説明

長期持続記憶に関係する遺伝子のクローニングとキャラクタライゼーション

【課題】動物における長期持続記憶の調節方法を提供する。
【解決手段】a)薬剤を非ヒト動物に投与すること;ならびにb)該非ヒト動物における活性化因子、抑制因子の量を、該薬剤が投与されていない対照動物における量と比べて決定すること、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で特定の配列に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、特定の配列ではないDNAの発現産物であり、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で特定の配列のエクソンに相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、特定の配列のエクソンからなるDNAではないDNAの発現産物を含む、非ヒト動物において長期持続記憶を調節する能力について薬剤をスクリーニングする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物における長期持続記憶の調節方法に使用される剤の調製におけるCREB2のcAMP応答性活性化因子アイソフォームまたはCREB2のcAMP応答性抑制因子アイソフォームの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
サイクリック3',5'-アデノシン一リン酸(cAMP)シグナル変換経路の活性化は、特異的遺伝子の発現に対するその影響を通して、永続的な世界的重要性を有することができる。このことは、既知のcAMP応答性遺伝子の多くが重要な神経系および内分泌系の役割を持ちうる哺乳類と共に、単純な生物にも当てはまる。この経路の活性化に関する追加の情報は、とりわけこの活性化が動物の活動や出来事を記憶するという能力に関係することから、有用であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、動物において長期持続記憶を調節することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕a)薬剤を非ヒト動物に投与すること;ならびに
b)該非ヒト動物における活性化因子、抑制因子、または活性化因子と抑制因子の両方の量を、該薬剤が投与されていない対照動物における量と比べて決定すること、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1ではないDNAの発現産物であり、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAの発現産物である、
を含む、非ヒト動物において長期持続記憶を調節する能力について薬剤をスクリーニングする方法、
〔2〕c)該薬剤が投与されていない対照動物における活性化因子、抑制因子、または活性化因子と抑制因子の両方の量とは異なる量を有する工程b)の非ヒト動物を選択すること;
d)工程c)で選択された非ヒト動物を該非ヒト動物において長期持続記憶形成を生じるのに適切な条件下で訓練すること;
e)工程d)で訓練された非ヒト動物における長期持続記憶形成を評価すること;ならびに
f)工程e)で評価された長期持続記憶形成を該薬剤が投与されていない対照動物において生じた長期持続記憶形成と比較すること、
をさらに含む、〔1〕記載の方法、
〔3〕該非ヒト動物がショウジョウバエである、〔1〕または〔2〕記載の方法、
〔4〕該非ヒト動物が非ヒト哺乳動物である〔1〕または〔2〕記載の方法、
〔5〕a)誘導性活性化因子または誘導性抑制因子を有する非ヒト動物に薬剤を投与すること、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1ではないDNAの発現産物であり、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAの発現産物である;
b)該活性化因子または該抑制因子の発現を誘導すること;
c)該非ヒト動物において長期持続記憶形成を生じるのに適切な条件下で該非ヒト動物を訓練すること;
d)工程c)で訓練された非ヒト動物における長期持続記憶形成を評価すること;ならびに
e)工程d)で評価された長期持続記憶形成を該薬剤が投与されていない対照動物において生じた長期持続記憶形成と比較すること、
を含む、非ヒト動物において長期持続記憶を調節する能力について薬剤をスクリーニングする方法、
〔6〕該非ヒト動物が誘導性活性化因子を有するショウジョウバエであるか、または該非ヒト動物が誘導性抑制因子を有するショウジョウバエである、〔5〕記載の方法、
〔7〕該非ヒト動物が非ヒト哺乳動物である〔5〕記載の方法、
〔8〕正常な非ヒト動物由来の活性化因子もしくは抑制因子の誘導を物質が変化させることを、または活性を物質が変化させることを検定することを含み、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1ではないDNAの発現産物であり、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAの発現産物である、非ヒト動物における長期持続記憶に作用する物質の同定方法、
〔9〕該非ヒト動物がショウジョウバエである、〔8〕記載の方法、
〔10〕該非ヒト動物が非ヒト哺乳動物である〔8〕記載の方法、
〔11〕a)長期持続記憶に関連するdCREB2のcAMP応答性抑制因子のアイソフォームを有するショウジョウバエに薬剤を投与すること、ここで、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAの発現産物である;
b)該抑制因子のアイソフォームの発現を誘導すること;
c)標準的な条件下にショウジョウバエを置き、臭気物質による刺激および電気による刺激の少なくとも一つを与えること;ならびに
d)該標準的な条件下での行動指標を評価すること、
を含み、該薬剤が該行動指標を該薬剤の非存在下における工程a)のショウジョウバエにより得られた行動指標から変化させる場合に該薬剤の効果が生じている、長期持続記憶の形成に対する薬剤の効果を評価する方法、
〔12〕a)長期持続記憶に関連するdCREB2のcAMP応答性活性化因子のアイソフォームを有するショウジョウバエに薬剤を投与すること、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1ではないDNAの発現産物である;
b)該活性化因子のアイソフォームの発現を誘導すること;
c)標準的な条件下にショウジョウバエを置き、臭気物質による刺激および電気による刺激の少なくとも一つを与えること;ならびに
d)該標準的な条件下での行動指標を評価すること、
を含み、該薬剤が該行動指標を該薬剤の非存在下における工程a)のショウジョウバエにより得られた行動指標から変化させる場合に該薬剤の効果が生じている、長期持続記憶の形成に対する薬剤の効果を評価する方法、
〔13〕単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードする遺伝子であって、配列番号:1ではない遺伝子、並びに単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAからなる群より選ばれる遺伝子の、動物における発現を調節することを含む、動物における長期持続記憶を調節する方法に使用される剤の調製における前記遺伝子の使用、
〔14〕該動物が哺乳動物である〔13〕記載の使用、
〔15〕遺伝子が長期持続記憶の向上に関連するCREB2のcAMP応答性活性化因子アイソフォームをコードし、該遺伝子の誘導が長期持続記憶の向上を生じるか、または遺伝子が長期持続記憶の遮断に関連するCREB2のcAMP応答性抑制因子アイソフォームをコードし、該遺伝子の誘導が長期持続記憶の遮断を生じる〔13〕記載の使用、
〔16〕該動物がショウジョウバエである〔13〕記載の使用、
〔17〕活性化因子の量または抑制因子の量を動物において調節することを含み、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1ではないDNAの発現産物であり、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAの発現産物であり、それにより機能的活性化因子の正味の量(ΔC)が0よりも大きい場合に動物における長期持続記憶が向上する、動物における長期持続記憶の調節方法に使用される剤の調製におけるCREB2のcAMP応答性活性化因子アイソフォームまたはCREB2のcAMP応答性抑制因子アイソフォームの使用、
〔18〕該動物が哺乳動物である〔17〕記載の使用、
〔19〕該動物がショウジョウバエである〔17〕記載の使用
に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、動物において長期持続記憶を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1A】図1Aは、dCREB2−aコード部位のDNA配列(配列番号:1)と、それから推定されるアミノ酸配列(配列番号:2)を示したものである。塩基性部位とロイシンジッパー(zipper)はそれぞれ、黒塗りおよび断続した太い下線により示されている;塩基性部位中で正にチャージした残基は丸で囲まれている;ジッパーモチーフ中で周期的に存在するロイシンは四角で囲まれている;活性ドメイン中のグルタミンは下線が引かれている;227残基目で始まる、キナーゼに関する標的部位を伴う短いアミノ酸モチーフは太線で囲まれている;そして選択的にスプライスされたエクソン2、4、および6で明記された配列は影が付されている。
【図1B】図1BはdCREB2(配列番号:3)のbZIPドメイン、哺乳動物CREB(配列番号:4)、CREM(配列番号:5)、およびATF−1(配列番号:6)のアミノ酸配列を示している。dCREB2とCREBとの間の相違箇所はボックスで囲まれている。
【図2】図2はdCREB2−aに関して定義されているエクソン境界を伴うdCREB2アイソフォームの概要図を示している。図は正しいスケールで表されていない。
【図3】図3はdCREB2−aによるpKA−応答性転写活性を示す結果の棒グラフである。
【図4】図4はdCREB2−bとdCREB2−aによりpKA−応答性が活性化するする様々な変異体の転写効果を示す結果の棒グラフである。
【図5】図5はDNA配列(配列番号:7)とdCREB1コード部位の推定アミノ酸配列(配列番号:8)を示す。塩基性部位とロイシンジッパードメインは実線及び破線の太い下線でそれぞれ示されている;塩基性部位中の正に荷電した残基は丸で囲まれている;ジッパーモチーフ中の周期的に存在するロイシンは四角で囲まれている;活性ドメイン中の酸性に富む部位において、負にチャージしたアミノ酸は下線が引かれ、プロリン残基は菱形で示されている。
【図6】図6はショウジョウバエ シュナイダー(Schneider)L2細胞培養組織中のdCREB1によるCREレポーター遺伝子の転写活性を示す結果の棒グラフである。
【図7】図7AはdCREB2−b発現の熱ショック誘導の効果を示すノーザンブロットの顕微鏡写真を示したものである:wt=野生型ハエ;CREB=17−2トランスジェニックハエ;レーン1−2:熱ショックなし;レーン2−3:熱ショック直後;レーン5−6:熱ショック後3時間。図7BはdCREB2−bタンパク質生成の熱ショック誘導の効果を示すウエスタンブロットの顕微鏡写真を示したものである:wt=野生型ハエ;CREB=17−2トランスジェニックハエ;レーン1−2:熱ショックなし;レーン2−3:熱ショック直後;レーン5−6:熱ショック後1時間;レーン7−8:熱ショック3時間後;レーン9−10:熱ショック後9時間;レーン11−12:熱ショック後24時間。図7CはdCREB2とdCREB2−mLZ(変異型dCREB2−b)タンパク質生成の熱ショック誘導の効果を示すウエスタンブロットの顕微鏡写真を示したものである:wt=17−2トランスジェニックハエ(野生型遮断因子、dCREB2−bを発現している);m=A2−2トランスジェニックハエ(変異型遮断因子、dCREB2−mLZを発現している);レーン1−2:熱ショックなし;レーン3−4:熱ショック直後;レーン5−6:熱ショック後3時間;レーン7−8:熱ショック6時間後。
【図8】図8は1日記憶保持に関して断続的あるいは集中的な訓練の前後で、与えられるシクロヘキシミド(CXM)の効果を示す結果の棒グラフである:斜線の入った棒=+CXM;細かい網の入った棒=−CXM。
【図9】図9Aは断続的あるいは集中的な訓練を与えられた野生型(Can−S)ハエとhs−dCREB2−bトランスジェニック(17−2)ハエにおいて1日記憶保持の熱ショック誘導の効果を示す結果の棒グラフである:細かい網の入った棒=野生型(Can−S)ハエ;斜線の入った棒=hs−dCREB2−bトランスジェニック(17−2)ハエ;hs=熱ショック。図9Bは断続的あるいは集中的な訓練を与えられた野生型(Can−S)ハエとhs−dCREB2−bトランスジェニック(M11−1)ハエにおいて1日記憶保持の熱ショック誘導の効果を示す結果の棒グラフである:細かい網の入った棒=野生型(Can−S)ハエ;斜線の入った棒=hs−dCREB2−bトランスジェニック(M11−1)ハエ;hs=熱ショック。図9Cは断続的あるいは集中的な訓練を与えられた野生型(Can−S)ハエとhs−dCREB2−bトランスジェニック(17−2)ハエにおいて学習の熱ショック誘導の効果を示す結果の棒グラフである:細かい網の入った棒=野生型(Can−S)ハエ;斜線の入った棒=hs−dCREB2−bトランスジェニック(17−2)ハエ;hs=熱ショック。
【図10】図10は断続的な訓練を与えられた野生型〔w(isoCJ1)〕ハエ、hs−dCREB2−bトランスジェニック(17−2)ハエおよびhs−dCREB2−mLZトランスジェニック(A2−2)ハエにおいて1日記憶保持の熱ショック誘導の効果を示す結果の棒グラフである:細かい網の入った棒=野生型〔w(isoCJ1)〕ハエ;斜線の入った棒=hs−dCREB2−bトランスジェニック(17−2)ハエ;白抜き棒=hs−dCREB2−mLZトランスジェニック(A2−2)ハエ;hs=熱ショック。
【図11】図11は断続的あるいは集中的な訓練を与えられた野生型(Can−S)ハエとhs−dCREB2−bトランスジェニック(17−2)ハエにおいて7日記憶保持(長期持続記憶)の熱ショック誘導の効果を示す結果の棒グラフである:細かい網の入った棒=野生型(Can−S)ハエ;斜線の入った棒=hs−dCREB2−bトランスジェニック(17−2)ハエ;hs=熱ショック。
【図12】図12は断続的な訓練を与えられたhs−dCREB2−bトランスジェニック(17−2)ハエ、ラディシュ変異型ハエ、およびラディシュhs−dCREB2−b二重変異型(rsh;17−2)において1日記憶保持の熱ショック誘導の効果を示す結果の棒グラフである:hs=熱ショック;細かい網の入った棒=−hs;斜線の入った棒=+hs。
【図13】図13Aは、繰り返し行われる訓練期間が、長期持続記憶を持つ野性型(Can−S)ハエにおける7日記憶(長期持続記憶)に与える効果を示すグラフで、訓練期間数の関数として白抜きの丸で示されており、負促進指数ゴンパーツ(negative accelerating exponential Gompertz)(成長)関数は非線形反復最小二乗法を用いて個々の行動指標(PIs)に合うよう実線で示されている。図13Bは、各訓練期間の間の休息期間(rest interval )が、長期持続記憶を持つ野性型(Can−S)ハエにおける7日記憶(長期持続記憶)に与える効果を示すグラフで、休息期間の関数として白抜きの丸で示されており、負促進指数ゴンパーツ(成長)関数は非線形反復最小二乗法を用いて個々の行動指標(PIs)に合うよう実線で示されている。
【図14】図14は、互いに反する作用を有する複数のCREBアイソフォームの異なる制御に基づいた、CREB活性化因子の正味の効果がΔCで示された、長期持続記憶の形成についての分子スイッチの概念モデルである。
【図15A】図15Aは野性型(Can−S)ハエにおいて7日記憶保持に与える、48回集中的(48×集中的)訓練期間の効果、又は15分間の休息期間を伴う10回断続的(10×断続的)訓練期間の効果を示す結果の棒グラフである。
【図15B】図15Bは、1回(1×)、2回(2×)、あるいは10回(10×)の集中的訓練期間の、又は熱ショック誘導後3時間(誘導的)あるいは熱ショック無し(非誘導的)の、野性型(Can−S)ハエ、hsp−dCREB2−aトランスジェニック(C28)ハエ、hsp−dCREB2−aトランスジェニック(C30)ハエにおける7日記憶保持に与える効果を示した結果の棒グラフである:黒塗りの棒グラフ=野性型(Can−S)ハエ;斜線の入った棒=hsp−dCREB2−aトランスジェニック(C28)ハエ;白抜きの棒=hsp−dCREB2−aトランスジェニック(C30)ハエ。
【図15C】図15Cは、野性型(Can−S)ハエ、及びhsp−dCREB2−aトランスジェニック(C28)ハエにおける、オクタノール(OCT)あるいはメチルシクロヘキサノール(MCH)のいずれかの臭気に対する、又はショック(60Vの直流)に対する、熱ショック後3時間の時点の応答性を示した結果の棒グラフである:黒塗りの棒=野性型(Can−S)ハエ;斜線の入った棒=hsp−dCREB2−aトランスジェニック(C28)ハエ。
【図16A】図16A−Cは各オープンリーディングフレーム(ORF)において最初のメチオニンからアミノ酸番号の始まる、DNOSと複数の哺乳動物のNOSの推定アミノ酸配列、複数の哺乳動物のDNOについて既に公表された報告において画定された、補因子(上部に線が付されている)に対する推定結合部位、およびフェロドキシンNADP+ レダクターゼの結晶構造に基づいて、FADやNADPHと結合するものと提案されている(カープラス、ピー.エイ.(Karplus,P.A.),Science,251:60−66(1991))アミノ酸と等価の位置に保存されているアミノ酸(黒点)を示している:DNOS、ショウジョウバエNOS(配列番号:9);RNNOS、ラット神経NOS(配列番号:10);BENOS、ウシ内皮NOS(配列番号:11);MMNOS、マウスマクロファージNOS(配列番号:12)。シークエンスの配列と二次構造予想はジーンワークス2.3で行った(インテリジェネティックス(IntelliGenetics))。
【図16B】図16A−Cは各オープンリーディングフレーム(ORF)において最初のメチオニンからアミノ酸番号の始まる、DNOSと複数の哺乳動物のNOSの推定アミノ酸配列、複数の哺乳動物のDNOについて既に公表された報告において画定された、補因子(上部に線が付されている)に対する推定結合部位、およびフェロドキシンNADP+ レダクターゼの結晶構造に基づいて、FADやNADPHと結合するものと提案されている(カープラス、ピー.エイ.(Karplus,P.A.),Science,251:60−66(1991))アミノ酸と等価の位置に保存されているアミノ酸(黒点)を示している:DNOS、ショウジョウバエNOS(配列番号:9);RNNOS、ラット神経NOS(配列番号:10);BENOS、ウシ内皮NOS(配列番号:11);MMNOS、マウスマクロファージNOS(配列番号:12)。シークエンスの配列と二次構造予想はジーンワークス2.3で行った(インテリジェネティックス(IntelliGenetics))。
【図16C】図16A−Cは各オープンリーディングフレーム(ORF)において最初のメチオニンからアミノ酸番号の始まる、DNOSと複数の哺乳動物のNOSの推定アミノ酸配列、複数の哺乳動物のDNOについて既に公表された報告において画定された、補因子(上部に線が付されている)に対する推定結合部位、およびフェロドキシンNADP+ レダクターゼの結晶構造に基づいて、FADやNADPHと結合するものと提案されている(カープラス、ピー.エイ.(Karplus,P.A.),Science,251:60−66(1991))アミノ酸と等価の位置に保存されているアミノ酸(黒点)を示している:DNOS、ショウジョウバエNOS(配列番号:9);RNNOS、ラット神経NOS(配列番号:10);BENOS、ウシ内皮NOS(配列番号:11);MMNOS、マウスマクロファージNOS(配列番号:12)。シークエンスの配列と二次構造予想はジーンワークス2.3で行った(インテリジェネティックス(IntelliGenetics))。
【図16D】図16DはDNOS中に見られるヘム(H)、カルモジュリン(CaM)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、およびグルタミン−リッチドメイン(Q)に対するものと考えられる補因子結合部位を持つショウジョウバエと哺乳動物NOSタンパク質のドメイン構造の概要図である。
【図17A】図17Aは293ヒト胚腎臓細胞中のDNOS発現を示すウェスタンブロットの写真である。
【図17B】図17Bは3 H−L−アルギニンを3 H−L−シトルリンに変換することによる、293ヒト胚腎臓細胞中で測定されるDNOS酵素活性を示す結果の棒グラフである:外因性Ca2+又はカルモジュリンが存在(B群);外因性Ca2+又はカルモジュリン非存在下で1mM EGTAが存在(C群);外因性Ca2+又はカルモジュリンと、100mM L−NAMEが存在(D群)。
【図18A】図18Aはショウジョウバエ頭部にある5.0kb dNOS転写物を示すノーザンブロットの顕微鏡写真である:H=頭部;B=体。
【図18B】図18Bはエチジュウムブロマイド中で染色したアガロースゲルの写真であり、予想される大きさ、444bp長形断片と129bp短形断片、のDNA断片の位置を示す矢印で選択的にスプライスされた二つのmRNA種の、dNOS遺伝子による発現を示している。レーンに存在する他のバンドは変性しそこなったヘテロ二本鎖DNA分子由来の人工産物である。KB=サイズマーカー。
【図18C】図18CはDNOSとマウス神経NOSの2つのタンパク質アイソフォームの予想されるアミノ酸配列の並びを示している:上の部分は2つの概念的なショウジョウバエNOSタンパク質である、DNOS−1(配列番号:9中のアミノ酸残基408−427と513−532)とDNOS−2(配列番号:14)の間の関係を示しており、それぞれより大きいRT−PCR生成物とより小さいRT−PCR生成物に該当する;下の部分はマウス神経NOSの2つのタンパク質アイソフォームである、n−NOS−1(アミノ酸残基494−513と599−618;それぞれ配列番号:13と配列番号:15)とn−NOS−2(配列番号:16)の関連した部位間の関係をしめしている;そして番号はそれぞれのORF中の始めのメチオニンに関連するアミノ酸残基の位置を示している。
【図19A】図19A−19BはDNOSタンパク質をコードしているdNOS cDNAのヌクレオチド配列(配列番号:25)を示している。4050bpのオープンリーディングフレームは189番ヌクレオチドから始まり4248番ヌクレオチドで終わる。
【図19B】図19A−19BはDNOSタンパク質をコードしているdNOS cDNAのヌクレオチド配列(配列番号:25)を示している。4050bpのオープンリーディングフレームは189番ヌクレオチドから始まり4248番ヌクレオチドで終わる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
発明の概要
本発明は出願人らによるdCREB1遺伝子とdCREB2遺伝子の発見に基づいている。本発明はさらにショウジョウバエCREB2遺伝子が反対の機能を持つタンパク質をコードしているという出願人らの発見に基づいている。1つのアイソフォーム(例:dCREB2-a)はサイクリック3',5'-アデノシン一リン酸(cAMP)応答性転写活性化因子をコードする。もう1つのアイソフォーム(例:dCREB2-b)はその活性化因子の活性を遮断するアンタゴニストをコードする。
【0008】
この遮断型を熱ショックプロモーターの制御下におき、トランスジェニックハエを作ると、わずかな温度の変化でトランスジェニックハエにおける該遮断因子の合成が誘導される。この遮断因子(本明細書では抑制因子ともいう)の誘導は特に、匂い忌避行動規範(odor-avoidance behavioral paradigm)の長期タンパク質合成依存性記憶を崩壊させる。
【0009】
出願人の発見の結果として、ここに提供する方法は動物における長期持続記憶を調節する方法である。ここに記述する長期持続記憶を調節する方法はdCREB2遺伝子またはその断片の動物中での発現を誘導することを含む。
【0010】
dCREB2遺伝子はいくつかのアイソフォームをコードしている。 dCREB2遺伝子によってコードされているアイソフォームの例はdCREB2-a、dCREB2-b、dCREB2-c、dCREB2-d、dCREB2-q、dCREB2-rおよびdCREB2-sである。
【0011】
dCREB2遺伝子によってコードされているアイソフォームにはcAMP応答性活性化因子アイソフォームおよびその活性化因子アイソフォームの拮抗的遮断因子(または抑制因子)アイソフォームが含まれる。サイクリックAMP応答性活性化因子アイソフォームは転写のcAMP応答性活性化因子として機能することができる。拮抗的抑制因子は活性化因子の遮断因子として作用することができる。cAMP応答性活性化因子アイソフォームの例はdCREB2-aである。拮抗的抑制因子(または遮断因子)アイソフォームの例はdCREB2-bである。遮断因子および抑制因子という用語はここでは互いに交換可能であるように使用される。
【0012】
本発明の1つの態様では、dCREB-2遺伝子がcAMP応答性活性化因子アイソフォームをコードし、該遺伝子の誘導が長期持続記憶の強化をもたらす。
【0013】
あるいは、cAMP応答性活性化因子アイソフォームをコードするdCREB2遺伝子の誘導が長期持続記憶の形成に必要なタンパク質の生産を活性化する。
【0014】
本発明のもう1つの態様では、dCREB2遺伝子が抑制因子アイソフォームをコードし、該遺伝子の誘導が長期持続記憶の遮断をもたらす。
【0015】
本発明のさらなる態様は、dCREB2の抑制因子および活性化因子アイソフォームの誘導を含む動物における長期持続記憶を調節する方法に関し、そこでは機能的活性化因子の正味の量(ΔC)がゼロより大きいときに動物における長期持続記憶が強化される。
【0016】
本発明は、動物における長期持続記憶に影響を与えることのできる物質を同定する方法であって、該物質が動物においてdCREB2の抑制因子および活性化因子アイソフォームの誘導または活性を正常から変化させることの決定を含む方法にも関係する。
【0017】
本明細書において、活性化因子アイソフォームという用語はdCREB2-aおよびその機能的断片を包含し、抑制因子アイソフォームという用語はdCREB2-bおよびその機能的断片を包含する。
【0018】
本発明の他の態様は、動物における長期持続記憶形成を増進する方法であって、動物において活性化因子ホモ二量体のレベルを正常より増大させ、活性化因子-抑制因子ヘテロ二量体のレベルを正常より減少させ、抑制因子ホモ二量体のレベルを正常より減少させることを含む方法に関する。
【0019】
さらにもう1つの本発明の態様は、動物における長期持続記憶に影響を与えることのできる物質を同定する方法であって、該物質が動物において活性化因子ホモ二量体、活性化因子-抑制因子ヘテロ二量体および/または抑制因子ホモ二量体形成を正常より変化させることの決定を含む方法に関する。
【0020】
本明細書において、活性化因子ホモ二量体という用語はdCREB2aホモ二量体を包含し、活性化因子-抑制因子ヘテロ二量体という用語はdCREB2a-dCREB2bヘテロ二量体を包含し、抑制因子ホモ二量体という用語はdCREB2bホモ二量体を包含する。
【0021】
本発明のさらなる態様は、cAMP応答性転写活性化因子をコードする単離されたDNAに関する。そのようなcAMP応答性転写活性化因子はショウジョウバエdCREB2遺伝子によって、あるいはその相同体または機能的断片によってコードされうる。例えばcAMP応答性転写活性化因子はdCREB2-aをコードするdCREB2遺伝子によって、あるいは本明細書に記載の配列によってコードされる遺伝子によってコードされうる。
