説明

間葉系幹細胞の培養方法および生体組織補填体の製造方法

【課題】 移植される生体組織前駆細胞中に含有される血清量を低減しながら、十分な増殖を図り、かつ、生体組織前駆細胞に効率的に分化させる。
【解決手段】 血清を含有する培地内で間葉系幹細胞を増殖させる第1の培養ステップと、該第1の培養ステップにおける培地よりも血清の濃度の低い培地内で間葉系幹細胞を生体組織前駆細胞に分化させる第2の培養ステップとを備える間葉系幹細胞の培養方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、間葉系幹細胞の培養方法および生体組織補填体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨髄液等に含まれている間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪等に分化可能な多分化能を有しているため、細胞治療や再生医療の細胞ソースとして注目を集めている。しかしながら、骨髄液等に含まれている間葉系幹細胞はごく微量であるため、臨床治療に用いる場合には、骨髄液内から集めた間葉系幹細胞を短期間で大量に増殖させることが重要である。
【0003】
従来、間葉系幹細胞を効率よく増殖させる方法として、例えば、特許文献1および特許文献2に開示されている方法が知られている。
これらの方法は、間葉系幹細胞の増殖能刺激物質として繊維芽細胞増殖因子を培地に添加するものである。
また、間葉系幹細胞を培養する場合に用いられる培地には、牛胎児血清あるいはヒト血清が用いられるのが一般的である。
【特許文献1】国際公開第WO02/22788A1号公報
【特許文献2】国際公開第WO01/48147A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、牛胎児血清がヒトの体に移植される生体組織前駆細胞中に含まれることは好ましくなく、また、患者の採血量の観点から、十分な量のヒト血清を使用することが制限される場合も多い。その一方で、患者から採取した微量の間葉系幹細胞を十分な細胞数まで増殖させるには、培地内における牛胎児血清あるいはヒト血清の使用は必要不可欠である。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、生体に移植される生体組織前駆細胞中に含有される血清量を低減しながら、十分な増殖を図り、かつ、生体組織前駆細胞に効率的に分化させることのできる間葉系幹細胞の培養方法および生体組織補填体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明は、血清を含有する培地内で間葉系幹細胞を増殖させる第1の培養ステップと、該第1の培養ステップにおける培地よりも血清の濃度の低い培地内で間葉系幹細胞を生体組織前駆細胞に分化させる第2の培養ステップとを備える間葉系幹細胞の培養方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、第1の培養ステップにおいて、血清を含む培地内において、血清の作用により間葉系幹細胞が必要細胞数まで増殖させられた後に、第2のステップにおいて、血清の濃度の低い培地内において生体組織前駆細胞への分化が行われる。
発明者は、研究の結果、間葉系幹細胞の生体組織前駆細胞への分化段階においては、むしろ血清が存在しない方が効率的な分化を行うことができることを見いだした。したがって、間葉系幹細胞が必要細胞数まで増殖した後には、培地として血清濃度の低いものを採用することにより、従来行われていたような増殖時と同様の濃度の血清を含む培地を用いて培養するよりも、間葉系幹細胞を効率的に生体組織前駆細胞に分化させることができる。
【0008】
上記発明においては、第2の培養ステップにおける培地内の血清の濃度がほぼゼロであることが好ましい。
このようにすることで、第2の培養ステップにおいて、血清の影響をなくすことができ、生体組織前駆細胞への分化をさらに効率的に行うことができる。
【0009】
また、上記発明においては、第2の培養ステップにおける培地内の血清の濃度がゼロより大きいこととしてもよい。
このようにすることで、第2の培養ステップにおいて、血清の影響を残すことができる。その結果、生体組織前駆細胞への分化の効率が濃度ゼロの場合よりも若干低下することとなるが、その分、血清の作用により間葉系幹細胞の増殖を継続させることができる。したがって、継続的に生体組織前駆細胞を供給し続ける用途においては、間葉系幹細胞を増殖させつつ、生体組織前駆細胞への分化を行わせることができるので、効果的である。
