説明

間葉系フィーダー細胞由来のパラ分泌シグナルならびにそれを用いる肝前駆体の増加および分化の調整

特定の種類の間葉系フィーダー細胞、または、それらのフィーダーにより産生されるパラ分泌シグナルのより多くのうちの1つを用いることにより、インビトロで肝前駆体の生存、増殖、および/または分化を制御する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2007年6月15日出願の米国特許仮出願第60/944,435号の優先権を主張し、参照することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、一般に生体外(ex vivo)での肝前駆体細胞の増殖および/または分化に関する。より特に、本発明は、間葉細胞に由来する可溶性および不溶性のパラ分泌シグナルの特定および選択、ならびに、肝幹細胞を含む肝前駆体細胞のインビトロでの増加および/または分化を調節する際のそれらの適用に関する。
【背景技術】
【0003】
肝幹細胞およびそれらの後代(例えば、肝芽細胞およびコミットされた前駆体)は、かなりの増加可能性を有する。このため、これらの細胞集団は、人工肝臓または細胞移植を含む細胞治療の望ましい候補である。しかし、このような期待に関わらず、肝臓細胞治療の可能性はまだ十分に実現されていない。
【0004】
肝幹細胞およびそれらの後代をインビトロで増殖することは困難であることが示されている。それは、一部分には、インビトロでの培養条件が実験室の実験台から臨床への移行に必ずしも最適でないためである。例えば、一部の培養条件は生存には効果的でなく、細胞分裂を大いに遅延させてしまうか、または細胞分化を望ましくない運命に向かって促進してしまう。同様に、一部の培養条件は、汚染物質を導入する可能性のある因子(例えば、血清)の添加を必要とし、その結果、ヒトの治療へのその適用を制限してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正常細胞、特に前駆体の維持には、前駆体の生存および機能に重要なパラ分泌シグナルをもたらすことが知られている、間葉の伴細胞のフィーダーが必要とされる。間葉細胞フィーダーのカテゴリーを同定し、次に、間葉細胞フィーダーをモデルとして使用して、増加、特定の運命への系統限定、または肝前駆体の胆管上皮および肝細胞の成熟運命への分化を媒介する、それらのパラ分泌シグナル、細胞外マトリックス成分および可溶性シグナルを同定する必要がある。シグナルを明らかにすることにより、それらのシグナルを、適切な組合せで、かつ肝前駆体からの所望の生物学的応答を誘発するフィーダーなしに単独で使用することが可能になる。それには、生存、増加、運命への系統限定、および成熟肝細胞への完全な分化が含まれる。よって、これまでのフィーダー細胞の必要性を除去するように規定される培養条件に対する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態では、無血清培地中、ならびに、ヒアルロナン、その他の硫酸化されていないグリコサミノグリカン(GAG)または硫酸化の不完全なグリコサミノグリカン、硫酸化されていないプロテオグリカンまたは硫酸化の不完全なプロテオグリカン、胚性コラーゲン(embryonic collagens)(例えば、III型)および胚性基底接着分子(embryonic basal adhesion molecules)、ならびにそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分の層上で、単離した肝幹細胞集団を培養するステップを含み、前記層が成熟したコラーゲンを本質的に含まず(例えば、I型)、前記培養が前記肝幹細胞をそれらの分化を誘導せずに増殖させる、肝幹細胞をインビトロでそれらの分化を誘導せずに増殖させる方法が提供される。
【0007】
前記マトリックス成分のいずれかまたは全ては、血管芽細胞フィーダー細胞、静止状態の肝星状フィーダー細胞、HUVECフィーダー細胞、またはそれらの組合せにより供給されてよい。前記基底接着分子は、胎児組織に主に見出されるラミニンのイソフォームを含んでよく、ヒアルロナン以外の前記GAGは、コンドロイチン硫酸の形態であってよい。前記肝幹細胞は、ヒト由来であってよく、胎児、新生児、小児または成人の肝臓から得てよい。前記ラミニンは、約0.1〜約2μg/cmの濃度、好ましくは約1μg/cmの濃度で供給されてよい。同様に、III型コラーゲンまたはIV型コラーゲンは、個別に、約0.1〜約15μg/cmの濃度であり得る。
【0008】
本発明のもう一つの実施形態では、無血清培地中、ならびに、胚性コラーゲン、基底接着分子、CS−PG、およびそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分の層上で、単離した肝幹細胞集団を培養するステップを含み、前記層が成熟したコラーゲンを本質的に含まず、前記培養が肝幹細胞をそれらの分化を誘導せずに増殖させる、肝幹細胞をインビトロで肝芽細胞に分化させる方法が提供される。
【0009】
前記マトリックス成分のいずれかまたは全ては、活性化した内皮細胞(endothilia)、活性化肝星状フィーダー細胞、またはその両方により供給されてよい。胚性コラーゲンはIV型コラーゲンであってよく、基底接着分子は約0.1〜約2μg/cmの濃度、好ましくは約1μg/cmの濃度で供給される、ラミニンの胎児イソフォームを含んでよい。一部の実施形態では、前記層は、ヒアルロナンをさらに含む。前記肝幹細胞は、胎児、新生児、小児または成人の肝臓から得ることができ、好ましくはヒトに由来する。
【0010】
本発明のさらにその他の実施形態では、無血清培地中、ならびに、硫酸化プロテオグリカン、成熟コラーゲン、フィブロネクチン、およびそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分の層上で、単離した肝幹細胞集団を培養するステップを含み、前記培養が前記肝幹細胞または肝芽細胞のコミットされた肝前駆体または胆管前駆体およびそれらの後代への分化を誘導する、肝幹細胞または肝芽細胞をインビトロでコミットされた肝細胞または胆管前駆体およびそれらの後代に分化させる方法が提供される。前記マトリックス成分のいずれかまたは全ては、間質フィーダー細胞、活性化肝星状フィーダー細胞、筋線維芽細胞フィーダー細胞、またはそれらの組合せにより供給されてよい。一部の実施形態では、前記層は、ヒアルロナンを実質的に含まず、前記硫酸化プロテオグリカンは、ヘパラン硫酸−PGまたはヘパリン−PG、あるいはその両方であり得る。
【0011】
本発明のなおさらなるその他の実施形態では、肝前駆体の増殖のための、またはそれらを分化させるための容器が提供される。この容器は、ヒアルロナン、その他の硫酸化されていないグリコサミノグリカン(GAG)または硫酸化の不完全なグリコサミノグリカン、硫酸化されていないプロテオグリカンまたは硫酸化の不完全なプロテオグリカン、胚性コラーゲン、および胚性基底接着分子、ならびにそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分の層を含み、前記層は、成熟したコラーゲンを本質的に含まず、前記マトリックス成分の層は、前記容器の少なくとも1つの表面を実質的に覆っている。
【0012】
あるいは、前記層は、胚性コラーゲン、基底接着分子、CS−PG、およびそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分を含んでよく、前記層は、成熟したコラーゲンを本質的に含まず、前記マトリックス成分の層は、容器の少なくとも1つの表面を実質的に覆っている。最終的に、前記層は、硫酸化プロテオグリカン、成熟コラーゲン、フィブロネクチン、およびそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分を含んでよく、前記マトリックス成分の層は、前記容器の少なくとも1つの表面を実質的に覆っている。前記容器は、組織培養プレート、バイオリアクター、ラボセル(lab cell)またはラボチップ(lab chip)であってよい。
【0013】
このようなことから、当業者は、本開示の基づいている概念が本発明のいくつかの目的を実行するためのその他の構造の設計、方法および系の基礎として容易に利用され得ることを理解する。そのため、本発明の精神および範囲を逸脱しない限り、特許請求の範囲を、かかる均等な構成を含んでいるものとみなすことは重要である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】培養中のhHpSCおよびヒト肝芽細胞のコロニーを示す図である。hHpSCコロニー(A)とヒト肝芽細胞(B)の両方がEpCAM(緑色で示される)を発現した。NCAM(赤色で示される、A)は末梢の領域に沿って、かつコロニーの中心で発現された。肝芽細胞は、αフェトプロテイン(AFP、赤色で示される、B)を強く発現した。両方の細胞をDAPI(青色)で染色した。スケールバーは100μm。
