説明

関節リウマチ薬

【課題】関節リウマチの症状緩和及び抑制に有効であり、かつ効率的に抑えるための関節リウマチ薬を提供する。
【解決手段】メトトレキサートを有効成分として含有する関節リウマチ薬であって、メトトレキサートを就寝前に投与することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチ薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リウマチ性疾患の代表である関節リウマチ(rheumatoid arthritis;以下、「RA」という)は、慢性多発性関節炎を主症状とする全身性結合組織疾患で、自己免疫疾患の一種である。RAは、30〜60歳の女性に好発し、有病者数は本邦では約60万人と推測されている。RAの病態には関節滑膜における血管新生、炎症性細胞浸潤、滑膜細胞増殖、軟骨・骨破壊などが挙げられる。また、RAにおける関節炎は改善と増悪を繰り返しながら進行し、徐々に軟骨・骨破壊を引き起こし、RA患者の日常労作の阻害や生活の質(QOL)の低下を招く。
【0003】
特に「朝のこわばり」という症状は、早朝に現れる四肢の関節痛のことであり、古くから知られているRAの最も特徴的な症状である。また、「朝のこわばり」は日中に現れず、早朝に現れるRA固有の概日リズムであることが知られている。
この「朝のこわばり」には、IL−6やTNF−αなどのさまざまな炎症性サイトカインが関与していることが知られている。また近年、炎症性サイトカインには概日リズムが存在し、この概日リズムはRA患者に現れる「朝のこわばり」に対応するように早朝にピークを示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
現在、ヒトのRA治療薬における第一選択薬は、メトトレキサート(methotrexate;以下、「MTX」という)を含有する薬剤である。MTXは、生物学的製剤と比較し薬剤費が安く、世界的にアンカードラッグとして最も使用されている抗リウマチ薬である。本邦のMTXの投与方法は、1週間単位で1日目の朝食後・夕食後、2日目の朝食後の計3回投与することが基準となっている。
【0005】
そこで、早朝にピークを迎える炎症性サイトカインを抑えるために、炎症性サイトカインの概日リズムとヒトの日常生活行動を考慮して、MTXを既存の投与方法から夕食後のみに服用する時間治療に変更することで、リウマチ症状を改善できるという症例報告もなされている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Arthritis&Rheumatism 56: 399, 2007
【非特許文献2】藤 秀人、厚生労働科学研究費補助金(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業)総括報告、2009年9月28日、リウマチ・アレルギー情報センター、インターネット<URL:www.allergy.go.jp/Research/Shouroku_08/29fuji.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2に示されるように、夕食後のみにMTXを服用する時間治療においても、その薬理効果は不十分であった。その理由は、MTXの半減期と炎症性サイトカインの概日リズムとの乖離にある。MTXの半減期は2〜4時間とされており、夕食後のみにMTXを服用したとしても、深夜から早朝に向けて増加する炎症性サイトカイン等に対しては最大許容量のMTXを投与した場合でも十分な薬効を示せず、顕著な効果改善には至らなかった。従って、本発明は、RAの症状緩和及び抑制に有効であり、かつ効率的に抑えるための関節リウマチ薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる問題点を解決するべく鋭意研究の結果、抗リウマチ薬であるMTXの投与量や投与回数を変更することなく、投与時刻を種々検討した結果、生体リズムに合わせてMTXを投与する投与タイミングを見出し、MTXの薬理効果を安全かつ効率的に高めることができることを確認し、本発明を完成するに至った。
本発明の関節リウマチ薬は、かかる知見に基づきなされたもので、請求項1に記載の通り、MTXを有効成分として含有する関節リウマチ薬であって、関節リウマチ患者に対して就寝前に投与されるように用いられることを特徴とする。
また、請求項2に記載の関節リウマチ薬は、請求項1記載の関節リウマチ薬において、前記投与が夜であることを特徴とする。
また、請求項3に記載の関節リウマチ薬は、請求項2記載の関節リウマチ薬において、前記投与が午後9時〜午前3時であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のMTXを含有する関節リウマチ薬は、炎症性サイトカインの概日リズムにあわせて就寝前に投与することによって、投与量及び投与回数を変更することなく、安全性を維持しつつRA症状、特に関節痛を軽減することができる。また、RAの重症化の遅延効果及び臨床的寛解を得ることができる。また、MTXの過剰な投与を防止し、患者の身体への負担や治療費の削減ができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】MTXを就寝前に3ヶ月間投与した場合のDisease Activity Score (DAS)28の変化を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における関節リウマチ患者とは、リウマチ専門医によって関節リウマチと診断された患者であって、MTXを治療薬として利用する患者のことをいい、いずれの関節リウマチ患者も含む。