【0010】
上記発明においては、前記血清が牛胎児血清であることとしてもよく、また、前記血清がヒト血清であることとしてもよい。
牛胎児血清を使用する場合に、第2の培養ステップにおける培地内の血清濃度をゼロにすることにより、生体に移植される生体組織前駆細胞内に牛胎児血清が含まれることを防止できる。
また、ヒト血清を使用する場合に、第2の培養ステップにおける培地内の血清濃度を少なくすることにより、患者からの血清の採取量を低減し、患者に係る負担を低減できる。
【0011】
また、本発明は、上記いずれかの間葉系幹細胞の培養方法の第2の培養ステップにおいて、間葉系幹細胞を生体適合性の材料からなる生体組織補填材に播種して培養する生体組織補填体の製造方法を提供する。
本発明によれば、血清の含有濃度を低減した生体組織補填体を製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生体に移植される生体組織前駆細胞中に含有される血清量を低減しながら、十分な増殖を図り、かつ、生体組織前駆細胞に効率的に分化させることのできるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の第1の実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法について説明する。
本実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法は、第1の培養ステップと第2の培養ステップとから構成され、患者から採取した間葉系幹細胞を培養して、生体組織前駆細胞、例えば、骨芽細胞に分化させる方法である。
【0014】
第1の培養ステップは、牛胎児血清を含有する第1の培地内に間葉系幹細胞を投入し、所定の培養条件下で培養することにより、間葉系幹細胞を必要細胞数まで増殖させるステップである。
第2の培養ステップは、牛胎児血清を含有しない第2の培地内に、第1の培養ステップで培養した間葉系幹細胞を投入し、骨芽細胞に分化させるステップである。
【0015】
本実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法によれば、牛胎児血清を含有する第1の培地内における第1の培養ステップにおいて、間葉系幹細胞が牛胎児血清の作用により、効率的に増殖させられて、早期に必要細胞数まで到達させることができる。その後、牛胎児血清を含有しない第2の培地内における第2の培養ステップにおいて、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化が牛胎児血清によって阻害されることなく効率的に行われることになる。
【0016】
また、第1の培養ステップにおいて増殖させられた間葉系幹細胞は、洗浄により培地を除去され、トリプシン等の蛋白質分解酵素により培養容器から剥離された後に遠心分離されて集められ、第2の培地内に投入される。したがって、第2の培地内に投入される際に間葉系幹細胞に付着していた第1の培地内の牛胎児血清は取り除かれており、第2の培養ステップにおいては、牛胎児血清が存在しない第2の培地内において間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化が効率的に行われることになる。
【0017】
その結果、第2の培養ステップを経て得られる骨芽細胞には牛胎児血清が付着しておらず、そのまま患者の体内に移植することができる。
なお、本実施形態においては、第2の培地内の牛胎児血清の濃度をゼロに設定したが、これに代えて、第1の培地内の牛胎児血清濃度よりも低くゼロより大きい濃度の範囲内において牛胎児血清を含んでいる場合においても、骨芽細胞への分化誘導を促進できる効果があるとともに、患者に移植される骨芽細胞内の牛胎児血清濃度を低減できる効果がある。
【0018】
次に、本実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法の一実施例について説明する。
本実施例においては、第1の培地は、初代培養用培地および第1回目培地交換用培地として、DMEM(Dulbecco's Modified
Eagle Medium)、10%FBS(Fetal
