説明

開口付き中空コンクリートケーソンの曳航時安全制御装置

【課題】開口があるコンクリートケーソンを、波浪の高い、また潮流の早い外洋の曳航に際しても、転覆や作業員の海中転落などの事故がなく、安全に曳航することができる曳航時安全制御装置の提供。
【解決手段】ケーソンの外壁面の開口15を止水仮蓋17によって閉鎖するとともに各隔室14の上面開口を上面仮蓋によって閉鎖し、各隔室内14に、それらの内部に侵入した水を排出するための排水ポンプ及び水位センサをそれぞれ設置し、ケーソン上に前記排水ポンプの作動・停止を制御するケーソン上制御機器30を設置するとともに、別の支援設備にケーソン上制御機器を遠隔的に操作する支援設備上制御機器を設置し、各水位センサによる計測値を、無線LANを介して支援設備上制御機器に送信し、コンピュータによって異常・正常状態を監視し、異常状態発生時に支援設備上制御機器から前記ケーソン上制御機器に排水ポンプ始動、及びその後の正常状態回復時の排水ポンプ停止のための指示信号を発信して異常発生個所の排水ポンプを制御させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港内と外海間を仕切る防波堤などの堤体であって、その堤体の外壁に、内部に通じる開口を有する開口付き堤体用中空コンクリートケーソンを、その開口を止水仮蓋により閉鎖して、製造場所から設置場所へ曳航する際の浸水による危険及び波浪による転覆の危険を防止するための曳航時安全制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、防波堤や岸壁或いは水底のコンクリート基礎構造物の構築に際し、コンクリートケーソンが使用されている。この種のコンクリートケーソンの設置に際しては、進水設備を有する陸上のコンクリートケーソン製作ヤードや、海面の静穏な湾内などに設置した浮きドック等において製造したコンクリートケーソンを水面に浮かべて曳航し、設置現場においてその水底基礎上に沈めることによって設置する方法が採用されている。
【0003】
従来、海上を曳航したコンクリートケーソンを設置現場の所定位置に正確に、しかも転覆させること無く水平度を維持させつつ沈めるための各種の方法が提案されている(例えば特許文献1,2)。この種の従来の方法では、コンクリートケーソン内に隔壁によって仕切られた隔室を多数形成しておき、これらの内部に注水することによって浮力を調整し、その各隔室毎の注水をコントロールすることにより、全体の浮力調整の他、水平度をも調整しつつ沈設作業を行うようにしている。
【特許文献1】特開平9−177086号
【特許文献2】特開2004−238914号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の技術は、コンクリートケーソン沈設の際の水平度及び浮力を、水位センサや注排水ポンプを使用し、コンピュータにより制御させるようにしている。しかし、従来の技術は、一般には鉄筋コンクリート製で、外壁を構成する底壁及び四周囲を構成する側壁及び内部の隔壁を持って構成され、上部が開放された箱形のコンクリートケーソンの曳航及び沈設を対象としているものであり、特に側壁間において互いに連通開口した通水孔や、外壁の開口した消波のための中空空間を有するコンクリートケーソンの如き、外壁に開口を有するものの曳航は想定されていなかった。
【0005】
また、この種の開口を有するコンクリートケーソンは、これを水面に浮かべて曳航する場合、外壁の開口を閉鎖する必要があるが、閉鎖作業時に水密度が保たれていたとしても、長時間の曳航途中において開口閉鎖部分の水密性が損なわれて浸水する状況が考えられるものであり、このような浸水状況に対応できるものとする必要がある。
【0006】
従来の曳航作業に際しては、外からコンクリートケーソンの乾舷を目視することによって、曳航時のコンクリートケーソン状況を判断していた為、コンクリートケーソンの隔室内に浸水があってもこれを正確に判断することができなかった。
【0007】
また、従来、コンクリートケーソンの曳航中に隔壁内への浸水があると推測された場合、曳航中の揺動するコンクリートケーソンに作業員が乗り移り、コンクリートケーソン上に設置してある発電機を作動させたり排水ポンプを操作して排水作業を行ったりする必要があり、転落事故につながるという問題があった。