【0012】
本発明の関節リウマチ薬は、MTXを有効成分として含有する薬剤であり、錠剤、カプセル剤などとして用いられる。
【0013】
本発明の関節リウマチ薬は、就寝前に投与されるように用いる。具体的には、例えば、1日1回の就寝前の投与でよく、1日目の就寝前、2日目の就寝前、3日目の就寝前に投与し、残りの4日間は休薬し、これを1週間毎に繰り返すものである。
【0014】
本発明の関節リウマチ薬は、就寝前、午後9時から午前3時に投与され、さらに好ましいのは、午前1時から午前3時に投与されることである。炎症性サイトカインは、深夜(午前2時)から早朝(午前5時)にかけて増加する概日リズムを有しており、この時間帯にMTXを服用することで血中のMTX濃度をこの時間帯に保つようにできれば、炎症性サイトカインの増加を抑えることができ、朝のこわばりを抑えることができるからである。
【0015】
本発明における、MTXの有効投与量として、1週間あたりが4〜20mgとすることが好ましい。一般的な日本国内のRA治療において、MTXは4mg/週の投与が行われる。しかし、十分な効果が得られない患者については、6mg/週以上、最大8mg/週の投与が行われる。なお、海外ではRA患者に対し、MTXは7.5〜20mg/週投与されている。
【0016】
前記MTXの有効投与量とは、関節リウマチ患者個人において、MTXが効果を示す用量のことをいう。MTXの効果とは、MTXの投与によって、患者個人における関節の疼痛、腫脹等の症状が緩和されたことで判断される。
【実施例】
【0017】
(対象)
平成21年7月以前より、医療法人白十字会佐世保中央病院に外来にて通院している年齢20歳以上のRA患者で、すでにRAに対する治療としてMTXを投与され、投与による改善が認められず、RAの疾患活動性を示すDAS28が3.2以上、生物学的製剤を現在使用していない患者17名を被験者とした。17名の被験者の内訳は、男性5例、女性12例であり、RAの罹患期間は平均11.8年(2年(最小)−33年(最大))であり、平均年齢は61.0歳(42歳(最小)−78歳(最大))であった。
【0018】
(投与方法)
被験者が投与されていた既存のMTXの投与量及び投与回数を基準として設定し、MTXの1週間における総投与量及び投与回数は変更せず、投与時間を1日1回就寝前(午後9時から午前1時の間)のみに変更した。投与期間は、投与時間を1日1回就寝前とする時間治療実施から3ヶ月間とした。なお、本実施例におけるMTXの1週間における投与量は、4mgが4例、6mgが8例、8mgが5例であり、投与量が4mgの場合、時間治療開始前では、1日目朝食後2mg、夕食後2mgの投与を、時間治療後では1日目就寝前2mg、2日目就寝前2mgに変更した。
投与量が6mgの場合、時間治療開始前では、1日目朝食後2mg、夕食後2mg、2日目朝食後2mgの投与を、時間治療後では1日目就寝前2mg、2日目就寝前、2mg、3日目就寝前2mgに変更した。
投与量が8mgの場合、時間治療開始前では、1日目朝食後4mg、夕食後2mg、2日目朝食後2mgの投与を、時間治療後では1日目就寝前4mg、2日目就寝前2mg、3日目就寝前2mgに変更した。
【0019】
(評価方法)
試験期間は、時間治療実施から3ヶ月間とし、外来来院ごとに毎月診断及び採血を行った。
主要評価項目の有効性にはDAS28による疾患活動性評価及びEULAR(European League Against Rheumatism;欧州リウマチ学会)改善基準を用いて確認した。
DAS28は、下記式により算出した。
DAS28=0.56×(T28)1/2+0.28×(S28)1/2+0.36×ln(CRP+1)+0.014×GH+0.96
T28及びS28は、手、肘、肩など28ヵ所の関節を触診し、T28は「圧痛関節数(おさえたときに痛みのある関節の数)」であり、S28は「腫脹関節数(腫れている関節の数)」である。
C反応性タンパク(CRP)は、採血によって炎症の程度を測定するもので、体内で炎症や組織の破壊が起きると、血液中にあらわれるタンパク質であり、炎症が強いほど、数値が高くなる。
GHは、患者が行う全身状態の自己評価のことであり、VAS(Visual analog scale)という100mmのスケール上で、0を「体調が大変よい(症状なし)」、100を「体調が非常に悪い」とした場合、どのあたりになるか患者が示した値である。
前記式によって算出された値は、high disease activity(高疾患活動性)、moderate disease activity(中等度疾患活動性)、low disease activity(低疾患活動性)及び臨床的寛解の4段階で評価した。
また、EULAR改善基準においては、投与時間を変更する前のDAS28に対する投与時間変更後のDAS28の差を用いて、治療効果をgood(反応良好)、moderate(中等度反応)及びno response(不変)の3段階で評価した。
【0020】
DAS28による疾患活動性評価の結果を表1及び図1に示した。17人のRA患者から得られたデータは平均±標準偏差で表し、統計解析は群内の比較には反復分散分析を行い、多重比較検定にはFisherのPLSDを行った。有意水準は5%とした。
【0021】
【表1】

