説明

長いペントラキシンPTX3の阻害剤を含む医薬

自己免疫疾患ならびに骨および軟骨の変性疾患の予防および処置のための医薬の調製のための長いペントラキシンPTX3の阻害剤の使用が記載される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本明細書中に記載する発明は、自己免疫疾患ならびに骨および軟骨の変性疾患の処置のための医薬の調製のための長いペントラキシンPTX3の阻害剤の使用に関する。
【0002】
(背景技術)
PTX3は、ジスルフィド架橋により結合したホモ十量体構造においてそれ自体を自発的に構築できる糖蛋白質であり、様々な細胞型(Bottazziら,J.Biol.Chem.,1997;272:32817−32823)、特に、炎症性サイトカインインターロイキン1ベータ(IL−1ベータ)および腫瘍壊死因子アルファ(TNF−アルファ)に曝された後の単核食細胞および内皮細胞において発現される。
【0003】
PTX3は2つの構造ドメイン、任意の既知の分子に関連性のないN−末端およびC−反応性蛋白質(CRP)のごとき短いペントラキシンに類似しているC−末端からなる。ヒトPTX3(hPTX3)および動物のPTX3の間には実質的な類似性が見られる。
【0004】
ペントラキシンの概説については、H.Gewurzら.,Current Opinion in Immunology,1995,7.54−64を参照のこと。
【0005】
一次細胞(例えば、線維芽細胞、内皮細胞および自然免疫細胞)により発現される組換えPTX3およびPTX3の両方は、ジスルフィド架橋により安定化された十量体構造において主に構築される。PTX3の単量体1つは約45kDaの分子量を有し、ジスルフィド架橋の還元、続いて、単量体間の相互作用に関与する還元型システインのアルキル化を介するか、またはその部位特異的突然変異誘発を介して、十量体蛋白質から得ることができる(Bottazziら.,J.Biol.Chem.,1997;272:3281732823)。
【0006】
関節リウマチにかかっている患者の最近の研究では、滑液中のPTX3の発現レベルにおいて有意な増大が示された。このPTX3発現の増大は、この疾患を特徴付ける炎症過程に関連している(Lucchettiら.,Clin.Exp.Immunol.2000;119:196−202)。
【0007】
WO 03/086380は、関節リウマチを含む自己免疫疾患の処置のための、PTX3遺伝子発現の阻害剤の使用を記載している。
【0008】
WO 03/086380は、本発明にて記載する化合物および阻害方法と比較して、完全に異なる化合物および完全に異なる阻害方法の両方を用いることを構想している点で、本発明とは異なる。
【0009】
実際、本特許出願では、蛋白質(PTX3)の生物学的活性を直接阻害し得るPTX3アンタゴニストが記載されている。
【0010】
WO 03/086380において説明されているように、例えば、炎症に関与する他の遺伝子の発現を変更することなく、(特異的な様式で)小分子により遺伝子発現を制御することが困難であり得るという事実は、当業者によく知られている。さらに、重要な生物学的機能において基本的な役割を担う蛋白質の発現を遺伝子レベルで阻害することは、例えば、感染および生殖不能に対する感受性を増大させるなどの、望ましくない効果を生じる可能性がある。
【0011】
故に、医療分野において、本発明に記載の疾患の処置のために有用である、PTX3アンタゴニストとして機能し得るさらなる阻害剤の利用可能性が依然として強く必要とされている。
【0012】
(発明の開示)
この度、PTX3の阻害剤またはアンタゴニストが、自己免疫疾患ならびに骨および軟骨の変性疾患を予防および処置するために用いられ得ることが見出された。
【0013】
本発明に記載のPTX3阻害剤の例は、モノクローナルまたはポリクローナル抗−PXT3抗体であるが、これらに限定されず、一方で、本発明に記載のPTX3アンタゴニストの例は、単量体PTX3またはそのペプチドもしくはペプチド模倣誘導体であるが、これらに限定されない。
【0014】