【図2】hHpSCのコロニーを取り囲んでいる細胞がαSMA+hHpSTCであることを示す図である。典型的なヒト肝幹細胞コロニー(A)は、コロニーの内部のNCAMに関して陽性であり(B、D)、コロニーの端の伴細胞中のαSMAに関して陽性である(C、D)。倍率は10倍。
【図3】血管芽細胞を含むhHpSCの初代培養を示す図である。EGM−2中で7日間培養したKDR+選択細胞は、vWFを発現した(緑色)(AおよびB)。EGM−2中で4日間培養したCD31+選択細胞は、vWF(緑色)とCD31(赤色)の両方を発現した(C)。スケールバーは100μm。血管芽細胞は、培養においてhHpSCコロニーに関連していた(D)。倍率は10倍。
【図4】活性化されたhHpSTCと静止状態との比較を示す図である。静止状態のhHpSTCは、低レベルのデスミン、αSMA+、CD146、I型コラーゲン、およびその他のマトリックス分子(フィブロネクチン、プロテオグリカン)を発現する。損傷過程(例えば、血清またはある種の因子(例えば、PDGFおよびTGF−B1)への曝露)は、hHpSTCを活性化させ、筋線維芽細胞様の間質細胞へ移行させ、αSMAおよびマトリックス成分の産生を増加させ、HGFなどの様々な増殖因子を放出させる。示されているのは、低レベルのCD146を発現している間葉の伴細胞(血管芽細胞および静止状態のhHpSTC)によって取り囲まれたhHpSCのコロニーである。同じプレート上には、活性化を受けて高レベルのCD146を生じた間葉の伴細胞とともに、隣接するコロニーが示される。
【図5】様々なフィーダーの形態および免疫組織化学を示す図である。AはhMSC。BはhUVEC。C〜Dは4日目(C)および7日目(D)のヒト胎児肝臓由来のフィーダー細胞。E〜Hは、無血清条件で、磁気によって免疫選択されたKDR+細胞(E〜F)および線維芽細胞が枯渇した上清細胞(G〜H)の11日目の培養は、αSMAに対して陽性であった(FおよびH)。倍率は10倍。
【図6】EGM−2培地中で8日間培養した、線維芽細胞が枯渇した上清細胞に関する免疫組織化学を示す図である。細胞は、デスミン(BおよびH)、αSMA(I)、ラミニン(C)、フィブロネクチン(F)、I型コラーゲン(L)およびIV型コラーゲン(E)に対して陽性であり、内皮マーカーvWF(K)に対して陰性であった。多くの細胞がデスミンよりもαSMAを発現することに注目されたい。各々の二重染色に対する位相差画像が示される(A、D、G、およびJ)。バーは50μm。
【図7】異なるフィーダーと共培養したhHpSCの効果を示す図である。A〜Fは、単独で培養したhHpSC(A)、hUVECと共培養したhHpSC(B)、hMSCと共培養したhHpSC(C)、またはヒト胎児肝臓由来フィーダーと共培養したhHpSC(D)。倍率は10倍。
【図8】αSMA+線維芽細胞が欠乏したヒト胎児肝臓に由来する上清細胞と共培養したヒトhHpSCを示す図である。これらのフィーダーを用いた結果、肝芽細胞への系統限定が起こった。8日目のヒト肝幹細胞コロニー(AおよびB)およびhHpSCとヒト胎児肝臓由来フィーダーの共培養(CおよびD)でのヒトAFPに関する免疫組織化学。倍率は10倍。
【図9】マトリックス分子をコードするmRNAに対する、ノーマライズしたmRNA発現を示す図である。各々の細胞種でのmRNA発現レベルの倍率変化を、同じ細胞種のリボソームRNA(18S)の含量にノーマライズした。
【図10】精製したマトリックス成分の基質上でのhHpSCの挙動を示す図である。hHpSCは、プラスチック上またはIII型コラーゲン上で幹細胞特性を維持する(AおよびB)。hHpSCの系統は、IV型コラーゲン上またはラミニン上で培養される場合に、肝芽細胞に限定される(CおよびD)。hHpSCは、I型コラーゲンの上で培養される場合に、さらに成熟肝細胞に分化する。Dの方が高倍率。
【図11】分化の間のhHpSCとそれらのパートナーの間葉細胞におけるマトリックス化学およびマトリックス受容体の変化の概要を提供する図である。
【図12】共培養およびヒト胎児肝細胞培養において産生されたヒトサイトカインの比較を提供する図である。ヒト胎児肝細胞の単一培養およびSTOフィーダー細胞とヒト胎児肝細胞の共培養で産生されたヒトサイトカインの、低レベル(上部)および高レベル(下部)の濃度(pg/ml)。
【図13】共培養およびSTOフィーダー細胞培養で産生されたマウスサイトカインの比較を提供する図である。STOフィーダー細胞の単一培養およびSTOフィーダー細胞とヒト胎児肝細胞の共培養で産生されたマウスサイトカインの、低レベル(上部)および高レベル(下部)の濃度(pg/ml)。
【図14】サイトカインのrter6細胞のコロニー形成への影響を示す図である。サイトカインを含むまたは含まない、ホルモンによって規定された培地(HDM)中のラット肝前駆体(rter6)細胞のコロニー数(上部)および面積(ピクセル、下部)が示される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態では、接着、生存および生体外での増殖を促進する細胞外マトリックス成分、ならびに肝幹細胞およびそれらの後代の分化を誘発するその他のマトリックス成分が同定された。用語「肝前駆体」とは、本明細書において、肝幹細胞およびそれらの後代の両方を包含するよう広く定義される。「後代」には、肝幹細胞または肝芽細胞の両方、その多能性前駆体と、特定の成熟した細胞種(例えば、肝細胞)に至る唯一の系統に分化可能なコミットされた前駆体の両方が含まれてよい。
【0016】
「クローン性増加」とは、単一細胞から増加して継代培養され、親細胞の表現型を保持しながら繰り返し増加することのできる細胞の成長特性をさす。「コロニー形成」とは、1または2週間以内に限定された数の細胞分裂(一般に5〜7回の細胞分裂)を行うニ倍体実質細胞の特性をさし、継代培養または継代を行う能力の限られている細胞を含む。「多能性」とは、1個超の運命の娘細胞を形成することのできる細胞を意味する。「単能性」または「コミットされた前駆体」は、単一の成熟運命を有する細胞である。
【0017】
肝幹細胞(HpSC)は、胎児および新生児の肝臓の胆管板(ductal plates)(限界板とも呼ばれる)において、および、小児および成人の肝臓のヘリング管において見出される多能性細胞であり、テロメラーゼの発現を伴う自己複製の証拠を示し、移植されると成熟肝細胞を形成することが可能である。これらの細胞は、EpCAM+、NCAM+、ALB+、CK8/18+、CK19+、CD133/1+であり、試験した全ての造血マーカー(例えば、CD34、CD38、CD45、CD14)、間葉細胞マーカー(CD146、VEGFr、CD31)に関して、およびP450またはαフェトプロテインの発現に対して陰性である。HpSCは、肝芽細胞および、コミットされた(単能性)前駆体を生じることが見出されている。
【0018】
肝芽細胞(HB)は、胎児および新生児肝臓の柔組織全体に、ヘリング管の端に繋留された単一細胞または細胞の小型の凝集体として見出される二分化能細胞である。HBはHpSCに由来する。HBはHpSCに存在する多くの抗原を共有するが重要な区別も有する。例えば、HBはNCAMを発現しないがICAM1を発現し、相当な量のαフェトプロテインおよびP450の胎児型を発現する。これらのHBは単能性前駆体、コミットされた肝細胞および胆管前駆体を生じさせる。
【0019】
コミットされた肝前駆体は、肝細胞または胆管の系統のいずれかの単能性前駆体である。それらの抗原プロフィールは、HBの抗原プロフィールと重複する。しかし、胆管のコミットされた前駆体はCK19を発現するが、AFPまたはALBは発現しない、一方、肝細胞のコミットされた前駆体はAFPおよびALBを発現するが、CK19は発現しない。コミットされた胆管前駆体は、直接に肝幹細胞に、また肝芽細胞にも由来する。
【0020】
間葉細胞(MC)には、多くの異なる間葉細胞型(成熟細胞、および括弧内にその前駆体として記載される)の様々な系統段階の細胞が含まれる。それには、間質(間葉系幹細胞)、内皮(血管芽細胞)、星状細胞(細胞前駆体)、および様々な造血細胞(造血幹細胞)が含まれる。
【0021】
本明細書中の肝前駆体についての考察および例は、全てではないがその大部分がヒト由来の細胞集団に関するものであるが、本明細書中の教示はヒトに限定されるべきではない。実際に、当業者であれば、一般に本明細書中の教示を哺乳類(例えば、マウス、ラット、イヌなど)由来の肝前駆体の増加に当てはめることができるはずである。したがって、本発明の範囲は、ありとあらゆる哺乳類の肝前駆体を含むことを意図する。
