説明

開放窓型電離箱

【課題】従来型の薄膜入射窓式電離箱でアルファー線や数keV以下の低エネルギーX線を測定するときには、入射窓による放射線の吸収が問題となり真の値を評価することができなかった。そこで、入射窓部の薄膜またはグリッドを取り去り開放窓型とし、しかも外部からの静電誘導を受けないで高感度で安定な測定のできる電離箱とし、空気または気体中に放出された真の全エネルギーを測定できるようにする。
【解決手段】入射窓部が開放型なので、そこを通して外部からの静電誘導による擾乱を回避するために集電極3をシールド効果のある高圧電極1の陰に退避させ、電離電流は補助電極2を介して方向を変位させた電界に沿って集電極まで運ぶ電離箱にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来型は入射窓の薄膜やグリッドによる放射線の吸収が問題になったが、本発明は薄膜やグリッドがない入射窓なので、真の値を測定し評価のできる電離箱である。
【背景技術】
【0002】
従来の電離箱は安定な測定をするために、入射窓には薄膜またはグリッドが必要であった。そのために約5keV以下の極低エネルギーのX線、またはアルファー線の吸収が避けられず、正しい放射線の量を評価することは困難であった。
【0003】
この薄膜による入射放射線の減衰が無視できない場合には膜無しの開放窓型電離箱が望まれていた。しかし、現実には膜を無くすると外部からの静電誘導の影響は避けられず、これにより微少の電荷、電流を安定かつ高精度に測定することは困難であった。
【0004】
しかし、本発明のように膜またはグリッドを除外した開放型入射窓の電離箱は外部静電誘導を回避するために集電極を高圧電極の陰に退避させ、電離電流は電界の方向を変位させて集電極に運ぶ方法でこれを解決した。本発明はアルファー線測定の場合、空気中で発生したイオン対による電離電流は僅かの距離を電界に乗せて運ぶことになるが、次項のように空気流に乗せて長距離を運ぶLRAD技術がある。
【0005】
本発明はイオン対を電界の方向に乗せ集電極に運び検出する方法であるが、イオン対のドリフト距離を大幅にとったアルファー検出法としてLRAD技術がある。これはイオン対の収集効率は落ちるが、アルファー線の存在する場所から数メートル離れていても発生したイオン対を空気流に乗せてグリッド電離箱に運び測定する方法である。
【非特許文献1】MacArthur DW,Allander KS,Bounds JA,et al:Long-Range Alpha Detector (LRAD) for Contamination Monitoring:IEEE Transaction on Nuclear Science,39,No.4,pp952-957(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射線により、空気または気体中に付与された真のイオン対の量を評価するために入射窓の膜またはグリッドを取り去り開放窓型とし、入射放射線の膜等による吸収を無くした。
【0007】
そのために、外部から入射窓を通して入る静電誘導の影響を受けない位置に集電極を配置した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
入射窓の膜またはグリッドを無くしたことにより、外部からの静電誘導を受けないように集電極をシールド効果のある高圧電極の陰に退避させた構造の電離箱とした。
【0009】
高圧電極と集電極の中間の補助電極は場合によっては省略することもできる。
【0010】
補助電極はイオン対の再結合特性を改善したり、電気力線を変位させたり、あ
【発明の効果】
【0011】
本発明による電離箱は膜またはグリッドのない開放型の入射窓方式なので、空気または気体中に付与された、真の全エネルギー量が測定でき、高感度で正確な放射線量を評価することが可能となる。
るいは電気力線を整合させたりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1の集電極配置例1は単位体積中に発生したイオン対による電離電流を測定する場合の原理図で、高圧電極1、補助電極2、集電極3の電極間隔を同一にして抵抗Rにより分割接続した例である。
【0014】
集電極3は反転増幅器に接続したとき仮想的にガード電極4と同電位になる。高圧電極1とガード電極4の間に高圧を印加して電気力線が平行になるようにする。なお、シールドケース7は増幅器のグランド端子に接続し、ガード電極4と同電位にする。集電極は高絶縁物5により支持され電離電流が出力される。補助電極2とガード電極4は絶縁物6を介して抵抗に接続されている。高圧電極1の支持絶縁物は省略してある。
【0015】
高圧電極1とガード電極4間に高電圧を印加して電気力線が一様に平行になったとき、照射放射線ビームの断面積と補助電極の穴形状からイオン対の生じた実効体積が算出でき、これにより単位体積当たりの電離電流が算定できる。
【0016】
図2の集電極配置例2は単位面積当たりのイオン対による電離電流測定の原理図である。集電極3は高圧電極1の陰に退避していて、入射窓からの静電誘導による擾乱を受けないように配慮されている。
【0017】
高圧電極1と補助電極2は抵抗R1とR2により分割接続されている。集電極3は反転増幅器に接続したとき仮想接地となりグランドと同電位になる。高圧電極1とグランド間に高電圧を印加する。集電極は高絶縁物5(図面では省略)により支持され電離電流が出力される。補助電極2は高圧電極から絶縁物6を介して絶縁され、また別の絶縁物6を介して抵抗R1,R2に接続されている。
【0018】
窓から入射したアルファー線により電離箱内で発生したイオン対による電離電流は補助電極2に向かう電界に乗って移動する。電離電流が集電極3の影響の及ぶ領域に入ると電界は補助電極2から集電極3に向かい急激に曲げられ、更にこれに乗って集電極に運ばれる。これにより単位面積当たりの電離電流が算定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係わる電離箱の集電極配置例1で、単位体積当たりの放射線量を評価するときの図である。
【図2】本発明に係わる電離箱の集電極配置例2で、これは単位面積当たりの放射線量を評価するときの図である。
【符号の説明】
【0020】
1 高圧電極
2 補助電極
3 集電極
4 ガード電極
5 高絶縁物
6 絶縁物
7 シールドケース



