配列番号3)、マウスAID(配列番号4)、ラットAID(配列番号5)、ウシAID(配列番号6)、ニワトリAID(配列番号7)、ブタAID(配列番号8)、チンパンジーAID(配列番号9)、マカクAID(配列番号10)、ウマAID(配列番号11)、ゼノパスAID(配列番号12)、フグAID(配列番号13)、およびゼブラフィッシュ(配列番号14)が挙げられる。SHM系におけるAIDの使用は、詳細には、例えば、米国特許出願公開公報2009/0075378 A1ならびに国際特許出願公開WO/08103474およびWO 08/103475に記載されている。
【0046】
他の実施形態では、外因的に提供されるAIDは、「AID変異体」または「AIDの変異体」であり得る。本明細書で使用される場合、「AID変異体」または「AIDの変異体」とは、野生型AIDのアミノ酸配列とは少なくとも1アミノ酸異なるAIDのアミノ酸配列をいう。例えば挿入、欠失、および/または置換等による当該技術分野で公知の任意の好適な方法により、野生型アミノ酸配列を変異させてAID変異体を生じさせることができる。例えば、突然変異生成は、野生型AIDをコードする核酸配列にランダムにまたは部位特異的な様式で導入され得る。ランダム突然変異生成は、例えば、AIDテンプレート配列のエラープローンPCRにより生成され得る。ランダム突然変異生成を導入するための好ましい手段は、Genemorph II Random Mutagenesis Kit (Stratagene, LaJolla, CA)である。部位特異的な突然変異生成は、例えば、改変された部位を含む合成オリゴヌクレオチドを発現ベクターにライゲーションすることにより導入できる。あるいは、Walder et al., Gene, 42: 133 (1986); Bauer et al., Gene, 37: 73 (1985); Craik, Biotechniques, 12-19 (January 1995); ならびに米国特許第4,518,584号および第4,737,462号に記載のもの等のオリゴヌクレオチド・ディレクテッド部位特異的突然変異生成法を使用できる。部位特異的な突然変異を導入するための好ましい手段は、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene, LaJolla, CA)である。
【0047】
好ましくは、AID変異体は、「AIDの機能的変異体」または「機能的AID変異体」である。「AIDの機能的変異体」または「機能的AID変異体」とは、野生型AIDの生物学的活性の全てまたは一部を保持しているか、または野生型AIDタンパク質と比較して増加した生物学的活性を示す変異体AIDタンパク質をいう。野生型AIDの生物学的活性としては、以下に限定されないが、DNA配列内のシトシンのウラシルへの脱アミノ化、細菌突然変異生成アッセイにおけるパピラ形成、標的遺伝子の体細胞超変異、および免疫グロブリンクラススイッチングが挙げられる。変異体AIDタンパク質は、野生型AIDタンパク質の生物学的活性の任意の部分を保持し得る。変異体AIDタンパク質は、野生型AIDの生物学的活性の少なくとも75%(例、75%以上、80%以上、または90%以上)を保持していることが望ましい。変異体AIDタンパク質は、野生型AIDの生物学的活性の少なくとも90%(例、90%以上、95%以上、または100%以上)を保持していることが好ましい。
【0048】
好ましい実施形態では、変異体AIDタンパク質は、野生型AIDタンパク質と比較して増加した生物学的活性を示す。これに関して、機能的AID変異体は、例えば細菌パピレーションアッセイ(例えば、Nghiem et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2709-2713 (1988)、およびRuiz et al., J. Bacteriol., 175: 4985-4989 (1993)を参照)による測定で、野生型AIDタンパク質と比較して、活性における少なくとも10倍の改善を示し得る。野生型AIDタンパク質と比較して増加した生物学的活性を示す好適な変異体AIDタンパク質は、Wang et al., Nat. Struct. Mol. Biol., 16(7): 769-76 (2009)、および米国仮特許出願第61/166,349号に記載されている。
【0049】
更に別の実施形態では、SHMは、「AIDホモログ」により惹起され得るか、またはその活性と関連し得る。用語「AIDホモログ」とは、Apobecファミリーの酵素をいい、例えば、Apobec−1、Apobec3C、またはApobec3G(例えば、Jarmuz et al., Genomics, 79: 285-296 (2002)に記載されている)が挙げられる。用語「AID活性」には、AIDおよびAIDホモログにより媒介される活性が含まれる。
【0050】
本発明のある実施形態では、第1の核酸配列は、対応する野生型核酸配列と比較して、SHMコールドスポットおよび/またはSHMホットスポットの密度を増加または減少させ、それによりSHMに対する核酸配列の感受性が増加または減少されるように改変されている。加えて、1以上の第2の核酸配列は、対応する野生型核酸配列と比較して、SHMコールドスポットおよび/またはSHMホットスポットの密度を増加または減少させ、それによりSHMに対する核酸配列の感受性を増加または減少させるように改変され得る。一つの実施形態では、第1の核酸配列およびライブラリの1以上の第2の核酸配列の両方が、対応する野生型核酸配列と比較して、SHMコールドスポットおよび/またはSHMホットスポットの密度を増加または減少させ、それによりSHMに対する核酸配列の感受性を増加または減少させるように改変されている。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「SHMホットスポット」または「ホットスポット」とは、3〜6ヌクレオチドのポリヌクレオチド配列またはモチーフであって、抗体遺伝子におけるSHM突然変異の統計解析を通じた決定で、体細胞超変異を起こす増大した傾向を示すものをいう。同様に、本明細書で使用される場合、「SHMコールドスポット」または「コールドスポット」とは、3〜6ヌクレオチドのポリヌクレオチド配列またはモチーフであって、抗体遺伝子におけるSHM突然変異の統計解析を通じた決定で、体細胞超変異を起こす減少した傾向を示すものをいう。様々なモチーフのSHMについての相対ランキング、および抗体遺伝子における標準的なホットスポットおよびコールドスポットは、米国特許出願公開公報2009/0075378 A1および国際特許出願公開WO 08/103475に記載されており、また、その統計解析は、本明細書に記載の非抗体遺伝子におけるSHM突然変異の解析に当てはめることができる。
【0052】
用語「体細胞超変異モチーフ」または「SHMモチーフ」とは、ポリヌクレオチド配列であって、1以上のホットスポットまたはコールドスポットを含むか、または含むように改変され得、かつ規定されたアミノ酸の集合をコードするものをいう。SHMモチーフは任意のサイズであり得るが、典型的には約2から約20ヌクレオチドの長さ、例えば約3から約9ヌクレオチドのサイズである。SHMモチーフは、ホットスポットおよびコールドスポットの任意の組み合わせを含むことができ、またはホットスポットおよびコールドスポットの両方を欠いてもよい。
【0053】
用語「好ましいホットスポットSHMコドン」、「好ましいホットスポットSHMモチーフ」、「好ましいSHMホットスポットコドン」および「好ましいSHMホットスポットモチーフ」とは、以下に限定されないが、コドンAAC、TAC、TAT、AGTまたはAGCを含むコドンをいう。このような配列は、より大きなSHMモチーフの構成内に潜在的に埋め込まれていてもよく、SHM介在性の変異生成をリクルートし得、かつ該コドンにおける標的化されたアミノ酸多様性を生成し得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、核酸配列は、該核酸配列またはその部分が、該核酸配列内のホットスポットおよび/またはコールドスポットの頻度および/または位置を増加または減少させるように改変されている場合、「SHMのために最適化され」ている。核酸配列は、該核酸配列またはその部分が、対応する野生型核酸配列と比較して、該核酸配列内のホットスポットの頻度および/または位置を増加させるように、または該核酸配列内のコールドスポットの頻度(密度)および/または位置を減少させるように改変されている場合、「SHM感受性」にされている。反対に、核酸配列は、該核酸配列またはその部分が、対応する野生型核酸配列と比較して、該核酸配列のオープンリーディングフレーム内のホットスポットの頻度(密度)および/または位置を減少させるように、または該核酸配列内のコールドスポットの頻度および/または位置を増加させるように改変されている場合、「SHM抵抗性」にされている。例えば、米国特許出願公開公報2009/0075378 A1および国際特許出願公開WO 08/103475に記載されるように、一般に、コドン使用頻度、および/または核酸配列によりコードされるアミノ酸を改変することにより、SHM介在性の突然変異生成を起こす傾向がより高いまたはより低い核酸配列を作製できる。
【0055】
核酸配列の最適化とは、該核酸配列中のヌクレオチドの、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約10%、約20%、約25%、約50%、約75%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約100%、または前記の値の任意の2つにより定義される範囲を改変することをいう。核酸配列の最適化とはまた、該核酸配列中のヌクレオチドの、約1、約2、約3、約4、約5、約10、約20、約25、約50、約75、約90、約95、約96、約97、約98、約99、約100、約200、約300、約400、約500、約750、約1000、約1500、約2000、約2500、約3000またはそれより多く、あるいは前記の値の任意の2つにより定義される範囲を、ヌクレオチドの一部または全体がSHM介在性突然変異生成について最適化されるように改変することもいう。ホットスポットおよび/またはコールドスポットの頻度(即ち、密度)の低減とは、核酸配列中のホットスポットおよび/またはコールドスポットの数を、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約10%、約20%、約25%、約50%、約75%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約100%、または前記の値の任意の2つにより定義される範囲だけ低減させることをいう。ホットスポットおよび/またはコールドスポットの頻度(即ち、密度)の増加とは、核酸配列中のホットスポットおよび/またはコールドスポットの数を、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約10%、約20%、約25%、約50%、約75%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約100%、または前記の値の任意の2つにより定義される範囲だけ増加させることをいう。
【0056】
ホットスポットまたはコールドスポットの位置またはリーディングフレームは、SHM介在性の突然変異生成が、生成するアミノ酸配列に関してサイレントな変異をもたらすのか、あるいは、アミノ酸レベルでは保存的、半保存的、または非保存的な変化を引き起こすのかに影響する要因でもある。ヌクレオチド配列のSHMに対する相対的な感受性または抵抗性を更に高めるように設計パラメーターを操作できる。従って、SHMのリクルートの程度およびモチーフのリーディングフレームの両方が、SHM感受性およびSHM抵抗性の核酸配列の設計において考慮される。