【0022】
本発明に従うインビトロでの増殖に適した肝前駆体が、任意の特定の方法により単離もしくは同定された肝前駆体に限定されないことも注目される。例として、肝前駆体の単離および同定方法が、例えば、米国特許第6,069,005号および米国特許出願第09/487,318号、同第10/135,700号、および同第10/387,547号に記載されている。開示内容は、参照することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする。
【0023】
肝幹細胞および肝芽細胞は、特徴的な抗原プロフィールを有し、既に記載されたプロトコールにより単離することができる。例えば、肝幹細胞および肝芽細胞は多数の抗原(例えば、サイトケラチン8、18、および19、アルブミン、CD133/1、および上皮細胞接着分子(「EpCAM」))を共有し、かつ、造血マーカー(例えば、グリコホリンA、CD34、CD38、CD45、CD14)および間葉細胞マーカー(例えば、CD146、CD31、VEGFrまたはKDR)に関して陰性である。あるいは、肝幹細胞および肝芽細胞は、サイズにより(幹細胞は7〜9μm、肝芽細胞は10〜12μm)、培養時の形態により(幹細胞は、密集した、形態学的に均一なコロニーを形成し、一方、肝芽細胞は、空の管、すなわち予定細管が散在する索状構造を形成する)、特定の抗原の発現パターンの区別により(EpCAMは肝幹細胞全体で発現されるが、肝芽細胞では細胞表面に限定される)、あるいは相異する抗原プロフィールにより(N−CAMは肝幹細胞に存在するが、αフェトプロテイン(AFP)およびICAM1は肝芽細胞により発現される)、相互に区別することができる。胎児および新生児の肝臓において、肝幹細胞は胆管板(限界板とも呼ばれる)に存在するが、肝芽細胞は主要な実質細胞集団である(>80%)。小児および成人の組織において、肝幹細胞はヘリング管に存在するが、一方、肝芽細胞はヘリング管の端に繋留された細胞である。肝芽細胞は正常組織では少数の細胞で構成されるが、罹患肝臓(例えば、硬変)では多数の細胞(例えば、小塊)で構成される。
【0024】
本発明は、HpSC、好ましくはヒトHpSC(hHpSC)の生体外での維持を、インビトロで制御するための方法を提供する。より具体的には、本発明の方法は、HpSCの増殖を(1)分化(すなわち自己再生)を誘導せずに、(2)HpSCの肝芽細胞への分化を誘導(すなわち「系統限定」)して、または(3)より「広範囲の」(例えば、コミットされた前駆体への)分化を誘導して可能にする(本明細書において「生体外での維持」と総称する)。本方法は、共培養で使用される特定の種類の間葉フィーダー細胞の選択的使用により一部可能になる。本発明はまた、単独でまたは組み合わせて、望ましい場合、フィーダー細胞の不在下でHpSCの増殖を可能にする、不溶性(例えば、マトリックス分子)および可溶性(例えば、サイトカイン)成分も提供する。表1に、上述の生体外での維持の方法への影響に関して発見された不溶性因子を要約する。
【0025】
【表1】

【0026】
3つの別個の種類のフィーダーが、上に概説する生体外での維持の3つの方法に沿って同定された。ヒト肝星状細胞(hHpSTC)を含まない(または、別の方法では、静止状態のhHpSTCを含む)内皮前駆体または血管芽細胞のフィーダーとの共培養は、それらの分化を誘導せずにHpSCの増加を可能にする。活性化された内皮およびhHpSTCが十分に備わったフィーダーは、HpSCの系統を肝芽細胞に限定する。最終的に、成熟内皮もしくはネズミ間質を含むフィーダー細胞(STO細胞に代表される)は、HpSCを成熟実質細胞(胆管細胞および肝細胞を含む)に分化させた。このようにして同定した共培養の挙動は、上皮組織に隣接する間充組織からのパラ分泌シグナルにより支配される肝臓発生の間に観察される挙動に似ていると現在考えられている。
【0027】
マトリックス化学は、胚発生に関連する可能性がある。本発明の一実施形態では、本発明者らは、肝臓の幹細胞ニッチの中または近くに見出される細胞外マトリックス成分が、既存の技術よりも分化を誘導することなく肝前駆体の増加を良好にもたらすことを見出した。2006年11月15日出願の米国特許出願第11/560,049号に記載されるように(その開示は参照することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする)、肝臓の幹細胞ニッチの中または近くに豊富に見出されるマトリックス成分で培養した細胞は、凝集して一部のマトリックス成分(例えば、ラミニン)上でスフェロイド様構造を形成し、他のマトリックス成分(例えば、III型コラーゲン)上で単層に広がる。幹細胞ニッチで見出される細胞外マトリックス成分の特定の種類は、肝前駆体細胞が、対称的な細胞分裂(娘細胞が親細胞と同一またはほぼ同一)である、自己複製方法で増加を行うために必要なシグナルの中にある。
【0028】
肝幹細胞の成熟は、少なくとも部分的には、それらの分化を方向付けるマトリックス成分の特有の組合せに付随して起こることがさらに考えられる。一部の細胞外マトリックス成分は、肝前駆体が非対称分裂に関連する増加、つまり、何らかの分化に従った増加を行うことに許容的である。さらにその他の、完全な成熟肝細胞が見出される肝臓組織の領域に位置するマトリックス成分は、増殖停止および細胞の完全な分化を誘発する。
【0029】
全てのフィーダーは、複数のカテゴリーのマトリックス成分を生成し、それには基底接着分子(フィブロネクチンおよび/またはラミニン)および数種類のコラーゲンが含まれる。フィブロネクチンは、血管芽細胞または静止状態のhHpSTCに発現されなかったが、調査した他の全てのフィーダーにより発現されたマトリックス成分であることが分かった。それはヒト臍帯静脈内皮細胞(hUVEC)に最高レベルで産生されたが、HpSCはそれにうまく結合しない。
【0030】
そのため、マトリックス中のフィブロネクチンの存在は、フィーダーにより誘導される生物学的応答に無関係であるように思われる。自己複製を誘導したフィーダーは、III型コラーゲンおよびIV型コラーゲン、ラミニンならびにヒアルロナンを発現した(血管芽細胞、静止状態HpSTC、HUVEC細胞)。肝芽細胞への系統限定を誘導し、増加を継続したフィーダーは、IV型コラーゲンおよびラミニンを産生したが、III型コラーゲン、一部のヒアルロナン、および一部のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを産生しなかった(活性化されたHpSTCが十分に備わった初代培養、αSMAおよびCD146レベルの上昇により同定される)。最大の分化を誘導したフィーダーは、最大量のマトリックスを発現し、それには高レベルのI型およびIV型、ラミニン、フィブロネクチン、およびヘパラン硫酸プロテオグリカンが含まれた。
【0031】
コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CS−PG)タンパク質は、ヒト線維芽細胞様の、胎児肝臓由来細胞および骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)の両方において明らかであった。これらの2種類のフィーダーは、hHpSCの肝芽細胞への系統限定をもたらした。故に、CS−PGは、少なくとも部分的には、プロセシングする信号を送っている可能性がある。幹細胞ニッチは、ヒアルロナンなどの硫酸化が皆無かまたはそれに近いグリコサミノグリカン(GAG)が多数派を占め、これらの最小限に硫酸化されたCS−PGは、そのため、幹細胞へのシグナルの提示を最小化する障壁として機能することができたと仮定された。幹細胞がニッチから押出される時に、それらは一層広範囲に硫酸化したGAGおよびプロテオグリカンと接触し、増殖に関して、または様々な分化した細胞運命への系統限定に関して、幹細胞に影響を及ぼし得る増殖因子に結合する。
【0032】
最も広範囲な分化は、STOフィーダー細胞の上に蒔かれて培養されたhHpSCに観察され、そこではhHpSCは、増殖停止の状態となり、肝芽細胞および単能性前駆体(すなわちコミットされた胆管および肝細胞の前駆体)に分化した。STOフィーダーは最高レベルの細胞外基質タンパク質を産生し、HS−PGの産生において独特であった。
【0033】
I型コラーゲンが、最も広範囲な分化を誘導すると決定された。分化の程度は、細胞がI型コラーゲンゲルの上に蒔かれるか、またはその中に埋め込まれるかによって異なることが見出された。実際に、成熟肝細胞に形態的に類似する細胞は、コラーゲンの中に埋め込まれた培養に見出された(図10)。この現象は、I型コラーゲンの直接的な影響、およびまたI型コラーゲンによるHS−PGの安定化による間接的な影響の両方に起因する可能性がある。
