説明

開環メタセシス重合体の製造方法

【課題】安定した幾何異性体比率を有する開環メタセシス重合体を、低分子量体の生成を抑制して製造する方法を提供する。
【解決手段】環状オレフィン化合物をルテニウムカルベン触媒と第三級りん化合物の存在下に滞留時間10秒〜300秒で連続的にメタセシス重合し、得られた反応液に連続的に反応停止剤を添加する。さらに、上記反応停止工程から得られた重合体を含む溶液を20℃以下に冷却して重合体を析出させる析出工程と、上記析出工程から得られた混合液を固液分離して重合体を取得する工程とを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開環メタセシス重合体の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン化合物の開環メタセシス重合 、閉環メタセシス反応、非環状オレフィンのクロスメタセシス反応、非環状ジエンのメタセシス重合等のメタセシス反応は工業的に有用な反応である。メタセシス反応に用いられる触媒としては、従来、タングステン、モリブデン、チタン等の遷移金属化合物と、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物等の有機金属還元剤とを組み合わせた触媒系が知られている。しかし、これらの触媒系では複数の触媒活性種が生成し、また生成した触媒活性種が不安定ですぐに失活してしまうため、メタセシス反応の制御が困難であることに加え、使用する金属塩から持ち込まれる、塩素、臭素などのハロゲンや、有機錫化合物の生成物への残留が問題視されるなどの問題を有している。
【0003】
近年、遷移金属にカルベン化合物が結合した遷移金属−カルベン錯体が高い触媒活性を示し、しかも各種のメタセシス反応を高度に制御できることが報告されている。例えば、特許文献1、非特許文献1には、例えば、嵩高いアルコキシド配位子とイミド配位子を有するモリブデン又はタングステンのカルベン錯体が高活性なメタセシス反応用触媒となること、また、この錯体を用いると立体特異性の比較的高い環状オレフィンの開環メタセシス重合 が可能となることが記載されている。また、モリブデンやタングステン触媒を使用した開環重合において、重合反応を連続的に実施することも開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、モリブデンやタングステン触媒では、二重結合への親和性が高いために、一旦生成した開環重合体が再びメタセシス反応して、環状重合体を生成し、得られた開環重合体が直鎖状重合体と環状重合体の混合物となりやすい。このような混合物を他の樹脂と混合させる場合に、直鎖状重合体と環状重合体の親和性が異なるため、一方が相容し難いなどの問題点を有する。さらに、モリブデンやタングステンのカルベン錯体は、エーテル、エステルなどの配位性の高いモノマーや分子量調節に使用する連鎖移動剤により、活性が著しく低下するという問題点を有する。従って、特許文献2のように水やアルコールなど活性水素を有する化合物を後工程で使用した場合、重合後の溶媒を回収し、重合に再使用する際にこれら活性水素を有する化合物が混入すれば触媒が活性を失い、重合が十分に進行しない場合がある。
【0005】
これに対して、最近では、炭化水素以外の官能基や、水やアルコールの影響を受けにくいという利点を持つ、ルテニウム−カルベン錯体が注目されている。ホスフィンを配位子として有する錯体(特許文献3参照)、さらに、5員環構造からなる複素環式カルベン化合物である置換イミダゾリン−2−イリデン又は置換イミダゾリジン−2−イリデンを配位子とするルテニウム−カルベン錯体がより高活性なメタセシス重合を達成することが報告されている(特許文献4、5参照)。
【0006】
さらに、微量のルテニウム−カルベン錯体を効率的に使用するために、触媒の添加方法(特許文献6)、反応液中の過酸化物の量(特許文献7)、分子量分布を狭化する方法(特許文献8)について開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの方法では、生成するオリゴマーの量を抑制することは十分にできず、特許文献8の方法を用いてもなお低分子量のオリゴマー成分が一定量生成することを避けがたい。また、これらいずれにも重合体の幾何異性体を制御する方法は記載されていない。実際に、低分子量のオリゴマーが一定量存在する場合、重合体を使用する上で、低分子量体のブリードアウトに伴う問題が発生するおそれがあり、成型安定性を維持することは難しい場合がある。更に、これらの文献に記載のいずれの方法を用いても、工業的に入手可能な原料を用い、工業的な規模で実施する場合安定的な生産に課題があることが判明し、さらに触媒量も低減することが求められていた。
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第218138号公報
【特許文献2】特開平10−502393号公報
【特許文献3】特表平9−512828号公報