【0008】
更に、従来のコンクリートケーソンの曳航は、曳航時の条件として海象が静穏な場合を想定しているものであったが、外洋を曳航する場合等、海象状況の急変が予想される場所では、従来の装置をそのまま使用することができない。
【0009】
また、外洋を曳航する場合は潮流が早く、波浪が高い場合に、作業者が海中に転落すると死亡事故に繋がる危険性が高く、これらの危険のない安全性の高い曳航及び浸水に対する対処が必要となるが、従来の装置では外洋の長距離曳航を予定していないため、これらの対応が十分とはいえなかった。
【0010】
本発明は、上述の如き従来の問題点に鑑み、特に底壁や側壁の外壁面に内部空間に通じる開口があるコンクリートケーソンを、波浪の高い、また潮流の早い外洋の曳航に際しても、転覆や作業員の海中転落などの事故がなく、安全に曳航することができる中空コンクリートケーソンの曳航時安全制御装置の提供を目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、内部が隔壁によって仕切られた複数の隔室を有するとともに、外壁面に内部に通じる開口を有するコンクリートケーソンを水面上に浮かべて曳航するに際し、前記コンクリートケーソンの前記外壁面の開口を止水仮蓋によって閉鎖するとともに前記各隔室の上面開口を上面仮蓋によって閉鎖し、前記各隔室内に、それらの内部に侵入した水を排出するための排水ポンプ及び水位センサをそれぞれ設置し、前記コンクリートケーソン上に前記排水ポンプの作動・停止を制御するケーソン上制御機器を設置するとともに該コンクリートケーソンとは別の支援設備に前記ケーソン上制御機器を遠隔的に操作する支援設備上制御機器を設置し、
前記各水位センサによる計測値を、無線LANを介して支援設備上制御機器に送信し、該支援設備上制御機器に備えたコンピュータによって異常・正常状態を監視し、異常状態発生時に支援設備上制御機器から前記ケーソン上制御機器に排水ポンプ始動、及びその後の正常状態回復時の排水ポンプ停止のための指示信号を発信して異常発生個所の排水ポンプを制御させるようにしてなる開口付き中空コンクリートケーソンの曳航時安全制御装置にある。
【0012】
請求項2に記載の発明の特徴は前記請求項1の構成に加え、前記コンクリートケーソンには、前記排水ポンプの他に各隔室内に注水する注水ポンプを設置し、前記コンピュータにおいて、前記水位センサにより計測された各隔室内の水位レベル測定値と、所望の隔室毎の水位レベル設定値とを比較し、その差が所定の許容範囲以上となった時に前記排水ポンプ及び/又は注水ポンプを作動させ、前記水位レベル測定値と前記水位レベル設定値との差が前記所定の許容範囲以下に達するまで前記各排水及び/又は注水ポンプの作動を継続させるようにしたことにある。
【0013】
請求項3に記載の発明の特徴は前記請求項2の構成に加え、前記コンクリートケーソンには、該コンクリートケーソンを水面に浮かべた際の傾斜を監視する傾斜計を設置し、該傾斜計により所定時間内において所定間隔毎に計測した計測値の移動平均値が所定の設定角度以上である時に、前記コンピュータにより該コンクリートケーソンの水平度を保たせる為の各隔室内の水位レベルを計算し、その計算された水位レベルを設定値として前記注水ポンプ及び/又は排水ポンプを作動させてコンクリートケーソンの水平度を自動的に回復させるようにしたことにある。
【0014】
請求項4に記載の発明の特徴は前記請求項2の構成に加え、前記コンクリートケーソンには、該コンクリートケーソンを水面に浮かべた際の傾斜を監視する傾斜計を設置し、該傾斜計により所定時間内において所定間隔毎に計測した計測値の標準偏差値を前記コンピュータにより計算し、該標準偏差値が所定の値以上である場合に、前記コンクリートケーソンの喫水を大きくして安定化させるための各隔室内の水位レベルの設定値をコンピュータにより算出させ、その設定値と前記計測値との差が所定の許容範囲内に近づくまで前記各注水ポンプの作動を自動的に継続させるようにしたことにある。
【0015】