【0057】
本発明の好ましい実施形態では、SHMに供される核酸配列は、抗体または抗原に結合できるその部分である抗原結合物質の第1または第2の成分を含むポリペプチドをコードする。本発明に従ってSHMに供され得る核酸配列としては、例えば、天然に存在する生殖細胞系列の、親和性成熟された、合成の、または半合成の抗体をコードする核酸配列が挙げられる。例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、scFv、dsFv、dAb、または単鎖結合ポリペプチド等の抗体断片をコードする核酸配列もまた、SHMに供され得る。一般に、そのような抗体コーディング配列は、以下の機能的特徴:親和性、アビディティー、選択性、安定性(以下に限定されないが、熱安定性およびタンパク分解安定性を含む)、溶解性、折り畳み、免疫毒性、発現、および触媒活性のうちの1つ以上を向上するようにSHMを通じて改変され得る。本発明の方法はまた、定常ドメイン(例、Fc)においてSHMに供された結果、Fc受容体(FcR)に対する結合親和性が増大し、それによりシグナルカスケードを調節できる抗体を生成するためにも使用できる。
【0058】
系全体の完全性を維持するためにSHMを起こさないことを当業者は好むであろう様々な他の核酸配列(コード配列、遺伝的エレメント等)があることが理解されるであろう。そのような核酸配列の例としては、(i)選択マーカー、(ii)レポーター遺伝子、(iii)遺伝子制御シグナル、(iv)高レベルの増強されたSHM、またはその調節もしくは測定のために使用される酵素または補助因子(例、AIDまたは機能的なAID変異体、polイータ、転写因子、およびMSH2)、(v)シグナル伝達の成分(例、キナーゼ、受容体、転写因子)、および(vi)タンパク質のドメインまたはサブドメイン(例、核局在化シグナル、膜貫通ドメイン、触媒ドメイン、タンパク質−タンパク質相互作用ドメイン、および他のタンパク質ファミリー保存モチーフ、ドメインおよびサブドメイン)が挙げられる。
【0059】
対象とする抗原結合物質の性質、および対象とする抗原結合物質に関して利用できる情報の量に応じて、当業者は、本発明の方法の実施に先立ってまたは該実施と同時に以下のストラテジーのいずれかの組み合わせに従って、所望の特性を有する抗原結合物質を同定することができる:(i)SHMの最適化なし、(ii)全体的な最適化、および(iii)選択的なSHMホットスポットの改変。
【0060】
対象とする抗原結合物質の成分をコードする核酸配列内のホットスポットの数を高めることは望ましくあり得るが、あらゆる未改変の核酸配列はある量のSHMを起こすことが予期され、最適化を伴わずにまたは実際の配列を何ら具体的に知ることなく、あらゆる未改変の核酸配列を本発明の方法において使用できることに留意すべきである。更には、好適なコドン使用頻度を進化させており、コドン改変を必要としない核酸配列をあるタンパク質(例、抗体)は天然に含む。あるいは、対象とする抗原結合物質の成分(例、抗体またはその断片のフレームワーク領域)をコードする核酸配列内のコールドスポットの数を高めることが望ましくあり得る。
【0061】
ある側面では、対象とする抗原結合物質の成分をコードする核酸配列におけるホットスポットの数は、詳細には例えば米国特許出願公開公報2009/0075378 A1および国際特許出願公開公報WO 08/103475に記載されるようにして、増加され得る。このアプローチを核酸配列のコード領域全体に適用することにより、核酸配列全体をSHMに対してより感受性にすることができる。このアプローチは、抗原結合物質の構造・活性の関係性について比較的知られていない場合に好ましくあり得る。
【0062】
あるいは、対象とする抗原結合物質の成分をコードする核酸配列は、例えば米国特許出願公開公報2009/0075378 A1および国際特許出願公開WO 08/103475に記載されるようにして、合成可変領域による対象とする領域の標的化された置換を通じて選択的におよび/または体系的に改変され得る。それにより、特定の遺伝子座における高密度のホットスポットおよびSHMを通じたシードの最大の多様性が提供される。当業者は、上記に基づいて、上記アプローチのいずれかまたは全てが本発明の方法と併せて行われ得ることを理解するであろう。
【0063】
SHMに対する核酸配列の感受性を増加または減少させるように改変された核酸配列の設計後、該核酸配列は、標準的な方法論を用いて合成し、正しく合成されたことを確認するために配列決定することができる。
【0064】
抗原結合物質の第1および第2の成分を含むポリペプチドをコードする核酸は、典型的には、プラスミド、エピソーム、コスミド、ウイルスベクター(例、レトロウイルスまたはアデノウイルス)またはファージ等のベクターの形態で細胞集団に提供される。好適なベクターおよびベクターの調製方法は当該技術分野で周知である(例えば、Sambrook et al.,上掲、およびManiatis et al., Cell Biology: A Comprehensive Treatise, Vol. 3, Gene Sequence Expression, Academic Press, NY, pp. 563-608 (1980)を参照)。好ましくは、ベクターは、複製可能な遺伝的表示パッケージ(replicable genetic display package)である。「複製可能な遺伝的表示パッケージ」は、生物学的粒子であって、該粒子に複製能力を与える遺伝的情報を含むものを意味する。粒子は、抗原結合物質の第1および/または第2の成分を含むポリペプチドの少なくとも一部分をその表面上に提示できる。ポリペプチドは、粒子の生来的な遺伝的情報によりコードされてもよいし、かつ/または粒子もしくは粒子の祖先に組み換え技術により挿入されてもよい。ある実施形態では、複製可能な遺伝的表示パッケージはウイルスベクターまたはバクテリオファージである。
【0065】
抗原結合物質の第1または第2の成分を含むポリペプチドをコードする核酸に加えて、ベクターは、宿主細胞におけるコード配列の発現を提供する、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写ターミネーター、および内部リボソーム進入部位(IRES)等の発現制御配列を含むことが好ましい。例示的な発現制御配列は当該技術分野で公知であり、例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology, Vol. 185, Academic Press, San Diego, Calif. (1990)に記載されている。
【0066】
様々な異なる供給源由来の構成的、誘導性、および抑制性プロモーターを含む多くのプロモーターが当該技術分野で周知である。プロモーターの代表的な供給源としては、例えば、ウイルス、哺乳動物、昆虫、植物、酵母および細菌が挙げられ、これらの供給源由来の好適なプロモーターは、容易に入手可能であるか、あるいは、例えば、ATCC等の寄託機関および他の商標的または個人的な供給元から公的に入手できる配列に基づいて、合成により作製できる。プロモーターは、一方向性(即ち、一つの方向に転写を開始する)または二方向性(即ち、3’または5’方向のいずれにも転写を開始する)であり得る。プロモーターの非限定的な例としては、例えば、T7バクテリア発現系、pBAD(araA)バクテリア発現系、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターとしては、例えば、Tet系(米国特許第5,464,758号および第5,814,618号)、エクダイソン誘導系(No et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 93: 3346-3351 (1996))、T−REx(商標)系(Invitrogen, Carlsbad, CA)、LacSwitch(登録商標)系(Stratagene, San Diego, CA)、およびCre−ERTタモキシフェン誘導性リコンビナーゼ系(Indra et al., Nuc. Acid. Res., 27: 4324-4327 (1999); Nuc. Acid. Res., 28: e99 (2000); 米国特許第7,112,715号; およびKramer & Fussenegger, Methods Mol. Biol., 308: 123-144 (2005))が挙げられる。
【0067】
本明細書で使用される場合、用語「エンハンサー」とは、例えば、それが作動可能に連結されている核酸配列の転写を増加させるDNA配列をいう。エンハンサーは、核酸配列のコード領域から多くのキロベースだけ離れて位置してもよく、調節因子の結合、DNAメチル化パターン、またはDNA構造の変化を仲介し得る。様々な異なる供給源からの多数のエンハンサーが当該技術分野において周知であり、クローニングされたポリヌクレオチドとして、またはクローニングされたポリヌクレオチド内で、(例えば、ATCC等の寄託機関および他の商業的または個人的な供給元から)入手可能である。プロモーター(一般に使用されるCMVプロモーター等)を含む多くのポリヌクレオチドは、エンハンサー配列も含む。エンハンサーは、コード配列の上流、内部、または下流に位置し得る。用語「Igエンハンサー」とは、免疫グロブリン(Ig)遺伝子座内にマップされたエンハンサー領域に由来するエンハンサーエレメントをいう(そのようなエンハンサーとしては、例えば、重鎖(ミュー)5’エンハンサー、軽鎖(カッパ)5’エンハンサー、カッパおよびミューのイントロンエンハンサー、ならびに3’エンハンサーが挙げられる(一般には、Paul W.E.(ed), Fundamental Immunology, 3rd Edition, Raven Press, New York (1993), 第353-363頁; および米国特許第5,885,827号を参照)。
【0068】
ベクターは、「選択マーカー遺伝子」も含み得る。本明細書で使用される場合、用語「選択マーカー遺伝子」とは、核酸配列であって、該核酸配列を発現する細胞が、対応する選択試薬の存在下で、特異的に選択されるようにまたはされないようにすることを可能にするものをいう。好適な選択マーカー遺伝子は当該技術分野で公知であり、例えば、国際特許出願公開WO 92/08796およびWO 94/28143; Wigler et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77: 3567 (1980); O'Hare et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78: 1527 (1981); Mulligan & Berg, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78: 2072 (1981); Colberre-Garapin et al., J. Mol. Biol., 150: 1 (1981); Santerre et al., Gene, 30: 147 (1984); Kent et al., Science, 237: 901-903 (1987); Wigler et al., Cell, 11: 223 (1977); Szybalska & Szybalski, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 48: 2026 (1962); Lowy et al., Cell, 22:817 (1980); ならびに米国特許第5,122,464号および第5,770,359号に記載されている。
