説明

鏡筒一体型レンズ

【課題】本発明は、光通信システムに用いられる鏡筒と対物レンズを一体化した鏡筒一体型レンズに関し、光通信システムの大容量高速通信化に適応した生産性の良い鏡筒一体型レンズを提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するために、鏡筒1に有限系の対物レンズ2を一体化した鏡筒一体型レンズ3において、対物レンズ2の開口数NA1を0.75≦NA1≦0.85、拡大倍率Mを4≦M≦6、曲率半径r1,r2の比を0.92≦|r1/r2|<1.0、焦点距離fと軸上厚みdの比f/dを0.50≦f/d≦0.58としたのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムに用いられる有限系の鏡筒一体型レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に光通信システムにおけるレーザ光源から射出された発散光束を光ファイバに集光させる光学系は、図1に示すように、筒状の鏡筒1の内周部分に対物レンズ2を一体化した構造(以下、鏡筒一体型レンズと称す)が知られている。
【0003】
そして、昨今、光通信システムの大容量高速通信化が進められる中、鏡筒一体型レンズ3による結合効率の最大化を目的とした対物レンズ2の高NA化が進められている。
【0004】
具体的には、対物レンズ2としては当初NAが0.2程度のボールレンズを使用していたが、対物レンズ2のレーザ光源4側の開口数NAを大きくして対物レンズ2とレーザ光源4の間隔を小さくしてレーザ光源4から射出された発散光を効率よく対物レンズ2に入射することで結合効率を高める手法が検討されている。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−23201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、鏡筒一体型レンズ3は、図2に示すように、鏡筒1の内周部分に硝材5を配置し成形金型6でプレス成形することで鏡筒1の内周部分に対物レンズ2を圧接一体化する構造であるため、対物レンズ2の形状に対する制約条件が鏡筒1を一体化しないものに比べ厳しくなる。
【0008】
すなわち、鏡筒1の内周部分で硝材5をプレス成形する場合、プレス成形により変形した硝材5の外周端が鏡筒1の内周面を圧接し一体化する構造となり、この鏡筒1の内部における対物レンズ2を挟んだ光ファイバ7側とレーザ光源4側との気密性を確保するため、鏡筒1と対物レンズ2の当接部分の厚みt(以後、コバ厚みと称す)を確保する必要がある。
【0009】
また、鏡筒1の内周部分で硝材5をプレス成形するため硝材径Dが鏡筒1の内径W(対物レンズ2の外径に等しい)により制約される。また、対物レンズ2を高NA化する場合には、光ファイバ7側あるいはレーザ光源4側のレンズ面の曲率半径r1,r2の少なくとも一方を小さくする必要がある。
【0010】
しかしながら、対物レンズ2における曲率半径r1,r2が高NA化により小さくなる方向であるのに対して、対物レンズ2において鏡筒1との当接面積を大きくするにはコバ厚みtを大きくする必要があり硝材5の体積を大きくする必要があり、これは硝材径Dを大きくする方向となる。
【0011】
そして、高NAな対物レンズ2をプレス成形する成形金型6の成形面の曲率半径(対物レンズの曲率半径r1,r2と同等)に対して硝材半径(硝材径D/2)が大きくなりすぎると、成形金型6と硝材5の間の空隙8が大きくなってしまいプレス成形におけるエアー溜まりの原因となってしまうことから、鏡筒1内でのプレス成形が非常に困難なものとなってしまう。なお、対物レンズ2においてコバ厚みtを大きくするにしても鏡筒1の内径Wにより硝材径Dが制約される。
【0012】
さらに、このような有限系の対物レンズ2を単玉で実現する場合、レーザ光源4が有する非点隔差や、レーザ光源4と光ファイバ7の物像間距離、レーザ光源4に対する作動距離WDなどからレンズ設計に対する制約が厳しくなる。
【0013】
そこで、本発明はこのような問題を解決し光通信システムの大容量高速通信化に適応する生産性が高い有限系の鏡筒一体型レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そして、この目的を達成するために本発明は、有限系の対物レンズを一体化した鏡筒一体型レンズにおいて、対物レンズは、レーザ光源側の開口数NA1を0.75≦NA1≦0.85、レーザ光源側の開口数NA1と光ファイバ側の開口数NA2との比(以下、拡大倍率と称する)Mを4≦M≦6、対物レンズのレーザ光源側の曲率半径r1と光ファイバ側の曲率半径r2の比を0.92≦|r1/r2|<1.0、対物レンズの焦点距離fと軸上厚みdの比f/dを0.50≦f/d≦0.58としたのである。
【発明の効果】
【0015】
この構造により本発明は、生産性が高い有限系の鏡筒一体型レンズを提供することが出来るのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る光通信システムの光学系を示す断面図
【図2】同光学系を構成する鏡筒一体型レンズの成形方法を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態における有限系の鏡筒一体型レンズについて図を用いて説明する。
【0018】
図1は光通信システムの光学系を示した断面図であり、半導体チップを有するレーザ光源4と、このレーザ光源4から射出された発散光束を光ファイバ7に集光させる鏡筒一体型レンズ3から構成されている。
【0019】
鏡筒一体型レンズ3は、ステンレスからなる筒状の鏡筒1の内周部分に対物レンズ2を一体化したもので、鏡筒1の一端面がレーザ光源4に取り付ける基準面となっている。また、鏡筒一体型レンズ3は、図2に示すように、筒状の鏡筒1の内周部分に球状の硝材5を配置し硝材5の温度を熱転移点以上のプレス成形可能な温度に昇温させ成形金型6でプレス成形する。そして、プレス変形により鏡筒1の内周部分に広がった硝材5が鏡筒1の内周側面を圧接することで一体化される構造となっている。
【0020】
また、このような鏡筒一体型レンズ3で光通信システムの大容量高速通信に対応するために対物レンズ2におけるレーザ光源4側の開口数NA1が0.75以上であることが必要である。ただし開口数NA1が0.85を越えると対物レンズ2のレーザ光源4側の曲率半径r1や光ファイバ7側の曲率半径r2が小さくなり過ぎて成形金型6の加工が困難となることから好ましくない。
【0021】
また、有限系の対物レンズ2における拡大倍率Mは、光ファイバ7の入射条件として光ファイバ7側の開口数NA2が0.15〜0.2であることが好ましく、レーザ光源4側の開口数NA1が0.75以上であることから4倍以上に設定する必要がある。ただし、拡大倍率が6倍を越えてしまうとレーザ光源4のもつ非点隔差の結合効率に与える影響が顕著となることから好ましくない。
【0022】
また、鏡筒1の内部で硝材5をプレス成形する鏡筒一体型レンズ3においては対物レンズ2と鏡筒1の当接部分つまりコバ厚みtを確保することが重要であり、焦点距離fと対物レンズ2の軸上厚みdの比f/dが0.5以下であればコバ厚みtを確保した状態で焦点距離fが小さくなるため作動距離WDの確保が困難となり、f/dが0.58以上であればレーザ光源4と光ファイバ7の物像間距離が大きくなり光学系全体が大型化してしまう。
【0023】
また、対物レンズ2におけるレーザ光源4側の曲率半径r1と光ファイバ7側の曲率半径r2との比を0.92≦|r1/r2|<1とすることが好ましく、|r1/r2|が0.92未満であると軸外収差が悪くなり、1以上であると軸外収差が悪くなるとともに開口数NA1も小さくなるため好ましくない。
【0024】
つまり、光通信システムの大容量高速通信化に対応する有限系の鏡筒一体型レンズ3においては、レーザ光源4側の開口数NA1を0.75≦NA1≦0.85、拡大倍率Mを4≦M≦6、焦点距離fと軸上厚みdの比を0.50≦f/d≦0.58、対物レンズ2のレーザ光源4側の曲率半径r1と光ファイバ7側の曲率半径r2の比を0.92≦|r1/r2|<1とすることで生産性を高められるのである。
【0025】
(実施例)
次に、本発明の大容量高速通信化対応可能な鏡筒一体型レンズ3の具体例として、対物レンズ2がレーザ光源4から射出された発散光を光ファイバ7に集光させる有限系の設計例を実施例1〜3を挙げるとともに、この比較対象として比較例1,2を挙げて説明する。
【0026】
まず、各実施例及び比較例の主要値を(表1)に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
(表1)において、NA1はレーザ光源4側の開口数、NA2は光ファイバ7側の開口数、Mは拡大倍率、r1はレーザ光源4側の曲率半径、r2は光ファイバ7側の曲率半径、fは焦点距離、WDは作動距離を示している。
【0029】
また、対物レンズ2における非球面形状は、(数1)で与えられる。
【0030】
【数1】