請求項5に記載の発明の特徴は前記請求項1〜4の何れかの1の請求項の構成に加え、前記ケーソン上制御機器と支援設備上制御機器とには、前記無線LANの他に、会話用無線機をそれぞれ備え、支援設備上制御機器には、異常状態発生時及びその後の正常状態回復時に、ポンプ始動又は停止処理スタートのための指示信号としてのアラーム音を発生するスピーカーを備え、前記ケーソン上制御機器には、アラーム音を感知する音感センサを備え、前記両会話用無線機を通じて支援設備上制御機器のスピーカーからアラーム音を前記ケーソン上制御機器の音感センサに感知させ、該音感センサのアラーム音感知によって前記注水及び/又は排水ポンプの始動又は停止処理をスタートさせるようにしたことにある。
【0016】
請求項6に記載の発明の特徴は前記請求項5の構成に加え、前記コンクリートケーソン上には注水ポンプ及び排水ポンプ駆動電源用の発電機を搭載し、前記ケーソン上制御機器には、前記音感センサによるアラーム音の感知によって、前記発電機を始動・停止させるとともに前記異常個所の各注水ポンプ及び/又は排水ポンプに前記発電機からの電力供給をコントロールするプログラマブルロジックコントローラ(PLC)を備えたことにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、内部が隔壁によって仕切られた複数の隔室を有するとともに、外壁面に内部に通じる開口を有するコンクリートケーソンを水面上に浮かべて曳航するに際し、前記コンクリートケーソンの前記外壁面の開口を止水仮蓋によって閉鎖するとともに前記各隔室の上面開口を上面仮蓋によって閉鎖し、前記各隔室内に、それらの内部に侵入した水を排出するための排水ポンプ及び水位センサをそれぞれ設置し、前記コンクリートケーソン上に前記排水ポンプの作動・停止を制御するケーソン上制御機器を設置するとともに該コンクリートケーソンとは別の支援設備に前記ケーソン上制御機器を遠隔的に操作する支援設備上制御機器を設置し、
前記各水位センサによる計測値を、無線LANを介して支援設備上制御機器に送信し、該支援設備上制御機器に備えたコンピュータによって異常・正常状態を監視し、異常状態発生時に支援設備上制御機器から前記ケーソン上制御機器に排水ポンプ始動、及びその後の正常状態回復時の排水ポンプ停止のための指示信号を発信して異常発生個所の排水ポンプを制御させるようにしたことにより、曳航途中において、コンクリートケーソンの外壁の開口から不慮の浸水が生じても、これを自動的に感知し、排水し安全な状態を維持しつつ曳航することができる。また、曳航中においてコンクリートケーソン上は無人となり、曳航途中において作業員がコンクリートケーソン上に乗り移るという危険作業も不要となり人身事故を未然に防止することができる。
【0018】
また本発明では、前記コンクリートケーソンには、前記排水ポンプの他に各隔室内に注水する注水ポンプを設置し、前記コンピュータにおいて、前記水位センサにより計測された各隔室内の水位レベル測定値と、所望の隔室毎の水位レベル設定値とを比較し、その差が所定の許容範囲以上となった時に前記排水ポンプ及び/又は注水ポンプを作動させ、前記水位レベル測定値と前記水位レベル設定値との差が前記所定の許容範囲以下に達するまで前記各排水及び/又は注水ポンプの作動を継続させるようにしたことにより、曳航前における製作ヤードからの進水時や曳航途中においてより安定な状態になるように注排水を自動的に行わせることができる。
【0019】
更に、本発明では前記傾斜計により所定時間内において所定間隔毎に計測したる計測値の移動平均値が所定の設定角度以上である時に、前記コンピュータにより該コンクリートケーソンの水平度を保たせる為の各隔室内の水位レベルを計算し、その計算された水位レベルを設定値として前記注水ポンプ及び/又は排水ポンプを作動させてコンクリートケーソンの水平度を自動的に回復させるようにしたことにより、常に安定した水平度を保ちつつ安全な曳航が可能となる。
【0020】