【0022】
さらにもう1つの本発明の態様は、cAMP誘導性転写のアンタゴニストをコードする単離されたDNAに関する。そのようなcAMP誘導性転写のアンタゴニストはショウジョウバエdCREB2遺伝子によって、あるいはその相同体または機能的断片によってコードされうる。例えばcAMP誘導性転写のアンタゴニストはdCREB2-bをコードするdCREB2遺伝子によってコードされうる。
【0023】
本発明のもう1つの態様は、ショウジョウバエdCREB2遺伝子またはその機能的断片をコードする単離されたDNA(配列番号25)に関する。
【0024】
本発明のさらなる態様はエンハンサー特異的活性化因子をコードする単離されたDNAに関する。そのようなエンハンサー特異的活性化因子はショウジョウバエdCREB1遺伝子によって、あるいはその相同体または機能的断片によってコードされうる。
【0025】
本発明のもう1つの態様はショウジョウバエの一酸化窒素合成酵素(DNOS)をコードする単離されたDNAに関する。そのようなDNAは神経系遺伝子座のDNOSをコードすることができる。コードされたDNOSは例えば推定ヘム、カルモジュリン、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)および還元型のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)結合部位ドメインを含有しうる。
【0026】
本発明のさらなる態様は、長期持続記憶形成に対する薬物の効果を評価する方法であって、該薬物をショウジョウバエに投与し、そのショウジョウバエを少なくとも1つの臭気物質と電気的ショックに対する古典的な条件付けにかけ、その古典的条件付けの行動指標を評価することを含み、ここにその薬物が行動指標を正常より変化させる場合に、その薬物の効果があるとする方法に関する。薬物は例えばdCREB2の抑制因子および活性化因子アイソフォームの誘導または活性を変化させることによって、長期持続記憶形成に影響を与えることができる。
【0027】
さらにもう1つの本発明の態様は、動物が増大した、あるいは減少した長期持続記憶保持能を持つであろうことの評価に関する。この評価は、動物中に存在するcAMP応答性活性化因子アイソフォーム、cAMP応答性抑制因子または遮断因子アイソフォーム、またはこれらアイソフォームの二量体、これらのアイソフォームはCREB2または相同遺伝子によってコードされている、の量を決定することによって実行されうる。増大した長期持続記憶保持能は活性化因子の量が抑制因子の量を超えるほど、すなわち機能的活性化因子の正味の量(ΔC)の大きさに、この量がゼロより大きいときに、直接比例して、起こるであろう。逆に、減少した長期持続記憶保持能は抑制因子の量が活性化因子の量を超えるにつれて、すなわち機能的活性化因子の正味の量(ΔC)の大きさに、この量がゼロより小さいときに、直接比例して起こるであろう。
【0028】
本発明のもう1つの態様は、動物における長期持続記憶の増進剤としての医薬または長期持続記憶の阻害剤としての医薬のスクリーニングアッセイに関する。このスクリーニングアッセイは、該医薬が存在しないときと比較して該医薬が存在するときの、動物中あるいは(より好ましくは)細胞培養系中またはショウジョウバエ中に存在するcAMP応答性活性化因子アイソフォーム、cAMP応答性抑制因子または遮断因子アイソフォーム、またはこれらアイソフォームの二量体、これらのアイソフォームはCREB2または相同遺伝子によってコードされる、の量の変化を決定することによって行われる。長期持続記憶の増進剤は、抑制因子アイソフォームの量に対する活性化因子アイソフォームの量の正味の増大、すなわち機能的活性化因子の正味の量(ΔC)の増大をもたらす。長期持続記憶の阻害剤は、抑制因子アイソフォームの量に対する活性化因子アイソフォームの量の正味の減少、すなわち機能的活性化因子の正味の量(ΔC)の減少をもたらす。これらの医薬は、例えば各活性化因子および/または抑制因子アイソフォームのCREB2または相同遺伝子からの発現(転写または翻訳)を変化させるか、活性化因子ホモ二量体、活性化因子-抑制因子ヘテロ二量体および/または抑制因子ホモ二量体の発現されたアイソフォームからの形成を変化させるか、あるいは1またはそれ以上のこれらアイソフォームまたは二量体型のそれらの分子標的における相互作用を変化させるように作用することによって、これらの変化を起こすことができる。ここに開示する長期持続記憶活性化因子アイソフォーム/抑制因子アイソフォーム系はこのようなスクリーニングアッセイを行うための独自の基準を提供する。
【0029】
本発明のさらなる態様は、医薬の動物における長期持続記憶促進剤または阻害剤としての特性のアッセイに関する。このアッセイは、ショウジョウバエをパブロフの嗅覚学習法にかける前にその医薬をショウジョウバエに投与することによって行われる。この方法は、ショウジョウバエを集中的訓練スケジュールおよび/または断続的訓練スケジュールにかけることによって、そのハエの長期持続記憶能を評価する。変化したdCREB2遺伝子を持つこれらのハエのトランスジェニック系を用いて、医薬の長期持続記憶促進または阻害特性をさらに解明することができる。このアッセイは、医薬にさらされた後のショウジョウバエによる長期持続記憶の獲得に関するデータを提供する。これらのデータをその医薬にさらされていないショウジョウバエからの長期持続記憶獲得データと比較する。さらされたハエがさらされていないハエよりも早い長期持続記憶獲得またはより良く保持される長期持続記憶獲得を示すならば、その医薬は長期持続記憶の促進剤であると見なすことができる。逆に、さらされたハエがさらされていないハエよりも遅い長期持続記憶獲得またはより保持されない長期持続記憶獲得を示すならば、その医薬は長期持続記憶の阻害剤であると見なすことができる。この長期持続記憶アッセイに関するショウジョウバエ中の遺伝子座はdCREB2遺伝子中に存在するので、このアッセイからの結果を相同的遺伝子座(CREB2またはCREM遺伝子)を持つ他の動物に直接適用することができる。
【0030】
発明の詳細な説明
本願出願者らは、3つのcAMP応答性エレメント(CRE)部位を含むプローブを用いたショウジョウバエ(Drosophila)頭部cDNAライブラリーのDNA結合発現スクリーニングによって単離したdCREB2およびdCREB1と称する2つの遺伝子のクローニングとキャラクタライゼーションを行なった。
【0031】
dCREB2遺伝子は、ショウジョウバエにおけるcAMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)応答性CREB/ATF転写活性化因子として最初に知られていたものをコードする。タンパク質データベースの検索により、哺乳類のCREB、CREM、およびATF−1遺伝子産物がdCREB2と相同であることが判明した。これらの理由から、dCREB2はCREB/ATFファミリーのみに属するのではなく、特異的cAMP応答性CREB/CREM/ATF−1サブファミリーにも属するものと考えられる。dCREB2は、他の動物系におけるcAMP応答性転写活性化に依存すると考えられるプロセスと似たショウジョウバエのプロセスに関与するものと考えるのが妥当である。
【0032】
本願出願者らは、dCREB2転写物が選択的(alternative )スプライシングを受けることを明らかにした。dCREB2のスプライス産物は、次の2つの大きなカテゴリーに分れることが判明した。すなわち、エクソン2、4、および6の選択的スプライシングを行なうことで、そのタンパク質産物がすべて異なるバージョンの活性化ドメインに付着したbZIPドメインを有するアイソフォームを生じる第1のクラスの転写物(dCREB2−a、dCREB2−b、dCREB2−c、dCREB2−d)、およびbZIPドメインの上流側の様々な位置にフレーム内終止コドンを生ぜしめるスプライス部位を有する第2のクラスの転写物(dCREB2−q、dCREB2−r、dCREB2−s)である。これらのものはいずれも、ダイマー化またはDNAライブラリー活性化を伴わないで切断された活性化ドメインを生じるものと予想される。
【0033】
dCREB2−a、dCREB2−b、dCREB2−c、およびdCREB2−dは、普通の基本領域−ロイシンジッパーに付着した活性化ドメインの変異体を生じるものと予想されるスプライスフォームである。これらの選択的スプライスフォームは活性化ドメインの一部のサイズおよびスペーシングに一見小さな変化を引き起こすが、活性化ドメインの選択的スプライシングはdCREB2産物の機能性に大きな影響を及ぼす。アイソフォームdCREB2−aは細胞培養においてPKA応答性転写活性化因子を生じるが、エクソン2とエクソン6を欠くdCREB2−bは特異的拮抗物質を生じる。このdCREB2スプライシングパターン(およびそれがもたらす機能)はCREM遺伝子に見られるものと実質的に同一である。CREM遺伝子内の同様の位置にある選択的スプライス化エクソンが、特定のアイソフォームが活性化因子になるか拮抗物質になるかを決定する[デグルートとサッソーネ(deGroot, R.P. and P. Sassone-Corsi)、Mol. Endocrinol., 7:145-153 (1993);フォウルケスら(Foulkes, N.S. et al.)、Nature, 355:80-84 (1992)]。
【0034】
リン酸化ドメイン(KIDドメイン)が、近接的に結合している他の構成的転写因子をイン・トランス(in trans)で活性化する能力は、CREM拮抗物質(KIDドメインを含むが活性化に必要なエクソンを欠く)をcAMP応答性活性化因子へと変換させえた。これらの分子のモジュラー構成が保存されていたため、dCREB2−dはこの性質を保持しえた。
【0035】
基本領域−ロイシンジッパードメインを有するアイソフォームをコードするdCREB2スプライシング変異体とは対照的に、dCREB2−q、−r、および−sスプライス型は、推定タンパク質産物がbZIP領域の前の位置で切断されるフレーム内終止コドンを含んでいる。このタイプのアイソフォームは、CREM遺伝子ではなくCREB遺伝子の産物の一部として同定されている[デグルートとサッソーネ(deGroot, R.P. and P. Sassone-Corsi)、Mol. Endocrinol., 7:145-153 (1993);ルッペルトら(Ruppert, S. et al.)、EMBO J., 11:1503-1512 (1992)]。これらの切断CREB分子の機能については不明であるが、少なくとも1つのそのようなCREB mRNAがラット精子形成において周期的に調節されている[ワエベルら(Waeber, G. et al. )、Mol. Endocrinol., 5:1418-1430 (1991)]。
【0036】
今のところ、dCREB2はショウジョウバエから単離されたcAMP応答性CREB転写因子としては唯一のものである。他のショウジョウバエCREB分子であるBBF−2/dCREB−A[アベルら(Abel, T. et al. )、Genes Dev., 6:466-488 (1992);スモリクら(Smolik, S.M. et al. )、Mol. Cell Biol., 12:4123-4131 (1992)]、dCREB−B[ウスイら(Usui, T. et al. )、DNA and Cell Biology., 12(7):589-595 (1993) ]、およびdCREB1は哺乳類のCREBおよびCREMに対する相同性が低い。dCREB2はショウジョウバエにおいてCREB遺伝子とCREM遺伝子の両者の機能を組み込んでいる可能性がある。哺乳類のCREBおよびCREM遺伝子はいくつかの点で互いに非常によく似ている。CREBおよびCREMは遺伝子倍化事象の産物であることが示唆されている[リウら(Liu, F. et al.)、J. Biol. Chem., 268:6714-6720 (1993);リアボウォルら(Riabowol, K.T. et al. )、Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol., 1:85-90 (1988) ]。dCREB2は、bZIPドメインにおいてCREBおよびCREM遺伝子に対して高度のアミノ酸配列類似性を有する。さらに、CREB、CREM、およびdCREB2の選択的スプライシングパターンを比較すると、dCREB2はCREBおよびCREMの両者だけに見られる産物に類似のmRNAスプライスシングアイソフォームを生成することがわかる。上記配列情報とスプライスシング構成を総合すると、dCREB2は哺乳類のCREB遺伝子とCREM遺伝子の両者の祖先であることが示唆される。
【0037】
本明細書でさらに詳細に論ずるように、dCREB2が作用して永続的な結果をもたらす可能性がある現象の1つが長期持続記憶に見られる。最近行なわれたアメフラシ(Aplysia )における研究で、CREB因子が「直接早期(immediate early )」遺伝子の誘導により長期疎通において何らかの機能を示すらしいことが明らかにされているため、この可能性はとくに興味深いものである[アルベリニら(Alberini, C.M. et al. )、Cell, 76:1099-1114 (1994) ;ダッシュ(Dash, P.K.)、Nature, 345:718-721 (1990)]。条件的に発現させたdCREB2−bトランスジーンを用いた最近の実験で、CREB因子がショウジョウバエにおける長期持続記憶に対して特異的影響を及ぼすことが示されている。
【0038】
本明細書で説明する第2の遺伝子の産物すなわちdCREB1もCREB/ATFファミリーに属するものと思われる。このものはCREに特異的に結合することが、ゲルリターデーションアッセイで示されている。このものは基本領域および隣接するロイシンジッパーをカルボキシル末端に有しているが、このドメインが他のCREB/ATF遺伝子に対して示すアミノ酸配列類似性は限られている。dCREB1の予想転写活性化ドメインは酸含有率の高い変種のものである。さらに、このものはPKAリン酸化部位に一致する部位を有さない。dCREB1はショウジョウバエL2細胞系におけるCRE含有リポーターからの転写活性化に関与しうるが、この活性化はPKAに依存しない。
【0039】
学習と記憶の生物学に関する研究で繰り返し得られた知見として、cAMPシグナルトランスダクション経路の中枢関与がある。アメフラシにおいては、cAMPセカンドメッセンジャー系が、行動反射の連結調節と非連結調節の両者の基礎をなす神経事象に重要な関与をしている[カンデルとシュワルツ(Kandel, E.R. and J.H. Schwartz)、Science, 218:433-443 (1982) ;カンデルら(Kandel, E.R. et al. )、In Synaptic Function、エデルマンら(Edelmann, G.M. et al. )編、John Wiley and Sons, New York (1987);ビルネら(Byrne, J.H. et al.)、In Advances in Second Messenger and Phosphoprotein Research 、シェノリカーとナイルン(Shenolikar, S. and A.C. Nairn )編、Raven Press, New York, pp. 47-107 (1993)]。ショウジョウバエでは、2つのすなわちdunce突然変異体とrutabaga突然変異体が連合学習の欠陥を検出する行動スクリーンニングで単離されたが、これらのものはcAMP代謝に直接関与する遺伝子中で傷害が起きている[クインら(Quinn, W.G. et al.)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 71:708-712 (1974) ;ドゥダイら(Dudai, Y. et al.)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 73:1684-1688 (1976) ;バイエルスら(Byers, D. et al.)、Nature, 289:79-81 (1981);リビングストンら(Livingstone, M.S. et al.)、Cell, 37:205-215 (1984) ;チェンら(Chen, C.N. et al. )、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83:9313-9317 (1986) ;レヴィンら(Levin, L.R. et al.)、Cell, 68:479-489 (1992) ]。cAMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)のペプチド阻害物質を発現する誘導トランスジーンを用いる逆方向遺伝学的アプローチ、およびPKA触媒サブユニット中の突然変異体の分析によって、上記後者の知見が拡大された[ドラインら(Drain, P. et al.)、Neuron, 6:71-82 (1991);スコウラキスら(Skoulakis, E.M. et al.)、Neuron, 11:197-208 (1993) ]。哺乳類の長期賦活化(long-term potentiation)(LTP)に関する最近の研究でも、シナプス可とう性におけるcAMPの役目が示されている[フレイら(Frey, U. et al. )、Science, 260:1661-1664 (1993) ;フアングとカンデル(Huang, Y.Y. and E.R. Kandel )、In Learning and Memory, vol. 1, pp. 74-82, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY (1994)]。
【0040】
動物における長期持続記憶の形成およびアメフラシにおける長期疎通の形成は、転写または翻訳を阻害する薬剤によって破壊することができる[アグラノフら(Agranoff, B.W. et al. )、Brain Res., 1:303-309 (1966);バロンデスとコーヘン(Barondes, S.H. and H.D. Cohen )、Nature, 218:271-273 (1968);デイビスとスクイレ(Davis, H.P. and L.R. Squire )、Psychol. Bull., 96:518-559 (1984) ;ローゼンツバイクとベンネット(Rosenzweig, M.R. and E.L. Bennett )、In Neurobiology of Learning and Memory、リンチら(Lynch, G. et al.)編、The Guilford Press, New York, pp. 263-288 (1984);モンタロロら(Montarolo, P.G. et al.)、Science, 234:1249-1254 (1986) ]。このことから、記憶の固定にはデ・ノボの遺伝子発現が必要であることが示唆される。cAMPセカンドメッセンジャー経路の関与と、この新規合成遺伝子産物が必要であることを総合して考えると、長期持続記憶(LTM)形成においてcAMP依存性遺伝子発現が何らかの役目を果たしていることが示唆される。
【0041】
哺乳類では、CREB/ATFファミリー由来の遺伝子サブセットがcAMP応答性転写に関与することが知られている[ハベネル(Habener, J.F. )、Mol. Endocrinol., 4:1087-1094 (1990);デグルートとサッソーネ(deGroot, R.P. and P. Sassone-Corsi)、Mol. Endocrinol., 7:145-153 (1993)]。CREBは基本領域ロイシンジッパー転写因子スーパーファミリーに属する[ランドシュルズら(Landschulz, W.H. et al. )、Science, 240:1759-1764 (1988) ]。ロイシンジッパードメインはファミリーメンバー間の選択的ホモおよびヘテロダイマー形成に関与する[ハイら(Hai, T.Y. et al.)、Genes & Dev., 3:2083-2090 (1989);ハイとクルラン(Hai, T. and T. Curran )、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:3720-3724 (1991) ]。CREBダイマーは、多くのcAMP応答性の哺乳類遺伝子の上流側コントロール領域内に保存されているエンハンサーエレメント(CRE)に結合する[ヤマモトら(Yamamoto, K.K. et al. )、Nature, 334:494-498 (1988)]。PKAによって特異的にリン酸化されると転写活性化因子になるCREBもあれば[ゴンザレズとモントミニー(Gonzalez, G.A. and M.R. Montminy)、Cell, 59:675-680 (1989) ;フォウルケスら(Foulkes, N.S. et al.)、Nature, 355:80-84 (1992)]、CREM遺伝子由来のアイソフォームであって、これらのPKA応答性活性化因子の機能性拮抗物質であるCREBもある[フォウルケスら(Foulkes, N.S. et al.)、Cell, 64:739-749 (1991) ;フォウルケスとサッソーネ(Foulkes, N. and P.Sassone-Corsi )、Cell, 68:411-414 (1992) ]。
【0042】
アメフラシの研究で、cAMP応答性転写が長期シナプス可とう性に関与していることが示された[シャッヒャーら(Schacher, S. et al. )、Science, 240:1667-1669 (1988) ;ダッシュ(Dash, P.K.)、Nature, 345:718-721 (1990)]。ニューロン一次共培養系を用いて、アメフラシの鰭引込反射のモノシナプス成分から成る感覚ニューロンと運動ニューロンの間のシナプス伝達の疎通について調べられている。CRE部位を含むオリゴヌクレオチドを感覚ニューロンの核に注入したところ、長期疎通が特異的にブロックされたという[ダッシュ(Dash, P.K.)、Nature, 345:718-721 (1990)]。この結果から、CREB活性化のタイトレーション(titration )が長期シナプス可とう性を阻害する可能性が示唆される。
【0043】
本明細書では、ショウジョウバエのCREB遺伝子の1つであるdCREB2のクローニングとキャラクタライゼーションについて説明する。この遺伝子は、哺乳類CREBと全体構造の相同性を共有するとともに、基本領域−ロイシンジッパー内のアミノ酸もほぼ完全に一致している数種類のアイソフォームを生じる。dCREB2−aアイソフォームはPKA応答性転写活性化因子であるのに対し、dCREB2−b産物は、細胞培養におけるdCREB2−aによるPKA応答性転写をブロックする。互いに相反する活性を有するこれらの分子は、哺乳類のCREM遺伝子のアイソフォームと機能的に類似している[フォウルケスら(Foulkes, N.S. et al.)、Cell, 64:739-749 (1991) ;フォウルケスとサッソーネ(Foulkes, N. and P.Sassone-Corsi )、Cell, 68:411-414 (1992) ;フォウルケスら(Foulkes, N.S. et al.)、Nature, 355:80-84 (1992)]。dCREB2と哺乳類CREBの間に配列上および機能上多くの類似点があることから、cAMP応答性転写は進化の過程で保存されていることが示唆される。
【0044】
ショウジョウバエの記憶形成に関する遺伝学的研究で、タンパク質合成依存性長期持続記憶(LTM)の形成には、休息間隔をはさんだ多くの訓練セッションが必要であることが明らかにされている。本明細書でさらに詳細に論ずるように、このLTMは、cAMP応答性転写因子CREBの抑制因子アイソフォームの誘導発現によって特異的にブロックされる。やはり本明細書でさらに詳細に論ずるように、LTM情報は活性化因子型CREBの誘導発現後に強化される。最大LTMは1回だけの訓練セッション後に達成される。
【0045】
ショウジョウバエの長期持続記憶(LTM)におけるCREBの役目を調べるために、熱ショックプロモーター(hs−dCREB2−b)の制御下でdCREB2−bを発現する優性陰性トランスジェニック系を作成した。あらかじめ熱ショックを誘導しておいたハエの群と誘導しておかなかったハエの群について、パブロフの嗅覚学習後の記憶保持を調べた。この急性誘導法により、発育段階でのdCREB2−bの不適当な発現に起因して起こりうる問題が最小限に抑えられ、記憶形成に及ぼすhs−dCREB2−b誘導の影響を明確に評価することができた。
【0046】
ショウジョウバエでは、嗅覚学習後に固定された記憶は次の2つの遺伝的に明確に区別される成分から成る。すなわち、麻酔抵抗性記憶(ARM)と長期持続記憶(LTM)である。ARMは訓練後4日以内にゼロまで低下し、ARMの形成はタンパク質合成阻害物質であるシクロヘキシミド(CXM)に対して感受性がないが、radish突然変異によって破壊される[フォルケスら(Folkers,E. et al. )、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:8123-8127 (1993) ]。一方、LTMは少なくとも7日間は実質的に全く低下を示さず、その形成はシクロヘキシミド感受性であり、radish突然変異によって破壊されない。集中的なセッション(massed session)と断続的なセッション(spaced session)を含む2種類の訓練プロトコルを用いて[エビングハウス(Ebbinghaus, H.)、Uber das Gedachtnis, Dover, New York (1985) ;バドデレイ(Baddeley, A.D.)、The Psychology of Memory, Basic Books, New York (1976)]記憶形成が解明されている。集中的訓練の手順は、休息間隔を設けない10回連続の訓練サイクルから成るのに対し、断続的訓練のプロトコルは、15分の休息間隔を設けた同一回数のセッションから成る。これらの遺伝学的解析で、集中的なプロトコルではARMのみが生じるのに対し、断続的なプロトコルではARMとLTMの両方から成る記憶保持が生じることが明らかになった。
【0047】
行動観察結果から、LTMの形成はhs−dCREB2−bの誘導発現によって完全にブロックされることがわかる。この作用は行動特異性の点で顕著である。ARMはLTMとは遺伝学的に区別されるが集中的訓練1日後の時点ではLTMと共存してる固定記憶の1形態であるが、これは影響を受けなかった。学習と末梢行動も同様に正常であった。したがって、誘導hs−dCREB2−bトランスジーンの影響はLTMに対して特異的であることになる。
【0048】
突然変異体型遮蔽因子の誘導は、LTMに影響を及ぼさなかった。この結果と、野生型遮蔽因子の誘導は転写に広範な影響を及ぼさないことを示した分子データを総合的にみると、遮蔽因子がLTMを特異的にブロックする場合は、相応の特異性を分子レベルで発揮することが示唆される。野生型ブロッカーは細胞培養におけるcAMP応答性転写をブロックしうるため、イン・ビボでcAMP依存性転写を阻害する可能性がある。遮蔽因子機能にはダイマー化が必要であること、および野生型遮蔽因子は活性化因子であるdCREB2−aとヘテロダイマーを形成するか、ホモダイマーを形成してdCREB2−aのホモダイマーとのDNA結合を巡って競合することによって、cAMP応答性転写を阻害しうると考えるのが妥当である。したがって、活性化因子および抑制因子はホモダイマーまたはヘテロダイマーを形成する可能性がある。活性化因子たるホモダイマーのレベルが正常値から上昇する場合、および/または活性化因子−抑制因子たるヘテロダイマーのレベルが正常値から低下する場合、および/または抑制因子たるホモダイマーのレベルが正常値から低下する場合に、長期持続記憶が強化されると考えるのが妥当である。いずれの場合も、LTMのブロックは行動特異性があるため、dCREB2−bの単数または複数の分子ターゲットは関心の的となることが多い。