【0069】
ある実施形態では、抗原結合物質の第1および第2の成分を含むポリペプチドをコードする核酸は、「エピソーム発現ベクター」または「エピソーム」の形態で細胞集団に提供される。「エピソーム発現ベクター」または「エピソーム」は、宿主細胞において複製が可能であり、適当な選択圧の存在下で、宿主細胞内の染色体外のDNAセグメントとして存続する(例えば、Conese et al., Gene Therapy 11: 1735-1742 (2004)を参照)。代表的な市販のエピソーム発現ベクターとしては、以下に限定されないが、エプスタイン・バー核抗原1(EBNA1)およびエプスタイン・バーウイルス(EBV)複製起点(oriP)を利用するエピソームプラスミドが挙げられる。Invitrogen(Carlsbad, CA)のベクターpREP4、pCEP4、pREP7およびpcDNA3.1、ならびにStratagene(La Jolla, CA)のpBK−CMVは、EBNA1およびoriPの代わりにT抗原およびSV40複製起点を使用するエピソームベクターの非限定的な例を示す。
【0070】
他の好適なベクターとしては、組込み発現ベクターが挙げられ、これは、宿主細胞のDNA中にランダムに組み込まれ得るか、あるいは発現ベクターと宿主細胞染色体との間の特異的組換えを可能にする組換え部位を含み得る。このような組込み発現ベクターは、所望のタンパク質の発現をもたらすために、宿主細胞染色体の内因性発現制御配列を利用し得る。部位特異的な様式で組み込まれるベクターの例としては、例えば、Invitrogen(Carlsbad, CA)のflp−in系(例、pcDNA(商標)5/FRT)またはcre−lox系(例えば、Stratagene(La Jolla, CA)のpExchange−6 Core Vector中に見出され得る)の成分が挙げられる。ランダムに宿主細胞染色体中に組み込まれるベクターの例としては、例えば、Invitrogen(Carlsbad, CA)のpcDNA3.1(T抗原の非存在下で導入する場合)、およびPromega(Madison, WI)のpCIまたはpFN10A(ACT)Flexi(登録商標)が挙げられる。
【0071】
ウイルスベクターも使用され得る。代表的な市販のウイルス発現ベクターとしては、以下に限定されないが、Crucell, Inc. (Leiden, オランダ)から入手できるアデノウイルスベースのPer.C6系、Invitrogen(Carlsbad, CA)のレンチウイルスベースのpLP1、ならびにStratagene(La Jolla, CA)のレトロウイルスベクターpFB−ERVおよびpCFB−EGSHが挙げられる。
【0072】
第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列は、同一ベクター上(即ち、cis)で細胞集団に提供され得る。これは、例えば、第1の核酸配列を一組の第2の核酸配列を含むベクターライブラリにクローニングすることによって達成できる。二方向性プロモーターを使用して、第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列の発現を制御することができる。別の実施形態では、一方向性プロモーターにより第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列の発現を制御することができる。ある実施形態では、第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列は、内部リボソーム進入部位(IRES)により分離されてバイシストロニックなmRNAを生成し、翻訳されると、共有結合的に連結されていない第1の成分および第2の成分を含む一組の抗原結合物質を生じる。他の実施形態では、第1の核酸配列および第2の核酸配列は単一のポリペプチドとして翻訳され、それにより、共有結合的に連結されている第1の成分および第2の成分を含む一組の抗原結合物質を生じる。
【0073】
あるいは、第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列は、別個のベクター上(即ち、trans)で細胞集団に提供され得る。第1の核酸配列を含むベクターは、一組の第2の核酸配列を含むベクターと同一の発現制御配列を含んでもよいし、異なる発現制御配列を含んでもよい。別個のベクターは、同時にまたは順次に細胞に提供され得る。
【0074】
抗原結合物質の第1の成分および第2の成分を含むポリペプチドをコードする核酸を含むベクターは、それらのポリペプチドを発現できる宿主細胞に導入され得る。該細胞としては、任意の好適な原核細胞または真核細胞が挙げられる。好ましい宿主細胞は、容易かつ確実に増殖でき、合理的に早い増殖速度を有し、発現系が十分に特徴付けられており、容易かつ効率的に形質転換または形質移入できる宿主細胞である。本発明の一つの実施形態では、第1の核酸配列または第2の核酸配列のいずれかが細胞に内在性のものであり、他方の核酸配列は、形質移入、形質転換、または形質導入により細胞に導入される。換言すれば、第1の核酸配列と一組の第2の核酸配列の両方が細胞にとって外因性である必要はない。
【0075】
好適な原核細胞の例としては、以下に限定されないが、バチルス属(バチルス・スブチリスおよびバチルス・ブレビス等)、エシェリヒア属(E.coli等)、シュードモナス属、ストレプトミセス属、サルモネラ属、およびエルウィニア属の細胞が挙げられる。特に有用な原核細胞としては、様々なエシェリヒア・コリ株(例、K12、HB101(ATCC No. 33694)、DH5α、DH10、MC1061(ATCC No. 53338)、およびCC102)が挙げられる。
【0076】
好ましくは、抗原結合物質の第1の成分および第2の成分を含むポリペプチドをコードする核酸を含むベクターは、真核細胞に導入される。好適な真核細胞は当該技術分野で公知であり、例えば、酵母細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞が挙げられる。好適な酵母細胞の例としては、ハンセヌラ属、クリベロミセス属、ピキア属、リノスポリジウム属、サッカロミセス属、およびキゾサッカロミセス属の酵母細胞が挙げられる。好ましい酵母細胞としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerivisae)およびピキア・パストリスが挙げられる。
【0077】
好適な昆虫細胞は、例えば、Kitts et al., Biotechniques, 14: 810-817 (1993); Lucklow, Curr. Opin. Biotechnol., 4: 564-572 (1993); およびLucklow et al., J. Virol., 67: 4566-4579 (1993)に記載されている。好ましい昆虫細胞としては、Sf−9およびHI5(Invitrogen, Carlsbad, CA)が挙げられる。
【0078】
好ましくは、哺乳動物細胞が本発明において利用される。哺乳動物細胞が用いられる実施形態では、抗原結合物質を同定する方法と併せて体細胞超変異が用いられてもよいし、用いられなくてもよい。即ち、本発明は、哺乳動物細胞を用いて実施するときに、SHMを必要としない。これに関連して、本発明はまた、対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定する方法を提供し、該方法は、第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む哺乳動物細胞の集団を提供することを含み、該第1の核酸配列は、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドをコードしており、該一組の第2の核酸配列は、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含み、かつ(1)該第1の成分および(2)第2の成分は一緒になって抗原結合物質を形成し、(b)該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が発現されて一組の抗原結合物質を産生する条件下で該哺乳動物細胞集団を維持することを含み、かつ(c)該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定することを含む。
【0079】
数多くの好適な哺乳動物宿主細胞が当該技術分野で知られており、多くがAmerican Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA)から入手できる。好適な哺乳動物細胞の例としては、以下に限定されないが、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)(ATCC No. CCL61)、CHO DHFR細胞(Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97: 4216-4220 (1980))、ヒト胎児腎臓(HEK)293または293T細胞(ATCC No. CRL1573)および3T3細胞(ATCC No. CCL92)が挙げられる。他の好適な哺乳動物細胞株としては、サルCOS−1(ATCC No. CRL1650)およびCOS−7細胞株(ATCC No. CRL1651)、ならびにCV−1細胞株(ATCC No. CCL70)である。更なる例示的な哺乳動物宿主細胞としては、形質転換された細胞株を含む、霊長類細胞株およびげっ歯類細胞株が挙げられる。正常二倍体細胞、初代組織のin vitro培養に由来する細胞株、および初代外植片もまた好適である。他の好適な哺乳動物細胞株としては、以下に限定されないが、マウス神経芽細胞腫N2A細胞、HeLa、マウスL−929細胞、およびBHKまたはHaKハムスター細胞株が挙げられ、これらのいずれもATCCから入手できる。好適な哺乳動物宿主細胞の選択、ならびに細胞の形質転換、培養、増幅、スクリーニングおよび精製の方法は当該技術分野で公知である。
【0080】
好ましい実施形態では、哺乳動物細胞はヒト細胞である。例えば、哺乳動物細胞は、ヒトリンパ系またはリンパ系由来細胞株(プレBリンパ球起源の細胞株等)であり得る。ヒトリンパ系細胞株の例としては、以下に限定されないが、RAMOS(CRL−1596)、Daudi(CCL−213)、EB−3(CCL−85)、DT40(CRL−2111)、18−81(Jack et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 1581-1585 (1988))、Raji細胞(CCL−86)、およびそれらに由来するものが挙げられる。
【0081】
抗原結合物質の第1の成分または第2の成分を含むポリペプチドをコードする核酸配列は、「形質移入(transfection)」、「形質転換(transformation)」または「形質導入(transduction)」により細胞に導入され得る。本明細書で使用される場合、「形質移入」、「形質転換」または「形質導入」とは、物理的または化学的方法を用いることにより1以上の外因性ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することをいう。多くの形質移入技術が当該技術分野で知られており、例えば、リン酸カルシウムDNA共沈殿(例えば、Murray E.J. (ed.), Methods in Molecular Biology, Vol. 7, Gene Transfer and Expression Protocols, Humana Press (1991)を参照);DEAE−デキストラン;エレクトロポレーション;カチオン性リポソーム介在形質移入;タングステン粒子促進性の微粒子照射(Johnston, Nature, 346: 776-777 (1990));ならびにリン酸ストロンチウムDNA共沈殿(Brash et al. Mol. Cell Biol., 7: 2031-2034 (1987))が挙げられる。ファージまたはウイルスベクターは、市販のパッケージ細胞内での感染粒子の成長後に、宿主細胞に導入することができる。
