説明

長期間タイマー

【課題】 低価格で誤差が少ない長期間タイマーを提供する。
【解決手段】 一次電池10を所定時間高放電させる高放電回路20と、一次電池10を長期間連続して低放電させる低放電回路30と、高放電回路20による放電が終了した後に一次電池の初期出力電圧を検出する電圧検出部40と、一次電池の出力電圧が前記初期出力電圧に基づいて設定された基準電圧以下になったことを検知して報知する手段とを備えることを特徴。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、年単位の長期間タイマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、年単位の長期間タイマーとしては、CR発振によるものが知られている。これは図5に示すように、カウンタ101とインバータ102,103とコンデンサ104と抵抗105,106からなっており、コンデンサ104と抵抗105のCR時定数により、インバータ102,103を用いて発振させ、それを基本クロックとしてカウンタ101をカウントアップし、長期間タイマーを構成していた。
【0003】
しかしながら、上記の構成ではCR時定数のバラツキが20%程度あり、このバラツキがそのまま長期間タイマーのバラツキとなってしまう。
また、長期間タイマーをマイクロコンピュータのみで構成する場合もあるが、消費電流が多くなったり、その機能のために安価なマイクロコンピュータが使えなかったりする問題点があった。
【0004】
一方、安価なマイクロコンピュータで製作可能なものとして、例えば特許文献1では、放電電流に対する出力電圧の低下特性が既知の一次電池を用いた長期間タイマーが提案されている。
この長期間タイマーは、図6に示すように、放電電流に対する出力電圧の低下特性が既知の一次電池111と、この一次電池を所定の放電電流値で放電させる高抵抗体112と、一次電池111の出力電圧を検出する電圧検出回路113と、この電圧検出回路で検出された出力電圧が予め定めた経過期間に対応する出力電圧に達したときに出力を出す比較回路114と、この比較回路114の出力で作動し、所定の期間が終了したことを報知する表示手段115とからなる。
この長期間タイマーでは、一次電池111に適当な負荷を接続して微小電流を放電させておくと、一次電池の出力電圧が年月の経過に伴い低下し、この出力電圧が予め設定した値となったときに比較回路114から出力が出て、表示手段115がこれを表示するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−252310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の長期間タイマーは、一次電池の放電特性を利用して時間を計測しているため、安価なマイクロコンピュータ(マイコン)やロジック回路で実現することができる。
しかしながら、一次電池を放電させて時間を計測する方式のタイマーの場合、使用する一次電池の保存期間や保存環境によって初期電圧や初期の電圧降下特性に大きなバラツキが生じる。このため、定電流回路を用いて所定の放電電流で放電させ、電圧降下分を測定して時間を計測しても、大きな誤差が発生する問題がある。
【0007】
そこで本発明は、一次電池を利用した長期間タイマーの誤差を改善し、信頼性の高い安価な長期間タイマーの実現を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成すべく為された本発明は、一次電池を所定時間高放電させる高放電回路と、前記一次電池を長期間連続して低放電させる低放電回路と、前記高放電回路による放電が終了した後に前記一次電池の初期出力電圧を検出する電圧検出部と、前記一次電池の出力電圧が前記初期出力電圧に基づいて設定された基準電圧以下になったことを検知して報知する手段とを備えることを特徴としているものである。
本発明の長期間タイマーでは、前記一次電池としてリチウム電池を用いることが好ましい。また、前記高放電回路は、一次電池として用いるリチウム電池の容量の3%以上20%以下を放電させるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の長期間タイマーによれば、使用する一次電池の保存状態や保存期間などが異なっていても、誤差を大幅に改善でき、信頼性の高い安価な長期間タイマーを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態例に係る長期間タイマーのブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態例に係る長期間タイマーの動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の長期間タイマーに用いられる一次電池の放電特性の一例を示す図である。