【特許文献4】国際公開第99/51344号パンフレット
【特許文献5】国際公開第00/15339号パンフレット
【特許文献6】特開2006−219535号公報
【特許文献7】特開2006−249417号公報
【特許文献8】特開2006−219540号公報
【非特許文献1】Metathesis Polymerization of Olefins and Polymerization of Alkynes”,1996年,1頁,Kluwer Academic Publisher,Boston
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ブリードアウトしやすい、低分子量体のオリゴマーの生成を抑制し、得られる重合体の幾何異性体を安定的に得ることのできる開環メタセシス重合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、炭素数7以上の環状オレフィン化合物をルテニウムカルベン触媒の存在下に連続的に重合する開環メタセシス重合体の製造方法であって、
(a)炭素数7以上の環状オレフィン化合物と、連鎖移動剤と、触媒と、第三級りん化合物とを連続的に供給し、滞留時間10秒以上、300秒以下で連続的にメタセシス重合する重合工程と
(b)上記重合工程から得られた重合反応液に反応停止剤を連続的に添加して反応と停止させる反応停止工程と、
を含む、開環メタセシス重合体の製造方法によって達成される。
【0011】
好適な実施態様によれば、本発明の開環メタセシス重合体の製造方法は、さらに、
(c)上記反応停止工程から得られた開環重合体を含む溶液を20℃以下に冷却して開環重合体を析出させる析出工程、を含む。
【0012】
好適な実施態様によれば、本発明の開環メタセシス重合体の製造方法は、さらに、
(d)上記析出工程から得られた混合液を固液分離して開環重合体を取得する工程、を含む。
【0013】
好適な実施態様によれば、第三級りん化合物が、ホスフィンである。
【0014】
好適な実施態様によれば、反応停止剤が、アルコール類または水である。
【0015】
好適な実施態様によれば、上記反応停止剤と上記重合工程から得られた開環メタセシス重合体を含む溶液が相分離し、反応停止工程に引き続き反応停止剤と開環メタセシス重合体を含む溶液を分離する。
【0016】
好適な実施態様によれば、開環メタセシス重合体は、ポリオクテニレンである。
【0017】
好適な実施態様によれば、開環メタセシス重合体は、ポリノルボルネンである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、炭素数7以上の環状オレフィン化合物をルテニウムカルベン触媒の存在下に連続的に重合する開環メタセシス重合体の製造方法であって、
(a)炭素数7以上の環状オレフィン化合物と、連鎖移動剤と、触媒と、第三級りん化合物とを連続的に供給し、滞留時間10秒以上、300秒以下で連続的にメタセシス重合する重合工程と、
(b)上記重合工程から得られた重合反応液に反応停止剤を連続的に添加して反応と停止させる反応停止工程とを含む。
【0019】
さらに、本発明は、
(c)上記反応停止工程から得られた開環重合体を含む溶液を20℃以下に冷却して開環重合体を析出させる析出工程、と、
(d)上記析出工程から得られた混合液を固液分離して開環重合体を取得する工程、とを含んでいてもよい。
以下、製造工程の順に各工程について説明する。
【0020】
[重合〜反応停止]
(a)重合工程
本発明は、炭素数7以上の環状オレフィンを開環メタセシス重合し、主鎖に二重結合を有する高分子量体である開環メタセシス重合体を製造する方法に関する。ここで、モノマーである炭素数7以上の環状オレフィンとしては、特に限定されるものではないが、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、ノルボルネンなどのモノオレフィン、シクロオクタジエン、シクロデカジエン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロジエン類、シクロドデカトリエンなどのシクロトリエン類を使用することができる。これらは、アルコキシ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。特に、入手性、経済性、酸素吸収剤としての使用を考慮すると、シクロオクテン、ノルボルネンの使用が好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、開環メタセシス重合触媒としては、触媒量が極小で済む為重合体中への触媒残分の観点からルテニウム(以下Ruと記載することがある)−カルベン錯体が使用される。なお、ルテニウム−カルベン錯体とともに他の周期表第4〜8族遷移金属−カルベン錯体を併用しても差し支えない。
【0022】