【0049】
ショウジョウバエでは、長期持続型への記憶の固定は様々な物質によって阻害される。単一遺伝子の突然変異であるradish突然変異および薬剤CXMを用いて、ハエにおける長期持続記憶が2つの成分、すなわちradish突然変異によって阻害されるCXM非感受性ARMとradish突然変異体中では正常なCXM感受性LTMとに分けることができることが示されている。本明細書で説明するように、CREBファミリーのメンバーが記憶固定のCXM感受性LTMブランチに関与しているらしい。本明細書で説明する結果と、長期持続記憶がCXM非感受性ARMとCXM感受性LTMとに分解できることとを総合してみると、嗅覚学習後固定記憶の1つの機能成分だけが4日を超える長期にわたり持続すること、デ・ノボのタンパク質合成を必要とすること、およびCREBファミリーのメンバーが関与することが示される。
【0050】
アメフラシにおける研究に基づき、短期的タンパク質合成非依存性シナプス可とう性から長期的タンパク質合成依存性シナプス可とう性までの変化の基礎をなす単数または複数の分子機構を説明するモデルが提案されている[アルベリニら(Alberini, C.M. et al. )、Cell, 76:1099-1114 (1994) ]。ショウジョウバエの長期持続記憶に関する本願研究では、このモデルを生物体全体に拡大している。この変化の分子的側面として重要なのは、PKAの触媒サブユニットの核への移動[バックサイら(Backsai, B.J. et al.)、Science, 260:222-226 (1993) ]およびそれに続くCREBファミリーメンバーのリン酸化と活性化[ダッシュ(Dash, P.K.)、Nature, 345:718-721 (1990);カーングら(Kaang, B.K. et al.)、Neuron, 10:427-435 (1993) ]に関与しているものと思われる。ハエでは、内因性dCREB2−aアイソフォームがこれらの核ターゲットの1つとなっているらしい。次いで、活性化されたdCREB2−a分子が、明らかにアメフラシの場合にも該当する即時型遺伝子(immediate early genes )などの上記以外のターゲット遺伝子を転写する[アルベリニら(Alberini, C.M. et al. )、Cell, 76:1099-1114 (1994) ]。
【0051】
核成分を含むcAMPシグナルトランスダクション経路が、これらの種および行動上の役目のそれぞれにおける記憶関連機能に必要と思われることが注目される。海馬切片における長期持続型LTPの細胞分析結果[フレイら(Frey, U. et al. )、Science, 260:1661-1664 (1993) ;フアングとカンデル(Huang, Y.Y. and E.R. Kandel )、In Learning and Memory, vol. 1, pp. 74-82, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY (1994)]と総合してみると、cAMP応答性転写は、短期記憶から長期持続記憶への固定に関与する保存分子スイッチであると考えられる。したがって、CREBアイソフォームの差別調節が長期持続記憶形成の分子スイッチとして働くと考えるのが妥当である。
【0052】
記憶形成に共通する性質の1つは、断続的訓練(休息間隔を設けた反復訓練セッション)の方が、集中的訓練(休息間隔を設けない同回数の訓練セッションを行なう)よりも強力かつ長期的に持続する記憶を生ずるというものである[エビングハウス(Ebbinghaus, H.)、Uber das Gedachtnis, Dover, New York (1985) ;ヒンツマン(Hintzman, D.L.)、In Theories in Cognitive Psychology: The Loyola Symposium 、ソルソ(R.L. Solso)編、pp. 77-79, Lawrence Erlbaum Assoc., Hillsdale, New Jersey (1974);カリューら(Carew, T.J. et al.)、Science, 175:451-454 (1972) ;フロストら(Frost, W.N. et al.)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82:8266-8269 (1985) ]。この現象はミバエの条件付け臭気回避反応でも見られるが[トゥリーとクイン(Tully,T. and W.G. Quinn )、J. Comp. Physiol. 157:263-277 (1985)]、この長期持続記憶を遺伝学的に解析したところ、集中的訓練と断続的訓練の間に重要な違いがあることが判明した。断続的訓練では、機能的に独立した2つの型の固定記憶、すなわちARMとLTMが生じるのに対し、集中的訓練ではARMのみが生じる。
【0053】
本明細書で説明するように、ARMとLTMは主に誘導時のタンパク質合成の要求性の点で異なる。タンパク質合成阻害物質シクロヘキシミド(CXM)を訓練直前または直後のハエに与えるとARMは影響を受けないが、LTMは同じ投与条件下で完全にブロックされる。正常なハエにおけるARMも訓練後4日以内に低下するのに対し、LTMは少なくとも7日間は低下しない。すなわち、LTMの誘導にはタンパク質合成が必要であるが、いったん形成されたLTMは永続的に維持される。LTMの後者の性質は動物界全体に見られる[デイビスとスクイレ(Davis, H.P. and L.R. Squire )、Psychol. Bull., 96:518-559 (1984) ;カステルルッチら(Castellucci, V.F. et al.)、J. Neurobiol., 20:1-9 (1989);エルベル(Erber, J. )、J. Comp. Physiol. Psychol., 90:41-46 (1976) ;ジャッフェ(Jaffe, K. )、Physiol. Behav., 25:367-371 (1980)]。LTMの形成には関連シナプスにおけるタンパク質合成依存性構造変化が関与しているという神経生物学的解釈が生まれつつある[グリーンオウフ(Greenough, W.T. )、TINS, 7:229-283 (1984);ブオノマノとビルネ(Buonomano, D.V. and J.H. Byrne)、Science, 249:420-423 (1990) ;ナジフら(Nazif, F.A. et al.)、Brain Res.、539:324-327 (1991);ステワルト(Stewart, M.G. )、In Neural and Behavioural Plasticity: The Use of the Domestic Chick As A Model、アンドリュー(R.J. Andrew )編、pp. 305-328, Oxford, Oxford (1991);バイレイとカンデル(Bailey, C.H. and E.R. Kandel)、Sem. Neurosci., 6:35-44 (1994)]。このタンパク質合成依存性作用は遺伝子発現の調節に基づくものであるというのが最新の分子論的見解である[ゴエレットら(Goelet, P. et al. )、Nature, 322:419-422 (1986);ガルとラウテルボルン(Gall, C.M. and J.C. Lauterborn)、In Memory: Organization and Locus of Change 、スクイレら(L.R. Squire et al.)編、pp. 301-329 (1991);アームストロングとモントミニー(Armstrong, R.C. and M.R. Montminy )、Annu. Rev. Neurosci., 16:17-29 (1993) ]。
【0054】
そこで、断続的訓練がLTMの誘導に必要である理由は何かという疑問が生じる。集中的訓練手順と断続的訓練手順はいずれも10回の訓練セッションを含んでいた。したがって、ハエは関連刺激(1つの臭気と電気ショックを時間的に1組にし、第2の臭気をショックなしで与える)に対して等量の曝露を受けるはずである。集中的手順と断続的手順の唯一の違いは、各訓練セッション間に休息間隔があるかどうかである。集中的訓練の際にはセッション間に休息間隔がないが、これが記憶形成過程を破壊するとは思えない。集中的訓練直後に測定した初期学習レベルは、断続的訓練後のものと同様である。加えて、ARMレベルは両方の訓練の後で同様である。また、断続的訓練の際の休息間隔の存在がLTMの誘導に決定的であると思われる。
【0055】
この休息間隔の時間動態をLTMの形成との関連から調べるために(図13Aおよび13B)、ARMは4日以内にゼロに低下するということを考慮し、断続的訓練で通常用いられる10回セッションによって、最大7日間の記憶保持(7日間保持はLTMのみで構成される)が得られることをまず確認した。
【0056】
図13Aは、15回または20回のセッションでは記憶保持が向上しなかったことを示している。したがって、10回の断続的訓練セッションで最大無症状LTMレベルが生じることになる。
【0057】
次いで、10回の断続的訓練におけるセッション間の休息間隔の長さとLTMの関係を調べた。図13Bは、LTMが0分休息間隔(集中的訓練)から、最大LTMレベル到達時間の10分休息間隔まで連続的に増加することを明らかにしている。より長い休息間隔では、同様の記憶スコアーが生じた。LTM形成に関するこれらの知見から、セッション間の休息間隔の際に量的に変化するとともに、反復訓練セッション中に蓄積する基本的生物過程の存在が示唆される。
【0058】
トランスジェニックのハエでは、cAMP応答性転写因子CREBの抑制因子型の誘導発現によってLTMの形成(LTMの形成でもなく、その他の学習または記憶の側面でもない)が阻害される(実施例4)。このCREB抑制因子の「ロイシンジッパー」ダイマー化ドメイン中の2つのアミノ酸に突然変異を誘発したところ、LTMに対する優性陰性作用が十分に防止された。したがって、LTMはタンパク質合成依存性であるだけでなく、CREBにも依存することになる。さらに一般化して述べると、CREB機能は、断続的訓練によってのみ誘導される型の記憶に特異的に関与する。CREBの分子的性質を考慮すると、この知見はとくに興味深い。
【0059】
ショウジョウバエでは、dCREB2の転写および/または翻訳後調節が数種類のmRNAアイソフォームを生じる。哺乳類F9細胞における一時的トランスフェクションアッセイで、これらのアイソフォームのうちの1つ(CREB2−a)が転写のcAMP応答性活性化因子として機能し、第2のアイソフォーム(CREB2−b)がその活性化因子の拮抗的抑制因子として作用することが証明されている[実施例1;ハベネル(Habener, J.F. )、Mol. Endocrinol., 4:1087-1094 (1990);フォウルケスとサッソーネ(Foulkes, N. and Sassone-Corsi )、Cell, 68:411-414 (1992) 参照]。(この抑制因子アイソフォームは以前に上記誘導トランスジーンの生成に用いられた。)相反する機能を有する異なるCREBアイソフォームが存在することから、LTMの形成には頻回訓練セッション間に休息間隔が存在する必要があることが説明できるものと思われた。
【0060】
本モデル(実施例7、図14)の最も簡単な形は、訓練時に活性化されたcAMP依存性タンパク質キナーゼ(PKA)がCREB活性化因子アイソフォームと抑制因子アイソフォームの両者の合成および/または機能を誘導するとの仮定に基づくものである[ヤマモトら(Yamamoto, K.K. et al. )、Nature, 334:494-498 (1988);バックサイら(Backsai, B.J. et al.)、Science, 260:222-226 (1993) 参照]。訓練直後には、CREB活性化因子の下流側事象誘導能力をブロックするのに十分なCREB抑制因子が存在する。次いで、CREB抑制因子アイソフォームが、CREB活性化因子アイソフォームよりも早く不活化される。このようにして、機能性活性化因子の正味量(ΔC=CREB2a−CREB2b)が休息間隔の際に増加した後、反復訓練セッション(休息間隔あり)の際に蓄積して、LTM形成に関与する下流側ターゲットをさらに誘導する[モンタロロら(Montarolo, P.G. et al.)、Science, 234:1249-1254 (1986);カーングら(Kaang, B.K. et al.)、Neuron, 10:427-435 (1993) ]。
【0061】
本モデルから、すでに確認済みの次の3つの予測ができる。まず、1つの訓練セッション直後のCREB活性化因子アイソフォームと抑制因子アイソフォームの間の機能的違いがゼロ(ΔC=0)であるとすれば、集中的訓練セッションを追加してもLTMは生じないはずである。図15Aは、通常の10回セッションではなく48回の集中的訓練セッションを行なうと、7日間記憶保持が生じないことを示している。次に、CREB抑制因子の量を実験的に増加させた場合、ΔCは訓練直後にはマイナスになる(ΔC<0)。したがって、十分量のLTM誘導CREB活性化因子を遊離するのに十分な量のCREB抑制因子が休息間隔の際に破壊されない可能性がある。このことは、訓練開始3時間前にhsp−dCREB2−b(抑制因子)トランスジーンの発現を誘導した後での断続的訓練(15分休息間隔)の場合にもあてはまることが示されている(実施例4)。第3に、CREB活性化因子の量を実験的に増加させた場合、ΔCは訓練直後にプラスになる(ΔC>0)。次いで、この作用が、LTMの誘導に必要な休息間隔を除去または低下させるはずである。図15Bは、hsp−dCREB2−a(活性化因子)トランスジーンの発現を訓練開始3時間前に誘導した最近の実験の結果を示したものである。これらのトランスジェニックハエにおいては、集中的訓練によって最大LTMが生成された。熱ショック誘導後のトランスジェニックハエにおいては嗅覚、ショック反応性(図15C)、および初期学習は正常であったことから、この作用は自明的に生じるのではないと思われた。したがって、LTMの特異的誘導における訓練セッション間の休息間隔の必要性がなくなった。
【0062】
図15Bはまた、ただ1回の訓練セッション後に、誘導hsp−dCREB2−aトランスジェニックハエにおいて最大LTMが生じたことを示している。強力な長期持続性記憶の形成には通常、さらに訓練が必要であるが、上記の場合にはもはや不要であった。すなわち、CREB活性化因子の誘導過剰発現により、他の点では正常なハエにおいて、「写真的」記憶と機能的に同等のものが生じた。この結果から、たとえば訓練時に存在するCREB活性化因子の量(核内でCREBに到達する活性化PKAの量ではない)[バックサイら(Backsai, B.J. et al.)、Science, 260:222-226 (1993) ;カーアングら(Kaang, B.K. et al.)、Neuron, 10:427-435 (1993) ;フランクとグリーンベルグ(Frank, D.A. and M.E. Greenberg)、Cell,79:5-8 (1994) 参照]がLTM形成の速度制限ステップとなっていることがわかる。これらの実験の結果を総合すると、CREB活性化因子と抑制因子の相反する機能が「分子スイッチ」[フォウルケスら(Foulkes, N.S. et al.)、Nature, 355:80-84 (1992)参照]として作用し、最大LTM形成に必要な拡大訓練のパラメーター(訓練セッションの回数およびそれらの間の休息間隔)を決定するという説が裏付けられる。
【0063】
今日まで7種類の異なるdCREB2 RNAアイソフォームが同定されており、実際にはこれを上回る数が存在するものと仮定されている。それぞれが、LTM形成前またはその途中で転写レベル[メイエルら(Meyer, T.E. et al.)、Endocrinology, 132:770-780 (1993) ]および/または翻訳レベルで差別的に調節されている可能性がある。また、異なる(ニューロン)細胞タイプには異なる組み合わせのCREBアイソフォームが存在する可能性がある。したがって、活性化因子と抑制因子分子に関しては多種の組み合わせが可能である。この観点から、すべての活性化因子と抑制因子が訓練セッション中に誘導されたり、すべての抑制因子が活性化因子より早く不活化する(上記参照)という説が必ずしも成り立つ必要がなくなる。その代わり、モデルは、ΔC(活性化因子と抑制因子の正味関数)が訓練直後にゼロ未満またはゼロに等しく、経時的に(休息間隔)に増大するだけでよい。
【0064】
理論的には、関連する単数または複数のニューロンにおける活性化因子分子および抑制因子分子の特定の組み合わせが、特定の役目または種における最大LTMを生じるのに必要な休息間隔および/または訓練セッションの数を決定するはずである。したがって、本モデルの妥当性の確立のためには、ミバエにおけるLTM形成の際に利用されるそれぞれのCREB活性化因子および抑制因子アイソフォームの分子的同定および生化学的キャラクタライゼーションを次に行なう必要がある。他の種における同様の実験でモデルの普遍性が確立される可能性がある。
【0065】
CREBはLTMにだけ関与しているのではないことは明白である。たとえばdCREB2遺伝子はすべてのミバエ細胞で発現され、おそらくは数種類の細胞事象を調節する作用を示す[フォウルケスら(Foulkes, N.S. et al.)、Nature, 355:80-84 (1992)]。
【0066】
そこで、CREBがLTMに及ぼす影響の特異性を決定するのは何であるかという疑問が生じる。特異性は、特定の学習機能と関連するニューロン回路に存在する可能性が最も高い。たとえばミバエの嗅覚学習の場合、CREBはおそらくcAMPセカンドメッセンジャー経路を介して調節されるのであろう。この経路の上記以外の成分が遺伝的に破壊されると、嗅覚学習と記憶に影響が及ぶことが知られている[リビングストンら(Livingstone, M.S. et al.)、Cell, 37:205-215 (1984) ;ドラインら(Drain, P. et al.)、Neuron, 6:71-82 (1991);レヴィンら(Levin, L.R. et al.)、Cell, 68:479-489 (1992) ;スコウラキスら(Skoulakis, E.M. et al.)、Neuron, 11:197-208 (1993) ;キウとデイビス(Qiu, Y. and R.L. Davis)、Genes Develop., 7:1447-1458 (1993)]。おそらく、条件付け(訓練)の際に用いた刺激が基本的ニューロン回路を刺激するのであろう。cAMP経路はこの回路に関与する(一部の)ニューロンにおいて活性化され、続いて「記憶細胞」内で発現のCREB依存性調節が起きる。ショウジョウバエにおいてLTM特異的CREB機能が存在するニューロンを同定することで、この神経生物学的仮説が確証される可能性がある。アメフラシにおけるニューロン共培養系を用いた実験がこの問題に関してすでに大きく寄与している[アルベリニら(Alberini, C.M. et al. )、Cell, 76:1099-1114 (1994) およびその引用文献]。
【0067】
記憶またはイン・ビボにおける記憶の基礎をなすニューロンの構造変化におけるCREBの関与は、軟体動物[ダッシュ(Dash, P.K.)、Nature, 345:718-721 (1990);アルベリニら(Alberini, C.M. et al. )、Cell, 76:1099-1114 (1994) ]およびマウス[ボウルトチュラッゼら(Bourtchuladze, R. et al.)、Cell, 79:59-68 (1994) ]でも示されている。アメフラシにおける連合学習[カンデルら(Kandel, E.R. et al. )、In Synaptic Function、エデルマンら(Edelmann, G.M. et al. )編、John Wiley and Sons, New York (1987);ビルネら(Byrne, J.H. et al.)、In Advances in Second Messenger and Phosphoprotein Research 、シェノリカールとナイルン(Shenolikar, S. and A.C. Nairn )編、Raven Press, New York, pp. 47-107 (1993)]および脊椎動物における連合学習の細胞モデルであるラット海馬の長期増強化(LTP)[フレイら(Frey, U. et al. )、Science, 260:1661-1664 (1993) ;フアングとカンデル(Huang, Y.Y. and E.R. Kandel )、In Learning and Memory, vol. 1, pp. 74-82, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY (1994)]におけるcAMPセカンドメッセンジャー経路の関与を示す証拠も十分にある。最後に、細胞学的および生化学的実験で、CREB機能は上記以外のセカンドメッセンジャー経路によって調節されていることが示唆されている[ダッシュら(Dash, P.K. et al. )、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:5061-5065 (1991) ;ギンティら(Ginty, D.D. et al.)、Science, 260:238-241 (1993) ;デグルートとサッソーネ(deGroot, R.P. and P. Sassone-Corsi)、Mol. Endocrinol., 7:145-153 (1993)]。これらの知見から、CREBは多くの種および役目においてLTMの分子スイッチとして作用する可能性が示唆される。
【0068】
最後の疑問として、LTMの形成に分子スイッチが必要なことの理由がある。多くの関連事象は動物の生涯でただ1度だけ起きる。そのような事象を長期的に記憶しておく必要はなく、そうでなければ逆効果である。その代わり、繰り返し経験される明確な事象が記憶形成に値する。要するに、1つの繰り返し事象は1回切り事象のノイズを上回る関連シグナルから成る。したがって、目的論的にいうと、分子スイッチは、不連続的であるが繰り返し性がある事象だけが確実に記憶されるように情報フィルターとして作用するのかもしれない。そのような機構は、個体の行動レパートリーを独特の環境に適合させる上で効果的に働く。
【0069】
本発明はまた、(1)環状3’,5’−アデノシン一リン酸(cAMP)応答性転写活性化因子またはその機能性断片、または(2)cAMP応答性転写活性化因子の拮抗物質またはその機能性断片、または(3)活性化因子と拮抗物質の両者またはそれらの機能性断片をコードする配列を有する単離DNAに関する。
【0070】
本発明は、ショウジョウバエのdCREB2アイソフォームまたはその機能性類似体をコードする配列を有する単離DNAに関する。本明細書でいうdCREB2アイソフォームの機能性類似体とは、cAMP応答性転写活性化因子機能および/または該cAMP活性化因子機能の拮抗的抑制物質などの、ショウジョウバエdCREB2アイソフォームの少なくとも1つの機能性を含むものである。これらの機能(すなわちPKA応答性転写に関与する能力)は、常法(たとえばCREB依存性活性化を調べるアッセイなど)によって検出することができる。たとえば、F9細胞の内因性cAMP応答性系は不活性であるため、CREB依存性活性化を研究する目的にF9細胞におけるアッセイが広く用いられている[ゴンザレズら(Gonzalez, G.A. et al. )、Nature, 337:749-752 (1989);マッソンら(Masson, N. et al. )、Mol. Cell Biol., 12:1096-1106 (1992);マッソンら(Masson, N. et al. )、Nucleic Acids Res., 21:1163-1169 (1993) ]。
【0071】
本発明はさらに、ショウジョウバエdCREB2遺伝子またはその機能性断片をコードする配列を有する単離DNAに関する。これらの基準に合う単離DNAは、天然のショウジョウバエdCREB2の配列およびそれらの一部、または天然配列の変異体と同一の配列を有する核酸から成る。そのような変異体としては、1つ以上の核酸の付加、欠失、または置換によって変化した突然変異体などが挙げられる。
【0072】
本発明は、(1)図1AのDNA配列(配列番号1)またはその相補鎖を有する核酸にハイブリダイズする能力を有すること、または(2)図1Aのアミノ酸配列(配列番号2)のポリペプチドまたはその機能性同等物(すなわちcAMP応答性転写活性化因子として機能するポリペプチド)をコードする能力を有すること、または(3)両方の性質を有することを特徴とする単離DNAに関する。これらの基準に合う単離核酸は、哺乳類のCREB、GREM、およびATF−1遺伝子産物の配列に相同な配列を有する核酸から成る。これらの基準に合う単離核酸はまた、天然のショウジョウバエdCREB2の配列またはそれらの一部、または天然配列の変異体と同一の配列を有する核酸から成る。そのような変異体としては、1つ以上の残基の付加、欠失、または置換によって変化した突然変異体、1つ以上の残基が修飾された修飾核酸(たとえばDNAまたはRNA類似体)、および1つ以上の修飾残基から成る突然変異体などが挙げられる。
【0073】
上記核酸は、たとえば高い厳密性(high stringency )の条件または温和な厳密性(moderate stringency )の条件下で検出および単離することができる。核酸ハイブリダイズゼーションに関する「高い厳密性の条件」および「温和な厳密性の条件」については、既報[アウスベルら(Ausubel, F.M. et al.)編、Cuttent Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, Supple. 26, 1991]のページ2.10.1〜2.10.16(とくに2.108〜11参照)およびページ6.3.1〜6に説明があり、同文献の開示内容も引例により本願に含まれるものとする。プローブ長、塩基組成、ハイブリダイズした配列間のミスマッチ率、温度、およびイオン強度などの因子が核酸ハイブリッドの安定性に影響を及ぼす。したがって、高いまたは温和な厳密性の条件は、他の未知の核酸と相同性の比較を行なう公知のDNAの特性に一部依存して、経験的に決定することができる。
【0074】
図1Aの配列を有する核酸またはその相補鎖にハイブリダイズする(たとえば高い厳密性または温和な厳密性の条件下で)能力を有することを特徴とする単離核酸はさらに、cAMP応答性転写活性化因子として機能するタンパク質またはポリペプチドをコードするものであってよい。
【0075】
本発明はまた、エンハンサー特異的活性化因子またはその機能性断片をコードする配列を有する単離DNAに関する。
【0076】
本発明はさらに、ショウジョウバエdCREB1遺伝子またはその機能性断片をコードする配列を有する単離DNAに関する。これらの基準に合う単離DNAは、天然のショウジョウバエdCREB1の配列およびそれらの一部、または天然配列の変異体と同一の配列を有する核酸から成る。そのような変異体としては、1つ以上の核酸の付加、欠失、または置換によって変化した突然変異体などが挙げられる。
【0077】
本発明はさらに、(1)図5のDNA配列(配列番号7)を有する核酸にハイブリダイズする能力を有すること、または(2)図5のアミノ酸配列(配列番号8)のポリペプチドをコードする能力を有すること、または両方の特徴を有することを特徴とする単離DNAに関する。これらの基準に合う単離DNAも、天然のショウジョウバエdCREB1の配列およびそれらの一部、または天然配列の変異体と同一の配列を有する核酸から成る。そのような変異体としては、1つ以上の残基の付加、欠失、または置換によって変化した突然変異体、1つ以上の残基が修飾された修飾核酸(たとえばDNAまたはRNA類似体)、および1つ以上の修飾残基から成る突然変異体などが挙げられる。