故に、本発明の目的は、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症(MS)、関節炎、糖尿病、甲状腺炎、溶血性貧血、萎縮性睾丸炎、グッドパスチャー病、自己免疫性網膜症、自己免疫性血小板減少症、重症筋無力症、原発性胆汁性肝硬変、慢性攻撃性(aggressive)肝炎、潰瘍性大腸炎、皮膚炎、慢性糸球体腎炎、シェーグレン症候群、ライター症候群、筋肉炎、全身性硬化症および多発性関節炎からなる群より選択される自己免疫疾患の処置;および骨関節炎;変形性関節症;関節の変性疾患;コラーゲン欠乏;軟骨内骨化により特徴付けられる軟骨または骨疾患:例えば、関節リウマチ、若年性関節炎、未分化型慢性関節炎および多発性関節炎を含む、原発性関節炎;例えば、全身性エリテマトーデス関節炎、乾癬性関節炎、クローン病関節炎を含む、自己免疫に由来する続発性関節炎;例えば、尿酸一ナトリウム関節症、ピロリン酸関節症、シュウ酸カルシウム関節症を含む、代謝異常に由来する関節炎;感染性関節炎、骨粗鬆症に起因する関節炎、無菌性骨壊死、良性および悪性骨腫瘍からなる群より選択される骨および軟骨の変性疾患の処置のための医薬の調製のための有用な剤として、長いペントラキシンPTX3の生物学的活性を阻害し得る、長いペントラキシンPTX3の阻害剤またはアンタゴニストの使用である。
【0015】
(発明の詳細な記載)
「長いペントラキシンPTX3の阻害剤」は、それが天然(ヒトまたは動物)、組換えまたは合成に由来するかに関わらず、PTX3に結合し、かつその生物学的活性を阻害し得る任意のモノクローナルまたはポリクローナル抗体を意味する。
【0016】
本発明に記載のモノクローナル抗体の調製例は、Godine,J.W.,1986, in Monoclonal Antibodies:Principle and Practice.Academic Press,San Diegoにより記載されており、一方で、本発明に記載のポリクローナル抗体の調製例は、Harlow E.and LaneD.,in Antibodies:A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory,1988;Cold Spring Harbor,NYにより記載されている。
【0017】
「単量体ペントラキシン」は、それが天然(ヒトまたは動物)、組換えまたは合成に由来するかに関わらず、任意の単量体ペントラキシンを意味する。
【0018】
「単量体ペントラキシンの誘導体」は、少なくとも1つの突然変異を有し、かつPTX3活性を特異的に阻害し得る機能を保存している単量体ペントラキシンの機能的アナログか、またはPTX3の直鎖型または高次構造型ドメインを模倣し、かつPTX3活性を特異的に阻害し得る機能を保存しているペプチドまたはペプチド模倣アナログのいずれかを意味する。
【0019】
単量体ペントラキシンの好ましい型は、ヒトの単量体ペントラキシンであり、その配列は、W0 99/32516に記載されている。
【0020】
PTX3の異常な活性化に関連する自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症(MS)、関節炎、糖尿病、甲状腺炎、溶血性貧血、萎縮性睾丸炎、グッドパスチャー病、自己免疫性網膜症、自己免疫性血小板減少症、重症筋無力症、原発性胆汁性肝硬変、慢性攻撃性肝炎、潰瘍性大腸炎、皮膚炎、慢性糸球体腎炎、シェーグレン症候群、ライター症候群、筋肉炎、全身性硬化症および多発性関節炎からなる群に含まれる。
【0021】
PTX3の異常な活性化に関連する骨および軟骨の変性疾患は、骨関節炎;変形性関節症;関節の変性疾患;コラーゲン欠乏;軟骨内骨化により特徴付けられる軟骨または骨疾患:例えば、関節リウマチ、若年性関節炎、未分化型慢性関節炎および多発性関節炎を含む、原発性関節炎;例えば、全身性エリテマトーデス関節炎、乾癬性関節炎、クローン病関節炎を含む、自己免疫に由来する続発性関節炎;例えば、尿酸一ナトリウム関節症、ピロリン酸関節症、シュウ酸カルシウム関節症を含む、代謝異常に由来する関節炎;感染性関節炎、骨粗鬆症に起因する関節炎、無菌性骨壊死、良性および悪性骨腫瘍からなる群に含まれる。
【0022】
以下の実施例は本発明をさらに説明する。
【0023】
(実施例)
実施例1
PTX3−欠損マウスをコラーゲン誘導関節炎(CIA)のマウスモデルとして用いた(Campbell,ら.,Eur.J.Immunol,2000;30:1568−75)。本実験の目的は、関節炎表現型の誘導に対するPTX3−/−マウスの感受性を評価することであった。
【0024】
全量100μl中、250μgの熱不活性化されたM.tuberculosisを添加したフロイント完全アジュバント中の100μgのニワトリII型コラーゲン(SIGMA)を用いて、尾部近位領域に複数回皮内注射することにより、129 sv x C57BL/6PTX3−/−マウスを処置した。
その後21日間同じ処理を繰り返した。
【0025】
投与期間の終わりに、炎症関節の存在およびそれらの大きさを確かめる任意スコアリングシステムを用いて、関節炎の発生頻度および重篤度を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0026】