【0034】
図11は、マトリックス成分およびマトリックス受容体において見出された、肝芽細胞を経て最終的に成熟実質細胞へのhHpSCの移行とともに起こる連続的変化を要約する。このように規定される本発明は、「フィーダーを含まない」培養においてHpSCの増殖を可能にすることができる。表2に、調べた様々なフィーダーにより産生される細胞外マトリックス成分の詳細が記載される。
【0035】
【表2】

【0036】
本発明の範囲は、いずれか1つのマトリックス成分、可溶性成分、またはその組合せに限定されるべきではない。本明細書における教示に沿って、本発明は、増加のためまたは分化のための、生体外での細胞の維持に利用することのできる基質および培地の生成における、ありとあらゆる可溶性成分および不溶性成分ならびにそれらの組合せの使用を記載し、教示する。これらの成分の多くは以下で考察するが、明確にするために、ラミニン、IV型コラーゲンおよび/またはIII型コラーゲンを、胚組織または幹細胞ニッチに見出されるか、豊富に見出される細胞外マトリックス成分の種類の単なる代表として考察する。
【0037】
胚マトリックス成分の非限定的な例としては、特定の種類のコラーゲンが挙げられ、それには、IV型コラーゲン(α1、α2、α3、α4、α5、α6をさらに含む)およびIII型コラーゲン、ラミニン(1、γ1、β2、α3、α5を含む)、ヒアルロナン、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(PG)またはそれらのグリコサミノグリカン鎖の形態、および、ヘパラン硫酸PGまたはそれらのグリコサミノグリカン鎖の形態(例えば、特定のシンデカン)が含まれる。成熟組織に見出されるマトリックス成分の非限定的な例としては、安定形態のコラーゲン(例えば、I型およびII型)、フィブロネクチンの形態;ヘパラン硫酸PG(例えば、アグリン、パールカン)、ヘパリンPG、デルマタンPG(例えば、軟骨関連のデルマタン硫酸PG)、およびエラスチンが挙げられる。
【0038】
不溶性因子に加えて、可溶性増殖因子および/または分化因子が、細胞増殖および/または分化の速度に影響を及ぼし得る。例えば、血清の添加により、肝前駆体の増殖を遅延させ、かつ肝細胞の運命に対して系統限定をもたらし、同時に、瘢痕組織形成に関連する間葉細胞集団(間質および内皮)の急速な増加をもたらすことができる。上皮増殖因子の添加により、肝細胞の運命に対して系統限定が引き起こされる。
【0039】
好ましくは、一部の実施形態では、本明細書に記載のマトリックス成分は、無血清培地と組み合わせて用いられる。無血清培地は、HpSCおよび肝芽細胞について既に開発されており、米国特許出願第09/678,953号に記載されている。その開示内容はその全文が本明細書の一部をなすものとする。
【0040】
本発明者らは、インターロイキン−11(IL−11)および白血病抑制因子(LIF)が、STOフィーダーの上でラット肝前駆体(rter6)細胞のコロニー形成を促進したことを見出した。IL−11およびLIFの両方は、IL−6サイトカインスーパーファミリーメンバーであるので、これらの知見は、IL−6サイトカインファミリーは肝前駆体細胞の増殖をインビトロで促進するという考えを支持する。EGFはラット肝芽細胞のコロニー形成を減少させたが、二倍体成体ラット肝細胞のコロニー形成を増加させ、肝細胞への系統限定および胆管上皮の阻害を伴った。その上、TGF−β1は、STOフィーダーの上で増殖した場合にrter6細胞のコロニー数および面積を増加させたが、プラスチック上でのHepG2細胞の増殖を阻害した。
【0041】
hHpSCとSTOフィーダー細胞の共培養は、大部分を占める炎症性シグナルおよび肝臓の増殖を刺激することが知られているいくつかの因子を含む、数種類のヒトおよびマウスのサイトカインのより高度な発現を誘導した。インターロイキン−4(IL−4)は、この共培養において劇的に上昇する炎症性サイトカインの1つである。これらおよびその他の可溶性因子は、本明細書においてさらに詳細に考察される。
【0042】
理論にとらわれ、または縛られるものではないが、本発明のマトリックス成分および可溶性成分は、一般にフィーダー細胞によりもたらされる生存シグナル、増殖シグナルおよび/または分化シグナルの多くを提供すると現在考えられる。よって、本発明は、かなりの部分で、肝前駆体の生存能力および増加可能性を維持するために、胚間質フィーダー細胞の必要性に取って代わることができる。
【0043】
本発明の実施例を、非限定的な例としてこれから説明する。
【実施例】
【0044】
[クボタ培地(KM)]
全ての培養物は、肝前駆体に合わせて作られた無血清培地(特に断りのない限り)である、KMに入れた。この培地は、例えば、2000年10月3日出願の米国特許出願第09/679,663号に記載されており、その開示内容は参照することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする。
【0045】
[細胞系の調達]
hMSCは、26歳の男性ドナーより入手した。hUVECは、Cam Patterson博士(ノースカロライナ大学、チャペルヒル、ノースカロライナ州)より入手した。ネズミ胚間質細胞のクローン(STO細胞)は、ATCCより入手したSTO細胞から作製した。
【0046】
[ヒト肝臓組織の調達]
在胎期間16〜20週のヒト胎児肝臓は、Advanced Biologial Resources(ABR、サンフランシスコ、カリフォルニア州)より入手した。
【0047】
[hHpSCの単離および培養]
ヒト胎児肝臓を、上に述べた通りに処理した。新しく単離した実質細胞を、KMおよび培養プラスチック中に入れるか、あるいは、hUVEC、hMSC、STO細胞の事前に蒔いたフィーダーの上、または5,000細胞/cmの密度で蒔いた、ヒト胎児肝臓由来細胞の初代培養の上に置いた。細胞をKM+2%FBS中に一晩置き、次いでそれをその後KMに交換した。プラスチック上およびKM中での培養は、血管芽細胞および活性化していないhHpSTC前駆体に取り囲まれたhHpSCのコロニーを生じた。
【0048】
[フィーダーの調製]
間葉系フィーダーの全てのストックを、培養プラスチック上で、および2%FBSを含む内皮増殖培地(EGM−2)(Cambrex、ウォーカーズビル、メリーランド州)中で培養した。これらの条件の唯一の例外は、hMSCおよび成人肝臓由来HpSTCであり、これらは下に記載される通りに増殖させた。全ての細胞をコンフルエンスまで増殖させ、マイトマイシン−Cで増殖を停止させ、次にhHpSCとの共培養で用いるKMに交換した。さらなる詳細は以下の通り。
・hMSCを、DMEM+1%抗生物質、アスコルビン酸、2mMのL−グルタミン、および10%FBSを含む組織培養ディッシュの上に蒔いた。
・成体ラット肝臓および成人ヒト肝臓由来のHpSTCの精製製剤は、YiWei Rong博士により調製された。フィーダーのストックをプラスチック上で、およびKM+5%FBS中で培養した。
・STO5フィーダーを、ATCCから得たSTO細胞からクローン化し、げっ歯類肝前駆体へのそれらの有効性をについて試験した。STO5の冷凍ストックを解凍し、5%ウシ胎児血清を加えたKM中で増殖させた。
・ヒト胎児肝臓由来間葉細胞の初代培養の作製のため、0.45mg/mlのIV型コラゲナーゼおよび0.3mg/mlのデオキシヌクレアーゼを用いて肝臓を酵素によって消化させ、次に機械的にクロススカルペルで分離させて単細胞懸濁液とした。過剰な酵素を洗浄除去した後、細胞を5分間の低速遠心分離(20Xg)に3回かけた。上清を回収し、セレン(10−9M)、1%抗生物質および0.1%BSAを加えたRPMI−1640中に再懸濁した。次に、培養プラスチック上、および10%FBSを添加したKM中に細胞を蒔いた。間葉細胞は数分から数時間のうちに付着し、高レベルのデスミン、CD146およびαSMAを有することによって認識できる活性化hHpSTCを含む間質系フィーダーに急速に移行した。
・KDR+細胞またはCD31+細胞を、磁気によって活性化された細胞選別(MACS)系により、モノクローナル抗ヒトKDRマウスIgG1(Cell Sciences、カントン、マサチューセッツ州)、磁気マイクロビーズに結合させたヤギ抗マウスIgGを用いて、または、磁気マイクロビーズに結合させたモノクローナル抗ヒトCD31マウスIgG1を用いて、胎児肝細胞懸濁液から単離した。KDR細胞およびCD31細胞のプレーティング密度は、20,000細胞/cmであった。