ルテニウムカルベン錯体触媒 の具体例としては、例えば、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド等のヘテロ原子含有カルベン化合物と中性の電子供与性化合物が結合したルテニウムカルベン錯体;ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド等の2つのヘテロ原子含有カルベン化合物が結合したルテニウムカルベン錯体;(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(2−イソプロポキシフェニルビニリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(2−エトキシフェニルビニリデン)ルテニウムジクロリド等のカルベン化合物と配位性エーテル結合をカルベン中に有するルテニウムカルベン錯体;が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、触媒溶液中での安定性、重合時の活性などの観点から、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(2−イソプロポキシフェニルビニリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(2−エトキシフェニルビニリデン)ルテニウムジクロリド等を使用することが好ましい。
【0024】
開環メタセシス重合触媒の使用量は、ルテニウムカルベン錯体触媒のルテニウムと、単量体である炭素数7以上の環状オレフィンとのモル比において、ルテニウム:環状オレフィン=1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:500〜1:1,000,000、より好ましくは1:1,000〜1:700,000の範囲で実施される。触媒量が多すぎると触媒除去が困難となり、少なすぎると十分な重合活性が得られなくなる傾向がある。
【0025】
本発明では、上記の如くルテニウムカルベン触媒を極微量で実施するため、工業的に入手できる原料を使用する場合、原料中の微量不純物の影響を受けやすい。本発明者らの検討によれば、原料である炭素数7以上の環状オレフィンおよび連鎖移動剤は酸化を受けやすいため過酸化物やその異性化物を生成しやすく、これらの中に含まれる不純物の中で反応への影響が特に大きいものは過酸化物であり、安定的に反応を行うためには、この過酸化物を消去する必要があることが判明した。しかし、過酸化物を掃去できる物質の多くは同時に触媒に悪影響を与えたり、工業的規模で使用することが難しい。本発明者らは、第3級りん化合物を反応系に添加した場合に、反応への影響が小さく、かつ過酸化物の影響を抑制できることを見出した。
【0026】
一方、第三級りん化合物が過剰に添加され、残留するとルテニウムカルベン触媒に配位し、反応を阻害する場合がある。しかしてその使用量としては、原料中に含まれる過酸化物量に依存するため、特に限定されるものではないが、その使用量としては、使用するルテニウムカルベン触媒に対し、好ましくは0.01〜10モル倍、より好ましくは、0.05から5モル倍の範囲である。

【0027】
第三級りん化合物としては、ホスフィン、ホスファイトなどを使用することができる。ホスフィンとしては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィンなどのトリアルキルホスフィン類、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィンなどのトリアリールホスフィン類、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリオクチルホスファイトなどのアルキルホスファイト類、トリフェニルホスファイト、トリトリルホスファイト、トリp−t−ブチルフェニルホスファイトなどのトリアリールホスファイト類、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、ジフェニルホスフィノブタンなどのビスホスフィン類などを使用することができる。これらは、単独で使用することも複数を混合して使用することも出来る。使用する溶媒への溶解度、ルテニウムに対する配位能力、過酸化物の除去能力、第三級りん化合物としての安定性を考慮して、トリオクチルホスフィンなどの高級アルキルホスフィン類やトリアリールホスフィンの使用が好ましく、価格、入手性を考慮して、トリフェニルホスフィンの使用が好ましい。
【0028】
本発明では、開環メタセシス重合を行なうにあたって、連鎖移動剤を使用することができる。使用できる連鎖移動剤は特に制限されるものではないが、2−ブテン、2−ペンテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテンなどの内部オレフィンを使用することができる。これらは、水酸基、アルコキシ基、アシル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子などで置換されていてもよい。これらは、単独で使用することも出来るし、複数を混合して使用することも出来る。