【図4】本発明の長期間タイマーに用いられる一次電池の放電特性の一例を示す図である。
【図5】従来のCR発振による長期間タイマーの電気回路図である。
【図6】従来の一次電池を用いた長期間タイマーのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の長期間タイマーは、一次電池の放電電流に対する出力電圧の低下特性(放電特性)を利用したタイマーであり、数年から10年以上のタイマーとすることができるものである。
一次電池としては、放電特性が既知のアルカリ電池やリチウム電池を用いることができる。
【0012】
図3及び図4は、本発明の長期間タイマーに好適に用いられるリチウム電池の放電特性の一例を示しており、横軸は放電容量(mAh)、縦軸は出力電圧(V)である。
なお、ここに挙げたリチウム電池は、公称電圧3V、標準容量2400mAhのものである。
【0013】
図3は、保存期間の異なる3つのリチウム電池(保存期間1年、4年および10年)を、常温環境(+20℃)において3mA連続放電させたときの放電特性を示している。
図3から分かるように、使用する一次電池の保存期間が異なると、初期電圧にバラツキが生じると共に、初期の電圧降下特性にもバラツキが生じている。
【0014】
図4は、保存期間1年の一次電池を低温環境(−20℃)、常温環境(+20℃)および高温環境(+60℃)において3mA連続放電させたときの放電特性を示している。
図4から分かるように、保存状態が同じ一次電池でも放電時の温度環境が異なると、初期電圧にバラツキが生じると共に、初期の電圧降下特性にもバラツキが生じている。
【0015】
このため、従来のように、単に一次電池を所定の放電電流で放電させ、電圧降下分を測定して時間を計測しても、使用する一次電池の保管状況などによって大きな誤差が生じる。
具体的には、例えば保存期間1年の初期電圧3.20Vの電池を3mAで連続放電させた場合、0.5V電圧降下して出力電圧が2.70Vになるまでの時間は693時間(2080mAh÷3mA)となり、保存期間10年の初期電圧3.10Vの電池を3mAで連続放電させた場合、0.5V電圧降下して出力電圧が2.60Vになるまでの時間は583時間(1750mAh÷3mA)となり、約20%の誤差が生じてしまう(図3参照)。
また、高温環境(+60℃)で3mA連続放電させた場合、初期電圧は3.30Vであり、0.5V電圧降下して出力電圧が2.80Vになるまでの時間は690時間(2070mAh÷3mA)となり、低温環境(−20℃)で3mA連続放電させた場合、初期電圧は3.10Vであり、0.5V電圧降下して出力電圧が2.60Vになるまでの時間は600時間(1800mAh÷3mA)となり、約15%の誤差が生じてしまう(図4参照)。
【0016】
一方、図3及び図4から分かるように、連続放電時の出力電圧は、いずれの場合も放電初期に大きく変動し、その後は安定して徐々に下がっていく。
そして、出力電圧が安定した後(この例では放電容量が約100mAh以降)の放電特性に着目すると、いずれの場合もほぼ同じ放電特性を示している。
【0017】
具体的には、保存期間1年の電池の放電容量100mAhの時の出力電圧は2.98Vであり、出力電圧がこれよりも0.50V低い2.48Vに低下する時の放電容量は約2330mAhであり、この間の放電容量の差は約2230mAhである。
また、保存期間10年の電池の放電容量100mAhの時の出力電圧は2.75Vであり、出力電圧がこれよりも0.50V低い2.25Vに低下する時の放電容量は約2330mAhであり、この間の放電容量の差は約2230mAhである。
また、高温環境(+60℃)で連続放電させた電池の放電容量100mAhの時の出力電圧は3.07Vであり、出力電圧がこれよりも0.50V低い2.57Vに低下する時の放電容量は約2330mAhであり、この間の放電容量の差は約2230mAhである。
また、低温環境(−20℃)で連続放電させた電池の放電容量100mAhの時の出力電圧は2.75Vであり、出力電圧がこれよりも0.50V低い2.25Vに低下する時の放電容量は約2330mAhであり、この間の放電容量の差は約2230mAhである。
【0018】
このように、一次電池の保存状態や放電時の温度環境が異なっても、出力電圧が安定した後(この例では放電容量が約100mAh以降)の放電特性はほぼ同じ特性を示している。