【0022】
DAS28による疾患活動性評価の値(X)は、X>5.1は「高疾患活動性」を、3.2≦X≦5.1は「中等度疾患活動性」を、X<3.2では「低疾患活動性」を、X<2.6では「臨床的寛解」であることを意味する。
表1において、時間治療開始時には時間治療開始2ヶ月前と比べDAS28の値(X)が高くなっていることからRAの症状は悪化しており、時間治療開始時のDAS28において、平均値は3.83(3.25(最小)−5.30(最大))であり、中等度疾患活動性で、やや高いリウマチ症状が見られていた。時間治療1ヶ月後からDAS28の平均値の値は下がり、時間治療開始3ヶ月後のDAS28の平均値は3.31となり、中等度疾患活動性であるものの、RAの症状が軽くなったことが確認された。
また、表1及び図1に示すように、MTXを就寝前に投与する時間治療では、時間治療開始後1ヶ月から治療効果が現れ、DAS28の平均値は時間治療開始前と比較し1ヶ月目で0.462、2ヶ月目で0.506、3ヶ月目で0.521とそれぞれ有意に減少した。上記式1に示すDAS28に使用するすべての項目で減少傾向が示され、特に腫脹関節数(S28)が顕著に減少し、RA症状が低減されたことが確認された。また、DAS28は時間治療開始1ヶ月目から有意に低下し、この抑制効果は3ヶ月間継続することが確認された。以上より、MTXの時間治療では、投与量の増量や投薬回数の変えることなく、MTXの投薬時刻を変更することで、従来の投与方法と比較してより高い治療効果が得られることが明らかとなった。
【0023】
EULAR改善基準によるMTXの有効性評価の結果を表2に示した。
【0024】
【表2】

【0025】
表2中の基準とは、MTX投与時間を変更する前(時間治療開始時)のDAS28に対するMTX投与時間変更後(3ヶ月後)のDAS28の差の値(Y)において、17名の患者のMTXによる時間治療の効果が、0.6>Yで「中等度反応」であることを、Y<0.6で「不変」、即ち、改善が見られなかったことを意味する。
17例中7例(41.2%)で中等度反応を示すまでに改善し、このうち4例(23.5%)ではDAS28における臨床的寛解に到達したことが確認された。
【0026】
3ヶ月間の本発明による時間治療において17名の患者には副作用は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、就寝前に投与することにより、関節リウマチの症状を顕著に抑えることができる関節リウマチ薬として産業上利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトトレキサートを有効成分として含有する関節リウマチ薬であって、関節リウマチ患者に対して、就寝前に投与されるように用いられることを特徴とする関節リウマチ薬。
【請求項2】
前記投与が夜であることを特徴とする請求項1に記載の関節リウマチ薬。
【請求項3】
前記投与が午後9時〜午前3時であることを特徴とする請求項2に記載の関節リウマチ薬。


【図1】
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【公開番号】特開2011−190199(P2011−190199A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56428(P2010−56428)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(510071220)
【Fターム(参考)】