・間質細胞が枯渇したフィーダーを、線維芽細胞に関する陰性選択により、磁気マイクロビーズに結合させたモノクローナル抗ヒト線維芽細胞マウスIgG2aを製造業者(Miltenyi Biotec、オーバーン、カリフォルニア州)の取扱説明書に従って用いて調製した。線維芽細胞が枯渇した上清細胞のプレーティング密度は、500,000細胞/cmであった。
【0049】
[精製したマトリックス基質]
インビトロ培養のためのマトリックス基質の調製は、2006年11月15日出願の米国特許出願第11/560,049号に記載され、その開示内容は参照することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする。
【0050】
フィブロネクチン:フィブロネクチン(Sigma,F0895)をディッシュの上に0.5、1.0、または2μg/cmの濃度でコーティングし、次いでpH7.4に中和した。
【0051】
ラミニン:ラミニン(Sigma,L2020)をディッシュの上に0.52または1.0μg/cmの濃度でpH7.4にてコーティングした。
【0052】
III型コラーゲンおよびIV型コラーゲン:コラーゲンコーティングを、5種類の異なるタンパク質濃度(2.1、4.2、6.3、8.3、および10.4μg/cm)のうち1つの濃度でディッシュの上に調製した。酸性バッファー中のマトリックス成分をディッシュに加えた。このマトリックスを37℃および5%COにて10時間にわたって放置して付着させた。10時間後、ディッシュを紫外線照射により2時間滅菌し、次にPBSで3回すすいだ。III型コラーゲン(Sigma、C−3511)をpH3の酢酸を用いて形成し、IV型コラーゲン(Sigma、C−5533)を0.5M酢酸を用いて形成した。
【0053】
I型コラーゲン:Vitrogen 100(Cohesion Technologies、パロ・アルト、カリフォルニア州)を、特定の比率の10×DMEMおよび0.1MのNaOHを添加することにより液体I型コラーゲンに改質した。気泡はゲルを不安定にし得るので、気泡の形成を阻止した。このI型コラーゲンを、細胞の単層に、または2つのコラーゲン層の間に細胞を埋め込む「サンドイッチ」として使用した。
【0054】
I型コラーゲン上の細胞単層:液体I型コラーゲンを、6ウェルプレートの各ウェルに0.4mlを分配する前に4℃で維持した。コーティングの後、コラーゲンを37℃および5%COにて1時間ゲル化した。
【0055】
サンドイッチ(埋め込まれた細胞)モデル:細胞をコラーゲンの層の間にサンドイッチした。細胞の付着時間のための10時間後、付着しなかった細胞を除去し、第2の0.4mlのI型コラーゲン層を添加した。この系を放置して37℃および5%COにて1時間ゲル化させて最上層のコラーゲン層を凝固させた。
【0056】
[ヒト肝前駆体細胞およびヒト胎児肝臓由来フィーダー細胞に関する免疫組織化学]
培養の1〜2週間後、免疫染色のために細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した。使用した抗体は、以下の通りであった。FITC−結合抗ヒトvWFヒツジIgG(US Biologicals、スウォンプコット、マサチューセッツ州)、PE−結合抗ヒトCD56(NCAM)マウスIgG1、抗ヒトCD31マウスIgG1、PE−結合抗ヒトCD54(ICAM−1)マウスIgG1(BD、サンノゼ、カリフォルニア州)、抗ヒトαSMAマウスIgG2a、抗ヒトI型コラーゲンマウスIgG1、抗ヒトIII型コラーゲンマウスIgG1、抗ヒトラミニンマウスIgG1、抗コンドロイチン硫酸プロテオグリカンマウスIgM(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)、抗ヒトフィブロネクチンマウスIgG1(Oncogene Research Products、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)、ウサギ抗ヒトIV型コラーゲンIgG(Research Diagnostics Inc.、フランダース、ニュージャージ州)、ラット抗ヒトパールカンIgG2a(Lab Vision、フレモント、カリフォルニア州)、ウサギ抗ヒトAFP IgG(Zymed−Invitrogen、サウスサンフランシスコ、カリフォルニア州)、抗ヒトKDRマウスIgG1(Cell Sciences、カントン、メリーランド州)、Alexa Fluor488ヤギ抗ウサギIgG、Alexa Fluor568ヤギ抗ウサギIgG、Alexa Fluor568ヤギ抗マウスIgG1、およびAlexa Fluor488ヤギ抗マウスIgG2a(Molecular Probes−Invitrogen)、ユージーン、オレゴン州)。
【0057】
[定量的リアルタイムPCR]
全RNAをRNeasy(登録商標)Mini(Qiagen、バレンシア、カリフォルニア州)を用いて細胞から抽出した。抽出したRNAを、次にSuperScrIpt(登録商標)II RT(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州)を用いてcDNAに逆転写した。リアルタイム定量的PCRを下の表3に示される配列特異的なプライマーおよびプローブを用いて行い、ABI Prism 7000配列検出システム(Applied Biosystems、フォスターシティ、カリフォルニア州、米国)で解析した。各々の細胞種由来のリボソームRNA(18S)を内部標準として用いた。18Sに対するmRNAの発現レベルを決定し、2−ΔΔCT法を用いて倍率変化を計算した。使用したプライマーは下表の通りである。
【0058】
【表3】

【0059】
[hHpSCの「ネイティブ」フィーダー細胞]
新しく単離したhHpSCは、細胞が、血管芽細胞(VEGFR2+(低レベル)、CD31+、CD133/1+、CD117+)および静止状態のhHpSTC(低いCD146、デスミン、およびαSMA)(図1〜3)の存在下であった場合に、KM中の組織培養プラスチック上で生体外で生存した。hHpSCのコロニーは、外側の縁で相互に強固に結合しているが、培養ディッシュ自体には最小限しか付着していない細胞からなる。しかし、血管芽細胞の位置する場所であるコロニーの周囲では、hHpSCはディッシュに付着する。よって、付着は、間葉伴細胞(例えば、血管芽細胞)単独によるか、またはhHpSCと共同によってなされる。
【0060】
[「ネイティブ」フィーダーをモデル化するために使用したフィーダー細胞系およびフィーダー初代細胞]
初代培養かまたは細胞系のいずれかの、胚間葉細胞のいくつかの形態を「ネイティブ」フィーダー(例えば、血管芽細胞およびHpSTC)のモデルとして調製した。hHpSCを、KM中のこれらのフィーダー細胞で培養した。hHpSCの自発的分化を回避するためには血清への曝露を最小化することが必須であるが、間葉系フィーダーは生存のために血清由来の因子を必要とする。この技術的ハードルを克服するため、本発明者らは、培地、例えば、フィーダーとhHpSCの共培養を必要とするアッセイのためにKMなどの無血清培地に交換する前に、2%血清を添加したEGM−2中で、間葉系フィーダーのストックを増殖させた。
【0061】
無血清培地(図1〜3)中で維持する場合、hHpSTCは、低レベルのCD146、デスミン、およびαSMAを発現する静止状態であることが見出された。しかし、血清への曝露は、たとえ低い(1〜2%)レベルであっても、または5日間であっても、高レベルのCD146、デスミン、およびαSMAから明らかなように、hHpSTCの活性化をもたらした(図4)。また、血清への曝露により、胎児肝細胞の初代培養、または免疫選択された細胞(すなわち、本明細書中で以下に考察される、KDR+またはCD31+細胞)は、hHpSTCに分化する。
【0062】
試験したフィーダー細胞系は、次の通りであった。hMSC(図5A)、hUVEC(図5B)、および、ネズミ胚間質細胞(STO)(多くの場合、培養中でES細胞の維持に用いられる)。初代培養は、16〜20週齢ヒト胎児肝臓の細胞懸濁液から免疫選択により調製した。KDR(別名flk−1/VEGFR2)またはCD31(別名PECAM)を発現している細胞、あるいは、線維芽細胞に関する陰性選別で残り、それにより間質細胞を減少または排除する細胞を、MACSにより選択した。全肝臓は、それぞれ0.5%、および1%のKDR+細胞およびCD31+細胞を含んだ。これらの免疫選択された細胞集団をEGM−2培地中で培養した。
【0063】
