説明

長期安定性に優れた分散・可溶化剤

【課題】長期間保存しても、油性成分が分離・沈殿せずに均一に分散・可溶化された状態を保つ組成物、及び分散・可溶化剤を提供する。
【解決手段】脂肪酸のオレイン酸純度が80%以上であり、全エステルにおけるモノエステル純度が90%以上であることを特徴とするショ糖脂肪酸エステル、油性成分、水性媒体を含有してなる分散・可溶化組成物 または、構成脂肪酸のオレイン酸純度が80%以上であり、全エステルにおけるモノエステル純度が90%以上であることを特徴とするショ糖脂肪酸エステルを含有してなる分散・可溶化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性成分を水性媒体中に長期間安定に分散・可溶化させることのできる分散・可溶化剤、または、分散・可溶化組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧品、食品、医薬などにおいて、常温で液状を呈する各種の商品は、通常、着色料、着香料、強化剤、酸化防止剤、保存料、殺菌料、乳化・界面活性剤及び油脂などの油性成分を、水性媒体に分散・可溶化させている。これらの油性成分は、調製過程、または、調製した後の保存および輸送中に、水性媒体から分離しやすいため、分散・可溶化剤は上記の商品において幅広く用いられており必要度も高い。但し、商品の性質上、分散・可溶化剤についてもその安全性と可溶化能の両面が求められることから、使用し得る分散・可溶化剤は種類が限られている。
【0003】
従来このような目的をもって使用されてきた分散・可溶化剤の代表的な例としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の界面活性剤が挙げられる。
従来の可溶化剤ないし分散剤のうち、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、硬化ヒマシ油エチレンオキシド付加物等は、分子鎖中に親水性基としてエチレンオキシド鎖を有しているので、長期保存時にはエチレンオキシド鎖が経時的に分解して可溶化力ないし分散力が低下してしまうほか、エチレンオキシドの分解生成物であるホルマリンの溶出、pH低下を生じる危険性があり、使用については制約がある。
【0004】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルについては、分散・可溶化に有効とされるデカグリセリン脂肪酸エステルなどは、欧州等では使用できないなどの制約があり、また長期間の安定性については十分でないものもある。
さらに、フレーバーなどの香料油を透明に配合した着香食品への配合剤として炭素数8〜16の脂肪酸のモノエステルを主成分とするショ糖脂肪酸エステルが使われている例や(特許文献1)、耐酸性に優れた分散・可溶化剤として、炭素数が12〜18の直鎖飽和脂肪酸のモノエステルが90%以上含まれるショ糖脂肪酸エステルが使われている例があるが(特許文献2)、いずれも室温で3ヶ月以上などの長期間の安定性については十分ではない。
【0005】
以上のことから、安全で、且つ油性成分を水性媒体中に長期間安定に分散・可溶化させることができる分散・可溶化剤及び分散可溶化組成物の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2000−152763号公報
【特許文献2】特公平6−61443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、長期間保存しても、油性成分が分離・沈殿せずに均一に分散・可溶化された状態を保つ組成物、及び分散・可溶化剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の問題点を鑑み鋭意検討した結果、特定のショ糖脂肪酸エステルを用いれば、油性成分を水性媒体中に長期間安定に分散・可溶化させることができること、及び、本剤を用いて油性成分を水性媒体中に長期間安定に分散・可溶化させた分散・可溶化組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。また、特定のショ糖脂肪酸エステルに加えて、ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることにより、pH5未満の酸性下での長期安定性について相乗効果が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の第一は、構成脂肪酸におけるオレイン酸含有量が80%以上であり、全エステルにおけるモノエステル純度が90%以上であることを特徴とするショ糖脂肪酸エステルからなる、分散・可溶化剤であり、第二は、構成脂肪酸におけるオレイン酸含有量が80%以上であり、全エステルにおけるモノエステル純度が90%以上であることを特徴とするショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルからなる、分散・可溶化剤である。