【0029】
連鎖移動剤の使用量は、目的とする開環メタセシス重合体の分子量に応じて適宜選択すればよく、特に制限されるものではないが、実用的な分子量の開環メタセシス重合体を得る場合に採用される連鎖移動剤の量は、環状オレフィンに対する連鎖移動剤のモル比で、環状オレフィン:連鎖移動剤=1000:1〜20:1、好ましくは800:1〜50:1の範囲で実施される。
【0030】
本発明では、必要に応じて溶媒を使用して開環メタセシス重合を実施する。溶媒としては特に限定されるものではないが、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類を使用することができる。溶媒の除去性、操作性を考慮すると、炭化水素溶媒の使用が好ましく、開環重合体の取得性、残留性の観点から、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロオクタン等の使用が好ましい。
【0031】
溶媒の使用量も特に限定されるものではないが、通常、使用する環状オレフィンに対して、1から1000重量倍、好ましくは、2から200重量倍、より好ましくは、3から100重量倍の範囲で使用される。
【0032】
本発明の開環メタセシス重合を実施する温度は、使用する溶媒種、量に左右されるため、必ずしも一定ではないが、通常、0℃〜180℃の範囲、より好ましくは、10℃〜150℃の範囲で実施される。また、開環メタセシス重合反応は、不活性ガス雰囲気下で実施されることが好ましい。
【0033】
本発明においては、モノマーである環状オレフィン化合物と連鎖移動剤を混合して重合反応装置に導入しても、別々に導入しても構わない。
【0034】
本発明で製造される開環メタセシス重合体の分子量は、使用する形態によって異なるため、特に限定されるものではないが、高分子量体の操作性の観点から、通常、平均分子量として40,000以上、好ましくは、60,000以上、より好ましくは100,000以上である。同様に上限値も特に限定はないが、得られた高分子量体を溶融成形する場合の操作性などの観点からは、500,000以下が好ましく、200,000が好ましい。
【0035】
本発明では、連続的に重合反応を実施する。重合反応は、重合反応器に炭素数7以上の環状オレフィン化合物と、連鎖移動剤と、ルテニウムカルベン錯体と、第3級りん化合物と、必要に応じて溶媒その他の添加物とを連続的に供給し、生成した重合反応液を連続的に抜き取ることによって実施される。ここで、使用される重合反応器は少なくともその一部に攪拌力を有することが必要である。
【0036】
これらの原料等をどのような組み合わせで供給するかは、環状オレフィンや触媒の溶解度なども勘案の上適宜選択すればよいが、触媒活性を維持し、安定な反応を行わせる観点からは、炭素数7以上の環状オレフィン化合物と、連鎖移動剤と、第三級りん化合物とを含む溶液(以下A液と称することがある)と、触媒を溶媒に溶解させた溶液(以下B液と称することがある)をそれぞれ予め調製した上で、A液とB液を別々に反応器に供給して反応器内で混合、連続的に反応させることが好ましい。
【0037】
攪拌力を有する反応器としては、動的攪拌力を有するものとしては、容器内のプロペラを回転させて攪拌する方式であっても、容器自体を自転、公転させる方式であっても構わない。また静的攪拌力を有するものとして、インラインミキサーのように、反応液を移送することで攪拌力を得る方式のものでも構わない。これらは、必要に応じて、複数を組合して使用することも可能である。なお、本反応は触媒とモノマーである環状オレフィンとが混合されると迅速に開始するため、本出願においては主たる反応器とこれらを混合する部分が分離されている場合、混合する部分も含めて反応器と称している。
【0038】
本開環メタセシス重合反応は、重合反応によって粘度が上昇すること、メタセシス重合においては、モノマーの移動度が分子量に著しい影響を与えることを考慮すると、容器内の攪拌翼を回転させて攪拌する方式の反応器を主体反応器として使用することが好ましい。上記攪拌翼は重合反応に適したものを適宜選択すればよく特に制限はないが、例えば、プロペラ、タービン、アンカー、スパイラル、ゲート翼、フルゾーン、マックスブレンド(商標)等が例示でき、到達粘度に応じて適宜選択される。
【0039】
本発明では、反応器中の滞留時間を少なくとも10秒以上、300秒以下で実施する。短すぎる滞留時間では、重合速度が追いつかず、原料転化率が向上しないため好ましくなく、長すぎる滞留時間では、過剰反応であるセカンドメタセシス反応による、低分子量体の生成や、内部二重結合の異性化を伴うため好ましくない。よって、好ましくは20秒以上、290秒以下、より好ましくは、25秒以上280秒以下の滞留時間で実施する。滞留時間のコントロールは重要であり、これによって低分子量体含有量を低く押さえることが可能となる。なお、ここでいう滞留時間とは、モノマーと触媒が混合される時点から、混合された反応液が反応停止剤と最初に接触する時点までの、反応液の滞留時間、即ち混合機、反応器、配管も含め、モノマーと触媒が混合される位置から、反応停止剤が添加される位置までの間の容積を、反応液流量で除したものを指す。
