説明

関節リウマチ治療剤

【課題】TCTA蛋白由来のペプチドの更なる機能を解明し、前記ペプチドの新規用途を提供すること。
【解決手段】配列番号1〜5のいずれかに記載のペプチドを含む関節リウマチ治療剤又は関節リウマチ滑膜細胞増殖抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のペプチドを含有する関節リウマチ治療剤及び関節リウマチ滑膜細胞の増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、従前、関節リウマチ滑膜からヒト破骨細胞分化を促進あるいは抑制する新規因子の同定を目的として実験を行い、T cell leukemia translocation-associated gene (T細胞性白血病転座関連遺伝子、TCTA) タンパク由来の新規ペプチドがヒト破骨細胞分化を抑制することを見出した(特許文献1、非特許文献1)。
このTCTA遺伝子は肺小細胞癌で一部欠損が報告されているが(非特許文献2)、TCTA蛋白の機能は本発明者らが見いだした上記機能以外不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−148566号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kotake S et al., Bone. 2009; 45: 627-639.
【非特許文献2】Aplan PD et al., Cancer Res. 1995; 55:1917-21.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、TCTA蛋白由来のペプチドの更なる機能を解明し、前記ペプチドの新規用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、TCTA蛋白の29merペプチドが関節リウマチ滑膜細胞の増殖を抑制することを見出した。本発明は係る知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、以下の(I) 〜 (VI)からなる群から選ばれるペプチドを含む関節リウマチ治療剤を提供する。

(I) Gly Gln Asn

(II) Gly Gln Asn Gly Ser Thr

(III) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Pro Ser Trp Glu Met Ala Ala Asn Glu Pro Leu Lys Thr His Arg Glu

(IV) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Pro Ser Trp Glu Met Ala Ala Asn

(V) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe 及び

(VI) Pro Gly Leu Gly Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe
【0007】
本発明はまた、関節リウマチ治療剤を製造するための上記ペプチドの使用を提供する。
本発明はまた、以下の(I) 〜 (VI)からなる群から選ばれるペプチドを含む関節リウマチ細胞増殖抑制剤を提供する。

(I) Gly Gln Asn

(II) Gly Gln Asn Gly Ser Thr

(III) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Pro Ser Trp Glu Met Ala Ala Asn Glu Pro Leu Lys Thr His Arg Glu

(IV) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Pro Ser Trp Glu Met Ala Ala Asn

(V) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe 及び

(VI) Pro Gly Leu Gly Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe

本発明はまた、関節リウマチ滑膜細胞増殖抑制剤を製造するための上記ペプチドの使用を提供する。
【発明の効果】
【0008】
上記ペプチドは、関節リウマチ滑膜細胞の増殖を抑制することができることから、本発明により、優れた関節リウマチ治療剤及び関節リウマチ滑膜細胞増殖抑制剤を提供することができる。更に特にTCTA由来蛋白ペプチドを含有する場合、生物学的製剤として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ペプチドAの関節リウマチ滑膜細胞の増殖抑制活性を示す。
【図2】scrambled ペプチドの関節リウマチ滑膜細胞の増殖抑制活性を示す。
【図3】ペプチドA及びscrambled ペプチド濃度が、それぞれ0μg/mL及び10μg/mLであるか、又は10μg/mL及び0μg/mLである場合の関節リウマチ滑膜細胞の増殖抑制活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いるペプチドは、以下のいずれかの配列:

(I) Gly Gln Asn

(II) Gly Gln Asn Gly Ser Thr(配列番号1)

(III) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Pro Ser Trp Glu Met Ala Ala Asn Glu Pro Leu Lys Thr His Arg Glu(配列番号2)

(IV) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Pro Ser Trp Glu Met Ala Ala Asn(配列番号3)

(V) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe(配列番号4) 及び

(VI) Pro Gly Leu Gly Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Gly Gln Asn (配列番号5)