更に、本発明では前記傾斜計により所定時間内において所定間隔毎に計測した計測値の標準偏差値を前記コンピュータにより計算し、該標準偏差値が所定の値以上である場合に、前記コンクリートケーソンの喫水を大きくして安定化させるための各隔室内の水位レベルの設定値をコンピュータにより算出させ、その設定値と前記計測値との差が所定の許容範囲内に近づくまで前記各注水ポンプの作動を自動的に継続させるようにしたことにより、天候急変により荒波浪状況に至ることとなってもこれを自動的に感知し、喫水を深くする安定化制御が自動的になされることとなり、海象条件が急変することが考えられる天候状態や外洋での曳航に際しても、状況に対応して安全に曳航できる。
【0021】
更に本発明では、前記ケーソン上制御機器と支援設備上制御機器とには、前記無線LANの他に、会話用無線機をそれぞれ備え、支援設備上制御機器には、異常状態発生時及びその後の正常状態回復時に、ポンプの始動又は停止処理スタートのための指示信号としてのアラーム音を発生するスピーカーを備え、前記ケーソン上制御機器には、アラーム音を感知する音感センサを備え、前記両会話用無線機を通じて支援設備上制御機器のスピーカーからアラーム音を前記ケーソン上制御機器の音感センサに感知させ、該音感センサのアラーム音感知によって前記注水及び/又は排水ポンプの始動又は停止処理をスタートさせるようにしたことにより、異常状態発生時のポンプの作動開始を作業員に伝えるアラームと、発電機始動及び停止の指令とを兼用でき、またその分だけ制御の為のソフトウエアの構築が省略できる。
【0022】
更に、本発明では、前記ケーソン上には注水ポンプ及び排水ポンプ駆動電源用の発電機を搭載し、前記ケーソン上制御機器には、前記音感センサによるアラーム音の感知によって、前記発電機を始動・停止させるとともに前記異常個所の各注水ポンプ及び/又は排水ポンプに前記発電機からの電力供給をコントロールするプログラマブルロジックコントローラ(PLC)を備えたことにより、コンクリートケーソン上という悪環境が予想される場所であっても故障の少ない制御装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に本発明を実施する為の最良の形態を、図面に示した実施例に基づいて説明する。
【0024】
図1〜図2は、本発明を実施するための中空のコンクリートケーソン(以下単にケーソンという)に本発明に係る装置を装備した状態を示している。このケーソンは、前後壁10a,10b、左右壁11a,11b及び底壁12からなる外壁によって箱形に形成され、その箱形の中空内部は平面が格子状をした多数の縦向き隔壁13,13…によって多数の隔室14が形成されている。ケーソン外壁には、一部の隔壁に通じる開口15が形成されている。
【0025】
この開口15は曳航に際しては止水仮蓋17をもって閉鎖している。また各隔室14のケーソン上面の開口部を上面仮蓋18によって仮閉鎖する。尚、図には示してないが、浸水後の浮遊時にケーソンが水平となるように石材からなるバラストを必要に応じて適宜使用する。
【0026】
次に曳航時の安全制御の為の装置について説明する。
【0027】
ケーソンは曳航に先立ち、各隔室14内に水位センサ21(図3に示す)、排水ポンプ22を設置し、排水ポンプ22からの排水ホース22aを上面仮蓋18に貫通させてケーソン上面からケーソン外に導出させる。
【0028】
また、各隔室14毎に、その内部へ注水する為の注水ポンプ23をケーソン外に設置し、注水ホース23aを上面仮蓋18に貫通させて各隔室内に導入させる。
【0029】
ケーソン上には、曳航時のケーソンの傾きを計測する為の傾斜計24(図3に示す)を設置するとともに、各排水ポンプ22及び注水ポンプ23を駆動させるための発電機25を搭載する。
【0030】
この他、ケーソン上には、ケーソン上制御機器30が搭載され、ケーソン曳航時にこれと伴走する支援船又は曳航船(例えばタグボート)上には、ケーソン上制御機器30と交信しつつコントロール操作を行う支援設備上制御機器40を備えている。
【0031】
ケーソン上制御機器30は、図3に示すように、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)31、音感センサ32、トランシーバー等の会話用無線機33、データロガ−34、無線LAN35が使用されている。会話要無線機33は、音感センサ32が会話用無線機33のスピーカーから発せられる後述のアラーム音を十分に感知できる位置に設置されている。
【0032】