Bovine Serum )、OBbFGF(10ng/mL)、OBVC(50μg/mL)、OBDex(10nM)、gentamicin(50μg/mL)およびamphotercinB(0.25μg/mL)からなる培地(以下、VFD培地と略す。)を用い、第2回目以降の培地交換用培地および継代用培地として、DMEM、10%FBS、OBbFGF(10ng/mL)、OBVC(50μg/mL)、gentamicin(50μg/mL)およびamphotercinB(0.25μg/mL)からなる培地(以下、VF培地と略す。)を用いた。
【0019】
第2の培地としては、DMEM、OBVC(50μg/mL)、OBDex(10−7M)、OBGP(10mM)、gentamicin(50μg/mL)およびamphotercinB(0.25μg/mL)からなる培地(以下、FBS0%OS培地と略す。)を用いた。
なお、比較例として、DMEM、10%FBS、OBVC(50μg/mL)、OBDex(10−7M)、OBGP(10mM)、gentamicin(50μg/mL)およびamphotercinB(0.25μg/mL)からなる培地(以下、FBS10%OS培地と略す。)を用いた場合について検討した。
【0020】
第1の培養ステップは、以下の要領で行った。
1. 患者から採取した骨髄液を遠心分離機(1500rpm、5分間)を用いて遠心分離し、上清を除去する。
2. ピペットで骨髄溶液をよく混合して、150mLストレージボトルに移し、VFD培地を加えて120mLにする。
3. ピペッティングにより攪拌し、15mLずつ8枚の75cmフラスコに分注し、フラスコの蓋を閉める。
4. フラスコを37℃に設定したCOインキュベータに入れて3〜4日間培養する。
5. 各フラスコ中の培地を10.5mL(70%)取り除き、新たなVFD培地10.5mLを加えることで第1回目の培地交換を行う。
6. フラスコを37℃に設定したCOインキュベータに入れて3〜4日間培養する。
7. 各フラスコ中の培地を15mL(全量)取り除き、新鮮なVF培地15mLを加えることで第2回目の培地交換を行う。
8. フラスコを37℃に設定したCOインキュベータに入れて3〜4日間行う培養と、培地交換とを繰り返す。
【0021】
第1の培養ステップにおいて必要細胞数が得られた時点で第2の培養ステップを行う。
第2の培養ステップは、以下の要領で行った。
1. 第1の培養ステップにおいて得られた間葉系幹細胞は、フラスコ内の培地を取り除き、洗浄した後に、トリプシン溶液によって剥離し、遠心分離によって回収する。その後、第2の培地に投入して細胞懸濁液を作成する。
2. 12wellプレートに、培地量2mL/well、播種密度1×10cells/cmとなるように播種する。
3. 37℃に設定したCOインキュベータに入れて培養し、3〜4日ごとに培地交換を行う。
【0022】
この場合において、間葉系幹細胞の接着後における牛胎児血清の影響を観察するために、FBS0%OS培地を用いる第2の培養ステップにおいては、培養初期に4時間程度、FBS10%OS培地を用いて、間葉系幹細胞を接着させてから、FBS0%OS培地に切り替える場合と、第2の培養ステップの最初はFBS10%OS培地を用い、培養7日目にFBS0%OS培地に切り替える場合の2つの場合について検討した。
また、比較例としては、第2の培養ステップの最初からFBS10%OS培地を用い続ける従来の場合を例示した。
【0023】
分析は、ALP活性測定、DNA濃度測定およびカルシウム濃度測定により行った。
ALP活性測定は、以下の要領で行った。
1. 得られた細胞を生理食塩水で3回洗浄する。
2. 0.2%Tritonを400μL/wellで添加する。
3. セルスクレーパで細胞を剥離する。
4. 全細胞を回収する。
5. ホモジナイザで細胞を破砕する。
6. 遠心分離を行い(8000rpm、5分)、上清をサンプルとする。
7. ALP活性測定キット(ラボアッセイALP:和光純薬工業製)を用いて、ALP活性を測定する。
【0024】
DNA濃度測定は、以下の要領で行った。
1. 得られた細胞を生理食塩水で3回洗浄する。
2. 0.2%Tritonを400μL/wellで添加する。
3. セルスクレーパで細胞を剥離する。
4. 全細胞を回収する。
5. ホモジナイザで細胞を破砕する。
6. 遠心分離を行い(8000rpm、5分)、上清をサンプルとする。
7. DNA濃度測定キット(Fluorescent DNA Quantitiation Kit:BIO RAD社製)を用いて、DNA濃度を測定する。
【0025】
カルシウム濃度測定は、以下の要領で行った。
1. 得られた細胞を生理食塩水で3回洗浄する。
2. 0.2%Tritonを400μL/wellで添加し、室温で180分間抽出する。