【0078】
上記核酸は、たとえば上記の高い厳密性の条件又は温和な厳密性の条件下で検出および単離することができる。
【0079】
特定の機能を有するポリペプチドをコードする単離DNAの断片は、たとえばジャシンら(Jasin, M. et al.)の方法(米国特許第4,952,501号)によって同定および単離することができる。
【0080】
無脊椎動物における一酸化窒素:Ca2+/カルモジュリン依存性一酸化窒素合成酵素をコードするショウジョウバエdNOS遺伝子
一酸化窒素(NO)は哺乳動物内の広範囲にわたる様々な生物学的過程の気状媒介物質である。出願人らはCa2+/カルモジュリン依存性一酸化窒素合成酵素(NOS)をコードするショウジョウバエ遺伝子dNOSをクローン化した。ショウジョウバエ中に機能的NOS遺伝子が存在することは、無脊椎動物がNOを合成し、おそらくはそれをメッセンジャー分子として使用することの決定的な証拠を提供する。さらに、dNOSと脊椎動物神経NOSの間の二者択一的RNAスプライシングパターンの保存は、NOSの生化学および/または調節における広範囲な機能的相同性を示唆している。
【0081】
NOは、L-アルギニンのL-シトルリンへの変換の間に一酸化窒素合成酵素(NOS)によって合成される(Knowels, R.G.ら, Biochem. J. , 298: 249(1994); Nathan, C.ら, J. Biol. Chem., 269: 13725(1994); Marletta, M.A., J. Biol. Chem., 268: 12231(1993))。NOSの生化学的性質検討により2つの一般的クラスが区別されている:(i)構成的、外因性Ca2+およびカルモジュリン依存性および(ii)誘導性、外因性Ca2+およびカルモジュリン非依存性。cDNAクローンの分析により哺乳類中に少なくとも3つの異なるNOS遺伝子が同定されている(Bredt, D.S.ら, Nature, 351: 714-718(1991); Lamas, S.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 6348-6352(1992); Lyons, C.R.ら, J. Biol. Chem., 267: 6370(1992); Lowenstein, C.J.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 6711(1992); Sessa, W.C.ら, J. Biol. Chem., 267: 15274(1992); Geller, D.A.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 3492(1993); Xie, Q.ら, Science, 256: 225-228(1992))。それは神経、内皮およびマクロファージで、最初の2つは構成的で、最後の1つの誘導性である。本明細書で用いるこれらの異なるアイソフォームの名前は歴史的なもので、現在では1またはそれ以上のアイソフォームが同じ組織内に存在しうることが明らかになっている (Dinerman, J.L.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91: 4214-4218(1994)) 。
【0082】
拡散性の遊離ラジカル気体として、NOは哺乳類生理学の多くの側面に影響を与える多機能メッセンジャーである[総説としてはDawson, T.M.ら, Ann. Neurol. 32: 297 (1992) ; Nathan, C., FASEB J. 6: 3051(1992); Moncada, S.ら, N. Eng. J. Med., 329: 2002-2012(1993); Michel, T.ら, Amer. J. Cardiol. 72: 33C(1993); Schuman, E.M.ら, Annu. Rev. Neurosci. 17: 153-183(1994)を参照のこと]。NOは元々、血管緊張の調節に寄与する内皮由来の弛緩因子(Palmer, R.M.J., Nature 327: 524(1987); Palmer, R.M.J.ら, Nature 333: 664(1988);Ignarro, L.J.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84: 9265(1987)) およびマクロファージ媒介細胞毒性に関与する因子 (Marletta, M.A.ら, Biochemistry 21: 8706(1988); Hibbs, J.B.ら, Biochem. Biophys. Res. Comm. 157: 87(1989); Steuher, D.J.ら, J.Exp. Med., 169: 1543(1989))として同定された。NOは血小板凝集の阻害、炎症の促進、リンパ球増殖の阻害および腎臓における微小循環の調節を含むいくつかの生理学的過程に関連付けられてきた(Radomski, M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 5193(1990); Albina, J.E., J. Immunol. 147: 144(1991); Katz, R., Am. J. Physiol. 261: F360(1992); Ialenti, A.ら, Eur. J. Pharmacol. 211: 177(1992))。さらに最近になって、NOが哺乳類の中枢および末梢神経系における細胞-細胞相互作用――神経伝達物質放出の調節、NMDA受容体-チャンネル機能の調節、神経毒性、非アドレナリン性非コリン性腸弛緩 (Uemura, Y.ら, Ann. Neurol. 27: 620-625(1990)) および神経系遺伝子発現の活性依存的調節(Uemura, Y.ら, Ann. Neurol. 27: 620(1990); Dawson, V. L.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 6368(1991); Lei, S. Z.ら, Neuron 8: 1087(1992); Prast, H.ら, Eur. J. Pharmacol. 216: 139(1992); Peunova, N., Nature 364: 450(1993))に役割を果たしていることが明らかにされた。ラットCNSの発生中の断片化およびシナプス合成におけるNO機能に関する最近の報告(Bredt, D.S., Neuron 13: 301(1994); Roskams, A.J., Neuron 13: 289(1994))は、NOが皮質中の微細構造の組織化の基礎をなす活性依存的機構を調節することを示唆している(Edelman , G.M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 11651-11652(1992))。NOは海馬状隆起における長期増強および小脳における長期抑制(行動形成性の基礎をなしうるシナプス形成性の2つの形態)に関与するようにも思われる(Bohme, G.A., Eur. J. Pharmacol. 199: 379(1991); Schuman, E.M., Science 254: 1503(1991); O'Dell, T.J.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 11285(1991); Shibuki K., Nature 349: 326(1991); Haley, J.E.ら, Neuron 8: 211(1992); Zhuo, M., Science 260: 1946(1993); Zhuo, M.ら, NeuroReport 5: 1033(1994))。これらの細胞研究と一貫して、NOS活性の阻害は学習と記憶を破壊することが示されている(Chapman, P.F.ら, NeuroReport 3: 567(1992); Holscher, C., Neurosci. Lett. 145: 165(1992); Bohme, G.A.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 9191(1993); Rickard, N.S., Behav. Neurosci. 108: 640-644(1994))。
【0083】
上記の結論の多くは、NOの供給源または一酸化窒素合成酵素の阻害剤を用いる医薬的研究に基づいている。それら薬物は複数の標的と相互作用し、それらは特異的部位に送達されえないので、通常このような研究の解釈は制限されている。しかし分子遺伝学的方法は、薬物の標的の1つを産出する特定の遺伝子を破壊することによって、これらの問題を克服することができる。最近、このような方法が、神経NOS(nNOS)のノックアウト変異の生成によって、マウスにおいて試みられている(Haung, P.L.ら, Cell 75: 1273-1286(1993))。nNOS変異体は完全に生存可能で繁殖力を持つように見えるが、胃の形態と海馬状隆起の長期増強にわずかな欠陥が検出された(Huang, P.L.ら, Cell 75: 1273-1286(1993); O'Dell, T.J.ら, Science 265: 542-546(1994))。さらに、いくつかのNOS酵素活性が脳のある領域にまだ存在し、このことはCNSにおける他のNOS遺伝子の役割を示唆している。NO機能の1つの特定の成分についていくつかの関連する情報を得る間、このnNOS破壊が発生中ずっと存在した。したがって成体におけるNOS破壊の機能的欠損は発生中に生じる構造的欠損から十分には解明できなかった。対照的に、ショウジョウバエには遺伝子機能の破壊を時間的または空間的に制限する遺伝子的手段が存在する。
【0084】
ショウジョウバエNOS相同体候補を同定するため、実施例11に記述するように、ラット神経NOS cDNA(Bredt, D.S.ら, Nature 351: 714-718(1991))の断片を低い厳密さでショウジョウバエゲノムのファージライブラリーにハイブリッド形成させた。このラットcDNA断片は、NOS活性に必要な補因子であるFADおよびNADPHの結合ドメイン(配列番号11のアミノ酸979-1408)をコードするので、ショウジョウバエ中に保存されていると予想された。このラットプローブを用いていくつかのショウジョウバエゲノムクローンを同定し、それらを8つにクラス分けした。これらのゲノムクローンから得られる3つの制限断片の配列分析により、哺乳類NOSに高い相同性を持つ1つ(2.4R)が明らかになった。その2.4R断片内にコードされているORFの推定アミノ酸配列は、ラット神経NOSとFADおよびNADPHの結合部位に対して40%の相同性を示した。
【0085】
次にこの2.4R DNA断片を用いて、実施例11に記述の如く、ショウジョウバエ成体頭部cDNAライブラリーをプローブし、8つのクローンを単離した。制限分析はすべてが同一の挿入断片を含有することを示し、このショウジョウバエ遺伝子によって発現される主要転写物を明確にした。1つのクローン(c5.3)を両方向に配列決定した。その4491bp cDNAは4350bpの1つの長いORFを含有した。このORFを開始するメチオンニンにはACAAGが先行しており、これはショウジョウバエ遺伝子の翻訳開始コンセンサス(A/CAAA/C)と良く合致している(Cavener, D.R., Nucleic Acids Res. 15: 1353-1361(1987))。このORFの概念的翻訳は151,842Daの分子量を持つ1350アミノ酸からなるタンパク質を与えた。
【0086】
この推定ショウジョウバエタンパク質(DNOS)のアミノ酸配列(配列番号9)を哺乳類NOSの配列と比較すると、DNOSが神経NOS(配列番号11)と43%同一、内皮NOS(配列番号10)と40%同一、マクロファージNOS(配列番号12)と39%同一であることがわかった。DNOS中の類似する構造モチーフも明らかになった(図16A〜16C)。DNOSタンパク質のC末端側の半分は、推定FMN-、FAD-およびNADPH-結合部位に対応する高い相同領域を含有する。FADおよびNADPHとの接触を形成するのに重要であると思われる哺乳類NOS中のアミノ酸(Bredt, D.S.ら, Nature 351: 714-718(1991); Lamas, S.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 6348-6352(1992); Lyons, C.R.ら, J. Biol.Chem. 267: 6370(1992); Lowenstein, C.J.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 6711(1992); Sessa, W.C.ら, J. Biol. Chem. 267: 15274(1992); Geller, D.A.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 3491(1993); Xie, Q.ら, Science 256: 225-228(1992))はDNOS中に保存されている。配列番号9の残基215と746の間のDNOSの中間部分は、哺乳類NOSに対して最も高い類似性を示した:それは神経アイソフォームに対して61%同一で、内皮およびマクロファージアイソフォームに対して53%同一である。哺乳類酵素中のヘム-およびカルモジュリン-結合部位と考えられている部分に対応する配列はDNOS中で良く保存されている。配列番号9の残基643-671の間に位置するその領域は、カルモジュリン結合ドメイン(塩基性、両親媒性α-ヘリックス)の特徴を持つ(O'Neil, K.T.ら, Trends Biochem. Sci. 15: 59-64(1990))。これら2つの部位の間のアミノ酸配列はすべての4 つのNOS タンパク質間で極めてよく保存されており、このことはアルギニン結合部位(Lamas, S.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 6348-6352(1992))、テトラヒドロビオプテリン補因子結合部位または二量化ドメインのような機能的に重要なドメインの所在を示唆している。DNOSは神経NOSおよび内皮NOSと類似する位置に、PKAコンセンサス部位(Pearson, R.B., Meth. Enzymol. 200: 62-81(1991))をも持つ(配列番号9のSer-287)。
【0087】
DNOSのN末端ドメイン214アミノ酸は神経NOSの等価部分や内皮およびマクロファージNOSのはるかに短いN末端ドメインに対して明白な相同性を示さない。DNOSのこの領域はほとんど中断されない24グルタミン残基のホモポリマー範囲を含有する。多くのショウジョウバエおよび脊椎動物タンパク質に見られるこのような富グルタミンドメインは、転写活性を調節するタンパク質-タンパク質相互作用に関連付けられている(Franks, R.G., Mech. Dev. 45: 269(1994); Gerber, H.-P.ら, Science 263: 808(1994); Regulski, M.ら, EMBO J. 6: 767(1987))。したがってDNOSのこのドメインはDNOS活性の局在および/または調節に必要なタンパク質-タンパク質相互作用に関与するのであろう。
【0088】
上述の配列比較は、脊椎動物NOS遺伝子のショウジョウバエ構造類似体が同定されたことを示唆している。DNOSタンパク質中の推定機能ドメインの順番は哺乳類酵素のそれと同一である(図15B)。いくつかのタンパク質アルゴリズムに基づく構造予測も、推定ヘム結合ドメインからC末端へのDNOSタンパク質二次構造の一般的解釈(疎水性プロット、α-ヘリックスおよびβ-鎖の分布)が哺乳類NOSのそれと類似していることを示している。DNOSも脊椎動物NOSの場合と同様に貫膜ドメインを含有しない。これらの一般的特徴に加えて、DNOS構造のいくつかの側面は実際にそれを神経NOSに最も類似させるものである:(i)全体の配列の類似性、(ii)推定カルモジュリン結合部位の類似性(神経NOSと55%同一であるのに対し、内皮NOSとは45%同一、マクロファージNOSとは27%同一)および(iii)大きいN末端ドメイン。また神経NOSとDNOSは、内皮NOSには存在するN末端ミリストイル化の部位(Lamas, S.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 6348-6352(1992))を含有しないし、マクロファージNOSには存在するタンパク質の中間部分の欠失(Xie, Q.ら, Science 256: 225-228(1992))をも持たない。
【0089】
出願人の推定されるDNOSタンパク質が一酸化窒素合成酵素活性を持つことを立証するため、dNOS cDNAを293ヒト胚腎細胞(これは哺乳類NOSの研究で日常的に使用されている(Bredt, D.S.ら, Nature 351: 714-718(1991)))中で実施例12に記述の如く発現させた。dNOS形質転換293細胞から実施例12に記載の如く調製したタンパク質抽出物は、DNOSのN末端ドメインに対して生じるポリクローナル抗体によって認識される150kDポリペプチドを含有した(図17A、レーン293+dNOS)。この免疫反応性ポリペプチドはDNOSについて予期されるサイズで、pCGNベクターのみで形質転換した細胞には存在しなかった(図17A、レーン293+ベクター)。
【0090】
dNOS形質転換293細胞から調製した抽出物は、実施例12に記載のL-アルギニンからL-シトルリンへの変換アッセイで測定したところ、有意なNO合成酵素活性を示した(0.1276±0.002pmol/mg/分;図17B、グループB)。[平行実験では、293細胞内で同じベクターから発現させたラット神経NOSの比活性が3.0±0.02pmol/mg/分(N=4)であった。]DNOS活性は、構成的哺乳類NOSの活性に必要な2つの補因子、外因性Ca2+/カルモジュリンとNADPHに依存した(Iyengar, R., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 6369-6373(1987); Bredt, D.S., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 682-685(1990))。DNOS活性はCa2+キレート剤EGTAによって90%減少した(図17B、グループC)。また、神経NOSの活性を阻害するカルモジュリン拮抗剤である500μM N-(6-アミノヘキシル)-1-ナフタレンスルホンアミド(W5)( Bredt, D.S., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 682-685(1990))はDNOS活性を18%(0.0222±0.001pmol/mg/分,N=2)に減少させた。外因性のNADPHがない場合、DNOS(またはnNOS)活性は20%減少した(DNOSについて0.1061±0.011pmol/mg/分,N=4;nNOSについて2.7935±0.033pmol/mg/分,N=2)。またDNOS活性は哺乳類NOSの阻害剤(Rees, D.D., Br. J. Pharmacol., 101: 746-752(1990))によって遮断された。NG-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル(L-NAME)はDNOS 性を84%減少させ(図17B、グループD)、100μM NG-モノメチル-L-アルギニン酢酸は完全な遮断をもたらした(0.0001±0.0002pmol/mg/分,N=2)。これらの酵素学的データはDNOSがCa2+/カルモジュリン依存性一酸化窒素合成酵素であることを立証している。
【0091】
ノーザンブロット分析により、成体ハエ頭部で広く発現されるが胴体では発現されない5.0kb dNOS転写物が示された(図18A)。しかし実施例13記載のより高感度なRT-PCR実験は、ハエ胴体からのポリ(A)+RNA中にdNOSメッセージを検出した。マウスとヒト由来の神経NOS遺伝子は2つの二者択一的にスプライスされた転写物(その短い方は105アミノ酸枠内欠失(マウスまたはラット神経NOS中の残基504-608)を含有するタンパク質を与える)を生産する(Ogura, T., Biochem. Biophys. Res. Commun. 193: 1014-1022(1993))。ショウジョウバエ頭部mRNAのRT-PCR増幅は2つのDNA断片、すなわち脊椎動物長鎖型に対応する444bp断片と脊椎動物短鎖型に対応する129bp断片をもたらす(図18B)。その129bp配列の概念的翻訳により、nNOS遺伝子と同じスプライシングパターンが確認された(図18C)。ショウジョウバエ中に短いNOSアイソフォームが存在することは、それがNOS生化学において重要な役割を果たすだろうという意見を強化する。
【0092】
ショウジョウバエ中のNOS相同体の発見は、無脊椎動物がNOを生産し、最近の報告によって示唆されているように、おそらくはそれを細胞間信号伝達に用いるのであろうという決定的な証明を提供する。これらのデータは、脊椎動物と節足動物の共通の祖先中にNOS遺伝子が存在したことをも示唆しており、NOSが少なくとも6億年は存在していることを意味している。したがってNOS遺伝子は動物界中に広く分布していると予想される。
【0093】
この考えと合致する組織化学的データが存在する。NOS活性はいくつかの無脊椎動物組織抽出物中に検出されている:リムラス・ポリフェムス(Lymulus polyphemus)中 (Radomski, M.W., Philos. Trans. R. Soc. Lond. B. Biol. Sci., 334: 129-133 (1992) ) 、バッタ脳中(Elphick, M.R.ら, Brain Res. 619: 344-346(1993))、ロドニウス・プロリクス(Rhodnius prolixus)の唾液腺中(Ribeiro, J.M.C.ら, FEBS Let. 330: 165-168(1993)(34))およびリムナエ・スタグナリス(Lymnaea stagnalis)の様々な組織中(Elofsson, R.ら, NeuroReport 4: 279-282(1993))。NOS阻害剤またはNO生成物質の適用がLymnaea stagnalis中の頬運動ニューロンの活性(Elofsson, R.ら, NeuroReport 4: 279-282(1993))とリマックス・マキシムス(Limax maximus)の前大脳葉中の嗅覚ニューロンの振動動態(Gelperin, A., Nature 369: 61-63(1994))を調節することが示されている。また、固定した脊椎動物組織試料中のNOSタンパク質の比較的特異的な指示薬であるNADPH-ジアホラーセ染色(Dawson, T.M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 7797(1991); Hope, B.T.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 2811(1991))は、ショウジョウバエ頭部にNOSが存在することを示唆している(Muller, U., Naturwissenschaft 80: 524-526(1993))。今回のdNOSの分子クローニングはこれらの観察の妥当性をかなり強化するものである。
【0094】
NOS機能の精密な遺伝子分析はショウジョウバエで利用できる。古典的な遺伝学で、dNOS機能の完全なもしくは部分的な喪失をもたらすdNOS内での点変異(point mutations) と欠失の作成が可能だろう。そのような突然変異は発生中のNOSの役割の詳細な研究を可能にするだろう。
【0095】
さらに本発明は、図16A-16C中のアミノ酸配列(配列番号9)のポリペプチドまたはその機能的等価物(すなわち一酸化窒素を合成するポリペプチド)をコードする能力によって特徴づけられる単離DNAに関する。この規準に合致する単離DNAは哺乳類NOS遺伝子産物(すなわち神経、内皮およびマクロファージNOS)の配列に相同な配列を持つアミノ酸を含む。配列番号25に記載のDNA配列はそのような単離DNAの一例である。また、これらの規準に合致する単離DNAは天然に存在するdNOSまたはその一部の配列もしくは天然に存在する配列の変異と同一の配列を持つアミノ酸を含む。そのような変異には、1またはそれ以上の残基の付加、欠失または置換によって異なる突然変異体、1またはそれ以上の残基が修飾されている修飾核酸(例:DNAまたはRNA類似体)および1またはそれ以上の修飾残基を含む突然変異体が含まれる。
【0096】
そのような核酸は、例えば高い厳密性の条件下または温和な厳密性の条件下で検出し、単離することができる。核酸ハイブリッド形成に関する「高い厳密性の条件」と「温和な厳密性の条件」はCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel,F.M.ら編, 第1巻, 補遣26, 1991)の2.10.1-2.10.16頁(特に2.10.8-11)と6.3.1-6頁に説明されており、その教示は参考文献として本明細書の一部を構成する。プローブの長さ、塩基組成、ハイブリッド形成配列間のミスマッチ率、温度およびイオン強度などの因子は核酸ハイブリッドの安定性に影響を及ぼす。したがって高い又は温和な厳密性条件は、既知のDNA(これに対して他の未知の核酸の相同性を比較する)の特徴に部分的に依存して、経験的に決定することができる。
【0097】
図16A-16Cのアミノ酸配列のポリペプチドをコードする能力によって特徴づけられる単離DNAは、触媒活性(例:一酸化窒素の合成)および/または結合機能(例:推定ヘム、カルモジュリン、FMN、FADおよびNADPH結合)など、ショウジョウバエNOSの少なくとも1つの機能を持つタンパク質またはポリペプチドをコードする。ハイブリッド形成核酸によってコードされるタンパク質またはポリペプチドの触媒または結合機能は、活性または結合の標準的酵素アッセイ(例:L-アルギニンのL-シトルリンへの変換を測定するアッセイ)によって検出できる。dNOSの機能的特徴も生体内での相補性や他の適当な方法によって評価できる。また、酵素アッセイ、相補性試験または他の適当な方法を、図16A-16Cのアミノ酸配列を持つポリペプチドまたはその機能的等価物をコードする核酸の同定および/または単離法の中で使用することができる。
【0098】
この発明は以下に示す実施例により示され、いかなる方法によっても、限定されることを意図しない。
【実施例】
【0099】
実施例
以下に示す試薬と方法が実施例1と2で述べられる仕事で使われた。
【0100】
dCREB1とdCREB2の発現クローニング