免疫選択したKDR+細胞は培養中で急速に変化した。第1週に、細胞は形態学的に、および、抗原的に、血管芽細胞または内皮細胞として現れた(図3D)。しかし、第2週までに、培養においてHpSTCが多数を占めていた。実際に、培養は11日目にコンフルエントになり、大部分の細胞は、hHpSTCのマーカーであるαSMAに対して陽性であり、内皮細胞の細胞内マーカーであるvWFに対して陰性であった(図5Fおよび図5Hおよび図6Iおよび図6K)。たとえ細胞懸濁液を陰性に分画して、プレーティングの前に間質を排除したとしても、同じ現象が観察された(図5C〜EおよびG)。
【0064】
CD31+細胞は、培養の最初の5日間に丸石のような形態の細胞として現れ、vWF陽性であった。これは、この細胞が内皮細胞であることを示した。しかし、培養の5〜7日後、肝星状細胞(αSMAおよびデスミンを強く発現)がこのディッシュの多数を占め、9〜10日までに急速にコンフルエンシーに達した。この結果は、EGM−2が、内皮細胞に特異的に設計されているが、それにもかかわらずhHpSTCの増殖に許容的であることを実証する。
【0065】
[血管芽細胞またはhUVECのフィーダー上のhHpSCは幹細胞としてとどまる]
プラスチック培養上、および、血管芽細胞および静止状態のHpSTCに密接に関連しているKM中で、hHpSCを単離およびクローン性増加を行った結果、最小限に分化したhHpSCとしてとどまる細胞がもたらされた(図3)。hHpSCコロニーは、プレーティング後2週間で見ることができ、NCAM、EpCAM、アルブミン、CK19、およびCLDN−3に対して陽性であり、AFPに対して陰性である。KM中およびhUVECの上、またはKDR+選別直後のフィーダー細胞上で培養したhHpSCも、幹細胞としてのhHpSCを維持し(図7B)、抗原プロフィールはEpCAM+、NCAM+、ICAM−1−、AFP−、CLDN−3+であった。
【0066】
[活性化肝星状細胞系統のフィーダーで培養したhHpSCは肝芽細胞に限定される]
活性化hHpSTCで培養したhHpSCは、数時間以内にhHpSCの肝芽細胞への急速な移行を引き起こした(図4)。hHpSCはいずれかのhMSCで培養した。初代ヒト胎児肝臓間質細胞、線維芽細胞が枯渇した初代ヒト胎児肝臓間質細胞、初代KDR+細胞、または初代CD31+細胞も、1週間超後に培養中肝芽細胞に移行した。これらのフィーダーのいずれかとの共培養の8〜9日後、肝前駆体コロニーの形態は、毛細胆管と推定される空の管が散在する索状構造からなり(図7および8)、抗原プロフィールは肝芽細胞を示した(EpCAM+、NCAM−、ICAM−1+、AFP+)(図1)。さらに、肝芽細胞コロニーの形態は、より立体感があり、明視野で評価した場合にコロニーを屈折性にする(図7および8)。これはおそらく細胞の複数の層および/または細胞外マトリックスの蓄積に起因する。
【0067】
[STOフィーダーに播種したhHpSC]
最大の分化を生じるフィーダーモデル系はSTOフィーダーであることが判明した。これらのフィーダーに播種したhHpSCは、その増殖を大いに低下させ、次にコロニーの端部から肝芽細胞およびコミットされた前駆体を生じた。
【0068】
[フィーダーによるマトリックス分子の遺伝子発現]
3つのフィーダー細胞型を選択して、hHpSC表現型を維持するフィーダー(hUVEC細胞)、肝芽細胞への分化をもたらすフィーダー(ヒト胎児肝臓間葉細胞およびCD31+細胞の初代培養)、または、肝細胞経路の下方へのより高度な分化をもたらすフィーダー(1週間超培養した胎児肝臓由来内皮、両方ともhHpSTCが支配的な細胞集団である時点で検定した)を表した。リアルタイムPCRを用いて、フィブロネクチン分子のI型モジュールをコードするフィブロネクチンmRNAが、検定した3つのフィーダーの中で、特にhUVECにおいて最も多く発現されるマトリックス成分であることが見出された(図9)。hHpSC表現型の維持を支えるhUVECフィーダーは、IV型コラーゲン、ラミニン(α4、β1、およびγ1鎖)を産生し、コラーゲンI型およびIII型、上述のもの以外のラミニン鎖イソフォーム、またはプロテオグリカンコアタンパク質をほとんどまたは全く産生しなかった。肝芽細胞への系統限定を誘導したフィーダーは(ヒト胎児肝臓由来αSMA+線維芽細胞様細胞およびCD31+細胞)、I型コラーゲン、III型コラーゲンおよびIV型コラーゲン、ラミニン(β1、γ1)を産生したが、V型コラーゲン、その他のラミニン鎖または検定したプロテオグリカンコアタンパク質遺伝子のいずれか(グリピカン−3およびグリピカン−5ならびにシンデカン−1およびシンデカン−2)を産生しなかった。
【0069】
[フィーダーによるマトリックス分子のタンパク質発現]
免疫組織化学(IHC)を、7つの異なるマトリックス分子、すなわち、I型コラーゲン、III型コラーゲン、およびIV型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ならびにヘパラン硫酸プロテオグリカン(HS−PG)(すなわち、パールカンおよびシンデカン)およびコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CS−PG)についてフィーダーで行った。全てのフィーダーが細胞外マトリックス分子の混合物を産生したが、最低レベルの全マトリックス分子産生量は、血管芽細胞/内皮の初代培養に見出された。hHpSTCが培養選択されたhUVEC細胞系または初代培養がそれに続いた。最高レベルのマトリックス分子はSTO細胞により産生された。基底接着分子、フィブロネクチンは、全てのフィーダーにおいて見出され、最高レベルはSTO細胞に見出された。興味深いことに、III型コラーゲンはSTO細胞でのみ発現されることが見出されたが、RT−PCRによりIII型コラーゲンはその他のフィーダーで見出された。
【0070】
理論にとらわれる、または縛られるものではないが、インテグリンα4およびインテグリンβ6、IV型コラーゲン、CS−PGを含み、HS−PGを含まない、様々な形態のラミニンを含有する細胞外マトリックスで培養した場合、hHpSCはそれらの表現型を維持する。肝芽細胞への系統限定を誘導するマトリックスは、I型コラーゲン、III型コラーゲン、およびIV型コラーゲン、ラミニン(α4は含まず、β1イソフォームは上昇しなかった)、CS−PGのレベルが上昇し、HS−PGは上昇しなかった。最終的に、最も顕著な(すなわち肝芽細胞段階を超える)分化を誘導するマトリックスは、言及した全てのマトリックス成分も有するが、その他のフィーダーの間で観察されるよりも高いレベルを有していた。しかし、これらのマトリックスは、HS−PGSを含んでいる点で特有であった(図11)。
【0071】
[肝芽細胞と対比したhHpSCへの精製したマトリックス分子の影響]
hHpSCをKM中で培養し、5種類のマトリックス成分、すなわち、フィブロネクチン、ラミニン、およびI型コラーゲン、III型コラーゲン、またはIV型コラーゲンの各々でプラスチックディッシュをコーティングした。少数のhHpSC細胞がフィブロネクチンに付着し、付着しなかった細胞は増殖しなかった。hHpSCの系統は、ラミニンおよび/またはIV型コラーゲンで培養した場合、またはI型コラーゲンゲル表面に播種した場合に、肝芽細胞に限定された(図10)。I型コラーゲンの中に埋め込んだ場合、hHpSCは最も分化し、そのコロニーの形態および抗原プロフィールは成熟肝細胞のものに似ていた。
【0072】
門脈周囲帯内および肝臓の幹細胞ニッチの中のマトリックス成分は、成熟実質細胞に関連して見出されるマトリックス成分とは異なり、ヒト肝幹細胞/前駆体細胞の精製亜集団とは異なる生物学的応答を誘発する。これらの差異から、細胞応答を変更し、動的発現を活性化させる多様なシグナルがもたらされる可能性がある。別個の種類の細胞外マトリックス成分がインビボおよびインビトロで細胞活性をどのように誘導するのかを決定することにより、微小環境をインビトロで再現して、罹患組織の置換または再増殖のためにHpSC集団を増加および分化させることができる。
【0073】
基質タンパク質に加えて、フィーダー細胞は、HpSCの生存、増殖、および/または分化に不可欠の可溶性因子(例えば、サイトカイン、増殖因子)を提供すると考えられる。当該因子の非限定的な例を下に列挙する。
【0074】
【表4A】

【表4B】

【0075】
[ラット肝前駆体(rter6)細胞およびヒト肝芽腫(HepG2)細胞のコロニー形成への間葉細胞馴化培地の影響]
rter6は、プラスチックなどの不活性基質上、または細胞外マトリックスがコーティングされたプレート上でコロニーを効率的に生成することができないが、STOフィーダーの上に播種するとコロニーを生成することができる。したがって、実験を行って、rter6細胞がSTOフィーダーによる「馴化」培地中でいかに良く増殖することができたかを決定した。「馴化」培地を作製するため、フィーダーのストック(STO細胞またはヒト胎児肺線維芽細胞系(MRC5))を、血清補充培地中でコンフルエンスになるまで増殖させ、すすいで血清を除去し、次いで無血清のKMに交換した。これらの細胞はその無血清培地中でさらに48時間放置して増殖させ、従って細胞をフィーダーにより産生された因子に「馴化」させた。次に、この馴化培地を実験で使用した。