【0082】
ある実施形態では、抗原結合物質の第1および/または第2の成分は、抗原結合物質(例、抗体)の細胞表面提示を提供するために、好適な膜貫通ドメインにインフレームで結合されたキメラ分子である。例えば、真核細胞での発現のために、H2kk(ペリ膜貫通ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含む;NCBI遺伝子アクセッション番号AK153419)由来のもの等のMHC1型膜貫通ドメインが、標準的な分子生物学の技術を用いて、抗原結合物質の第1および/または第2の成分にインフレームで結合され得る。同様に、原核細胞(E.coliおよびスタフィロコッカス等)、昆虫細胞および酵母におけるタンパク質の表面発現は、当該技術分野で十分に確立されている。総説としては、例えば、Winter et al., Annu. Rev. Immunol., 12: 433-55 (1994); Pluckthun, A., Bio/Technology, 9: 545-551 (1991); Gunneriusson et al., J. Bacteriol., 78: 1341-1346 (1996); Ghiasi et al., Virology, 185: 187-194 (1991); BoderおよびWittrup, Nat. Biotechnol., 15: 553-557 (1997); およびMazor et al., Nat. Biotech., 25(5): 563-565 (2007)を参照されたい。
【0083】
他の実施形態では、表面提示される抗原結合物質は、分泌およびその後の分泌された成分の細胞表面における結合(または会合)を通じて作られ得る。細胞膜への抗原結合物質の複合化は、タンパク質合成の間、または抗原結合物質の1以上の成分が細胞から分泌された後のいずれかにおいて生じ得る。複合化は、共有結合を介して、結合相互作用(例えば、特定の結合メンバーにより介在される)により、または共有結合と非共有結合との組み合わせにより生じ得る。
【0084】
本発明によれば、対象とする抗原に結合する抗原結合物質は、任意の好適な方法により同定され得る。一つの態様では、該方法は、(i)対象とする抗原が抗原結合物質に結合できる条件下で対象とする抗原を細胞集団に提供する工程、および(ii)発現されて対象とする抗原に結合する抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の亜集団を同定する工程を含む。
【0085】
ある実施形態では、本発明は、該亜集団を濃縮する方法を提供し、該方法は、(iii)発現されて対象とする抗原に所望の親和性で結合する抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の亜集団を、発現されて(1)対象とする抗原に結合しないか、または(2)対象とする抗原に所望の親和性で結合しない抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞から分離することによる。
【0086】
他の実施形態では、細胞の亜集団を濃縮する方法は、(iii)発現されて対象とする抗原のエピトープに所望の親和性で結合する抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の亜集団を、発現されて(1)対象とする抗原のエピトープに結合しないか、または(2)対象とする抗原のエピトープに所望の親和性で結合しない抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞から分離することを含む。
【0087】
更に別の実施形態では、細胞の亜集団を濃縮する方法は、(iii)発現されて対象とする抗原に結合する抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の亜集団を、発現されて(1)所望の発現レベルで抗原結合物質を産生しないか、(2)所望の安定性を有する抗原結合物質を産生しないか、(3)所望の機能的活性を有する抗原結合物質を産生しないか、または(4)所望の触媒活性を有する抗原結合物質を産生しない抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞から分離することを含む。
【0088】
あるいは、細胞の亜集団を濃縮する方法は、発現されて対象とする抗原に結合し、かつ第2の対象とする抗原と所望の親和性で交差反応する抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の亜集団を、発現されて(1)第2の対象とする抗原と交差反応しないか、または(2)第2の対象とする抗原と所望の親和性で交差反応しない抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞から分離することを含み得る。本発明のこのような実施形態は、例えば、抗原結合物質が1つより多くの対象とする抗原に結合することが所望される場合に、有用であり得る。
【0089】
対象とする抗原に所望の親和性で結合し、または抗原の特定のエピトープに結合する抗原結合物質を発現する細胞の亜集団を同定するために、当該技術分野で認められる任意のアッセイが利用できる。そのような方法としては、例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)、分離可能なビーズ(例、磁気ビーズ)、抗原パニング、および/またはELISA(例えば、Janeway et al. (eds.), Immunobiology, 5thed., Garland Publishing, New York, NY, 2001を参照)が挙げられる。好ましくは、対象とする抗原結合物質を発現する細胞の亜集団を同定するためにFACSが使用される。
【0090】
ハイスループットの系を含めて、FACS染色のプロトコルおよびスクリーニングの方法論は当該技術分野で周知である。本発明の方法の文脈において使用され得る例示的なスクリーニングアッセイは、例えば、米国特許出願公開公報2009/0075378 A1ならびに国際特許出願公開公報WO 08/103475およびWO 08/103474に記載されている。
【0091】
一つの実施形態では、SHM介在性の多様性を起こしているまたは起こした表面提示される抗原結合物質を発現する細胞のライブラリをスクリーニングするために、FACSが使用され得る。このアプローチでは、細胞表面に提示されるライブラリが用いられ、また提示される抗原結合物質は最初に抗原と溶液中でインキュベートされる。典型的には、対象とする抗原は標識される(例、蛍光的またはビオチン化)。FACS機器により、より大きな蛍光強度を有するライブラリの高親和性の抗原結合メンバーを、より低い親和性のメンバーから分離することができる。FACSベースの選択と併せた最適化された結合プロトコルの使用により、フェムトモルまでの親和性の抗体を進化させることができることが示されている(例えば、Boder et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97: 10701-10705 (2000); Boder et al., Meth. Enzymol., 328: 430-444 (2000); およびVanAntwerp et al., Biotechnol. Prog., 16: 31-37 (2000)を参照)。
【0092】
対象とする抗原に対して高い親和性を有する抗原結合物質を効率的に選択し、および迅速に進化させるために、対象とする抗原に対して広範囲の親和性を有する抗原結合物質の単離を促進できるが、標識試薬またはカップリング試薬に結合するものを除外できるプロトコルを確立できる。それらのプロトコルは、選択される細胞集団の厳密性の進行と、細胞に提示される抗原の濃度および密度の減少の両方を伴う。
【0093】
各回の選択の間に回収される総細胞集団の厳密性または画分に関して、初期スクリーニングは、一般に、結合特性の小さな増分の改善と共に可能な限り多くの抗原結合物質を捕捉するために、比較的低い識別係数(discrimination factor)を使用する。例えば、典型的な初期選別は、対象とする抗原に結合する全ての細胞の上位10%、上位5%、または上位2%を捕捉し得る。親和性の大きな改善は、それぞれが全体的な親和性に小さな相加的効果を寄与する突然変異の組み合わせの結果であり得る(Hawkins et al., J. Mol. Biol., 234: 958-964 (1993))。従って、ライブラリスクリーニングの早期段階の間には,
わずかでも改善された親和性(2−3倍)を有する全てのライブラリクローンの回収が望ましく、また、選別ゲートは、濃縮における最小の犠牲と共に可能な限り多くのクローンを回収するように最適化され得る。
【0094】
初回の選別後、回収された細胞を再増殖して集団を増幅し、その後再選別することができる。この段階およびその後の段階の選別において、より大きな濃縮が可能である。各望ましいクローンのより多くのコピーが、調べられる細胞集団内に存在するためである。有意に改善されたクローンを同定するために、例えば、集団内の細胞のおよそ、上位1%、上位0.5%、上位0.2%または上位0.1%のみを選択してもよい。最適な結合および選択戦略の確立に関して、第1世代のヒットは、典型的には、低い親和性および比較的早い「解離(off)」速度を有する。例えば、Sagawa et al., Mol. Immunol., 39: 801-808 (2003)は、生殖細胞系列の抗体に対する見かけの親和性は、典型的には、2x10から5x10−1の範囲にあるが、この親和性は、主として解離速度(Koff)の減少により仲介される効果により、親和性成熟の間におよそ10−1まで増加することを観察した。
【0095】
任意の回数の選択後、細胞バンクの目的、または同定された抗原結合物質の1以上の成分をコードする核酸および/またはアミノ酸配列を決定するために、細胞は培養で増幅され得る。これに関連して、本発明は、任意には、第1の核酸配列、1以上の第2の核酸配列、同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の一方または両方、および/または1以上の変異体核酸配列を配列決定することを伴う。
【0096】
核酸配列は、当該技術分野で公知の任意の方法により、レスキューし、配列決定することができる。例えば、トータルmRNAまたは染色体外プラスミドDNAは、SV40 T抗原の共発現により増幅することができ(Heinzel et al., J. Virol., 62(10): 3738-3746 (1988))、かつ/または、細胞から抽出して、適当なプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または核酸配列をクローニングするための逆転写酵素(RT)−PCRのテンプレートとして使用できる。核酸配列をベクターにサブクローニングしてE.coliで発現することができる。クロマトグラフィーを用いるタンパク質精製を促進するために、タグ(例、6x−Hisタグ)をカルボキシ末端に付加することができる。得られるデータは、対象とする抗原結合物質の所望の特性の1つ以上における変化を伴う特定のアミノ酸配列を関連付けるデータベースに登録するために使用できる。このようなデータベースは、次いで、望ましい突然変異を再結合するため、または対象とする新たに同定された領域において標的化された多様性を有する次世代のポリヌクレオチドライブラリを設計するために使用され得る。