注意する場合を除いてはDNA結合による発現クローニングの標準的なプロトコール(アウスベル エフ(Ausubel,F.).,Current Protocols in Molecular Biology,ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley and Sons),ニューヨーク(New York),1994;シンフ エイチ(Singh,H.)等、Cell,52: 415−423 (1988))に従った。二重鎖3×CREオリゴヌクレオチドは合成され、pGEM7Zf+(プロメガ(Promega))のXbaIとKpnI部位間にクローン化された。オリゴヌクレオチドの一方の鎖の配列は5’CGTCTAGATCTATGACTGAATATGACGTAATATGACGTAATGGTACCAGATCTGGCC3’(配列番号 17)であり、CRE部位は下線で示した。オリゴヌクレオチドはBglII/HindIII断片で切り出し、突出末端を〔α32P〕dGTP、〔α32P〕dCTPとラベルしていないdATPとdTTPの存在下でクレノウフラグメントで埋めることによりラベルした。(アウスベル エフ(Ausubel,F.),Current Protocols in Molecular Biology),ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley and Sons),ニューヨーク(New York), 1994))。使う直前に、ラベルされた断片はブランクのニトロセルロース膜へあらかじめ吸着させ、バックグラウンドの結合を補正した。他の全てのステップは述べられているように行った(アウスベル エフ(Ausubel,F.),Current Protocols in Molecular Biology),ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley and Sons),ニューヨーク(New York),1994))。2回目と3回目の処理の後、ポジティブクローンをpKS+(ストラタジーン(Stratagene))にサブクローン化し、シークエンスを行った。
【0101】
ゲルシフト解析
ゲル移動度シフト法はアウスベル,エフ(Ausubel,F),Current Protocols in Molecular Biology,ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley and Sons),ニューヨーク(New York),1994のように行い、以下に示す変更をした。4%ポリアクリルアミドゲル(架橋率80:1)は3mMの塩化マグネシウムを補った5×トリス−グリシン緩衝液(アウスベル,エフ(Ausubel,F.),Current Protocols in Molecular Biology,ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley and Sons),ニューヨーク(New York),1994))を用いて作成され、泳動された。DNAプローブとして用いたオリゴヌクレオチドは0.1M塩化ナトリウム存在下50μg/mlの濃度で煮沸させ、ゆっくりと室温まで冷やした。50ngの二本鎖プローブは100μCiの〔γ32P〕ATP存在下でポリヌクレオチドキナーゼを用い末端ラベルした。その二本鎖オリゴヌクレオチドは未変性のポリアクリルアミドゲルで精製され、約0.5ng/反応で移動度シフト法に用いられた。
【0102】
dCREB2について、元のdCREB2−bのcDNAがサブクローン化され、読み枠の5’と3’側に直接制限酵素部位を導入するための部位特異的変異をさせた。この読み枠はpET11A発現ベクター(ノバージェン(Novagen))にサブクローン化され、細菌内でタンパク質を発現を誘導するために使われた。このベクターを含む細菌は30℃でおよそ2×108 /mlの密度になるまで培養し、37℃で2時間熱誘導をかけた。細胞は遠心により集菌され、ブラトースキー エス(Buratowski,S.)等Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,88:7509−7513(1991)。粗抽出液は遠心により純化し、あらかじめ50mMのトリス塩酸緩衝液、pH8.0,10%ショ糖、100mM KClで平衡化したDEAEカラムに供した。同じ緩衝液中のKClの量を増加するステップ溶出が、ゲル移動度シフト法で使用するdCREB2−bタンパク質を溶出するために使われた。ピークフラクションはローディング緩衝液で透析され、結合実験に使われた。使用した特異的競合剤は野性型CREオリゴヌクレオチドであった。ゲルシフト解析に用いられた二本鎖オリゴヌクレオチドの一方の鎖の配列を列挙した。最初の二つのオリゴヌクレオチドについて、野性型と変異型CREに下線を引いた。
野性型 3×CRE (配列番号 18):
【0103】
【化1】


変異型 3×mCRE (配列番号 19):
【0104】
【化2】


非特異的競合剤 #1 (配列番号 20):
【0105】
【化3】


非特異的競合剤 #2 (配列番号 21):
【0106】
【化4】


非特異的競合剤 #3 (配列番号 22):
【0107】
【化5】


非特異的競合剤 #4 (配列番号 23):
【0108】
【化6】


dCREB1について、熱誘導された細菌の抽出液は(アウスベル,エフ(Ausubel,F.),Current Protocols in Molecular Biology,ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley and Sons),ニューヨーク(New York),1994)は溶原性により組み込まれたオリジナルのファージクローンから調製された。スクリーニングされた他のプラーク(CRE部位に結合しない)により溶原化された細菌由来の抽出液はネガティブコントロールとして使用された。競合実験は4−100倍過剰(プローブに対して)のラベルされていない野性型CREオリゴヌクレオチドかラベルされていない変異型CREオリゴヌクレオチドを用いた。
【0109】
ノーザンブロット
頭部と体部の総RNAはドレイン(Drain,P.)等,Neuron,6:71−82(1991)のプロトコールによりハエから単離された。全ての他の発達した段階からの総RNAはエリック シャエファー(Eric Schaeffer)から供与された。全てのRNA試料はポリA+RNAを単離するためのオリゴ−dTカラム(5’側−3’側)上で二回選択された。2μgのポリ+RNAは1.2%ホルムアルデヒド−ホルムアミドアガロースゲル上で単離され、ニトロセルロース膜に転写され、一様にラベルされた鎖特異的なアンチセンスRNA(aRNA)プローブを用い検出された。aRNAの合成のための鋳型はライブラリースクリーニングから単離された部分cDNAクローンの一つである(pJY199)。このcDNAはdCREB2−bタンパク質のカルボキシル末端86アミノ酸と約585bpの3’非翻訳mRNAを含んでいる。全てのノーザンブロットは高い強度(0.1% SDS,0.1×SSC,65℃)で洗浄された。
【0110】
組織断片のインサイチュ(in situ)ハイブリダイゼーション
凍結した前頭断片はRNase(RNAse)フリーの条件下、本質的にニゴーン(Nighorn,A.)等,Neuron,6:455−467(1991)に述べられているように行い、ここに示されているようにリボプローブの修飾を行った。ジゴキシゲニンラベルされたリボプローブはGeniusキット(ベーリンガー マンハイム)を用いたpJY199から調製された。1μgのXbaI(Xba)で切断し直鎖状にした鋳型とT3RNAポリメラーゼがアンチセンスプローブを作成するために使用され、1μgのEcoRIで切断し直鎖状にした鋳型が、T7RNAポリメラーゼと共にコントロールのセンスプローブのために使われた。アルカリ加水分解(30分間,60℃)は平均プローブサイズが約200塩基になるまで行われた。加水分解したプローブはハイブリダイゼーション溶液(ニゴーン,A.(Nighorn,A.)等,Neuron,6:455−467(1991))で1:250に希釈し、煮沸され、すばやく氷中で冷やしスライドにのせ、42℃で一晩ハイブリダイズさせた。スライドは50℃で二回の洗浄よりも先にRNase A(RNAse A)(20μg/ml RNaseA(RNAseA)0.5M 塩化ナトリウム(NaCl)/10 mM トリスpH8で37℃ 1時間反応させる)による処理をした。ジゴキシゲニン検出は述べられているように行った。
【0111】
dCREB2の逆転写共役ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)解析と、代わりにスプライシングされたエクソンの同定
逆転写共役ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)解析の鋳型はドレイン(Drain,P.)等,Neuron,6:71−82(1991)で述べられているようにショウジョウバエ頭部から単離された総RNAあるいはポリA+RNAを用いた。使用した総RNAは、使用より前に、RNaseフリーのDNaseI(50μgのRNAを50ユニットのDNaseIを用いて、60−90分間37℃で切断し、フェノール(フェノール/クロロホルム抽出)で処理した。そしてエタノール沈殿を行った。)で完全に切断した。単離実験の結果,このDNase処理はゲノムDNAのなんらかの混入から由来するPCR産物の可能性を効果的に除去することを示す。市販のオリゴdTカラム(5’側−3’側)の使用による二段階の選抜は総RNAからポリA+RNAを単離するために使用された。個々の反応の鋳型は100ngから200ngの総RNAか10から20ngのポリA+RNAのいづれかである。
【0112】
RT−PCR反応は供給者(パーキンエルマー)の説明書に従って、改良「ホットスタート」法(パーキンエルマー社RT−PCRキット説明書)で行われた。RT反応で用いられるrTth酵素以外の全ての組成は75℃で合わせ、反応は酵素を添加し、70℃まで温度を低下させることにより開始した。15分後、あらかじめ温めておいた(75℃まで)PCR組成物(微量の〔α32P〕dCTPを含む)をすばやく添加し、反応チューブはあらかじめ温めておいたサーモサイクラーにいれておき、PCR増幅を始めた。パーキンエルマー社の480サーマルサイクラーにおけるサイクリングパラメーター(総容量100μl)は94℃で60秒、その後に70℃で90秒である。MJミニサイクラーにおける反応(50μL)について、パラメーターは94℃で45秒及び70℃で90秒である。
【0113】
これらの手順で使用した全てのプライマーは、それらの目的配列に相補的な26ヌクレオチドを持つようにデザインされた。いくつかのプライマーはそれらの5’末端に制限酵素部位のための付加的な塩基をもち、その後の産物のクローニングが容易になるようにした。プライマーは約50%のGC含量を持つようにデザインされ,それらの3’側の最末端部はGかC塩基になるようにし、G/Cが3つ以上続かないようにデザインした。所定の二つのプライマーを用いたRT−PCR反応のためには、予備的な反応実験を行うことにより,Mg+2イオン濃度が至適化され,Mg+2濃度0.6から3.0mMの範囲であった。反応産物をオートラジオグラフィーによる変性尿素−ポリアクリルアミドゲル上で解析した。cDNA配列から予想されたバンドよりも大きく現れたいくつかの産物は予備の未変性ゲルで精製し、同じプライマーを用いて再増幅し、ゲル精製し、サブクローン化し、シークエンスした。
【0114】
得られたRT−PCR産物が本当にRNA由来であることを確かめるために、産物の出現が鋳型RNAのRNase A処理で除去されることを示すコントロール反応を行った。そして、鋳型とした総RNAを用いた反応から生成した産物が、鋳型として二回選抜したポリA+RNAを用いた反応から再単離された。
【0115】
プラスミド
ショウジョウバエの一過性の形質導入実験の発現構築物は発現ベクターpAct5CPPA(Han,K.ら,Cell,56:573−583(1989))又はpAcQを用いて行った。pAcQはpAct5CPPAに近い誘導体で、2.5kbのアクチンプロモーター領域の5’末端側XbaIが破壊され、ポリリンカーに付加的なサイトが挿入されている。pAc−dCREB1は、完全なdCREB1のオープンリーディングフレームを含む(pKS+にサブクローニングされたcDNA由来)KpnI−SacI断片をpAct5CPPAにサブクローニングすることによって作った。pAc−PKAは、改良したpHSREM1構築物(Drain,P.ら、Neuron,6:71−82(1991))由来のショウジョウバエのPKA触媒サブユニット(Foster,J.L.ら,J.Biol.Chem.,263:1676−1681(1988))をコードするEcoRV断片をpAct5CPPAにサブクローニングすることによって構築した。ショウジョウバエの細胞培養液に対する、3×CRE−lacZリポーター構築物を調製するために、ゲルシフト解析で用いられた二本鎖の野性型3×CREオリゴヌクレオチドがHZ50PL(Hiromi,Y.及びW.J.Gehring,Cell,50:963−974)のKpnI−XbaI骨格にクローニングされた。最小のhsp70プロモーター−lacZ融合遺伝子の前にクローニング部位を持つリポーター構築物は、エンハンサーのテストのために作られた。
【0116】
RSV−dCREB2−aは、クローニング段階の長い系列を通じて構築された。本質的に活性化因子をコードするオープンリーディングフレームは、まずはじめに、もとのcDNAのdCREB2−bに、これはファージDNAからプラスミドpKS+にサブクローニングしたもの、3つのエキソン(エキソン2、4、6)のそれぞれを一連に付加することでプラスミドpKS+上に再構築した。部位特異的変異により、dCREB2−bのオープンリーディングフレームの5’側と3’側の両方に唯一の制限酵素部位を導入し、サブクローニングの過程を容易にし、また、翻訳されない5’と3’の除去ができるようになった。一度、活性化因子が組み立てられると、その結果できたオープンリーディングフレームは、クローニングの過程を確認するためシークエンスを行い、そして、RSVプロモーターとSV40ポリアデニレーション配列(RSV−0)との間に存在するポリリンカーを含む改良したRSVベクターに移動した。RSV−dCREB2−bはもとのdCREB2−bのcDNA(これはpKS+にサブクローニングしている。)をRSV−0に移して作った。
【0117】
実験で使った他の構築物は、pCaE(pMtC)(Mellon,P.L.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86:4887−4891(1989))で、それはマウスのメタロチオネイン1プロモーター下にマウスのPKA触媒サブユニットをクローニングしたcDNAを含む;RSV−βgal(Edlund,T.ら,Science,230:912−916(1985))で、それはラウス肉腫ロングターミナルリピートプロモーター(Gorman,C.M.ら),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:6777−6781(1982))の制御下でlacZ遺伝子を発現する。RSV−CREB(Gonzalez,G.A.ら,Nature,337:749−752(1989))は、RSV−SGのRSV LTR−プロモーターの下流の341アミノ酸と、ラットのソマトスタチンプロモーターと細菌のCATをコードする領域からなるCREを含む断片の融合であるD(−71)CATリポーター(Montminy,M.R.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:6682−6686(1986))を含むCREB cDNA断片である。
【0118】
F9細胞培養と形質導入
分化させていないF9 細胞は、Darrow,A.L.らがMeth.Enzymol.,V.190(1990)中の”F9奇形ガン細胞のメンテナンスと使用”で述べているリン酸カルシウム法を使って保存し形質導入した。ただし、形質導入の直前にクロロキンを100mMになるように加え、形質導入後10時間、この時培養皿は新鮮なクロロキンなしの培地を入れており、沈殿物を洗い流すことは除く。形質導入するときのDNA量は、RSV−0で必要な量と等量である。細胞は形質導入させてから30時間後に集めた。抽出物は凍結/融解の過程を3回繰り返し、それぞれの過程の間にわずかにボルテックスをかけることで得た。微粒子は氷点下で10分間遠心して取り除いた。β−ガラクトシダーゼアッセイは、Miller,J.H.,Experiments in Molecular Genetics,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1972に述べられた方法で行った。CATアッセイはSheen,J.Y.及びB.Seed,Gene,67:271−277(1988)に述べられた方法により、一定量の抽出液を65℃で10分間熱処理した後、10分間遠心し残さを除去したものを用いて行った。ここに報告する結果は、異なった日にそれぞれの実験で一つの条件につき少なくとも3つのディッシュで行った3つの実験からなっている。エラーバーは、誤差の分布を考慮に入れた平均標準誤差である(Grossman,M.及び.H.W.Norton,J.Hered.,71:295−297(1980))。
【0119】
ショウジョウバエ細胞培養と一過的な形質導入
10%の牛胎児血清(FBS)を補ったシュナイダー培地(Sigma)中のシュナイダーL2細胞、あるいは、10%のFBSを補ったD−22溶液(Sigma)中のKc167細胞を、以下の点を除き、基本的にはKrasnow,M.A.ら,Cell,57:1031−1043(1989)に述べられたカルシウムリン酸法で形質導入した。Kc167細胞は2×106 cells/mlでプレートにまき、形質導入直前にクロロキンを最終濃度100mMとなるように加えた。全部でL2の形質導入では培養皿1枚当たりプラスミドDNAを10μg、Kc167の形質導入では培養皿1枚当たりを25μg使った。形質導入の時のDNA量は、pGEM7Zf+と等量にした。沈殿物はL2細胞では集めるまでかき乱さないようにしておいたが、Kc167細胞では12時間後に元の培地は新しい、クロロキンを含まない培地で置換した。細胞は形質導入後26から48時間後に集めた。F9細胞のところで述べた方法で抽出液を作り、酵素活性測定を行った。形質導入について報告した結果は、異なった日にそれぞれの実験で一つの条件につき少なくとも2つの培養皿で行った少なくとも3つの実験の平均である。エラーバーは、誤差の分布を考慮に入れた平均標準誤差である(Grossman,M.及び.H.W.Norton,J.Hered.,71:295−297(1980))。
【0120】
β−ガラクトシダーゼ(βgal)とクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)測定
β−ガラクトシダーゼアッセイはMiller,J.H.,Experiments in Molecular Genetics,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY,1972に述べられた方法で行った。CATアッセイは本質的にSheen,J.Y.及びB.Seed,Gene,67:271−277(1988)に述べられた方法で、抽出液を熱処理した上清(65℃ 10分の後、遠心10分)を使って行った。相対活性はSheen,J.Y.及びB.Seed,Gene,67:271−277(1988)に従って計算した。
【0121】
dCREB2−aによるPKA応答転写活性化
F9細胞はCREに支配されるリポーターであるD(−71)CATプラスミド10μgによって一過的に導入される。5μgのRSV−βgalリポーターが導入効率を標準化するコントロールとしてそれぞれの培養皿に含まれている。種々のグループは8μgのdCREB2−a発現ベクターと4μgのPKA発現ベクターが別々にあるいは共に入っている。結果はCAT/βgalの酵素活性比で示され、PKAを形質導入された培養皿から得られた値で標準化している。
【0122】
dCREB2−aとdCREB2−aによるPKA応答活性化の転写効果
F9細胞は、以下に示す発現構築物との組み合わせに従って10μgのD(−71)CATで一過的に同時導入した。RSV−dCREB2−a(5μg);pMtC(2μg);RSV−dCREB2−b(5μg); そしてRSV−mLZ−dCREB2−b(5μg),これはRSV−dCREB2−bのロイシンジッパー変異体を発現する。それぞれの培養皿のDNA量はRSV−Oでは27μgにした。他の実験条件は”dCREB2−aによるPKA応答性転写活性化”に従った。
【0123】
ショウジョウバエ シュナイダーL2細胞培養でのdCREB1でのCREリポーター遺伝子の転写活性化
ショウジョウバエのPKAを発現する構築の有無に関わらず、細胞はdCREB1発現構築物(1μg)により一過的に導入された。3×CRE−βgalリポーター(1μg)と標準化したAc−CATリポーター(1μg)がそれぞれの培養皿に含まれていた。特定の培養皿中にない発現ベクターはpACQで置き換えられた。
【0124】
実施例1 dCREB2の単離と性質検討
3つのCRE部位(3×CRE)を含有するプローブを用いてショウジョウバエ頭部cDNAライブラリーのDNA結合発現スクリーンで2つの異なる遺伝子を単離した。dCREB2遺伝子について多くのクローンを得たが、dCREB1については1つのクローンしか得られなかった。dCREB2クローンは2つの二者択一的にスプライスされるオープンリーディングフレーム、dCREB2-bとdCREB2-cを持っていた(図2参照)。これらはエクソン4が存在するかしないかと、その5'および3'非翻訳領域中にのみ相違があった。dCREB2-bの推定される翻訳産物は、哺乳類CREB(配列番号4)、CREM(配列番号5)およびATF-1(配列番号6)の塩基性領域/ロイシンジッパー(bZIP)ドメインのアミノ酸配列に対して極めて高い配列の相同性を示した(図1B参照)。
【0125】
dCREB2プローブを用いる染色体in situハイブリダイゼーションは、該遺伝子をX染色体上の17A2の拡散バンド(この領域はいくつかの致死的相補グループを含有する;Eberl, D.F.ら, Genetics, 30: 569-583(1992))に特定した。
【0126】
dCREB2-bのDNA結合特性を決定するため、ゲル移動度シフトアッセイを用いてdCREB2-bのDNA結合活性を測定した。dCREB2-bタンパク質を発現する細菌抽出物は3部分からなる(triplicated )CREプローブ(3×CRE)の移動を遅らせた。そのタンパク質は突然変異3×CREオリゴヌクレオチドに対して低いが検出できる親和性を持った。非標識拮抗オリゴヌクレオチドを用いる競争実験は、3×CREに対するdCREB2-bの結合がCRE部位に対して非特異的DNAよりも高い親和性を伴い特異的であることを示した。保存されたアミノ酸配列と共に、この機能的な類似性はdCREB2がCREBファミリーの一種であることを示唆した。
【0127】
dCREB2の発現パターンを様々な発生段階から得たポリA+RNAのノーザンブロット分析によって決定した。少なくとも12の異なる転写物サイズを伴う複雑なパターンが認められた。約0.8および3.5kbの2つのバンドはすべての段階に共通していた。成体頭部は少なくとも6サイズ(0.8、1.2、1.6、1.9、2.3および3.5kb)の転写物を含有した。ショウジョウバエ頭部組織切片中のRNAに対するin situハイブリダイゼーションはすべての細胞で染色を示した。脳では、神経網でなく細胞体が染色された。
【0128】
dCREB2は選択的にスプライスされた型を持つ。最初のトランスフェクション実験で、dCREB2-cアイソフォームがPKA応答性転写活性化因子でないことが示された。この情報は、複雑な発生発現パターンおよびCREM遺伝子が選択的なスプライシングを用いてPKA応答性活性化因子を生成するという知見(Foulkes, N.およびP. Sassone-Corsi, Cell, 68: 411-414(1992); Foulkes, N.S.ら, Nature, 355: 80-84(1992))と共に、活性化因子をコードするには付加的なドメインが必要なのかもしれないことを示唆した。
【0129】
逆転写反応を組み合わせたポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR )を用いて新しいエクソンを同定した。ゲノムDNA配列とcDNA配列の比較は、普遍的なエクソン/イントロン構成を示し、さらなるエクソン探索の助けとなった。dCREB2-b cDNAの全域を配置されたセンスプライマーとアンチセンスプライマーを合成し、それらをショウジョウバエ頭部RNAで開始したRT-PCR反応で組み合わせて使用した。エクソン5および7中のプライマー(図2参照)を用いた反応は2つの産物を生成した。1つは予期されるサイズ(cDNAクローンと比較して)で、もう1つはそれより大きい。長い方の断片をクローン化したところ、その配列はエクソン6(図1A参照;配列番号1)の存在を示唆した。エクソン6内のプライマーを合成し、末端標識し、それを用いてショウジョウバエ頭部cDNAライブラリーをスクリーニングした。2つのクローンを単離し、配列決定したところ、それらは同一であることがわかった。このスプライシングアイソフォームdCREB2-dは、RT-PCR産物から推定されるエクソン配列とスプライス結合部を確認した。
【0130】
エクソン2を単離しようとする最初の試みは困難であることがわかった。エクソン1と3を分離するゲノム配列(図2参照)を調べ、1つの比較的長いオープンリーディングフレーム(ORF)を同定した。イントロン配列に基づいて3つのアンチセンスプライマー(そのうちの1つのみがこのORF内にある)を合成した。それぞれにこれら3つのアンチセンスプライマーの1つとエクソン1中のセンスプライマーを使用して、3組のRT-PCR反応を平行して行った。ORF内のアンチセンスプライマーを使用した反応だけが、PCR産物を生成した。この産物の配列は、エクソン1からdCREB2-b cDNA中のスプライス結合部を過ぎてORF中のアンチセンスプライマーの位置まで3'を伸ばしたゲノム配列からのヌクレオチドに続く範囲と合致した。この断片は、dCREB2-bを作成するために使用した部位の3'側に位置する二者択一的な5'スプライス部位を使用することによって、エクソン1がいくつかのmRNA中で延長されるのかもしれないということを示唆した。新たに同定したエクソン配列に基づいて、センスプライマーを作成した。このプライマーをエクソン3中のアンチセンスプライマーと共に使用して、新しい産物を生成させたところ、その配列は新しい5'スプライス部位の位置を明らかにした。二者択一的な5'スプライス部位選択によってエクソン1に付加される配列をエクソン2と名づけた。エクソン2配列は、元のcDNAとエクソン2の両方に同じ3'スプライス部位が使用されることをも示した。この二者択一的なスプライシングパターンを独立して立証すべく、エクソン2の3'スプライス結合部をまたぐプライマーとエクソン1中のプライマーを用いてRT-PCRを行った。その産物の配列は図1A(配列番号1)に示すエクソン2のスプライス結合部を確証した
エクソン2と6が同じ分子中にスプライスされうるかどうかを決定するため、エクソン2と6中のプライマーを用いてRT-PCR反応を行った。その反応はこれら2つのエクソンの結合スプライシングによって予期されるサイズの産物を生成し、この産物の同定を詳細な制限酵素分析によって確認した。
【0131】
dCREB2はショウジョウバエCREB/ATF遺伝子である。図1AはそのDNA配列(配列番号1)と、同定された二者択一的スプライシングからもたらされうる最長のORFであるdCREB2-aの推定アミノ酸配列(配列番号2)を示す。このORFについて示した翻訳開始部位はおそらく確実である。なぜなら、i)停止コドンはわれわれのdCREB2 cDNA内のすべてのオープンリーディングフレームでこのATGより上流に存在し(配列は開示していない)、ii)このATGはコンピューターによって(Sheen, J.Y.およびB. Seed, Gene, 67: 271-277(1988))上記ORFを含有するDNA配列中の最適なリボソーム結合部位として選択されたものであり、iii)480ヌクレオチド下流にあるこのオープンリーディングフレーム内の次のATGの使用はPKA依存性活性化因子である推定産物を生産しないだろう(下記参照)からである。この情報は、CREM遺伝子のS-CREMアイソフォームで起こるように(Delmas, V.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4226-4230(1992))、内部翻訳開始部位がこの転写物中で使用されうるという可能性を排除するものではない。
【0132】