3. 各サンプルを回収し、カルシウム濃度測定キット(カルシウムC−テストワコー:和光純薬工業製)を用いて、カルシウム濃度を測定する。
【0026】
図1にALP活性測定結果を示す。
これによれば、第2の培養ステップの最初からFBS10%OS培地を用いた場合には、FBS10%OS培地のまま培養し続けた場合および開始後7日目にFBS0%OS培地に切り替えた場合のいずれもが、同等のパターンでALP活性が変化していることがわかる。一方、第2の培養ステップの最初からFBS0%OS培地を用いた場合には、全体的にALP活性が低いことがわかる。
【0027】
図2にカルシウム濃度測定結果を示す。
これによれば、第2の培養ステップの最初からFBS10%OS培地を用い、FBS10%OS培地のまま培養し続ける従来の培養方法の場合には、培養時間の経過とともにカルシウム蓄積量が飽和していることがわかる。一方、第2の培養ステップの開始後7日目にFBS10%OS培地からFBS0%OS培地に切り替えた場合、および、第2の培養ステップの最初からFBS0%OS培地を用いた本実施形態の場合のいずれもが、特に培養期間の経過とともに、従来の培養方法よりも、カルシウム蓄積量が大幅に増加していることがわかる。
【0028】
図3にDNA濃度測定結果を示す。
これによれば、第2の培養ステップの最初からFBS10%OS培地を用いた場合には、FBS10%OS培地のまま培養し続けた場合および開始後7日目にFBS0%OS培地に切り替えた場合のいずれもが、同等のパターンでDNA濃度が変化していることがわかる。一方、第2の培養ステップの最初からFBS0%OS培地を用いた場合には、全体的にDNA濃度が低いことがわかる。
【0029】
DNA濃度測定結果により、牛胎児血清の使用条件によって細胞増殖速度が異なっていることがわかったので、ALP活性とカルシウム蓄積量について正確な比較を行うために、図1のALP活性と図2のカルシウム濃度測定結果を図3のDNA濃度測定結果で割ることにより、細胞1個当たりのALP活性とカルシウム蓄積量を求め、それぞれ図4および図5に示した。
【0030】
図4に示すように、DNA濃度で補正したALP活性によれば、第2の培養ステップの最初からFBS0%OS培地を用いた場合、および培養7日目からFBS0%OS培地に切り替えた場合のいずれもが、従来のFBS10%OS培地を用いた場合と比較して、ALP活性が11日目まで同じ傾向で増加している。また、DNA濃度で補正したALP活性は、その後、牛胎児血清の条件によって変化している。
図1に比べ、DNA濃度で補正したFBS0%OS培地のALP活性が高くなり、11日目まで他の条件と同じであった。11日目以降、他の条件よりALP活性が低いものの、一定レベルに維持された。これが次のカルシウム蓄積(石灰化)に寄与していると考えられる。
【0031】
図5にDNA濃度で補正したカルシウム濃度を示す。
これによれば、第2の培養ステップにおいて、最初からFBS0%OS培地を用いた場合、および開始7日目からFBS0%OS培地に切り替えた場合のいずれもが、従来のFBS10%OS培地による培養方法と比較して、培養時間の経過とともに、細胞1個当たりのカルシウム蓄積量が大幅に増大していることがわかる。
【0032】
以上の結果から、間葉系幹細胞を骨芽細胞に分化誘導する際に、牛血清培地を含有しない無血清培地に切り替えることにより、牛血清培地を使用し続ける従来の培養方法と同等以上の骨芽細胞を効率的に得ることができる。しかも、得られた骨芽細胞における牛血清培地の含有量が低減されるので好ましい。特に、培養時間が長時間になるほど、多くの骨芽細胞を得ることができる。
【0033】
したがって、第2の培養ステップにおいて、間葉系幹細胞を生体適合性の材料、例えば、βリン酸三カルシウム多孔体等のリン酸カルシウム多孔体からなる生体組織補填材に播種して培養する培養骨の製造方法によれば、牛血清培地を含まない培養骨を効率的に製造することができる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法について説明する。
本実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法は、ヒト自己血清を使用したケースを想定したものである。第1の実施形態では牛胎児血清を使用したため、牛胎児血清を取り除く目的で第2の培養ステップにおいて牛胎児血清濃度をゼロに切り替える方策をとった。しかし、ヒト自己血清を使用した場合、その濃度をゼロにする必要はない。逆に、血清が存在した方が細胞増殖に効果があるという観点から、血清を残した方がよいと考えられた。そこで、どのくらい血清があれば、細胞の増殖と分化に影響を及ぼさないかを検討した。