【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線入射窓に薄膜やグリッドのない開放窓型で、集電極を窓から直接見通せない高圧電極の陰に退避させた構造の電離箱。
【請求項2】
更に、イオン対の再結合や電離電流の収集効率を改善するために、必要に応じて補助電極を高圧電極と集電極の中間に配置し、各電極間に電圧を印加して、電離電流はこの電位勾配に沿って集電極に運ばれるようにした電離箱。
【請求項3】
単位面積当たりの放射線の量を特定するときには入射窓面積から算定ができる構造の電離箱。
【請求項4】
単位体積当たりに発生したイオン対の量を特定するときには、集電極に運ばれた電離電流の生じた体積を算定することのできる構造が必要である。このときは、電離箱を平行平板型として高圧電極と集電極の中間に平板状の補助電極を配置し、補助電極の中心には面積を算定しやすい形状の角穴または円形の穴などをあけておく。高圧電極、補助電極、集電極間を電極間隔に比例した抵抗値の分割抵抗で接続し高圧電極とグランド間に電圧を印加して、高圧電極、補助電極、集電極に向かう電気力線を平行にする。
このとき補助電極面とその中心穴の仮想空間面は同一電位になる。電離箱内で発生したイオン対の一部は補助電極と対向した高圧電極に流れるが、残りは補助電極の穴を通して対向した集電極と高圧電極とに流れる込む。これは穴の面積と照射線ビーム断面積から計算された実効体積中に発生した電離電流と見なすことができ、これより単位体積当たりに発生したイオン対による電離電流の量が求められる。集電極は入射X線の遮蔽と集電極への静電誘導を防ぐために導電性のシールド容器内に収容する。このような電極配置を成し、集電極を開放窓部から退避させた電離箱。
【請求項5】
開放窓方式なので空気または気体中のイオン対濃度を測定することもできる電離箱。
【請求項6】
また、アルファー線感度が高いのでアルファー線表面汚染計として最適な電離箱。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−240467(P2007−240467A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66824(P2006−66824)
【出願日】平成18年3月11日(2006.3.11)
【出願人】(706000551)
【Fターム(参考)】