支援設備上制御機器40は、図4に示すように、コンピュータ41、PLC42、スピーカー43、会話用無線機44、無線LAN45が使用されている。会話要無線機44は、そのマイクがスピーカー43から発せられる後述のアラーム音を十分に感知できる位置に設置されている。
【0033】
水位センサ21及び傾斜計24による計測データは、ケーソン上のデータロガ−34に記録されるとともに無線LAN35により、支援設備上の無線LAN45を通してコンピュータ41及びPLC42に送られるようになっている。
【0034】
次に、図5〜図8に示すフローチャートに基づいて、本装置による制御工程を説明する。
【0035】
図5はメインのフローチャートである。スタート(A)後、コンピュータ41に対するケーソン形状データ登録を行う(B)。コンピュータ41では、各隔室内の水位の初期設定を行う(C)。この初期設定は当該ケーソンが通常の静穏な海上を効率よく曳航するに適した喫水で、且水平度が保たれる状態となるように各隔室14毎の初期設定値を、コンピュータ41により自動的に算出させる。
【0036】
傾斜計24及び水位センサ21からの計測データが所定間隔毎に無線LAN35,45を通じて所定間隔毎にコンピュータ41及びPLC42に送られる。PLC42ではこれらのデータを経時的に記録する。
【0037】
コンピュータ41では、先ず傾斜制御処理(D)を行う。この処理は図6に示すフローによりなされる。この傾斜制御処理は、傾斜計24からの計測データが送られてくることによっての傾斜制御処理スタート(D1)がなされる。コンピュータ41では送られてくる傾斜データを取り込み(D2)、傾斜値の移動平均値を計算し(D3)、次いでこの傾斜値の平均値が1.5°以上か否かの判定を行う(D4)。判定の結果がYES、即ち移動平均値が1.5°を超えている場合、静的な傾斜が大きくなっていると判断し、ケーソンを水平にするための処理を開始するための水位センサ21からの水位データの取り込む水位計測処理を行う(D41)。この水位計測値に基づいてケーソンを水平にするための各隔室の水量について反復計算により最適値を求め(D42)、各隔室の水位設定値を算出する(D43)。次いで各隔室における注水ポンプ22又は排水ポンプ23の始動処理を行う(D44)。
【0038】
このポンプ始動処理は、図7に示すフローにより行われる。始動処理スタート(50)によりコンピュータ41によって支援設備上のアラーム音43が鳴らされる(51)。この音によって作業者にポンプ始動を知らしめると同時に、支援設備上の会話用無線機44がこれをマイクによって感知し、電波によりこれを送信する(52)。ケーソン上の会話用無線機33がこれを受診し、該無線機のスピーカーよりアラーム音鳴らす(53)。これを音感センサ32が感知し(54)、ケーソン上のPLC31よりリレー出力する(55)。これによって発電機25が始動され(56)、一定時間の発電機用エンジンのアイドリング(57)の後、発電機を運転し(58)、PLC31からの指令によってD43にて設定した各隔室毎の水位設定に対応した注水又は排水ポンプを始動させる(59)。これによってポンプ始動処理が終了する。
【0039】
このようにしてポンプ始動処理D44が終了し、ポンプ22又は23が運転され、所定の隔室への注水又は排水処理が持続され、この間に水位センサ21からの水位データをコンピュータ41に取り込む水位計処理がなされ(D45)、コンピュータ41では、水位センサからの水位データと、D43で算出した設定値との比較を行う(D46)。
【0040】
水位センサからの水位データがD43の設定値に対する予め設定した許容誤差範囲(例えば±5cm)以内に達した時、その隔室についての注水又は排水ポンプの作動を停止させる注水又は排水ポンプ停止処理(D47)を行う。達しない時はD45の水位計処理に戻る。
【0041】