表1に記載のように、PTX3+/+マウスにおいて疾患の発生頻度がより高いことは、PTX3−/−マウスはコラーゲン誘導関節炎の発症に対して感受性がより低いという事実を示す。この知見は、PTX3−/−マウスよりもPTX3+/+マウスにおいて関節炎の重篤度が高いことを示す臨床スコアにより確かめられる。
【0027】
得られた結果は、PTX3の不在またはその阻害が炎症性疾患および/または骨および軟骨の変性疾患の予防および処置のために有用であることを示す。
【0028】
表1
【表1】


実験終了時の発生頻度(初めの免疫化から60日後)
実験終了時の関節炎を伴う動物の平均臨床スコア
説明:2回目の免疫化の後、肢関節炎の臨床徴候の存在を一週間に二回評価した。関係する肢各々を1ないし4でスコアリングした;従って、各動物は最大で16のスコアを得ることになる。
【0029】
産業上の利用可能性に関連する態様については、単量体ペントラキシンPTX3またはそのペプチドまたはペプチド模倣誘導体または抗−ペントラキシンPTX3抗体は、有効成分が可溶化され、および/または、医薬上許容される賦形剤および/または希釈剤、例えば、滅菌水、カルボキシメチルセルロースまたは当業者に知られている他の賦形剤が加えられている医薬組成物の形態であり得る。
【0030】
単量体ペントラキシンについて有用な医薬組成物の例は、WO 99/32516において長いペントラキシンPTX3について記載されているものと同じである。
【0031】
本発明に記載の化合物は、経腸または非経口経路により投与され得、特に好ましい医薬形態は、徐放性インプラントまたは関節内注入形態である。
【0032】
一日用量は、主な担当医師の判断に従って、患者の体重、年齢および一般的な状態に依存するだろう。
【0033】
徐放性形態を含む医薬組成物の調製は、薬剤師および医薬技術の専門家によく知られている慣用的な技法および装置を用いて行われ得ることが注目されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨および軟骨の変性疾患の予防および処置のための医薬の調製のための、長いペントラキシンPTX3の阻害剤またはアンタゴニストの使用。
【請求項2】
長いペントラキシンPTX3の阻害剤が、PTX3に結合し得る任意のモノクローナルまたはポリクローナル抗体を意味する、請求項1記載の使用。
【請求項3】
抗体が、天然(ヒトまたは動物)、組換えまたは合成に由来する、請求項2記載の使用。
【請求項4】
アンタゴニストが、単量体PTX3、またはPTX3活性を特異的に阻害し得る機能を保存しているそのペプチドもしくはペプチド模倣誘導体の1つである、請求項1記載の使用。
【請求項5】
アンタゴニストが、天然(ヒトまたは動物)、組換えまたは合成に由来する、請求項4記載の使用。
【請求項6】
単量体ペントラキシンがヒトに由来する、請求項4記載の使用。
【請求項7】
自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデス(SLE)、多発性硬化症(MS)、関節炎、糖尿病、甲状腺炎、溶血性貧血、萎縮性睾丸炎、グッドパスチャー病、自己免疫性網膜症、自己免疫性血小板減少症、重症筋無力症、原発性胆汁性肝硬変、慢性攻撃性肝炎、潰瘍性大腸炎、皮膚炎、慢性糸球体腎炎、シェーグレン症候群、ライター症候群、筋肉炎、全身性硬化症および多発性関節炎からなる群より選択される、請求項1記載の使用。
【請求項8】
骨または軟骨の変性疾患が、骨関節炎;変形性関節症;関節の変性疾患;コラーゲン欠乏;軟骨内骨化により特徴付けられる軟骨または骨疾患:例えば、関節リウマチ、若年性関節炎、未分化型慢性関節炎および多発性関節炎を含む、原発性関節炎;例えば、全身性エリテマトーデス関節炎、乾癬性関節炎、クローン病関節炎を含む、自己免疫に由来する続発性関節炎;例えば、尿酸一ナトリウム関節症、ピロリン酸関節症、シュウ酸カルシウム関節症を含む、代謝異常に由来する関節炎;感染性関節炎、骨粗鬆症に起因する関節炎、無菌性骨壊死、良性および悪性骨腫瘍からなる群より選択される、請求項1記載の使用。

【公表番号】特表2007−517021(P2007−517021A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546487(P2006−546487)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【国際出願番号】PCT/IT2004/000714
【国際公開番号】WO2005/060997
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(306020368)デフィアンテ・ファルマセウティカ・ソシエダデ・ポル・クオタス・デ・レスポンサビリダデ・リミターダ (4)
【氏名又は名称原語表記】DEFIANTE Farmaceutica Lda
【Fターム(参考)】