【0009】
本発明の第三は、上記第一又は第二に述べた分散・可溶化剤と、油性成分および水性媒体を含有することを特徴とする、分散・可溶化組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、次のような有利な効果を奏し、その産業上の利用価値はきわめて大である。
本発明の分散・可溶化剤及び分散・可溶化組成物は、油性成分を、殺菌工程を含む調製過程、または、調製した後の保存及び輸送中に、水性媒体から分離することなく、長期間において安定に分散・可溶化することができる。
本発明の分散・可溶化組成物は、そのまま食品として摂取できるほか、化粧品、医薬など、常温で液状を呈する各種の用途に配合し、油性成分を含有する製品を得ることができる。
【0011】
尚、本発明における分散・可溶化とは、油性成分が微細に分散し、組成物中で沈殿・分離することがない状態をいう。具体的には、油性成分を0.05%含む可溶化組成物の、波長660nmにおける透過率が50%以上、好ましくは70%以上の半透明〜透明且つ均一な状態をいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(1)ショ糖脂肪酸エステル
本発明に使用するショ糖脂肪酸エステルは、その構成脂肪酸におけるオレイン酸含有量が80%以上である。さらに全エステルにおけるモノエステル純度90%以上のものでなければならない。モノエステル純度が90%未満の場合は可溶化能が劣る。
このとき、ショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸におけるオレイン酸含有量は、構成する脂肪酸またはその誘導体をGC分析して求めることができる。また、全エステルにおけるモノエステル純度は、THFなどを溶離液としてGPC分析したときのクロマトグラムの面積比により求めることができる。
【0013】
(2)油性成分について
本発明に使用する油性成分としては、着色料、着香料、強化剤、酸化防止剤、保存料、殺菌料、乳化・界面活性剤及び油脂などが挙げられる。
(油性成分の具体例)
さらに着色料としては、例えばβ−カロチン、アナトー色素、ウコン色素、リボフラビン酪酸エステル(VB2)等が、着香料としては、例えばdl−メントール、オレオレジン・レジノイド(精油)、炭化水素類が、強化剤としては、例えばカルシフェロール(VD)、ジベンゾイルチアミン(VB1)、ビタミンA、脂肪酸エステル等が、酸化防止剤としては、例えば、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル(VCエステル)、dl−α−トコフェロール、d−トコフェロール(ビタミンE)、γ−オリザノール、天然抽出抗酸化剤等が、保存料及び殺菌料としては、例えばソルビン酸、パラオキシ安息香酸エチル等が、乳化剤としては、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が、油脂としては、任意の動物油脂、植物油脂、MCTなどが挙げられる。
【0014】
(3)水性媒体について
本発明に使用する水性媒体としては、水の他、多価アルコール類、アルコール類、糖類、pH調整剤などが挙げられる。具体的には、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、キシリトール、アラビトール、マルチトール、ラクチトール、ソルビタン、キシロース、アラビノース、マンノース、乳糖、砂糖、カップリングシュガー、麦芽糖、異性化糖、果糖、還元麦芽糖水飴、蜂蜜、エチルアルコール、またはこれらの含水物などが挙げられる。また、pH調整剤としてはクエン酸、酢酸等が挙げられる。
【0015】
(4)ポリグリセリン脂肪酸エステルについて