【0031】
但し、X(h)は光軸からの高さhにおける非球面上の点から非球面頂点の接平面までの距離、hは光軸からの高さ、Cjは対物レンズ2の第j面の非球面頂点の曲率(Cj=1/rj)、Kjは対物レンズ2の第j面の円錐定数、Aj,nは対物レンズ2の第j面のn次の非球面係数とする。
【0032】
次に、各対物レンズ2の非球面データを(表2)に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
(表1)に示したように、実施例1及び比較例1,2の鏡筒一体型レンズ3は、拡大倍率Mを5.8近傍としてレンズ設計を行った結果、作動距離WDや軸上収差において差はみられなかったものの、レーザ光源4側の曲率半径r1と光ファイバ7側の曲率半径r2の比|r1/r2|が0.962と0.92〜1の範囲内となった実施例1の対物レンズ2では軸外収差が0.017と良好であるのに対して、|r1/r2|が1.052と上限を超えた値となった比較例1の対物レンズ2では軸外収差が0.0272で、|r1/r2|が0.914と下限を下回った値となった比較例2の対物レンズ2では軸外収差が0.0226と共に実使用上で問題が生じる値となった。
【0035】
また、実施例2は拡大倍率を5とし、実施例3は拡大倍率を4として、NA、f/d、|r1/r2|を許容範囲内で振った設計例を示したもので、いずれの設計例においても良好な結果を得ることが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、鏡筒一体型レンズの生産性を高められるという効果を有し、特に大容量高速通信に適応した光通信システムに用いる有限系の高NAの鏡筒一体型レンズにおいて有用となる。
【符号の説明】
【0037】
1 鏡筒
2 対物レンズ
3 鏡筒一体型レンズ
4 レーザ光源
5 硝材
7 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から出力された発散光束を光ファイバに集光させる光通信用の鏡筒一体型レンズであって、前記鏡筒一体型レンズは、鏡筒とこの鏡筒の内周部分で硝材をプレス成形して一体化された有限系の対物レンズからなり、以下の条件を満たすことを特徴とした鏡筒一体型レンズ。
0.75≦NA1≦0.85
4≦M≦6
0.92≦|r1/r2|<1.0
0.50≦f/d≦0.58
ただし、NA1は対物レンズのレーザ光源側の開口数、Mは拡大倍率、r1はレーザ光源側の曲率半径、r2は光ファイバ側の曲率半径、fは対物レンズの焦点距離、dは対物レンズの軸上厚みとする。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−220703(P2012−220703A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86034(P2011−86034)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】