注水又は排水ポンプ停止処理は図8に示すフローによってなされる。D43で算出された設定値の許容誤差範囲に達した隔室毎にコンピュータ41より無線LAN45,35を通じてケーソン上のPLC31に送信し、該PLC31から指令を出して作動されているポンプ毎に停止させるものであり、注水又は排水ポンプ停止処理スタート(60)後、設定値に達した隔室のポンプ毎に該当するポンプを停止させる(61)。このようにして作動している全ポンプの停止が完了するとコンピュータ41によってスピーカー43からアラーム音を出させる(62)。これによって作業員に注排水処理が完了したことを知らせるとともに、このアラーム音を支援設備上の会話用無線機44よりケーソン上の会話用無線機33に送り(63,64)、音感センサ32によりそのアラーム音を感知させる(65)。このアラーム音を感知することによってPLC31よりリレー出力し(66)、発電機25を停止させ(67)、これによって処理が完了する。
【0042】
一方前述したD4における傾斜値の平均値が1.5°以上か否かの判定結果がNO、即ち移動平均値が1.5°以下である場合は、次のケーソンの動的傾斜に対する安定化処理が必要か否かの判定に移行する。この判定はD2において取り込まれた傾斜値(ケーソンのトリム角、及びヒール角の各々)について標準偏差値をコンピュータ41により計算し、標準偏差を求める(D5)。この例では傾斜計の計測値(トリム角、ヒール角)は0.2秒毎に出力され30秒間の計測値(標本数150)の標準偏差を求めている。
【0043】
次いで、この傾斜値の標準偏差が1゜以上であるか否かの判定を行う(D6)。判定の結果NO、即ち1゜以下である場合にはケーソンの動的な傾斜が小さい(動揺が小さい)と判断し、傾斜制御処理を停止する。
判定結果がYES、即ち1゜以上である場合には、ケーソンの動的に傾斜が大きいものと判断し、(D7)〜(D12)の安定性を増大させる為の操作を行う。
【0044】
この操作は、次式(1)の値を大きくする操作を行う。

V:排水容積(m3)
I:喫水面の長軸に対する断面2次モーメントm4
C:浮心
G:重心
即ち、ケーソンの重心位置を水面下のより深い位置とすることにより荒波浪に対する安定性を大きくするものであり、先ずコンピュータにより必要な安定性を増加させる為に必要な各隔室内の水位レベル設定値を算出する(D8)。この設定値に基づきPLC31から指令を出し、必要な注水ポンプを始動させる注水ポンプ始動処理(D9)に移行する。この注水ポンプ始動処理は、前述した図7に示す注水/排水始動処理スタート(50)から注水/排水ポンプ始動(59)までのフローにより行われる。
【0045】
ポンプ始動処理(D9)が終了し、注水ポンプ23が運転され、所定の隔室への注水が持続され、この間に水位センサ21からの水位データをコンピュータ41に取り込む水位計処理がなされ(D10)、コンピュータ41では、水位センサからの水位データと、D8で算出した設定値との比較を行う(D11)。
【0046】
水位センサからの水位データがD8の設定値に対する予め設定した許容誤差範囲(例えば±5cm)内に達しない時は注水を継続させつつD10の水位計処理を持続させる。また、設定値に対する予め設定した許容誤差範囲に達した時、その隔室についての注水ポンプの作動を停止させる注水ポンプ停止処理(D12)を行う。注水ポンプ停止処理は前述した図8に示す注水/排水ポンプ停止処理スタート(60)から発電機停止(67)までのフローにより行われる。
【0047】
このようにして傾斜制御及び/又は安定化の処理を必要に応じてなした後、これらの制御によって得られた状態、即ち曳航海域が静穏な時に適した喫水を浅くして曳航時の水の抵抗を小さくした状態、又は荒波浪状態の時に適した喫水を大きくして安定性を増大させた状態において、その喫水状態を維持させる為の制御を行なわせる。この制御は、ケーソンの外壁に開口があり、これを水密性を持たせた状態で閉鎖しているが、その水密性が完全でなく閉鎖した開口部より隔室内に浸水する場合を想定して行なうものである。
【0048】
この制御は、図5中のE以下のフローによってなされる。ケーソンを水面に浮かべた状態で前述した各水位センサ21により各隔室内の水位を計測する(E)。この計測値をコンピュータ41により所定の設定値と比較する(F)。
【0049】