本発明に使用するポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリン重合度が4〜12、脂肪酸が炭素数12〜22の飽和または不飽和、エステル化率が30%未満であることが好ましい。この物を、本発明の分散・可溶化組成物において、本発明のショ糖脂肪酸エステルと併用することにより、分散・可溶化組成物の長期安定性について相乗効果が見られる。すなわち、本発明のショ糖脂肪酸エステル添加量との合計重量に対して本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを2重量%〜98重量%添加することにより、このうちpH5未満の酸性系においては、同じく合計重量に対して40重量%〜98重量%添加することによりショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルをそれぞれ単独に用いた場合に比べて、分散・可溶化組成物の長期安定性が優れる。
尚、ここで述べるエステル化率とは、ポリグリセリン脂肪酸エステル中のポリグリセリンの水酸基の総数のうち、脂肪酸がエステル結合した水酸基の数の割合をいい、ポリグリセリン脂肪酸エステルを製造する際の原料ポリグリセリンの平均重合度や原料脂肪酸との配合比、あるいはポリグリセリン脂肪酸エステル製品中の未反応ポリグリセリン量等の分析値より算出される。
【0016】
(5)ショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量
本発明の分散・可溶化組成物における、本発明のショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルの合計濃度が組成物の全重量に対して、0.00001〜5重量%が好ましい。
【0017】
(6)組成物の製造方法
本発明の分散・可溶化組成物の製造方法は次のようにして実施することができる。まず、ショ糖脂肪酸エステルと必要に応じてポリグリセリン脂肪酸エステルをpH調整剤を除いた水性媒体に溶解する。このときのショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルの合計濃度は、2重量%〜20重量%が好ましい。これに、ショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルの合計重量の0.1倍〜等量の油性成分を添加し、ホモミキサーなどの攪拌機を用いて混合し可溶化製剤を得る。このとき、出来上がりの可溶化組成物の安定性向上のために、攪拌機に加えてさらに高圧ホモジナイザー、マイクロフルイタイザー、ナノマイザーなどの均質化処理機を用いてもよい。こうして得られた可溶化製剤を、ショ糖脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステルの合計濃度が組成物の全重量に対して、0.00001%〜5重量%となるように水性媒体またはpH調整剤を加えた水性媒体で希釈し、必要に応じて殺菌処理を行って、可溶化組成物を得る。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれの実施例より何ら限定されるものではない。尚、使用したショ糖脂肪酸エステルの組成は、表1に示す通りである。
【0019】
【表1】

【0020】
実施例1及び比較例1
グリセリン88重量部に、試料AまたはHをそれぞれ6重量部加えて加熱溶解したものに、MCT((株)花王製、商標:ココナードMT)を6部を加え、40℃加熱下でTKホモミキサー(特殊機化工業(株)製、ロボミックス)を用いて、6000rpm30分乳化し、可溶化製剤を得た。この製剤0.85重量部を脱塩水にて希釈して100重量部とし、可溶化組成物を得た。調製した可溶化組成物は25℃にて保管し、沈殿や油性成分の分離が見られない安定な期間を求めた。
試料Aを用いたものは、25℃で3ヶ月間、分離や沈殿を生じることなく安定であったのに対し、試料Hを用いたものは1ヶ月を過ぎると分離や沈殿を生じた。
【0021】
実施例2及び比較例2,3,4
グリセリン88重量部に、試料A,D,FまたはGをそれぞれ6重量部加えて加熱溶解したものに、MCT((株)花王製、商標:ココナードMT)を6部を加え、40℃加熱下でTKホモミキサー(特殊機化工業(株)製、ロボミックス)を用いて、6000rpm30分乳化し、可溶化製剤を得た。この製剤0.85重量部を脱塩水にて希釈して100重量部とし、これを90℃において10分加熱処理した後、可溶化組成物を得た。調製した可溶化組成物は25℃にて保管し、沈殿や油性成分の分離が見られない安定な期間を求めた。
試料Aを用いたものは、25℃で3ヶ月間、分離や沈殿を生じることなく安定であったのに対し、試料Gを用いたものは25℃で1ヶ月、試料D,Fは25℃で1日を過ぎると分離や沈殿を生じた。
【0022】
実施例3及び比較例5