【0035】
本実施形態に係る間葉系幹細胞の培養法法によれば、10〜15%ヒト自己血清を含有する第1の培地内における第1の培養ステップにおいて、間葉系幹細胞が高濃度の自己血清により効率的に増殖させられる。その結果間葉系幹細胞を早期に必要細胞数まで到達させることができる。その後、低濃度の自己血清を含有する第2の培地内における第2の培養ステップにおいて、間葉系幹細胞の細胞数を維持しながら骨芽細胞への分化を行うことになる。
【0036】
また、第1の培養ステップにおいて増殖させられた間葉系幹細胞は、洗浄により培地を除去され、トリプシン等の蛋白質分解酵素により培養容器から剥離された後に遠心分離されて集められ、第2の培地内に投入される。第2の培養ステップにおいては、ヒト血清濃度が低い第2の培地内において間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化が効率的に行われることになる。
【0037】
その結果、第2の培養ステップにおいて使用するヒト血清の採取量を削減することができ、患者に係る負担を低減できるという利点がある。
また、本実施形態においては、第2の培地内のヒト血清濃度をゼロより大きい濃度の範囲内で第1の培地内のヒト血清濃度よりも低くすることとしたため、最終的に患者に移植される骨芽細胞にヒト血清が含有されることとなるが、間葉系幹細胞のソースである患者と同一人から採取したヒト血清を用いるので何ら問題はない。
【0038】
逆に、ヒト血清濃度がゼロとならない範囲で第2の培地内に含有されていた方がよい場合もある。すなわち、第2の培養ステップにおいて間葉系幹細胞を完全に骨芽細胞に分化させるのではなく、一部の間葉系幹細胞を増殖させつつ、他の一部の間葉系幹細胞を骨芽細胞に分化させることで、骨芽細胞を継続的に提供し続けることが可能となる。したがって、骨芽細胞を継続的に提供し続けることが必要な用途においては、ヒト血清濃度がゼロとならない範囲で第2の培地内に含有されていることが好ましい。
【0039】
次に、本実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法の一実施例について説明する。
本実施例においては、2種類の間葉系幹細胞A,Bを用いる。
第1の培地は、第1の実施形態における第1の培地中の10%FBSの代わりに15%ヒト自己血清を用いたものと同じである。
【0040】
第2の培地としては、DMEM、5%ヒト血清、OBVC(50μg/mL)、OBDex(10−7M)、OBGP(10mM)、gentamicin(50μg/mL)およびamphotercinB(0.25μg/mL)からなる培地(以下、HS5%OS培地と略す。)と、ヒト血清の濃度を10%としたHS10%OS培地の2種類を用意した。また、比較例としてヒト血清の濃度を15%とした従来のHS15%OS培地を用意した。
【0041】
第1の培養ステップ、第2の培養ステップは、第1の実施形態と同様である。
ただし、第2の培養ステップにおいては、異なる濃度のヒト自己血清の3種類の第2の培地を継続して使用した。
ALP活性測定方法、カルシウム濃度測定方法およびDNA濃度測定方法はいずれも上述した通りである。
【0042】
図6、図8および図10に、間葉系幹細胞AのALP活性測定結果、カルシウム濃度測定結果およびDNA濃度測定結果を示す。また、図7、図9および図11に間葉系幹細胞BのALP活性測定結果、カルシウム濃度測定結果およびDNA濃度測定結果を示す。
これらの図6〜図11によれば第2の培地中のヒト血清濃度の大小にかかわらず、いずれの間葉系幹細胞A,Bの場合にも、ほぼ同様なALP活性、カルシウム濃度およびDNA濃度の傾向を示すことがわかった。
【0043】
すなわち、間葉系幹細胞を増殖させる第1の培養ステップにおいては、比較的高い濃度のヒト血清が必要であり、従来は、第2の培養ステップにおいても同様の濃度のヒト血清を含有する培地を用いていたが、本実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法によれば、より少ない量のヒト血清を用いて、従来と同等の骨芽細胞を得ることができる。したがって、患者から採取するヒト血清の採取量を低く抑えて患者の負担を大幅に低減しつつ、従来と同等の骨芽細胞を得ることができるという効果がある。
【0044】