このdCREB2-aオープンリーディングフレームは、哺乳類CREB(配列番号4)およびCREM(配列番号5)のものと高度に相同なカルボキシル末端bZIPドメイン(配列番号3)を伴う361アミノ酸のタンパク質が推定される(図1B参照)。推定されるdCREB2-a産物はPKA、カルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼII(CaMキナーゼII)およびタンパク質キナーゼC(PKC)の共通リン酸化部位を含有するアミノ酸の小領域を、CREB、CREMおよびATF-1中のP-ボックスと類似する位置に持つ。予想dCREB2-aのアミノ末端側の1/3はグルタミンが豊富である(連続する4および5残基を含む)。グルタミンリッチ活性化ドメインはCREB、CREMおよびショウジョウバエ由来のいくつかを含む他の真核転写因子に存在する(Courey, A.J.およびR.Tijan,「ヒト転写因子Sp1の研究によって明らかになった転写制御の機構」, In Transcriptional Regulation, 第2巻, McKnight, S.L.およびK.R. Yamamoto編, Cold Spring Harbor Press, ニューヨーク州コールドスプリングハーバー, 1992; Mitchell, P.J.およびR. Tijan, Science, 245: 371-378(1989))。
【0133】
予想されるdCREB2-aタンパク質配列(配列番号2)を用いたコンピューターによるアミノ酸配列相同性検索は、CREB、CREMおよびATF-1遺伝子産物がdCREB2-aに最も良く合致するものとして、同定される。その相同性はカルボキシル末端bZIPドメインにおいてとりわけ著しく、そこでは54アミノ酸中49が哺乳類CREB中の対照物と同一である(図1B)。活性化ドメインにおける相同性は本質的には存在するが、それほど著しくはない。このドメインにおける保存性が低いことは哺乳類CREBおよびCREM遺伝子の特徴でもある(Masquilier, D.ら, Cell Growth Differ., 4: 931-937(1993))。
【0134】
図2は、我々がcDNAとしてあるいはRT-PCRによって検出したdCREB2二者択一的スプライス型のすべてのエクソン構成を示している。dCREB2のスプライス産物は2つの広い範疇に分けられる。転写物の1つのクラス(dCREB2-a,-b,-c,-d)はエクソン2、4および6の二者択一的スプライシングを使用して、そのタンパク質産物のすべてが異なる型の活性化ドメインに結合したbZIPドメインを持つようなアイソフォームを生産する。転写物の第2のクラス(dCREB2-q,-r,-s)はすべて、bZIPドメインの上流の様々な位置に枠内停止コドンをもたらすスプライス部位を持つ。これらはすべて、二量化またはDNA結合活性を伴わない先端欠如活性化ドメインと推定する。
【0135】
2つの異なるdCREB2アイソフォーム、dCREB2-aとdCREB2-bは、PKA応答性転写で反対の役割を持つ。dCREB2遺伝子のアイソフォームのPKA応答性転写を媒介する能力をF9細胞中で試験した。これらの細胞は、その内因性cAMP応答性転写系が不活性なので、CREB依存性活性化を研究する際に広く使用されている(Gonzalez, G.A.ら, Nature, 337: 749-752(1998); Masson, N.ら, Mol. Cell Biol., 12: 1096-1106(1992); Masson, N.ら, Nucleic Acids Res., 21: 1163-1169(1993))。発現ベクターから合成されるcAMP応答性転写因子候補を、PKA触媒サブユニットを発現する構築物と共に、あるいは該構築物を伴わずに、一時的に導入した。遺伝子発現におけるCREB依存的な変化を、リポーター遺伝子に融合したCRE含有プロモーターを持つ同時導入された構築物を用いて測定した。
【0136】
dCREB2-aアイソフォームの産物はPKA依存性の転写活性化因子である(図3)。PKAまたはdCREB2-a単独のトランスフェクションはベースライン値よりわずかな活性化を与えるに過ぎなかった。しかしdCREB2-aとPKAの同時トランスフェクションは、PKA単独の場合に見られた活性化より5.4倍大きい活性化のレベルを与えた。
【0137】
dCREB2-bはPKA依存的転写活性化因子として作用しなかった。リポーターおよびPKAと共にトランスフェクトすると、それはリポーター活性を刺激しえなかった。その代わりにそれはdCREB2-aによるPKA依存的活性化の直接的な拮抗体として機能した(図4)。等モル量のdCREB2-aおよびdCREB2-b発現構築物をPKAおよびリポーターと共に同時トランスフェクトすると、CRE含有リポーターからのPKA依存的活性化がほとんど完全に遮断された。
【0138】
dCREB2(配列番号3)、CREB(配列番号4)およびCREM(配列番号5)のロイシンジッパー間の強い相同性(図1B参照)は、CREB二量化を破壊する突然変異(Dwarki, V.J.ら, EMBO J., 9: 225-232(1990))がdCREB2二量化にも影響を与えるはずであることを示唆した。そのロイシンジッパーの中間の2つのロイシンをバリンに変換する2つの1塩基変化を導入することによって、突然変異ショウジョウバエ分子mLZ-dCREB2-bを作成した。CREB中の同じ突然変異は試験管内でのホモ二量化を破壊する(Dwarki, V.J.ら, EMBO J., 9: 225-232(1990))。mLZ-dCREB2-bの同時トランスフェクションはdCREB2-aによるPKA依存的活性化を遮断しえなかった(図4)。
【0139】
実施例2 dCREB1の単離と性質検討
dCREB1遺伝子を表す1つのcDNAを、dCREB2 cDNAを得たのと同じショウジョウバエλgt11発現ライブラリーのスクリーニングで単離した。dCREB1 cDNAの配列は、4つの繰り返される、長く隣接したカルボキシル末端ロイシンジッパーおよび隣接塩基性領域を伴う266アミノ酸タンパク質を特定する完全なオープンリーディングフレームを含有した(図5;配列番号7)。推定されるタンパク質のアミノ末端側の半分は、全体に配置されたグルタミン酸、アスパラギン酸およびプロリン残基を伴う酸性に富んだ活性化ドメインを含有する。dCREB1はCaMキナーゼIIおよびPKCの共通リン酸化部位をその全長じゅうに持つが、PKAの予想されるリン酸受容部位を持たない。
【0140】
ゲルシフト分析は3×mCREに対するよりも3×CREに対してより高いdCREB1タンパク質の親和性結合を示した。dCREB1による転写活性化を、ショウジョウバエL2およびKc167細胞培養系を用いる一時的同時トランスフェクション実験で評価した。L2細胞内で、dCREB1はCREからの転写を活性化するが、この効果はPKAの同時トランスフェクションによって増進されない(図6)。Kc167細胞内で、dCREB1は単独でも、同時トランスフェクトされたPKA発現構築物を伴っても、リポーター発現を活性化しえない。
【0141】
ゲノムサザンブロット分析はdCREB1が単一コピー遺伝子であることを示し、染色体in situハイブリダイゼーションはそれが染色体2の右腕の54Aに位置することを示す。
【0142】
これらの結果はdCREB1がショウジョウバエ由来の非PKA応答性CREBファミリーの一員であることを示している。
【0143】
実施例3および4に記述の研究では次の試薬と方法を使用した。
【0144】
トランスジェニックハエの単離
EcoRI 制限部位を(PCRを用いて)dCREB2-b cDNAの推定される翻訳開始部位のすぐ5'側と翻訳終結部位のすぐ3'側に加えた。この断片を配列決定し、CaSpeR hs43(hsp70プロモーターをdCREB2-bオープンリーディングフレームがそのhsp70プロモーターによって制御されるような方向に含有するミニホワイト(mini-white)形質転換ベクター)中にサブクローニングした。標準的な技術(Spradling, A.C.およびG.M. Rubin, Sicence, 218: 341-347(1982); Rubin, G.M.およびA. Spradling, Science, 218: 348-353(1982))を用いて、生殖系列形質転換を行った。それぞれ1つの独立したP因子挿入を伴う2つの形質転換系列、17-2とM11-1を作成し、特徴づけた。それらは一般的外観、生殖能および生存能が正常であるように見えた。これらの形質転換系をw(CS-10)(Dura, J-M.ら, J. Neurogenet. 9: 1-14(1993);これ自体は野生型(Can-S)動物に対して10世代外部交配されている)に対して少なくとも5世代外部交配させた。この長期間にわたる一連の外部交配はCanton-Sのそれに対して遺伝的背景を平衡化するために必要である。上記17-2トランスジーンについて同型接合のハエを繁殖させ、すべての実験に用いた。
【0145】
突然変異遮断因子については既に記述した(実施例1参照)。突然変異をその点以外は野生型の遮断因子構築物中に置換し、w(isoCJ1)胚中に注入することによって生殖系形質転換体を作成した。A2-2トランスジーン挿入物に関して同型接合のハエを繁殖させ、すべての実験に用いた。w(isoCJ1)は、同質遺伝子X、第2および第3染色体を保持するw(CS10)(上記参照)の亜系であり、当研究所のC. Jones博士によって構築された。当初40のそのような亜系は標準染色体バランサーストックを用いるw(CS10)であった。次に、嗅覚の鋭敏さ、ショック反応性、1サイクル訓練後の学習および3時間記憶を各同質遺伝子亜系中で評価した。予想通り、亜系間である範囲の評点が得られた。w(isoCJ1)はこれらのアッセイのそれぞれについてw(CS10)の評点に最も近い評点を与えた。w(isoCJ1)の比較的均質な遺伝的背景にDNAを注入することにより、(不均質な)遺伝子的背景を平衡化するために得られた生殖系形質転換体を外部交配させる必要がなかった。
【0146】
シクロヘキシミド給餌と熱ショック法
1サイクル訓練後の記憶保持と逆行性記憶消失に関する実験のため、ハエに4%ショ糖(w/v)中の35mMシクロヘキシミド(+CMX;Sigma)または4%ショ糖のみ(-CXM)を25℃で給餌した。ハエ100匹からなる群を、合計250μlの溶液に浸漬した2つの1.0×2.5cm Whatmann 3MMろ紙片の入った給餌管(Falcon 2017)中に置いた。
【0147】
集中的訓練または断続的訓練後の1日保持に関する実験のため、ハエに3%エタノールに溶解した5%(w/v)ブドウ糖および35mM CXMを給餌した。ハエ100匹からなる群を、合計126μlの溶液に浸漬した1つの1.0×2.5cm Whatmann 3MMろ紙片の入った給餌管(Falcon 2017)中に置いた。
【0148】
1サイクル訓練後の学習、嗅覚の鋭敏さおよびショック反応性に関する実験のため、ハエに5%ブドウ糖、3%エタノール溶液のみ、もしくは該グルコース/エタノール溶液中の35mM CXMを給餌した。
【0149】
給餌期間を訓練の12〜14時間前、もしくは訓練後の24時間保持期間に制限した。訓練前に給餌したハエを給餌後、訓練装置に直接移し、集中的訓練または断続的訓練にかけ、次に24時間の間、5%ブドウ糖に浸漬したろ紙片を含有する試験管に移した。訓練後に給餌するハエを訓練し、その後ただちに、35mM CXMを混ぜた5%ブドウ糖溶液に浸漬したろ紙片を含有する試験管に移した。24時間保持の間、ハエをその試験管中に放置した。
【0150】
熱ショック誘導のため、ハエを羽化の2日以内に集め、約600匹の群に分けてガラス瓶におき、25℃相対湿度70%で終夜インキュベートした。翌日、訓練の3時間前に、ハエ約100匹の群を、過剰の湿気を吸収するためのろ紙片が入った気泡ゴム栓付きガラスシェルバイアルに移した。次にそのバイアルを37℃の水槽中に気泡ゴム栓の底(バイアルの内側)が水面の下になるまで沈め、それによってハエが熱ショックから逃げえないことを確かにした。そのバイアルを30分間沈めたままにし、次に3時間回復期の間、ハエを25℃相対湿度70%の標準餌バイアルに移した。その回復期後ただちに訓練を始めた。
【0151】
パブロフの学習および記憶試験
ハエを自動化したTully, T.およびW.G. Quinn, J. Comp. Physiol., 157: 263-277(1985)の学習法で訓練した。簡単に述べると、内部を帯電銅格子で覆った訓練室内にハエを閉じ込めた。ハエ約100匹の群を2つの匂い[オクタノール(OCT)またはメチルシクロヘキサノール(MCH)]に順番にさらした。これらの匂いは、各匂いの提示後に45秒間の休止時間を置いて、気流にのせてを60秒間訓練室内に通した。最初の匂いにさらしている間、ハエを5秒パルス間間隔で、60V DCの1.5秒パルス12回にさらした。訓練後、特定の保持期間の間、ハエを餌バイアルに移した。次に、T迷路の選択点にハエを移し、そこで収束する気流にのせて選択点からT迷路の腕の遠い方の末端内に運ばれるOCTとMCHに同時にさらすことにより、条件付けされた匂い忌避応答を試験した。ハエを2分間自由にT迷路の腕の中に分布させ、その後、それぞれの腕の中に閉じ込めて、麻酔し、計数した。次に「正解率」を、ショックと組み合わせた匂いを避けたハエ(T迷路の反対の腕にいたもの)の数を両腕中のハエの総数で割ることによって計算した。(選択点に残ったハエの数(これは通常5%未満であった)はこの計算には含めなかった)。最後に、2つの相反ハエ群(1群ではOCTとショックを組み合わせ、もう一方の群ではMCHとショックを組み合わせた)の正解率を平均し、次いでその平均をPI=0がT迷路内の50:50分布を表し、PI=100がショックと組み合わせた匂いの100%忌避を表すように標準化することによって行動指標(PI)を計算した。これらの研究のため、3つの異なる訓練法を用いた:1.上述の訓練期間からなる1サイクル訓練、2.次々と行う10回のこれら訓練サイクルからなる集中的訓練、3.各サイクル間に15分の休憩期間を伴う10訓練サイクルからなる断続的訓練。1サイクル訓練を学習のアッセイに用い、集中的訓練と断続的訓練は強化された記憶のアッセイに用いた。
【0152】
嗅覚の鋭敏さとショック反応性
2つの異なる濃度(条件付け実験で通常に使用するもの(10°)とその100倍(10-2)希釈)のOCTまたはMCHに対する匂い忌避応答を、Boynton, S.およびT. Tully, Genetics, 131: 655-672(1992)の方法で、熱ショックの3時間後または24時間後、あるいは熱ショックを伴わずに、様々なハエ群で定量した。簡単に述べると、ハエをT迷路に置き、空気と匂いを選択させた。匂いは本来有害で、ハエは通常空気を選択し、匂いを含有するT迷路の腕を避ける。ショック反応性については、ハエにT迷路の一腕中の帯電格子ともう一方の腕中の非接続格子を選択させる。ハエが自然に分布した後、それらを麻酔し、計数し、PIを計算する。
【0153】
行動データの統計学的分析
各PIは2つの百分率の平均であるから、中心極限定理はそれらが正規分布するはずであることを予想する(Sokal, R.R.およびF.J. Rohlf, Biometry, 第2版, W.H. Freeman and Company, ニューヨーク(1981)を参照)。この予想は、Tully, T.およびW.G. Quinn, J. Comp. Physiol., 157: 263-277(1985)およびTully, T.およびD. Gold, J. Neurogenet., 9: 55-71(1993)のデータによる実験的決定によって正しいことが示されている。したがって非変換(生)データをJMP2.1統計学ソフトウェア(SAS Institute Inc ., ノースカロライナ州キャリー)で媒介変数的に分析した。本明細書に要約するすべての実験に先立って予備実験を行ったので、すべての対比較を計画した。アルファ=0.05の実験誤差率を維持するため、これらの個々の比較についての臨界P値をしかるべく調節した(Sokal, R.R.およびF.J. Rohlf, Biometry,第2版, W.H. Freeman and Company,ニューヨーク(1981))。それを各実験について下に列挙する。
【0154】
すべての実験を1日あたり集めた群あたりN=2 PIで平衡的に計画し、次に反復日を加えて最終Nを作った。各実験において、実験者(M.D.)は遺伝子型について知見がなかった。
【0155】
A.集中的訓練または断続的訓練の前または直後にCXMを与えた野生型ハエにおける1日記憶(図8):これら4つの薬物処置(−CXM前、−CXM後、+CXM前および+CXM後)と2つの訓練法(集中および断続)から得られるPIを二重アノーバ(ANOVA)にかけた。主効果として薬物(DRUG;F(3,56)=8.93 ,P<0.001)と訓練(TRAINing;F(1,56)=18.10 ,P<0.001)および相互作用項としてDRUG×TRAIN(F(3,56)=4.68 ,P=0.006)を示した。これに続く計画した比較から得られるP値を図8に要約する。6つの計画した比較をP≦0.01ならば有意であると判断した。
【0156】
B.dCREB2-b形質転換ハエにおける集中的訓練または断続的訓練後の1日記憶(図9Aおよび9B):17-2形質転換系を用いる実験では、2つの株(Can-Sおよび17-2)と4つの訓練法(断続−hs、断続+hs、集中−hsおよび集中+hs)から得られるPIを二重アノーバにかけた。主効果として株(STRAIN;F(1,40)=1.57 ;P=0.22)と訓練法(TRAINing-regimen;F(3,40)=25.81 ,P<0.001)および相互作用項としてSTRAIN×TRAIN(F(3,40)=6.62 ,P=0.001)。類似の分析をM11-1形質転換系から得たデータで行い、STRAIN(F(1,40)=2.81 ;P=0.10)、TRAINing-regimen(F(3,40)=11.97,P<0.001)およびSTRAIN×TRAIN(F(3,40)=3.37 ,P=0.03)効果を得た。これに続く計画した比較から得られるP値を図9Aと9Bに要約する。各実験では、7つの計画した比較がP≦0.01ならば有意であると判断した。
【0157】
C.17-2形質転換ハエにおける1サイクル訓練後の学習(図9C):2つの株(Can-Sおよび17-2)と3つの熱ショック法[−hs、+hs(3時間)および+hs(24時間)]から得られるPIを二重アノーバにかけた。主効果として株(STRAIN;F(1,30)=0.69;P=0.41)と熱ショック法(HEAT-shock regimen;F(2,30)=10.29,P<0.001)および相互作用項としてSTRAIN×HEAT(F(2,30)=0.71 ,P=0.50)を示した。これに続く計画した比較から得られるP値を図9Cに要約する。3つの計画した比較をP≦0.02ならば有意であると判断した。
【0158】
D.A2-2形質転換系における断続的訓練後の1日記憶(図10):これら3つの株[w(isoCJ1)、17-2およびA2-2]と2つの熱ショック法[−hsおよび+hs(3時間)]から得られるPIを二重アノーバにかけた。主効果として株(STRAIN;F(2,30)=9.43 ,P<0.001)および熱ショック法(HEAT-shock regimen;F(1,30)=9.84 ,P=0.004)および相互作用項としてSTRAIN×HEAT(F(2,30)=5.71 ,P=0.008)を示した。これに続く比較から得たP値を図10に要約する。6つの計画した比較をP≦0.01ならば有意であると判断した。
【0159】
E.17-2ハエにおける嗅覚の鋭敏さ(表):これら2つの株(Can-Sおよび17-2)、4つの匂いレベル(OCT−10°、OCT−10-2、MCH−100およびMCH−10-2)および3つの熱ショック法[−hs、+hs(3時間)および+hs(24時間)]から得られるPIを三重アノーバにかけた。主効果として株(STAIN;F(1,184)=0.12,P=0.73)、匂いレベル(ODOR-level;F(3,184)=126.77,P<0.001)および熱ショック法(HEAT-shock regimen;F(2,184)=3.55,P=0.03)、二重相互作用項としてSTRAIN×HEAT(F(2,184)=0.33,P=0.72)とODOR×HEAT(F(6,184)=3.14,P=0.006)および三重相互作用項としてSTRAIN×ODOR×HEAT(F(6,184)=0.48,P=0.83)を示した。これに続く計画した比較から得られるP値を表に要約する。12の計画した比較をP≦0.005ならば有意であるとした。
【0160】
F.17-2ハエにおけるショック反応性(表):これら2つの株(Can-Sと17-2)、2つのショック群(60Vと20V)および3つの熱ショック法[−hs、+hs(3時間)および+hs(24時間)]から得られるPIを三重アノーバにかけた。主効果として株(STRAIN;F(1,84)=0.50,P=0.48)、ショック(SHOCK;F(1,84)=97.78 ,P<0.001)および熱ショック法(HEAT-shock regimen;F(2,84)=3.36,P=0.04)、二重相互作用項としてSTRAIN×SHOCK(F(1,84)=1.12 ,P=0.29)、STRAIN×HEAT(F(2,84)=1.06,P=0.35)およびSHOCK×HEAT(F(2,84)=6.66,P=0.002)および三重相互作用項としてSTRAIN×SHOCK×HEAT(F(2,84)=1.75,P=0.18)を示した。これに続く計画した比較より得られるP値を表に要約する。6つの計画した比較をP≦0.01ならば有意であると判断した。
【0161】
G.17-2ハエにおける断続的訓練後の7日間記憶(図11):2つの株(Can-Sおよび17-2)と2つの熱ショック法[−hsおよび+hs(3時間)]から得られるPI値を二重アノーバにかけた。主効果として株(STRAIN;F(1,20)=6.09;P=0.02)と熱ショック法(HEAT-shock regimen;F(1,20)=16.30,P=0.001)および相互作用項としてSTRAIN×TRAIN(F(1,20)=7.73,P=0.01)を示した。これに続く計画した比較から得られるP値を図11に要約する。3つの計画した比較をP≦0.02ならば有意であると判断した。
【0162】
H.rsh;17-2二重突然変異体における断続的訓練後の1日記憶(図12):3つの株(17-2、rshおよびrsh;17-2)と2つの熱ショック法[−hsおよび+hs(3時間)]から得られるPI値を二重アノーバにかけた。主効果として株(STRAIN;F(2,30)=32.05;P<0.001)と熱ショック法(HEAT-shock regimen;F(1,30)=59.68,P<0.001)および相互作用項としてSTRAIN×TRAIN(F(2,30)=11.59,P<0.001)を示した。これに続く計画した比較から得られるP値を図12に要約する。5つの計画した比較をP≦0.01ならば有意であると判断した。
【0163】
I.rsh;17-2突然変異体における1サイクル訓練後の学習(本文参照):これら2つの株(Can-Sおよびrsh;17-2)と2つの熱ショック法[−hsおよび+hs(3時間)]から得られるPIを二重アノーバにかけた。主効果として株(STRAIN;F(1,20)=86.85,P<0.001)と熱ショック法(HEAT-shock regimen;F(1,20)=0.02,P<0.89)および相互作用項としてSTRAIN×HEAT(F(1,20)=0.86,P=0.37)を示した。これに続く計画した比較から得られるP値を表に要約する。2つの計画した比較をP≦0.03であれば有意であるとした。
【0164】
J.rsh;17-2ハエにおける嗅覚の鋭敏さ(表):これら2つの株(Can-Sおよびrsh;17-2)、4つの異なる匂いレベル(OCT−100、OCT−10-2、MCH−100およびMCH−10-2)および2つの熱ショック法[−hsおよび+hs(3時間)]から得られるPIを三重アノーバにかけた。主効果として株(STRAIN;F(1,112)=0.02,P=0.88)、匂いレベル(ODOR-level;F(3,112)=50.03,P<0.001)および熱ショック法(HEAT-shock regimen;F(1,112)=29.86,P<0.001)、二重相互作用項としてSTRAIN×ODOR(F(3,112)=2.15,P=0.10)、STRAIN×HEAT(F(1,112)=0.34,P=0.56)およびODOR×HEAT(F(3,112)=6.41,P=0.001)および三重相互作用項としてSTRAIN×ODOR×HEAT(F(3,112)=1.12,P=0.35)を示した。これに続く計画した比較より得られるP値を表に要約する。8つの計画した比較をP≦0.01ならば有意であると判断した。
【0165】
K.rsh;17-2ハエにおけるショック反応性(表):これら2つの株(Can-Sおよびrsh;17-2)、2つのショック群(60Vおよび20V)および2・つの熱ショック法[−hsおよび+hs(3時間)]から得られるPIを三重アノーバにかけた。主効果として株(STRAIN;F(1,56)=0.51,P=0.48)、ショック(SHOCK;F(1,56)=88.14,P<0.001)および熱ショック法(HEAT-shock regimen;F(1,56)=0.08,P=0.77)、二重相互作用項としてSTRAIN×SHOCK(F(1,56)=0.12,P=0.73)、STRAIN×HEAT(F(1,56)=0.03,P=0.86)およびSHOCK×HEAT(F(1,56)=0.39,P=0.53)および三重相互作用項としてSTRAIN×SHOCK×HEAT(F(1,84)=1.58、P=0.21)を示した。これに続く計画した比較から得られるPを表に要約する。4つの計画した比較をP≦0.01ならば有意であると判断した。
【0166】
ノーザン分析
RNA収集について、熱ショック法は行動実験の場合と同じとした。熱ショックと収集の間に表示の時間の間、ハエを餌含有バイアル中25℃で休ませた。ハエを集め、液体窒素中で急速に冷凍した。すべてのノーザン分析に頭部RNAを使用した。凍結したハエの試験管を固い表面上に繰り返し鋭く叩き付け、頭部を落とした。外れた凍結頭部をドライアイス上でふるいにかけて回収した。約1000個の頭部をRNA調製のために集めた。個々の時点それぞれに関する野生型ハエとトランスジェニックハエを常に平行して処理した。誘導していないハエを、バイアルを37℃に置かない点以外は誘導したハエと類似の方法で扱った。各ハエ群から全頭部RNAを単離し、オリゴdTカラムをその製造者(5'→3' Inc.)の指示に従って用いることにより、ポリA+RNAを単離した。ポリA+mRNAの濃度を分光測光法的に測定し、1レーンあたり0.5mgのmRNAを1.2%ホルムアルデヒド-アガロースゲルにのせ、泳動させた。記述のごとく(Ausubel, F., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, ニューヨーク, 1994)ノーザンブロットを調製し、プローブし、洗浄した(0.1×SSC,65℃)。トランスジーンを検出するため、843bp dCREB2-b cDNA断片をpKS+中にサブクローニングし、それを用いて均質に標識されたアンチセンスリボプローブを作成した。この断片はdCREB2-bタンパク質のカルボキシル末端86アミノ酸+3'非翻訳mRNAをコードする。
【0167】
ウエスタンブロット分析および抗血清