このときの比較基準となる設定値は、曳航時の海象条件に適したケーソン浮上状態となるための各隔室の水位レベルを設定値とするものであり、例えばケーソンの全ての隔室内がドライな状態で水平度が保たれて経済的な曳航が可能であれば、水位レベルの設定値は0であり、また、前述した傾斜制御処理において、ケーソンの静的傾斜を是正する為に算出したD43の工程において算出した水位レベルにて曳航されている場合はその水位レベルが設定値であり、更に、前記D8の動的な傾斜が一定以上となった時に安定化のために算出した水位レベルで曳航されている場合にはその算出された水位レベルが設定値となる。
【0050】
前記Fにおいては、計測値と設定値との差が所定の許容誤差範囲、例えば±5cm以内であるか否かの比較を行なう。その比較の結果がYES、即ち所定の誤差範囲内、例えば±5cm以内であれば、正常な状態が維持されていると判断し、傾斜制御処理Dに戻る。
【0051】
また、比較の結果がNO、即ち両者の値が所定の誤差範囲以上であった場合は、G以下の排水処理制御がなされる。この処理は、前述したD44の注水/排水ポンプ始動処理と同様に、図7に示す注水/排水始動処理スタート(50)から注水/排水ポンプ始動(59)までのフローにより行われる。尚、この場合には、注水ポンプは作動されず、排水ポンプのみを作動させるものとなる。
【0052】
このようにして排水ポンプを作動させつつ、水位センサからの計測値をコンピュータ41に取り込む水位計測処理を行なう(H)。この水位計測処理によって得られた計測値と、前述したFにおける設定値とを比較し、計測値と設定値との差が前述と同様の所定の許容誤差範囲、例えば±5cm以内であるか否かの比較を行なう(I)。その比較の結果がYES、即ち所定の誤差範囲内に達すれば、当初の設定状態に復帰したものと判断し、排水ポンプ停止処理(J)に移行する。
【0053】
同比較の結果がNOである場合には未だ当初の設定状態に復帰されていないと判断し、ポンプの作動を継続させる。
【0054】
排水ポンプ停止処理は、前述したD47の注水/排水ポンプ始動処理と同様に、図8に示す注水/排水ポンプ停止処理スタート(60)から発電機停止(67)までのフローにより行われる。
【0055】
尚、図5中の(K)は、オペレータが終了操作を行っているか否か判別を行うものであり、行っていない場合には制御が繰り返される。また終了操作が行われている場合には、制御が終了する。
【0056】
また、図には示してないが、各ポンプ作動時において駆動モータの電流値を計測し、これをPCL31、無線LAN35,45を通じてコンピュータに送り、その電流値が定格電流以下であれば、ポンプの作動を継続させ、定格電流以上となった場合には、コンピュータ41からの指令によりPLC31にて当該ポンプの作動を停止させるようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例にかかる装置をケーソンに装備した状態の平面図である。
【図2】同上の縦断面図である。
【図3】本発明装置の一例のケーソン上制御機器を示すブロック図である。
【図4】本発明装置の一例の支援設備上制御機器を示すブロック図である。
【図5】本発明装置の作用を示すメインフローチャートである。
【図6】図5における傾斜制御処理部分のフローチャートである。
【図7】図5、図6におけるポンプ始動処理部分のフローチャートである。
【図8】図5、図6におけるポンプ停止処理部分のフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
10a 前壁
10b 後壁
11a 左壁
11b 右壁
12 底壁
13 隔壁
14 隔室
15 通水孔
15 開口
17 止水仮蓋
18 上面仮蓋
21 水位センサ
22 排水ポンプ
22a 排水ホース
23 注水ポンプ
23a 注水ホース
24 傾斜計
25 発電機
30 ケーソン上制御機器
31 PLC
32 音感センサ
33 会話用無線機
34 データロガ−
35 無線LAN
40 支援設備上制御機器
41 コンピュータ
42 PLC
43 スピーカー
44 会話用無線機
45 無線LAN

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が隔壁によって仕切られた複数の隔室を有するとともに、外壁面に内部に通じる開口を有するコンクリートケーソンを水面上に浮かべて曳航するに際し、
前記コンクリートケーソンの前記外壁面の開口を止水仮蓋によって閉鎖するとともに前記各隔室の上面開口を上面仮蓋によって閉鎖し、