【0076】
10日間STOフィーダー細胞およびSTO馴化培地と共培養したrter6細胞のコロニー数は、KMと比較して2.39倍増加した(表4および5)。10日間MRC5フィーダー細胞およびSTO馴化培地と共培養した場合、rter6コロニーの数は、KMと比較して1.57倍増加した(表4および5)。無血清HDMでは、MRC5細胞は、STOフィーダーと比較して、より多くのrter6細胞のコロニー形成を促進するように思われた。STO馴化培地では、両方のフィーダー上のrter6細胞は、類似のコロニー形成能力を有した。
【0077】
【表5】

【0078】
【表6】

【0079】
ヒト肝芽腫(HepG2)細胞は、コーティングされていない組織培養プラスチック上でコロニーを形成することができる。4つの異なるフィーダー細胞型、すなわち、(1)STO細胞、(2)MRC5細胞、(3)不死化成人ヒト肝星状細胞(h−tert−HpSC)、および(4)初代ヒト胎児肝臓由来間質細胞からの無血清馴化培地を用いてHepG2細胞のコロニー形成を試験した。HDMと比較して、無血清STO馴化培地はHepG2細胞のコロニー形成を増加させたが、MRC5細胞、h−tert−HpSCまたは初代ヒト胎児肝臓由来間質細胞で馴化した無血清培地は、HepG2細胞コロニー形成を阻害した。
【0080】
[STO細胞、ヒト胎児肝細胞、および両方の共培養からの馴化培地についてのELISA]
23種類のヒトサイトカイン、17種類のマウスサイトカイン、および2種類の種特異的でないサイトカインの濃度を、STOフィーダー、ヒト胎児肝臓由来前駆体細胞、および両方の共培養で馴化した培地で試験した。ヒトサイトカインに関して、単独で培養したヒト胎児肝臓由来前駆体細胞と比較して、可溶性インターロイキン−1受容体α(IL−1Rα)、インターロイキン−1α(IL−1α)、IL−2、IL−4、IL−5、IL−10、IL−12、IL−13、マクロファージ化学遊走性タンパク質−2(MCP−2)、エオタキシン、可溶性腫瘍壊死因子受容体−2(sTNF−R2)の濃度の増加、および、正常T細胞が発現、およびおそらく分泌し、その活性化を制御する物質(RANTES)が、共培養で観察された(図12、表6)。共培養で濃度の低下したサイトカインは、インターロイキン−11(IL−11)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージ炎症性タンパク質−1α(MIP−1α)、MIP−1β、可溶性TNF受容体1(sTNF−R1)および肝細胞増殖因子(HGF)であった(図12、表6)。
【0081】
【表7】

【0082】
マウスサイトカインに関して、単独で培養したSTO細胞と比較して、共培養では、インターロイキン−2(IL−2)、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−11、IL−12、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エオタキシン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージ炎症性タンパク質−1α(MIP−1α)、インターフェロン−γ(IFN−γ)およびリポ多糖類誘導性CXCケモカイン(LIX)の濃度の増加が観察された(図13、表6)。共培養で試験したいずれのマウスサイトカイン濃度の有意な低下はなかった。
【0083】
種特異的でないサイトカインに関して、単独で培養したSTO細胞(10.2pg/ml)および単独で培養したヒト胎児肝臓由来前駆体細胞(22.3pg/ml)と比較して、共培養では、トランスフォーミング増殖因子−β1(TGF−β1)が増加した(532.3pg/ml)。
【0084】
ヒト肝幹細胞は、STOフィーダー細胞と共培養した場合、肝芽細胞に分化することが見出された。共培養中のヒトサイトカインおよびマウスサイトカインの合わせた濃度により、単独で培養したヒト胎児肝細胞と比較して、IL−4、IL−5、IL−10、CXCケモカイン(マウスケラチノサイト由来ケモカイン(KC)およびヒトIL−8、エオタキシン、MCP−IおよびRANTESが、タンパク質の濃度を劇的に増加させた(≧5倍および>50pg/ml)ことが明らかになった(表6)。
【0085】
[rter6細胞およびHepG2細胞のコロニー形成への可溶性サイトカインの影響]
カバーされていないサイトカインのうち、9種類を個別に無血清のホルモンによって規定された培地(HDM)に加え、試験した。培地に加えて、細胞をSTOフィーダー層上で増殖させ、10日間インキュベートした。白血病抑制因子(LIF、0.5ng/ml)、インターロイキン−11(IL−11、10ng/ml)、およびトランスフォーミング増殖因子−β1(TGF−β1、0.05ng/ml)は、対照と比較して、rter6細胞のコロニー数およびコロニー面積を増加させた(図14)。インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−13(IL−13)、肝細胞増殖因子(HGF)、増殖関連癌遺伝子−α(GRO−α)、マクロファージ炎症性タンパク質−1α(MIP−1α)および腫瘍壊死因子−α(TNF−α)は、rter6細胞のコロニー形成に対する影響が観察されなかった。
【0086】
数種類のサイトカインおよび候補刺激分子も個別にHDM馴化培地およびSTO馴化培地に加えて、HepG2細胞のコロニー形成へのそれらの影響を試験した。ヒドロコルチゾンは、対照と比較して、HDM馴化培地とSTO馴化培地の両方でコロニー形成を25%増加させた。インスリン様増殖因子−II(IGF−II)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−11(IL−11)、インターロイキン−13(IL−13)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、増殖関連癌遺伝子(GRO、CXCケモカイン)、ヒト増殖ホルモン、および高比重リポタンパク質(HDL)は、HepG2細胞のコロニー形成に対する影響が観察されなかった。トランスフォーミング増殖因子−β1(TGF−β1)は、HepG2細胞の増殖および生存を阻害した。上皮増殖因子(EGF)は、HepG2コロニー形成を有意に低下させ、細胞をコロニーから遊走させた。
【0087】
総合すると、本発明は、フィーダー細胞の不在下で、HpSCの生存、増殖、および/または制御された分化を可能にする。以下の表7には、インビトロおよび生体外でHpSCを増殖させるための「フィーダーを含まない」条件の非限定的な例が列挙される。全ての実施例には、インビボで肝臓の幹細胞ニッチに遍在するヒアルロナンが含まれる。現時点ではヒアルロナンがHpSCを増殖する効率を増強すると考えられる。しかし、これらの実施例はインビトロでHpSCを培養する際にヒアルロナンの存在を必要とするように解釈されるべきではない。例えば、2007年3月7日出願の米国特許仮出願第60/893,277号を参照されたい。その開示内容は参照することによりその全文が本明細書の一部をなすものとする。
【0088】
【表8】

【0089】
このように、移植された細胞は臓器全体の一斉置換を未然に防ぐ。さらに、バイオリアクターなどのインビトロの装置に適切な細胞外マトリックスおよび可溶性シグナル伝達環境に覆われた肝前駆体を播種して、それらが生存可能な組織構造で、装置のサブコンパートメントに定植することができるようにすることができる。このように、バイオ人工装置は、薬理学研究のため、ワクチン開発のために、そして臓器不全と臓器移植との間の架け橋として利用することができる。実際に、これらの調査から得られた結果は、これらの細胞を利用することが、細胞療法とバイオリアクター装置治療の両方の選択肢を現在狭めている細胞調達の制限を改善するための手段であり得ることを示唆する。
【0090】