追加のCOOH末端Cysを持つdCREB2-b cDNAの塩基性領域中の16アミノ酸に対応するペプチドに対して生じさせたウサギ抗血清を用いて、ウエスタンブロット分析を行った。そのペプチドの配列は(配列番号24)NH2-RKREIRLQKNREAAREC-COOHであった。そのペプチドを合成し、スルホ-SMCC(Pierce)活性化キーホールリムペットヘモシアニインに結合した。その抗原をウサギに注射し(100μg)、2週間間隔で追加投与した。血清を採血し、細菌が発現したdCREB2-bタンパク質に対する免疫応答性について試験した。その抗血清をCM Affi-gel Blueカラム(Biorad)に通し、その通過液を硫酸アンモニウム沈殿で濃縮し、再懸濁し、PBS(0.14M NaCl, 2.7mM KCl, 4.3mM Na2HPO47H2O, 1.4mM KH2PO4, pH7.3)に対して透析した。透析した血清を、Ag/Ab固定化キット(Pierce社のImmunopure)を用いて作成したペプチドカラムを用いてアフィニティー精製した。抗血清を4M MgCl2, 0.1M HEPES pH6.0緩衝液で溶出させた後、それをPBSに対して透析し、凍結した。
【0168】
各データ点は約5個のハエ頭部を表す。約25〜50匹のハエ群を集め、すべての時点が集められるまで液体窒素上で急速に冷凍した。頭部を単離し、約200μlの1×Laemmli試料緩衝液中に再懸濁し、融解させ、Dounce B型ペッスルでホモジナイズした。試料を5分間煮沸し、Eppendoff微量遠心器中室温で10分間遠心分離した。その上清を集め、タンパク質ゲルにのせる直前に再び煮沸した。標準的な手法を用いて、各試料の等量のタンパク質を12%ポリアクリルアミド-SDSゲル上で分離し、それを電気ブロッティングによってPVDF膜に移した(Ausubel, F., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, ニューヨーク, 1994)。
【0169】
その膜をTBST(10mM Tris, pH7.9, 150mM NaCl, 0.05% Tween 20)中に作った5%BSA溶液で60分間遮断した。一次抗体をTBSTで1:1000に希釈し、上記フィルターと共に30分間インキュベートした。その膜をTBSTで毎回5分で3回洗浄した後、TBST中1:7500に希釈したアルカリ性フォスファターゼ結合抗ウサギIgG二次抗体(Promega)と共に30分間インキュベートした。その膜を前回のようにさらに3回洗浄し、発色性アルカリ性フォスファターゼ反応を製造者の指示(Promega)に従って用いることにより呈色させた。
【0170】
実施例3 熱ショック誘導後に増大したトランスジーン発現
トランスジーン誘導の行動に対する効果を説明するため、熱ショック誘導後のトランスジェニックハエ(17-2)におけるdCREB2-b発現を測定した。ノーザンブロット分析により、熱ショックの直後と3時間後に17-2ハエ中のhs-dCREB2-bメッセージのレベルが上昇していることが明らかになった(図7A)。この誘導はin situハイブリッド形成を用いて脳細胞中にも検出できた。ウエスタンブロットは誘導直後のdCREB2-bタンパク質の増加を示した(図7B)。増大したレベルのdCREB2-bタンパク質は9時間後にも認められ、誘導の24時間後でさえ検出可能であった。これらのデータは、増大した量のdCREB2-bが熱誘導の約6時間後に終わる断続的訓練の間中ずっと脳細胞内に存在したことを示している。
【0171】
また、行動実験では突然変異dCREB2-bタンパク質(dCREB2-mLZ)を発現するトランスジェニックハエ(A2-2)を用いた。これらの突然変異はロイシンジッパー中の2つの内部ロイシン残基をバリン残基に変えるものであり、これらの変化は二量体を形成できないタンパク質をもたらすことが示されている(Dwarki, V.J.ら, EMBO J., 9: 225-232(1990))。一時的同時トランスフェクションアッセイにおいて、この突然変異タンパク質はdCREB2-aによって媒介されるPKA依存的転写を遮断できず、一方、野生型タンパク質は遮断機能を持った。ウエスタンブロット分析は野生型遮断因子と突然変異遮断因子が熱ショック誘導の直後に始まり少なくとも6時間は続く同様のレベルで発現されることを示した(図7C)。したがってこれら2つのタンパク質がトランスジェニックハエ内での発現レベルや安定性に大きな相違を持つことはないようである。
【0172】
2つの異なるハウスキーピング遺伝子、ミオシン軽鎖(myosin light chain)(Parker, V.P.ら, Mol. Cell Biol., 5: 3058-3068(1985))と伸張因子α(Hovemann, B.ら, Nucleic Acids Res., 16: 3175-3194(1988))のノーザンブロット分析は、それらのRNAの定常状態レベルがトランスジーン誘導後少なくとも3時間は影響されないことを示した。2つの異なる共通DNA結合部位を用いるゲルシフト分析はトランスジーン誘導後に形成されるゲルシフト種に対して少なくとも9時間は大きな効果がないことを示した。遮断因子の同時トランスフェクションは細胞培養において異なるファミリー由来の転写因子の活性に干渉しなかった。これらを総合して考えると、hs-dCREB2-bはおそらく誘導後にかなり特異的な分子作用様式を持つ。
【0173】
実施例4 長期持続記憶形成における複数のCREBの役割の評価
集中訓練または断続的訓練の12〜14時間前、または直後の24時間保持期間の間、ハエに35mMシクロヘキシミド(CXM)を与えた(図8)。これらのCXM給餌法のそれぞれは断続的訓練後の1日記憶を有意に減少させたが、集中訓練後の1日記憶に対する効果を持たなかった(図8)。したがって断続的訓練直前直後のシクロヘキシミド給餌は1日記憶を破壊する。これらの結果は、長期間持続記憶の形成には訓練直後のタンパク質合成が必要であることを示唆している。
【0174】
図8の結果は、シクロヘキシミド給餌が断続的訓練後の1日保持に影響を与えるが、集中訓練には影響を与えないことを示している。野生型(Can-S)ハエの異なる群に、集中訓練または断続的訓練前の12〜14時間終夜間、あるいは訓練直後の24時間保持期間中に、5%ブドウ糖溶液のみ(塗りつぶした棒)または35mM CXMを加えたもの(斜線をひいた棒)を与えた。1日記憶保持は断続的訓練の前(P<0.001)または後(P<0.001)にCXMを与えたハエにおいて正常より有意に低かった。どちらの場合もCXMを与えたハエにおける1日保持がブドウ糖を与えたハエにおける集中訓練後の1日記憶と類似のレベルまで減少した(訓練前CXMについてP=0.88,訓練後CXMについてP=0.71)。対照的に、集中訓練後の1日記憶についてはCXMを与えたハエと対照ハエとの間に相違が検出されなかった(それぞれP=0.49とP=0.46)。
【0175】
断続的訓練後の1日保持は誘導しない(−hs)トランスジェニックハエ(17-2)で影響されなかったが、誘導した(+hs)トランスジェニックハエでは有意に減少した(図9A)。対照的に、集中訓練後の1日保持は非誘導トランスジェニックハエにおいても誘導トランスジェニックハエにおいても正常であった(図9A)。熱ショックを加えた(+hs)野生型ハエと熱ショックを加えない(−hs)野生型ハエの断続的訓練または集中訓練後の1日保持を比較すると、熱ショック法それ自体はどちらの訓練法後の記憶に対しても非特異的な効果を持たないことが示された。したがってdCREB2-bトランスジーンの誘導のみが断続的訓練後の1日記憶に影響を及ぼす(すなわちこれを破壊する)。
【0176】
M11-1(非依存的hs-dCREB2-b挿入物を保持する第2の系)における断続的訓練または集中訓練後の1日保持をも試験した。M11-1での結果は17-2について得た結果と類似していた(図9B)。これらの結果は誘導されたhs-dCREB2-bの効果がトランスジーンの特定の挿入部位に依存しないことを示している。
【0177】
図9A〜9Cの結果は、dCREB2-bトランスジーンの誘導が断続的訓練後の1日記憶を破壊し、一方、集中訓練後の1日記憶および学習は正常であることを示している。
【0178】
図9Aでは、野生型(Can-S)ハエ(塗りつぶした棒)またはhs-dCREB2-bトランスジェニック (17-2) ハエ(斜線を引いた棒)の異なる群に、熱ショックなしで(−hs)あるいは熱ショックの3時間後(+hs)に、断続的訓練または集中訓練を与えた。訓練後、ハエを標準餌バイアルに移し、1日記憶をアッセイするまで18℃で保存した。熱ショックなしのCan-Sハエと17-2ハエの間には断続的訓練または集中訓練後の1日記憶に相違が検出されなかった(−hs;それぞれP=0.83と0.63)。しかしハエを熱ショックの3時間後に訓練すると(+hs)、1日記憶は断続的訓練後のCan-Sハエと17-2ハエの間で有意に異なった(P<0.001)が、集中訓練後では相違がなかった(P=0.23)。実際、断続的訓練後の1日記憶は誘導した17-2ハエにおいて集中訓練後と相違しなかった(P=0.59)。さらに、熱ショック法は断続的訓練(P=0.59)または集中訓練(P=1.00)後のCan-Sハエにおける1日保持に対して非特異的な効果をもたらさなかった。1群あたりN=6行動指標(PIs )。
【0179】
第2の独立して誘導されたdCREB2-bトランスジェニック系M11-1(斜線をひいた棒)を用いて、図9Aに記述の実験を図9Bで繰り返した。ここでもまた、a)熱ショックなしではCan-SハエとM11-1ハエの間で断続的訓練または集中訓練後の1日記憶に相違が検出されず(−hs;それぞれP=0.83と0.86)、b)熱ショックの3時間後に訓練すると(+hs)、断続的訓練後の1日記憶についてはCan-SとM11-1の間に有意な相違が存在し(P<0.001)、集中訓練後には有意な相違が存在せず(P=0.85)、c)誘導したM11-1ハエにおいて断続的訓練後の1日記憶は集中訓練後と相違がなく(P=0.43)、d)熱ショック法はCan-Sハエにおける断続的訓練(P=0.59)または集中訓練(P=0.94)後の1日保持に対する非特異的な効果をもたらさなかった。1群あたりN=6 PIs 。
【0180】
もしトランスジーンの誘導が遺伝子発現の破壊によってLTMに特異的に作用するのであれば、学習は影響を受けないはずである。というのはそれが新しいタンパク質合成を必要としないからである。異なるハエ群を熱ショックなしで、あるいは熱ショックの3時間後または24時間後に、1サイクル訓練を用いて訓練した。誘導後のこれらの時点は、過去の実験においてハエを訓練し試験した時間(図9Aおよび9Bを参照)に対応するように選択した。17-2系におけるトランスジーン(d-CREB2-b)の誘導はどちらの場合も学習に対して効果をもたなかった(図9C)。
【0181】
図9Cでは、Can-Sハエ(塗りつぶした棒)または17-2トランスジェニックハエ(斜線を引いた棒)の異なる群に、熱ショックなしで(−hs)あるいは熱ショックの3時間(+hs3時間)または24時間(+hs24時間)後に、1サイクル訓練を施し、その後直ちに試験した。いずれの場合も、Can-Sハエと17-2ハエの間に相違は検出されず(それぞれP=0.28,0.64および0.42)、誘導トランスジェニックハエまたは非誘導トランスジェニックハエにおいて学習が正常であることを示した。1群あたりN=6 PI。
【0182】
突然変異遮断因子を含有するトランスジーン(A2-2)の誘導は断続的訓練後の1日保持に影響を与えず、一方、野生型遮断因子(17-2)は劇的な効果を有した(図10)。1日保持が熱誘導による影響を受けないw(iso CJ1 )ハエは突然変異遮断因子トランスジェニックハエに関する同質遺伝子対照である。ウエスタンブロット分析は野生型遮断因子と突然変異遮断因子が類似の発現レベルを持つだろうことを示したので、この結果は、効果的に機能するには遮断因子が無傷のロイシンジッパーを必要とすることを示唆している。
【0183】
図10は、hs-dCREB2-mLZ突然変異遮断因子の誘導が断続的訓練後の1日保持に影響を与えないことを示している。野生型ハエ[w(iso CJ1 )]、hs-dCREB2-bトランスジェニックハエ (17-2) または突然変異hs-dCREB2-mLZトランスジェニックハエ(A2-2)の異なる群に、熱ショックなしで(−hs)または熱ショックの3時間後(+hs)に断続的訓練を施した。次にこれらのハエを図9Aの場合と同様に扱い、試験した。断続的訓練後の1日記憶の相違は、熱ショックなしのw(isoCJ1)ハエと17-2ハエまたはw(isoCJ1)ハエとA2-2ハエの間で検出されなかった(−hs;それぞれP=0.38と0.59)。しかしハエを熱ショックの3時間後に訓練すると(+hs)、断続的訓練後の1日記憶が(図9Aの場合と同様に)w(isoCJ1)ハエと17-2ハエの間で有意に異なった(P<0.001)が、w(isoCJ1)ハエとA2-2ハエの間で異ならなかった(P=0.78)。さらに、熱ショック法はw(isoCJ1)ハエまたはA2-2ハエにおける断続的訓練後の1日保持に対して非特異的な効果をもたらさなかった(それぞれP=0.40とP=0.97)。1群あたりN=6行動指標(PIs )。
【0184】
嗅覚の鋭敏さとショック反応性は、ハエが匂い-ショック連想を正しく学習するには欠かせない構成行動である。表はこれらの周辺行動に関する評点をCan-Sハエと17-2ハエについて示している。熱ショックのあるなしに関わらず、嗅覚の鋭敏さとショック反応性は17-2トランスジェニックハエにおいて正常であった。したがってhs-dCREB2-b誘導は嗅覚の鋭敏さやショック反応性に影響を与えない。
【0185】
もしhs-dCREB2-bの誘導が長期持続記憶(LTM)を遮断するのであれば、長期持続性記憶も遮断されるはずである。野生型ハエでは、断続的訓練後の7日間保持はCXM感受性LTMのみからなっている。なぜならCXM非感受性ARM成分は消失しているからである。非誘導トランスジェニックハエ(17-2)では、断続的訓練後の7日間保持が非誘導野生型ハエにおける保持と類似していた(P=0.83;図11)。しかし熱ショックの3時間後に訓練されたトランスジェニックハエでは7日間保持がひどく破壊されており(P=0.001)、ゼロと異ならなかった(P=0.91)。対照的に、熱ショック操作は野生型ハエにおける7日間記憶に対して検出しうる効果をもたなかった(P=0.39)。したがって、hs-dCREB2-bの誘導は長期持続記憶(LTM)を破壊する。
【0186】
図11は、hs-dCREB2-bの誘導が7日間記憶保持を完全に排除することを示している。ラディッシュ(radish)突然変異体の過去の分析は、断続的訓練の4日以上後の記憶保持がLTMの単独の存在を反映することを示した。したがって誘導されたhs-dCREB2-bのLTMに対する効果を、Can-Sハエ(塗りつぶした棒)と17-2トランスジェニックハエ(斜線を引いた棒)(これらを熱ショックなしで(−hs)あるいは熱ショックの3時間後に(+hs)訓練した)における断続的訓練後の7日間保持を比較することによって確かめた。保持期間の間、ハエを標準餌バイアル中に18℃で保存した。1群あたりN=6 PIs 。断続的訓練後の7日間保持は熱ショックなしではCan-Sと17-2の間で異ならなかった(P=0.83)が、熱ショック後では17-2ハエにおいて正常より有意に低かった(P=0.002)。実際、誘導した17-2トランスジェニックハエにおける断続的訓練後の7日間保持はゼロと異ならなかった(P=0.92)。さらに、熱ショック操作はCan-Sハエにおける断続的訓練後の7日間保持に非特異的な影響を与えなかった(P=0.39)。
【0187】
もしhs-dCREB2-bトランスジーンの誘導がLTMを特異的に遮断するのであれば、それは断続的訓練後の強化された記憶のCXM感受性成分のみに影響を与えるはずである。2つのトランスジェニック系、17-2とM11-1の両方について、トランスジーン誘導の効果はCXMが野生型ハエに対して持つ効果と類似しているようにみえた(図8を図9Aおよび9Bと比較のこと)。この類似性は、誘導されたdCREB2-bタンパク質がCXM感受性記憶を完全に遮断し、ARMを無傷のままにしておくことを示唆するものであった。ラディッシュ突然変異はARMを破壊し(Folkers, E.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 8123-8127(1993))、断続的訓練の1日後にLTMのみを残す。したがってラディッシュhs-dCREB2-b「二重突然変異体」(rsh;17-2)を構築し、ARMの非存在下でLTMを調べることができるようにした。熱ショックなしの場合、rsh;17-2二重突然変異体とラディシュ単一遺伝子突然変異体は断続的訓練後に等しい1日保持を与えた(図12)。対照的に、断続的訓練の3時間前にこれらのハエに熱ショックを与えると、rsh;17-2ハエでは1日保持を検出できなかったが、ラディッシュハエには突然変異体レベルで残っていた。またこの二重突然変異体は、熱ショックの3時間後と熱ショックなしで、正常な(ラディッシュ様の)学習(P=0.59)と正常な(野生型)嗅覚の鋭敏さおよびショック反応性を示した(表を参照)。
【0188】
図12は、hs-dCREB2-bの誘導がラディッシュ;17-2「二重突然変異体」における断続的訓練後の1日記憶を完全に排除することを示している。ラディッシュはARMを破壊することが知られているので、LTMに対するhs-dCREB2-bの効果の明確な考察がラディッシュ;17-2ハエ内で得られた。断続的訓練後の1日保持をrsh;17-2二重突然変異体内と対照としての17-2とrsh単一遺伝子突然変異体内でアッセイした。熱ショックなしで(塗りつぶした棒)あるいは熱ショックの3時間後に(斜線を引いた棒)ハエを訓練し、保持期間の間は18℃で保存した。いつも通り、hs-dCREB2-bの誘導は17-2ハエにおける断続的訓練後の1日記憶を有意に低下させた(P<0.001)。しかし熱ショック操作は、ラディッシュ突然変異体において、そのような記憶に対する効果(LTMの存在のみを反映する)を持たなかった(P=0.52)。対照的に、熱ショックはrash;17-2二重突然変異体における評点を有意に低下させ(P<0.001)、それはゼロと異ならなかった(P=0.20)。1群あたりN=6 PIs 。
【0189】
【表1】


実施例5と6に記述する作業では次の物質と方法を使用した。
【0190】
パブロフの学習および記憶試験
1つの訓練期間の間、約100匹のハエ群を2つの匂い[オクタノール(OCT)またはメチルシクロヘキサノール(MCH)]に、各匂いの提示後に45秒の休息期間をおいて60秒間、順番にさらした。第1の匂いにさらしている間、ハエに5秒のパルス間間隔で60V DCの1.5秒パルスを12回与えた。
【0191】
訓練後、ハエを餌バイアルに移し、7日保持期間の間18℃で保存した。次に、ハエをT迷路の選択点に移し、そこでハエを選択点からT迷路の腕の遠い方の末端内へ収束する気流に乗せて運ばれるOCTとMCHに同時にさらすことにより、条件付けられた匂い忌避応答を試験した。
【0192】
ハエをT迷路の腕内に120秒間自由に分布させ、その後ハエを各腕に閉じ込め、麻酔し、計数した。次に「正解率」を、ショックと組み合わせた匂いを避けたハエ(T迷路の反対の腕にいたもの)の数を両腕中のハエの総数で割ることによって計算した。(選択点に残ったハエの数(これは通常5%未満であった)はこの計算には含めなかった)。最後に、2つの相反ハエ群(1群ではOCTとショックを組み合わせ、もう一方の群ではMCHとショックを組み合わせた)の正解率を平均し、次いでその平均をPI=0がT迷路内の50:50分布を表し、PI=100がショックと組み合わせた匂いの100%忌避を表すように正規化することによって行動指標(PI)を計算した。
【0193】
すべての行動実験を1日あたり集めた群あたりN=2 PIs で平衡的に計画し、次に何日にもわたって繰り返して最終Nを作った。すべての実験において、実験者は遺伝子型についての知見を持たなかった。
【0194】
行動データの統計学的分析
PIは正規的に分布する(Tully, T.およびD. Gold, J. Neurogenet., 9: 55-71 (1993)) 。したがって未変換(生)のデータをJMP3.01統計学ソフトウェア(SAS Institute Inc., ノースカロライナ州キャリー)で媒介変数的に分析した。負促進指数(negative accelerating exponential)Gompertz(成長)関数(Lewis, D., Quantitative Methods in Psychology, McGraw-Hill, ニューヨーク州ニューヨーク (1960)を参照のこと) を、反復非線型最小二乗によって図13Aおよび13Bのデータに対して適合させた。
【0195】
実施例5 反復訓練期間の長期持続記憶に対する効果
野生型(Can-S)ハエにおける7日間記憶保持(長期持続記憶の尺度)の誘導は反復訓練期間によって増加する。自動化した差別的な標準的条件付け法を用いて、1つの匂い(CS+)にさらしている間はハエに電気ショックを与え、第2の匂い(CS−)にさらしている間は電気ショックを与えなかった。1またはそれ以上の訓練期間の7日後に、条件付けられた匂い忌避応答の記憶保持をT迷路(ここではハエにCS+とCS−を120秒間同時に与えた)中で定量した。
【0196】
図13Aでは、訓練期間の数の関数としての長期持続記憶が○で示されている。1回の訓練期間はゼロに近い平均行動指標(PI±SEM;注1)をもたらした。しかし各期間の間に15分の休息期間を伴って訓練期間を増加すると、平均PIが着実に増大し、10回の訓練期間後に最大値39を与えた。さらに10回の訓練期間を追加しても同じような行動をもたらした。非線型「成長」関数(実線)を反復最小二乗法を用いて個々のPIに適合させた。1〜10、15および20回の訓練期間を受けた群について、それぞれN=13,6,6,6,13,7,7,7,7,6,7および7PI。
【0197】
実施例6 各訓練期間の間の休息期間の長期持続記憶に対する効果
野性型(Can-S)ハエにおける7日間記憶保持(長期持続記憶の尺度)の誘導は各訓練期間の間の休息期間によって増加する。実施例5に記述のごとく、自動化した差別的な標準的条件付け法を用いて、1つの匂い(CS+)にさらしている間にハエに電気ショックを与え、第2の匂い(CS−)にさらしている間には電気ショックを与えなかった。1回またはそれ以上の回数の訓練期間の7日後に、条件付けられた匂い忌避応答の記憶保持をT迷路(ここでハエにCS+とCS−を同時に120秒間与えた)中で定量した。
【0198】
図13Bでは、休息期間の関数としての長期持続記憶が○で示されている。各期間の間に休息期間を伴わない10回の訓練期間(集中訓練)はゼロに近い平均PIをもたらした。10回の訓練期間の各期間の間の休息期間が増大するにつれて、平均PIが着実に増大し、10分の休息期間で最大値34をもたらした。10分以上の休息時間は類似の行動をもたらした。非線型成長関数(実線)を上述のようにデータに適合させた。各訓練期間の間に0〜10、15および20分の休息を与えた群について、それぞれN=12,6, 6,6,6,13,7,7,7,7,7,7および7PI。
【0199】
実施例7〜10に記述する作業では次の物質と方法を使用した。
【0200】
トランスジェニックハエの単離
PCRを用いて、dCREB2-a cDNA内の推定翻訳開始部位のすぐ5'側と翻訳終結部位のすぐ3'側にEcoRI制限部位を付加した。この断片を配列決定し、CaSpeR hs43(hsp70プロモーターをdCREB2-aオープンリーディングフレームがそのhsp70プロモーターによって制御されるような方向に含有するミニホワイト形質転換ベクター)中にサブクローニングした。標準的な技術を用いて同質遺伝子型w(isoCJ1)胚中に注入することにより、生殖系列形質転換(Germline transformation )を行った(Spradling, A.C.およびG.M. Rubin, Science, 218: 341-347(1982); Rubin, G.M.およびA. Spradling, Science, 218: 348-353(1982))。DNAを比較的均質な遺伝子的背景のw(isoCJ1)に注入することにより、(異種の)遺伝子的背景を均質化させるために得られた生殖系列形質転換体を外部交配させる必要がなかった。2つの形質転換系C28とC30(それぞれ1つの非依存性P因子挿入を伴う)を作成し、特徴づけた。それらは一般的外観、生殖能および生存能が正常であるように見えた。C28またはC30トランスジーンについて同型接合のハエを繁殖させ、これをすべての実験に用いた。
【0201】
熱ショック操作
熱ショック誘導のため、ハエを羽化の2日以内に集め、約600匹の群に分けてガラス瓶に入れ、25℃相対湿度70%で終夜インキュベートした。翌日、訓練の3時間前に、約100匹のハエ群を、過剰の湿気を吸収するためにろ紙片を入れた気泡ゴム栓付きのガラスシェルバイアルに移した。次にそのバイアルを気泡ゴム栓の底(バイアルの内部)が水面の下になるまで37℃の水槽に漬けることにより、ハエが熱ショックから逃げられないことを確かにした。そのバイアルを30分間漬けたままにし、その後、ハエを25℃相対湿度70%で3時間の回復期間の間、標準餌が入ったバイアルに移した。その回復期間の直後に訓練を開始した。
【0202】
行動データの統計学的分析
3つの株(Can-S、C28およびC30)と6つの訓練法(1×+hs、2×集中+hs、10×集中+hs、1×−hs、2×集中−hsおよび10×集中−hs)から得られるPIを二重アノーバにかけた。主効果として株(STRAIN;F(2,102)=48.34;P<0.001)と訓練法 (TRAINing-regimen;F(5,102)=25.47,P<0.001) 。相互作用項としてSTRAIN×TRAIN(F(10,102)=5.85,P<0.001)。本明細書に要約する実験のすべてに先立って予備実験を行ったので、すべての対比較を計画した。アルファ=0.05の実験誤差率を維持するため、図15Bに要約する個々の比較をP<0.002ならば有意であると判断した(Sokal, R.R.およびF.J. Rohlf, Biometry, 第2版, W.H. Freeman and Company, ニューヨーク (1981) )。
【0203】
実施例7 長期持続記憶の形成に関する分子スイッチ
図14は、反対の機能を持つCREBアイソフォームの差別的な調節に基づく、LTMの形成に関する分子スイッチの概念的方法を表す。
【0204】
1訓練期間の直後に、関連するCREB活性化因子とCREB抑制因子を誘導される。その(分子濃度ではなく)合わせた機能は等価であり、CREB活性化因子の正味の効果はない。したがって集中訓練(休息期間なし)を繰り返してもLTMは誘導されない(図15A参照)。しかしCREB抑制因子は機能的にCREB活性化因子より早く不活化し、時間とともに増大する正味のCREB活性化因子効果(ΔC)を与える(図13B参照)。もしΔCが断続的訓練中の特定の休息期間の最後で正であるならば、CREB活性化因子はLTMの形成に関与する下流の事象を自由に開始できる。通常、1訓練期間後のΔCは多くのLTMを与えるのに十分なほど大きくない。したがって、繰り返される断続的訓練期間がΔCを増分的に増大させ、ついには最大LTMをもたらす(図13A参照)。
【0205】
長期持続記憶形成に関する分子スイッチとしてCREBを含むこのモデルから得られる2つの予想の実験的立証を図15A〜15Cに示し、実施例8〜10で考察する。
【0206】
実施例8 1訓練期間直後に等量のCREB活性化因子とCREB抑制因子を持つことの長期持続記憶に対する効果
LTMに関する分子スイッチのモデルは、すべてのCREB活性化因子とCREB抑制因子の機能的効果が1訓練期間の直後には等しい(ΔC=0)ことを予言する。もしさらなる訓練期間の間に休息期間を置かなかったならば(集中訓練)、機能的CREB活性化因子は蓄積せず、それによってLTM誘導に必要な下流の事象の誘導を妨害するであろう。
【0207】
この概念を試験するため、野生型(Can-S)ハエを(通常の10回(図15B参照)ではなく)48回の集中訓練期間(48×集中)あるいは陽性対照として15分の休息期間を伴う10回の断続的訓練期間(10×断続的)にかけた。このような集中訓練後の7日間記憶はほとんどゼロであり(図15A)、一方、断続的訓練後はほとんどその通常の最大値であった(図13A参照)。したがって通常の集中訓練量のほとんど5倍でもまだLTMを誘導しなかった。各群につきN=6 PI。
【0208】