前記各隔室内に、それらの内部に侵入した水を排出するための排水ポンプ及び水位センサをそれぞれ設置し、
前記コンクリートケーソン上に前記排水ポンプの作動・停止を制御するケーソン上制御機器を設置するとともに該コンクリートケーソンとは別の支援設備に前記ケーソン上制御機器を遠隔的に操作する支援設備上制御機器を設置し、
前記各水位センサによる計測値を無線LANを介して支援設備上制御機器に送信し、該支援設備上制御機器に備えたコンピュータによって異常・正常状態を監視し、異常状態発生時に支援設備上制御機器から前記ケーソン上制御機器に排水ポンプ始動、及びその後の正常状態回復時の排水ポンプ停止のための指示信号を発信して異常発生個所の排水ポンプを制御させるようにしてなる開口付き中空コンクリートケーソンの曳航時安全制御装置。
【請求項2】
前記 コンクリートケーソンには、前記排水ポンプの他に各隔室内に注水する注水ポンプを設置し、前記コンピュータにおいて、前記水位センサにより計測された各隔室内の水位レベル測定値と、所望の隔室毎の水位レベル設定値とを比較し、その差が所定の許容範囲以上となった時に前記排水ポンプ及び/又は注水ポンプを作動させ、前記水位レベル測定値と前記水位レベル設定値との差が前記所定の許容範囲以下に達するまで前記各排水及び/又は注水ポンプの作動を継続させるようにしてなる請求項1に記載の開口付き中空コンクリートケーソンの曳航時安全制御装置。
【請求項3】
前記コンクリートケーソンには、該コンクリートケーソンを水面に浮かべた際の傾斜を監視する傾斜計を設置し、該傾斜計により所定時間内において所定間隔毎に計測した計測値の移動平均値が所定の設定角度以上である時に、前記コンピュータにより該コンクリートケーソンの水平度を保たせる為の各隔室内の水位レベルを計算し、その計算された水位レベルを設定値として前記注水ポンプ及び/又は排水ポンプを作動させてコンクリートケーソンの水平度を自動的に回復させるようにしたことを特徴としてなる請求項2に記載の開口付き中空コンクリートケーソンの曳航時安全制御装置。
【請求項4】
前記コンクリートケーソンには、該コンクリートケーソンを水面に浮かべた際の傾斜を監視する傾斜計を設置し、該傾斜計により所定時間内において所定間隔毎に計測した計測値の標準偏差値を前記コンピュータにより計算し、該標準偏差値が所定の値以上である場合に、前記コンクリートケーソンの喫水を大きくして安定化させるための各隔室内の水位レベルの設定値をコンピュータにより算出させ、その設定値と前記計測値との差が所定の許容範囲内に近づくまで前記各注水ポンプの作動を自動的に継続させるようにしてなる請求項2に記載の開口付き中空コンクリートケーソンの曳航時安全制御装置。
【請求項5】
前記ケーソン上制御機器と支援設備上制御機器とには、前記無線LANの他に、会話用無線機をそれぞれ備え、支援設備上制御機器には、異常状態発生時及びその後の正常状態回復時に、ポンプの始動又は停止処理スタートのための指示信号としてのアラーム音を発生するスピーカーを備え、前記ケーソン上制御機器には、アラーム音を感知する音感センサを備え、前記両会話用無線機を通じて支援設備上制御機器のスピーカーからアラーム音を前記ケーソン上制御機器の音感センサに感知させ、該音感センサのアラーム音感知によって前記注水及び/又は排水ポンプの始動又は停止処理をスタートさせるようにしてなる請求項1〜4の何れかに記載の開口付き中空コンクリートケーソンの曳航時安全制御装置。
【請求項6】
前記コンクリートケーソン上には注水ポンプ及び排水ポンプ駆動電源用の発電機を搭載し、前記ケーソン上制御機器には、前記音感センサによるアラーム音の感知によって、前記発電機を始動・停止させるとともに前記異常個所の各注水ポンプ及び/又は排水ポンプに前記発電機からの電力供給をコントロールするプログラマブルロジックコントローラ(PLC)を備えてなる請求項5に記載の開口付き中空コンクリートケーソンの曳航時安全制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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