【0040】
(b)反応停止工程
本発明では、重合反応終了後、速やかに、反応停止剤を連続的に吐出する反応液に、連続的に添加して、反応を停止する。攪拌力を有する反応器から取り出された重合反応液が反応停止剤と接触して反応を停止するまでの時間は、出来るだけ短いことが好ましく、少なくとも240秒以下、より好ましくは、120秒以下である。遅すぎる場合、過剰反応が進行し、低分子量体が生成するため好ましくない。
【0041】
本発明では、反応停止剤に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリンなどのアルコール類、または、水を使用する。これらは、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用しても構わない。特に、反応停止剤により、重合触媒を失活し、更に、反応停止剤にて、重合触媒のように目的の開環重合体中への残存が好ましくないものを反応液中から、分離除去することを考慮すると、水、メタノール、エタノール、およびこれらの混合溶液を使用することが好ましい。
【0042】
反応停止剤の使用量としては、特に制限されるものではなく、重合溶液100部に対して、0.01〜200重量部、反応停止効率、操作性、分離性を考慮して、通常、1部から100重量部、より好ましくは、2部から50重量部の範囲で使用する。
【0043】
前述のとおり、本発明で使用されるルテニウムカルベン錯体触媒は水やアルコールの存在下でもある程度の活性を保持するので、反応を十分に停止するためには、上記好ましい範囲の量の反応停止剤を用い、重合反応溶媒と反応停止剤の組成を適切に行うことで重合反応溶液相と反応停止剤相が液液相分離するように調整した上で、ルテニウムカルベン触媒を停止剤相に抽出する。このような観点から、重合溶媒は前述のとおり炭化水素系溶媒が好ましく、脂肪族炭化水素系溶媒がさらに好ましい。
【0044】
上記のように重合溶媒と反応停止剤を液液相分離させ、触媒を抽出させるに際しては、抽出効果を上げるため必要な場合はさらに攪拌した後、分液などの方法によって分離する。
【0045】
反応の停止温度としては、重合反応液中の開環重合体濃度、開環重合体の分子量に、反応液の粘度が依存するため、停止剤の拡散性に大きな影響をうけるため、これらの要素に対応して適宜選定され、特に限定されるものではないが、通常10℃から100℃の範囲、使用する溶媒、重合停止剤の沸点などを考慮して、20℃〜80℃の範囲で実施することが好ましい。
【0046】
[溶媒の除去]
反応停止の終了した重合反応液から開環メタセシス重合体を取り出す方法に特に制限はなく、単蒸発などの方法で溶媒を除去した後、薄膜蒸発などで残留溶媒を除く方法、押出機に導入して残留溶媒を除去かつ成形する方法、貧溶媒を添加して析出させる方法など、種々の方法から適宜選択することができる。
【0047】
(c)析出工程
本発明においては、開環メタセシス重合体を取り出す好ましい態様として、反応停止工程の後で、重合反応液を冷却することによって、開環重合物を析出させることができる。
【0048】
上記のように重合溶媒と反応停止剤が液液相分離する場合は、反応停止剤を分液などの方法で除去した後、反応液を冷却して、開環重合体を析出させる。析出させるときの固体分濃度としては、特に限定されないが、使用する第三級りん化合物を同時に析出させないために、通常、冷却前の重合反応液の固体分濃度が20%以下であることが好ましい。
【0049】
析出させる温度としては、調整する分子量により異なるが、通常、20℃以下の温度、より好ましくは、10℃以下の温度で実施する。また、反応停止工程の温度と析出工程の温度差が10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。温度が高すぎる場合、あるいは温度差が小さすぎる場合には、開環重合体の溶解度が高く、回収率が低くなるため好ましくなく、低すぎる温度では、使用するルテニウム触媒、第三級りん化合物が開環重合体中に残留するおそれが増すため好ましくない。
【0050】
(d)固液分離工程
得られた析出物は、遠心ろ過、加圧ろ過などの方法で脱液される。溶媒の残留は、使用するルテニウム触媒、第三級りん化合物が開環重合体中に残留する原因となるため好ましくない。そのため、必要に応じ、使用する溶媒を冷却して、リンスするなどの方法で、表面に付着した異物を除去することができる。
【0051】
(c´) 溶媒除去工程
本発明において、上記のように固体を析出させ、固液分離する以外の開環メタセシス重合体を取り出す好ましい態様として、反応停止工程の後で、重合反応液から溶媒を除去することによって、開環重合物を取得することができる。
【0052】