また、本実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法を用いて培養骨を製造する場合においても、上記と同様に、少ないヒト血清で従来と同等の培養骨を効率的に製造することができる。
【0045】
なお、上記各実施形態においては、第2の培養ステップにおいて間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化誘導する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、他の任意の生体組織前駆細胞への分化誘導に適用することにしてもよい。同様に、生体組織補填体としては培養骨に限定されるものではなく、他の任意の生体組織補填体の製造に適用することができる。
【0046】
また、上記実施形態においては、ヒト血清の濃度をゼロより大きい濃度の範囲で低減する場合について説明したが、これに代えて、第2の培地内のヒト血清濃度をゼロにしても、所定の効果を得ることができることが予想される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法の実施例におけるALP活性測定結果を示すグラフである。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法の実施例におけるカルシウム濃度測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法の実施例におけるDNA濃度測定結果を示すグラフである。
【図4】図1のALP活性を図3のDNA濃度により補正したDNA当たりのALP活性を示すグラフである。
【図5】図2のカルシウム濃度測定結果を図3のDNA濃度測定結果を用いて補正した細胞1個当たりのカルシウム濃度測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法の実施例におけるALP活性測定結果を示すグラフである。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る他の間葉系幹細胞の培養方法の実施例におけるALP活性測定結果を示すグラフである。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法の実施例におけるカルシウム濃度測定結果を示すグラフである。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る他の間葉系幹細胞の培養方法の実施例におけるカルシウム濃度測定結果を示すグラフである。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る間葉系幹細胞の培養方法の実施例におけるDNA濃度測定結果を示すグラフである。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る他の間葉系幹細胞の培養方法の実施例におけるDNA濃度測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清を含有する培地内で間葉系幹細胞を増殖させる第1の培養ステップと、
該第1の培養ステップにおける培地よりも血清の濃度の低い培地内で間葉系幹細胞を生体組織前駆細胞に分化させる第2の培養ステップとを備える間葉系幹細胞の培養方法。
【請求項2】
第2の培養ステップにおける培地内の血清の濃度がほぼゼロである請求項1に記載の間葉系幹細胞の培養方法。
【請求項3】
第2の培養ステップにおける培地内の血清の濃度がゼロより大きい請求項1に記載の間葉系幹細胞の培養方法。
【請求項4】
前記血清が、牛胎児血清である請求項2に記載の間葉系幹細胞の培養方法。
【請求項5】
前記血清が、ヒト血清である請求項1から請求項3のいずれかに記載の間葉系幹細胞の培養方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の間葉系幹細胞の培養方法の第2の培養ステップにおいて、間葉系幹細胞を生体適合性の材料からなる生体組織補填材に播種して培養する生体組織補填体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−311814(P2006−311814A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135780(P2005−135780)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】