グリセリン88重量部に、試料AまたはE2.4重量部と、デカグリセリンミリスチン酸エステル(リョートーポリグリエステルM−7D)を3.6重量部加えて加熱溶解したものに、MCT((株)花王製、商標:ココナード)を6部を加え、40℃加熱下でTKホモミキサー(特殊機化工業(株)製、ロボミックス)を用いて、6000rpm30分乳化し、可溶化製剤を得た。この製剤0.85重量部を、脱塩水にて希釈して100重量部とし、これを90℃において10分加熱処理した後、可溶化組成物を得た。調製した可溶化組成物は25℃にて保管し、沈殿や油性成分の分離が見られない安定な期間を求めた。
試料Aを用いたものは、25℃で12ヶ月間、分離や沈殿を生じることなく安定であったのに対し、試料Eを用いたものは、25℃で1日を過ぎると分離や沈殿を生じた。
【0023】
実施例4,5及び比較例6,7,8
グリセリン88重量部に、試料A,C,D,Gをそれぞれ2.4重量部と、デカグリセリンミリスチン酸エステル(リョートーポリグリエステルM−7D:エステル化率20%)を3.6重量部加えて加熱溶解したものに、MCT((株)花王製、商標:ココナード)を6部を加え、40℃加熱下でTKホモミキサー(特殊機化工業(株)製、ロボミックス)を用いて、6000rpm30分乳化し、可溶化製剤を得た。同様に、グリセリン88重量部に、試料Aを2.4重量部と、トリグリセリンオレイン酸エステル(理研ビタミン(株)製、DO−100V、エステル化率30%)を3.6重量部加えて加熱溶解したものに、MCT((株)花王製、商標:ココナード)を6部を加え、40℃加熱下でTKホモミキサー(特殊機化工業(株)製、ロボミックス)を用いて、6000rpm30分乳化し、可溶化製剤を得た。得られたそれぞれの製剤0.85重量部を、0.1%クエン酸水溶液にて希釈して(pH2.9)、100重量部とし、これを90℃において10分加熱処理した後、可溶化組成物を得た。調製した可溶化組成物は25℃にて保管し、沈殿や油性成分の分離が見られない安定な期間を求めた。
【0024】
試料Aにデカグリセリンミリスチン酸エステルを併せて用いたものは、25℃で12ヶ月間、試料Cを用いたものは3ヶ月間、分離や沈殿を生じることなく安定であったのに対し、試料D及びGを用いたものは25℃で1日を過ぎると分離や沈殿を生じた。また、試料Aにトリグリセリンオレイン酸エステルを併せて用いたものは、翌日までに沈殿を生じた。
【0025】
実施例6及び比較例9
グリセリン88重量部に、試料B,Hをそれぞれ6重量部加えて加熱溶解したものに、MCT((株)花王製、商標:ココナード)を6部を加え、40℃加熱下でTKホモミキサー(特殊機化工業(株)製、ロボミックス)を用いて、6000rpm30分乳化し、可溶化製剤を得た。この製剤0.85重量部を、0.1%クエン酸水溶液にて希釈して(pH2.9)100重量部とし、これを90℃において10分加熱処理した後、可溶化組成物を得た。調製した可溶化組成物は40℃にて保管し、沈殿や油性成分の分離が見られない安定な期間を求めた。
【0026】
試料Bを用いたものは、40℃で1週間、分離や沈殿を生じることなく安定であったのに対し、試料Hを用いた加えたものは40℃で1日を過ぎると分離や沈殿を生じた。
上記の各実施例および各比較例の結果は、表2に示す通りである。
【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸におけるオレイン酸含有量が80%以上であり、全エステルにおけるモノエステル純度が90%以上であることを特徴とするショ糖脂肪酸エステルからなる、分散・可溶化剤。
【請求項2】
構成脂肪酸におけるオレイン酸含有量が80%以上であり、全エステルにおけるモノエステル純度が90%以上であることを特徴とするショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルからなる、分散・可溶化剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分散・可溶化剤、油性成分および水性媒体を含有することを特徴とする、分散・可溶化組成物。



【公開番号】特開2010−29781(P2010−29781A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194378(P2008−194378)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(593204214)三菱化学フーズ株式会社 (45)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】