本発明を、その具体的な実施形態に関連して説明したが、さらなる修正形態が可能であり、本出願が以下の本発明のあらゆる変更形態、使用、または代替法を網羅することを意図することは当然理解されたい。一般に、本発明の原理は、本発明の属する技術分野内の公知または慣行の範囲内であり、上述の本質的な特徴に当てはめることができ、添付される特許請求の範囲に従う本開示からの逸脱を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝幹細胞をインビトロでそれらの分化を誘導せずに増殖させる方法であって、無血清培地中、ならびに、ヒアルロナン、その他の硫酸化されていないグリコサミノグリカン(GAG)または硫酸化の不完全なグリコサミノグリカン、硫酸化されていないプロテオグリカンまたは硫酸化の不完全なプロテオグリカン、胚性コラーゲンおよび胚性基底接着分子、ならびにそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分の層上で、単離した肝幹細胞集団を培養するステップを含み、
前記層が成熟したコラーゲンを本質的に含まず、前記培養が前記肝幹細胞をそれらの分化を誘導せずに増殖させる方法。
【請求項2】
前記マトリックス成分のいずれかまたは全てが、血管芽細胞フィーダー細胞、静止状態の肝星状フィーダー細胞、HUVECフィーダー細胞、またはそれらの組合せにより供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記胚性コラーゲンが、III型コラーゲンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記成熟コラーゲンが、I型コラーゲンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基底接着分子が、胎児組織に主に見出されるラミニンのイソフォームを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ヒアルロナン以外の前記GAGが、コンドロイチン硫酸の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プロテオグリカンが、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CS−PG)の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記肝幹細胞が、胎児、新生児、小児または成人の肝臓から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記肝臓が、ヒト肝臓である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ラミニンが、約0.1〜約2μg/cmの濃度である、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記ラミニンが、約1μg/cmの濃度である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
III型コラーゲンまたはIV型コラーゲンが、個々に約0.1〜約15μg/cmの濃度である、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
前記層が、ヒアルロナンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
肝幹細胞をインビトロで肝芽細胞に分化させる方法であって、無血清培地中、ならびに、胚性コラーゲン、基底接着分子、CS−PG、およびそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分の層上で、単離した肝幹細胞集団を培養するステップを含み、
前記層が成熟したコラーゲンを本質的に含まず、前記培養が肝幹細胞をそれらの分化を誘導せずに増殖させる方法。
【請求項15】
前記マトリックス成分のいずれかまたは全てが、活性化した内皮細胞、活性化肝星状フィーダー細胞、またはその両方により供給される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記胚性コラーゲンが、IV型コラーゲンである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記基底接着分子が、ラミニンの胎児イソフォームを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記層が、ヒアルロナンをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記肝幹細胞が、胎児、新生児、小児または成人の肝臓から得られる、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記肝臓が、ヒト肝臓である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
肝幹細胞または肝芽細胞を、コミットされた肝細胞または胆管前駆体およびそれらの後代にインビトロで分化させる方法であって、無血清培地中、ならびに、硫酸化プロテオグリカン、成熟コラーゲン、フィブロネクチン、およびそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分の層上で、単離した肝幹細胞集団を培養するステップを含み、
前記培養が前記肝幹細胞または肝芽細胞のコミットされた肝前駆体または胆管前駆体およびそれらの後代への分化を誘導する方法。
【請求項22】
前記マトリックス成分のいずれかまたは全てが、間質フィーダー細胞、活性化肝星状フィーダー細胞、筋線維芽細胞フィーダー細胞、またはそれらの組合せにより供給される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記成熟コラーゲンがI型コラーゲンである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記層がヒアルロナンを実質的に含まない、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記肝幹細胞が、胎児、新生児、小児または成人の肝臓から得られる、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記肝臓が、ヒト肝臓である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記硫酸化プロテオグリカンが、ヘパラン硫酸−PGまたはヘパリン−PG、あるいはその両方である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
肝前駆体の増殖のための容器であって、
(a)容器と、
(b)ヒアルロナン、その他の硫酸化されていないグリコサミノグリカン(GAG)または硫酸化の不完全なグリコサミノグリカン、硫酸化されていないプロテオグリカンまたは硫酸化の不完全なプロテオグリカン、胚性コラーゲン、および胚性基底接着分子、ならびにそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分の層と
を含み、
前記層が、成熟したコラーゲンを本質的に含まず、
前記マトリックス成分の層が、前記容器の少なくとも1つの表面を実質的に覆っている容器。
【請求項29】
前記容器が、組織培養プレート、バイオリアクター、ラボセル、またはラボチップである、請求項1に記載の容器。
【請求項30】
肝前駆体の増殖のための容器であって、
(a)容器と、
(b)胚性コラーゲン、基底接着分子、CS−PG、およびそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分の層と
を含み、
前記層が、成熟したコラーゲンを本質的に含まず、
前記マトリックス成分の層が、前記容器の少なくとも1つの表面を実質的に覆っている容器。
【請求項31】
肝前駆体の増殖のための容器であって、
(a)容器と、
(b)硫酸化プロテオグリカン、成熟コラーゲン、フィブロネクチン、およびそれらの組合せからなる群から選択されるマトリックス成分の層と
を含み、
前記マトリックス成分の層が、前記容器の少なくとも1つの表面を実質的に覆っている容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−529855(P2010−529855A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512194(P2010−512194)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/007397
【国際公開番号】WO2008/156667
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(500459410)ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル (16)
【Fターム(参考)】