【0097】
抗原結合物質が抗体またはその断片である場合、可変重鎖(V)リーダー領域および/または可変軽鎖(V)リーダー領域特異的なセンスプライマーおよびアイソタイプ特異的なアンチセンスプライマーを用いるPCRにより、DNAを細胞から抽出できる。あるいは、選択した選別された細胞集団からトータルRNAを単離して、可変重鎖(V)リーダー領域および/または可変軽鎖(V)リーダー領域特異的なセンスプライマーおよびアイソタイプ特異的なアンチセンスプライマーを用いるRT−PCRに供することができる。クローンは、本明細書に記載の標準的な方法論を用いて配列決定できる。
【0098】
本発明の方法により提供される抗原結合物質は、様々な標準的な生理学的、医薬的、および生化学的な手順を用いて、所望の特性(例、選択可能なまたは改善された表現型)についてスクリーニングできる。そのようなアッセイとしては、例えば、結合アッセイ、蛍光偏光アッセイ、可溶性アッセイ、折り畳みアッセイ、熱安定性アッセイ、タンパク分解安定性アッセイ、酵素活性アッセイ等の生化学アッセイ(一般には、Glickman et al., J. Biomolecular Screening, 7(1): 3-10 (2002); Salazar et al., Methods. Mol. Biol., 230: 85-97 (2003)を参照)、ならびに、シグナル伝達、運動性、全細胞結合、フローサイトメトリーおよび蛍光活性化細胞選別(FACS)ベースのアッセイを含む、様々な細胞ベースのアッセイが挙げられる。抗原結合物質が抗体またはその断片である場合、抗体またはその断片の表現型/機能は、結合親和性、結合アビディティー、およびその他の特性を決定できる、当該技術分野で認められているアッセイ(例、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素結合免疫吸着スポット(ELISPOTアッセイ)、ゲル検出および変異IgH鎖の蛍光検出、スキャチャード解析、ビアコア解析、ウエスタンブロット、ポリアクリルアミドゲル(PAGE)解析、ラジオイムノアッセイ等)等の任意の好適な技術を用いて更に分析できる。
【0099】
対象とする抗原に結合する所望の抗原結合物質が同定されたら、その抗原結合部分は、タンパク質化学または組み換えDNA技術のいずれかを用いる組み換え抗体またはその断片(例、Fab、Fv等)の生成において使用され得る。更には、Fv断片の2つのドメインVおよびVは別個の遺伝子によりコードされるが、組み換え法を用いて、VおよびV領域がペアとなって1価の分子を形成する単一のタンパク質鎖として該2つのドメインが作られるのを可能にする合成リンカーにより、該2つのドメインを結合できる(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Bird et al., Science, 242: 423-426 (1988);およびHuston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 5879-5883 (1988);およびOsbourn et al., Nat. Biotechnol., 16: 778 (1998)を参照)。ダイアボディ等の他の形態の単鎖抗体もまた本発明により包含される。本明細書に開示される方法により提供される抗原結合断片はまた、完全なIgG分子または他のアイソタイプをコードする発現ベクターを生成するために、ヒト免疫グロブリン定常領域のcDNAまたはゲノム配列に連結され得る。
【0100】
抗原結合物質が同定されたら、それを他の分子(例、ポリペプチド)に挿入して、対象とする抗原に結合する新規の分子を生成できることを当業者は認識するであろう。これに関連して、本発明は、対象とする抗原に結合するポリペプチドを製造する方法を含み、該方法は、抗原結合物質をポリペプチドに挿入することを含む。そのような新規の抗原結合分子は、当該技術分野で公知のルーチンの分子生物学技術を用いて生成することができる。例えば、抗原結合物質、抗原結合物質のアミノ酸配列、抗原結合物質(または前記のいずれかの抗原結合断片)をコードする核酸配列の一方または両方を、異なる分子(例、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)に挿入して、対象とする抗原に結合する組み換え分子を生成できる。好ましい実施形態では、本明細書に記載の方法により同定されたCDR3または可変領域(HCまたはLC)は、タンパク質化学または組み換えDNA技術のいずれかを用いて、抗体または非抗体ポリペプチド等の別の分子中に移植(グラフト)できる。別の実施形態では、本明細書に記載の方法により同定されたLCおよび/またはHCの可変領域全体を、別の抗体のLCおよび/またはHCの可変領域の代わりとして移植できる。他の実施形態では、移植された分子は、同定された抗原結合物質に存在するが、移植されていない分子には存在しない単一のアミノ酸変化を含むことができ、該変化は、移植された分子において所望の特性を生じる。上記の方法は、例えば、異なるアイソタイプのFc領域、またはタンパク質もしくは非タンパク質部分(例、蛍光タグまたは化学療法剤)に複合化されたFc領域を含む抗体を生成するために有用であり得る。
【0101】
本発明はまた、本明細書に記載の方法により同定された抗原結合物質、ならびに、(i)本明細書に記載の方法により同定された抗原結合物質、および(ii)その担体を含む組成物も包含する。好ましくは、該組成物は、担体、好ましくは医薬的に(例えば、生理学的に許容される)担体、および抗原結合物質を含む、医薬的に許容される(例えば、生理学的に許容される)組成物である。任意の好適な担体を本発明の文脈において使用することができ、そのような担体は当該技術分野で周知である。担体の選択は、部分的には、組成物が投与され得る具体的な部位および組成物を投与するために用いられる具体的な方法により決定されるであろう。組成物は、任意には無菌であり得る。
【0102】
本発明は更に、抗原結合物質およびその担体を含む組成物を提供し、該抗原結合物質は、(a)第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の集団を提供することを含み、該第1の核酸配列は、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドをコードしており、該第1の核酸配列は、任意には核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、該一組の第2の核酸配列は、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含み、該第2の核酸配列は、任意には核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、かつ、(1)該第1の成分および(2)第2の成分は一緒になって抗原結合物質を形成し、かつ該細胞集団は、任意には活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)を発現し、(b)該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が発現されて一組の抗原結合物質を産生する条件下で該細胞集団を維持することを含み、(c)該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定することを含み、かつ任意には、(d)該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の一方または両方を体細胞超変異に供して、該対象とする抗原に結合する所望の抗原結合物質をコードする変異体核酸配列を提供することを含み、但し、該第1の核酸配列、該第2の核酸配列、および/または該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の少なくとも1つは体細胞超変異に供される、方法により提供されたものである。
【0103】
本発明はまた、所望の抗原結合物質またはその断片を利用して、抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することも含む。一つの実施形態では、本発明は、所望の抗原結合物質またはその断片のアミノ酸配列を取得し、かつ取得したアミノ酸配列を利用して、抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することを含む。別の実施形態では、本発明は、変異体核酸配列を利用して、所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することを含む。これに関連して、所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーは、変異体核酸配列を増幅して変異体核酸配列の複数のコピーを提供し、かつ該変異体核酸配列の複数のコピーを細胞内で発現して、所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することにより製造される。別の実施形態では、本発明は、変異体核酸配列の配列を取得し、かつ取得した配列を利用して、所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することを含む。取得した配列を利用して所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを調製することは、取得した配列を有する1以上の核酸を調製し、かつ該1以上の核酸を1以上の細胞内で発現して、所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することを含むことが望ましい。本発明の他の実施形態と関連して上述した、抗原結合物質またはその断片をコードする核酸配列を取得し、増幅し、配列決定し、かつ/または発現する方法は、所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造するための上記の方法の同様の態様にも適用できる。
【0104】
以下の実施例により本発明を更に説明するが、それらは本発明の範囲をいくらかでも限定するものと解釈してはならない。
【0105】
実施例1
本実施例は、本発明の方法に従う、IL−17aに結合する抗原結合物質を発現する細胞を同定するための方法を実証する。
【0106】
例えば米国特許出願公開公報2009/0093024 A1および2009/0075378 A1に記載されるようにして、ヒト化された参照IL−17抗体の重鎖(HC)をコードする核酸配列を発現ベクター中にクローニングした。本実施例で利用した発現ベクターはベクター骨格としてDNA2.0(Menlo Park, CA)のpJ2またはpJ15を含み、より詳細には、米国特許出願公開公報2009/0075378 A1に記載されている。簡潔に述べれば、発現ベクターは、以下の作動可能に連結された要素を含んでいた:(1)CMVプロモーター;(2)マルチクローニング部位;(3)対象とする遺伝子(例、HCをコードする遺伝子);(4)ターミネーター配列、(SV40の3’非翻訳領域、小イントロンおよびポリAシグナル(“IVS pA”));(5)エプスタイン・バーウイルス(EBV)の複製起点(oriP)(オプションの遺伝子間スペーサー領域が先行している);(6)SV40最初期(immediate early)プロモーター(pSV)、真核細胞の選択マーカー(ブラスチジンSデアミナーゼ(bsd)、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hyg)またはピューロマイシン−N−アセチル−トランスフェラーゼ等)、およびIVS pA;(7)原核細胞の複製起点(ColE1 ori);(8)原核細胞の選択マーカー(ベータラクタマーゼ(bla)遺伝子またはカナマイシン(kan)等);(9)コピー数決定のための遺伝子断片(ベータアクチンまたはグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)等);および(10)Igエンハンサー。