本発明の長期間タイマーは、一次電池の上記のような放電特性を考慮することによって、長期間タイマーの誤差を大幅に改善したものであり、以下に本発明の実施形態例を図面により詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明の一実施形態例に係る長期間タイマー1のブロック図であり、10は一次電池、20は高放電回路、30は低放電回路、40は電圧検出部、50は報知手段、60はマイコンである。
【0020】
一次電池10としては、放電電流に対する出力電圧の低下特性が既知のアルカリ電池やリチウム電池を用いることができ、特に容量が大きく自己放電が少ないリチウム電池が好適である。
【0021】
高放電回路20は、長期間タイマー1のタイマー動作を開始する前に、一次電池10を所定時間高放電させ、一次電池10の出力電圧を安定させるためのものである。
本例の高放電回路20は、LED21と、2つの抵抗22,23と、トランジスタ24で構成された定電流回路であり、3mA放電されるようになっている。なお、本例では抵抗22は220Ω、抵抗23は22kΩのものを用いている。
【0022】
低放電回路30は、高放電回路20による放電によって出力電圧が安定した一次電池10を長期間連続して低放電させるものである。
本例の低放電回路30は、3端子レギュレータ31と、2つのコンデンサ32,33と、抵抗34で構成された定電流回路であり、その放電量は長期間タイマー1のタイマー期間に応じて例えば数十〜数百μAになるように設定される。
【0023】
電圧検出部40は、一次電池10の出力電圧を常時検出するものである。
報知手段50は、音を発するブザーやスピーカ51等、光を発するLED52等、文字や画像を表示する液晶表示装置等のいずれかを備え、所定のタイマー期間が終了したことを報知するものである。
【0024】
マイコン60は、高放電回路20による放電時間や報知手段5を制御する。本例のマイコン60は、短時間タイマー61、記憶部62、基準電圧設定部63、比較部64を備えている。
短時間タイマー61は、高放電回路20を所定時間動作させるものである。本例の短時間タイマー61は、33時間のタイマーである。
記憶部62は、一次電池10の放電特性を予め記憶するものである。
基準電圧設定部63は、高放電回路20による放電によって出力電圧が安定した一次電池10の初期出力電圧Vsに基づいて、長期間タイマー1の終了時点となる一次電池10の基準電圧Veを設定するものである。比較部64は、低放電回路30によって低放電中の一次電池10の出力電圧と基準電圧Veとを比較するものである。
【0025】
次に、本例の長期間タイマー1の動作を、図2のフローチャートを用いて説明する。なお、本例では図3、図4の特性を有する一次電池(リチウム電池)を用いて、7年(61320時間)タイマーを構成する場合を説明する。
【0026】
(ステップS1)
まず、記憶部62に放電電流に対する出力電圧の低下特性(図3、図4の放電特性)が記憶されている一次電池10を、装置に装着する。
本例では、一次電池10として保存期間1年のものを用いている。
【0027】
(ステップS2)
一次電池10がセットされると、低放電回路30において常時30μAの定電流が放電されると共に、短時間タイマー61が動作して高放電回路20において3mAの定電流が放電される。なお、高放電回路20による放電中はLED21が点灯し、これを確認することができる。
このステップS2を行うことによって、一次電池10の放電容量は約100mAhとなり、使用する一次電池の保存状態などが異なっても、これ以降は図3、図4に示したように出力電圧が安定し、記憶部62に記憶されている放電特性とほぼ同じ特性を示すようになる。
【0028】
(ステップS3、S4)
33時間経過すると、マイコン60は、短時間タイマー61の動作を停止する。これにより、高放電回路20による放電が停止しLED21が消灯する。これと同時に、電圧検出部40にて一次電池10の初期出力電圧Vsが検出される。
本例の場合、初期出力電圧Vs(図3の保存期間1年のものの放電容量100mAhの出力電圧)は2.98Vとなる。
【0029】
(ステップS5)
基準電圧設定部63は、記憶部62に記憶されている一次電池10の放電特性と、ステップS4で検出された一次電池10の初期出力電圧Vsに基づいて、長期間タイマーの終期に対応する基準電圧Veを設定する。
本例の場合、7年タイマーであり、この間は低放電回路30において常時30μAの定電流が放電されるため、その間の放電量は7年×365日×24時間×0.03mA=1840mAhとなる。このため、基準電圧Veは、図3の放電容量が100+1840=1940mAhの時の出力電圧である2.78Vに設定される。