溶媒を除去する方法においては、上記のように重合溶媒と反応停止剤を分液などの方法で除去した後、開環メタセシス重合体を含む溶液から溶媒を除去する。溶媒を除去する方法に特に制限はないが、蒸発器等を用い、常圧あるいは減圧条件下に留去するなどの方法で除去する。
【0053】
溶媒を除去する温度は、重合工程で得られた開環メタセシス重合体の分子量によって、得られた開環メタセシス重合体を含む溶液の粘度が異なるため、適切な操作ができる粘度範囲とするように適宜調整されるが、通常、40℃以上の温度、より好ましくは、60℃以上の温度で実施する。一方、開環重合体の熱安定性を考慮して、200℃以下、より好ましくは、160℃以下で実施する。
【0054】
(e)乾燥
上記いずれかの方法で、溶媒の大部分を除去された開環メタセシス重合体から、真空乾燥、熱風乾燥など一般的な方法で、完全に溶媒を除去することにより、乾燥された開環メタセシス重合体を得ることが出来る。
【0055】
以下に本発明を実施例などの例によって具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0056】
(1)開環メタセシス重合体(A)の分子構造:
重クロロホルムを溶媒としたH−NMR(核磁気共鳴)測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)により得られたスペクトルから決定した。
【0057】
(2)開環メタセシス重合体(A)の重量平均分子量および低分子量体量の測定方法
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定を行ない、ポリスチレン換算値として表記した。測定の詳細条件は以下のとおりである。
<分析条件>
装置 :Shodex製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)SYSTEM−11
カラム:KF−806L(Shodex)(カラム温度:40℃)
移動相:テトラヒドロフラン(THF)(流速:1.0mL/分)
Run:15分
検出器:RI
濾過 :0.45μmフィルター
濃度 :0.1%
注入量:100μL
標品 :ポリスチレン
解析 :Empower
なお、低分子量体割合は、上記GPC分析で得られたチャートの、ポリスチレン換算分子量1000以下の部分の面積を、全ピーク面積で除することによって算出した。
【実施例1】
【0058】
本実施例のシクロオクテン、cis−4−オクテン、溶媒のヘプタンは、市販のシクロオクテン(試薬一級:東京化成製、荷姿:3リットル缶)を購入後通常の状態(室温、密栓)で保存したものを使用した。それぞれの過酸化物濃度(あるいは調製後のA液、B液の)をヨードメトリーにより滴定したところ0.6、0.3、0.1mg/gであった。
【0059】
シクロオクテン1100g(10mol)およびcis−4−オクテン1870mg(16.7mmol)、トリフェニルホスフィン0.80g(2.5mmol)を溶解させた重合モノマー溶液(A液)を調製した。
【0060】
次いで[1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロ(2−イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム424mg(499μmol)を、ヘプタン4400gに溶解させた触媒液(B液)を調製した。
【0061】
300mlガラス製オートクレイブに、内径の1/3程度のプロペラ型攪拌翼を備えた攪拌機、圧力計を装着し、最初にヘプタン100gを仕込み、500rpmで攪拌しつつ60℃に昇温した。其処に、A液を毎分20g、B液を毎分80g連続的に送液し、ガラス製オートクレイブの内圧を0.6MPaに窒素加圧して、内圧を保ちながら、毎分100gの反応液を抜き出した。
【0062】
抜き出した反応液に、直ちに毎分30gのメタノールを添加しながら、内径10mm、全長260mmのスタティックミキサーに送液して反応を停止した。
【0063】
送液開始から、10分後、サンプリングし、サンプリングから10分後にガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC−14B;カラム:化学品検査協会製、G−100)により分析したところ、シクロオクテンの転化率は99.8%であることを確認した。本サンプリング反応液を濃縮して、GPC測定し、分子量1000以下の低分子量体含有量は4.2%であった。
【0064】
得られた反応液のメタノール層を除去し、40℃でヘプタン層500gにヘプタン500gを添加し均一化させ、ヘプタン溶液を8℃まで冷却して、ポリオクテナマーを析出させた。析出物を遠心ろ過し、得られたポリオクテナマーを真空乾燥機にて、1Pa、100℃にて6時間乾燥し、重量平均分子量(Mw)が142,000、分子量1000以下のオリゴマー含有率2.7%のポリマーであることを確認した。
【0065】
以上の結果を表1に示す。また、表1には送液開始から12時間後にサンプリングし、同様に処理、分析を行った結果を併せて示す。