で示されるペプチドである。以降、配列番号2〜5のペプチドをそれぞれペプチドA、A2、B及びCと称することもある。このうち、ペプチドA、A2及びBが好ましく、ペプチドA及びA2がより好ましく、ペプチドAが最も好ましい。配列番号1〜5のペプチドをコードする塩基配列をそれぞれ配列番号6〜10に示した。
【0011】
本発明で用いるペプチドは、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー及びマススペクトル等を用いる公知の方法により、関節リウマチ患者の滑膜組織から単離及び精製することにより得ることができる。本発明で用いるペプチドはまた、一般的なアミノ酸の化学合成法、例えばFmoc法により合成することもできるし、市販のアミノ酸合成装置を使用して合成することもできる。
本発明で用いるペプチドは、TCTA蛋白由来であるのが好ましい。本発明で用いるペプチドがTCTA蛋白由来である場合、生物学的製剤(biologics)とすることができる。生物学的製剤は、これまでに抗がん剤を含め、抗体製剤、受容体製剤、ホルモン製剤など臨床現場で多く使用されている。しかし、TCTA蛋白関連の生物学的製剤は知られていないことから、本発明に基づく新規生物学的製剤を利用できることが期待される。
【0012】
上記ペプチドは、そのままあるいは各種の医薬組成物として投与される。このような医薬組成物の剤形としては、例えば錠剤、散剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、溶液剤、糖衣剤、デボー剤、またはシロップ剤にしてよく、普通の製剤助剤を用いて常法に従って製造することができる。
例えば錠剤は、本発明の有効成分である上記ペプチドを既知の補助物質、例えば乳糖、炭酸カルシウムまたは燐酸カルシウム等の不活性希釈剤、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチン等の結合剤、アルギン酸、コーンスターチまたは前ゼラチン化デンプン等の膨化剤、ショ糖、乳糖またはサッカリン等の甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリー等の香味剤、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはカルボキシメチルセルロース等の滑湿剤、脂肪、ワックス、半固形及び液体のポリオール、天然油または硬化油等のソフトゼラチンカプセル及び坐薬用の賦形剤、水、アルコール、グリセロール、ポリオール、スクロース、転化糖、グルコース、植物油等の溶液用賦形剤と混合することによって得られる。
本発明の治療剤又は抑制剤は、例えば錠剤の場合、錠剤あたり、配列番号1〜5のいずれかのペプチド100 mgと、ラクトース900 mgとから処方することができる。
本発明の治療剤又は抑制剤の投与量は、投与ルート、治療期間、患者の年齢及び体重などにより決定される。例えば、気管支鏡による局所的投与又は全身投与により、成人一日あたりの投与量として経口投与の場合で通常300 mg〜1g、非経口投与の場合で通常300μg〜300 mgを用いる。
【実施例1】
【0013】
〔関節リウマチ滑膜細胞の増殖抑制〕
1.ペプチド
ペプチドとしては、TCTA蛋白の細胞外ドメインのGQNを含む29merのペプチドA(配列番号2)を用いた。
コントロールとして、ペプチドAのscrambled ペプチド(Ser Pro Phe Thr Gly Thr Lys Gly Ser Trp Asn Glu Thr Ala His Pro Asp His Gly Asn Glu Glu Arg Gln Ala Pro Met Ser Leu 配列番号11)を使用した。
なお、ペプチドA及びペプチドAのscrambled ペプチドは、東レリサーチセンター(鎌倉市)に合成を委託した。
2.対象と方法
関節リウマチ滑膜細胞としては、関節リウマチ膝関節滑膜組織より、in vitroにて関節リウマチ由来線維芽細胞様滑膜細胞(fibroblast-like synoviocytes, FLS)を分離したものを用いた。
5X103/wellとなるように、FLSを96wellプレートに接種した。次いで37℃において3日間培養した。その後、Cell proliferation kit (XTT based)を用い細胞増殖を定量化した。
次に、上記ペプチドをこの培養系に添加し、37℃において3日間培養した。培養終了後、上記癌細胞の細胞数を測定した。
3.結果
1μg/ml, 5μg/ml, 10μg/mlのペプチドA添加により、ほぼ濃度依存的にFLSの増殖は抑制された(図1)。
一方、5μg/ml, 10μg/mlのscrambled ペプチド添加では濃度依存性の抑制は全く認められなかった(図2)。
10μg/mlのペプチドA添加とコントロールのscrambled ペプチド添加の増殖抑制を比べると、5例ですべてペプチドAがコントロールに比べ抑制効果が大きく、統計学的に有意であった(図3、Wilcoxn p=0.031)。ペプチドA添加により、FLSは培養液のみ群の88%に、そして、scrambleペプチド群の80%に、増殖が抑制された。
【0014】
以上、実施例から明らかなように、上記ペプチドはFLSの増殖を抑制した。このペプチドは低濃度でヒト破骨細胞分化を抑制する。今後、関節リウマチの治療においてFLSの増殖抑制および破骨細胞による骨吸収抑制の両者に有効な点からの関節リウマチの治療への応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(I) 〜 (VI) からなる群から選ばれるペプチドを含む関節リウマチ治療剤。

(I) Gly Gln Asn

(II) Gly Gln Asn Gly Ser Thr

(III) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Pro Ser Trp Glu Met Ala Ala Asn Glu Pro Leu Lys Thr His Arg Glu

(IV) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Pro Ser Trp Glu Met Ala Ala Asn

(V) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe 及び

(VI) Pro Gly Leu Gly Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe
【請求項2】
ペプチドが配列番号2のペプチドである請求項1記載の関節リウマチ治療剤。
【請求項3】
ペプチドが、T細胞性白血病転座関連遺伝子タンパク由来である請求項1又は2記載の関節リウマチ治療剤。
【請求項4】
関節リウマチ治療剤を製造するための請求項1に記載のペプチドの使用。
【請求項5】
以下の(I) 〜 (VI) からなる群から選ばれるペプチドを含む関節リウマチ滑膜細胞増殖抑制剤。

(I) Gly Gln Asn

(II) Gly Gln Asn Gly Ser Thr

(III) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Pro Ser Trp Glu Met Ala Ala Asn Glu Pro Leu Lys Thr His Arg Glu

(IV) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe Pro Ser Trp Glu Met Ala Ala Asn

(V) Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe 及び

(VI) Pro Gly Leu Gly Gly Gln Asn Gly Ser Thr Pro Asp Gly Ser Thr His Phe
【請求項6】
ペプチドが配列番号2のペプチドである請求項5記載の関節リウマチ滑膜細胞増殖抑制剤。
【請求項7】
ペプチドが、T細胞性白血病転座関連遺伝子タンパク由来である請求項5又は6記載の関節リウマチ滑膜細胞増殖抑制剤。
【請求項8】
関節リウマチ滑膜細胞増殖抑制剤を製造するための請求項5に記載のペプチドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−236159(P2011−236159A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109361(P2010−109361)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【Fターム(参考)】