【0107】
例えば米国特許出願公開公報2009/0093024 A1および2009/0075378 A1に記載されるようにして、参照IL−17抗体のHCを含むベクターをSHMに供し、「成熟HC」または「HCmature」を生成した。例えば米国特許出願公開公報2009/0093024 A1および2009/0075378 A1に記載されるようにして、それぞれがカッパ(κ)軽鎖(LC)をコードする核酸のライブラリを作製した。成熟HCをコードするベクターおよびカッパLCのライブラリをHEK293細胞に同時形質移入し、細胞を安定選択に供した。鎖シャフリングプロセスの前、間、および後に、AIDをHEK293中に一過的にパルスした。
【0108】
IL−17aに対する高親和性結合を再構成するHCmature/LCの組み合わせを同定するための第1ラウンドのスクリーニングでは、安定的に形質移入された細胞を2つの群に分けた:(1)未処理のままとしたコントロール群および(2)mycタグを付けたIL−17a(IL−17a−myc)(25nM)と共にインキュベートした群。蛍光標識した抗IgG抗体および抗myc抗体を用いて、両群を2次元においてFACSにより選別した。第1ラウンドでは、選別された細胞の0.18%が、IL−17aに結合するHCmature/LCの組み合わせを発現するとして回収された(図1A)。
【0109】
第2ラウンドのスクリーニングのために、ラウンド1で回収した細胞集団を増幅し、集団の部分を2つの処理群に分けた:(1)未処理のままとしたコントロール群および(2)10nMのIL−17a−mycと共にインキュベートした群。上記のようにして両群をFACSにより選別した。第2ラウンドでは、選別された細胞の0.43%が、IL−17aに結合するHCmature/LCの組み合わせを発現するとして回収された(図1B)。
【0110】
上記の通りのFACS選別の前に、ラウンド2で回収された細胞集団のある部分を未処理のままとし、別の部分を3nMのIL−17aと共にインキュベートしたことを除いて、同様の手順をラウンド3のスクリーニングにおいて続けた。第3ラウンドでは、選別された細胞の0.43%が、IL−17aに結合するHCmature/LCの組み合わせを発現するとして回収された(図1C)。
【0111】
本実施例は、本発明に従う、第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列によりコードされる抗原結合物質を発現する細胞の集団を同定する方法を実証する。
【0112】
実施例2
本実施例は、第1の成分のHCmatureと一緒になって高親和性でIL−17aに結合する抗原結合物質を形成する、第2の成分の軽鎖を含む第2のポリペプチドをコードする核酸配列を決定する方法を記載する。
【0113】
実施例1に記載のラウンド1およびラウンド2のスクリーニングで回収された陽性にゲートされた細胞集団の部分から、従来法(本明細書に記載の方法等)によりDNAを回収した。LCのオープンリーディングフレームはPCRにより得、個々にクローニングしたテンプレートからDNA配列を従来法(本明細書に記載の方法等)により得た。あるいは、陽性にゲートされた細胞集団の部分から回収したエピソームDNAをE.Coliに形質転換し、個々のクローンからDNA配列を得た。実施例1に記載のスクリーニングにおいて回収された陽性にゲートされた細胞集団の部分から、計187のDNA配列が得られた。得られたDNA配列に対応するアミノ酸配列を配列番号15−201として提供する。
【0114】
実施例1に記載のラウンド1のスクリーニングにおいて回収された陽性にゲートされた細胞集団の部分からの配列の比較により、3つの配列分岐が同定された。LCのCDR3領域のあるアミノ酸残基、特に5位のグルタミン(Q)および10位のプロリン(P)は、3つ全ての分岐においてのみならず、参照IL−17抗体のLC配列のCDR3領域との比較においても良く保存されていることが分かった(図2)。
【0115】
実施例2に記載のラウンド2のスクリーニングにおいて回収された陽性にゲートされた細胞集団の部分からの配列の比較は、ラウンド1で同定された分岐2および分岐3は集団内にもはや現れず、分岐1の多様性が更に増殖されたことを実証した(図3)。多様化した分岐1の配列のうち、2つのサブ分岐が獲得された配列の50%より多くを構成していた。このサブ分岐は、互いに1アミノ酸だけ異なり、参照IL−17抗体のLC配列とは4または5アミノ酸だけ異なっていた(図3)。
【0116】
本実施例は、高い親和性でIL−17aに結合する抗原結合物質の第2の成分のLCを含む第2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を同定するための方法を実証する。
【0117】
実施例3
本実施例は、本発明の方法に従う、IL−17aに結合する抗原結合物質を発現する細胞を同定するための方法を実証する。
【0118】
実施例1に記載のSHMに供した成熟HCをコードする核酸配列を標準的な方法(本明細書に記載の方法等)により決定した。成熟HCが由来する生殖細胞系列の配列の核酸配列も決定した。次いで、CDR3領域を除く可変領域の全てまたは部分がSHMを欠いた「退化した」バージョンの成熟HCを含むベクターを構築した。その後、このより弱いバージョンの成熟HC(「生殖細胞系列HC」または「HCgermline」と名付けた)を実施例1に記載のカッパLCをコードする核酸のライブラリと共にHEK293細胞に同時形質移入した。鎖シャフリング処理の前、間、および後に、HEK293細胞にAIDを一過的にパルスした。
【0119】
一緒になって高親和性でIL−17aに結合する抗原結合物質を形成するHCgermline/LCの組み合わせを同定するための第1ラウンドのスクリーニングでは、安定的に形質移入された細胞を2つの群に分けた:(1)未処理のままとしたコントロール群および(2)25nMのIL−17a−mycと共にインキュベートした群。蛍光標識した抗IgG抗体および抗myc抗体を用いて、両群を2次元においてFACSにより選別した。第1ラウンドでは、選別された細胞の0.2%が、IL−17aに結合するHCgermline/LCの組み合わせを発現するとして回収された(図4A)。
【0120】
第2ラウンドのスクリーニングのために、ラウンド1で回収した細胞集団を増幅し、集団の部分を2つの処理群に分けた:(1)未処理のままとしたコントロール群および(2)25nMのIL−17a−mycと共にインキュベートした群。上記のようにして両群をFACSにより選別した。第2ラウンドでは、選別された細胞の0.42%が、IL−17aに結合するHCgermline/LCの組み合わせを発現するとして回収された(図4B)。
【0121】
同様の手順をラウンド3のスクリーニングにおいて続けたが、上記の通りのFACS選別の前に、ラウンド2で回収された細胞集団のある部分は未処理のままとし、別の部分は25nMのIL−17aと共にインキュベートした。第3ラウンドでは、選別された細胞の0.47%が、IL−17aに結合するHCgermline/LCの組み合わせを発現するとして回収された(図4C)。
【0122】
抗myc抗体を用いて1次元においてのみ細胞を選別した(即ち、抗IgG選別を除外した)ことを除いて、別セットの実験を同様に実施した。ラウンド1では、選別された細胞の0.23%が、IL−17aに結合するHCgermline/LCの組み合わせを発現するとして回収された(図5A)。第2ラウンドのスクリーニングでは、選別された細胞の0.44%が、IL−17aに結合するHCgermline/LCの組み合わせを発現するとして回収された(図5B)。
【0123】
本実施例は、本発明に従う、第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列によりコードされる抗原結合物質を発現する細胞の集団を同定する方法を実証する。
【0124】
実施例4
本実施例は、抗原結合物質の第1の成分として生殖細胞系列HCを用いて実施例3で得られたLC配列が、成熟HCが使用されたときに同定されたのと同じ3つの分岐内にあったことを実証する。
【0125】
実施例2に記載されるようにして、実施例3に記載のスクリーニングで同定されたLCのDNA配列を決定した。実施例3に記載のスクリーニングの2次元での選別後に回収された陽性にゲートされた細胞集団の部分から、計97のDNA配列が得られた。得られたDNA配列に対応するアミノ酸配列を配列番号202−298として提供する。実施例3に記載のスクリーニングの1次元での選別後に回収された陽性にゲートされた細胞集団の部分から、計59のDNA配列が得られた。得られたDNA配列に対応するアミノ酸配列を配列番号299−357として提供する。
【0126】
実施例3に記載のスクリーニングの2次元でのラウンド1の選別後に回収された陽性にゲートされた細胞集団の部分から得られたLC配列の比較により、抗原結合物質の第1の成分としてHCgermlineを用いて得られたLC配列は、HCmatureが使用されたときに同定されたのと同じ3つの分岐に入ったことが示された(図6A)。得られた核酸配列は、HCgermlineとHCmatureの戦略の間で同一でなかったが、概して配列が相同的であることが分かった(図6B)。
【0127】
本実施例は、抗原結合物質の第2の成分のLCをコードする核酸配列は、抗原結合物質の第1の成分として成熟HCが使用されても生殖細胞系列HCが使用されても同様であることを実証する。
【0128】
実施例5
本実施例は、本発明の方法に従う、IL−17aに結合する抗原結合物質を同定するための方法を実証する。
【0129】
実施例1に記載されるようにして、参照IL−17抗体のLCをコードする核酸配列を発現ベクター中にクローニングし、SHMに供して「成熟LC」または「LCmature」を生成した。成熟LCをコードする核酸配列を標準的な方法(本明細書に記載の方法等)により決定した。成熟LCが由来する生殖細胞系列の配列の核酸配列も決定した。次いで、CDR3領域を除く可変領域の全てがSHMを欠いた「退化した」バージョンの成熟LCを含むベクターを構築した。このより弱いバージョンの成熟LCを「生殖細胞系列LC」または「LCgermline」と名付けた。例えば米国特許出願公開公報2009/0093024 A1に記載されるようにして、それぞれがHCをコードする核酸のライブラリを作製した。
【0130】
生殖細胞系列LCをコードするベクターおよびHCのライブラリをHEK293細胞に安定的に同時形質移入した。鎖シャフリング処理の前、間、および後に、HEK293細胞にAIDを一過的にパルスした。
【0131】
固定されたLCgermlineとペアを組んで抗原への高親和性結合を再構成できる新規のHCを同定するために、実施例1および実施例3に記載されるようにして、細胞をIL−17aと共にインキュベートし、FACSにより選別した。
【0132】
本実施例は、第1の成分のLCを使用して、高い親和性でIL−17aに結合する抗原結合物質を一緒になって形成する新規の第2の成分のHCを同定できることを実証する。
【0133】
実施例6
本実施例は、本発明の方法に従う、IL−17aに結合する抗原結合物質を発現する哺乳動物細胞を同定するための方法を実証する。
【0134】