なお、8年タイマーとする場合には、その間の放電量は8年×365日×24時間×0.03mA=2102mAhとなる。このため、基準電圧Ve’は、図3の放電容量が100+2102=2202mAhの時の出力電圧である2.60Vに設定される。
【0030】
(ステップS6)
電圧検出部40は、低放電回路30によって低放電中の一次電池10の出力電圧Voを常時検出し、比較部64は、この一次電池10の出力電圧Voと基準電圧Ve(2.78V)を比較する。
【0031】
(ステップS7)
比較部64が一次電池10の出力電圧Voが基準電圧Ve以下になったことを検知すると、マイコン60は報知手段50に信号を送り、報知手段50は音や光等を発することによってタイマー期間(7年)の終了を報知する。
(ステップS8)
最後に、必要に応じて一次電池10は取り外される。
【0032】
なお、上記の例では一次電池10として保存期間1年のものを用いているが、保存期間10年ものを用いた場合は、初期出力電圧Vs”(図3の放電容量100mAhの出力電圧)は2.75Vとなり、基準電圧Ve”(図3の放電容量1940mAhの出力電圧)は2.54Vに設定され、上記の例と同様に7年の長期間タイマーとなる。
このように本発明では特にステップS2を行うことによって、使用する一次電池の保存状態などが異なっていても、タイマー期間中の放電電流に対する出力電圧の低下特性はほぼ同じものとなるため、長期間タイマーの誤差を大幅に改善することができる。
【0033】
以上、本発明の一実施形態例を説明したが、本発明はこの実施形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜の変更等ができることは言うまでもない。
例えば高放電回路20による放電時間及び放電量は、使用する一次電池の容量や放電特性に応じて適宜設定することができる。但し、高放電回路20による放電量が少な過ぎると出力電圧が十分に安定しない場合があり、放電量が多過ぎるとタイマー期間の設定の自由度が阻害される場合がある。このため、例えば一次電池としてリチウム電池を使用する場合には、高放電回路20による放電量は、電池容量の3%以上20%以下に設定するのが好ましく、3%以上10%以下に設定するのが特に好ましい。
また、高放電回路20や低放電回路30などの回路構成は、同様の機能を有するものであればいかなる回路構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の長期間タイマーは、例えば消火器やガス警報器のように有効期限が数年以上に及ぶ機器等に取り付けることにより、特別な検査を行うことなく有効期限が過ぎたものを確実に識別して、保守・点検を容易に行えるようになる。
【符号の説明】
【0035】
1 長期間タイマー
10 一次電池
20 高放電回路
21 LED
22、23 抵抗
24 トランジスタ
30 低放電回路
31 3端子レギュレータ
32、33 コンデンサ
34 抵抗
40 電圧検出部
50 報知手段
51 スピーカ
52 LED
60 マイクロコンピュータ(マイコン)
61 短時間タイマー
62 記憶部
63 基準電圧設定部
64 比較部
101 カウンタ
102、103 インバータ
104 コンデンサ
105、106 抵抗
111 一次電池
112 高抵抗体
113 電圧検出回路
114 比較回路
115 表示手段
116 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次電池を所定時間高放電させる高放電回路と、前記一次電池を長期間連続して低放電させる低放電回路と、前記高放電回路による放電が終了した後に前記一次電池の初期出力電圧を検出する電圧検出部と、前記一次電池の出力電圧が前記初期出力電圧に基づいて設定された基準電圧以下になったことを検知して報知する手段と、を備えることを特徴とする長期間タイマー。
【請求項2】
前記一次電池は、リチウム電池であることを特徴とする請求項1に記載の長期間タイマー。
【請求項3】
前記高放電回路は、前記一次電池の容量の3%以上20%以下を放電させることを特徴とする請求項2に記載の長期間タイマー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−254310(P2011−254310A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127005(P2010−127005)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000220125)東京パーツ工業株式会社 (122)
【Fターム(参考)】