野生型(Can-S)ハエの2つの群(10×断続的または48×集中)から得たPIを一重アノーバにかけた。主効果として群(GROUP;F(10)=51.13;P<0.001)。これに続く計画した比較は48×集中群の平均PIがゼロと有意に異ならないことを明らかにした(t(10)=1.66;P=0.127)。
【0209】
実施例9 増大するCREB活性化因子量の長期持続記憶に対する効果
LTMに関する分子スイッチのモデルからは、 CREB活性化因子量を実験的に増大させることにより、最大LTMをもたらすのに10分の休息期間を各訓練期間の間に伴って少なくとも10回は繰り返される訓練期間が必要であるという条件が排除されるであろうことが推測される。
【0210】
この概念を試験するため、異なる細胞学的位置に挿入された誘導性hsp-dCREB2-a活性化因子構築物を保持する2つの形質転換系(C28とC30)を作成した。これら2つの形質転換系から得た異なるハエ群を、野生型(Can-S)ハエと共に、トランスジーンの熱ショック誘導の3時間後に(誘導)あるいは熱ショックなしで(非誘導)、1回(1×)、2回(2×)または10回(10×)の集中訓練期間にかけた。
【0211】
熱ショックなしの場合、3株すべてにおける7日間記憶は1回、2回または10回の集中訓練期間後にゼロと異ならなかった(すべてP>0.002)。熱ショックの場合、野生型ハエにおける7日間記憶は各集中訓練群でゼロに近いままであった(すべてP>0.002)。対照的に、7日間記憶はC28形質転換系とC30形質転換系の両方において10回の集中訓練後に有意(ほとんど最大値35)であった(すべてP<0.0001)。さらに、1回の訓練期間後の7日間記憶はC28形質転換系(P=0.89)とC30形質転換系(P=0.89)の両方において10回の訓練期間後のそれと類似していた。したがって異常に高いレベルのCREB活性化因子を発現するトランスジェニックハエにおいてはたった1回の訓練期間後に最大LTMが誘導された。Can-S、C28およびC30の各群についてそれぞれN=10,4および6PI。
【0212】
実施例10 嗅覚の鋭敏さとショック反応性
OCTまたはMCHに対する匂い忌避応答を、空気と匂いを選択させるBoynton, S.およびT. Tully, Genetics, 131: 655-672(1992)の方法で定量した。匂いは本来有害で、ハエは通常空気を選び、匂いを含有するT迷路の腕を避ける。120秒後、ハエをT迷路のそれぞれの腕に閉じ込め、麻酔し、計数した。匂いを正しく忌避する正規化した百分率としてPIを計算した(実施例5参照)。これら2つの株と2つの匂い群(OCTとMCH)から得たPIを二重アノーバ(TWO-WAY ANOVA )にかけた。主効果として株(STRAIN;F(1,12)=1.57,P=0.23)と匂い(ODOR;F(1,12)=0.07,P=0.80)。相互作用項としてDRUG×ODOR(F(1,12)=0.15 ,P=0.71)。これに続く2つの計画した比較をP<0.025ならば有意であると判断した。
【0213】
ショック反応性を、37℃における30分間熱ショックの3時間後に、野生型(Can-S)ハエまたは誘導性hsp-dCREB2-a構築物を保持する形質転換系(C28)において、Dura, J-M.ら, J. Neurogenet., 9: 1-14(1993)の方法で定量した。簡単に述べると、ハエをT迷路に置き、T迷路の1腕中の帯電格子(60V DC)ともう一つの腕中の非接続格子を選択させた。120秒後にハエをT迷路のそれぞれの腕の中に閉じ込め、麻酔し、計数した。PIを嗅覚の鋭敏さの場合と同様に計算した。これら2つの株から得たPIを一重アノーバ(ONE-WAY ANOVA )にかけた。主効果として株(STRAIN;F(1,6)=13.03,P=0.01)。
【0214】
熱ショックの3時間後の匂いまたはショックに対する単純な忌避応答は、条件付け実験に用いた2つの臭気物質(MCHとOCT)について野生型(Can-S)ハエとトランスジェニック(C28)ハエの間で異ならなかった(それぞれP=0.27,0.55)。各群につきN=4 PI。トランスジェニックハエに関する訓練3時間後の単純なショック忌避応答は野生型ハエよりもわずかに低かった(P=0.01)。各群につきN=4 PI。
【0215】
実施例11〜13はショウジョウバエ一酸化窒素合成酵素についての研究に関する。
【0216】
実施例11 ショウジョウバエゲノムのファージライブラリーに対する、低い厳密性でのハイブリッド形成とショウジョウバエcDNAライブラリーのスクリーニング
40%ホルムアルデヒドの低い厳密性の条件下でラット神経NOS cDNAの1.3kb BglII断片(残基3282−4573)を伴うゲノムショウジョウバエλダッシュライブラリー6×104プラークをW.M. McGinnisら, Nature 308: 428(1984)に記述されているようにスクリーニングした。50の陽性ファージを精製し、それをそれら間の(inter se)ハイブリダイゼーションにもとづいてグループ分けした。dNOSの2.4R断片を含有するものは15ファージクローンからなった。上記ラットプローブに対する交差ハイブリダイゼーションの領域を同定し、それをサブクローン化し、そのうちの3つを配列決定した。他の2つはデータベース中のいずれのタンパク質に対しても相同な配列を含有しなかった。ショウジョウバエ頭部cDNAライブラリー(P. Salvaterraから贈与)をファージクローンλ8.11から単離した2.4R断片で標準的条件下でスクリーニングした。すべてのファージ精製とクローニング段階を標準的方法で行った(J. Sambrook, E.F. Fritsch, T. Maniatis, Molecular cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Laboratory, ニューヨーク州コールドスプリングハーバー, 1989))。cDNA断片をBluescript(Stratagene)中にサブクローニングし、Sequenase 2.0(USB)で両鎖を配列決定した。
【0217】
実施例12 ショウジョウバエ一酸化窒素合成酵素(dNOS)の活性
dNOS cDNA(ATGコドンのすぐ上流にXbaI部位を挿入したもの)を含有する活性検定用の発現構築物をpCGN発現ベクターのXbaI部位とSmaI部位中にクローニングした(M. TanakaおよびW. Herr, Cell, 60: 375(1990))。293個のヒト腎細胞をこのdNOS構築物(またはベクターDNA)15μgでトランスフェクトし、M.J. Imperiale, L.T. FeldmanおよびJ.R. Nevins, Cell, 35: 127(1983)に記述されているようにリン酸カルシウムで沈殿させた。2日後に細胞を集め、タンパク質抽出物をJ. Sambrook, E.F. Fritsch, T. Maniatis, Molecular cloning: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory,ニューヨーク州コールドスプリングハーバー, 1989)に記述されているように調製した。
【0218】
抗DNOS抗体を生じさせるための融合タンパク質を、dNOS cDNAの0.29kbの Eam1105I−SacI断片(この断片はdNOF ORFの97N末端アミノ酸をコードする)をpGEX−KG[K. GuanおよびJ.E. Dixon, Anal. Biochem., 192: 262(1991)]のEcoRI部位中にクローニングすることによって作成した。その融合タンパク質をBL21大腸菌株中で発現させ、G.J. Hannon, D. Demetrick, D. Beach, Genes & Dev., 7: 2378(1993)に記述されているようにグルタチオン-Sepharoseカラム(Pharmacia)で精製した。ウサギの免疫感作と血清調製をHazleton Research Products, Inc.(デンバー)によって行った。DNOSタンパク質を、ウサギ血清の1:500希釈液を用いてウエスタンブロット上で検出し、交差反応バンドを提供された実験手順に従って抗ウサギアルカリ性ホスファターゼ複合体(Promega)で可視化した。
【0219】
酵素アッセイを基本的には過去に記述されているように行った(D. BredtおよびS. Snyder, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 682(1990))。25μl(50〜100μg)の可溶性タンパク質抽出物、50mM Hepes(pH7.4)、3μM FAD、3μM FMN、10μMテトラヒドロビオピテリン(ICN)、1mM DTT、0.8mM CaCl2、1mM NADPH、10μg/mlカルモジュリン、2μlの[3H]L-アルギニン(35.7Ci/mmol,NEN)および50mM L-バリンを含有する反応混合物100mlを37℃で60分間インキュベートした。その反応を0.5mlの20mM Hepes(pH5.5)、2mM EDTA、2mM EGTAで停止し、0.5mlのDowex AG 50WX-8(Na+型)カラムにのせ、3×0.5mlの停止緩衝液で溶出させた。溶出液中に存在する放射活性をシンチレーション計数器中で定量した。
【0220】
図17A〜17Bは293腎細胞におけるDNOS酵素活性の発現を示している。図17Aはベクターのみ(レーン293+ベクター)またはdNOS cDNA・構築物(レーン293+dNOS)でトランスフェクトした293細胞から得られるタンパク質抽出物のウエスタンブロット分析の結果を示している。25μgの可溶性タンパク質抽出物を7.5%ポリアクリルアミドゲル上で展開し、ニトロセルロース膜に移し、抗DNOS抗体で処理した。矢印はDNOSタンパク質の位置を示している。分子量マーカーの位置をkDの単位で左に示してある。
【0221】
図17Bは3H-L-アルギニンの3H-L-シトルリンへの変換によって293細胞抽出物内で測定した有意なDNOS酵素活性を示している。酵素活性はdNOS cDNA構築物でトランスフェクトした細胞(グループB〜D)でのみ検出された。それを比活性(pmolシトルリン/mg/分)として表す。また、DNOS活性を1mM EGTAの存在下外因性Ca2+またはカルモジュリンなしで(グループC)あるいは100mM L-NAMEの存在下で(グループD)測定した。各群につきN=4反応。
【0222】
実施例13 dNOSのスプライシングパターン
成体ハエの頭部と胴部をふるいで分離した。全RNAをグアニジウムイソチオシアネート法[P. ChomczynskiおよびN. Sacchi, Anal. Biochem., 162: 156(1987)]で単離した。ポリ(A)+RNA選択、ノーザンブロットおよびハイブリダイゼーションを標準的な方法( J. Sambrook, E.F. Fritsch, T. Maniatis, Molecular cloning: A Laboratory Manual・(Cold Spring Harbor Laboratory,ニューヨーク州コールドスプリングハーバー, 1989))で行った。そのブロットをランダムプライムドdNOS cDNA(106cpm/ml)とハイブリッド形成させ、0.1×SSCおよび0.1% SDS中65℃で洗浄し、X線フィルムに72時間露光した。2つの25マー・プライマー[dNOS配列中の残基1374-1399(トッププライマー)および1793-1817(ボトムプライマー)に対応する]を用いて2つのdNOSスプライス産物の断片を増幅した。各RT-PCR反応は30ngのポリ(A)+頭部RNAを含有する。第1段階(RT)では、90ngのボトムプライマーと5UのrTthポリメラーゼ(Perkin-Elmers)を加え、その混合物をMJ Research Minicycler内で次の条件でインキュベートした:95℃/1分、67℃/45秒、70℃/13分。第2段階(PCR)は94℃/45秒、63℃/45秒、70℃/90秒の条件で行い、35サイクル繰り返した。この反応の産物を変性ポリアクリルアミド(8%)ゲルで分析した。所望のバンドを単離し、再増幅し、pCR1000(InVitrogen)中にクローニングし、Sequenaseキット(USB)で配列決定した。
【0223】
成体ハエにおけるdNOS発現のノーザンブロット分析は頭部に存在する5.0kb dNOS転写物を示す(図18A)。各レーンはショウジョウバエの頭部(H)または胴部(B)から単離されたポリ(A)+mRNA 10mgを含む。そのノーザンブロットをdNOS cDNAと上述のようにハイブリッド形成させた。サイズマーカーの位置をkbの単位で左側に示す。そのブロットをRNA濃縮用の標品としてのミオシン軽鎖(MLC)(Parker, V.P., Mol. Cell Biol. 5: 3058-3068(1985))でオーバープローブした。
【0224】
図18Bは、dNOS遺伝子が2つの二者択一的にスプライスされたmRNA種を発現することを示している。RT-PCR反応をショウジョウバエ頭部から単離されたポリ(A)+mRNAに対して行い、それを8%ポリアクリルアミドゲルで展開した。矢印は予想されるサイズのDNA断片(444bp長鎖型断片と129bp短鎖型断片)の位置を示している。このレーンに存在する他のバンドは変性しえなかったヘテロ二本鎖に由来する人工産物である。ポリ(A)+mRNAを対照反応から除外した(レーン−RNA)。対照反応はその他の点では同一の条件で行った。サイズマーカー(kbラダー)を中央のレーン(KB)に示す。
【0225】
均等物
当業者は、日常的な実験を用いるだけで、ここに記述された本発明の特定の態様と等価な多くのものを知り、あるいはそれを確かめることができるだろう。これらのそして他のすべての均等物は下記請求の範囲に包含されるものと解釈される。
【0226】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
[1]動物においてdCREB2遺伝子又はその機能的断片の発現を誘導することを含む、動物における長期持続記憶の調節方法。
[2]dCREB2遺伝子が、サイクリック3’,5’−アデノシン一リン酸応答性活性化因子のアイソフォームをコードするものであり、該遺伝子の誘導により長期持続記憶を向上させる[1]記載の方法。
[3]活性化因子のアイソフォームがdCREB2−a又はその類似体である[2]記載の方法。
[4]サイクリック3’,5’−アデノシン一リン酸応答性活性化因子のアイソフォームをコードするdCREB2遺伝子の導入により、長期持続記憶の形成に必要なタンパク質の産生を活性化する[2]記載の方法。
[5]活性化因子のアイソフォームがdCREB2−a又はその類似体である[4]記載の方法。
[6]dCREB2遺伝子が抑制因子のアイソフォームをコードするものであり、該遺伝子の誘導により長期持続記憶を遮断させる[1]記載の方法。
[7]抑制因子のアイソフォームがdCREB2−b又はその類似体である[6]記載の方法。
[8]dCREB2の抑制因子及び活性化因子のアイソフォームを誘導することを含み、機能的活性化因子の正味の量(ΔC)が0よりも大きい場合に動物における長期持続記憶が向上する、動物における長期持続記憶の調節方法。
[9]抑制因子のアイソフォームがdCREB2−b又はその類似体であり、活性化因子のアイソフォームがdCREB2−a又はその類似体である[8]記載の方法。
[10]正常な動物由来のdCREB2の抑制因子及び活性化因子のアイソフォームの導入又は活性を変える物質を検定することを含む、動物における長期持続記憶に作用し得る物質の同定方法。
[11]正常な動物由来の活性化因子のホモ二量体のレベルを増加させることを含む、動物における長期持続記憶の形成を促進させる方法。
[12]活性化因子のホモ二量体がdCREB2aのホモ二量体である[11]記載の方法。
[13]正常な動物由来の活性化因子−抑制因子のヘテロ二量体のレベルを減少させることを含む、動物における長期持続記憶の形成を促進させる方法。
[14]活性化因子−抑制因子のヘテロ二量体がdCREB2a−dCREB2bヘテロ二量体である[13]記載の方法。
[15]正常な動物由来の抑制因子のホモ二量体のレベルを減少させることを含む、動物における長期持続記憶の形成を促進させる方法。
[16]抑制因子のホモ二量体がdCREB2bのホモ二量体である[15]記載の方法。
[17]正常な動物から、活性化因子のホモ二量体、活性化因子−抑制因子のヘテロ二量体、及び抑制因子のホモ二量体からなる群より選ばれる二量体の形成を変化させる物質を検定することを含む、動物における長期持続記憶に作用し得る物質の同定方法。
[18]サイクリック3’,5’−アデノシン一リン酸応答性転写活性化因子をコードする単離されたDNA。
[19]サイクリック3’,5’−アデノシン一リン酸応答性転写活性化因子がショウジョウバエのdCREB2遺伝子によってコードされている[18]記載の単離されたDNA。
[20]ショウジョウバエのdCREB2遺伝子がdCREB2−aアイソフォームをコードする[18]記載の単離されたDNA。
[21]図1A(配列番号:1)の配列を有するDNAにハイブリダイズする[18]記載の単離されたDNA。
[22]図1A(配列番号:2)のアミノ酸配列をコードする[18]記載の単離されたDNA。
[23]サイクリック3’,5’−アデノシン一リン酸に誘導される転写のアンタゴニストをコードする、単離されたDNA。
[24]サイクリック3’,5’−アデノシン一リン酸に誘導される転写のアンタゴニストが、ショウジョウバエのdCREB2遺伝子又はその機能的断片によってコードされている[23]記載の単離されたDNA。
[25]ショウジョウバエのdCREB2遺伝子がdCREB2−bアイソフォームをコードする[24]記載の単離されたDNA。
[26]ショウジョウバエのdCREB2遺伝子又はその機能的断片をコードする、単離されたDNA。
[27]ショウジョウバエのdCREB2遺伝子が、
a)dCREB2−a、
b)dCREB2−b、
c)dCREB2−c、及び
d)dCREB2−d
からなる群より選ばれるアイソフォームをコードする、[26]記載の単離されたDNA。
[28]ショウジョウバエのdCREB2遺伝子が、
a)dCREB2−q、
b)dCREB2−r、及び
c)dCREB2−s
からなる群より選ばれるアイソフォームをコードする、[26]記載の単離されたDNA。
[29]エンハンサー特異的活性化因子をコードする単離されたDNA。
[30]エンハンサー特異的活性化因子が、ショウジョウバエのdCREB1遺伝子又はその機能的断片によってコードされている[29]記載の単離されたDNA。
[31]図5(配列番号:7)の配列を有するDNAにハイブリダイズする[30]記載の単離されたDNA。
[32]図5(配列番号:8)のアミノ酸配列をコードする[30]記載の単離されたDNA。
[33]ショウジョウバエの一酸化窒素シンターゼ(DNOS)をコードする単離されたDNA。
[34]神経系遺伝子座のDNOSをコードする[33]記載のDNA。
[35]推定ヘム、カルモジュリン、FMN、FAD及びNADPH結合部位ドメインを含むDNOSをコードする[33]記載のDNA。
[36]a)薬剤をショウジョウバエに投与し、
b)標準的な条件下にショウジョウバエを置き、そして臭気物質による刺激及び電気による刺激の少なくとも一つを与え、そして
c)該標準的な条件下での行動指標を評価する、
ことを含み、該薬剤が正常の該行動指標を変化させる場合に該薬剤の効果が発揮される、長期持続記憶の形成に対する薬剤の効果を評価する方法。
[37]該薬剤が、dCREB2の抑制因子のアイソフォーム及び活性化因子のアイソフォームの導入又は活性を変えることにより、長期持続記憶の形成に作用する[36]記載の方法。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)薬剤を非ヒト動物に投与すること;ならびに
b)該非ヒト動物における活性化因子、抑制因子、または活性化因子と抑制因子の両方の量を、該薬剤が投与されていない対照動物における量と比べて決定すること、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1ではないDNAの発現産物であり、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAの発現産物である、
を含む、非ヒト動物において長期持続記憶を調節する能力について薬剤をスクリーニングする方法。
【請求項2】
c)該薬剤が投与されていない対照動物における活性化因子、抑制因子、または活性化因子と抑制因子の両方の量とは異なる量を有する工程b)の非ヒト動物を選択すること;
d)工程c)で選択された非ヒト動物を該非ヒト動物において長期持続記憶形成を生じるのに適切な条件下で訓練すること;
e)工程d)で訓練された非ヒト動物における長期持続記憶形成を評価すること;ならびに
f)工程e)で評価された長期持続記憶形成を該薬剤が投与されていない対照動物において生じた長期持続記憶形成と比較すること、
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該非ヒト動物がショウジョウバエである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
該非ヒト動物が非ヒト哺乳動物である請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
a)誘導性活性化因子または誘導性抑制因子を有する非ヒト動物に薬剤を投与すること、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1ではないDNAの発現産物であり、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAの発現産物である;
b)該活性化因子または該抑制因子の発現を誘導すること;
c)該非ヒト動物において長期持続記憶形成を生じるのに適切な条件下で該非ヒト動物を訓練すること;
d)工程c)で訓練された非ヒト動物における長期持続記憶形成を評価すること;ならびに
e)工程d)で評価された長期持続記憶形成を該薬剤が投与されていない対照動物において生じた長期持続記憶形成と比較すること、
を含む、非ヒト動物において長期持続記憶を調節する能力について薬剤をスクリーニングする方法。
【請求項6】
該非ヒト動物が誘導性活性化因子を有するショウジョウバエであるか、または該非ヒト動物が誘導性抑制因子を有するショウジョウバエである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
該非ヒト動物が非ヒト哺乳動物である請求項5記載の方法。
【請求項8】
正常な非ヒト動物由来の活性化因子もしくは抑制因子の誘導を物質が変化させることを、または活性を物質が変化させることを検定することを含み、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1ではないDNAの発現産物であり、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAの発現産物である、非ヒト動物における長期持続記憶に作用する物質の同定方法。
【請求項9】
該非ヒト動物がショウジョウバエである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該非ヒト動物が非ヒト哺乳動物である請求項8記載の方法。
【請求項11】
a)長期持続記憶に関連するdCREB2のcAMP応答性抑制因子のアイソフォームを有するショウジョウバエに薬剤を投与すること、ここで、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAの発現産物である;
b)該抑制因子のアイソフォームの発現を誘導すること;
c)標準的な条件下にショウジョウバエを置き、臭気物質による刺激および電気による刺激の少なくとも一つを与えること;ならびに
d)該標準的な条件下での行動指標を評価すること、
を含み、該薬剤が該行動指標を該薬剤の非存在下における工程a)のショウジョウバエにより得られた行動指標から変化させる場合に該薬剤の効果が生じている、長期持続記憶の形成に対する薬剤の効果を評価する方法。
【請求項12】
a)長期持続記憶に関連するdCREB2のcAMP応答性活性化因子のアイソフォームを有するショウジョウバエに薬剤を投与すること、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1ではないDNAの発現産物である;
b)該活性化因子のアイソフォームの発現を誘導すること;
c)標準的な条件下にショウジョウバエを置き、臭気物質による刺激および電気による刺激の少なくとも一つを与えること;ならびに
d)該標準的な条件下での行動指標を評価すること、
を含み、該薬剤が該行動指標を該薬剤の非存在下における工程a)のショウジョウバエにより得られた行動指標から変化させる場合に該薬剤の効果が生じている、長期持続記憶の形成に対する薬剤の効果を評価する方法。
【請求項13】
単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードする遺伝子であって、配列番号:1ではない遺伝子、並びに単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAからなる群より選ばれる遺伝子の、動物における発現を調節することを含む、動物における長期持続記憶を調節する方法に使用される剤の調製における前記遺伝子の使用。
【請求項14】
該動物が哺乳動物である請求項13記載の使用。
【請求項15】
遺伝子が長期持続記憶の向上に関連するCREB2のcAMP応答性活性化因子アイソフォームをコードし、該遺伝子の誘導が長期持続記憶の向上を生じるか、または遺伝子が長期持続記憶の遮断に関連するCREB2のcAMP応答性抑制因子アイソフォームをコードし、該遺伝子の誘導が長期持続記憶の遮断を生じる請求項13記載の使用。
【請求項16】
該動物がショウジョウバエである請求項13記載の使用。
【請求項17】
活性化因子の量または抑制因子の量を動物において調節することを含み、ここで、該活性化因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の向上に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1ではないDNAの発現産物であり、該抑制因子は、単離された場合、高い厳密性の条件下で配列番号:1のエクソン1、3、5及び7に相補的なDNAにハイブリダイズし、長期持続記憶の遮断に関連するCREB2タンパク質をコードするDNAであって、配列番号:1のエクソン1、3、5及び7からなるDNAではないDNAの発現産物であり、それにより機能的活性化因子の正味の量(ΔC)が0よりも大きい場合に動物における長期持続記憶が向上する、動物における長期持続記憶の調節方法に使用される剤の調製におけるCREB2のcAMP応答性活性化因子アイソフォームまたはCREB2のcAMP応答性抑制因子アイソフォームの使用。
【請求項18】
該動物が哺乳動物である請求項17記載の使用。
【請求項19】
該動物がショウジョウバエである請求項17記載の使用。


【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図19A】
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【図19B】
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【公開番号】特開2009−171978(P2009−171978A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66838(P2009−66838)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【分割の表示】特願平8−512717の分割
【原出願日】平成7年10月6日(1995.10.6)
【出願人】(502328396)
【Fターム(参考)】