実施例1に記載されるようにして、ヒト化された参照IL−17抗体の重鎖(HC)をコードする核酸配列を発現ベクター中にクローニングした。例えば米国特許出願公開公報2009/0093024 A1および2009/0075378 A1に記載されるようにして、それぞれがカッパ(κ)軽鎖(LC)をコードする核酸のライブラリを作製する。HCをコードするベクターおよびカッパLCのライブラリをHEK293細胞に同時形質移入し、安定選択に供する。
【0135】
IL−17aに対する高親和性結合を再構成するHC/LCの組み合わせを同定するためのスクリーニングは、安定的に形質移入された細胞を2つの群に分けることにより実施する:(1)未処理のままとされるコントロール群および(2)mycタグを付けたIL−17a(IL−17a−myc)(25nM)と共にインキュベートされる群。その後、蛍光標識した抗IgG抗体および抗myc抗体を用いて、両群を2次元においてFACSにより選別する。IL−17aに結合するHC/LCの組み合わせを発現する選別された細胞の画分を、第2ラウンドのスクリーニングにおける更なる濃縮のために回収する。
【0136】
第2ラウンドのスクリーニングのために、IL−17aに結合するHC/LCの組み合わせを発現する細胞の集団を増幅し、次いで2つの処理群に分ける:(1)未処理のままとされるコントロール群および(2)10nMのIL−17a−mycと共にインキュベートされる群。次いで、上記のようにして、両群をFACSにより選別し、IL−17aに結合するHC/LCの組み合わせを発現する選別された細胞の画分を上記のようにして回収する。所望であれば、回収した細胞を第3ラウンドのスクリーニングにおける更なる濃縮のために使用できる。加えて、細胞の部分を凍結保存することができ、あるいは、本明細書実施例2および実施例4に記載されるようにして、細胞の部分を利用してHC/LCの組み合わせをコードするDNA配列を得ることができる。
【0137】
本実施例は、本発明に従う、第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列によりコードされる抗原結合物質を発現する哺乳動物細胞の集団を同定する方法を実証する。
【0138】
本明細書中に引用された全ての参考文献(刊行物、特許出願、および特許を含む)は、各参考文献が参照することにより組み込まれることが個々にかつ具体的に示され、またその全体が本明細書中に示されたのと同じ程度まで、参照することにより本明細書中に組み込まれる。
【0139】
本発明(特に添付の特許請求の範囲に関して)を記載することに関して、用語「a」および「an」および「the」ならびに同様の指示語の使用は、本明細書中に別途示されない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を含むと解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含有する(containing)」は、別途言及されない限り、オープンエンドの用語(即ち、「含むが、それに限定されない」を意味する)と解釈されるべきである。本明細書中の値の範囲の列挙は、本明細書中に別途示されない限り、この範囲内に入る各個別の値に個々に言及する簡略化された方法として機能することを意図するに過ぎず、各個別の値は、それが本明細書中に個々に列挙されたかのように、本明細書中に組み込まれる。本明細書中に記載される全ての方法は、本明細書中に別途示されない限り、またはさもなくば文脈に明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施され得る。本明細書中に提供されるあらゆる全ての例、または例示的表現(例えば、「等(such as)」)の使用は、本発明をより良く説明することを意図するに過ぎず、別途主張されない限り、本発明の範囲を限定しない。本明細書中のいかなる表現も、特許請求されていない任意の要素を本発明の実施に必須なものとして示していると解釈されるべきではない。
【0140】
本発明を実施するための本発明者等が知る最良の形態を含めて、本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載されている。これらの好ましい実施形態のバリエーションは、前述の記載を読めば、当業者に明らかになり得る。本発明者等は、当業者がそのようなバリエーションを適宜採用することを予期し、また本発明者等は、本明細書に具体的に記載されたもの以外の方法で、本発明が実施されることを意図する。従って、本発明は、適用法により許容される、本明細書に添付された特許請求の範囲に列挙された主題の全ての改変物および均等物を含む。更に、上記要素の全ての可能なバリエーションでの上記要素の任意の組み合わせが、本明細書中に別途示されない限り、またはさもなくば文脈に明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定する方法であって、該方法は、
(a)第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の集団を提供することを含み、
該第1の核酸配列は、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドをコードしており、該第1の核酸配列は、任意には核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、
該一組の第2の核酸配列は、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含み、該第2の核酸配列は、任意には核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、かつ、
(1)該第1の成分および(2)第2の成分は一緒になって抗原結合物質を形成し、かつ該細胞集団は、任意には活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)を発現し、
(b)該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が発現されて一組の抗原結合物質を産生する条件下で該細胞集団を維持することを含み、
(c)該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定することを含み、かつ
(d)任意には、該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の一方または両方を体細胞超変異に供して、該対象とする抗原に結合する所望の抗原結合物質をコードする変異体核酸配列を提供することを含み、
但し、該第1の核酸配列、該第2の核酸配列、および/または該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の少なくとも1つは体細胞超変異に供される、
方法。
【請求項2】
該第1の核酸配列が、核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものではなく、かつ
該第2の核酸配列が、核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものである、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該第1の核酸配列が、核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、かつ
該第2の核酸配列が、核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものではない、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該第1の核酸配列が、核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、かつ
該第2の核酸配列が、核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものである、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該第1の核酸配列が、核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものではなく、かつ
該第2の核酸配列が、核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものではない、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)、(b)、(c)、および任意に(d)を繰り返すことを更に含み、但し、該繰り返される工程では、該第1の核酸配列は、最初の工程(a)、(b)、(c)、および(d)により提供された所望の抗原結合物質をコードする変異体核酸配列の一つを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記の抗原結合物質を同定することが、
(i)該対象とする抗原が該抗原結合物質に結合できる条件下で該対象とする抗原を該細胞集団に提供すること、および
(ii)発現されて該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の亜集団を同定すること
を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該細胞の亜集団を濃縮することを更に含み、該濃縮が、
(iii)発現されて該対象とする抗原に所望の親和性で結合する抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の亜集団を、発現されて(1)該対象とする抗原に結合しないか、または(2)該対象とする抗原に所望の親和性で結合しない抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞から分離することによる、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該細胞の亜集団を濃縮することを更に含み、該濃縮が、
(iii)発現されて該対象とする抗原のエピトープに所望の親和性で結合する抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の亜集団を、発現されて(1)該対象とする抗原の該エピトープに結合しないか、または(2)該対象とする抗原の該エピトープに所望の親和性で結合しない抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞から分離することによる、
請求項7に記載の方法。
【請求項10】
該細胞の亜集団を濃縮することを更に含み、該濃縮が、
(iii)発現されて対象とする抗原に結合し、かつ第2の対象とする抗原と所望の親和性で交差反応する抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の亜集団を、発現されて(1)該第2の対象とする抗原と交差反応しないか、または(2)該第2の対象とする抗原と所望の親和性で交差反応しない抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞から分離することによる、
請求項7に記載の方法。
【請求項11】
該細胞の亜集団を濃縮することを更に含み、該濃縮が、
(iii)発現されて該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の亜集団を、発現されて(1)所望の発現レベルで抗原結合物質を産生しないか、(2)所望の安定性を有する抗原結合物質を産生しないか、(3)所望の機能的活性を有する抗原結合物質を産生しないか、または(4)所望の触媒活性を有する抗原結合物質を産生しない抗原結合物質を産生する第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞から分離することによる、