【実施例2】
【0066】
実施例1において、A液を毎分40g、B液を毎分160g連続的に送液した以外は、実施例1と同様に反応を行った。分析結果を表1に記す。
【実施例3】
【0067】
実施例1において、A液を毎分5g、B液を毎分20g連続的に送液した以外は、実施例1と同様に反応を行った。分析結果を表1に記す。
【0068】
[比較例1]
実施例1において、A液を毎分2g、B液を毎分8g連続的に送液した以外は、実施例1と同様に反応を行った。分析結果を表1に記す。
【0069】
[比較例2]
実施例1において、A液を毎分200g、B液を毎分800g連続的に送液した以外は、実施例1と同様に反応を行った。分析結果を表1に記す。
【実施例4】
【0070】
実施例1において、シクロオクテン1100gに代えて、ノルボルネン910gを用いた以外は、実施例1と同様に反応を行った。分析結果を表1に記す。
【実施例5】
【0071】
実施例1において、300mlオートクレイブへの導入前に、内径10mm、全長260mm、内容積16mlのノリタケ製スタティックミキサーを設置した以外は、実施例1と同様に反応を行った。分析結果を表1に記す。
【実施例6】
【0072】
実施例1において、メタノールに代えて、水を用いたい外は、実施例1と同様に反応を行った。分析結果を表1に記す。
【0073】
[比較例3]
実施例1において、メタノールによる重合停止を実施しなかった以外は、実施例1と同様に反応を行った。分析結果を表1に記す。
【0074】
[比較例4]
実施例1において、トリフェニルホスフィンを添加しなかった以外は実施例1と同様に反応を行った。その結果を表1に記す。触媒活性の低下が認められた。
【実施例7】
【0075】
実施例1において、メタノールを除去した後ヘプタンを加え、再びメタノール1000gを添加、分液除去した後、ヘプタンを100Pa下、60℃で除去したこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に記す。
【0076】
[比較例5]
実施例1において、トリフェニルホスフィンに換えて、同じく過酸化物を除去する効果を有するカテコール0.27g(2.5mmol)を添加した以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に記す。触媒活性の低下が認められた。
【0077】
【表1】


【産業上の利用可能性】
【0078】
本願発明によって得られた開環メタセシス重合体を、他の樹脂に配合することにより機械的物性の改善された樹脂組成物が、あるいはさらに遷移金属塩を配合することで、酸素吸収性樹脂組成物が提供される。これらの樹脂組成物は開環メタセシス重合体由来の低分子量物が低減されているため、食品などの包装用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数7以上の環状オレフィン化合物を、ルテニウムカルベン触媒の存在下に連続的に重合する開環メタセシス重合体の製造方法であって、
(a)炭素数7以上の環状オレフィン化合物と、連鎖移動剤と、触媒と、第三級りん化合物とを連続的に供給し、滞留時間10秒以上、300秒以下で連続的にメタセシス重合する重合工程と
(b)上記重合工程から得られた重合反応液に反応停止剤を連続的に添加して反応と停止させる反応停止工程と、
を含む、開環メタセシス重合体の製造方法。
【請求項2】
さらに、
(c)上記反応停止工程から得られた開環メタセシス重合体を含む溶液を20℃以下に冷却して開環メタセシス重合体を析出させる析出工程と、
(d)上記析出工程から得られた混合液を固液分離して開環重合体を取得する工程と、
を含む請求項1に記載の開環メタセシス重合体の製造方法。
【請求項3】
上記第三級りん化合物が、ホスフィンである、請求項1または2に記載の開環メタセシス重合体の製造方法。
【請求項4】
上記反応停止剤が、アルコール類または水である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
反応停止工程に引き続き反応停止剤と開環メタセシス重合体を含む溶液を分液により分離する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の開環メタセシス重合体の製造方法。
【請求項6】
上記開環重合体が、ポリオクテニレンである請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
上記開環重合体が、ポリノルボルネンである請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−144097(P2008−144097A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335430(P2006−335430)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】