請求項7に記載の方法。
【請求項12】
該細胞の亜集団が、蛍光活性化細胞選別(FACS)、分離可能なビーズ、抗原パニング、および/またはELISAを用いて同定される、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該第1の核酸配列、1以上の該第2の核酸配列、該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の一方または両方、および/または1以上の該変異体核酸配列を配列決定することを更に含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
該抗原結合物質が、抗体、抗体コンジュゲート、またはそれらの抗原結合断片である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記の抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドが抗体重鎖またはその断片であり、かつ、前記の抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドの各々が抗体軽鎖またはその断片である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記の抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドが抗体軽鎖またはその断片であり、かつ、前記の抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドの各々が抗体重鎖またはその断片である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
該抗体軽鎖がカッパ(κ)軽鎖である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
該抗体軽鎖がラムダ(λ)軽鎖である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項19】
前記の抗原結合物質の第1の成分が、ヒト抗体、非ヒト抗体、またはキメラ抗体から得られる、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記の抗原結合物質の第2の成分が、ヒト抗体、非ヒト抗体、またはキメラ抗体から得られる、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
該第1の核酸配列および少なくとも1つの該第2の核酸配列が、同一の核酸分子上に提供されている、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が、異なる核酸分子上に提供されている、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
該ライブラリが合成により生成される、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
該第1の核酸配列が、対応する野生型核酸配列と比較して、体細胞超変異のコールドスポットおよび/または体細胞超変異のホットスポットの密度を増加または減少させ、それにより体細胞超変異に対する該核酸配列の感受性が増加または減少されるように改変されている、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
1以上の該第2の核酸配列が、対応する野生型核酸配列と比較して、体細胞超変異のコールドスポットおよび/または体細胞超変異のホットスポットの密度を増加または減少させ、それにより体細胞超変異に対する該核酸配列の感受性を増加または減少させるように改変されている、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
該細胞が真核細胞である、請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
該第1の核酸配列および/または該一組の第2の核酸配列がベクターの形態である、請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
該ベクターが、複製可能な遺伝的表示パッケージである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
該複製可能な遺伝的表示パッケージがウイルスベクターまたはバクテリオファージである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が、同一ベクター上で該細胞集団に提供される、請求項27〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が、別個のベクター上で該細胞集団に提供される、請求項27〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が、細胞に対して同時にまたは順次に提供される、請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
該所望の抗原結合物質またはその断片を利用して、該抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することを更に含む、請求項1〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
該所望の抗原結合物質またはその断片のアミノ酸配列を取得し、かつ取得したアミノ酸配列を利用して、該抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することを更に含む、請求項1〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
該変異体核酸配列を利用して、該所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することを更に含む、請求項1〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
該所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーが、該変異体核酸配列を増幅して該変異体核酸配列の複数のコピーを提供し、かつ該変異体核酸配列の該複数のコピーを細胞内で発現して、該所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することにより製造される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
該変異体核酸配列の配列を取得し、かつ取得した配列を利用して、該所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することを更に含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記の取得した配列を利用して所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを調製することが、該取得した配列を有する1以上の核酸を調製し、かつ該1以上の核酸を1以上の細胞内で発現して、該所望の抗原結合物質またはその断片の更なるコピーを製造することを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定する方法であって、該方法は、
(a)第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む哺乳動物細胞の集団を提供することを含み、
該第1の核酸配列は、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドをコードしており、
該一組の第2の核酸配列は、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含み、かつ、
(1)該第1の成分および(2)第2の成分は一緒になって抗原結合物質を形成し、
(b)該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が発現されて一組の抗原結合物質を産生する条件下で該哺乳動物細胞の集団を維持することを含み、かつ
(c)該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定することを含む、
方法。
【請求項40】
請求項1〜39のいずれか1項に記載の方法により同定された抗原結合物質。
【請求項41】
対象とする抗原に結合するポリペプチドを製造する方法であって、該方法は、請求項40記載の抗原結合物質をポリペプチドに挿入することを含み、それにより対象とする抗原に結合するポリペプチドが製造される、方法。
【請求項42】
請求項40に記載の抗原結合物質およびその担体を含む組成物。
【請求項43】
抗原結合物質およびその担体を含む組成物であって、該抗原結合物質は、
(a)第1の核酸配列および一組の第2の核酸配列を含む細胞の集団を提供することを含み、
該第1の核酸配列は、抗原結合物質の第1の成分を含む第1のポリペプチドをコードしており、該第1の核酸配列は、任意には核酸配列を体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、
該一組の第2の核酸配列は、抗原結合物質の第2の成分を含む第2のポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含み、該第2の核酸配列は、任意には核酸配列のライブラリを体細胞超変異に供することにより作製されたものであり、かつ、
(1)該第1の成分および(2)第2の成分は一緒になって抗原結合物質を形成し、かつ該細胞集団は、任意には活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)を発現し、
(b)該第1の核酸配列および該一組の第2の核酸配列が発現されて一組の抗原結合物質を産生する条件下で該細胞集団を維持することを含み、
(c)該対象とする抗原に結合する抗原結合物質を同定することを含み、かつ任意には、
(d)該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の一方または両方を体細胞超変異に供して、該対象とする抗原に結合する所望の抗原結合物質をコードする変異体核酸配列を提供することを含み、
但し、該第1の核酸配列、該第2の核酸配列、および/または該同定された抗原結合物質をコードする核酸配列の少なくとも1つは体細胞超変異に供される、
方法により提供されたものである、組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2013−509878(P2013−509878A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537966(P2012−537966)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/055290
【国際公開番号】WO2011/056864
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(509234858)アナプティスバイオ インコーポレイティッド (3)
【Fターム(参考)】